皇位継承問題 その2
そうして、アレクサンドラはブルームエールの兵器研究所で姉と再会した。
「そうですか。本当にあなたもよく頑張りましたね。皇国を救ってくれてありがとう。」
アレクサンドラから、反乱勃発から直轄領奪還までの経緯を聞いたマリーローズは、感情の抑揚の無い、か細い声でアレクサンドラに感謝をつたえる。
「いえ、姉上様。私はなにもできませんでした。すべて臣下たちが成し遂げたことです。
あの者たちはきっと姉上様を盛り立ててくれます。公務に御復帰されるまでには、
皇国もさらに安定していることでしょう。御安心して療養いただけたらと存じます。」
「・・・・・。」
マリーローズの左目は宙を見つめたままで、何も言わなかった。
「?」
アレクサンドラは姉が何を考えているかわからなかったが、
短時間でと言われていたにもかかわらず長居をしてしまい、きっとお疲れになったのだろうと思い、今日は帰ることにした。
「では、姉上様。本日はこれでお暇させていただきます。くれぐれも御自愛いただきますよう。少しでも早い御快復をお祈り申し上げます。」
アレクサンドラは、マリーローズの手をそっと握った。
「ありがとう、あなたも無理をしないように。」
マリーローズもその手をやさしく握り返した。
アレクサンドラが退室した後、マリーローズは大きくため息をついて考えた。
あの子はきっと、私に何が起こったか聞かされていないのだろう。
おそらく軟禁生活で病を得たとでも言われているに違いない。妹の様子からそう推察した。
溌溂とした少女のままの妹は、とてもまぶしかった。
皇族としての誇りを捨てて、生にすがりついた私を、かわらずに姉と慕ってくれている。
「皇族にもどることなんてできるわけがない」
マリーローズはそう思っている。ましてや皇位継承などありえない。
私に起こったことは、妹以外はみな知っているはずだ。
私が女帝になることなど周りが、いや何より自分自身が許さない。
回復したら姿を消そう。いまはそう考えていた。
~ ~ ~ ~
皇都に到着し、自室に戻ったアレクサンドラは、久しぶりに再会した姉のことを考えていた。
ベッドに横たわった姉は、全身を包帯で包れていたことを抜きにしても、どこか以前とは雰囲気が違っていた。
反乱鎮圧までの経緯を話しているときも、宙を見つめたまま、ずっと何かを考えているようだった。
姉は、妹の自分から見ても人とは思えない美しさだった。
どのような芸術家でもあの方以上の美を描くことはできない、人の技ではない、まさに神様の造形だった。
以前、兄の立太子の式典で来城されたノルト教の法皇様が姉の姿をみて、おもわず神に祈りを捧げ、この方は、神の御使いでありこの大陸の宝玉だから、決して手放してはならないとおっしゃたのもわかるほど、人智を超えた美しさだった。それ以来、姉は「エウロットの宝玉」と呼ばれるようになった。
しかし姉はそんな自分の美しさを特に意識してはいないようで、本当に婀で優雅な方だった。
アレクサンドラにとっては母上以上に優しく、お転婆だった自分をいつもかばってくれて、暖かく抱きしめてくれた。
しかし再会した姉はそんな婀な雰囲気は消え去り、どこか暗く冷めたような雰囲気に変わっていた。
唯一包帯の隙間から垣間見える左目の瞳は、澄み切った青空の色から、霧の掛ったような光のない青色になり、感情が全く見えなかった。
「きっと、病のせいでお疲れになっているのよ。回復すればきっと元の姉上に戻られるわ。」
アレクサンドラは自分に言い聞かせるように、呟いた。




