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俺はパンツが見れると直観した

作者: 黒うさぎ

 直観。

 それは過去の経験に基づいた、即時的、論理的思考である。

 俺という人間がこれまでの人生で遭遇してきた数多の出来事から推測される未来。


 直観に絶対はない。

 外れることも当然ながらある。

 だが、ふと脳裏を過った、起こりうるかもしれないその未来を前に、俺は自分を抑えることができなかった。

  女性のパンツが見えるかもしれないというその未来に。


 ◇


 街に静寂が訪れる時間帯。

 帰宅のラッシュ帯を過ぎた駅のホームでは、既に人影もまばらだ。

 あくびを噛み殺しながら、俺は電車を待っていた。


 よれたスーツに角の擦れたビジネスバッグ。

 精気の薄いその顔は、まさに疲れきったサラリーマンそのものだろう。


 半分サービスの残業を終え、ようやくの帰宅。

 冷蔵庫で待つ安い発泡酒だけが、俺の疲れた心を癒してくれる。


 働いて、安酒を飲んで寝る。

 そんななんの目的もなく、惰性だけで生きている自分。

 なにかしたいとは思うが、そのなにかを探すだけの気力がない。

 残業は辛いが、職場の人間関係は良好であり、給料もそれなりに貰えているため、仕事を辞めるほど現状に不満があるわけでもない。


 なにも成すことがないまま、社会の歯車の一つとして朽ちていくのだろう。

 少しだけ寂しいという思いもあるが、それならそれでもいいやという楽観的な自分のほうが大きい。


(はあー、なんかいいことないかな……)


 そんな非生産的なことばかりが思い浮かぶ。

 なにもしていない俺に、いいことなど起こるはずもないのに。

 宝くじを買わない者に賞金は当たらないのだ。


 その時だった。


 カツ、カツというヒールの音を耳が捉えた。

 なんとなしに音のするほうへ視線を向けると、そこには一人の女性の姿があった。


 大学生くらいだろうか。

 肩まで伸ばした髪に、目鼻立ちの整った顔は思わず見とれてしまうほどだ。

 スラッとした肢体に纏っているのは、紺色のシャツと膝丈のスカートというシンプルな格好だが、それでも彼女の魅力を十分に引き出しているように見えた。


 右手には近くのデパートの紙袋が握られており、左手に持ったスマホで忙しそうになにかを入力している。


「危ないな」とは思ったが、見ず知らずの人に声をかけるほどのことでもない。

 むしろそんなことをして、余計な面倒を招き込むことのほうが俺にとって損失だろう。


 スマホに視線を落としているため、こちらには気がついていないはずだ。

 ならばと、そのきれいな顔をそれとなく眺めながら、目の保養をさせてもらう。


 すると、視界の端でホームに突入する特急の姿を捉えた。


 電車とスカートの女性。

 その二つの情報から、俺は直観した。


「これはパンツが見れるぞ」、と。


 この特急は、この駅では止まらずに通過する。

 通過する際、ホームには風が吹くわけだが、この駅は構造的にそれなりに強い風が吹く。


 そんなホームを、両手の塞がった女性がスカート姿で歩いている。


 これは見える。

 俺はそう確信した。


 その瞬間を見逃すまいと、女性を凝視する。


 迫る特急。

 なにも気がつかない女性。


 ゴクリと喉がなる。

 いい歳をしてなにをしているのだろうという冷静な自分の声が聞こえるが、女性と縁のない人生を歩んできた俺の欲望を抑えることはできない。


 ついに特急がホームに入ってきた。

 吹き荒れる突風。

 はためく布地。


 そして俺は見てしまった。

 股下まで続く布地を。


(ガウチョじゃねぇか!!)


 スカートだと思っていたのに、まさかのガウチョ。

 あれでは、いくら風が吹こうと、パンツが見えることはない。


 期待したぶんだけ、落胆も大きい。

 肩を落とす俺の頬を、風が撫でていく。


 この日俺は、直観はあてにならないことを学んだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] めっっっちゃ、釣られました! でも本気で面白かったです!!(о´∀`о)
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