過去の遺産
デュディアーヌは叔父の自信の根拠がどうしても気になり、ラインハルトにアレクサンドラを託し、
第三特殊大隊が出撃準備中であると聞いたハンガーに向かった。
師団本部から歩いて15分程度で到着し、ハンガー前の警備兵に名乗る。
煉瓦の壁に木の屋根の大きな建物だ。大きな木の扉があり、真ん中から左右に少し開いている。
事前に見学をお願いしていたので、すんなり取次ぎし、中に入れてくれた。
出撃準備はほぼ終わっているようで、兵士達は出撃指令前の食事を思い思い取っていた。
「あなたが、団長の姪御さんですか?」
背後から、声をかけられ振り返ると、同い年くらいの精悍な雰囲気の将校が立っていた。
「わたしが、第三特殊大隊隊長アルベルト・ホーキンスです。」綺麗な敬礼とともに名乗る。
「私は、皇都近衛大隊第六衛士長デュディアーヌ・ベルンです。お忙しいところお手を煩わせ申し訳ありません。」
こちらも綺麗な敬礼とともに名乗り返す。
「貴殿は、なにか我々の戦力に疑問をもたれているとか?」
アルベルト大隊長はそう言った。言い回しはきついが、目は笑っている。冗談で言っているようだ。
「いえ、疑問ではありません。
叔父が、、いえ、ベルン閣下が信頼している部隊の能力に疑問を持っているのではなく、
師団兵力と渡り合える大隊戦力を、後学のために見学させて欲しいと。。」
冗談とは感じたが、所属は違えども上官である。必死に説明する。
「承知しました。詳しくは軍事機密となるので開示できませんが、
戦力の概要であれば、私が説明いたしましょう。」
そういってアルベルトは歩き出した。
~ ~ ~ ~ ~
師団本部に戻ったデュディアーヌはアレクサンドラのいる貴賓室に向かった。
ノックをし室内に入る。衣装はそのままだったが、身支度を整えたアレクサンドラは
少しやつれた感じから復活して、さらに美しく輝いていた。
「おかえりなさい士長、どうでした?」デュディアーヌにお茶を入れたあと、
ラインハルトも気になっていたのだろう、早速聞いてくる。
「うむ。恐るべき兵力だ。実験部隊というのはまやかしだ。ここはおそらく皇国最強部隊だろう。」
「よくぞ、これだけのものを皇都近くに、実力を隠して準備できたものだ。叔父上を侮っていたわ。」
通常の機甲師団は、戦車による遠距離砲撃を軸として、
歩兵部隊の重火装による迫撃で戦術を展開する。
戦車や重火装兵器は皇都周辺の遺跡から出土したものを、
工業都市ダランでリビルドしている。
出土といっても実際に土に埋まっているものはわずかで、
その多くはダラン周辺に点在している遺跡の広大な地下石室に
格納されているものを回収している。
おそらく古代の兵器の格納庫か製造工場であったと思われるが、
未だ古代語は解明できておらず正確にはわかっていない。
土中ではないとはいえ、おそらく何千年も放置されていたもので、
復活には非常に高度な技術を要求されるため、
代々専門職人が技術を継承しているダランの工人ギルドでなければ、
例えリビルドできても、まともには動作しない。
この遺跡と兵器の復活技術は、今のところ皇国の独占であり、
これが皇国を強大国家たらしめた要因である。
ただし近年は新しい石室はめったに見つからず、
新たな兵器は手に入りにくくなった。
そこでダランの職人は小銃、突撃銃、迫撃砲などの、再現に力を入れ、
5年程前から量産できるようになった。
現在、皇国軍は従来の兵装による騎兵、歩兵から、
ダラン製火器で武装した重兵装歩兵中心に移行しつつある。
「ここの師団の持つ兵装は、全く新しい遺跡から出土した、異形の兵器だ。」
デュディアーヌはそう言った。
従来は、皇都北西に位置する川沿いの広大な遺跡群に点在する地下石室から出土する。
ダランはこの遺跡群に隣接した都市である。
しかしこの異形の兵器は、皇都南方、ブルームエール南の山岳地帯から発見された。
従来の様な地下の石室ではなく、山をくり抜いた鉄の壁の坑道が迷宮のように走っている広大な遺跡で、そのほとんどは通路だけであったが、最も広大な室の中に、それは整然と並べられていた。
斧や、剣では傷つけることもせきず、戦車補修に使う切断機でも切ることはできなかった。
兵器かどうかもわからず長年放置されていたが、皇国軍開発実験部隊に、
一人の天才が入隊することでその正体が明らかになった。




