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第一エルデの章

エルデはそれはもう不細工な女だった。エルデは男爵家の三女として生まれた。母親のシルヴィアからはあまり顔を合わせたことはない。父親の男爵のメイビーともあまり顔を合わせたことはない。

その日、本館との通路の廊下で、偶然母親のシルヴィアに出会ってしまった。

シルヴィアは扇で口をふさいだまま、エルデの顔を見ないでそそくさと、去っていく。

一人残されたエルデの横に、ナニーのメルがやってきてにっこり微笑んだ。

「おいしいスコーンを焼きましたの。この後食べませんか?」

優しいメル。エルデはにっこり微笑んでうなずく

母親や父親に無視されることをエルデは寂しく思っていたが、ナニーのメルはとてもやさしくエルデのことをみてくれたので、エルデはあまり寂しさを感じていなかった。


「エルデ。お前みたいな不細工は嫁の貰い手はないだろうから、メイドとして働きにでなさい」

そう久々に見た父親に、エルデはそういわれたのは、エルデがまだ十歳のころだった。エルデはよく同じ貴族の男子に容姿のことでいじめられていたので、自分は結婚できるとは思っておらず、メイドになれと言われて普通は嫌がる貴族の女子は多いだろうが、エルデはナニーのメルの仕事ぶりに憧れと、尊敬を持っていたので、メイドになることを心の底から頑張ろうと思ったのだった。


「お嬢様、お父様はなんて?」

父の書斎から出てきたエルデを、メルは心配そうに見てきたので、エルデは安心させるように、一つうなずく。

「私、どこかのお屋敷にメイドとして働くようになるみたい」

下級の貴族の女子にはよくあることだ。

「そんな」

悲壮な顔になるメルのエルデは手を握る。

「大丈夫。私立派なメイドになって見せるわ。メルみたいな。だからメル、私にメイドの仕事を教えてほしいの」

「わかりました。このメルは必ずやお嬢様がどこへ行っても困らぬよう、仕事をお教えしましょう」

その日からエルデのメイド人生が始まったのだった。


「お嬢様にはまず私たちの仕事の流れを見てもらいます。明日朝の五時ごろに起こしにまいりますが、朝早いですが大丈夫ですか?」

「もちろんよ」

エルデはそういってうなずいた。

とは言ったものの、エルデは朝早く起きれる自信はなかったが、次の朝メルに容赦なく優しく起こされ、仕事場に向かうのだった。


せわしくなくメイドたちは掃除や洗濯をこなしていく。その仕事ぶりに、エルデは呆然としてしまう。

瞬く間に窓が拭かれてきらきら輝いていく。

メルとエルデが廊下のふき掃除を眺めていると、ハウスキーパーのランアイロが、メルの前に立ちはだかった。

「持ち場を離れてなにをやっているの?お嬢様の前で仕事をさぼるなんて、どういうつもり?」

そのいいように、仕事を教わっているメルは慌ててしまう。このままではメルが叱られてしまう。何か言おうとするが、メルがエルデの前に出てしまう。

「お嬢様は私たちの仕事を見たいとおっしゃっています。乳母の私としては、これも教育の一環として、お嬢様に見ていただくことにしています」

「あら、そうなの?まぁ、ろくな仕事ではありませんが、見て言ってくださいな。メル、あなたは仕事をさぼらないようにね」

そういうと、ランアイロは雑巾を振り回しながら去っていく。


「ひどい言い草」

エルデは憮然とする。

「お嬢様、仕事は甘いものではありません。働く中で、お嬢様に意地悪をしてくる人間は必ずいるでしょう。けれど忘れないでください。このメルはあなたの味方なのです」

慈愛に満ちた芯の強いメルの瞳が、エルデを見つめる。

エルデは容姿もよくないし、メルを幸せにできるだけの権力もないにもない。メルがエルデを案じてくれるのは仕事なのかもしれない。

以前エルデの親戚の叔母のスイスに、メルがエルデのことを心配するのもただの金をもらってする仕事だと言われたことがある。幼かったエルデはその意味は分からなかったが、月日がたち、貴族であるエルデの家族たちがすべて打算で人を愛していることを知った。

無償の愛はすべて肩書のあるものへと流れていく。

それでもメルが仕事だとしても、エルデはメルのことが大好きだった。格好よく働くメルは、エルデのあこがれだ。

「ありがとう、メル」

エルデはそっと、メルの手を握った。

冷たい両親に、エルデの容姿を馬鹿にしてくる兄弟のいるこの屋敷にエルデの居場所はない。だが将来生き残らなければと、一生懸命エルデは刺繍やメイドの仕事を勉強した。エルデは以前貧民街の凄惨な様子を聞き及んでいた。不細工なエルデはなるべく手に職をつけよう。幼いながらもエルデは焦る気持ちを抱えていた。


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