エピローグ
アレクサンドラは14歳となり、女帝として威厳と輝きを増していた。
ノイマンの乱から約2年が経過し、内政は反乱前とは比べ物にならない程に安定し、正しく機能していた。
グーテンベルク将軍率いる、兵器開発部隊の成果は目覚ましかった。
世界崩壊前の「コロニー」から、研究チームにより次々と発見された古代文明の遺産は、皇国をさらに進歩させるだろう。
研究チームは、グーテンベルクが育て上げた古代語解析のエキスパートだ。彼らが育ったことで、遺跡解析の速度は飛躍的に上がった。
「コロニー」は世界崩壊前の人類が、ウィルスの脅威から逃れ住むために建造された方舟だ。そこに立て篭もり永遠に近い長い時間を暮らせるだけの設備を備えている。
医療、生産、エネルギー、軍事、どれでもその一端でも手に入れれば、現在の世界では革命だ。
現に、アレクサンドラはその軍事技術の一部を手に入れ、覇道を得た。
マリーローズはその医療技術を一部利用し、失うはずの命を拾った。
現在、グーテンベルクは、医療分野の技術者の育成に力を入れている。マリーローズの治療を通して、この技術が世界にもたらすものを実感したのだ。
兵器研究所の医療研究エリアを拡大し、被験体を受け入れ、臨床実験を進めている。今後、技術者が育てば、皇都にも分所を設立し、さらに臨床研究をすすめることで、アレクサンドラは承認している。
もうひとつ、グーテンベルクが推し進めているのが「コロニー」の復活である。
「コロニー」は発見当初はただの洞窟だとおもわれていた。長い年月、入口が開放されていたため、金属の扉に閉ざされていた部屋以外は、野生動物の侵入や風雨、積雪などで、土泥の堆積や植物の繁殖が進んでいた。一部露出した金属の壁が発見されたことで、紆余曲折を経て兵器研究所が調査に入り、飛行戦車などが発見されるに至ったのだが、遺跡解析を進めていくうちに、「コロニー」のエネルギー源も、飛行船者や飛行兵と同じ燃料核であることがわかった。その燃料核の停止要因と、復活方法がわかれば「コロニー」にエネルギー供給することができ、さらなる部屋の発見も期待できる。
すでに、ボルツマンによって、市場に還元されている技術もある。
たとえば皇都の地下水路にある、保守点検用の油式ランプへの油供給の仕組みだ。それに使われている、油を送出する「ポンプ」は、実はこの遺跡で見つかったものを手回し式にして、生産したものだ。
この「ポンプ」の利用価値は高く、ボルツマン商会はかなり儲けたはずだ。もちろん財務大臣になる前の話であるが。
それと新種の野菜や麦だ。これも「コロニー」のプラント跡に保存されていたもののなかから、発芽したものを栽培し、そこから取れた種を流通させたものだ。
この野菜、発育期間が短く、病気に非常に強く、極端に日照時間が少なくても育つ。
これも既に、皇都直轄領では栽培されており、市場にでまわっている。作りやすく大量に栽培できるので、皇都の食料の安定供給に貢献している。これも就任前のボルツマン商会の独占だ。
ちなみに前にも述べたが、兵器研究所や元第五機甲師団のパトロンはボルツマンだったので、独占は当然ではある。
アレクサンドラ女帝陛下を、皇民は心から敬愛し、皇国軍人の忠誠心の高まりは留まる所を知らなかった。
しかし、アレクサンドラは、今のこの安定は、圧倒的戦力を生み出している異形の兵器により、
もたらされているものでしかないことをわかっている。
それは、治世を乱した官僚への権力の集中と似た道を歩む危険性を大きく孕んでいる。
武力だけではない、それを律することができる何か他の要素が必要だ。
「この治世を永遠に続けることができる仕組みにしないといけない。
私の代で終わらせてはいけない。
もう二度とあのような悲劇をおこしてはならない。」
それが今のアレクサンドラが自らに課した命題である。
皇城のテラスから皇都を見渡し、次の施策を考えていると、
「陛下、お時間です。」ラインハルトが後ろから声をかける。
「わかりました、参りましょう。」アレクサンドラは輝くような笑顔で答え、優雅に歩き出した。
これが、皇国史最大の英雄として燦然とその名を刻む、救国女帝アレクサンドラⅠ世と、それを陰で支えた続けたもう一人の英雄、マリーローズ・フォン・ブランドリアの伝説の第一章である。
[アレクサンドラ救国扁 完]




