シラサギとの邂逅
異世界に転移されたトウシロウが、最初に座っていた場所は平原だった。
起伏の少ない平原の高台におり、数百メートル後方には森林。
そして、眼前に続く草原の緩やかな下りの先には、城壁のような壁に囲まれた街が見えた。
トーシロ「…いい眺めだなぁ…」
思わず呟く程その場所は絶景であり、見上げれば心地よい青空であった。
数秒ほどその景色を堪能していたが、すぐに疑問が沸き起こる。
一体何が起こり、どこに来ているのか。兎にも角にも情報が欲しい。
まずは自身の状態から。
鏡はないが、顔を触れると、3日分伸びた無精髭がいつも通りジョリッと主張してきた。髪もちょっと寝癖がついたまま。
体もいつものままだ。最近気になってきたぽっこり腹もそのままだ。
今年で32になる慣れ親しんだ体だ。怪我もない。
体が無事となると、やはりここが何処なのかという疑問に立ち返る。
とりあえず少し先の街を目指すかと立ち上がった時、街の方向からこちらにかけてくる人影が見えた。
???「お〜い!大丈夫ですか〜?」
その男性が呼びかけてくる。20代半ばの爽やかな青年だ。
トウシロウは戸惑いつつも頷き、こちらからも近づく。
青年はあっと言う間にやって来た。本当にあっという間に。
超スピードとも言える速さだった。
スーツに似たピシッとした上下に身を包んだ青年は、息も切らさず、丁寧にお辞儀をしてから話し始めた。
???「こんにちは、私はシラサギ クロトと申します。」
トーシロ「ど、どうも。俺…私は只野 統士楼です。」
ビジネスマンさながらの丁寧な対話スタート。
その日常感により、トウシロウの不安と緊張が幾分ほぐれた。
シラサギ「まずはこの世界についてお話したほうが良いですよね。」
トーシロ「あっ、そうです!ここは一体どこですか!?」
シラサギ「ここは『イーホノ大陸』にある、『ヘグリエテ』という国です。」
トーシロ「…? …?」
シラサギ「ここは地球ではありません。いわゆる異世界です。」
トーシロ「…いっ!? 世界っ…!」
『ここは異世界です』
【恐らく一生言われない単語ランキング】上位に食い込むその言葉にトウシロウは絶句する。
シラサギ「信じられないかもしれませんが、現実です。」
トーシロ「…なにか…」
シラサギ「?」
トーシロ「何か、異世界である事の証明は出来ますか?」
その言葉にシラサギは驚きと多少の笑みを浮かべた。
シラサギ「驚きました。冷静ですね。
大抵の方は冗談や夢だと言い出すんですが。
では、そういった方にも最初にお見せするのですが、
【魔法】を使ってみせますね。」
トーシロ「ほぅ、MAHO… えっ、魔法っ!?」
驚きの言葉が出るが早いか、シラサギは手のひらから空中に球体をいくつか出して見せた。
それは渦巻く火の球、透明な水の球、渦巻く風の球、そして、カワイイ子狐のタマ…
いや、名前は分からないが丸っこい子狐が空中からシラサギの肩に舞い降りた。
シラサギ「手品ではないですよ。因みにこの子はキュウです。」
トーシロ「タマじゃなかった…。
いやそうじゃない!本当にそれ魔法ですかっ!?」
シラサギ「手を近づけて下さい。触れないように気をつけて。」
トーシロ「…は、はいぇ。」
トウシロウは恐る恐る空中の球に手を伸ばす。
火の珠はチリチリと熱く、風の珠からはサワワと風が吹く。
そしてキュウはフワフワであった。
キュウ「キュゥオン!」
シラサギ「…躊躇いなくキュウに触れたのは貴方が初めてですよ。」
トーシロ「あっと!すみません!」
シラサギ「大丈夫です。触り方も悪くなかったそうです。
どうですか?魔法と異世界は信じられそうですか?」
キュウ「キュオン?」
トーシロ「(かわいい)…まだちょっと夢なのではと疑心もありますが…
まったくの見知らぬ土地だし、見せてもらった魔法が手品か何かだとは考えにくいし、キュウはカワイイし。
異世界…と言う事実を受け入れて話を聞く方がいい気がしてます。小首傾げてカワイイ。」
キュウ「ォン♪」
シラサギ「こんなにすんなり受け入れてくれた人は初めてです。
皆さん、街について数日しないと異世界だと認めないんですよ。」
トウシロウは納得の頷きをする。
トーシロ(なるほど、通常ならばそうだろう。地球のどこかであるとか、ドッキリだと考えるほうが精神安定に繋がる。
俺の場合は…漫画やアニメの見過ぎだな。異世界であった方が"面白い"と考えてしまった。)
キュウも釣られて頷く。
トーシロ(カワイイが過ぎる)
シラサギ「よろしければ、街へ向かいつつ質問にお答えしますが、いかがでしょう?」
トーシロ「いいんですか?というか、何故こんな親切にしてくれるのです?
そういえば、真っ直ぐ向かって来ましたけど、俺のことを知っていたんですか?」
シラサギ「その辺りの事も道すがらお話しします。確かに偶然見つけた訳ではないですが、転移することを知っていたわけでも無いですよ。」
取り敢えず、右も左も分からないトウシロウは、親切なシラサギに街まで同行をお願いしたのだった。
始まりの街『ファースタ』へ向かうのであった。