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公爵令嬢の婚約者  作者: よしの
第一話 アリクレット男爵家
7/27

第六話 王都観光

馬車に揺られる事一時間弱、ヴァルト兄さんの家へと辿り着いた。

ヴァルト兄さんの家は父上の家より二周りほど小さいが、新しく建てた家なのでとても綺麗だった。

馬車を降りて玄関へ向かうとイアンナ姉さんが駆けよって来た。

「あなたお帰りなさい」

「ただいま」

二人は熱い抱擁を交わしている、見ているこっちが恥ずかしくてたまらないが、心配していたイアンナ姉さんの気持ちを考えると邪魔は出来ない。

「イアンナ、エルレイ達が来ている・・・」

「あら、ごめんなさいね、エルレイ君いらっしゃい」

「イアンナ姉さんお久しぶりです」

イアンナ姉さんは安心した様で笑顔で迎えてくれた。

「とりあえず中に入ろう」

家の中に入り応接室へと通された、ソファーの俺の右にルリア左にリリーが座った。

対面にはヴァルト兄さんとイアンナ姉さんが座り、この家のメイドがお茶を並べて行く。

「イアンナ姉さん紹介するよ、この二人は私の許嫁でルリアとリリー」

「ルリア・ヴァン・ラノフェリアよ」

「リリー・ヴァン・ラノフェリアです」

「イアンナ・フォン・アリクレットよろしくね」

ルリアもリリーも優雅にお辞儀をした、ルリアが優雅にすると見慣れていないせいか違和感がある。

「二人も公爵令嬢を許嫁にするなんて、エルレイ君も隅に置けないわね」

「えぇまぁ何というか、私も何故このような事になったのか分からないのですが・・・」

「ところでエルレイ、話とは?」

このままでは話が進まないと思ったのか、ヴァルト兄さんが話題を変えて来た。

「はい、今から話す事は他言無用でお願いします」

「それほど重要なのか、分かった」

ヴァルト兄さんは、真剣な表情を浮かべた。

空間魔法の事を説明し、その危険性も伝えた。

「なるほどそうだったのか、俺は大丈夫だ、魔法には興味があるが仕事の方が忙しくて無理だな」

「私も大丈夫よ、魔法はとても習ってみたいわ、エルレイ君教えてくれる?」

「ええ、勿論です」

「ただ、残念なことにこの家を離れられないから、無理だわね」

「その点に関しては大丈夫です、先ほど言った転移魔法で私がここに来て教えてあげられますよ」

「本当、嬉しいわ~」

イアンナ姉さんは大変喜んでヴァルト兄さんを叩いていた。

「イアンナ良かったな」

「はい、あなた」

「それと、転移してくるのに人目に付かない場所があれば助かります」

「そうだな、イアンナ二階に空き部屋があったよな?」

「はい、空いております」

「エルレイそこを使ってくれ」

「分かりました、後は父上が近いうちに王都観光に行くように言っていましたので、日程が決まりましたらお知らせしますね」

「うむ、それも転移でいけるのか?」

「えぇ、ですので移動に時間はかかりません」

「エルレイ君凄いわ」

「あぁ、そうだな、砦でもエルレイがいなかったら無事では済まなかっただろうし、本当にすごい魔法使いに成ったものだ」

二人に褒められ照れてしまう・・・あまり二人の時間を邪魔したくないので早々に帰ろうと思う。

「話はこれで終わりです、特に何も無ければこれで失礼します」

「エルレイ君待って、昼食の準備しているから食べて行ってよ」

「そうですか、遠慮なく頂くことにします」

「ええ、じゃ食堂に行きましょう」

昼食を頂き、二階にある空き部屋から実家に戻って来た。

日数的には数日だったが、一か月以上離れていたような感じがした。

「ようやく帰って来たわね」

「数日だったのに久しぶりの様な気がします」

「俺もそう思うよ」

やはり皆もそう思っている様だ、それだけ慌ただしい日々だった。

「ひとまず父上に報告に行こう」

「ええそうね」

「はい」

二階の空き部屋から出て執務室へ向かおうとした所、アルティナ姉さんが部屋から出て来て抱き着いてきた。

「エルレイお帰りなさい」

「アルティナ姉さん、ただいま戻りました」

「無事でよかったわ」

アルティナ姉さんの体温を感じ、俺も無事帰って来たんだと思い心が穏やかな気持ちになった。

「アルティナ、今はアリクレット男爵に報告に行かないといけないから離れなさい」

ルリアは気に入らなかったのか、少し怒った感じで二人の間に入り引きはがした。

「ルリアはケチですね、少し位いいじゃない」

「駄目よ、エルレイ行くわよ」

ルリアは俺の腕を取り強引に引きずって行く。

「アルティナ姉さん後で話しますから」

結局執務室の前までルリアに引きずられた。

「エルレイです、ただいま戻りました」

「エルレイ入りなさい」

「失礼します」

部屋の中に入ると父上だけだった、父上は俺の顔を確認すると笑みを浮かべた。

「エルレイ良く戻って来た」

「はい、無事砦を守り、敵方の砦を奪取して参りました」

「うむ、よくやった」

「これで当分の間敵は攻めて来ないでしょう」

「そうなのか?」

「現在増援に来た王国軍第二軍団長ローベルト様率いる軍が、敵側男爵領の占拠を行っている所です。

少なくともヴァルト兄さんが納める砦は安全でしょう」

「そうか分かった、皆疲れているだろう、今日はもう休むといい」

「はい、そうさせて頂きます」

「うむ」

「では失礼します」


皆各自の部屋に戻り休憩する事となった、俺も自室に戻りベッドに寝転がる。

色々な事があったな、今までの事を思い返しているとドアがノックされた。

「どうぞ」

体を起こしてベッドに腰掛ける、部屋に入って来たのはリゼとロゼで、いつになく真剣な表情だった。

「「失礼します」」

「リゼ、ロゼどうかしたのか?」

「はい、今回の事でエルレイ様達を守れないことを実感致しました」

「そんなことは無い、俺はリゼとロゼの事を頼りにしているぞ」

「ありがとうございます、でも違うのです、私達はこれまで身体能力の強化のみで仕える主を守ってまいりました。

しかしそれではエルレイ様、ルリア様、リリー様をお守りできない事が分かったのです」

「護衛はメイドの仕事ではないのでは?」

「いえ、私達は元々王族に仕えるメイドです、正確に言えばリリアンヌ様に仕えておりました」

「えっ、リリーを助け出したのってリゼとロゼだったか」

ここ最近で一番驚いた、確かにリリーの話を聞いた時助け出したのがメイドとは聞いていたが・・・そうだったのか。

「はい、ですので護衛が一番の仕事になります」

「それでも、リゼとロゼは十分守れていると思う」

ロゼは納得できなかったのか首を横に振り言葉をつづけた。

「エルレイ様はいずれまた戦場に向かわれるでしょう、その時今のままでは駄目なのです、ですのでどうか私達に魔法を教えて下さい、お願い致します」

リゼとロゼは頭を下げて懇願してきた。

「リゼ、ロゼ頭を上げてくれ、元々二人には教えるつもりだった」

「はい、ありがとうございます」

「じゃぁ今から少しでもやってみるか、訓練場に行こう」

「はい、お願いします」

三人で訓練場へ向かうと、休んでいると思われたルリアとリリーが魔法の訓練をしていた。

戦争で暴れたりなかったからだろうか・・・。

「ルリア、リリー休んでいなくて大丈夫なのか?」

「ええ、ここの所魔力はあまり使っていなかったから疲れていないわ」

「エルレイさん大丈夫です」

「そうか」

「エルレイこそ何しに来たのよ」

「リゼとロゼに魔法を教えようと思ってね」

「ふーん、また後ろから抱きつくのかしら?」

ルリアがジト目でこちらを見て来た、まだ寝に持っているのか、ルリアに魔力を見るために抱きつかなくていい事はばれている。

「そんな事はもうしないよ・・・」

「本当かしら、まぁ私は教えてあげる事が出来ないから訓練を続けているわね」

「あぁ、頑張ってくれ」

「エルレイさん、私が手伝います」

リリーがそう言ってくれた、ルリアは他人の魔力が見れないから手伝えないが、リリーは魔力の補填も出来、魔法の教師としては最適だ。

「リリー助かる、一人お願いするよ」

「はい、分かりました」

そこでリゼとロゼが睨み合っていた、珍しい、いつも仲のいい二人なのに・・・やはりリリーに教えて貰いたいのか?

「リリー、どちらを教えるか選んでくれないか?」

「えっ、え~っと、じゃぁロゼ」

一瞬ロゼが勝ち誇ったように笑みを浮かべたがすぐに元の表情に戻った、リゼはと言うとこちらも笑みを浮かべていた、よくわからん・・・。

「リゼ、俺が教えるが構わないか?何だったらリリーに交互に教えて貰ってもいいが」

「いえ、エルレイ様お願いします、私の希望としましては風魔法をぜひ!!」

やはり空を飛びたいよな、分かるぞリゼ。

「分かったが、相性があって使えるかどうか分からないぞ」

「そうなのですね、エルレイ様は色々お使いの様に見えますが」

「俺には得意な属性は無いが今の所すべての属性が使える、ルリアは火と風、リリーは水と回復が得意で、それ以外は使えない」

最近教えてもらったのだが、障壁や念話は無属性で魔法使いなら誰でも使えるとの事。

「なんか、ずるいですね」

「ルリアにも言われたよ」

「皆ベンチに座ってやろう、魔力切れで倒れては大変だ」

「そうですね、でもそれだとエルレイさんが抱きつく理由が無くなりますよ?」

リリーまでもか・・・。

「いや、もう抱きつかないから・・・」

「私は別に抱きつかれても構いませんよ」

リゼはにやにや笑ってそう答えて来た。

「あれはルリアに魔法を教える前に殴られていたから、報復の為にやった事なんだよ」

「そうだったのですね、私はてっきり女性に抱きつくのが好きなものとばかり思っておりました」

リリーにそう思われていたのはショックだった、抱きつくのが好きか嫌いかと問われれば好きだと答えるが、相手は選ぶぞ・・・。

「そんなことは無いが、リリーに抱きつくのは大好きだ」

「エルレイ様・・・」

リリーは顔を真っ赤にして俯いてしまった、やっぱり可愛い、今すぐにでも抱き付きたいが、ロゼがジト目で睨んできたので自重する。

「さぁ、訓練を始めようか」

「はい」

リゼはやる気満々だ、リゼの魔力を補填して本人の希望により風の初級魔法を唱えさせたが失敗、リゼはがっくりと肩を落とした、火を使わせたところ成功して魔力切れで倒れた。

ロゼは風の魔法に成功し、こちらも魔力切れで倒れた、ベンチに座っていたから体を支えてる事で怪我は無かった。

その後リゼとロゼの回復を待った後、俺とリリーは魔法の訓練をした。

夕食前の湯浴みの為に屋敷に戻り、リゼは当然といった感じで俺の湯浴みに付いて来て裸に剥かれて体を洗われた。

その日の夕食後、ヴァイスさんから念話が入る。

『エルレイ様、夜分に失礼します』

『ヴァイスさんご用件は何でしょう?』

『はい、公爵様よりご伝言です、この度のエルレイ様のご活躍、公爵様は大層お喜びで、そのご褒美として一週間後、王都観光の案内するのでこちらへ来て頂きたいとの事です』

『分かりました、家族全員を連れて行きたいのですがよろしいでしょうか?』

『もちろん構いません、滞在費もこちらで負担させていただきます』

『ありがとうございます、公爵様にお気遣い感謝いたしますとお伝えください』

『畏まりました、では失礼します』

ヴァイスさんからの念話は途絶えた、王都観光に行こうと思ってたから丁度良かった、しかも滞在費も公爵様持ちだ。

今日は遅いから明日皆に伝えよう。

次の朝の朝食時、王都観光の事を告げると皆大喜びだった、午前中は以前と同じように剣の訓練をし、午後魔法の訓練を行う事になった。

新しく魔法の訓練をするのはアルティナ姉さん、セシル姉さん、イアンナ姉さんの3人、父上と母は辞退し、マデラン兄さんはやりたそうにしていたが父上に連れていかれた。

イアンナ姉さんは俺が迎えに行って皆と一緒に訓練する事となった。

その日の結果は全員魔法を使う事が出来、後は毎日続けて行って魔力が増えるかの問題だけとなった。

こうして一週間はあっという間に過ぎ、王都観光の日を迎えた。

アリクレット男爵家全員が二階の空き部屋に集まっている、ヴァルト兄さん、イアンナ姉さんももちろん連れてきた。

総勢十二名、魔力はそれなりに使うだろう、しかし空間転移は毎日イアンナ姉さんの送迎で使っていて慣れてきたので大丈夫。

「皆さん、転移致しますのでそれぞれ手を繋いでください」

「こんな人数一度に大丈夫なの?」

ルリアが手を繋ぎながら疑問を投げかけてきた。

「毎日使って慣れてきたから大丈夫だよ」

「そう、でもお父様に言ってた時四,五人って言ってなかったかしら?」

「あの時は慣れて無くて自信が無かったんだ」

「ふーん」

ルリアが疑いの眼差しで見つめて来る、嘘を付いていた事がばれているようだが構わないか。

「エルレイ、皆繋ぎ終わったぞ」

「分かりました、では転移致しますので手を離さない様お願いします」

ラノフェリア邸の部屋をイメージして魔法を発動させた。

無事ラノフェリア邸の薄暗い部屋に転移した。

「皆さん、いらっしゃいますね」

回りを見渡し全員いる事を確認する。

「エルレイ、全員いるのを確認できた」

「はい、分かりました」

「ここはどこなのだ?」

皆薄暗い部屋を見て少し驚いている様だった。

「ここはラノフェリア邸になります、部屋に鍵が掛かっておりますので、しばらくお待ちください」

ベルを取り鳴らす、暫くして鍵が回る音が聞こえて扉が開いた。

「皆さんお待たせ致しました」

ヴァイスさんは一礼し出迎えてくれた。

「ヴァイスさん、ありがとうございます」

「では皆様、応接室にご案内いたします」

応接室に向かう途中父上と母は堂々としていたが、他の皆はキョロキョロと豪華な廊下を見まわしていた。

応接室に入りソファーへと案内された、どうやら座る場所も決まっているようだ。

右から父上、俺、ルリア、リリーの順で座り、他は後ろのソファーに座っている。

立場的に父が真ん中では無いのかと思ったがよくわからないな。

そんなことを考えているとラノフェリア公爵様が部屋に入ってきて、立ち上がり挨拶をする。

「ラノフェリア公爵様、この度のお誘いありがとうございました」

「エルレイ君来てくれて嬉しいよ、掛けたまえ」

「はい、失礼します」

「アリクレット男爵も久しぶり」

「はっ、この度私達まで招待していただき誠にありがとうございます」

「貴殿にはこれから苦労を掛ける事もあるだろう、ゆっくりと楽しんでいってくれ」

「はっ」

父上がここまで遜る態度を見たのは初めてだな、相手は公爵様だから当然なんだろうけど。

「午後から王都に案内する予定だ、午前中は屋敷内を見て回るといい」

「はい、ありがとうございます」

「では、私は準備があるので失礼するよ」

言う事だけ言ってラノフェリア公爵様は去って行った。

「皆様、こちらのメイド達が屋敷をご案内いたしますので、いつでもお声をお掛けください」

ヴァイスさんは一礼して部屋を出て行った。

早速他の皆はメイドに声をかけて屋敷内に消えて行った。

「エルレイはどうするの?」

「特にやる事は無いな」

「それなら私に付き合いなさい」

「私も付いて行きます」

ルリアとリリーにリゼとロゼで向かった先は訓練場であった、休暇に来たはずが午前中魔法の訓練をして過ごした。


豪華な昼食後、玄関を出ると十台の豪華な馬車が並んでいた、これに乗って王都まで半日ほどかかるらしい。

馬車の中はふかふかの座席が向かい合うようになっていて、対面の真ん中にラノフェリア公爵様、右にアベルティア様、左にネレイト様が座り、俺の右にルリア左にリリーと言う組み合わせだった、どうして公爵様と同じ馬車なんだろう・・・。

非常に居心地が悪い、正面から笑顔によるプレッシャーが半端ない。

「エルレイ、今回砦の防衛戦で大活躍だったそうじゃないか」

ネレイト様が興奮したようにそう問いかけてきた。

「いえ、私は大したことはしておりません、すべては国境警備隊の活躍によるところでございます」

「そうなのか?城壁を作ったり落とし穴を作ったりして、敵を嵌めたと聞いたぞ」

うーむ、どう言いくるめば俺が活躍してない様に出来ない物か・・・。

「確かにそれらの物は私が作りました、しかし最終的に敵を殲滅したのは国境警備隊なのです」

「エルレイ、無駄なあがきは止めなさい」

ルリアが呆れたようにそう言ってきた。

「むぅ・・・」

「エルレイの言う通り国境警備隊の活躍によるものだとしよう、しかし解せない事がある」

「解せない事とは?」

ネレイト様は珍しく真面目な顔をされて問い詰めてきた。

「エルレイの魔法は見せて貰った、城壁や落とし穴を使わずとも、エルレイ一人で敵を殲滅できたのではないのか?」

「それは私も疑問に思う」

ラノフェリア公爵様も今回の結果に納得いっていないのだろうか・・・ここは真面目に答えるべきだろう。

「確かに私・・・いや、ルリアお嬢様お一人でも敵を殲滅する事は可能でしたでしょう、しかしあえてその選択は選びませんでしたし、今後もしないつもりです」

「何故だ、その方が我が王国の被害も少なく済むし、エルレイの地位も上がるはずだ」

ネレイト様は少し怒った様子だ。

「私は地位や名誉と言ったものに興味が無いのです、私の興味は魔法のみ。

確かにネレイト様が言ったように私一人で敵を殲滅すれば被害も少なくて済む。

その気になれば、私とルリアお嬢様とリリーお嬢様の三人でアイロス王国を滅ぼす事も可能でしょう。

しかしそれを行ってしまえばこの王国は滅ぶのです」

「何故滅ぶのだ?」

ネレイト様はこちらをにらみ疑問を投げかけて来る。

「確かにエルレイ君の言う通りになるだろう」

ラノフェリア公爵様は流石お解りになったようだ。

「父上どうしてその様な事に・・・」

「エルレイ君、すまないが息子に説明してやってくれないだろうか?」

「分かりました、ネレイト様の言う通り、今回私が魔法で敵を全滅させたとしましょう。

一人で六千人もの敵を排除出来る戦力を王様が知る事となり、次に私にアイロス王国を滅ぼすよう命じる筈です。

アイロス王国を滅ぼした後、また次の国次の国と滅ぼして行き大陸を制覇します。

ネレイト様大陸を制覇した私は次に何をするのでしょうか?」

ネレイト様は暫く考え答えを出した。

「・・・王となるか」

「その通りです、この王国の王様や貴族を排除し王となる、当然ですね、私が制覇したのに王様に奪われてはたまりません。

しかし、先程も申した通り私はそんな物には興味がございません」

「そうか、分かったありがとう、しかしエルレイは本当に十歳なのか?私は今でもそこまで思慮深く考えを巡らせる事は出来ないぞ」

うっ、確かに十歳の考えじゃないな・・・どうしよう、そう考えているとルリアが助けてくれた?

「ネレイト兄様、エルレイはこう見えて魔法以外の事は結構抜けているのよ」

「そうなのか、とてもしっかりしている様だが」

「そうですね、ルリアお嬢様が言うう通り魔法以外の事は私は抜けている様です、よく周りの皆から注意されます。

実際魔法の事ばかり考えていますからね」

「そうか、魔法で思い出したが、無詠唱の事詳しく教えて貰えないだろうか?」

「私も興味がある、エルレイ君教えて貰えないか?」

ネレイト様だけなら煙に巻けたが、ラノフェリア公爵様は無理だな仕方ない説明するか・・・。

「分かりました、そうですね、例えばエルレイ・フォン・アリクレット、これを呪文として唱えるともう一人私が出来る魔法があるとしましょう。

エルレイ・フォン・アリクレット、何度唱えても同じ私が出来るわけです、この魔法を無詠唱にします。

先ず最初にしないといけない事は正確に私に姿形をイメージしなければなりません。

イメージが出来たら今度は魔力を使って私を実際に作って行く訳です。

今まで呪文を唱えれば出来ていた事が非常に難しい作業となります。

しかしそれが出来る様になると、今度は魔法で出来た私の表情を変えたり、手を動かしたり、座らせたり色々な事が出来る様になります。

無詠唱とは単に呪文を唱えないだけでは無く、呪文と言う枠に捕らわれない事が可能となるわけです」

「なるほど解った、それでルリアが十個同時に魔法を展開したりできるわけだ」

「はい、魔力が続く限り自分でイメージした現象を引き起こす事が可能となります」

「エルレイ君一つ疑問がある、君は魔法書を必要としている、イメージ通りの現象を起こせるなら魔法書は必要ないはずだ」

ラノフェリア公爵様流石だ、俺の弱点に気が付いたか・・・。

「ラノフェリア公爵様のおっしゃる通りです、イメージ通り魔法を変えたり複数の属性を混ぜて使ったりは出来るのですが、私には新しい魔法を作る事が出来ないのです。

ですので魔法書を読まない事にはその魔法を使う事が出来ません」

「それはいい事を聞いた、エルレイ君を動かしたければ魔法書を用意すればいい訳だ」

ラノフェリア公爵様はにやりと笑った、本当は教えたくなかったが、これで新しい魔法書が手に入るのであれば構わないだろう。

「はい、その通りです」

やられてばかりでは癪だから少し反撃するか。

「ラノフェリア公爵様、一つ質問がございます」

「なにかね?」

「今回の援軍に正規軍が派遣されておりました、てっきりラノフェリア公爵様の私兵か配下の貴族様の私兵が来ると思っていたのですが、他にお考えがあるのでしょうか?」

ラノフェリア公爵様の表情が一瞬こわばった、やはり先の事を考えての正規軍だったのか?

「ふむ、エルレイ君はどう思う?」

よく考えてみよう・・・。

「そうですね・・・今回こちらの砦が落とされる事を前提としての正規軍だった、援軍が遅れたのは私の実力を試すためだった。

そして私に砦の奪取を命じたのはルリアお嬢様の為、今回奪取した男爵領をアイロス王国に攻める軍事拠点とする、合っておりますでしょうか?」

「わははははは」

突然ラノフェリア公爵様は大笑いした。

「いや済まない、ネレイトどう思う?」

「父上に話を聞いた時は十歳の子供にそんな事分かるはずが無い、と思っておりましたが驚きです」

ネレイト様すみません、中身は十歳ではありません・・・。

「そうだろう、私も驚いている、エルレイ君すまなかった」

ラノフェリア公爵様は頭を下げた、公爵様が男爵家三男に頭を下げるとかあってはならないはずだ。

「頭をお上げください」

ラノフェリア公爵様はゆっくりと頭を上げ真剣な表情で話してきた。

「エルレイ君の言った通りだ、私は君を試しルリアの為に君に功績を稼がせた、そしてアイロス王国を攻める為一、二年で軍事拠点を作るつもりだ、そして、その時君の力を貸してくれ頼む」

「分かりました、しかし私が前面に出るような事は致しません、軍の補助と言う形でお願いします」

「うむ、わかっている」

「それと今後、私の家族を危険に晒すような事は控えてください、私は家族を大切に思っております、故に家族に敵対する者に対して容赦いたしません、勿論ルリアお嬢様と結婚した暁にはラノフェリア公爵家を家族として守っていく事をお約束致します」

これだけ脅しておけば大丈夫、婚約も破棄されないだろう。

「約束しよう」

「ありがとうございます」

こうして疲れる会話を交わしているうちに馬車は王都へ着き、城門をフリーパスで通過して王城近くのラノフェリア公爵家別邸へと辿り着いた。

「今日はここに泊まって、明日王都案内をしよう」

ラノフェリア公爵様は馬車を降り屋敷の玄関へと向かう、そこには使用人が並んで立っており。

「「「公爵様お帰りなさいませ」」」

一斉に使用人がお辞儀をして迎え入れている、初めて見たがこういうのって本当にあるんだなと感心した。

家族全員それに続き屋敷内部に入ると、メイドに案内され別々の客間に案内された。

「御用の際はベルをお使いください」

メイドは一礼して部屋を出て行った。

別宅は王都と言う事もあり家の大きさはそこまで無かったが中は豪華だ、やはり落ち着かない。

先程の会話で疲れていたのでベッドに倒れこんだ、凄く柔らかくいい匂いがする・・・そのまま夕食時にメイドに起こされるまで寝てしまった。

豪華な夕食後湯浴みをしそのまま就寝した。


翌朝朝食時にヴァイスさんから王都観光の内容が伝えられていた、買い物や観光など好きな所に案内してくれる様子だ。

俺も何処に行こうか考えている時に、ラノフェリア公爵様から声が掛かった。

「エルレイ君は私と共に王城見学です」

なにそれ、王城って見学できるものなのか?公爵様と一緒なら可能なのか、しかしなぜ俺だけ?

「私だけなのでしょうか?」

「うむ、残念だが王城には大勢連れて行けなくてな」

「でしたら私では無く父上でも・・・」

「エルレイ、私では意味が無いのだよ」

「エルレイ、昨日何を話していたのか覚えていないの?」

父は意味が無いといい、ルリアは昨日の話・・・功績を上げたから王様より褒美に魔法書でも貰えるのか、それをネタに俺にまた何かをやらされる?

「褒美に魔法書を貰えるんだろうか?」

「そうじゃないわよ、魔法から離れなさい」

ルリアはあきれ顔だ・・・。

「エルレイ君、着いて来てくれれば分かるよ」

「はい」

朝食の後、ラノフェリア公爵様と馬車に乗り込み王城の門を素通りし城の前へと付いた。

流石に目の前で見る城は大きかった、ラノフェリア公爵邸は横に広かったが、王城は縦も横も大きく白を基調とした美しい城だった。

見惚れているとラノフェリア公爵様に催促されて中に入った、エントランスは吹き抜けになっている様でとても広く感じる。

特に立ち止まる事無く前を歩くラノフェリア公爵様の後を付いて行き一つの部屋へと入った。

「エルレイ君、ここで暫く待っていてくれ」

そう言うとラノフェリア公爵様は部屋を出て行き一人残された・・・。

その部屋も贅が尽くされおり、鎧とか絵などが飾られていてそれを見て回ったが価値など分かるはずも無く、やる事も無くなりソファーに座って一時間ほど待たされた。

やっとラノフェリア公爵様が迎えに来てくれてから部屋を出て、一際大きな両開きのドアの前へと着いた。

ドアの両側には騎士が立っており、暫くするとドアが中から開いた。

ラノフェリア公爵の後に続いて中に入ると広いフロアーとなっていて、一段高い場所に豪華な椅子があり、そこに王冠を付けた王様が座っていた。

いわゆる謁見の間と言う奴だろう、左右の壁際には近衛騎士と貴族らしき人達がいる、男爵家三男が来るところじゃないよね・・・。

ラノフェリア公爵様が立ち止まり膝をつき頭を垂れた、俺も慌てて同じように膝をつき首を垂れる。

「面を上げよ」

ゆっくりと顔を上げる、王様は四十、五十歳ほどに見え優しそうな顔つきだ。

「ロイジェルク久しいの、元気にしておったか?」

「はい、陛下もご健勝な様子で安心致しました」

「して、その子供が例の魔法使いか?」

「はい、エルレイ」

ラノフェリア公爵様がこちらに目配せしてきた、挨拶すればいいのかな?

「エルレイ・フォン・アリクレットと申します」

ドキドキだ、失礼な事したらヤバいよな・・・。

「うむ、なかなかしっかりとした子の様だ、無詠唱で魔法を使い、アイロス王国軍を退けたと聞いたぞ」

無詠唱の部分で周りにいる人達がざわめいた。

「はっ」

何て答えればいいのか分からないんだが・・・はっ、って言ったけど子供らしく、はい、が良かったのかな?

「うむ、無詠唱とは今まで聞いたことが無い、どの様な物か説明できるのであろうか?」

「陛下、無詠唱とは言葉にて説明するのは難しいとの事、子供ですので平にご容赦を」

俺に代わってラノフェリア公爵様が答えてくれた、ありがたい、多分他の人にどんな事が出来るのか知られたくないのだろう。

「そうか、それは致し方ないな、今回アイロス王国軍を退けた事、大儀であった」

「はっ」

「ゼルギウス・フェリクス・ド・ソートマスの名において、エルレイ・フォン・アリクレットに男爵位を授ける事とする」

「謹んでお受け致します、今後一層、王国の為に誠心誠意尽くす事をお約束致します」

「うむ」

今のでよかったんだろうか?こういう時の受け答えとか父上から教えて貰って無いぞ。

しかし男爵位なんていらないんだけどな・・・。

ラノフェリア公爵様を見てみると満面の笑みを浮かべていた、対応に問題は無かったんだろうけど、この結果には納得してない・・・。

「本来であれば、今回奪取した領地をエルレイ男爵に授ける事となるのだが、ロイジェルクよ、貴殿が成人するまで面倒見てやってはくれぬか?」

「はい、彼が成人するまでしっかりと管理致します」

しかも領地まで貰ったが全くこれっぽっちも嬉しくない・・・領地より魔法書下さい。

「では、下がってよいぞ」

「はっ、失礼します」

ラノフェリア公爵様の後をついて謁見の間を後にする、時間的には短かったが何時間もいたように疲れ果てた。

「エルレイ君、見事な受け答えだったよ」

ラノフェリア公爵様はにこにこだ。

「緊張して何を話していたか覚えていませんよ、それにしても男爵になるとは聞いていませんでしたよ」

「まぁ、驚いてもらおうと黙っていたからね、しかし君なら気が付くと思ったんだが、ルリアの言う通り魔法以外では抜けているんだろうね」

「そうですね・・・」

何も言い返せなかった。

「でもこれは必要な事だった訳だ、勿論男爵ではなく、伯爵まで上り詰めて貰うよ」

「えっ・・・」

「君はルリアとリリーの婚約者だ、当然身分の差がある、結婚までに伯爵になって貰わなければ困る、勿論その準備は昨日話した通りだ」

あぁ、ルリアと婚約した時点でアイロス王国を攻める事が決まっていたのか・・・ラノフェリア公爵様恐るべし。

「分かりました、ルリアお嬢様もリリーお嬢様も私にとって非常に大切です、ラノフェリア公爵様の期待に全力でお答えします」

「うむ」

ラノフェリア公爵様はいい笑顔だ、昨日こちらがやった分を見事に取り返されてしまった、くそー。

その後、ラノフェリア公爵様の後を付いて歩き、王城を出て馬車に乗り別邸まで戻ってきた。

当然別邸には誰も残っておらず、一人で観光に行っても楽しくないので部屋でごろごろして過ごした。

夕食時、ラノフェリア公爵様より今日の事が報告された。

「本日、エルレイ君は陛下より男爵位を授けられ領地を与えられた、領地は今回奪取した場所で、管理は彼が成人するまで私が責任をもって行うことを約束する」

パチパチパチ、皆から拍手が起こり祝辞を述べられた。

「「エルレイ、おめでとう」」

「皆さん、ありがとうございます」

めちゃくちゃ恥ずかしい、自分の手柄で男爵になったわけではない、すべてラノフェリア公爵様のお膳立てがあっての事だ。

王都観光に呼ばれるまで一週間の時間があった、たぶんその間に色々手を尽くしてくれたのだろう。

「エルレイ、これからは貴族としてしっかり役目を果たして行くのだぞ!」

「はい、父上」

父上は厳しい事を言ってきたが、表情は穏やかだで喜んでくれている様だ、それを見て、男爵になったのも悪くは無かったと思えた。

「エルレイも貴族の仲間入りね、でもまだ私達と釣り合ってないわよ」

「地位には興味ないんだが、ルリアとリリーのため頑張るよ」

「期待してるわよ、もちろん私も手伝うわよ」

「エルレイさん私もお手伝いします」

「ルリア、リリーありがとう」

ルリアとリリーに手伝うと言われては頑張るしかないよな。

食事を終え食堂を出ると、待ち構えていたようにアルティナ姉さんが抱き付いてきた。

「エルレイおめでとう、流石私の可愛い弟だわ」

「アルティナ姉さんありがとう」

アルティナ姉さんに声を掛けられの体温を感じると、心が落ち着き王城での疲れが癒されていく。

「でも、エルレイが遠くに行ってしまうようで、なんだか寂しいわ」

「そんな事は無いよ、まだしばらく家にいるし」

「そうよね、それに、何時でも飛んで会いに行けるようになるからね」

アルティナ姉さんは風と回復を使えるようになっていた、まだ魔力が少なくて初級しか使えないが、魔力次第で上級が使えるようになるだろう。

「アルティナ姉さん、あまり無理はしないでくださいね」

「エルレイの為ならどんな事でもできるわよ」

「いつまで抱き付いてるのよ」

ルリアが怒った表情で二人の間に入り引き剥がした。

「放って置いたらずっと抱き付いてるんじゃないかしら、この姉弟は」

「それはずっとに決まってるわよ」

アルティナ姉さんとルリアは睨み合ったまま牽制しあってる。

「二人とも喧嘩しないで下さい」

「ふんっ!」

ルリアは怒って去って行ってしまった。

「アルティナ姉さん、ルリアと仲良くして頂きたいのですが・・・」

「エルレイ、それは出来ないのよ、引く事が出来ない女の戦いなのよ」

仲良くして貰いたいが無理なようだ、残念・・・。


翌朝の朝食時、皆何処に観光に行くか相談しあっている時、ラノフェリア公爵様から声が掛かる。

「エルレイ君、申し訳ないが、今日も私と一緒に王城に行ってもらう」

えええええええ、昨日爵位貰ったからもう用事ないよね・・・。

「エルレイ君の魔法が見てみたいそうで、どうしても断れなかったんだ」

「分かりました」

俺はがくりと肩を落とした、魔法を見たいと言われればそれは断れないな。

昨日と同じようにラノフェリア公爵と共に馬車に乗って王城へ向かう、頭の中では仔牛が売られていく音楽が流れていた・・・。

「エルレイ君、今日見せる魔法は普通の魔法にしてくれ」

「分かりました、中級上級辺りの魔法でよろしいでしょうか?」

「うむ、派手に頼むよ」

「はい」

王城へ馬車は辿り着き、ラノフェリア公爵様の後を歩くこと数分、王城の庭にある訓練場へ着いた。

そこには既に、貴族らしき人々が観客席みたいなところに座っていて、暫くすると、一際豪華な席に王族と思われる人たちが席に着いた。

貴族席の辺りから、一人のローブを着た六十歳ほどの髭を生やした男性が近づいてきた。

「初めまして、私は筆頭宮廷魔導士のコンラートと申します」

「エルレイ・フォン・アリクレットです」

「エルレイ男爵、今回無理を言って申し訳ありません、ですがどうしても無詠唱に興味があり、見てみたかったのです」

「はい、私も魔法が好きですので、お気持ちはわかります」

「ありがとうございます、では早速ですがお願いします」

「分かりました」

さて、城壁を作った事はばれてるからストーンウォールでごまかすか、後は全属性使えばいいかな。

飛行魔法で一メートルほど浮かび上がり、ストーンウォールを出してそれを凍らせる、最後にエクスプロージョンで爆発させ地上に降りた。

「「「おおおおおお」」」

「確かに詠唱しておりませんでした、お見事です、しかも全属性を使いこなすとは・・・」

コンラートさんはとても驚いた様子でこちらを見ていた。

「エルレイ、見事であった」

陛下からお声が掛かり、慌てて膝をつき頭を下げた。

「ありがたきお言葉」

「コンラート、満足したか?」

「はい、陛下、大変素晴らしい物を見せていただきました」

「うむ」

陛下はそう言うと席を立ち去って行かれた、後に続くよう皆もこの場から去って行った。

ラノフェリア公爵様は笑みを浮かべてこちらに近づいてきた。

「エルレイ君、見事だったよ、これで君の活躍に異を唱える者はいなくなった訳だ」

なるほど、俺を男爵にするのも相当苦労したわけだ。

「ラノフェリア公爵様には大きな貸が出来たみたいですね・・・」

「そんな事は無い、全てルリアのためにやった事だ、気にする事は無いよ」

「たとえそうだとしても、ラノフェリア公爵様には大変感謝しております」

「そうか、では、もうしばらく付き合ってもらおう」

今のは失言だったか・・・ラノフェリア公爵様はいい笑顔だ。

ラノフェリア公爵様の後を歩いて王城の中をさまよう事数分、また部屋に閉じ込められた。

「ここで暫く寛いでいてくれ」

ラノフェリア公爵様はベルを鳴らし、メイドに話しかけてから部屋を出て行った。

仕方なくソファーに座るとお茶とお茶菓子がメイドさんの手によって用意され、定位置にメイドさんは戻って行った。

メイドさん、暇だから話し相手になってくれると助かるんだが・・・。

取り合えずお茶を楽しむことにする、このお菓子、クッキーみたいだが柔らかくてとても美味しい。

お茶にもよく合う、このお茶ラノフェリア公爵家で飲んだ奴に似ているな。

パクパクとお茶菓子を楽しんでいると、ラノフェリア公爵様が、女の子とメイドを引き連れて部屋に入って来た。

「おや、エルレイ君はそう言うのが好みだったか」

ラノフェリア公爵様がにっこりと笑いながら問いかけて来た、お菓子を食べていたから子供に見られたのだろうか、実際子供なんだが・・・。

「そういう訳では無いですが、このお菓子は美味しいですね、所で後ろのお嬢様はどちら様でしょうか?」

「紹介するよ、こちらはヘルミーネ王女だ、エルレイ君、話し相手になって貰えないかな?」

ええええ、王女の話し相手とか難易度高すぎるんですけど・・・でも先程の件があるから、どのみち断れないんだけどね。

「はい、ヘルミーネ王女様、私はエルレイと申します、どうぞよろしくお願いします」

栗色の髪にクリッと丸く大きな目が特徴の可愛らしい女の子だ。

王女様は反応しない、大人しい性格なのだろうか?じっとラノフェリア公爵様の後ろに大人しく控えてる。

「エルレイ君、後は任せる、帰りは玄関で私の名前を出してもらえれば馬車を回して貰えるよう手配しておく」

ラノフェリア公爵様はそう言うと、王女様を残して部屋を出て行ってしまった、どうすればいいんだよ、これ・・・。

「やっと出て行ったな、エルレイ、いや、長いからエルでいいな、先程の魔法は見せて貰った、私にも魔法を教えてくれ」

先程の態度とは打って変わって横柄な態度だ、王女様だからそうなのだろうけど・・・。

「ヘルミーネ王女様は魔法が使えるのでしょうか?」

「私の事は呼び捨てで構わんぞ」

「そういう訳には・・・」

「エル、私が良いと言っているのだ!」

王女様はお怒りだ、仕方がない。

「ではヘルミーネ様、と呼ばせていただきます」

「・・・まぁよい、して魔法であったな、当然使えるぞ、見ておれ」

王女様はそう言うといきなり呪文を唱えだした、ウォーターボールだったから何もしないで唱えさせたが、危険すぎるだろ・・・。

テーブルの上に水球が落ち水浸しとなった、慌ててお連れのメイドがテーブルを拭く。

「どうだ、凄いだろう」

王女様は満面の笑みで言い放った、注意していい物か迷うな、不敬で罰されるかもしれないしな。

「ヘルミーネ様、城内で魔法を使ってはいけませんと、何度言えばお解りになるのでしょう」

メイドが注意している、いつもの事なんだ、メイド大変だな・・・こんな王女様の面倒見るとか絶対やりたくない。

「水だし、問題ないだろ」

「大ありです」

「ラウラはいつもうるさい」

ラウラさんと言うのか、可哀そうだし少し手助けしてやるか。

「ヘルミーネ様、よろしいですか?」

「エル、貴様まで私を注意するのか?」

ヘルミーネ様がこちらを睨みつけて来た。

「そうではありません、少しラウラさんの言いたい事を考えて見てはいかがでしょう?」

「む?何を考えるというのだ」

「そうですね、例えば、ここで私が剣を抜いたとしましょう、ヘルミーネ様はどう思われますか?」

「城内で剣を抜くなど許されない事だ」

「そうですね、魔法も同じなのです、たとえ危害を与えるつもりが無くても、呪文を唱えた時点で剣を抜いた事と同じなのです」

「むっ、しかしそれは・・・」

ヘルミーネ様は理解されたのか、少し考えている様だった、もう一押しか。

「魔法はとても便利ですが、それと同時にとても危険な物なのです、私がここでヘルミーネ様と同じ様にウォーターボールの呪文を唱えたとしたら、ラウラさんは呪文が完成する前に私を倒すでしょう、ラウラさん違いますか?」

ラウラさんはこちらの意図に気付いた様で、問いかけに答えてくれた。

「エルレイ様の言うう通りでございます」

「ヘルミーネ様、ご理解いただけましたか?」

「うむ・・・分かった、今後城内で魔法を使わない様にする」

「ありがとうございます」

ヘルミーネ様、頭はいい様だ、王女と言う事で自由にさせられているだけなのだろう。

「エル、貴様歳はいくつなのだ?私と同じ子供なのにどうして魔法がうまいのだ?」

「ヘルミーネ様、私は十歳でございます、魔法は六歳の頃より毎日欠かさず練習してきた成果ですね」

「私が八歳だから、これから毎日練習すればエルの様になれるのか?」

うーむ、この我儘な王女が魔法を極めたらとても恐ろしい事に成りそうだな・・・。

「そうですね、向き不向きがございますから、確実にとは言えません、しかし努力した分は上手くなれるかと思います」

「そうかそうか、これから毎日練習する事にしよう」

なんか焚きつけた感じだが、まぁいいか、俺が相手するわけでは無いしな、ラウラさん頑張れ。

「では、さっそく練習にこう、エル付いてまいれ」

まじかー正直帰りたい、王女様の子守りとか精神的に疲れる・・・。

「ヘルミーネ様、そろそろ昼食のお時間です」

おっ、これは回避できそうな感じ。

「むっ、そうか、では昼食後に練習だな、エル、一緒に参れ」

「えっ?」

「貴様と一緒に昼食を食べると言っている」

「えーっと、ラウラさん?」

出来れば遠慮したいので、ラウラさんに助けを求めた。

「エルレイ様もご一緒にどうぞ」

ガーン、ラウラさんは助けてくれなかった・・・。

「はい、ご一緒させていただきます」

「うむ」

ヘルミーネ様の後を付いて行く事数分、大きな食堂へ着いた。

そこにはとても長いテーブルがあり、王様、王妃様と、明らかに王族と思われる方々が座ってるんですけど・・・。

えっ、俺もそこに座るのマジで?、ヘルミーネ様の隣に給仕が案内してくれて椅子を引いてくれた。

椅子を引いてもらったのは嬉しいが座りたくない、誰か助けて・・・。

当然誰も助けてはくれないので、大人しく座った。

「エルレイ、ヘルミーネと仲良くなったようだな」

「はい」

昨日から酷い罰ゲームを受けている様だ。

「お父様、エルは十歳と思えない位利口だった、この後魔法を教えて貰える」

「そうか、それはよかったな」

「えへへ」

王様はにこやかな表情で答えている、しかし王様の年を考えるとヘルミーネ様と随分年が離れているな。

ヘルミーネ様は妾の子なんだろうな、しかしヘルミーネ様の態度は、やはり王様の前だからか幾分柔らかい。

「エルレイ、少し元気が良すぎる娘だが、よろしく頼む」

「はい」

少しじゃないです王様・・・、昨日の謁見の間以上に緊張して食べ物の味も分からない。

受け答えも、はい、しか言えないよ。

周りの王族方からも視線を感じるし、男爵家三男、いや、今は男爵だが、座っていい場所ではないはずだ・・・。

地獄の様な昼食を終え、ヘルミーネ様と訓練場へと来た、そこには宮廷魔法使いの人達だろうか?魔法使いが訓練していた。

ヘルミーネ様は一人の魔法使いの方へ歩いて行った、それは今朝挨拶されたコンラートさんだった。

「コンラート、魔法の練習するから場所を借りるぞ」

「これはヘルミーネ様、どうぞお使いください」

「うむ、エル、こっちにこい」

ヘルミーネ様の元へ行き挨拶をする。

「コンラートさんお邪魔します」

「エルレイ男爵はヘルミーネ様のお供で?」

「はい、少し魔法の練習を・・・」

「そうでございましたか、私はあちらにおりますので、何かございましたらお呼びください」

コンラートさんは苦笑いしながら逃げる様に去って行った、分かるぞ、ヘルミーネ様の相手はやりたくないよな・・・。

「エル、ではまず何をすればいい?」

「そうですね、ヘルミーネ様はどの属性が得意でしょうか?」

「うむ、地だが、水の方が好きだ」

ヘルミーネ様、風が使えなくてよかったですね、飛び回れたら誰も制御できなかったでしょう。

「得意なのは地なのにですか?」

「地の魔法は地味で好かん」

「地味でございますか、今回私が男爵位を頂いたきっかけの話はお聞きになりましたでしょうか?」

「うむ聞いたぞ、城壁を作り落とし穴で敵を翻弄したそうだな」

「その通りでございます、そしてそれは地の魔法を用いたものです、これでも地味でしょうか?」

「むっ、確かに地味では無いな」

「地の魔法は確かに見た目は水の魔法に比べるととても地味ですが、強さで言えば水を超える物があると思います」

「そうなのか!」

ヘルミーネ様の目が輝いてきた、水の魔法が弱いというわけではないが、やはり魔法は、得意なのを上げて行くのが良いと思うので乗せて行こう。

「それに、得意な魔法と言うのは威力が他の人より上がります」

「ほう、それはいいな」

「ヘルミーネ様はストーンウォールを使えますでしょうか?」

「うむ、使えるぞ」

「それは素晴らしいですね、では的の前に出していただけませんか?」

「よかろう、では出すぞ」

ヘルミーネ様は呪文を唱え、見事にストーンウォールを出した、強度も十分だ。

「お見事です、では私がヘルミーネ様のストーンウォールに攻撃致しますので、見ていてください」

「うむ」

ストーンウォール目掛けて、ファイヤーボール、ウインドカッター、アイスニードル、ストーンショット全属性の攻撃を当てた。

「いかがでしょう?ヘルミーネ様のストーンウォールは、どの属性の攻撃を受けても健在です」

「エル、凄いぞ!私のストーンウォールはこんなにも強かったのか!」

「その通りでございます、得意な魔法の威力が強いと言う事は、理解されたと思います」

「うむ、確かにその通りだった」

「では、この調子で地の魔法を使って行きましょう」

「うむ、分かった」

その後一時間ほど、ヘルミーネ様の魔力が無くなり練習を終えた。

「今日はこのくらいで終わりましょう」

「うむ、実にいい練習だった、エル、ありがとう」

「この調子で毎日練習を続ければ、ヘルミーネ様はきっと素晴らしい魔法使いに成られる事でしょう」

「そうか!!」

ヘルミーネ様は満面の笑顔で答えた、いつもこの笑顔なら可愛いのに、残念だな。

遠くから様子を伺っていたローベルトさんが近づいてきた。

「エルレイ男爵は魔法を教えるのもとても上手の様だ、感服致しました」

「いえ、ヘルミーネ様が優秀だったのですよ」

「うむ、その通り、しかしエルが教えるのが上手いのも確かだ」

「ありがとうございます」

「エルレイ男爵は地の魔法がお得意なのですかな?」

「いえ、得意な属性はございません、あえて言うなら全部でしょうか」

「そうなのですか・・・」

ローベルトさんは考え込んでいる、俺の事を色々探っている様だな気を付けよう。

「ローベルト疲れたのでもう行くぞ、エル、着いてまいれ」

「ヘルミーネ様お疲れさまでした」

着いてまいれって、まだ解放されないんですかね。

「分かりました、ローベルトさん失礼します」

ヘルミーネ様の後をラウラさんと歩き、ある部屋へと辿り着いた、ラウラさんがドアを開け、ヘルミーネ様が中へと入る。

「エル、入れ」

「ラウラさん?」

解放されたくラウラさんに二度目の救援を求めるが、あえなく撃沈。

「エルレイ様、どうぞお入りください」

「はい」

部屋の手前に扉があり、どうやら部屋がもう一つある様だった、あれか、メイドさんの待機部屋みたいな感じだろうか。

奥には大きな天蓋付きのベッドとソファーにテーブル、とても可愛らしい部屋だった、ここってヘルミーネ様の自室だよな?

入っちゃまずいのでは・・・冷や汗が出て来る、入り口で立ち止まっていると、ヘルミーネ様が怒ったように声を掛けて来た。

「早くこっちへ来て座れ」

「はい」

言われるがままにソファーに座ると、ラウラさんがお茶を入れてくれた。

「ここはヘルミーネ様の自室なのでは?私が入っていい場所には思えないのですが・・・」

「私がいいと言ったのだ、問題ない」

ヘルミーネ様がいいと言っても防犯上駄目だよね、そもそも俺が王城をうろついて良い訳が無い。

「ラウラさん、大丈夫なのでしょうか?」

「本来であれば駄目なのですが・・・」

あぁ、やっぱりそうだよね・・・ラウラさんも苦笑いしてるし、本格的に他の人に見つかったらアウトな事案。

「安心するが良い、私が守ってやる」

それは全然安心できない気がします。

「ところでエルよ、私はお前が気に入った、毎日魔法を教えてくれ」

無理無理無理無理、こんな所に毎日いたらこの若さで剥げてしまう、何とか理由を付けて一刻も早く帰らなくては。

「私は男爵になったばかりで、これから色々勉強しなくてはならない身です、領地に帰らなくてはなりません」

「むっ、そうなのか・・・」

ヘルミーネ様は腕を組み、何か不穏な事を考えている様子。

「では、お父様に頼んで、エルがずっとここにいられるようにしてやる」

やめてーーーーー、そんな事に成ったらルリアとリリーを連れて他国に亡命してやる。

「ヘルミーネ様、大変申し訳ありませんがお断りさせていただきます」

「何故だ!!」

ヘルミーネ様はお怒りだ・・・。

「私には大切な家族と二人の婚約者がおります、成人した際には家族を守って行けるよう、今から努力しなければならく、ここで生活するわけにはいきません」

「むぅぅぅぅぅ」

ヘルミーネ様は暫く考えて答えを出した。

「分かった、家族は大事だ、エル、無理を言った」

やはり、ヘルミーネ様はきちんと考え答えを出す事が出来る、我儘な部分が無くなれば立派な大人になるだろう。

「いえ、それにヘルミーネ様は今日教えた通り素晴らしい魔法使いに成られるでしょう。

しかしそれは誰が教えても変わらないのです、すべてはヘルミーネ様の努力次第なのです」

「そうか、エル、今日はありがとう、もう行っていいぞ」

「はい、失礼致します」

ヘルミーネ様の表情はとても寂しそうだった、王女と言う立場上友達もいないのだろう、しかし俺もここにいるわけにはいかない。

部屋を出て行こうとしていたら、ラウラさんがドアを開けてくれた。

「ラウラさんすみません、ヘルミーネ様の事、お願いします」

「はい、承知しております、エルレイ様、本日はありがとうございました」

ラウラさんと別れを告げ、部屋の前に待機していたメイドに連れられて玄関まで辿り着き、馬車に乗り込んで、そこでようやく一息ついた。

この二日間精神的ダメージが半端ない、とても疲れて馬車に揺られながら寝てしまった。

ラノフェリア別邸に着くと、夕暮れ時で皆観光から帰ってきている様だった。

王都観光は二日間の予定だったから俺は何処にも行けてない・・・街並みを歩いてみたかった、武器屋で新しい剣も欲しかった。

夕食時、皆は観光の話で盛り上がっていた、ラノフェリア公爵様にはどのような意図があってヘルミーネ様に合わせたのか聞いておかないと気が済まない。

「ラノフェリア公爵様、今日のあれはいったい何だったのでしょう?」

「特に意図は無い、強いて上げるなら年も近いし仲良くなれると思ったからだ」

男爵ごときが王女様と仲良くなってどうするんだよ。

「エルレイ、誰と会っていたの?」

「ヘルミーネ様の子守りをさせられました」

ルリアは顔をしかめていた。

「あーあの我儘娘ね、エルレイ、大変だったわね」

「ルリアは知っているんだ」

「えぇ、何度か喧嘩したわ」

なるほど、確かにルリアとヘルミーネ様が一緒だと喧嘩するイメージしかわかないな、混ぜるな危険だ。

「エルレイ君はちゃんと仲良くなった様じゃないか、それと陛下と一緒に食事をしたとも聞いたぞ」

「それですよ、寿命が縮まりましたよ・・・・」

「まぁそうだろうが、いい経験になっただろう」

ラノフェリア公爵様はにやりと笑っていた。

「王城なんてもう二度と行きたくないです」

「そうか、でもこれから行く機会も増えて来る、慣れてくれ」

「はい・・・」

力なくそう答えるしかなかった。

翌朝帰るために、別邸にある鍵のかかった部屋へ集合した、何でこんな部屋が用意されてるのか気になるな・・・。

ラノフェリア公爵様達はまだ王都に用事があるらしく、ここでお別れだ。

「ラノフェリア公爵様大変お世話になりました」

「うむ、用事があるときは呼ぶから、この部屋を使ってくれ」

「はい」

「では、失礼します」

皆で手を繋いで家へと転移した。

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