人並みに転移
『俺は異世界に来た。これはその新天地での話ではあるが、その前にここに来る前の話も少ししよう。
どこから話すかな… そう、あれは確か36万…
いや、三時間前のことだ。』
そのどこにでもいそうな男、只野 統士楼はその日、
いつものように商店街で買い物をしていた。
もうすぐ寒くなるので、電気屋でオイルヒーターを買った。
広い部屋でもないし、一度使ってみたかったので思い切って年末のキャンペーンに乗っかった。
ヒーターの話はさておき、大事なのはこの後だ。
その買い物で、商店街の年末福引きキャンペーンの券を貰った。
大きな買い物だけあり複数回引けることに少し浮かれていた。
ここで少し、彼の事を紹介する。彼は他の人より少しだけ運が悪い。
正確に言うなれば、そう、タイミングが悪いのだ。
例えば学生の頃では、
校舎裏で不良がタバコを吸い終わった後に、ごみ捨て係の彼が通りかかる。
そこへ現れる生徒指導の先生…。
疑う先生、抗う彼、向かい合う2人。
指導室での1時間半。何も起き…起きずに、一旦開放。
呆れる先生、ため息のトウシロウ、背中合わせの2人。
その後、一緒の掃除当番だった友人が駆けつけ証言してくれて無罪放免になった。
社会人になって、満員電車でのこと。
トウシロウは足を踏まれて「イェァ!」と小声を出してしまった。
咄嗟に前のOLに視線を移す。
♪
視線合うOL、睨まれる彼、睨みたいのはこっちだヨ。
次に言われた言葉。皆もビビる言葉。「痴漢です!」Oh…
指差すOL、狼狽える彼、疑われたのはこっち(マジで!?)
「触った手の甲つねりました!」ドヤ顔OLちょっとカワイイ…。
周りは冷ややか。彼は冷や汗。斜め前のおっさん、もっと冷や汗。
次の駅でOLとトウシロウと、足踏んだおっさんが降ろされ事情聴取を受けた。犯人は(当然)そのおっさんだった。
決め手はつねられた手の甲。
俺の近くの人が手の甲赤いおっさんを見つけてくれて、トウシロウは無罪放免になった。
こんな感じでちょっと巻き込まれて、誰かの助けで何とかなる、そんな経験が何度もある。トータルで、"少しだけ"運が悪いのがトウシロウという人物だ。
話は福引きに戻る。
商店街の底力により、景品は豪華である。5等までは家電が占めており、3等がオイルヒーターだった。
それだけは簡便と思いつつトウシロウはガラガラを回した。
そして…
転がり出たのはまさかの金の玉。
店員「おめでとうございます!特賞出ました!(カランカラン)
トーシロ「え、嘘!シンジラレナ〜イ!」
特賞はなんと豪華、『ハウェイ旅行』である。
店員「おめでとうございます!
あの常夏のリゾート地ハウェイへ3泊4日の観光旅行です!」
トーシロ「マジかよ!こんな幸運があるのか! あったよ!!」
店員(幸運な世界はここにあったよ
常夏の世界はハウェイにあったよ! Yeah!)
ファ○マ客(脳内に直接!? …チキン下さい)
目録を震える手で受け取り、トウシロウは夢心地で帰路についた。
…だが、トウシロウがハウェイに行くことはなく…。
今… 異世界に来ている…。
帰り道の途中、突然目の前に、光る円形の輪が現れた。
トーシロ『あれは突然のことでした(本人談)
慌てる俺。広がる輪。包み込む光。包まれる俺。暖かな俺。
降り止む光。凍える俺。寂しそうな俺。降り出しそうな雨。
唐突にフワリ。浮遊感が来たり。俺に出る焦り。疑問符がプカリ。 Oh…』
そして、トウシロウは落ちていった。際限の無い落とし穴へ。
ハウェイ目録ははるか上空で、転落直後に手放していた。
落ちながら考えていた事、それは。
トーシロ(ハ、ハウェイィィ〜!ハウェイ行かせろよ!
旅行後にしてくれよぉぉ〜!!頼むよ〜!!)
夢心地から一気に転落(物理)したトウシロウは、落ちている現実離れした現象よりも、旅行へ行けなかった無念の思いが去来していた。脳内は完全にテンパっていたのだ。
そして、今、目が覚めると異世界に来ていた。
ここまでが異世界に来る直前の話になる。
そして、この話は、この世界での"少しだけ"運が悪い出来事につながる。