その者達は荒廃した世界を駆け抜ける
『Aチーム、ハーフポイントまでの距離確認!』
砂塵の中、耳元に付けている無線機から一人の男の低い声が聞こえてくる。
「距離にして500、アダムとの距離100をキープ、このままならハーフポイントに問題なく入れる」
無線機を返して男に報告する。
砂で足が上手く動かない、息が上がり、呼吸が乱れて足がパンパンで気を抜いたら倒れそうになる。
三時間近く、この景色が変わらない砂漠をただひたすらに駆けている。
『こっちは予定通りだが不味いかも知れない、イヴが増援を呼びやがった!』
「なに?!」
予想よりも大幅に早い増援。
Bチームは俺らの右後での走行、ハーフポイントから距離にしてざっと700、どう考えても最悪だ。
「ミャル、このままAチームを連れてハーフポイントまで走れ!」
『棺さんはどうするの!」
砂塵でしっかりと顔を見ることはできないが無線機を通して悲しげな声が聞こえてくる、俺のことを心配しているんだろうが――俺がこんなクソゲーな世界に転生してから決めていた意思には反せない。
ミャルの頭を撫で、手持ちのゴーグルの紐をきつく締め、皆とは逆方向に身体に鞭打って駆けだす。
「そんなの決まってる、Bチームを助けに行くんだ。もう一人たりとも死なせてたまるか!」
ミャル達Aチームはそのままハーフポイントに向かってこちらを振り向かずに走り続ける。
「魁、今そっちに向かってる、合流地点はハーフポイントから距離500、イヴの機体は何体だ」
砂が口に入ってパサパサする、照りつける西日にもうんざりする程の酷い熱さだ。
『有難う棺、イヴの機体は4機だ。俺と棺でこの4機とお前が連れてくるアダム1機を撒くとするか』
口角が少し上がる。
本当に俺も魁も善人馬鹿野郎だ。
「いいねえ、魁、死ぬんじゃねえぞ」
『そっちこそ!』
Aチームから離脱し、Bチームに駆けている間にAチームを狙っていたアダムが俺を目掛けて颯爽と駆けてくる。
「合流地点まで距離50」
40,
30,
20,
10,
「魁行くぞ!」
『おうよ!』
魁が速度を落とし、Bチームの最後尾に到達したと同時に俺は合流し、そのままアダム1機とイヴ2機を引き連れてハーフポイントとは逆方向に駆けだし、魁は残りのイヴ2機を引き連れ左側に瞬発的に走り出す。
「お前、そんな走って大丈夫かよ――ばてんなよ!」
『そっちこそ、ハーフポイントと逆走ってんじゃねえよ!』
苦笑交じりの声が聞こえてくる。
俺と魁は言葉を交わしながら気分を高め続けている。アドレナリンがドバドバと出てもう疲れを感じない程になっていた。
1機のイヴが距離を詰めてきた。
障害物も何もない砂漠でなら持久力で負けっかよ!
「本当に清々しい顔しやがって!」
白い塗装をした機体に砂漠仕様の装備、本当にこいつらは俺らを殺すために全力出しやがって苛立ちを通り越して称賛を与えたいよ。
『Aチーム、ハーフポイントエリアに入りました!』
無線機を通してミャルの幼声と共に嬉しい知らせが聞こえてきた。
『Bチームも後200メートルでハーフポイントに到着します』
よし!と嬉しさに言葉を漏らしながらもすぐさま気を引き締めて足に力を込めて身を翻し、足元の大量の砂を蹴り上げてイヴとアダムが待ち構えるハーフポイントへの最短経路へ駆けだす。
「俺らもハーフポイントへ向かうぞ、魁!」
『言われなくても分かってる!』
アダムとイヴとの距離が徐々に狭まっていく。
「足しか取り柄のない俺の実力なめんな!」
イヴ2機の手が俺を掴もうと前傾姿勢になった瞬間、急激に姿勢を倒してスライディングでイヴ2機の間を通り抜ける。
前傾姿勢で勢いがついていたイヴは味方同士でどうしでぶつかり、砂に頭を突っ込んだ。
すぐさま立ち上がり、再び駆けだす。
「死ねっかよ!」
雄たけびを上げ、再度身体に鞭打って気力体力全てを振り絞って残る距離300を後ろのアダムとイヴを引き連れて駆け抜ける。
『俺も着いた――後は――お前だけだ』
途切れ途切れに聞こえてくる魁の声に安堵を覚えていると前方から俺に突進するように2機のイヴが追いかけてきた。
「おま、処理はちゃんとしとけよ!」
魁が引き連れていた2機だろう、もうあの手を使う体力は残っていない、どうする。
青く光るハーフポイントフラッグが目視できる距離での絶対的なピンチ。後ろに下がるにもアダムとイヴがいる、左右に避けても両方向から掴まれてしまう――どうする!
『棺さん!』
「馬鹿、お前!」
前方のイヴ2機が後ろを振り向き、急速に標的を変えて走り出す。
両足が義足ながらもその顔に苦悶は無く、ただ純粋な勇気と希望に満ちた顔をする幼き少女。
『前方のは私が撒きます!』
そう言って前のイヴ二人を引き連れてハーフポイントエリアのギリギリを走り出した。
「俺が入ったらすぐにミャルも入れよ!」
危ないことをすんなと叱ってやりたいがミャルの行動で助かったのも事実、俺はその行動によるチャンスを無駄にしないようただひたすらに走った。
疲労により足が動かなくなっていく――アダムとイヴとの距離がだんだん狭まっていく。
『跳べ二人とも!』
「あばばばば――」
魁の声で俺は前方に顔面から突っ込む。大量の砂が身体中に入り、気持ち悪い程ザラザラする。
「ヒーローの到着だ!」
砂を被って身動きが取れない俺の肩をとり魁は口に巻いたバンダナを外して茶化す様にそう言う。
後ろを振り向くとイヴとアダムが小指一本分の所で静止していた。
「ハーフポイント全員到着です」
ミャルが俺に近づいてそう言った。
「よがっだああ」
「うわ、おもっ!ふざけんな棺!」
魁の怒声も気にせず俺は魁の背中に乗って電源が落ちる様にすっと眠ってしまった。
荒廃した世界エデン
神々が娯楽の遊戯として作り上げたこのエデンで俺らランナーはAI搭載ロボット、アダムとイヴから逃げながら100か所のチェックポイントをどのチームよりも先に通過しなければならない。
100か所を通過した最初のチームには元の世界で生き返る事のできる権利が与えられるからだ。
毎日毎日、走り続けで疲れるんだよ――
「ほんと、クソったれな世界なこった」
突発的な作品で次話未定です。