ハイエス侯領独立宣言
執務室に入ると、すでに宰相二人と軍総長が待っていた。
「お待たせしました。何か問題が発生しましたか?」
早朝からの打ち合わせに少し胸騒ぎがした。
宰相レオポルド伯爵が口を開く。
「はい、ハイエス侯爵から、皇国離脱と独立を宣言する書簡が届きました。」
ハイエス侯領は隣国トランと接する国境の領地だ。
ハイエス侯爵が統治する、山間部の多いが、平野もある広大な領地である。
鉱物資源が豊富なのと林業で利益を得ており、裕福な地域の一つと聞いている。
「ハイエス候領ですか? しかし、トランとの小競り合いは減ったとはいえ、まだまだ散発していると聞きますが、皇国から離脱し、後ろ盾がなくなっても良いと? なにか裏があるのでしょうか?特に無理に独立する利点が思い浮かばないのですが。。。」
まだ反乱から2ヶ月しか経っていないのにアレクサンドラはすっかり統治者らしくなってきた。
よく勉強しているとも聞く。レオポルド達は満足そうにうなずいた。
「ハイエス候の主張を要約すると、反乱から2ヶ月も経っているのに、新皇帝の即位もなく、本当にアレクサンドラ殿下は御存命なのか甚だ疑わしい。直轄領の代官達が皇国を私物化している。そのようなものに従う義務はない。故に皇国を離脱する。ということです。」
「そろそろ納税の時期ですので、このままわけのわからぬ政府に取られるのは嫌だというのもあるでしょうが。。」
ワインズワース伯爵が口を開く。
納税は収穫が終わり冬になり雪に閉ざされる前の11月に行われるのが決まりとなっている。
農業のサイクルを基準にしているが、工業、鉱業やその他の産業からの納税もそれに準じている。
現在、10月であるので来月あたりから納税が始まる。
「しかし、それは建前でしょう。皇国が弱体化していると見て、かねてからタイミングを見計らっていた計画を実行に移したと思います。」
「ハイエス候は、我々の機動力を知りませんから、これから冬になることを考えると、討伐軍の派兵は来年の春になると踏んでいるのでしょう。
そうすれば、他の領も追従し、皇国の兵力を分散できると考えているのではないでしょうか。」
「それと、おそらく、ハイエス候はトランとつながっているでしょう。
最近は全くトランとの小競り合いもなく、逆にトランとの交易が盛んになっていると、うちの諜報部隊からの報告もあります。
まだ証拠は掴んでいませんがトランとのなにかしらの密約があると思われます。皇国が弱体化しているのであればトランについたほうが安全ですから。」
「しかし、そのような密約は当てになるのでしょうか? 皇国の後ろ盾がなくなればトランがハイエス候に気を使う理由はないのではないですか?
仮に皇国から独立したとすると、トランが相手にするのはハイエス候領のみなります。
そうすれば戦力差から考えても圧倒的に不利なのでは?ハイエス候の戦力はどのようになっているのでしょう?」
アレクサンドラは皆の意見に同意しながらも、疑問点を質問する
「ハイエス候の戦力は、歩兵と騎兵の旧式戦力が主ですが、通常戦車の配備が60両ほどありますので重火器を持っていないトランからすれば厄介な相手だとは思います。
最近は独自にダラン製の銃や迫撃砲を大量に購入して重装歩兵隊を編成しているとの情報も有りますし。」
「無理に攻略するよりは、友好的に利益を絞りとる方が良いと判断したと言うことですか。。」
アレクサンドラは幼い皇女らしくないことを言う。
「では、他領を牽制する意味でも、派兵して速やかに鎮圧するのが我々の選択肢でしょう。」
「はい、殿下。制圧することに異論はないのですが。。。ただそれと同時に解決しておかなければならない問題がありまして。」
ワインズワース宰相が言いにくそうに口を開く。
「何でしょう?」 アレクサンドラには思いつかない。
「皇位継承です。殿下。ハイネス候の主張にも一理あって、新皇帝が即位できないのは、
皇族は全員身罷られているからではないかとの書簡は、実は、他の領地からも届いております。」
「それは、初耳ですね。いつのことですか?なぜ報告がなかったのでしょう?」
アレクサンドラは少し柳眉をあげて問いただす。
「・・・・・・。」ワインズワースは黙りこんで、レオンハルトに視線を送る。
代わって、レオンハルトが口を開く、
「殿下、落ち着いてお聞きください。。。。実は第一皇女マリーローズ殿下を発見いたしました。」
「えっ?! いつですか?どこで?」
アレクサンドラは顔色を変えて身を乗り出した。
「殿下、落ち着いてください。マリーローズ殿下を保護あそばしたのは約2ヶ月まえです。
城の地下牢に幽閉されておられました。」
「に、2ヶ月前! なぜその時に報告してくれなかったのですか? 城の地下牢は、、、
確かデュディアーヌが探索してくれたはず。でもその時は発見できなかったと、そうですよねラインハルト!」
アレクサンドラは後ろで護衛しているラインハルトに向き直る。
「殿下、どうかお鎮まりください。事の経緯を御説明いたします。」
ラインハルトが事情説明しようと動いたその時、
「いや、私から御説明させていただきたく。」デュディアーヌが隣の部屋から現れて言った。




