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そうこうしているうちにエルデは、侯爵家に旅立つ日がやってくる。もともとエルデはモノを持っていないから、安心して旅立てる。熊のペティをカバンに詰め込んだ。
あの後余談だが、姉のマチルダから手紙が来た。
『熊のあの不細工なぬいぐるみはいらないから、燃やしたわ。私は貴族なの。あなたになんか頼らないわ』
とそんな内容だった。エルデはマチルダ姉さまらしいと、苦笑いを浮かべた。まぁ、一応初めての家族からの手紙だ。エルデはこの手紙をカバンの中に入れて、歩き出す。
「お嬢様、お荷物をお持ちします」
執事長のエルスがやってきて、そうエルデに言ってくれたが、「いいわ。この荷物は自分で持つから」
屋敷の外に馬車を待たせている。
一人エルデは屋敷の外に出て、男爵家の屋敷を振り返ってみた。こうしてみると、なかなか大きなお屋敷だ。暖かい風が吹く。帽子を飛ばされてはまずいと、エルデは帽子をおさえる。
もう多分この屋敷に来ることはないのだろうな。
なんだかすっきりしたような気分と、それと同時に働きに出るんだという、エルデの中に少しの不安が込みがる。だがせっかくの新しい門出だ。エルデは微笑んで、馬車の中へと一歩足を踏み入れた。
馬車の揺れにエルデは揺られながら、敬語全集の本を読んだ。今日から完璧な敬語で話す日だ。馬車の中から美しい花畑と、春の風が吹き込んできていた。