Knight's Code of Chivalry
俺は才能なんて言葉は大っ嫌いだ。俺には才能は無かった。それは上官達が口を揃えて絶望的に才能が無いと言うぐらいには。そのため、俺は周りのやつからも馬鹿にされていたし、優しいやつはこっちの気も知らないで諦めろと言ってきやがった。だから、努力していろんな奴を見返してやりたかった。
「その結果がこのザマとはな。結局お前には一度も勝てなかったぜ...やっぱり才能ってやつなのか?はっはっは...」
口から血を吐きながら掠れた声で乾いた笑いをする俺をゴミを見るような目で俺と同期で騎士になった男が俺の心臓を貫いている。俺は少なくとも目の前のこいつよりは絶対に努力した。というか、騎士の中で最も努力していた自信がある。それなのに全くもって報われなかった。いや、最後の最後に自分の命と引き換えにこの難しい任務がおそらく達成されたのだと思うと俺の生に意味はあったのかもしれない。
時は朝に遡る。俺はいつも通り身体を鍛えるために修練場で剣を振っていた。実はこの時間が一番好きな時間だ。いろいろ理由はあるが一番は静かなことだろう。
誰かが近づいてくる気配がした。まあ給事の誰かだろうと気付かないふりをしてそのまま精神を研ぎ澄まし剣を振り続けていた。
「あ、あの騎士様。お時間はよろしいでしょうか。王様からお手紙を届けろと申し付けられまして...」
なんと、王様からの使者であったとは。しかし、何故こんな朝方に?しかも明らかに使者の格好では無い。
これは何か大変なことが起こっていると思いながら給事の格好をした娘から王様の手紙を受け取り読むことにした。
騎士ラインハルトよ
今、王宮では謀反の動きがある。しかも大勢の騎士が賛同しているようだ。どうにも私ではこの事態をどうにかすることは不可能のようだ。
これは御主にこの事態をどうにかして欲しくて渡したものではない。決して早まるでないぞ。
私はこの謀反を防ぐのは不可能だという結論に至った。また、私が生き延び得ることもおそらく不可能であろう。
そこで忠義の騎士である御主に私の娘を逃して欲しいという願いを伝えるためこの書をしたためたのだ。
おそらく謀反は5日後に起こるであろう。私の味方である騎士は御主の他は2人しかおらん。あとは中立、もしくは敵である。
無理な願いであることは承知の上での頼みだ、もし可能なのであれば明日の明け方王宮へ来て欲しい。出来る限りバレぬように。
俺は冒険者のような武装したあと、黒いマントを羽織り出来るだけ正体がバレないようにして馬を王宮に走らせた。
そして、日が暮れるころ、森に馬を隠して俺は城下町へ入った。
(どうやら本当に謀反が起きるようだな。王様のことを疑っていたわけではないが、まさかここまで露骨に謀反の気を出しているとは。一体どういうつもりだ?)
俺は王族でも限られた者しか知らない隠し通路を使って王宮内へ入った。王宮内では恐怖で少しやつれた王様に、既に覚悟を決めている王妃様、そして美人で才女だと噂のあまり動じていないように思われる王女様が一つの部屋にまとめて閉じ込められていた。
「これはどういうことですか?もう、謀反は始まっているのですか?」
「いや、本格的には始まっておらん。まず民はこのことをまだ知らん筈じゃ。おそらく、わしに味方する者を炙り出すためにわざとこのようなことをしておるのじゃろう。」
なるほど、王様の言う通りだろう。事実俺はまんまと引っかかってしまったのだから。王様の忠臣はかなりの数が既に炙り出され殺されていると考えてもいいかもしれない。
「王様、王女様を連れ出せば良いのですね?それならばすぐにでも取りかかった方がよろしいでしょう。今はまだ警備があまり厳重ではありませんでした。この機会に私が必ずや信用のおける者と共に他国へと連れ出して見せましょう。準備は万端とはいきませんが出来ている筈です。仲間に書状を出しておきましたので。」
「そうか、流石は我が最高の忠臣だ。娘のことを頼んだぞ。私たちが死に娘まで死んでしまえば王家の血筋は途絶えてしまうのだから。」
「命に変えてもお守り致します。」
俺は王女に用意した冒険者の服(少しサイズを間違えたため大きめ)を着てもらい王宮を抜け出した。そして、入る時は使わなかったが俺が修練の時に見つけた城壁の穴から外へと抜け出した。
そのあとは、気丈に振る舞ってはいたものの両親が死んでしまうことのせいだろう。口数がとても少ない王女を連れて仲間のエルフのアルシアと合流した。
俺はアルシアに王女を任せることにした。なぜならもし、俺が共に行動すれば襲撃者を撃退できる確率はもの凄く高くなるが、それ以上に襲撃される可能性が上がるし何より見つかるまでの時間が早くなるだろうと考えたからだ。それに、俺が時間稼ぎすればもしかしたら見つからずに逃げさせることも可能かもしれない。
「ラインハルト、死ぬ気ね?そんなにも王命は大事なの?命に変えてまで守る必要があるの?」
アルシアはどうやら俺が死にに行くのは反対らしい。
「王命だから行くんじゃ無い。友の最期の願いを叶えるためにいくんだ。すまなかった、最後の最後までお前に迷惑かけてしまって」
この言葉を最後に俺は時間稼ぎのために商人に金を渡して物を売るのを渋るよう頼んだり、おそらく追っ手が通るであろう道に罠を仕掛けたり、逃げた方角の偽装工作をできる範囲で行った。
大体1ヶ月はこれで時間を稼いだ。
そして、ついに俺自身が追い詰められた結果、俺は騎士に心臓を刺された。
俺はもう息も絶え絶えになりながら最期に
憎たらしい顔の俺を刺した騎士に血の混じった唾を吐きかけてやった。