舞踏会
次の日は、昼間は謁見の間で賓客、招待客からの個別の祝辞を受けた。それぞれ思惑があり、新女帝に対して売り込みやら探りやらを入れてくる面々の相手をする。横には護衛のラインハルト、後ろには二人の宰相がつき、アレクサンドラのサポートをする。またロビー活動も盛んにおこなわれているようで、宰相には色々な情報が都度報告されているようだった。
夜は舞踏会だ。
舞踏会用のドレスも特急で新調した。深く美しい赤を基調に、優雅にふくらんだスカートの下部にはアレクサンドラの白い肌と蒼い瞳に合わせて全周に白と青の百合が見事に刺繍されている。それを隠さないようにしながらも腰元から膝下までを花弁のようにフリルが取り巻き豪奢にしている。肩は大きく開いており、胸元は可憐なレースで飾られている。美しい白金色の髪を真っすぐに腰下まで落とし、豪華なティアラを頂き、胸元には可憐な花を模した細工を施した首飾りをしている。薄く化粧を施すと、
「姫様、、、いえ、陛下、なんと美しい。あのお転婆の姫様のこのような御姿を拝見できるとは、復帰させていただけたことを神に感謝いたします。」
と侍女長のアルマが涙ぐみながら褒めたたえてくれる。
「アルマ、いい加減そのお転婆というのはやめてくださらないかしら。それより、私、このドレスと釣り合っているのでしょうか?なんだか子供が無理しているように見えないか心配です。お姉さまならもっと美しく着こなすでしょうに。」
アレクサンドラは、まだまだ自分の容姿が子供っぽいと思っている。13歳となり、背も伸びて体つきもより女性らしくなっていることに実感がないようだ。
「姫、、、いえ、陛下、御心配は全く不要です。今の陛下は、マリーローズ様が御存命であらせられた時に何ら劣るところは御座いません。」
アルマは力強く言い、まわりの侍女たちもバシバシバシと頷く。
「それより、そのお美しさでお年頃なのですから、言い寄ってくる殿方は数知れないでしょう。くれぐれもお気をつけて、妙な輩に騙されないようご注意あそばせ!。」
などと言う。
「アルマ、何を頓珍漢なことを。私みたいな子供に言い寄る殿方などいないでしょう。賊が現れればラインハルトがすぐに首をはねてくれます。心配は無用です。」
などと、アレクサンドラは自分のことがよくわかっていないのか頓珍漢なことを言った。
会場に全員が入場すると、最後に壇上から主役のアレクサンドラが騎士の正装をしたデュディアーヌのエスコートであらわれた。アレクサンドラには、まだ婚約者もいないので、女性ではあるがデュディアーヌが守護者の代表として選ばれたのである。
現れた瞬間、会場の時間が止まった。男も女も全員がアレクサンドラから目を離せない。魔法か、呪いか、そのような感じだ。女帝の凛とした装いとはまた違う艶やかで華やかで眩しい。見てしまうと目が離せなくなる、やはり呪いだ。13歳とは思えない色気を感じさせ、その視線の動かし方一つ一つが魅惑の魔法なのではないかと思わせる。
舞踏会が始まると、アレクサンドラを遠巻きに囲んで誘うタイミングを計っている男たちを強引にかき分け、真っ先に財務大臣ボルツマンがやってきた。ダンスに誘うつもりらしい。
しかし張り切ってやってきものの、アレクサンドラの前に来ると固まってしまった。しばらくもじもじとしていると、
「あら、ボルツマン大臣、私からお誘いしなければなりませんの?」
といたずらっぽく小首を傾げてアレクサンドラが催促した。
そう言われてハッとして
「へっ、へっ、陛下!ぜ、ぜひこのボルツマンめと一曲お願いいたします。」
とお辞儀をして手を差し出す。なんだか手がものすごく震えているけど結婚の申し込みじゃないよね。
「ふふ、お願いいたしますわ。」
やり手の商売人らしくないところがなんとも可愛らしく、アレクサンドラは震えるその手を優しく包むように取った。
ボルツマンのエスコートでダンスフロアに向かうと、皆が中央を開けてくれた。
アレクサンドラは幼少の頃から、あらゆるダンス、楽器、詩吟など芸術関連、古今東西の作法、世界の主な言語はどこの王家に嫁いでも恥ずかしくないレベルで叩き込まれている。しばらくレッスンはしていなかったが、問題なかった。
ボルツマンはというと、、思いのほかやる。アレクサンドラをきちんとリードしている。多少レベル差は感じるが、形になっておりアレクサンドラに恥をかかせることはなかった。
実はボルツマン、即位戴冠式のあとに舞踏会があると聞いて、ぜひともアレクサンドラと踊りたいと、3か月間決死の特訓をしてきた。その甲斐もあって、やり遂げた。曲が終わるとギャラリーが盛大に拍手と賛辞を贈ってくれた。
もう一曲とも思ったが、周りの視線も痛いのであきらめ戻ろうとしたとき、
「ボルツマン大臣?もう一曲私と踊っていただけませんか?」
とアレクサンドラから申し込まれた。天にも昇る心地だった。
「ぜ、ぜ、是非お願いいたします。」
と手を取り踊った。
アレクサンドラは、ボルツマンがダンスの特訓をしているのを、ワインズワース伯爵から聞いて知っていた。アレクサンドラとぜひとも踊りたいと頑張っていると。アレクサンドラから申し込んだのは、その努力に報いたかったのだ。
その後、アレクサンドラは休む間もなかった。次から次に、侯爵家の御令息1・2、地方貴族の独身の跡取り1・2・3・4、衛星国の王子1・2・3などが現れてダンスを申し込んでくる。外国の特使達とも踊り、さすがにもう無理という頃に、最後の曲となった。
「最後か、あと一曲なら大丈夫だ。」
そういうとアレクサンドラは、傍で護衛しているラインハルトに向き直り、
「シュタイナー子爵、最後の曲は私と踊っていいただけませんか?」
とカーテンシーをして手を差し出した。
「陛下、もうお疲れではありませんか?無理をされては、、、」
と言いかけたが、アレクサンドラの瞳を見つめると思いなおしたように、
「よろこんで、光栄です陛下」
と手を取った。
二人は、優雅に舞った。剣の達人でもあるラインハルトのステップは優雅で、アレクサンドラとの息もぴったり合っていた。アレクサンドラも今までで一番踊りやすく、疲れも忘れて、踊りを楽しめた。
「ラインハルト、いつも守ってくれてありがとう。なにも報いてあげられない私を許してほしい。」
「いえ、陛下。今日この時をいただけただけで充分でございます。」
踊りながらこっそりと囁き合った。
曲が終わと、今日一番の拍手に包まれたのは言うまでもない。
そうして舞踏会は幕を閉じた。
そのあともこまごまとした催しがあり、即位戴冠式関連のイベントすべてが終わったのは1週間後であった。
おまけ ―ボルツマンの回想―
「よお、レオンハルト。なんだ?陛下とのダンスどうだったかって?
お前も知ってるように、3か月も死ぬ気で練習したんだ、
誰よりも早くって陛下の御前にすっとんでいったんだが、
近づくにつれて、なんだか眩しくなって目が眩んだんだ。
いやいや、例えでも冗談でもないよ、本当さ。実際眩しかったんだって!。
それで声をかけらえなくなってテンパってたら、陛下が何か声を掛けてくださったんだ。
で、思い切って誘ってみた訳よ。
俺の手を取ってくれた陛下の御手は柔らかくてすべすべで、人間とは思えなかったね。
おまけにさ、踊ってるとき、花の匂いがするんだよ。
いや、例えじゃないって。
御婦人方がつけてる香水じゃなくて、本当の花さ。
なんでかって?俺にもわからんよ。
でもあれは、香水の匂いじゃない。本当の花さ。
そんなこんなで、あっという間に終わって、もう一曲お願いしたかったんだが、
さすがに遠慮して戻ろうとしたら、なんと陛下から誘ってくれたんだ。
おい、信じられるか?もう、死んでもいいって思ったね。
俺は一生、陛下に仕えるよ。
陛下に金の心配は絶対させねぇよ。
あの時、陛下が俺を誘ってくれた時、そう誓ったんだ。」




