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公爵令嬢の婚約者  作者: よしの
第一話 アリクレット男爵家
8/27

第七話 アイロス王国侵攻

王都観光?を終え自宅に帰ってきた俺達は、戦争に向け訓練の日々を送っていた。

リゼとロゼの要望で、自宅の警備体制も強化されることになった。

俺の部屋はベッドが一つ増えて、リゼが常駐するようになり、ルリアとリリーは部屋を同じにして、これも同じくロゼが常駐するようになった。

部屋が手狭になってしまったが、寝るだけの部屋だ、寛げる部屋は別に用意されたので問題は無かった。

男爵となったから、本来であれば領地に屋敷を作って住むわけだが、現在砦、兵舎等の軍事施設の建設が優先されている。

ラノフェリア公爵様曰く、伯爵になってから大きい屋敷を建てた方がいいとの事。

俺としては大きな屋敷は要らないんだが、貴族としてそういう訳にはいかない様だ。

魔力は日々順調に増えていて、今ならゲートも十秒くらい維持できるのではないだろうか?せめて一分は維持できないと実用的じゃないけど・・・。

魔法の方は結構煮詰まって来ている、複数の属性を合成して使う事も簡単にできるようになった。

ルリアは火と風をうまく使い、魔力による火の温度を上げるのではなく、火に風を纏わせて火力を上げる事が出来るようになった。

違いは、魔力の消費量が圧倒的に少なくなった事だろう。

リリーは回復魔法を水に浸透させて、手を触れずとも遠くから回復が出来るようになった、これは俺には真似が出来ない事だ。

何故かと言うと、リリーは触れなくても相手の魔力を感じる事が出来るようになったからだ、それは相手の魔法が発動する前に分かることを意味する。

リリーと戦う事になったら、正直勝てるかどうか分からない、いくら無詠唱でも魔力が体外に出る現象を隠すことは出来ないからだ。

リゼとロゼの魔力も順調に増え、今では上級魔法を何度も撃てる様になっている。

リゼは火と水をうまく使い、お湯が何処でも作れるようになった、メイドとしては最高の魔法ではないだろうか。

それに鍋と材料があればどこでも料理が出来ると、嬉しそうに自慢していた。

ロゼはと言うと、風と地の属性で、リゼに見せびらかすように空を飛んで、下で悔しがっているリゼを見てにやりと笑っていたのが印象的だった。

地の魔法は、今後城壁を作ることになったら、ロゼと二人で作れて楽が出来るだろう。

アルティナ姉さん、セシル姉さん、イアンナ姉さん達も上級が使えるようになっている。

それととても喜ばしい事に、セシル姉さんは長男ロルフを出産し、イアンナ姉さんも妊娠中だ。

姉さん達には、あくまで自衛の為と念を押し、無闇に使わせないようにしている、しかし危険が迫ったら遠慮なく魔法を使って欲しい。

何故なら俺はすでに、二度ほど暗殺者に狙われたからだ。

何処から送られてきたのかは解らなかったが、すべてリゼとロゼによって排除された。

多分アイロス王国からだと思うが、ソートマス王国の俺のことをよく思わない貴族から、という可能性も捨てきれない。

リゼとロゼの身体強化は、やはりすごい物だった、俺も使いたかったので、皆がいる時に聞いてみた。

「リゼ、ロゼ、身体強化について教えてもらいたいのだが、俺にも使えるようになるのだろうか?」

「はい、まずエルレイ様が使えるかについては、使えないとお答えします」

「それは教えられないという事か?」

「いえ、私達が教えたくないのです、この技術はラウニスカ王族に伝わる秘伝で、私達が物心ついた頃より鍛えられたものです。

身体能力の強化で、まず最初に行う事は思考の強化です、エルレイ様も知っている通り、私達の動きは視界に捕える事が難しいほど速く動けます。

その制御をするため、思考を強化していなくては動きに付いていけません」

「なるほど、確かに早く動けても制御できなければ意味が無いな」

「その訓練は、頭に魔力を集中させて思考を加速させる訳ですが、この訓練時に、多くの人が亡くなります」

「そうか、負荷が大きすぎて頭が耐えられなくなる、という事だな」

「はい、私達でも一回の時間は十秒ほど、一日に五回が限度です、それ以上使うと耐え切れず死ぬでしょう、ですので教えたくないのです」

「分かった、無理を言ってすまない」

「いえ、しかし情報は知っておくべきです、アイロス王国を滅ぼした先にあるのがラウニスカ王国です。

私達の様に、鍛えられた戦士が数は多くないですがいます、正確な数は分かりませんが、百名程度はいるでしょう。

メイドとして仕える者は少なく、殆どが王直属の兵士や暗殺者となります、リリー様の事が露見すれば、暗殺者が送られてくる事でしょう。

いえ、リリー様だけではないですね、エルレイ様の脅威は、アイロス王国が攻めてきたことで各国が知る事となりました。

これまで以上注意する事が必要でしょう」

「分かった、リゼ、ロゼありがとう」

「ふーん、でも、今だと暗殺者が来ても余裕で返り討ちに出来る位強くなっていると思うわよ」

「強さはそうだろうけど、戦えるかどうかは別だと思う」

「私は戦えるわよ」

ルリアは腕を組み胸を張って自信満々の様だ。

「襲われたら、まずは防御して、皆に知らせる事を優先してくれ」

「分かったわよ」

やがて訓練の日々は終わりを告げ、戦いの知らせが届く事となる。


ラノフェリア公爵様より、アイロス王国に侵攻する準備は整ったとの知らせが届いたのは、王都へ訪れてから一年強経った頃だった。

王城で魔法を披露したことが原因か分からないが、ゼルギウス王が協力的になり、侵攻時期が早められたとの事。

俺十一歳、ルリア十二歳、リリー十一歳、リゼ、ロゼ十六歳になったが、まだまだお子様だ。

そんなお子様集団が、エルレイ男爵領のアイロス国境沿いに建つ砦の指令室前に来ていた。

「エルレイ・フォン・アリクレットです」

「エルレイ男爵、入ってくれ」

部屋に入ると数人の男性がテーブルを囲っていた。

「ソートマス王国軍第一軍団長ダニエルだ」

ダニエルさんは、この国には珍しいやや白髪交じりの黒い髪に、筋肉が盛り上がった太い腕の、五十歳位男性だ。

「エルレイ男爵、久しぶり」

「ローベルトさん、お久しぶりです」

「ソートマス王国軍第三軍団長グンターだ」

グンターさんは、金髪の髪に細長で、二人に比べると頼りない感じがする。

「エルレイ・フォン・アリクレットです」

「ルリア・ヴァン・ラノフェリアよ」

「リリー・ヴァン・ラノフェリアです」

「よく来てくれた、早速だが軍議を始めたい、座ってくれ」

一通り挨拶が終わった所で、ダニエルさんが声を掛け皆席に座る。

「今回の最終的な目標はアイロス王国の占領だ、長い戦いになるだろう、皆気を引き締めて事に当たってくれ。

その第一歩として、この平原の先にある砦を落とす」

ダニエルさんは、テーブルに開いてある地図の上の砦を指した。

「今回こちらの兵数は六万、敵の数は四万、数ではこちらが勝っているが、砦を落とすには心許無い。

そこでエルレイ男爵には、城門と、城壁に八か所ある、塔の破壊をお願いしたい」

「分かりました」

ダニエルさんは少し驚いた表情で訊ねて来た。

「これは上から頼まれた事で、無茶の事を言っていると思うが、本当に破壊できるのか?」

「当然よ、安心して見ていなさい」

俺が答える前にルリアが答えた。

「ルリアお嬢様、分かりました、お願いします、では明朝出陣する」

ダニエルさんの宣言と共に解散となった、三人の軍団長の役割は決まっていたのだろう。

指令室を出て与えられた部屋へと入った。

「いよいよ始まるのね」

ルリアは先ほどの塔の破壊辺りから興奮している、今回はルリアに活躍させないと俺に被害が来そうだ・・・。

「そうだね、うまく行けばこの先はずっとテント暮らしが続くだろう、今日はゆっくり休む事にしよう」

「エルレイの魔法で家を作ればいいんじゃないかしら?」

「出来なくは無いが、俺達だけ家を作って休んでいると、兵士達から反感買うんじゃないか?」

「私達は貴族だから許されるのよ」

「うーん、皆はどう思う?」

「私はエルレイさんの言う通り、テントでいいと思います」

「エルレイ様、防犯上家を建てるべきです」

リリーはテントでいいと、ロゼは家か、リゼは何か考えている様だな。

「リゼはどう思う?」

「そうですね・・・家は建てるべきだと思います、湯浴みや、おトイレもありますし、それと兵士に反感を買わない様に、何か施しをやるといいんじゃないでしょうか」

「なるほど、それはいいが、具体的に何を施せばいいんだろう?」

「そこは皆で考えましょう」

「まぁ、そうだな、どんな意見でもいいから出してくれ」

しかし、六万人の兵士に施しをするとなると、かなり難しい気がする。

「エルレイさん、戦場で不便な事が分かると良いと思うのですが、私では思いつきません」

リリーは王族だったからな、無理もない、しかし不便な事か、確かにそれが分かればいいな。

「私にも無理ね、ここにいる全員分からないんじゃない?」

元王族、公爵令嬢、男爵、王族付きのメイド・・・無理だな。

「そうだね、ちょっと聞いてくるか、他の皆はここにいてくれ」

「行ってらっしゃい」

部屋を出て指令室を訪れた。

「エルレイです」

「入ってくれ」

部屋にいたのはダニエルさんだけだった。

「エルレイ男爵、何か用か?」

「はい、私達は戦場が初めてで、生活して行く上で不便な事があれば教えて頂きたいのですが」

「なるほど、貴族様達には確かに辛い生活になるだろう、そうだな、美味い飯が食えない、テント生活でゆっくり休めない、体を洗えない、女が抱けないってのはエルレイ男爵には早いか」

「確かにそうですね」

そう言って俺とダニエルさんは笑った、この中で出来そうなのは、体を洗う事か、大きなプール作って体を洗ってもらう事は可能だな。

「ダニエルさん、毎日体を洗えたら兵士は喜びますかね?」

「そりゃそうだが、毎日川があるわけじゃない」

「分かりました、出来るだけ毎日兵士に体を洗って貰える様にしますね」

「それはありがたいが、六万人だぞ」

「ええ、何とかなると思います」

「それが可能ならこちらとしては構わない、兵の士気も上がるだろう」

「分かりました、では失礼します」

「うむ」

やや疑いの眼差しを向けて来るダニエルさんを背に、指令室を出て部屋に戻る。

そうだな、家は今日作って置いて収納しておけば楽でいいな、収納の容量も今は二十メートル四方まで拡大していた、今の所中身は皆の着替えや食料が入っているだけで容量は空いている。

「ロゼ、今から家を作っておこうと思う、伝ってくれ」

「畏まりました」

「兵士への施しは決まったの?」

「あぁ、毎日体を洗って貰おうと思う」

「それはいいわね」

「エルレイさん、それはとても良い事です」

「俺とロゼで、一メートル幅のストーンウォールの川をキャンプの外周に作り、俺とリゼで、そこにお湯を流せばいけると思うのだがどうだろう?」

「エルレイ様、素晴らしい案です」

「お湯は私の出番ですね」

「そう言う事で、家を作って来るよ」

「立派な家を作ってきなさいよ」

「エルレイさん、行ってらっしゃい」

「ロゼ、行こう」

「はい」

ロゼと二人で砦の外に出て、適当な平地の場所で土を固めて家を建てる。

土台を作り玄関、台所、寝室、リビング、風呂場、トイレ付きの平屋の1DKの家が完成した、二人で作ると楽しくていいな。

ドアは下にレールを付けて引き戸にし、鍵は作れなかったので内側から棒で開かない様に固定する、少し重いがそこは我慢して貰おう。

寝室には土を固めたベッドを五つ並べた。

以前の様に堅い訳じゃない、改良に改良を重ね、遂にぷよぷよした土のウォーターベッドが完成した。

上にくる所を格子状の土の板を繋げて作り、動くようにするのに苦労した。

これでルリアに文句言われることは無いだろう。

リビングにも同じように作った土のソファーにテーブルと椅子、全て土色で見た目が悪いが、ロゼが後から布を被せるそうだ。

窓はガラスが無いから、小さな格子状の穴が沢山開いている、どうせ使うのは夜だけだろうし問題無い。

「ロゼ、内装は任せる」

「承知しました」

収納から布を大量に取り出しロゼに渡す、なぜそんなものがあるのかと言うと、以前ストーンウォールで作ったテーブルを、ロゼは気に入らなかったらしく、戦場に行くならと買っておいた。

俺はベッドに向かい布団をかけて行く。

布団を敷き終えリビングに戻ると、布が綺麗に掛けられおり、見た目が良くなっていた。

「ロゼ、完成だ」

「はい、エルレイ様、これで安心できます」

ロゼと二人で土の家の外に出ると、砦の城壁からこちらの様子を伺う兵士たちの姿が確認された。

見られてても問題は無い、家を収納すると城壁から驚きの声が上がる。

収納魔法は転移と違い、隠し通す事が難しい、ラノフェリア公爵様と話し合って、見られてもいい事になっている。

部屋に戻り夕食を食べて早めに休み、明日からの戦争に備えた。


翌朝、砦の外には六万人の兵士が整然と並んでいた、壮観な光景だ。

兵士たちの装備は剣と盾が主で、槍はいなかった、普通戦場で活躍するのは槍だと思っていた。

何故かと聞いてみると、盾が無いと魔法が防げないとの事、確かにその通りだ、魔法が飛んでくるのに防ぐ物が無かったら戦えないな。

後は弓と魔法兵、魔法兵の役割は、やはり障壁による防御との事。

攻城兵器が無いのも不思議に思った、攻城兵器は宮廷魔導士が中心の魔法軍が担当する様だが、今回の作戦には来ていない。

その為の俺達だそうな・・・完全に俺に功績を稼がせる、ラノフェリア公爵様の手配だよね。

進軍を初めて一時間、敵の砦の手前、約一キロの地点で停止した。

平原の只中にある砦は、とても大きく四角い形状をしており、前面に八つの塔が見える。

あれを破壊するのか、壊すのは簡単だろうけど、どうするかな。

「エルレイ男爵、あの塔を破壊して貰う訳だが、行けそうか?」

ダニエルさんが心配そうに問いかけて来る。

「そうですね、破壊は出来ます、こういうのは派手に壊した方が、相手の士気が下がったりするんでしょうか?」

「うむ、派手に壊してくれると、こちらとしてもやりやすい」

「分かりました」

「グンター、城門が開き次第突入しろ」

「俺がですか、正面から行くの苦手なんすけど」

やる気が無いようにグンターは答えた。

「つべこべ言わず行け、子供たちに笑われるぞ」

「はいはい、行きますよ、全く人使いが荒い大将だ・・・子供たに笑われては、団長やっていけないっすからね」

グンターはエルレイ達を眺めながらそうつぶやいた。


「皆聞いてたと思うが、派手に壊していいそうだ、誰がやるかだが・・・」

「当然私ね」

ルリアは腕を組み、仁王立ちでそう答えた。

「ルリアと後、誰がやる?」

「私一人で十分よ」

「では、私がやります」

リゼが声を上げた、リゼなら問題ないか。

「では、ルリアとリゼにやってもらおう、リリーは味方が砦に突入した後、兵士の回復を、ロゼはリリーの護衛を頼む」

「エルレイさん、分かりました」

「リリー様には傷一つ負わせません」

「では行こうか、危険を冒す必要は無い、無理は絶対しないでくれ」

「分かってるわよ」

「はい」

「「承知しております」」

リゼを抱えて飛び立ち、塔へと向かう。

『ルリアは右端から壊して行って、最後に城門を破壊してくれ、俺達は左端から行く』

『分かったわ、派手に吹き飛ばしてやるわよ』

『私も負けませんよ』

ルリアとリリーはやる気だ・・・やり過ぎないか心配だが、まぁ構わないか。

「飛んでいきましたね」

「うむ、お手並み拝見と行こう」

ローベルトは以前の活躍を知っているから心配していなかったが、ダニエルは破壊できるのか、不安な気持ちで飛んでいくエルレイ達を見つめていた。

ルリアとエルレイ、リゼは塔の手前まで来ていた、塔の上には魔法兵や弓兵と言った、複数の敵が確認できる。

城壁の上にも、かなりの数の敵兵を確認した、正直怖い、この人たちとこれから殺しあうのかと思ったら気が引けて来る。

前回は防衛で、今回は侵略だ、罪悪感が込み上げて来て体が震える。

その気持ちを感じたのか、リゼが首に回している手に力を入れて抱き付いて来た。

「エルレイ様、心配なさらず、今後どのような事をなさろうと、私は最後までエルレイ様に付いて行きます」

「リゼありがとう、しかし、俺が非道な殺人鬼になるかもしれないぞ」

「エルレイ様はそのような者にはならないと、信じております、しかし、もしそうなったら私が御止め致します」

「そうか、それなら心配いらないな、リゼ、その時は遠慮なく俺を止めてくれ」

「畏まりました」

リゼのおかげで恐怖心は収まってきた、正面の敵を見据えて覚悟を決める。

『ルリア、リゼ、始めてくれ』

『わかったわ』

『承知しました』

ルリアは不敵に笑っていた、今まで毎日魔法の訓練はしてきたが、実践で魔法を使うのは初めての事だ。

前回も敵を倒してはいたが、初級魔法で倒した事など、ルリアの中では無かった事にされているようだ。

今回は派手にやっていいと、エルレイにも許可を貰った、ルリアは風を全身に纏い、塔へと近づいて行く。

魔法や矢が飛んでくるが、それは全て圧縮された風の壁によって遮られていた、ルリアは障壁より強い風の壁を纏っていたのだ。

「さーて、派手にいくわよ」

ルリアは右手を突き出し魔法を使った、右手を突き出す必要は全くないのだが、ルリアは貴族らしく演出も必要との事。

それなら魔法の名前は言わないのか?と聞いたら、無詠唱なのに魔法の内容ばらしてどうするのよ、と言われた、確かにその通りなんだが、格好も必要ないのでは?と思ったが黙っておいた。

塔の前に、中心に青白い炎の柱を孕んだ竜巻が出現した、竜巻の中には複数の圧縮されたウインドカッターがあり、中に入った物を切り刻み、風によって中心へと運ばれた後は、青白い炎の柱によって焼き尽くされると言う、えげつない魔法だ。

アイロス王国側も、前回障壁を破る魔法が知れ渡っているので、塔の上には五人の魔法使いを配置し、五重の障壁を張っていたが、ルリアの竜巻の前に無残に打ち砕かれていた。

やがて竜巻は塔を包み込み、切り刻まれ、焼き落された塔は、轟音と共に崩れ去った。

「まだまだ行くわよ」

ルリアは竜巻を風で動かし、城壁の上を進ませ、次々を四つの塔を崩壊させていった。

敵兵は最初の塔が壊された時点で逃げ出していたようだったが、目的は塔の破壊、敵兵の殲滅では無いから気にしてはいなかった。

ルリアは最後の仕上げをするべく、城門の前に移動し、どんな魔法を使うかしばし考えた。

この後兵士が突入する事を考えると、瓦礫や炎が残っては邪魔だ・・・。

「よし、これならいいわね」

ルリアはそうつぶやき、両手を上げ、頭上に大量のウインドカッターを作り上げ、城門を細切れに切り刻み、最後に圧縮した風を当て、城門を吹き飛ばした。

「綺麗になったわ」

ルリアは腕を組み、満足した表情を浮かべた。

一方リゼは、エルレイに抱きかかえながら塔に向けて魔法を使っていた、リゼはルリアと違って魔法名を叫ぶ、叫んだ方が気分が乗るんだそうな。

「ヒートディストラクション」

塔は見た目何も変化していないように見えた、しかし次の瞬間、赤く光ったと思た途端ボロボロと崩れだし崩壊した。

リゼは水と火、相反する属性を使う、今回やった事は、塔を冷やして急激に温めただけ、急激な温度変化によって塔が崩壊したのだ。

リゼには強力な魔法があるのだが、それは禁止している、一度試してみたら、とてつもない爆発を齎したからだ。

火山とかである水蒸気爆発、知識として知っていたから、リゼに教えて試させたら酷い事になった。

塔の上に敵の魔法使いが何重にも障壁を張って守っている様だが、リゼの魔法は塔全体に及ぼしているから意味が全くなかった。

リゼは次々と塔を崩壊させていき、四本目の塔を崩壊させた頃、ルリアが城門を吹き飛ばしているのを確認した。

「どうやら終わったようですね」

「そうだな、下がろう」

『ルリアよくやった、少し下がろう』

『わかったわ』

俺達が下がると同時に、騎兵隊が開いた城門に次々と突入して行った。

上空でルリアと合流すると、リリーを抱えたロゼもやって来た。

「皆さん、お疲れ様でした」

「二人共よくやったよ」

「大したことなかったわね」

ルリアは当然といった感じで腕を組み、満足した様子だ。

「私は少し興奮しました」

リゼは興奮して俺の腕の中で暴れている、落とすから落ち着いて欲しい。

「この後はリリーの出番だ、頼んだぞ」

「エルレイさん、任せてください」

「ロゼも気を付けて」

「はい、ありがとうございます」

「ルリア、何もないと思うが、リリーに着いて行ってやってくれ」

「分かったわ」

「俺は少し前に出て、戦闘の様子を確認して来る」

眼下では次々と砦に迫る兵たちが見える、兵の被害を最小限に抑えるべく、再び砦へと近づいて行った。


≪アイロス王国サイド≫

アイロス側の砦の指令室に、アイロス王国軍第一軍団長カールハインツ、アイロス王国軍第二軍団長トリステン、魔法師団団長ブルクハルト三人の団長が話し合っていた。

「ソートマス軍が動いた、もう間もなくここへ攻め込んでくるだろう」

カールハインツは眉をひそめて、そう告げた。

「今回の作戦は相手の戦力を見極めるための物、こんな平原のど真ん中に作られた砦と、俺は心中したくないからな」

トリステンは最初からやる気が無いようだった。

「トリステンの報告は聞いている、障壁を貫通する初級魔法の対策は十分だ、我が魔法軍団が砦は守ってやる、安心していたまえ」

「期待はしてない、あんな作戦で防げるような物ではないと俺は言ったのだからな、精々死なない様にしてくれ」

「ふんっ」

ブルクハルトはトリステンの報告を受け、そんな事が出来る筈が無いと高を括っていた。

「二人共喧嘩するでない、我らも後方の砦に上り、様子を見ようではないか」

カールハインツは、この仲な悪い二人を纏めて行かなければならないのかと思い、ため息をつくのであった。

三人は後方の塔へ上り、戦況を見つめる。

「報告します、ソートマス軍は一キロ手前で軍を停止させ、陣形を整えている模様」

「来たか」

「魔法使いの子供が出てこないと、いいんですがね」

「出て来ても我が魔法軍団が蹴散らしてくれる」

ブルクハルトはトリステンを睨みつけ、トリステンは余裕でそれを受け流していた。

「報告します、敵軍より少女とメイドを抱いた少年が、こちらに向けて飛んできているとの事」

「ピューーー」

トリステンは口笛を鳴らし、ブルクハルトは敵の魔法使いが出て来たと、にやりと笑った。

「トリステンの報告にあった通りだな」

「はい、私はそろそろ逃げる準備を致します、お二人共急いだほうがよろしいですよ」

トリステンはそう言うと、部下に撤退の指示を出した。

「逃げるのだけは相変わらず早いな、トリステン」

ブルクハルトは挑発するよう言い放った。

「俺は長生きしたいんでね」

その時、塔に迫る青白い竜巻を確認した。

「何だ、あの青白い竜巻は」

カールハインツは驚きの声を上げ、青白い竜巻が塔を飲み込み、崩れ去るまで、呆然と見ている事しか出来なかった。

ブルクハルトは声を上げることも出来ず、立ち尽くしていた。

「ありえない・・・何だあの魔法は、あんな魔法見た事も聞いた事も無いぞ」

ようやく声を出せたブルクハルトは、頭を抱え現実逃避していた。

「お二人共分かったでしょう、逃げますよ」

「うむ、全軍撤退」

カールハインツは撤退の指示を出し、塔を駆け下りた。

「さて、前回の仕返しをしますかね」

トリステンはにやりと笑い、部下に指示して馬に跨り、砦を後にする。


≪エルレイサイド≫

グンター率いる騎兵隊は、本来その機動力を生かし、奇襲を得意としていた、今回少年たちが砦の塔と城門を破壊する事による、時間との勝負で選ばれたのだろう。

本来であれば大群で押し寄せ、城門を破るわけだが、今回それが無い故の、機動力が必要だった訳だ。

グンターは指揮をしつつ、自ら先陣に立つ事を得意とし、今回も先陣に立ち、砦内部へと侵入していた。

砦内部に侵入して部隊毎に指示を出す、そこで違和感を覚えた、戦闘音が聞こえてこない!すぐさま指示を出す。

「罠だ、全軍撤退、砦より脱出せよ!!」

そう、砦内部に敵がいなかったのだ、しかし、かなりの数の味方が既に砦内部に入っていて、すぐに出る事は出来ない。

今も城門に詰め寄る味方とぶつかり混乱していた、そこに砦内部のあちこちから火の手が上がり、燃え広がる。

「密集して障壁を張れ!!」

グンターは指示を出し、何とか被害を抑えようとするが、火の勢いは激しく部下たちを飲み込んでいく。

城門は益々混乱を極めている、グンターは諦めず指示を出し続け、その時雨が勢いよく降り注ぎ、火を消して行った。


エルレイはリゼを抱えたまま、上空から砦内部の様子を見ていた。

「エルレイ様、様子がおかしいです」

「何がおかしいのだ?」

「敵がおりません」

リゼに言われた初めて気が付いた、建物内部にいるのかと思ったが、広い砦内に四万人の敵が見えないのは確かにおかしい。

その時、あちこちから火の手が上がり、味方を飲み込んで行った。

「エルレイ様罠です、火を消しましょう」

「分かった、リゼは右側を、俺は左側をやる」

「はい」

ここにいるのがリゼで助かった、大粒の雨をイメージして広範囲に降らせ、次々と火を消していく。

すぐさま火は消し止められたが、味方の被害が大きい、降りて回復しようとした所に、リリーとロゼが来た。

「エルレイさん、後は私がやります」

「任せる、俺はリリーに魔力を供給しよう、流石にこの広範囲は厳しいだろう、リゼ落ちない様しっかり掴まっていてくれ」

「はい」

リリーは魔力に集中し、癒しの雨を降らせる、ただ降らせるだけでは無く、火傷をした人の魔力を見つめて当てて行く。

大量の魔力と集中力が必要な作業だ、俺は片手でリゼを支えながら、反対の手でリリーに触り、魔力を供給して行く。

五分ほどで火傷を負った人の治療を終え、リリーは精神的に疲れ果て脱力した。

「リリー、よくやった」

「はい、皆さんを助けられてよかったです」

「リリー様、少しお休みになってください」

「ロゼ、ありがとう、少し眠ります」

そう言ってリリーは瞼を閉じた。

「ロゼ、安全な所に降りてリリーを休ませてやってくれ、ルリアは付いて行ってくれ」

「分かったわ」

「承知しました」

「俺は報告に行ってくる」

リリーたちと別れ、まだ怪我人がいないか確認するため、砦内部へ向かった。

そこでグンターさんを見つけ降り立つ。

「グンターさん怪我人はまだいますか?」

「エルレイ男爵助かった、今確認させている所だが、重傷なのはいないだろう」

「いたらすぐ治療しますので連絡ください、私はダニエルさんに報告してきます」

「分かった」

再びリゼを抱きかかえて飛びあがり、ダニエルさんの元へ向かった。

今更だが、メイドを抱えて飛ぶ貴族って変だよな、俺はリゼを抱えて飛ぶのは好きだからいいけど、主に胸の感触が・・・。

戦闘が終わったからだろう、そんな事を考える余裕が出て来た、ダニエルさんの元に降り立ち報告をする。

「ダニエルさん、敵は砦内部に存在せず、罠が仕掛けられていました、火は消え、怪我人の治療もほぼ終わりました」

「うむ、エルレイ男爵助かった、礼を言う」

「私にできる事をやったまでです、上空から確認しましたが、この周りに敵はいない模様ですが、一応確認お願いします」

「すでに斥候を放った、しかしこんな平原で伏兵はいないだろう」

「そうですね、この後はどの様に致しますか?」

「この場にキャンプを設け、砦内部の捜索に当たる、エルレイ男爵は休んで貰って結構だ、後はわしらでやる」

「ありがとうございます、お言葉に甘えさせてもらいます」

「うむ」

「では失礼します」

リゼを抱え、適当な場所を探して、家を収納から取り出した。

周囲の兵士達が驚きの声を上げていたが気にしない。

『ロゼ、家を出した、リリーを連れて来てくれ』

『承知しました』

暫くして、リリーを抱えたロゼとルリアが来た、すぐさまリリーをベッドに寝かせ、俺達はリビングのソファーに座った。

「エルレイ、凄いじゃない、このソファーぷよぷよした感触が気持ちいいわ」

「ふっふっふ、苦労した甲斐がある、ちなみにベッドも同じだぞ」

「それは気持ちよく寝られそうね」

ルリアは気に入ったようで、ソファーの感触を楽しんでいた、リゼがお茶を入れてくれてそれを楽しむ。

「リゼ、ロゼ、二人も疲れただろう、休んでくれ」

「畏まりました」

「はい」

流石にリゼとロゼも疲れたのだろう、ソファーにもたれかかり、リラックスしている。

「エルレイ様、これ本当に気持ちいいですね、眠くなりそうです」

「寝ていいぞ、俺も少し眠る、流石に疲れたよ」

軽く休んだ後、遅めの昼食を摂り寛いでいると、軍議があると兵士が呼びに来た。

兵士に案内されて、大きめのテント内に入る、中には既に三人の軍団長が座っていた。

「エルレイです」

「エルレイ男爵、休息している所済まない、席に座ってくれ」

「いえ、先に休ませて貰っていたので疲れは取れました」

「軍議の前に礼を言わせてくれ、エルレイ男爵、俺の部下を助けてくれてありがとう」

俺が席に着いたところで、細身のグンターさんは立ち上がり頭を下げた。

「頭を上げてください、自分たちの役目を果たしただけです、それに砦内部の確認を怠りました、申し訳ございません」

俺も立ち上がり頭を下げ謝った。

「二人とも座らんか、今回被害が少なく済んでよかったという事だ」

「「はい」」

ダニエルさんが大声で着席を促した、今回の被害は完全に俺のミスだ、砦直前まで行きながら内部を確認しなかった。

いくら役割が塔、城門の破壊だけだったとしても、味方に大きな被害を出すような事があってはならない。

「エルレイ男爵よ、我らはそこまで求めていないし、上より貴殿の力に頼りすぎるなと言われておる。

今日、貴殿の力をこの目で見るまでは信じておらなんだが、今なら解る、貴殿の力は強すぎる。

わしは今後、貴殿の力に極力頼らないよう努力する」

「分かりました、元より前面に出て戦うつもりはございません」

「うむ、では軍議を始める、ローベルト報告を頼む」

「はい、砦及びその周辺に敵の姿を確認する事は出来ませんでした、砦内部にも何も残されておりません。

今回の敵の行動はこちらの戦力を、と言うよりエルレイ男爵を見極めるための物だったと思われます」

「うむ、それで、今後敵はどのような行動をしてくると予想する?」

「正直に申し上げて分かりません、しかし私が敵の将だとし考えるなら、エルレイ男爵に対して取れる策は二つ。

一つ目は全勢力を集結し、玉砕覚悟で総力戦を仕掛ける。

二つ目は降参し、こちらの勢力に与する」

ローベルトさんはそう言って俺の方を見てきた。

「うむ、わしもそう思う、降参してくれるのなら楽でいいが、総力戦となればこちらの被害も大きくなる。

それを見き分けるためにも、次の砦を落とすしかない」

「そうですね、次の砦はアイロス王都の手前に位置する重要拠点、切り立った山の谷間に作られた、難攻不落の砦とされております。

谷に進行する人数も制限され、精々一万人程度しか入れません、山も高く険しいので山越えは不可能です。

そこまでの移動日数は五日間ほど要します」

「分かった、明日から移動を開始する、以上他に質問はあるか?」

ダニエルさんは全員を見渡す。

「すみません、軍議とは関係無いのですが、よろしいでしょうか?」

「エルレイ男爵、なにか?」

「この後兵士に水浴びをして貰うべく、キャンプを囲うように川を作りますので、兵士に連絡をお願いします」

「それはありがたい、連絡をさせよう」

「家も用意されていたようだし、もうエルレイ男爵には何をされても驚かない事にする」

ローベルトさんは飽きれている様だった。

「では、何も無いなら解散」

テントを出て家に戻る。

「皆ただいま」

「お帰り」

「エルレイさんお帰りなさい」

「「お帰りなさいませ」」

皆に出迎えられる、こういうのなんかいいな。

「エルレイ、軍議はどうだったの?」

「明日から、次の砦に向けて五日間の行軍だ」

「そう、今日はゆっくり休まないとね」

「そう言う事だ、リゼ、ロゼ、川を作りたいから手伝ってくれ」

「「承知しました」」

「私も付いて行ったほうがいいかしら?」

「ルリアとリリーはここにいてくれ、男の裸が見たいならついて来ても構わないが」

俺は笑いながらそう言うと、ルリアは顔を赤くして顔を背けた。

「そんなことある訳ないじゃない」

「そう言う事で、留守番頼むよ」

「分かったわよ」

「エルレイさん、行ってらっしゃい」

リゼとロゼを連れてキャンプの外側に移動した。

「ロゼ、今からストーンウォールでキャンプを一周する川を作る、同じように右回りで作ってくれ」

「承知しました」

「リゼはここで出来た川にお湯を入れてくれ」

「はい、分かりました」

凹型の幅一メートルの川を、キャンプ外周を飛びながらストーンウォールで作って行く。

ロゼは地の魔法が得意なので、問題無く俺と同じような川を作って行っている。

丁度半周回った所でロゼと合流し、川が完成した、そこに俺もお湯を入れていく。

二十分ほどお湯を入れ続けて、温水の川が完成した。

「皆さん、ここを使って汗を流してください」

「「「うぉおおおおおおおおお」」」

俺が大声で叫ぶと、様子を伺っていた兵士達は喜んで我先にと川に近寄り、服を脱いでお湯を浴び始めた。

正直男の裸とか見たくないので、急いでリゼの所に戻り、リゼを抱えて家に帰った。

「いやぁ、喜んで貰えている様で嬉しいが、男の裸は見たくないな・・・」

「「同感です」」

リゼとロゼもやはり嫌だったらしい、ん?一つ疑問がわいた。

「リゼとロゼは、俺を裸に剥いて喜んでいるように思えていたが・・・」

「エルレイ様は別です」

「そうです、エルレイ様の可愛い裸は今でないと見れませんから」

若干リゼの発言がショタっぽいが、まぁ、リゼとロゼにはお世話になりっぱなしだから、裸くらい見られてもいいかと思ってる。

「俺達も風呂に入るか」

「そうね、さっぱりしたいわ」

「ルリア、一緒に入りましょう、さっき見たけど広いですよ」

「分かったわ、エルレイ、お湯入れて頂戴」

「はいはい、お嬢様、少々お待ちを」

交互にお湯につかり、体を洗って夕食を取り、ウォーターベッドのぷよぷよとした感触に包まれながら熟睡できた。

翌朝体の疲れが完全に取れた俺達は、次の砦に向けて行軍を開始した。


≪アイロス王国サイド≫

渓谷の砦の指令室にカールハインツ、トリステン、ブルクハルトは集まり軍議をしていた。

「さて、この地で敵を迎え撃つ訳だが、率直な意見が聞きたい」

カールハインツは真剣な表情で皆に問いただした。

「正直逃げたいが、ここで逃げた所で勝ち目は無い」

トリステンは覚悟を決めたように言った。

「ここの砦に魔法は効かない、陛下よりそう聞いている」

ブルクハルトは自信なさげに答えた。

「その話は聞いたけどよ、本当にそうなのか?たとえそうだとしても、奴らは飛んで来るから意味があるとは思えん」

トリステンが告げると皆黙り込んでしまった、あの強力な魔法を見た後では誰でもそうだろう、対抗する手段がない。

その沈黙を破るかのようにドアが開き、近衛騎士が部屋に入って来て、その後ろからノルベール・フォーレ・アイロス王が来た。

「陛下、何故このような場所に」

皆が驚く中、カールハインツは膝をつき頭を垂れ、慌て二人も続いた。

「皆、頭を上げよ」

「「はっ」」

王は席に着き、皆を見渡してから声を掛けた。

「席に着くが良い」

「「失礼します」」

「余がここに来たのには意味がある、皆も知っての通り、ここを抜けられると我が王国は終わる。

そして強力な魔法使いがいる事も聞いた、しかし心配することは無い、この砦に魔法は効かぬ。

さらにこの砦には、王族に伝わる古代兵器が眠っておる」

「古代兵器ですと!!失礼しました」

カールハインツは陛下の前だと言うのも忘れて驚きの声を上げてしまった、しかし陛下は気にした様子も無く話を続ける。

「うむ、強力な力を秘めている古代兵器だが、それは王族にしか使う事が出来ぬ、故に余がここに来たのだ」

「はっ、我らは陛下の為、王国の為に全力で戦うまで」

「うむ、では古代兵器の説明と、敵を殲滅する作戦を考えようではないか」

「「はっ」」

アイロス王国軍はここを最後の戦いの地と定め、奮戦するべく策を練るのであった。


≪エルレイサイド≫

五日間に及ぶ行軍を経て、ソートマス軍は渓谷の入り口に陣を構えた、ここから先、砦までの道のりは大軍での行軍は出来ない。

エルレイは軍議に向かうべく、大きなテントに入って行った。

「エルレイです」

「うむ、座ってくれ、軍議を始めよう」

エルレイは席に座り、テーブルに広げられた地図に目を落とす、大きな山に囲まれた渓谷に砦の位置が記されていた。

「この先の砦までは、一万人ほどしか送り込むことが出来ない、罠の等の危険がある可能性が高い、そこで先行部隊としてまず五千、指揮はローベルトとエルレイ男爵を送り込もうと思うが、皆の意見を聞きたい」

ダニエルはそう言いうと、皆を見渡した。

「俺もその意見には賛成だ、しかし、この砦には魔法が効かないという噂を聞いた事がある」

ローベルトは難しそうな顔でそう述べた。

「その話は聞いた事があるが、実際に確認した者はここ数百年いない、やってみなくては分からん」

「なるほど、しかし砦に直接魔法が聞かなくてもやりようはあると思います」

俺は勇者時にも魔法が聞かない魔物と対峙して来た事があるので、難しく考えずそう答えた。

「そうか、その事に関してはエルレイ男爵に任せよう、もし魔法が効かず、砦の破壊が難しそうであれば一度下がってくれ」

「分かりました、一つ質問良いでしょうか?」

「うむ」

「この渓谷を通らず、山をぐるっと回って行くのは駄目なのでしょうか?」

「可能ではあるが難しい、理由は補給だ、山を回って行くとなると補給線が伸び、この砦から補給線を狙われてしまう。

補給を絶たれた我々は、撤退せざるをえなくなる」

確かにそうだな、補給の事全然考えて無かったよ、俺は自分たちの分を収納に入れているから思いつかなかった。

「分かりました、素人の意見とお笑いください」

「いや、色々な意見を出して貰えるのは助かる、我らも気が付かない事があるかも知れない、遠慮なく何でも言ってくれて構わない」

「ありがとうございます」

「特になければ先行部隊として五千、これはあくまで敵の出方を見るための物、決して無理をする必要はない。

罠、もしくは砦が破壊出来なかった場合、速やかに撤退する事、作戦開始は明朝とする、以上」

ダニエルさんが締め、その場は解散となった。

家に戻り皆に報告する。

「明日の朝、五千の兵と共に砦に向かう事になった、今回は様子見で、無理をする必要はないそうだ」

「ふーん、私が全部壊してやるわよ」

ルリアは腕を組み自信満々にそう言ってきた。

「それが、砦に魔法が効かないそうなんだよな」

「それなら、砦の中に入って敵を殲滅すればいいんじゃない?」

「そうなんだけど、敵はそれも分かっているだろうし、すんなり行くとは思えないんだよな」

「エルレイ様、本当に魔法が効かないのであれば、中から城門を開ければいいのではないでしょうか?」

「ロゼの言う通り、それ位しかないかな、明日は無理する必要無いから、砦を壊す事に専念してみよう」

「分かったわ」

その日は結局それ以上のいい案は思い浮かばず、次の日の朝を迎えた。


渓谷の入り口に、俺達とローベルトさん率いる五千の兵が集まった。

「エルレイ男爵、今日は無理はしないで構わない、我らもそのつもりで行く」

「分かりました」

「皆これより渓谷に入る、何処に罠があるかも知れん、注意して進軍せよ!!」

ローベルトさんの掛け声と共に五千の兵が進軍を開始した、とても格好いい、俺には真似できそうにはない、だから憧れるな。

渓谷の道は狭く、馬車がギリギリ通れる幅しかなかった。

隊列はどうしても伸びるが、両脇が鋭い崖になっており、横からの襲撃の脅威が無いのが幸いだ。

細い道を歩き続け、ようやく開けた場所に出る、その場から遠くに両脇の崖に突き刺さる様に砦が作られていた。

「全軍停止!」

五千人の兵が陣形をくみ上げた所で、ローベルトさんの声が掛けられた。

「エルレイ男爵、ここから先はお任せする」

「分かりました、城壁に魔法が効かない様でしたら一度下がります」

「うむ、無理されぬよう」

ローベルトさんの元を離れ皆の所へ行く。

「昨日も言ったように今回は様子見だ、皆無理はしない様に」

「分かっているわ」

「エルレイさんも無理はしないで下さい」

「あぁ、ロゼはリリーを頼む、リゼは俺と一緒だ」

「「承知しました」」

この組み合わせが、今の所全員が飛んで移動出来ていいだろう、何かあっても対処しやすいはずだ。

「ルリア、行こうか」

「ええ」

リゼを抱えて飛び上がり、砦に向かう。

砦の城壁は黒く、石を積み上げて作られた物では無いように思える。

『ルリア、リゼ、城壁は何で作られているか分かるか?』

『分からないわね、金属の様に見えるけど・・・』

『私にも分かりません』

『それに、城壁の上に人の姿は無いな』

『そうね、でも前回ので、いても意味が無いってわかったからじゃない?』

『それもそうか、ルリア、一度城壁を攻撃してみてくれ』

『分かったわ』

ルリアは右手を前に突き出し、火の上級魔法エクスプロージョンを放った。

「ドゴーン!」

大きな音と共に煙が上がり、城壁に魔法がさく裂した、煙が消えると、そこには傷一つ無い城壁が見えた。

『本当に魔法が効かない様ね』

『その様だな、他の属性も試してみるよ』

地、風、水と全ての属性を試してみたが、結果は同じだった。

『駄目だな、城壁の破壊は諦めよう、ルリアは一度下がってくれ、俺は砦内部を上空から見てくるよ』

『分かったわ、気を付けてね』

『あぁ、行ってくる』

その時だった、城壁の一部が突如動き出し、真っ黒い剣でルリアに切りかかって来た。

「ルリア!!」

俺は叫ぶと同時に、とっさにルリアの前面に障壁を張るが、魔法は効かない様で、障壁をいとも簡単に破りルリアに剣が迫る。

「キャーーー」

ルリアも咄嗟に回避したが、剣の衝撃を受け地面に叩きつけられた。

俺はルリアを助けようと意識を向けていて、城壁の攻撃が近づいている事に気が付くのが遅れた。

「エルレイ様危ない!!」

リゼの必死の叫び声に気が付き、前を向くと、真っ黒な剣が俺に迫っている所だった。

咄嗟にリゼを庇う様に背を向け剣を回避した、しかし間に合っておらず、剣は俺の左足の膝から下を切り放してた。

激しい痛みと共に、俺も独楽の様に回転しながら背中から地面に叩きつけられて、その衝撃で呼吸が出来ず、意識を失った・・・。


≪アイロス王国サイド≫

「陛下、敵が渓谷内に侵入して来ました」

「手筈通り頼むぞ」

「はっ、陛下もお気を付けて」

アイロス王は近衛騎士を引き連れて指令室を後にした。

砦の中央に位置する指令室が入った建物の上に、黒い塔が作られており、そこへ至るには王族でないと入れない様になっていた。

アイロス王は塔への入り口となる黒い扉の前に立ち、代々の王に受け継がれてきた黒い剣を抜刀し、扉横にある窪みに剣を収めた。

「ガチャリ」

鍵が外れる音と共に扉が開いた、アイロス王は剣を窪みより取り出し、鞘に納めた。

「この先は王族しか入れぬ、お前たちはここで待て」

アイロス王は近衛騎士にそう伝え、扉の中と入って行くと同時に扉は再び閉じ、鍵が掛かる。

塔の中は王族以外が入ると罠が発動し、中に入ったものを殺害するよう出来ていた。

扉の中は塔の上へと向かう螺旋階段が続く、アイロス王はゆっくりと階段を登って行き、扉の前に辿り着いた。

アイロス王が扉の前に立つと、扉は自動的に開き、アイロス王は薄暗い部屋の中へと入って行く。

扉が自動的に締まると床がぼんやりと光始めた、部屋は円形で窓が無く、床が光っていなければ真っ暗で何も見え無かっただろう。

アイロス王は迷わず部屋の中心へ移動し、黒い剣を抜刀し掲げた。

「ノルベール・フォーレ・アイロス王の名において、古のゴーレムを起動せよ!」

アイロス王が宣言すると、黒い剣に魔法陣が浮かび上がり、それと共鳴する様に床、壁、天井に描かれた魔法陣が輝き、部屋全体がゴーレムから見える景色を映し出した。

アイロス王の体に魔法陣が浮かび上がると、城壁のゴーレムとリンクを確立し、一体化した。

アイロス王の動きがゴーレムに反映される反面、ゴーレムに受けた衝撃もアイロス王に反って来る諸刃の剣でもあった。

それでも今までは問題が無かった、二十メートルの魔法が効かない巨大ゴーレムに、ダメージを与えられる物など存在しないのだから。

ゴーレムの素材は魔力を分解、吸収出来る物質で作られていた、それは、遥か昔に失われた技術で、現在では作成不可能の物である。

アイロス王は体を動かし、目の前に飛ぶ少女めがけて剣を振るった、剣は少女を吹き飛ばし、そのまま切り返して今度はメイドを抱えた少年へと切りかかる。

見事に少年の足を切り飛ばして、地面へと叩きつけた。

アイロス王は笑みを浮かべ、止めを刺すべく少年に剣を振り下ろし、叩き潰した。

アイロス王は地面に刺さった剣を引き抜き、今度は少女に止めを刺すべく移動して、剣を振り下ろした。

「ふはははははは」

アイロス王は勝利を確信し、高々と笑った。


≪リゼ視点≫

「エルレイ様危ない!!」

ルリア様が剣によって吹き飛ばされた事で、エルレイ様の意識がそちらに向かい、巨大な剣がこちらに向け振り下ろされている事に、エルレイ様は気付いていませんでした。

私の言葉でエルレイ様は回避なされたが、完全には避け切れておらず、エルレイ様と私は剣の衝撃により離され、地面へと叩きつけられました。

地面に叩きつけられた時、かろうじて受け身は取れたものの、衝撃により転がり続け、ようやく止まった所で体を起こし立ち上がりましたが、体と頭に痛みが走り、泣き出したいくらいでした。

しかし私の事よりエルレイ様の無事を確認しないといけません、周囲を見渡しエルレイ様を発見しましたが、今まさにエルレイ様に剣が振り下ろされている所でした。

自分の痛みなど気にしている場合ではありません、即座に身体強化を使い、エルレイ様に駆け寄り、片手で抱えて、迫りくる剣からギリギリの所で救出する事が出来ました。

エルレイ様が子供で助かりました、流石に私も大人の男性を抱えて運ぶのは無理ですからね。

ルリア様も救出しなくてはいけません、周囲を見渡しルリア様を発見しました。

しかし今すぐ救出しては巨大な化け物に気が付かれてしまいます、身体強化を使用してまだ三秒ほどしか経っていません。

私はルリア様に化け物が剣を振り下ろしてから救出を致しました、これで敵は二人を倒せたと思うでしょう。

しかし両脇に子供とは言え、二人を抱えて走るのは大変です、しかも体中痛くて痛くてたまりません。

それでもエルレイ様とルリア様から感じられる体温が、私を奮い立たせてくれます、何としても守らなければと、痛みを堪え全力で走り抜けます。

やがて身体強化の効果が終わりましたが、敵からかなり離れる事が出来ました。

『ロゼ、エルレイ様とルリア様が負傷した、すぐ来て!』

『分かったわ、エルレイ様とルリア様は無事なのね?』

『意識を失っているけど、無事よ』

『すぐ向かいます』

ロゼが来てくれればルリア様を任せられる、エルレイ様が起きてくだされば安全な所まで逃げる事が出来る、私は必死にエルレイ様に呼び掛けた。

「エルレイ様!エルレイ様!エルレイ様!」


≪エルレイサイド≫

「・・・・様!・・レイ様!エルレイ様!」

・・・遠くで俺を呼ぶ声がする。

「ゴホッ、ゴホッ」

咳と共に呼吸をすると、背中から激しい痛みを感じる。

「エルレイ様!」

「リゼ・・・」

目を開くと地面がすごい勢いで動いている、そう言えば城壁から出て来たゴーレムに剣で切られて・・・。

「ルリアは!!」

顔を上げ、リゼの声がした方を見ると、リゼは頭から血を流していた。

「エルレイ様、ルリア様は無事です」

リゼの声を聴いて安堵し、よく見るとルリアの頭が近くに見えた、どうやらリゼが二人を抱えて走っている様だ。

リゼに回復をかける、リゼの傷は治ったようだが、流れた血は消えないので見た目は酷い状況だ、続けてルリアの頭に手を乗せて回復をかける、意識を失ってはいるが無事の様だ。

「ッ!!」

そこで一安心したら、左足と背中から声も出せない位の激痛が走る。

「ふぅー」

痛みを堪えて息を吐き出し、心を落ち着かせて自分に回復をかける。

痛みがゆっくりと抜けて行き、足が作られていく、何とも変な感じだ・・・。

そこでようやく落ち着きを取り戻し、リゼに尋ねる。

「リゼ状況は?」

「エルレイ様、今ゴーレムより離れ、リリー様の所に向かっている所です」

「分かった、リゼ俺を下ろしてくれ」

「しかし・・・」

「俺の怪我は回復したから下ろしてくれないか?」

「分かりました」

リゼはしばらく悩んだ後、おろしてくれた。

自分の足で立ち城壁の方を見る、ゴーレムとの距離は二百メートルほど離れていて、ゴーレムは剣を突き上げ勝鬨を上げている様なポーズを取っていた。

どうやらあまり時間は立っていないらしい。

「リゼ、俺はゴーレムを倒しに行く、ルリアを連れてリリーの所へ戻ってくれ」

「いけません、ここは一度下がりましょう」

リゼは俺の腕を力強く掴み、反対してきた。

「リゼ、ここで逃げてはあのゴーレムに勝てないような気がするんだ、行かせてくれ」

勇者の時の感だろうか、何となくそんな気がする・・・。

リゼの腕を掴む手は緩まない、さらに力を入れている様だ・・・痛い。

「・・・分かりました、私も一緒に行きます」

「しかしルリアが・・・」

その時地面に降り立つ音が聞こえた。

「ルリア様は私が連れてまいります」

「ロゼ、ルリアを頼む」

「畏まりました、必ずリリー様の元に戻ってきてください」

「あぁ、約束する」

ロゼはルリアをリゼから受け取ると、一言告げてから戻って行った。

「エルレイ様、勝算はおありで?」

「分からない、魔法が効かない以上、あのゴーレムを倒すには物理攻撃しかない」

「物理攻撃ですか・・・剣では切れませんよ」

「剣で切れたとしても、あのでかいゴーレムを切り裂くのは無理だろう」

「そうですね」

勇者の時に持っていた剣なら斬れただろう、しかし今は安物の剣に十一歳の体、どう考えても無理だ。

魔法は駄目、剣も駄目、となると大砲とかあれば効いたのだろうけど・・・。

「そうか大砲だ!!」

「エルレイ様、ここに大砲はございませんが・・・」

俺は魔法で穴を掘り、土を思いっ切り固めて一メートル大の玉を作った、それを続けて十個ほど作り、家を収納から取り出し十個の玉を収納に収めた。

「それをぶつけるので?」

「そうだが、普通にぶつけても駄目だろうから、工夫する」

「リゼ、行くぞ」

「はい」

リゼを抱えて再びゴーレムの元へ飛び出していく。

「リゼ、ゴーレムの周辺に大雨を降らせてくれ、それとゴーレムの周りを飛ぶからしっかり掴まっていてくれ」

「分かりました、しかし雨など降らせて何をするおつもりで?」

「魔法は効かないが、転ばせることは出来るだろう?」

「ふふっ、相変わらずエルレイ様は変な事を考えますね」

リゼと俺はにやりと笑い合った、リゼが大雨を降らせるとゴーレムはこちらに気付き、剣を振るってくる。

俺はそれを避けつつ地面を掘り、柔らかくして行く、そこにリゼの大雨が落ちて泥沼を作って行く。

泥沼に気付かれない様、出来る限りゴーレムに近寄り剣を避けて行く、大雨が降っているせいであちこちに水溜まりが出来、泥沼の存在を消していった。

「エルレイ様、ゴーレムの動きは鈍いですね」

「ん?大きいからこんな物では無いだろうか?」

「いえ、剣捌きです、素人が力任せに振るっている様で、隙だらけです」

「あぁ、確かにそうだな、お陰で避けるのも簡単だ、言われてみると確かに素人の剣だな」

「ゴーレム、最初は魔法が効かなくて恐ろしかったですが、こうして冷静に見ると、丈夫なだけでたいして怖くないですね」

「全くその通りだな、玉の攻撃が効かなくても焦る必要は無さそうだ」

「そうですね」

リゼと笑い合い余裕が生まれて来た。

二人で話をしながら余裕で剣を避けているうちに、ゴーレムの足が十分にはまる大きさと深さの泥沼が出来た。

徐々に剣を避けつつそこでゴーレムを誘導する、ゴーレムの足が泥沼に入ると足を滑らせ、大きな音と共に見事にひっくり返った。

「ズルッ!ザッパーン!」

俺とリゼはそれを見て、笑いをこらえるのに必死だった、何とか我慢して上空に飛び上がり、玉を一個収納より取り出す。

玉は自然落下で落ちて行く、それに風を圧縮して当て、玉を加速させる。

ゴーレムは起き上がろうとしているが、泥で滑ってうまく起き上がれないでいた、そこに上空より加速して落ちて来る玉が衝突する。

「ドゴーン!!」

大きな衝撃音共にゴーレムの胴体に玉がめり込む、俺は続けて玉を頭や手足に落とし続けた。

十個の玉全部落とし終わった頃、ゴーレムは地面がぬかるんでいたせいもあり、完全に地面に埋まってしまって動かなくなっていた。

「終わったのか?」

「どうでしょう?生物なら生きていないでしょうけど、ゴーレムですから分かりません」

「そうだな、また玉を作るか」

「それがよろしいかと」

玉を作りに移動しようと思った時、城壁から魔法と弓の攻撃が飛んできた。

飛んでいる時は常に障壁を張っているので攻撃を食らうことは無いが、黙って受け続けるのも嫌なので反撃する。

「エルレイ様、私がやります、ゴーレムが動かないか見ていてください」

「分かった、リゼ頼む」

リゼは城壁の敵を睨み、魔法を使った。

「ブリザード!」

リゼの放った魔法は城壁の敵を包み込み、次々と凍らせていく極寒の吹雪だ。

水の上級魔法なのだが、通常使っただけでは吹雪が吹き荒れるだけで、すぐさま凍り付くことは無い。

リゼの得意な水魔法で、さらに強化され、温度も氷点下百℃を超えている、抵抗できなければ生物は凍り付くだろう。

城壁に魔法は効かないが、その上にいる人には問題なく効いている様だ。

「リゼ、ゴーレムはまだ動かないが、玉を作りに行く」

「はい」

リゼを抱えて地面に降り、玉を十個作り収納してから、再びリゼを抱えて飛び上がる。

「エルレイ様、念のため五個ほど落としましょう」

「そうだな、勝ったと思った時ほど隙が出る」

追加で五個ゴーレムに落としたが動く気配は無かった。

「エルレイ様、次は城門に玉を当てましょう」

「そうだった、ゴーレムを倒して終わりでは無かったな」

「はい」

上空から城門に、角度を付けて玉に風を当て撃ち出した、玉は見事に城門に当たって両開きの門を吹き飛ばした。

城門にある玉は邪魔なので回収し、上空へと戻る、ようやく落ち付いてルリアの無事を確認できるな。

『リリー、ルリアは無事か?』

『エルレイさん、ルリアの意識は戻っていませんが、無事です』

『そうかよかった、こっちはゴーレムを倒し城門を開けた、リゼも無事だ』

『はい、良かったです』

『ロゼ、城門が開いたことをローベルトさんに知らせてくれ、俺は砦内部を見て来る』

『承知しました、お気をつけてて』

「リゼ、砦内部を調べるぞ」

「はい、攻撃は私が致しますので、エルレイ様は周囲の確認をお願いします」

「わかった」

俺は障壁をより強固にしてから、砦内部の上空へと向かった。


≪アイロス王国サイド≫

アイロス王が勝利を確信していた頃、下の指令室にも報告がもたらされていた。

「報告します、陛下の操るゴーレムが三人を倒した模様です」

「「おおおおお」」

指令室内部に歓喜の声巻き起こる。

「流石陛下、あの魔法使いを倒すとは素晴らしい」

カールハインツはとても喜んでいた、しかしトリステンは冷静に報告した兵に問いただした。

「死体は確認できたのか?」

「ゴーレムの破壊で地面が陥没しており、確認できないとの事です」

「そうか・・・」

「どのみち生きていても陛下のゴーレムには敵うまいよ」

カールハインツはトリステンの肩を叩き、心配する必要は無いといった表情を浮かべていた。

トリステンはあの少年がそう簡単に死ぬのか?と思ったがそれ以降報告が来ない以上信じるしかなかった。

「あはははははは、やはりただ魔法が少し強いだけの少年だったようですね」

ブルクハルトは笑い、これで自分の地位を脅かす者がいなくなったと安堵していた。

実際エルレイが敵としている以上、彼ら魔法師団が活躍できる場は無いのだ。

暫くして奇怪な報告が入る。

「報告します、城壁より遠方に突如家が出現しました」

「は?今なんと申した?」

「ですので家が出現したとの事です」

カールハインツは理解できず聞き直したが、結果は変わらなかった。

「それは陛下のゴーレムによる物なのか?」

トリステンも理解できずそう聞いたが、誰も分かるはずもない、陛下のゴーレムの事さえ満足に知らないのだから。

「報告します、少年がメイドを抱いて陛下のゴーレムに接近、大雨を降らせているとの事です」

「なんだと!」

「やはり生きていたか・・・」

「そんな馬鹿な!」

カールハインツは驚き、トリステンは納得し、ブルクハルトは絶望の表情を浮かべていた。

「しかし陛下のゴーレムには魔法が効かない、何をしても無駄だ、いつでも陛下の援護が出来る様、城門の兵に準備させよ」

「はっ」

カールハインツは命令を下し、成り行きを見守る事しか出来なかった。

一方アイロス王は少年が生きていた事に驚いたが、落ち着いて剣を振り叩き落そうとしていた。

大雨で視界を悪くされたが、見えない訳では無い、次々と剣を振り回し少年を追う。

「ええい、ちょこまかと動きおって」

なかなか当たらない敵に苛立ちを覚え、更に動きが荒くなる。

ゴーレムの性能はかなりいいのだが欠点がある、それは動かす人の動きを完全にトレースするからだ。

アイロス王は王が故に、これまで剣の訓練をまともにやってくる事は無かった。

少年時代に真似事様な事をして周りから褒められ、天狗になり、それ以降練習することは無かった。

他の国の王ならそれでも問題は無かったが、代々のアイロス王はこのゴーレムを受け継ぎ、王国の危機の時はこれを動かし、守って来たのだ。

勿論アイロス王もその事は知っていたのだが、自分を剣の天才だと思い込み訓練を怠った結果、このような事態に陥っていた。

それでもアイロス王は余裕を持っていた、相手が小さな少年であり、このゴーレムが魔法が効かないのだから、どの様な事をされても倒されないと思っていた。

その油断があってか、泥沼に足を取られて転んでしまった。

ただ転んだだけの事、焦る必要はない、そう思い起きようとするが、人とは違いゴーレムの手足が泥で滑ってうまく起き上がれなかった。

そこに上空から玉が落ちて来るのが見える、アイロス王は地の上級魔法メテオだと認識する。

いくらメテオだろうと、このゴーレムは魔力を分解、吸収しエネルギーへと変換するから、脅威でも何でも無かった。

アイロス王は玉を見つめ、ゴーレムが吸収するのを眺めようとしていた、玉がゴーレムに当たると同時に、強烈な衝撃がアイロス王の腹部に突き刺さった。

「ごふっ!」

アイロス王は胃の内容物をすべて吐き出した、そこでアイロス王は意識を失ってしまったが、それは幸せであった。

その後も強烈な衝撃が次々と意識の無いアイロス王へ突き刺さり、頭に強い衝撃を受けた時点で、アイロス王は帰らぬ人となった。

「報告します、陛下のゴーレムは転倒させられ、メテオの攻撃を次々と受け動かなくなったとの事です」

「なに!!城壁にいる兵に陛下の援護を命令しろ」

「はっ」

「陛下のゴーレムは敗北したのでしょうか?」

トリステンがそう尋ねた。

「陛下のゴーレムに魔法は効かない、メテオで倒される訳が無かろう」

カールハインツはそう言ったが、ではなぜ動かなくなったのか、メテオがゴーレムに効いたのか?いくら考えても分からなかった。

「報告します、城壁との連絡が途絶えました」

「そうか・・・」

カールハインツは力なくそう答える事しか出来なかった。

「状況が分からぬ以上ここにいても仕方がありません、外へ出て確認しましょう」

トリステンがそう言った時、指令室がある建物が大きく揺れた。

「総員退避!!」

トリステンは声を張り上げ指示を出す、何とか建物の外に出ると、上部にある陛下が登って行った塔が崩壊するのが見えた。

塔はゴーレムの停止と共に、技術漏洩を防ぐ目的で崩壊する仕組みになっていた。

「陛下・・・」

そこでトリステンは陛下が敗北したのだと思った。

カールハインツもブルクハルトも、呆然と塔が崩壊して行くのを見ている事しか出来なかった・・・。


≪エルレイサイド≫

エルレイは砦内部の上空を飛び、眼下にいる敵兵の様子を見ていた。

「エルレイ様、前方を見てください」

リゼに促されて前方を見ると、建物の上に建つ塔が崩れているのが見えた。

「あれはいったい何だろう?」

「分かりかねます、しかしゴーレムと関係があるのではないでしょうか?」

「そうかもな、近くに行って見る事にしよう、注意をしてくれ」

「承知しました」

崩壊した塔の傍に行くと、建物の入り口周辺に人だかりが見えた。

「リゼ、あの辺りにいる人達は軍の指揮官だろうか?」

「どうでしょう?他の兵に比べて身なりは良さそうですが・・・」

指揮官だとしたら交渉してみる価値はあるだろうか?違っても伝令はして貰えるだろう。

「リゼ、あの場所に降りて見ようと思う」

「エルレイ様、危険です、お止め下さい」

「危険なのは分かっている、しかしあれが指揮官だとしたら、無用な血を流さずに済むかも知れない」

「・・・分かりました、但しいつでも逃げられるようにしてください」

リゼは暫く考え同意してくれた。

「分かった、敵が攻撃してきた場合は容赦しなくていい」

「エルレイ様の背中はお守り致します」

リゼとの会話を終え、人だかりが出来ている前に降り立った。

周囲の兵士は驚き剣を抜き、いつでも襲い掛かれるような状態でこちらの様子を伺っている。

その中から一人の男性が一歩前に出て来て、こちらに話しかけて来た。

「俺はアイロス王国軍第二軍団長トリステン、貴殿はソートマス軍の魔法使いとお見受けする、何故ここに来た」

トリステンと名乗る敵の軍団長が良く通る声で問いただしてきた、軍団長か、うまく交渉出来れば降伏させる事が出来るかも知れないな。

「私はエルレイ・フォン・アリクレット、アイロス王国軍のゴーレムを倒し、話し合いの為に馳せ参じた」

「ゴーレムを倒しただと・・・」

周囲から動揺したよな声があちこちから上がる。

「話し合いだと?我らがその様な事に応じるとでも思ったのか?」

トリステンはこちらを睨み威圧してきた、簡単には行かないか。

「応じなければそれでもいい、その時はアイロス王国軍を全滅させるだけだ!」

俺もトリステンを睨み返し脅した、周囲に緊張が走る、いつ攻撃されてもおかしくない。

暫く睨み合い、緊迫した空気が辺りを包む・・・やがてトリステンが口を開く。

「分かった、話を・・・」

「話を聞く必要はない!!」

トリステンの声を引き裂いて、後ろの方にいたローブ姿の男が叫ぶ、と同時にその男性と周囲にいたローブ姿の数名が同時に詠唱を始めた。

俺はすかさず詠唱している者たち全員に、圧縮したウインドカッターを撃ち込み、首を刎ねた。

それを皮切りに、剣を構えていた兵士達が俺達に襲い掛かろうと動き、俺とリゼはそれを迎えようと構えた所で、大声が轟いた。

「静まれぇぇぇ!!!」

トリステンの背後にいた男性が大声を発し、攻撃しようとしていた兵士達の動きを止めた。

男性はゆっくりとした足並みで、トリステンの横に並んだ。

「カールハインツ、ここは私が・・・」

「いや、わしが話そう」

「分かりました、無茶はしないで下さい」

「分かっておるわ」

トリステンは渋々一歩下がり、エルレイとの交渉を譲った。

「わしはアイロス王国軍第一軍団長カールハインツだ、先程は仲間が失礼した、さて、話とやらを聞かせてくれ」

カールハインツと名乗る軍団長は、先程のトリステンとは違った威圧感がある、流石軍団長になるだけはあるな。

「分かりました、私から話す事はお願いです、降伏して頂けませんか?」

俺は出来るだけ威圧しない様に、笑みを浮かべてお願いした。

「わっはっはっはっ」

カールハインツは大声で笑った。

「軍人にお願いをするとか、笑うしか無いだろう?軍人を動かすのは力だ、貴殿の腰にある剣は飾りではあるまい?わしに勝てたらお願いとやらを聞いてやる」

カールハインツはそう言うと剣を抜き、正眼に構えた、さてどうするか、戦えないことは無いが、問題はこの安物の剣だな、打ち合いに耐えきれるのだろうか・・・。

「エルレイ様、私が・・・」

俺が考えているとリゼが前に出ようとする。

「いや、俺がやらないとあの人は納得しないだろう」

リゼを抑えて剣を抜き前に出る。

「ほう、魔法でないと戦えないのかと思ったぞ」

カールハインツはにやりと笑い俺を挑発してきた、ちょっと頭に来たので言い返してやる。

「いえ、おじさんが子供に負けたら可哀そうだと思っただけですよ」

俺はわざと呆れた表情をして挑発した。

「ほざきおる、行くぞ!」

カールハインツは怒ったようで、顔を赤くして大上段から大振りで切りかかって来た。

「ギャリッ!」

俺はそれを剣で受け流し間合いを詰めようとしたが、カールハインツの振り切ったはずの剣が、横なぎに切りかかって来た。

慌ててバックステップで後ろに下がり、それを躱した。

「ほう、今のを躱すか」

カールハインツの表情は元に戻ってにやりと笑っていた、なるほど冷静さを失ったと思わせる為の大振りだったのか、簡単に行きそうにないな。

「どんどん行くぞ!」

カールハインツの連撃が打ち込まれる、俺はそれを受け流すので精一杯だ、一撃一撃が速く重い。

しかも振り切った剣を力任せに軌道を変えて来るから、なかなか踏み込めない。

体格差があり、俺の攻撃は懐まで潜らないと通らないので、防戦を強いられている。

「ギンギンギンギン!」

カールハインツは疲れを知らないのか攻撃が休まる事が無い、俺は攻撃を受け流し踏み込む機会を伺っているが、なかなか隙が見つからない。

「はぁはぁ・・・」

しかも俺の体力も徐々に減って行き呼吸も荒くなってきた、毎日剣の訓練は欠かしてはいないが、十一歳の体でこの速くて重い攻撃を受け続けるのは厳しい。

そのうち俺の剣から嫌な音が聞こえて来た。

「ビシッ!」

カールハインツの剣を受け流し続けていた俺の剣にヒビが入った、俺は覚悟を決め無理やり踏み込む。

「あまいわ!!」

カールハインツは待っていたと言わんばかりに俺に剣を振り下ろし、俺はその剣を力一杯受け止めた。

カールハインツは目を見開いて驚いている、こんな子供に自分の剣を正面から受け止められるとは思っていなかったのだろう。

その隙を突き、一歩踏み込み左手をカールハインツの腹部に向けて打ち込むようにして、圧縮した風を撃ち込んだ。

カールハインツは風の衝撃で三メートルほど飛ばされて倒れこむ。

俺の剣は見事に折れ曲がっていて、これ以上は戦えない・・・。

「はぁはぁはぁ」

俺は息を整える、まだ全力で戦うと体が付いてこない、息を整え倒れているカールハインツの元へ向かった。

「私の勝ちでよろしいですか?」

俺が問いかけると、カールハインツはゆっくりと立ち上がり、こちらを睨んで答えた。

「・・・貴様の願いを聞いてやろう」

「おや、てっきり私は魔法を使ったから無効だと言われるかと思いました」

「貴様が魔法使いなのは最初から知っておる、避けられなかったわしの負けだ」

「そうですか、ありがとうございます」

「トリステン、お前もそれで構わんか?」

「そうですね、ここで私一人反対しても無駄死にするだけです、しかし条件がございます」

トリステンは真剣な表情で俺を見て来た。

「条件とは?」

「こちらの兵士の安全を保障して貰いたい」

「それは勿論と言いたい所ですが、私にはその決定権がないので、今その問いにお応えする事は出来ません、少しお時間を頂けませんか?」

「そうか分かった、ではそちらの指揮官と話をさせてくれ」

「分かりました、では一時間後、城門前にて話し合いの場を設けるという形でいかがでしょうか?」

「分かった」

「では、一度失礼させていただきます」

後方で待機していたリゼの元に向かう。

『ロゼ、今ローベルトさんの部隊の状況はどうなっている?』

『エルレイ様、今部隊は城門前にて待機しています』

『分かった、そちらに向かう』

『承知しました』

「リゼ、戻ろうか」

「はい」

リゼを抱えて飛び立ち、城門へと向かい、ローベルトさんの元に降り立った。

「ローベルトさん、お待たせしました」

「エルレイ男爵、無事だったか」

「はい、それで敵の指揮官と話をして、敵が降伏を受け入れてくれました」

「なに、それは本当か!」

ローベルトさんは非常に驚いていた、まぁ当然か、まだ本格的に攻め込んでないのに降伏とか普通無いよな。

「はい、一時間後にここで、敵軍の指揮官と話し合いを付ける事に成っています、ダニエルさんに連絡をお願いします」

「分かった、すぐに連絡させよう」

「私は仲間の元に一度戻ります、一時間後またここに戻ってまいります」

「うむ」

ローベルトさんの元を離れ、リゼを抱えて飛び立つ。

『ロゼ、今何処にいる?』

『エルレイ様、家におります』

『分かった、すぐ向かう』

『お待ちしております』

玉を入れるために出した家の元へ向かうと、ロゼが家の前で迎えてくれた。

「お帰りなさいませ、ルリア様とリリー様は中で休んでいます」

「分かった」

俺は、はやる気持ちを抑えて中に入る、リビングにはいない、寝室に入るとリリーとベッドに寝ているルリアがいた。

「リリー、ルリアは無事か?」

「エルレイさん、ルリアは眠っているだけで、無事ですよ」

「そうかよかった」

俺はベッドに眠っているルリアの顔を眺めて安堵した、ルリアに何かあったら俺は正気ではいられなかっただろう。

リリーは俺に抱きついて来た。

「エルレイさんも無事でよかったです」

リリーの声が震えている、泣いているようだ、俺はリリーに手を回しゆっくりと抱きしめた。

リリーの柔らかい感触と温かいぬくもりが伝わってきて心が安らかになる。

「リリーありがとう」

「はい・・・」

俺はリリーが泣き止むまでそうしていた・・・。

やがてリリーが落ち着き離れると、リリーは嬉しそうに微笑んだ。

その微笑を見てもう一度抱きしめたくなったが、リゼとロゼの視線を感じそちらを向いた。

リゼとロゼにも感謝を伝えなければならない。

「リゼ、今回リゼに助けて貰わなければ俺もルリアも生きていなかった、ありがとう、ロゼもルリアとリリーを守ってくれて、ありがとう」

「「当然の事をしたまでです」」

二人は双子らしく声をそろえてそう答えた、俺は二人を引き寄せ抱きしめる。

「本当にありがとう」

二人も俺を抱きしめて来て暖かな体温を感じる、こうしているとリリーとはまた違った安心感を感じる。

やはり俺はこの二人に守られている事を実感し、あらためて二人に感謝した。

暫くそうしていると声が掛かった。

「いつまでそうしているのよ!」

「ルリア!」

俺は振り向き、ルリアのベッドの傍に駆け寄ってルリアの顔を見る、ルリアはベッドの上で上体を起こしていた。

「ルリア、無事か、痛い所はないか?」

「もう何ともないわよ」

「そうかよかった」

俺はルリアの声を聴き安堵する。

「何泣いてるのよ」

ルリアに言われて気が付いた、どうやら俺は泣いている様だった。

珍しくルリアの方から抱きついて来た。

「心配させたみたいね、ごめんなさい」

「ルリアが無事ならそれでいいんだ」

俺もルリアを抱きしめる、その二人を抱きしめる様にリリーも被さって来た。

「ルリア、無事でよかったです」

「リリーにも心配かけたわね、リゼとロゼもありがとう」

「「ルリア様が無事で何よりです」」

お互いの無事を確認しあい、皆安心し落ち着きを取り戻した。

「それでどうなったの?」

ルリアが問いかけて来る。

「ルリアを攻撃してきたゴーレムは、リゼと二人で倒した、敵の指揮官とも話、降伏してくれるよう今から話し合いをする所だ」

「そうなのね、良かったわ」

「だから非常に残念だが、ずっとルリアを抱きしめている訳には行かないんだよ」

「なっ、泣き止んだのなら離れなさい」

ルリアは顔を真っ赤にして俺を引きはがした、自分で言っておいてなんだがとても残念だ。

「そう言う事で俺は話し合いに行ってくるよ」

「リゼ、ロゼ、二人を頼む」

「承知しました」

「私はエルレイ様に付いて行きます」

リゼはそう言ってきたがもう危険はないはずだ。

「リゼ、話し合いだけだから一人で大丈夫だ」

「しかし・・・」

「エルレイ様、リゼをお連れ下さい、ここは私一人で大丈夫ですので」

珍しくロゼが意見してきた、確かにルリアも大丈夫なようだしいいか。

「分かった、リゼ、着いて来てくれ」

「はい」


リゼを抱えて城壁前に降り立つと、すでに主要な人物は揃っている様だった。

ソートマス王国側からダニエルさんとローベルトさん、アイロス王国側からカールハインツさんとトリステンさん。

「皆さん、お待たせしました」

「うむ、では話を始めよう、エルレイ男爵頼む」

ダニエルさんはそう言って俺に投げて来た、俺が司会するのか・・・まぁ話を持って行ったのは確かに俺だな。

「分かりました、今回アイロス王国軍側に降伏を申し入れ、それを受理して頂きました、ただ降伏の条件として兵士の安全をお願いしたいとの事です、ダニエルさんいかがでしょうか?」

ダニエルさんはしばし考えてから答えを出した。

「その条件は受け入れよう、但し武装解除と、今後こちらの指示に従ってもらう、それとこちらに危害を加えてきた場合は容赦しない、王族と貴族は除く、以上だ」

結構厳しい条件だが、俺も納得できる内容だな。

「カールハインツさん、いかがでしょうか?」

カールハインツさんは厳しい表情で考え込んでいる。

「・・・分かった受け入れよう、ただアイロス王はここでゴーレムを操り戦死した、これ以上無用な血を流させたくない、明日一日、王都に進軍するのを待っていただけないだろうか?」

「本当にここでアイロス王が戦死したのか?」

ダニエルさんはここに王がいたのか信じていない様だ、あのゴーレムに乗っていた?俺も直接見ていないし分からないな。

「カールハインツさん、本当にここにアイロス王がいたのでしょうか?」

「うむ、本当だ、あのゴーレムは王族のみ操作できる古代兵器だった、陛下は直接ここへきてゴーレムを操り、そこにいるエルレイに倒せれ亡くなった、その事は他の兵士に聞いて貰っても構わない」

カールハインツさんの表情を見ても嘘をついている様には見えなかった、それはダニエルさんもそう感じだ様だった。

「分かった、貴殿の言う事を信じ、明日一日ここで待つことにしよう」

ダニエルさんはそう言うと俺を見て来た。

「では、話は纏まりました、アイロス側は降伏を認め、武装解除して頂きます、ソートマス側は降伏してきた兵士の安全を確保し、明日一日この場に留まり、その後アイロス王都に攻め込むと言う事で、双方よろしいでしょうか?」

「「承知した」」

「無用な血が流れず大変喜ばしい事です、皆さん、ありがとうございました」

俺はそう言って一礼をした。

その後は大きな衝突も無く、一日猶予もあってか、王都への侵攻も一部の王族、貴族の抵抗はあったものの問題なく進み、王城を制覇する事が出来た。

後はアイロス王国の貴族の領地を制覇して行くだけだが、ほとんどの貴族は敗走し、ほぼ無抵抗のまま制覇出来た。

こうしてアイロス王国は滅亡し、ソートマス王国領となった。

この出来事により各国のバランスが崩れ、様々な思惑が飛び交い、複雑に絡み合って行く事となる・・・。

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