罰と別離
道場に戻った2人は、師にこっぴどく怒られ当面の間、自室で謹慎となった。内弟子達やシャルロッテも近づくことを禁止され、食事はお手伝いさんが一日一回運んできてくれるが、用を足す以外は部屋からは出られない。
それが10日程続いて、侯爵から城に呼び出された。
2人は、久しぶりに風呂に入り、身支度を整える。
シャルロッテとファティマが泣きながら抱きついてきた。出発前に会ったきりで、帰ってからは会わせてもらえず、1ヶ月近く経っていた。
「シャルロッテ、体調はどうだい?」
「私は大丈夫よ、でも、なんで二人してこんな無茶を!こうなることはわかっていたのでしょう?」
「禍根は早めに断たないと、どう足を掬われるかわからない。兵法の基本だろう?」
「そうだけど、、、。」
「リューエダオとの因縁は決着した。そちらはもう大丈夫だよ。あとはおれとジークフリートの問題だ。」
「ラインハルト兄様、ジーク兄様と私と三人で逃げましょう!こんな理不尽許せませぬ。私が守って差し上げますから!」
ファティマが真っ赤な顔をして泣きながら怒っている。
「ありがとうファティマ。必要になったら頼むよ」
ラインハルトと、ジークフリートは騎士団の馬車に乗り込み城へと向かった。
城に到着すると、謁見室に通された。とくに拘束されたりはしなかった。
謁見室には、トゥーマン侯爵と師カイ及び騎士団長、副団長が待っていた。
「侯爵様、この度は、私達の身勝手な振る舞いでご迷惑をお掛けし大変申し訳ありませんでした。」
ラインハルトとジークフリートは片膝をついて叩頭し、謝罪を述べた。
「うむ、元はといえば、我が姉があのような連中を贔屓にして、その上、オノ一門にまで害をもたらしたのが原因なのだから、謝罪するのはこちらの方だ。」
「傭兵まで雇い、道場に押しかけて来たという件は調査し、それがリューエダオの仕組んだことだという確証は得ていた。我々が奴らに先手を打たれたのも原因の一つだ。騎士団としては、お前たちはよくやったと評価している。」
騎士団長は2人を擁護してくれているようだ。
「しかし、高齢のキーフ国王が心を患っているのをいいことに、我が姉とリューエダオの師範は、密かに養子縁組までしていたらしく、王族を殺した下手人を差し出せと言ってきた。なぜ、当領の者の仕業と決めつけるのか問いただしたが、特に根拠はなかった、どうもその師範からいろいろと吹きこまれていたようで、その話からたどり着いたらしい。」
「もちろん、そんな証拠のない話をもとに領民を差し出すことはできないので、突っぱねた。立場もこちらが上だしな、これ以上、事を荒立てて国同士の問題にするなら、こちらにも覚悟があるぞと、向こうの宰相を脅かしてやったよ。そもそも姉上が勝手に養子縁組して、騒いでいるだけだし、それで一件落着だ。」
「ありがとうございます。」
2人がほっとしたのもつかの間、
「しかし、そなたらの勝手な振る舞いは放置してはおけん。師の命に背き、しかも勝手に国をでて、他国で刃傷沙汰を起こしたのだからな。」
「はい、承知しております。どのような処分も覚悟の上です。」
「うむ、では沙汰を申し付ける。」
「ラインハルト、ジークフリート、そなたらは当面、皇都の近衛騎士団に入団し、しごかれてこい。」
「!」
「向こうの騎士団長は、私の古い友人でな、話しはつけておいた。当面は帰ってこれると思うなよ。」
騎士団長がニヤニヤしながら言う。
「しかし、それでは、単に武者修行に行くようなもので、罰になっていませんが?。」
ラインハルトが何かの間違いでは、と言いたげに聞き返すが、
「いいんだよ、ラインハルト。そういう名目で修行にだしてくれたんだよ、先生が。」
ジークフリートが、したり顔でカイをチラリとみながら言う。
「!」 「承知いたしました。お心遣い感謝いたします。」
「オノ流の名に恥じぬよう、精進して参ります。」
2人はそれぞれ感謝と決意を述べた。
それから2週間、ふたりは出発の準備に追われた。
ファティマはついていくと言って大変だった。最後は、カイが、「出て行くなら破門だ、ラインハルトとジークフリートもいっしょに破門だ」と脅しつけ、「兄様たちに迷惑はかけられませんわ」となんとか収拾した。
シャルロッテの方は、案外平気そうだった。最近は体調も良くなって吐くこともなくなったようで、少しどころか随分ふっくらしてきた。成長期だから仕方ないのよ、と本人は全く気にしていないようだ。
あれからはキーフ国からも何も言ってこなくなり、事件は解決した。
ラインハルトはカイから竟伝を授与された。
皆伝の認定までは、剣技・体術の習得度、兵法の習得度などを1ヶ月近くかけて宗家にチェックされる。つまり皆伝の時点で、技術・知識についてはオノ流の全てを習得していなければならない。
竟伝は皆伝であることと、「一つの太刀」の習得が全てだ。
つまり、ラインハルトは先日の仕合で「一つの太刀」を会得したことで、竟伝の資格を得たのである。
なお、ジークフリートも奥伝から皆伝に昇格した。
ジークフリートは実力的にはとっくに皆伝だったのだが、なかなか認定試験をうける機会がなく昇格していなかった。今昇格しないとしばらくできないとあって、1ヶ月の日程を実質10日程でやりとげたのだから、まさにジークフリートのみならずカイ先生も命がけだった。
これで旅立ちの準備は全て整った。
そして2人が出発する朝。道場の門前に、多くの門弟が集まっていた。
路銀をこっそりと渡す年長の門弟や、途中のお弁当だと持たせてくれる門弟の御婦人などがたくさんいて、2人の荷物がどんどん増えていく。
「では、二人共しっかりやってきなさい。皇都でお前たちの武勇が轟くのを楽しみにしているぞ。」
「はい、先生。ご期待に添えるよう精進してきます。」
2人は声をそろえて答える。
「ラインハルト兄様、ファティマもかならずそちらに参ります。皆伝を頂いたら皇都に言っても良いと宗家に約束して頂きました。私すぐに参りますから待っていてくださいませ。」
「わかったよ、ファティマ。楽しみにまってるよ。」
「ファティマ、俺にはなにか別れの言葉はないのかい?」
「ジーク兄様は、ファティマの代わりにしっかりラインハルト兄様をお守りしてくださいませ。」
ジークフリートはずっこけた。
「みんなも元気でな。エッケルト、ユルゲン、お前たちが内弟子の年長になる。しっかりと下の子たちを導いて道場を盛り立ててくれよ。」
ラインハルトが、内弟子で最年長の12歳となる2人に激を飛ばす。
「承知しております。ラインハルト兄様、ジークフリート兄様。お二人に負けぬよう全力を尽くします。」
そして、ラインハルトはシャルロッテを見つめる。
「シャルロッテ、ごめん。」
「ラインハルト、なぜ謝るの?」
「俺は君に、その、結婚を、、」
「ラインハルト、私は大丈夫よ。それ以上のものをあたなからもらったから。」
シャルロッテは、ラインハルトが全てを言う前に、遮るように言った。
「?」
「それ以上ってなにかな?」
「いいの、あなたはしっかり皇都で修行して、いつか戻ってきてね。」
「うん、必ず戻る。」
待っていてくれとは、ラインハルトは言えなかった。
「では、先生、みんな、行ってきます!」
ラインハルトとジークフリートは旅立った。徒歩で1ヶ月はかかる道のりである。
途中も、この2人の行くところ冒険が絶えなかったが、それはまた別のお話である。
「シャルロッテ、伝えなくてよかったのか?」
カイが2人を見送りながら、シャルロッテに優しく声をかける。
「いいの、お父様。今言えば、皇都でのお勤めに障りが出るわ。修行の妨げにもなる。」
「そうか。」
「お父様、認めてくれてありがとうございます。」
「あぁ、お前が決めたことだ。それはきっと正しい道なんだろう。私は応援するよ。」
「えぇ、わたし、きっと全てうまくいくような気がするのよ。ラインハルトもジークフリートも必ずこの国の大きな力になるわ。そしてこの子も。」
シャルロッテはお腹をさすりながら、確信をもった眼差しで、遠ざかる2人をいつまでも見つめていた。




