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バイクの免許を取ったこと

作者: あびす

 うちの会社は、どの世代でもバイクブームというものが起こるらしい。

 その仕組みというのはこうだ。高卒入社後3~4年目。仕事にも慣れ、体力も有り余っている時期。遊びすぎていなければ、それなりの蓄えもできる時期。僕らは交替勤務が基本なので、平日の休みは暇でしょうがない。

 それぐらいの時期に、誰かがバイクの免許を取り、バイクを買う。それは先輩に誘われたり、前々から興味があったり、新しい遊びを覚えたかったりといった理由。理由はどうであれ、バイクを買ったということはすぐに同期に知れ渡る。そして、本人も仲間が欲しいので同期や後輩を誘い、誘われた者も仲間が欲しくなって、といった具合でいつの間にかブームになる、といった仕組みだ。もっとも、大体が一過性のブームであり、1年か2年もすればブームは去ってしまうものだが。

 僕の世代もその例に漏れなかった。誰かが中免を取った。バイクを買った。ツーリングに行った。そんな話をよく聞くようになった。そんな話を聞いているうちに、僕もバイクに興味が湧いてきたのだった。高校生の頃は原付通学をしていたので、バイクに対する悪いイメージはなかったのもそれを手伝ったのだ。一人旅、いいじゃん。友達とのツーリングとか面白そうじゃん。もっとも、バイクはカタナとニンジャ(GPZ900)しか知らなかったのだけれど。

 さて。当時、僕は変わったクルマを持っていた。スバルのトラヴィックというミニバンだ。オペルのOEM車というマイナーだがよく出来たクルマで、外車らしく足回りの出来が素晴らしく、とてもよく走った。その反面、外車らしく取り回しや燃費は良くなかった。購入からそろそろ1年、取り回しのいい足が欲しくなってきたのだった。

 ちょうど夏のボーナスが支給されたときだった。周りのバイクブームも手伝って、一つの案が浮かんだ。

 原付を買おう。

 原付の購入を考えたとたん、あの運転感覚が懐かしく感じてきた―当時乗っていた2ストロークのスクーターなんか今時買えないけど―。その気持ちは、もはや待ったなしな勢い。

 ボーナスで原付でも買う。

 そんなことを友人に話すと、彼はこう言うのだった。

「原付買うぐらいならバイクの免許取りなよ。免許取ったら、僕のバイクをあげるから」

 待ったがかかった。

 その頃、彼は中免では飽き足らず、大型二輪を取得しようと教習所に通っていた。欲しいバイクの目星もついており、免許取得と共に乗り換えるつもりだったのである。

 原付を買うなら10万弱。免許を取るのも10万弱。そして、免許を取ればバイクがついてくる。

 悩むこともなかった。

 翌日、僕は教習所に向かった。


 その教習所に行くのは、クルマの免許を取って以来―僕は就職してから免許を取った―。2年振りだったか。全然変わってなくて、少し安心したものだ。近くのラーメン屋は潰れてたけど。

 バイクの教習は楽しかった。

 教習車は何台かあったのだけど、銀色のやつはタイヤが死にかけていたので、それに当たると萎えたのを覚えている。赤いやつが新しくて乗りやすかった。

 なかでも、一本橋には熱中した。一本橋というのは、バイクの幅と同じぐらいの平均台をゆっくりと渡る科目。これが実に難しかった。自転車で想像してもらえればわかると思うが、二輪車というのは低速だとバランスを取りづらいのだ。ゆっくり渡ろうとするとバランスを崩して落下、バランスに気をつけると今度は早く通過してしまう。規定の時間以上一本橋に乗っていないとダメなので、いかに低速で渡りきるか。最初はうまくできなかったのだけれど、半クラ、ニーグリップ、遠くを見るといったコツを掴んでからは、いかに長時間粘るか、遊び出すのだった。

 教習は順調に進み、卒検も一発合格。夏の帰省の前だったので、いい気分で帰ったものだ。


 帰省を終え、試験センターまで免許を貰いに行った僕は、その足で友人の部屋に向かった。彼は展開の早さに苦笑しながらも、約束通り鍵をくれた。

 カワサキの250TRというバイク。オフロード車を連想させる細身のシルエット。フェンダーやタイヤに年期を感じさせたが、そんなのはどうでもよかった。自分のバイク。それだけで嬉しくなった。

 初めてのツーリングは、近所の陸運局まで。初めて乗る、教習車以外のバイク―原付は除いて―。

 このときのために買った黒いヘルメットを被り、黄色い革手袋をはめる。ギアを入れて、公道に出る。初めて原付に乗ったときのあの緊張が甦ってきた。

 幹線道路に出る。自転車で、クルマで、何度も何度も走った道。

 だが、風景が違って見えた。

 なぜ違って見えるのか。

 それは、10年経った今でもわからない。

 バイクのデメリットは乗らなくてもわかる。しかし、メリット、いや、楽しさを言語化することは難しい。楽しいことは確かだ。だが、なぜ楽しいのか。操縦感? 四季を感じられる? スピード感? どれも正解だと思う。だが、それを言葉にしようとすると途端に陳腐になってしまう。そういうものなのか、それとも僕の限界なのか。

 ともあれ、僕は初めてのバイクを楽しみながら、陸運局に着いた。ヘルメットと手袋を脱いでみると、ぺちゃんこになった髪と、手袋の色移りでまっ黄色になった手に、思わず笑ってしまったのだった。


 それから、僕はバイクにドハマリした。通勤もバイクに切り替え、ちょっとした外出は全部バイク。そのうち物足りなさを覚え始め、中古バイクの情報を仕入れる毎日。

 その年の冬のボーナスで、僕は400ccのバイクを買った。

 そして、中免では物足りなくなり、大型を取りに教習所へ向かうのだった。

 これが、僕がバイクの免許を取った話。

読んでいただき、ありがとうございました。

バイクは楽しいですよ。今はNinja650に乗ってます。

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