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レイラ王女は結婚したい  作者: 伊川有子
完結後 小話
27/31

③結婚後



≪自業自得≫



「お前、顔つきが良い感じにエロくなってきたなあ」


 荷物を抱えて廊下を歩いてる途中、ゼンはたまたますれ違った王妃に声をかけられて足を止めた。

 エロくなったと感想を言われてもどう答えればよいやら。ゼンは苦笑いを返すに留めて失礼のないよう頭を下げて礼をとる。


 ゼンが答えるまでもなく一方的にペラペラと喋り出す王妃。


「やっぱり毎日ヤってると変わってくるもんなのかねえ。前より生き生きしてるし色気駄々漏れ状態じゃん。若いっていいねえ。

あ、でも加減してやってよね。レイラはあたしと違って体力ある方じゃないし」

「ははは・・・」


 愛想笑いするしかない。


 ゼンが困っていると王妃の騎士シルヴィオがボソッとゼンに加勢してくれた。


「それってセクハラですよ」

「えー、でも雰囲気変わったのはホントだろ?」

「ええ、それはわかりますが」


 ゼンは人差し指で鼻柱を掻く。言われても自分が変わった自覚はないが、周りは何か感じとるようなものがあるのだろうか。確かにレイラと結婚することで生活は一変し身も心も充実した毎日を送っているけれど。


 王妃は豪快に笑う。


「ますますいい男になったって褒めてるだけだって」

「はあ、ありがとうございます」

「これくらいセクハラでもなんでもねえよ。

ま、他の男褒めるなんてあいつに聞かれたらヤバイけどなっああああ!」


 廊下の陰から覗く“あいつ(陛下)”に気付き王妃は顔を真っ青にして震えた。


 さっきまであんなに元気だったのが嘘のようにシオシオになった王妃は片手を上げてゼンに背を向ける。


「ご、ごめん。忘れてくれ。じゃあな」


 次の瞬間風が吹き抜けたかと思うくらいの速度で王妃は全速力でかけていき、それをまた追いかける形で陛下が王妃を光の速度で追いかけて行った。


「まったく、嫉妬させるようなことおっしゃるから。自業自得ですね」


 まったくだな。と取り残されたシルヴィオの独り言にゼンは相槌を打った。









≪アルコールの効力≫



 生誕祭の夜会、十分にお酒と料理を楽しんだレイラは顔を手で扇ぐ。最近あまり飲んでいなかったから弱くなったのか、ただ単に飲み過ぎただけなのか、久しぶりにしっかり酔いが回ってしまった。


「ふう、暑いわ」

「少し休まれますか」


 フィズに促されて風通しが良く人の少ない一角に移動したレイラ。吹き抜ける夜風に目を閉じて涼むと、自分の名を呼ぶ声がして振り返る。


「レイラ」

「ゼン!」


 遅くなって悪かった、と謝りながらやってきたゼンにレイラは急いで駆け寄った。胸の中へ飛び込んで抱きついてくるレイラにゼンは少し驚いて彼女を見下ろす。


「レイラ、だいぶ飲んだみたいだな」


 自分が目を離している間に、と頭を撫でれば気持ちよさそうに目を閉じるレイラに息を詰める。火照った顔ととろんと溶けそうな目で自分を見つめてくる姿がまるでベッドにいる時のレイラのようで―――。


「ゼン」


 甘えた声で名を呼ばれたかと思えば首の後ろに彼女の手が回り唇に噛みつかれる。

 滅多に自分からキスをすることのないレイラの積極的な行動に驚いたのは一瞬、ゼンはこれ幸いにとレイラ主導のキスをこれでもかと堪能した。


 ―――夜会に集まった多くの人に見られながら。









≪効力切れ≫



 レイラは目が覚めるとすぐに身体の違和感に気付いた。まるで鉛を詰め込んだかのように重く、裸でベッドの上に縫い付けられたような感覚。何事かと隣のゼンを見れば彼も気怠そうな様子で横たわりながらレイラを見ていた。


 ズルッと滑り落ちたシーツを慌てて引き寄せる。


「え?・・・・え?」


 なにが起こったのかしばらく理解が追い付かなかったレイラも、酔って眠ることはあっても記憶を失うことはない彼女はすぐに思い出した。


「あっ、がはっ」

「そんなダメージ受けなくても」


 血を吐いたようなリアクションをするレイラにゼンは喉を鳴らして笑う。


 レイラは真っ青になって頭を抱えた。いろいろやらかしてしまった。自分からゼンに言葉にするのも憚られるようなあんなことやそんなことを―――(自主規制)


 しかも夜会では人前で見せてはいけない方のキスを晒してしまった所まで思い出し、羞恥のあまりレイラは勢いよく布団に頭から突っ込んだ。


「穴があったら入りたい!」

「ベッドに穴はあけられませんっ」


 必死に頭で穴を空けようとするレイラを止めるゼン。苦笑しながらレイラの二の腕を掴むと引き上げて胸の中へ抱き留める。


「私、私、うわあああああぁぁ」

「なんで嫌がるんだ?可愛かったのに」

「可愛いですって!?あれが可愛いで済む!?」


 うわーん、と素面に戻ったレイラは嘆く。


 ゼンはフォローしようにも上手く言葉が出てこない。確かにレイラが言う通り昨夜のレイラの言動は可愛いものではなかった。ゼンが完全に“捕食される側”だったのだから。


「まあ俺からはあんまり言えないな。いい思いさせてもらったから」

「―――っ」

「でもさすがに毎日だと身が持たないかも」


 レイラはもちろん笑っているゼンもクッタクタ。起き上がるのもしんどい程に。


「ヤダ・・・ヤダ・・・しかも人前であんなことまで・・・」

「あー、それは大丈夫。皆慣れてるから」


 主に国王夫婦が原因で。


 ゼンに優しく背中を擦られたレイラは昨夜の自分を後悔して後悔して後悔し続けた。当然ながら、それからしばらくはまともにゼンの顔が見られなかった。









≪上には上が≫



 翌日、父と顔を合わさなければならない案件がありレイラは胃がどうにかなりそうだった。


「絶対父様たちにも見られたわよね・・・」


 当然、原因はレイラが夜会で人様に見せてはいけない方のキスをぶちかましたこと。他人に、しかも親にまで見られてしまってはどんな顔をすればよいのかわからない。恥ずかしさと気まずさにレイラは耳まで顔を赤くして呻いた。


「大丈夫。陛下たちは何とも思ってないから」


 そんなゼンからの心からのフォローも、今のレイラにとっては気休めにもならず。


 どうしようどうしようと心の準備が整う前に執務室へたどり着き、レイラは大きく深呼吸をして扉の方へ歩みを進めた。


 ところが今日はいつもと様子がおかしい。騎士二人は扉の前で背を向けて立っており、まるで来客中のような配置だ。しかし今日は誰か来るとは聞いておらずレイラは不思議に思いながら扉をノックする。


「父様?レイラだけど」

「どうぞ~」


 返ってきた声は父ではなく母のもの。


 母様もいたのね、と思いつつ扉を開けたレイラとゼンは硬直した。椅子に座っている陛下の上に跨がるのは服を乱し太股や肩の白い肌を露にした王妃。陛下の腕はしっかりと王妃の腰に回っており、直前までキスをしていたのが一目瞭然なほど顔が近い。


 一体執務室で何をやっているのか、この人たちは。


「どうした?」

「いえ、また出直すわ」

 

 レイラは即座に回れ右をして執務室の扉を閉める。ゼンと目が合い、彼女は「うん」とひとつ頷いた。


「そういえば上には上がいたわ」

「だろ?」


 レイラはとても気が楽になった。









≪アンコール≫



 扉を開けるとニッコリと笑ったシージーがワイン三本を抱えて立っていた。レイラは無言で扉を閉める。


「ちょっ、話を聞かずに追い出すなんて!」


 鬼!と叫ばれたがこの場合はどちらが鬼か。どうせシージーはレイラが夜会でやらかしたことを聞き、酔わせてゼンとのラブシーンを間近で見ることを目論んでいるだけ。ネタは上がっているのだ。


「わかるのよ!シージーが考えそうなことくらい!」


 伊達に親友をやってきたわけじゃない。レイラは全てお見通しである。


「違うよ?変なこと考えてないよ?一緒に飲もうよ~」

「言っとくけど今晩ゼンはいないわよ」

「・・・」


 扉の向こうがしーんと静まり、レイラは「ほら!」と大きな声を出した。


「やっぱり下心ありありじゃないの!」

「チッ、バレたか」

「分かりやすすぎるのよ」


 昨日今日で突撃してくるあたり早く試したくて我慢できなかったんだろう。


「じゃあ話聞くだけでもいいから~」

「だめ!」


 自分のしたことを思い出したレイラは扉を押さえたまま真っ赤になって首を横に振った。あの出来事はまだ消化できていない。


「へ~、そんなにやらかしたの」


 もっと食い下がるかと思いきやふむふむと考え込むシージー。


「オッケー!脳内補完した!」


 どうやって!?


 レイラの疑問は解決されることなく、シージーは満足そうに「またねー」とだけ言い残して去って行ってしまった。







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