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どきりと、エルデの心臓は妙な動きをする。

「鳥のデッサンをしております。侯爵様は何故ここに?」

「レイスと呼んでくれ。今日は屋敷で顔合わせがあるんだが、少し散策しようとにげてきた。この屋敷の湖は特別いいな。落ち着く」

「ええ、本当に」


おかしい。心臓が波打って止まらない。エルデの顔は赤くなってくる。エルデは自分の心に言い聞かす。これは姉の婚約者で、自分は結構な不細工、男は陰でエルデのことを馬鹿にする。エルデがこんな美少年に胸をときめかせたなんてバレたら、恥ずかしい。死ぬ。エルデは幸運にも表情筋が死んでいたので、無表情を保つことができているはずだ。顔の赤さはバレるかもしれないが、必死で揺れ動く心をエルデは抑える。


「これは君が書いたのか?君は絵がうまいな。売り物にできそうな出来だな」

レイスが書きかけのエルデのデッサン帳をのぞき込んでくる。距離が近い。なにかいい匂いがしてくる。自然に見えるようにエルデは、レイスから距離をとる。

「そ、そうですか?」

嬉しくてエルデの顔が熱くなる。もう顔は真っ赤なことだろう。恥ずかしい。正直逃げ出したい。

耐えろ、エルデ。

「君はずっと社交界や貴族のパーティーには出てないようだが、具合でも悪いのか?」

 レイスの顔が眩しい。

何と答えてよいものか、エルデは迷う。正直母親からエルデはそういう集まりにでないように、言われている。

母親は不細工なエルデが公にでるのを恥ずかしがっている。そんな家族の事情を、レイス伯爵に話せたものか?

「人の集まりがあまり好きではないんです。人の集まりに出ると、すぐ具合が悪くなってしまうんです」

「そうか。私も人の集まりは好きではないぞ。自然を見ていた方が好きだ」

「そ、そうですか?」

「貴族ではなく、学者になりたいんだ、私は。伯爵家に生まれたからには、社交が義務になってしまったが」

きらきらレイスの瞳が輝いて見える。

「君の絵は素晴らしい。図鑑の挿絵に君の絵が欲しいな」

嬉しい。嬉しい。そんな気持ちがエルデの中に込みあがるけれど、だめだ。エルデは最高のメイドになる。レイスと自分の立場はわきまえなければならない。

「いけません、レイス様。私みたいなものに、軽々しくなさっては」

エルデは立ち上がり、今度こそレイスと距離を取った。

「君みたいなもの?君と私とは同じ人間だろう?よそよそしくはないか?」

「私はもうすぐここを出てメイドになります。私は自分の立場をわきまえなければなりません。私はこれで失礼します。レイス様」

エルデはお辞儀をし、歩き出す。胸がキリキリいたんだが、仕方がないことだ。

さようならレイス様。

突然腕を掴まれ、エルデをたたらを踏んだ。

「何が僕と君とは違うんだ!僕は君の絵が素晴らしいといっただけじゃないか!!

思ったよりもレイス様は感情を見せる方らしい。ぎらぎらレイスの目に怒りが見える。

「皆そうだ。誰もかれも私に貴族の役割を押し付けてくる。もううんざりだ」

 掴まれたエルデの腕が痛い。その痛みはレイスの心の痛みのように、伝わってきた。

だから、エルデは素直に思ったことを口にすることにする。

「ごめんなさい、レイス様」

そういうしかなかった。レイスの手がエルデの手首から離れた瞬間、エルデはその場から走って逃げた。


部屋に戻ったエルデはペティを抱きしめて泣いた。

まるで失恋したみたいな気分でむせび泣く。確かに失恋したのかもしれなかった。


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