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公爵令嬢の婚約者  作者: よしの
第一話 アリクレット男爵家
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第四話 ラノフェリア公爵家へ

一年が経ち、ルリア十一歳、俺十歳、リリー十歳になった、年下だと思っていたリリーは同じ年であった。

ルリアは魔力が大幅に増え、火と風の上級魔法、それと障壁を使いこなせるようになった。

障壁の魔法は苦手だったが、使えないと生死にかかわるので無理やり鍛えて覚えさせた。

ルリアの火の魔法は特に優れていて威力は俺以上だ、そこは得意不得意が関係するのだろう。

リリーの実験・・・訓練もルリアの監視の元続けられ、魔力量はルリアに迫る所まで増えた、魔力が切れても回復させて使わせた成果だ。

得意な魔法は水と障壁と回復、特に回復が優れていて、俺と同じように魔力の譲渡も出来る様になった。

これは相手の魔力を感じる事が出来るからだと思う、ルリアは相手の魔力を感じ取る事が出来ない様だ。

二人とも無詠唱は勿論だが、変化、強化、圧縮も出来る様になっていた。

ここまでの実験で、魔力は使えば使うだけ増える事は実証された。

そんな充実して楽しい日々を過ごしている中、ラノフェリア公爵様から三通の手紙が届いた。

父宛、ルリア宛、エルレイ宛だ、内容は長ったらしい挨拶から始まり、最近の出来事や風物詩等が続き、ようやく最後にラノフェリア公爵家まで来てねと言う事だった。

やはり貴族の当主とかなる物では無いな、こんなめんどくさい手紙書けないよ、最後の一言だけでいいのに・・・。

その事についてであろう、父上から書斎に呼び出された。

書斎に入ると父上の他に、マデラン兄さん、ルリア、リリーが揃っていた。

「エルレイ、ラノフェリア公爵からの手紙はもう読んだか?」

「はい、読みました」

「では早速だが、明日から向かってくれ」

急だな、手紙には急いで来いとは書いてなかったが。

「分かりました」

「これは旅費だ、無駄遣いはしない様に」

父上はドンッと、お金が入った革袋をテーブルの上に置いた、いくら入っているのだろう?この世界に来てからお金を持ったことは無かった、必要な物は何でも買い与えられていたし、街に買い物に行くことは無かった。

貴族の子供となると一人で出歩いたりできないのだ、俺は飛行魔法を使って領内を飛び回ってはいたけれど・・・。

「ルリア、日数はどれくらい掛かるか分かるか?」

「ここに来た時は馬車で十日ほど掛ったわ」

「馬車はこちらで用意している、公爵家の様な豪華な物では無いがな」

父上はそう言うと頭をかいた。

まぁそうだよな、しかし十日間馬車に揺られるのはきついな、勇者の時もそうだったが馬車の旅はとても疲れる。

それなら飛行魔法で飛んで行った方が楽だろう、リリーが使えないが抱えて行けば問題ない。

「ルリア、飛行魔法で行こうと思うがどうだろうか?」

「リリーが使えないわよ」

「リリーは私が抱えて行くよ」

「そう・・・ならそうしましょう」

ルリアは少し考えて同意してくれた。

「父上、飛行魔法で二日ほどで到着すると思いますので馬車は必要ありません、それと旅費もその分削って貰って結構です」

「そうか魔法は素晴らしいな、お金はそのまま持って行くといい、余ったお金はそのままエルレイの物として構わない」

「ありがとうございます、では準備をして明日の朝発つ事に致します」

「うむ、ラノフェリア公爵に失礼の無いようにするんだぞ」

「はい」

革袋を受け取り書斎を後にする。

部屋に戻り荷物を纏める、殆どが洋服だ、兄さん達の結婚式の時に作って貰った礼服と普段着に下着、後は剣を一本。

これは練習用ではなくちゃんと刃が付いている、と言っても普通の剣に軽く装飾が施されている見かけだけの飾りみたいなものだ。

早々に準備が終わり、訓練に行こうかと思っているとルリアが部屋に入ってきた。

ルリアは俺の部屋に入って来るのにノックはしない、何度か文句を言ったが無駄だった。

「ちょっと話を良いかしら?」

「あぁ、構わないよ」

ルリアは俯き少し思案してから話した。

「・・・実家に着いたら周囲から色々言われるかもしれないけど、気にしない様にしなさい」

「分かった、俺は気にしないよ」

最近忘れていたけどルリアは公爵令嬢だ、男爵家三男と婚約しているから周囲の目線は冷たいのだろう。

「それだけよ」

ルリアは踵を返し部屋から出て行こうとしていた。

「ルリア、明日の準備が終わったら訓練しよう、先に行っている」

「ええ、分かったわ」

訓練で少しは気晴らしに成ればいいのだが・・・。


次の朝、出立の為玄関行きルリアとリリーが来るのを待つ、暫くしてルリアとリリーが来たが持っている荷物は少ない。

「ルリア、荷物が少ない様だが大丈夫なのか?」

「えぇ、途中一泊するだけでしょ、家に帰れば服はあるから大丈夫よ」

「なるほど」

流石公爵令嬢と言う事か・・・。

そうしていると皆が見送りに来てくれた。

「父上行って参ります」

「うむ、気を付けてな」

リリーを抱きかかえて、障壁を周囲に張り飛行魔法を発動させ飛び立った。

リリーの腕が首に巻き付き顔が近くにあり少し照れくさい。

横を飛んでるルリアの視線が痛い事を除けば最高だ。

「ルリア、辛くなったら降りて休憩しよう」

「えぇ、分かったけど少しリリーと近すぎないかしら?」

「でも、離れると危険だからね・・・」

「分かってるけど、何か納得いかないわ」

リリーは何も言わず顔を赤くして俯いているが、首に回している腕はしっかり握られていた。

途中何度か休憩をはさみ、今日泊る町に降り立った、時刻は夕刻の少し前。

アリクレット領を出たのは初めてだったので町を見て回りたかったが、まずは宿を取るのが先だとルリアに言われて渋々宿屋へと向かった。

宿屋は貴族用の宿でお高い、一〇歳の子供三名の宿泊だったがそこは貴族相手、問題無く泊まる事が出来た。

部屋はルリアの希望で三人とも同じ部屋だ、こういう所では危険な事もあるらしいので纏まっていないといけないそうだ。

部屋はさすが貴族用、天蓋付きのベッドが四つにふかふかの絨毯、大きなテーブルにはフルーツの盛り合わせが置いてあった。

父からドンッと、お金を渡されたときは金額が多い気がしたが、確かにこのような所に泊まるなら必要だな。

勇者の時は安い宿屋しか泊った事が無かったから新鮮な気持ちだ。

「エルレイ、色々見てみたい気持ちは分かるけど外出禁止よ!」

ガーン、なぜに・・・かなり落ち込んだ。

「貴方は強いからいいかも知れないけど、リリーを危険にさせたくないのよ」

リリーの事を出されては折れるしかないな。

「分かった、リリーを危険に晒したくないのは俺も同じだ」

「申し訳ありません」

「いや、リリーが謝る必要はないよ」

そう言ってリリーの頭を撫でたら、リリーは恥ずかしそうに俯いてしまった、とても可愛い、顔がにやけてしまう。

ルリアは気に入らなかったのか怒った様子だ。

「ちょっと、何勝手に頭を撫でているのよ」

「ルリアも撫でて欲しいのか?」

俺はからかうように言った。

「そんな事あるわけないじゃない!」

ルリアはそう言うと腕を組んでそっぽを向いてしまった、こういう所はルリアも可愛いんだよな。

そっとルリアに近づき頭を撫でてやった。

「ふんっ!」

ルリアは顔を背けたが、機嫌は治ったようだった。

そうしていると、ドアがノックされ、夕食が運び込まれてきた。

食堂とかではなく各部屋に用意される、食事中も給仕が一人付き色々お世話をしてくれる。

流石にお酒は出なかったが、とても美味しいコース料理だった、今日はリリーも一緒に食べている。

いつもリリーは別に食べている、俺は何度か一緒に食事をするよう父上にもルリアにも言ったのだが、リリーが正式に妾になるまでは駄目だと却下されていた。

こういう所は貴族としてめんどくさく嫌いな所だ。

今日は三人だけだからと、ルリアが許可した、基準がいまいちわからない・・・。

食事の後、湯浴みしてベッドに入る、三人で同じ部屋で眠るのは初めてなので少しドキドキする。

「明かりを消しますね」

リリーがそう言ったが重要な事を思い出した。

「ちょっと待って、施錠をする」

窓を開けて外の地面から少し土を魔法で取り出しす、入り口のドアを圧縮し固めた土でロックする。

これでドアを突き破らない限り開かないだろう、同じように窓にも施錠する。

「これで突き破って侵入しない限り誰も入ってこれない」

「そう、少しは安心ね」

これでも少しなのか・・・。

「ではおやすみ」

「おやすみ」

「おやすみなさいませ」

リリーが明かりを消し暗闇に閉ざされた。

目を瞑り眠ろうとするが、二人の事を意識してかなかなか眠れない・・・。

結局その夜、朝までぐっすり眠る事は出来なかった・・・。


特に何も襲われる事無く次の朝を迎えた、当然寝不足だ・・・。

ルリアを襲撃しようとしている者がいたとしても、飛行魔法での移動を予測していないとこの町に滞在する事を予測できないだろう。

ベッドから抜け出る、まだ二人は寝ている様だ、そっとルリアの顔を覗く、まだ幼さが残る可愛らしい顔をしている。

黙っていればやはり可愛い・・・少し眺めていると気配を感じたのか、ルリアが目覚めて目が合ってしまった。

「・・・ルリアおはよう」

「何見てるのよ」

「ルリアの寝顔が可愛かったから見惚れていたんだよ」

俺は素直な感想を述べた。

「なっ、か、勝手に見てるんじゃないわよ」

恥ずかしかったのか顔を赤くしてルリアは布団をかぶってしまった、こちらの声に気付いてかリリーも目覚め体を起こした。

「リリーおはよう」

「エルレイ様、おはようございます」

リリーはまだ少し寝ぼけている様で可愛い、リリーは基本可愛いのだが寝ぼけ眼は初めて見る事が出来て新鮮だ。

「リリー少し出て来るよ、その間に着替えておいてくれ」

「はい、行ってらっしゃいませ」

昨夜仕掛けた施錠を外し、土を元の状態に戻し部屋の外に出る。

魔法で土を形成してもよかったのだが、朝まで維持する魔力が多く必要になるため外にあるものを使用した。

魔法で作った土では魔力が無くなると消えてしまうから、維持するための魔力が必要になる、外の空気を吸い軽く運動してから部屋へと戻った。

二人とも着かえ終え、テーブルには朝食の準備も整えられていた。

朝食も豪華だ、男爵家の朝食と比べるのが間違っているのだろう、ルリアの公爵家ではこんなのが当たり前なのかもしれないな。

朝食を終え早々に宿を出立した。

昨日と同じく、リリーを抱きかかえての飛行でとても幸せだ、隣からは不満気なルリアの視線があるが気にしない。

幸せを満喫しつつ午後にはラノフェリア公爵領へと辿り着いた。

「正面に見えるのが私の家よ」

ルリアはそう言って正面を指さした、まだ距離はあるが認識できる大きさだ。

「本当は門から入らないといけないけど、門から歩くのは遠いから玄関前に降りるわよ」

「分かった」

上から屋敷全体が見ると確かに門から玄関までの距離が遠い・・・歩いて十分とかかるんじゃないだろうか?

玄関に降り立った、それは家では無く宮殿だった、前庭に整えられた庭があり豪華な見た目の屋敷がドーンと建っていた。

屋敷の中から玄関のドアを開け、執事と思われる男性が出て来た。

「ルリアお嬢様、お帰りなさいませ」

男性は挨拶をすると綺麗なお辞儀をし、頭を下げたままの状態で止まっていた。

ルリアは気にする事なく開いたドアから中へ入って行った、俺もあわててそれに続き屋敷へ入る。

エントランスはとても広くて豪華だ、下手をすると俺の家が入るのではと思うほどの広さだ。

そこには執事とメイドが数名並んでおり、先程と同じように一斉に挨拶をした。

「「ルリアお嬢様お帰りなさいませ」」

何というか圧倒されてしまう。

「エルレイ、彼女たちが案内するから着替えて頂戴」

「分かった」

「私も準備があるからまた後で」

ルリアは颯爽と奥へと消えて行った。

「エルレイ様こちらへ」

メイドに案内されて部屋に移動し、着替えを手伝われ髪をセットして貰って応接室へと通された。

「エルレイ様、暫くこちらでお待ちください」

ソファーに案内され座ると、沈み込むような柔らかさだった。

テーブルには紅茶が用意されいい香りが漂ってくる、折角用意された物だから遠慮なく頂くと、ほのかな甘みと共に紅茶のいい香りがとても心地よかった。

公爵家凄いな、家でこんなの出てこないぞ・・・そりゃ紅茶は出てくるがここまで美味しく香りが良いのは無かった。

紅茶の入れ方とかも多分違うのだろう・・・。

紅茶を堪能していると、ルリアとリリーが部屋に入ってきて俺の横に座った。

ルリアはドレスに着替えており、一番最初に出会った時には気が付かなかったがとても美しいと今なら思える。

リリーはいつもどうり部屋の隅に控えている。

「待たせた様ね、もうすぐお父様も来るわ」

「いや、紅茶を堪能していた所だ、気にしなくていい」

「そう」

ルリアはいつもより口数が少ない気がする、自分の家でリラックス出来るはずなんだが・・・。

それからしばらくしてラノフェリア公爵様が現れた、俺は立ち上がり挨拶をする。

「御無沙汰しておりますラノフェリア公爵様」

「エルレイ君、急に呼び出してすまないね、座ってくれたまえ」

「はい、失礼します」

「しかし、ここに到着するにはもう少し時間が掛ると思っていたが随分早かったね」

「ルリアお嬢様と共に飛行魔法で来た次第でございます」

「ほう、ルリアも上級魔法を使えるようになったのか、素晴らしい」

「はいお父様、エルレイの教えは上手く、この一年で随分上達いたしました」

「そうか、エルレイ君にルリアを託した事は間違いでは無かった、ありがとう」

「勿体ないお言葉」

「ルリアを立派な魔法使いにして貰った、エルレイ君との約束を果たしたく来て貰った訳だ」

ラノフェリア公爵様はそう言ってテーブルの上のベルを鳴らした、それと共に部屋に執事がお盆に乗せた鍵の付いた本を持ってきた。

「これが例の本だ、見ての通り鍵が掛かっている、この本を君に渡す事は出来ない。

我が家の書斎でのみ読んでいい、鍵はこの執事ヴァイスが管理している。

読みたい時はこのヴァイスに言って鍵を開けて貰ってくれ。

それと本の内容を書き写す事と内容を他人に話す事も禁ずる、以上の事を守ってくれればいくらでも読んで貰って構わない」

やけに厳重だな、転移魔法は便利だが貴族からすると危険以外何物でもないよな、部屋に転移してきて暗殺とか容易に想像できる。

「分かりました」

「それとこの本を読むと様々な危険が伴う、聡明な君の事だから理解できると思うが一応言っておく。

たとえこの本を読んで魔法が使えなくても、これから君の命が狙われる可能性が出て来る。

君に限った事では無い、家族が狙われる可能性もある、それだけこの本の内容を知りたい者が多いという事だ。

もし魔法が使える様になったら、今度は君を利用しようと様々な者が近寄って来るだろう。

それでも君がこの本を必要だと思えば、ヴァイスに言って読むといい」

確かにその通りだな、よく考えて決断する必要がある。

「しばらく考えたいと思います」

「そうした方が良いだろう」

そこまで話が終わるとヴァイスさんは下がり部屋から出て行った。

「話は変わるが君たちに急いで来て貰ったのには訳がある、アリクレット男爵には手紙で知らせたが、アイロス王国が戦争の準備をしている」

「戦争ですか」

「うむ、国境の砦に数千規模の軍隊が集結しつつある、こちらからも軍を派遣しているが間に合うかどうか微妙な所だ」

俺もここでゆっくりはしていられないな、出来るだけ早くヴァルト兄さんの元へ行かないと。

「少なくとも、一週間ほどアイロス軍が集結するには時間が掛るだろう」

どうやって情報をこの離れた地で得ているのか疑問だが、ラノフェリア公爵様が嘘をつくとは思えないから正しい情報なのだろう。

しかし戦争が迫っているのに俺を呼びつけるとはどういう事だろう・・・。

「分かりました、なるべく早く戻り防衛に当たりたいと思います」

「うむ、そうしてくれ、そしてルリア」

「はい、お父様」

「お前はこの家にいなさい」

なるほど俺を呼びつけたのはおまけか、本命はルリア当然だな、戦争が始まる所に大事な娘を置いておけないな、俺でもそうするだろう。

「嫌よ、私はエルレイと一緒に戦場に向かうわ」

「ルリア、今回ばかりはお前の我儘を許す訳にはいかない、分かってくれ」

「もう以前の私とは違うのよ、自分の事は自分で守れる様になったのよ」

「いや、しかし・・・」

ラノフェリア公爵様、娘には弱いな・・・気迫でルリアに負けているんだけど。

「エルレイ君もそう思わないかね?」

ええーここで俺に振って来るのか・・・ルリアからすごい勢いで睨まれているんだけど・・・仕方がない殴られる覚悟を決めるか。

「ルリアお嬢様、私もここへ残るべきだと思います、これから向かう先は訓練ではなく戦争です、死ぬ可能性が非常に高いのです」

「エルレイ君の言う通りだ、ルリアお願いだからここに残ってくれないか?」

「嫌よ、私はエルレイの婚約者よ、戦争にも付いて行くわ」

どうするよ、ルリアを説得する事は俺には出来ないぞ・・・ラノフェリア公爵様の方を見ると彼もそう思っているのか落ち込んでいる様だ。

「ルリアお嬢様、しばらく考えてから結論を出してはいかがでしょうか?

私も本を読むにしても読まないにしても、すぐにここを発つ訳ではありません、いかがでしょうか?」

「そう・・・分かったわ、考えてから結論を出す事にするわ」

「ラノフェリア公爵様、これでいかかでしょうか?」

「うむ、そうしてくれ、エルレイ君部屋は用意する、しばらく滞在していくといい」

「ありがとうございます」

その間にラノフェリア公爵様がルリアを説得してくれる事に期待しよう。

「ではこれで失礼する、後今夜の夕食の席で君に家族を紹介しよう、楽しみにしていてくれ」

「はい」

ラノフェリア公爵様は部屋を出て行った、さてルリアの説得をどうするか・・・。

「ルリア、どこかでゆっくり話せる場所は無いか?」

「そうね、私の部屋に行きましょう」

ルリアはすっと立ち上がり部屋を出て行く、俺も遅れないようにルリアに付いて行く、はぐれると間違いなく迷子になるからな。

二階へ上がりしばらく歩くと、ドレスを着た女性が声を掛けて来た。

「あら珍しい、ルリアさんじゃありませんこと?田舎の男爵家に飛ばされたと聞いておりましたのに、いつお戻りになられてのかしら?」

「・・・マルティナ」

ルリアはそうつぶやき顔をしかめていた。

「そちらの男性は見かけない顔ですわね、紹介していただけませんこと?」

ルリアはマルティナ様の言葉を無視して俺の腕を掴み、引きずりながらその場を移動した。

「まぁ、相変わらず野蛮なこと」

マルティナ様はからかうように言い放つと去って行った。

それからまたしばらく歩き、やっとルリアの部屋へと辿り着いた、遠いよ遠すぎる家が大きすぎるのも考え物だな。

「入って」

ルリアの部屋に入ると今までの室内の景色に比べると質素だった、まぁそう言っても椅子一つとってもきれいに彫り込まれていて高価な物だと分かる。

「落ち着いていい感じの部屋だ」

「そう、恥ずかしいからあまり見ないで頂戴」

「あぁ、すまない」

確かに異性に部屋を見られるのは恥ずかしいな、気を付けよう。

「そこに座って頂戴」

ルリアに勧められ椅子へ座る、椅子のクッションも柔らかく気持ちがいい。

「話だったわよね」

「あぁ」

そうしているとリリーがお茶を入れてくれていた。

「リリーも座りなさい」

「はい、畏まりました」

リリーは三人分のお茶を入れ終わると椅子に座った。

「二人とも先程の本の話だが、読んだ方が良いだろうか?」

「そうね・・・エルレイが読みたいのなら読めばいいと思うわ」

「私も同じです」

「正直に言うととても読みたい、しかし家族の事を考えるとどうしても踏み切れない。

両親や兄さん達はどうにか出来るだろうけど、アルティナ姉さんを盾に取られると俺は逆らう事が出来なくなるだろう」

「貴方がアルティナの事を大切に思っている事は知っているわ、しかしアルティナからしたらそれは重荷になるのではないのかしら?」

「重荷?」

「貴方がアルティナの事を思ってる以上にアルティナは貴方の事を思っている、例えばアルティナが貴方の事を思って婚約を取りやめたらどうかしら?」

確かにそうだな、アルティナ姉さんには幸せになって貰いたい、俺のためにそれを放棄するか・・・。

「なるほど、ルリアの言いたい事は分かった、確かに重荷だな・・・」

「それと、アルティナの危険を回避する方法はあるわよ」

「そうなのか、教えてくれ!」

「はぁ・・・エルレイ本当に分からないの?」

ルリアは本当にあきれている様だ、しかしそんな方法があるのだろうか?俺がずっと守ってやる?違うな・・・わからん。

「すまない、本当に分からない」

「・・・リリー説明してあげて頂戴」

リリーも分かっているのか・・・。

「はい、アルティナ様に自衛出来る様、魔法を教えて差し上げればいいのです」

「あっ・・・そうか、確かにそうだ」

「しっかりしている様で身内の事に成ると抜けてるわね」

「ルリア、リリーありがとう」

アルティナ姉さんを大事に思い過ぎていたという事か・・・反省だ、これはルリア、リリーにも当てはまるか・・・。

「それとルリア、リリー」

「なにかしら?」

「はい、何でございましょう?」

「俺と一緒に戦争に着いて来てくれ」

「もちろんよ」

「畏まりました」

二人とも嬉しそうに微笑んでそう答えてくれた、俺は初めて二人を本当の意味で好きになり、守って行こうと心に決めた。


その後、夕食前に湯浴みをするからと部屋を追い出された、勿論メイドを呼んで貰い客間に案内してもらった。

客間はルリアの部屋より豪華だ、ルリアの部屋を見た後だと豪華すぎて落ち着かない。

俺も湯浴みをし、その時メイドが手伝うと言ったが拒否させて貰った。

体は十歳だが、心は生前と勇者時代を足すとおじさんレベルだ、流石に恥ずかしい、何歳かは秘密だ・・・。

服はラノフェリア公爵様が数着用意していてくれた、それに着替え髪を整えて貰い食堂へと向かった。

メイドに指示されるまま席に着いた、まだ誰も来ていなかったが偉い人の後から座るのはごめんだしな。

暫くして他の人達も集まり始め席に着いた、こちらを見てひそひそと話しているが取り合えず黙っておこう。

ルリアが来て俺の隣に座る、最後にラノフェリア公爵様が席へと座る。

「皆揃っているな、今日はルリアとその許嫁、エルレイ君が同席しているので皆を紹介する。

私の妻、アベルティア、エーゼル、ロゼリアだ。」

彼の左から順番に紹介してくれる。

「長男マデラン、次男ルノフェノ、長女マルティナ、次女エクセア、三女ユーティア、四女ルリア。

そして彼がエルレイだ」

「アリクレット男爵家三男のエルレイ・フォン・アリクレットです」

立ち上がりお辞儀をした、正直男爵家三男とか場違い過ぎて冷や汗がでる。

「エルレイ君座ってくれ、彼は全ての上級魔法を無詠唱で使い、ルリアにも上級魔法を使える様指導してくれた。

そしてアリクレット男爵領からここまで飛行魔法を使い二日で辿り着いた、とても素晴らしい魔法使いだ。

堅い話はここまでにして、食事が冷めない内に頂こう」

「「「頂きます」」」

食事が始まったが、正直味がよく分からないほど緊張していた・・・。

周りでは相変わらずひそひそ話が聞こえる、多分俺の事を言っているのだろう、直接言われるより精神に来るものがあるな。

そんな中、ひときわ大きな声で長男ネレイト様が訪ねて来た。

「エルレイ、君は無詠唱で魔法が使えるそうだが、私は今まで聞いたことも見た事も無い、もしよければ説明してもらえないだろうか?」

うっ、やはり無詠唱か、正直説明したくないがどうするか・・・。

「ネレイト様、無詠唱とは言葉で説明する事は難しいので実際に見て頂く事でよろしいでしょうか?」

「あぁ、構わない、是非見せてくれ」

ネレイト様は目が輝いていてる、おもちゃを見つけた少年の様だ。

「すみません、グラスを皆様の前に一個ずつ用意していただけませんか?」

近くにいる給仕に伝えグラスを各自の前に用意してもらった 。

「では、皆様の前に用意されているグラスに水を満たしていきます」

一人ずつ、前に置かれたグラスの中に水を満たしていった。

「おお、確かに無詠唱だった、もっと他に中級や上級を見せて貰う事は出来ないだろうか?」

ネレイト様食いつき良すぎるな・・・。

「申し訳ございません、この場では危険ですのでまたの機会があれば外でお見せする事は可能です」

「そうか、それもそうだなぜひお願いする」

「畏まりました」

小声でルリアに確認する。

「ルリア、ネレイト様は魔法は使えるのだろうか?」

「この家で魔法が使えるのは私とリリーだけよ」

「そうか、ありがとう」

「エルレイ君は数日滞在する予定だ、他に気になる者は一緒に見せて貰うといい、私も見せて貰いたいからな」

ラノフェリア公爵様も見たかったのか・・・いや単に俺の実力が知りたいだけだろう。

「それでは明日の朝食の後はどうだろう?」

ネレイト様は早速催促してきた、まぁ早い方が良いだろう、どうせやらされる訳だしな。

「畏まりました、では明日の朝食後にお見せ致しましょう」

「うむ、よろしく頼む」

ネレイト様興奮しすぎだろう、明日魔法を見せたらどうなる事やら。

その後は何事も無く食事を終えた、しかし味わっている余裕は無く、ただお腹が膨れただけだった、豪華な料理だっただけにとても残念に思う。


翌朝の朝食後、裏庭の訓練場へと向かった。

見学に来たのはラノフェリア公爵様、妻のアベルティア様、長男ネレイト様、次女エクセア様だけだった。

ルリアに聞くと正妻とその子供だけなのだと、どうやら妾とその子供との仲は良く無い様だ、そう言えば昨日ルリアに絡んできていたのは長女マルティナ様だったな。

ルリアの母アベルティア様は、ルリアと同じ赤い髪で胸がとても大きい、ルリアもこうなるのだろうか・・・。

最近ルリアの胸は膨らんできている様だが将来に期待しよう、ニヤニヤしているとルリアに胸を見てるのが気が付かれたのか睨まれた。

気まずい雰囲気を晴らすべく、ルリアに小声で話しかける。

「ルリア、今日見せる魔法は、変化、強化、圧縮は使わないようにしてくれ」

「分かっているわ」

「皆様お集まりいただきありがとうございます、これから魔法をお見せ致しますが、折角ですのでルリアお嬢様と共にお見せ致します」

「それはいいな、ルリア期待しているぞ」

「はい、お父様、一年間の成果をお見せ致しますわ」

「ではまず私から」

そう言って一メートルほど浮き上がり、バレーボール大の竜巻、岩、氷、炎を同時に出し的へ一つずつ当てて行った。

「凄い、凄い無詠唱なのは昨日見せて貰っていたが、同時に複数の属性を出すとは想像以上だ!!」

ネレイト様の興奮が最高潮に達した様だ。

「うむ、エルレイ君見事だ」

ラノフェリア公爵様もどうやら実力を認めてくれた様で安心した。

「では次に、ルリアお嬢様お願い致します」

「分かったわ、エルレイお願いね」

その言葉を聞いて俺は的の方へと飛び去り、ルリアの魔法を待った。

「ではお父様、エルレイに魔法を撃ち込みますのでよく見ていて下さい」

「うむ」

「ちょっと待て、本当にエルレイに魔法を撃ち込むのか?」

「ネレイト兄様その通りですわ、では行きます」

ルリアはバレーボール大の火の玉を一度に十個出し、それを次々とエルレイ目掛けて撃ち出した。

俺はそれを障壁で全て受け止め、炎が消えるのを待つ。

「ルリア、凄いじゃないか一度に十個も同時に作るなんて誰も出来ない事だぞ、そしてそれを受け止めたエルレイも素晴らしい!!」

ネレイト様は興奮しすぎて飛び跳ねて喜んでいる。

「うむ、ルリア見事だった、お前の努力確かにこの目で確認させてもらった」

「ありがとうございます、お父様」

「まぁルリア、とても素晴らしかったわ」

「ルリアは我が家の自慢ね」

母アベルティア様とエクセア様はルリアに抱きつき喜んでいた。

炎が収まり、皆がいる所に戻る。

「エルレイ君、ルリアを本当に素晴らしい魔法使いにしてくれて感謝の気持ちしかない、ありがとう」

ラノフェリア公爵様はルリアの魔法の腕前を見て大変ご機嫌だの様だ。

「いえ、すべてはルリアお嬢様の努力の賜物です」

「そうか、それでもありがとう」

「ラノフェリア公爵様、昨日の本の話ですが読むことに決めました」

「そうか、私はそれを反対しない、君に対する正当な報酬だ、それでも足りない位だ」

「ありがとうございます、それともう一つお願いがございます」

「なんだね、私にできる事なら協力しよう」

「ルリアお嬢様を戦場に連れて行く事をお許しください」

「うっ・・・そ、それは」

先ほどまで笑顔だったラノフェリア公爵様の顔が歪んだ、やはり厳しいだろうか。

「無茶を言っているのは承知しております、しかしどうかお願いします」

そう言って頭を下げた。

・・・沈黙が続く、それを破ったのは意外な人だった。

「いいじゃありませんか、ルリアを素晴らしい魔法使いにしてくれた彼の傍にいれば安全よね、そうよねルリア」

「はい、お母様」

「ぐぬぬぬぬ・・・」

ラノフェリア公爵様は苦悶の表情をしている、アベルティア様の発言権は大きいようだ・・・。

「あなた諦めなさい、ルリアが可愛いのは分かるけど親離れする時期なのよ、ルリアも好きな人の傍にいたいでしょうしね」

「お母様!!」

「何、違うっていうの?」

アベルティア様はルリアに微笑みながら問いかけた。

「そうじゃないけど・・・あぁもう!!エルレイの傍にいたいわよ!!」

「エルレイ君良かったわね、ルリアはあなたの事が大好きですって」

「ええ、とても嬉しいです、私もルリアお嬢様を大事に思っておりますから」

ルリアの顔は赤い髪と重なって赤一色だ、ルリア可愛い、抱きしめたい衝動に駆られるがぐっと我慢だ、ラノフェリア公爵様の表情が絶望に瀕している。

「ラノフェリア公爵様?」

「うむ・・・ルリアを連れて行く事を許可する・・・」

力なくそう答えてくれた。

「ありがとうございます」

「ただし!!絶対にルリアを守るのだぞ、分かったな!!」

「はい、この命に代えてもお守りいたします」

無事に許可も得てその場は解散となった。


皆と別れた俺はメイドの案内で書斎まで辿り着いた、いやぁ、家は大きければいいって物では無いね、何処に行くにも案内が必要だ。

たぶんこの屋敷に勤める使用人の最初の仕事は、屋敷の見取り図を覚える事だろう。

書斎に着き、しばらく椅子に座って待っているとヴァイスさんが例の本を持って来てくれた。

「では鍵をお開け致します」

ヴァイスさんは本を俺の前に置くと、鍵を取り出し本の鍵を開ける。

「背後にて待機させていただきます、読み終わりましたらお知らせください」

ヴァイスさんは俺の背後に移動し立って待つようだ、読むのに時間かかるから流石に申し訳ない。

「ヴァイスさん椅子に座っていてはいかがでしょう、すぐ読み終わる訳ではありませんので」

「お気遣い感謝いたします、しかしこれが私の仕事ですのでお気になさらず」

仕事だと言われればどうしようもないな、出来るだけ早く読み終わるようにしよう。

重厚な本の表紙を開く。

そこには俺の望みどうり、空間魔法の説明と呪文が記されていた。


収納魔法 : 異空間に魔力を用いて空間を作りそこに生物以外の物を出し入れ可能とする。

         空間の維持に一定量の魔力を一日一回消費する。


空間転移 : 術者が思い描いた地点に現地点から転移する。

         転移する地点は術者が一度訪れた場所でなければならない。

         転移する時術者と接触している物と一緒に転移する事は可能、転移する物が増えるだけ必要な魔力も増える。


転移門  : 術者が思い描いた地点に現地点から転移門を開く。

        転移と同じく術者が一度訪れた場所でないと転移門を開くことは出来ない。

        転移門が開いている間は両地点の行き来は可能。

        転移門の維持に大量の魔力が必要になる。


読み終わり本を閉じる、なるほど命を狙われるなこれは・・・特に転移門がヤバい、一気に軍隊を送れたり出来そうだ。

後は俺がこれを使えるかが問題だ。

どれくらい時間がたっていたのか分からないが、ずっと立って待っていたヴァイスさんに声をかける。

「ヴァイスさんお待たせしました、ありがとうございます」

ヴァイスさんはすっと本に近づき鍵をかける。

「また御用の時はお声をかけてください」

ヴァイスさんは一礼し本を抱えて去って行った。

今時間はお昼を過ぎているだろう、多少お腹が減っているが、それよりも早く空間魔法を試してみたくて急いで先ほどの訓練場へと足を急ぐ。

訓練場に着き、周囲に誰もいないことを確認する。

まずは収納魔法だな。

「偉大なる空間の支配者よ、我が偉大なる魔力を糧とし我の求めに応じ空間を作り給え、クリエイトスペース」

呪文を唱え終えると、脳内にイメージとして十メートル四方の立方体が見えた。

試しにコインを取り出し、収納するようイメージするとふっっとコインが消えて収納の中に入った。

勇者時にも使えていたので問題なく出来そうだ、それから数度コインを出し入れし確認を終えた。

次はとても楽しみにしていた空間転移だ、ドキドキしてきた。

転移場所は的の所でいいか。

「偉大なる空間の支配者よ、我が偉大なる魔力を糧とし彼の地とこの地を結び我を運び給え、テレポート」

一瞬目の前が暗くなり、次の瞬間狙い通り的の前に立っていた、やった、成功だ!!

調子に乗り最初の位置までまた転移で移動した、いいぞいいぞ、やはり魔法使いはこうでなくては、よしこの調子で転移門行ってみよう。

転移門を出す場所は的の所にしてと。

「偉大なる空間の支配者よ、我が偉大なる魔力を糧とし彼の地とこの地を結ぶ門を開き給え、ゲート」

呪文を唱え終えると、横五メートル、縦十メートルほどの大きな門が出現した。

えっ!ちょっとヤバい!!

そう思った時はすでに遅く、大量に魔力を奪われ、五秒ほどで眩暈と共に意識を失いその場に倒れた。

・・・・・・・・・

・・・なんだか体が温かい、そして柔らかいものに包まれている様だ・・・。

徐々に意識を取り戻すと、目の前に涙を浮かべたリリーが僕の顔を覗き込んでいた。

「エルレイ様!!」

リリーに頭を抱きかかえられてしまった、どうやらリリーに膝枕して貰っていた様だ。

「リリーありがとう」

「エルレイ様、エルレイ様・・・」

リリーは泣きながら、ただただ俺の頭を抱きしめるだけだった。

頭を抱きかかえられている状況は非常にうれしいが、リリーをこれ以上心配させるのも気が引ける。

「心配かけた様だね、リリーもう大丈夫だ」

そう言ってリリーの頭をゆっくりと撫でていると、横腹に衝撃が走った・・・痛い。

「リリーを心配させるんじゃないわよ!」

痛みの原因はやはりルリアの様だ、リリーに抱きかかえられいるから周りが見えない。

「ルリアにも心配かけたね、ごめん」

「私は別に心配なんてしてないわよ」

「そうか、ありがとう」

「ふんっ!」

「リリー、魔力も戻ってきた様だからもう大丈夫」

ようやくリリーも泣き止んでくれたようだ、やっとリリーの抱擁から解放されたが、少し残念な気持ちだ・・・。

ゆっくりと立ち上がり、リリーの手を取り立ち上がらせてから抱きしめる。

「エルレイ様!!」

リリーは驚いたようだが抵抗はない。

「リリー、本当にありがとう」

リリーも手に力を入れ抱きしめてくれた。

「エルレイ様が無事で本当に良かったです」

何て幸せなんだろう・・・しかしそれは長く続かなかった。

「ちょっと、いつまで抱きついているのよ」

ルリアに無理やり引き離された、ご立腹の様だ・・・。

「ルリアも抱きしめた方がいいか?」

「ひ、必要無いわ」

ルリアは腕を組み後ろを向いてしまった、仕方ない後ろからそっと近づいてルリアも抱きしめてやった。

「ルリアありがとう」

「ふんっ!」

抵抗は無いのでしばらくこのまま抱きしめていてやろう。

幸せを満喫していると、珍しくリリーから話しかけて来た。

「エルレイ様、本当にもう大丈夫なのでしょうか?」

「あぁ、何ともないよ、心配かけてすまなかった」

ルリアから手を離しそう答えると、リリーは安心した様だった。

「それで、何でこんな所で倒れていたのよ、リリーが見つけなかったらどうなっていたか分からないわよ」

ルリアの機嫌もどうやらなおったようだ、よかった、二人に心配をかけてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

「単なる魔力切れだ」

「魔力切れですって?エルレイが?」

ルリアは不思議そうに首を傾げた、それもそのはず、俺の魔力量はルリアの三倍ほどある、彼女もそれは知っているからの疑問だろう。

「詳しい話はここでは話せない、夕食の後にでも・・・あーそうだな、ルリア頼みがある、夕食の後にラノフェリア公爵様とこの三人だけで話が出来る場を作って貰えないか?」

「お父様と?」

「魔力切れの件も絡んでくるから」

「なるほど、分かったわ」

どうやら今のやり取りでルリアは理解してくれたようだ。

「では、エルレイは一度部屋に戻って休む事、いいわね」

「あぁ、大人しく休むよ、これ以上二人に心配かける様な事はしないさ」

「分かればいいのよ」

結局二人は客間まで着いて来て、俺がベッドに寝るのを確認してから戻って行った。


・・・しばらく眠っていた様だ、ドアをノックする音で目が覚めた。

「エルレイ様、お食事の準備が整いました」

どうやら夕食の時間の様だ、ドアを開けメイドを中に入れ身だしなみを整えて貰い食堂へと向かった。

昼を抜いていたせいか、今日の夕食はしっかり味わって食べる事が出来た、会話はネレイト様からの質問だけだったので問題は無かった。

食後ラノフェリア公爵様の執務室へルリアとリリーと供に向かった、上手くルリアが取り成してくれた様だ。

ルリアがドアをノックし。

「お父様入るわよ」

そう言って確認も無しに部屋へと入って行く、俺もその後へ続き部屋に入る。

「失礼します」

「うむ、立ち話もなんだからそちらのソファーに掛けたまえ」

ラノフェリア公爵様は机の椅子から立ち上がり、ソファーへと移動し腰掛けた。

ルリアも対面に座り、俺もその横に座る、リリーはいつも通り部屋の隅だ。

「リリーもこちらに掛けなさい」

ルリアが着席するように言ったがリリーは少し戸惑っている、そりゃそうだろメイドが席に座るとか許されない事だ。

「リリー、今日は君の話もある、掛けなさい」

ラノフェリア公爵様がそう言うとリリーは俺の隣に腰掛けた。

「失礼します」

「ラノフェリア公爵様、このような場を設けて頂きありがとうございます」

「うむ、ルリアより話は聞いている、魔力切れで倒れたそうじゃないか」

「はい、その事で報告がございます」

「うむ、聞こう」

「今日例の本を読み終え、それを試してみました、その結果の収納魔法と空間転移を習得いたしました」

「そうか流石だ、今この国でその魔法を使えるものは君を除いて存在しない、同時に空間転移出来る人数はどれくらいか分かるか?」

十人位問題無く行けそうだが、少なく言っておいた方がいいだろう。

「まだ一度しか試しておりませんので正確な人数は分かりませんが四,五人は可能かと・・・」

「そうかそうか」

ラノフェリア公爵様はにこやかな笑みを浮かべている、俺をタクシー代わりに使おうと思っているのだろう。

この家で本を見せられた時点でこうなる事は分かってはいたが、実際に目の前で笑顔を見せられると今後の大変さが思い悔やまれる。

「それと魔力切れの件ですが転移門を使い、魔法は成功したのですが五秒ほどで倒れました、したがって今の段階で使う事は不可能です」

「やはりそうか、転移門を使ったと記されているものは千年以上前の書物に記されている伝説上の物だ。

たとえ少しの時間であろうと使えた事は素晴らしい、それは今後に期待するとしよう」

「はい、ご期待に沿えるよう努力いたします」

「うむ」

まぁあれだけ急激に魔力を消費するから、大量に魔力を保持している人で無いととても使いこなせない、そりゃ千年以上誰もいなくても納得する。

「私からの報告は以上です」

俺がそう言うとラノフェリア公爵様はしばらく考え込んでいた、そこにルリアから声が掛かる。

「お父様、私がお願いしていた件はどうなったのかしら?」

「うむ、先にその事を話そう、本日をもってリリーをラノフェリア家に養女として向かい入れる。

リリー・ヴァン・ラノフェリアと名乗る事を許可しよう」

リリーはとても驚いていて、ルリアは喜びの表情だ。

「リリー、今日から私の妹よ」

「えっあのそれは・・・」

リリーは困惑気味だ、そうだよないきなりメイドから公爵令嬢にと言われてもそうなるよな・・・。

「エルレイ君、これから話す事は誰にも言ってはいけない、約束できるかね?」

このタイミングでという事はリリーに関する事だろうか?

「はい、お約束致します」

「ラノフェリア公爵様、それはお止め下さい・・・」

リリーが慌ててそれを止める、余程俺に知られたくない事なんだろうか。

「リリー、今後エルレイ君と共に過ごすなら知って貰っておいた方が君にとっても、そして彼にとっても安全だろう」

リリーは暫く思案していたが納得したようだ・・・。

「・・・・・・・分かりました」

「エルレイ君、リリーの本当の名前はリリアンヌ・ド・ラウニスカ、ラウニスカ王国の前王族の最後の一人だ」

「えっ」

今度は俺が驚く番だった、リリーが王族?じゃぁ何でメイドなんてやっているんだ・・・。

「現ラウニスカ王によって彼女の一族は全員暗殺された。

しかし彼女だけは、彼女のメイド達の手によって何とかこの国へ逃げ延びる事が出来た。

それを私が保護し、ルリア専属メイドにする事によって存在を隠してきた訳だ。

それでも何処からか情報は漏れ、いずれ彼女の生存がラウニスカ王国に知られる日も来るだろう。

それは彼女の銀の髪がラウニスカ王族に代々受け継がれてきたものだからだ」

そうだったのか、確かにリリー以外銀の髪を見たことが無い。

しかしこんな可愛いリリーの家族を殺すとか許せないな、ちょっと飛行魔法で飛んで行って王城吹き飛ばしてやろうか・・・。

「これまで以上、リリーお嬢様をお守り致します」

「うむ、とは言えエルレイ君はこれまでと同じようにしてくれて構わない、ラウニスカ王国を滅ぼそうとかそんな事は彼女も望んではいない」

えっ、何で考えている事が分かったんだろう・・・。

「エルレイ、顔に出ているわよ、飛んで行って王様殺そうとか考えてるんじゃないの?」

ルリアにもばれるとかそうとう顔に出ていた様だ、反省・・・。

「いや、そんなことは考えてないよ・・・」

「嘘おっしゃい」

「わはははは、エルレイ君は思考が顔に出る様だ、その辺りはまだ子供だな、安心したよ」

ラノフェリア公爵様は大笑いしている、何たる屈辱、記憶としての年齢はおじさんレベル、気を付けなければ・・・。

「エルレイ様、今まで通りでお願いします」

リリーはそう言うと俺に頭を下げて来た。

「リリーお嬢様頭をお上げください、それと私の事はエルレイとお呼びください」

リリーは顔を上げると、俺の腕にしがみつき訴えて来た。

「エルレイ様、今まで通り、今まで通りにしてください、お願いします」

リリーは必死に懇願して来る、俺が戸惑っているとルリアが手助けしてくれた。

「エルレイ、リリーが望んでいるのだからこれまで通りでいいのよ」

「分かったよリリー」

そう言って俺はリリーの頭を撫でた、リリーは安心したかのように、しがみついていた手から力が抜け微笑んでくれた。

可愛い・・・可愛すぎるリリー、この場で抱きしめたいが目の前にラノフェリア公爵様がいるので出来ない・・・。

「さて、話を続けようか」

ラノフェリア公爵様が俺の幸せな時間を奪う、気持ちを切り替えよう・・・。

「はい」

「昨日伝えたがもう間もなくアイロス王国が攻めて来るだろう、その防衛に君も参加して貰いたい」

「はい、そのつもりです」

「うむ、そこで君に頼みがある」

またルリアを連れて行くなと言う事だろうか・・・。

「はい、何でございましょう」

「アイロス王国側に攻め込み砦を奪って欲しい」

砦を奪えとか何その無茶ぶり・・・やれるとは思うがどう答えたらいいんだろう、これは悩むな・・・。

「お父様、エルレイならきっと砦を奪取出来るわ、そうよねエルレイ」

俺が答えにあぐねいていると、ルリアが返事しちゃったよ・・・。

いやぁもうどうにでもなれって感じだな、こうなってはやるしかないな覚悟を決めるか。

「必ずや砦を手に入れてご覧になりましょう」

「うむ、期待しているぞ」

「しかし、ラノフェリア公爵様、砦の管理は私には荷が重すぎます」

「それはこちらで手配しているから心配する必要はない、エルレイ君は奪還する事だけ考えればよい」

「それを聞いて安心致しました」

実際に領地の管理すら俺はまともに出来ないだろう、そういう教育を受けていたのは兄二人だけだった、三男の俺は剣と魔法の訓練やってただけだからな。

ラノフェリア公爵様がテーブルに置いてあったベルを鳴らした、すると執務室の中にあるドアからヴァイスさんと二人のメイドが部屋に入ってきた。

「ヴァイス、本をエルレイ君に渡してやってくれ」

ヴァイスさんは手に持っていた本を俺の前のテーブルに置いて元の場所へ戻って行った。

「その本は念話に関する魔法書だ、君なら問題なく使えるだろう、その本は持っておくといい」

「ありがとうございます」

念話か、携帯みたいに離れていても会話できるのだろうか、そうなら転移を使える俺を呼び出しに使うための念話と言う事だ。

これで完全にラノフェリア公爵様の足にさせるわけだな・・・。

「出来ればこの家を発つ前に読んで、使える様になったらヴァイスに使ってくれ」

「分かりました」

ヴァイスさんは魔法使いだったか、今後彼とも長い付き合いになりそうだ。

「それと、この二人のメイドを新たに君たちに着ける」

ラノフェリア公爵様がメイドに視線を向けると、二人は一歩前に出て名前を告げた。

「ロゼと申します」

「リゼと申します」

先程入って来たころから気にはなっていたが、二人とも青い髪が後ろでまとめられていて瓜二つ、どうやら双子の様だな。

歳は十四、十五歳位だろうか、正直どちらがリゼかロゼかわからない、俺にメイドは要らないがルリアとリリーには必要だな。

「ラノフェリア公爵様、大変失礼かも知れませんが彼女たちは信頼できるのでしょうか?」

「うむ、君の懸念はもっともな事だ、もし彼女たちが君達に危害が及ぼすような事があれば責任は私が取る、それに私がルリアに付けるメイドに危険がある者を近づけるはずが無かろう?」

ラノフェリア公爵様はにやりと笑った。

「確かにその通りです、大変失礼しました」

「うむ、話は以上だ、エルレイ君まだ何かあるかね?」

「いえございません、ありがとうございました」

「うむ」

執務室を出てルリアとリリーに挨拶をして部屋に戻る事にする。

「ルリア、リリー、今夜はもう遅いから寝る事にしよう」

「ええそうね、エルレイおやすみ」

「エルレイ様おやすみなさい」

「ルリア、リリーおやすみ」

二人の頭を撫でてから部屋へと戻る、案内はロゼ?リゼ?どちらか分からないが一人に案内してもらった。

折角だから少し話をしてみるか。

「えーと、リゼ?」

「はい、ロゼです」

いきなり間違ってしまった、正直に言っておいた方が良いかも知れないな。

「すまない、二人を見分ける事は俺には出来ない様だ、これからも間違えるかも知れない、出来るだけ間違えない様努力はするが分かってほしい」

「慣れておりますのでお気になさらず」

「そうか、少し話を聞いてもいいだろうか?」

「何なりと」

「俺たちは近いうちに戦場に向かう、そこで君達は武器や魔法を使えたりするのだろうか?」

「私達は護身術は習っておりますが魔法は使えません、そして戦場行く事はラノフェリア公爵様より伺っており問題ありません」

「そうか、少し腕前を見せて貰ってもいいだろうか?」

「よろしいのでしょうか?」

部屋の真ん中に移動し構える、どの部屋でもそうだが軽く手合わせしても問題ないくらい広いんだよな。

「構わない!」

俺がそう言うとロゼはクスリと笑った、あっこれヤバいかも、そう思った時には背後から床に投げられ俺は天井を見ていた。

床に投げられた時に威力を抑えられたので痛みは全くない。

「ロゼ見事だった、君を試したことを後悔しているよ、しかし素早い移動だったな、魔法が使えないってのは本当なのか?」

俺は起き上がりながら疑問を投げかけた、ロゼの表情は元に戻っており素直に答えてくれた。

「はい魔法は使えません、しかし体内の魔力で筋力の強化をしております」

魔法を使えない魔力しかないのに筋力の強化が出来るのだろうか?

「ロゼの魔力を見てみたいが、いいだろうか?」

「魔力を見るのですか?そのような事が・・・」

「俺は触れた相手の魔力が分かる、勿論その事は秘密にしてもらいたい」

「承知致しました、ラノフェリア公爵様よりエルレイ様より知りえた事を秘密にする事厳命されております、そしてその事をラノフェリア公爵様に伝える事もありません」

「そうなのか、てっきりラノフェリア公爵様に伝える物かと思っていたよ」

「私とリゼはエルレイ様に使える身、既にラノフェリア公爵様は主人では無いのです」

「そうかわかった、ロゼこれからよろしく頼む」

「はい、エルレイ様」

ロゼはにっこりと笑ってくれた、あぁ、メイド服に笑顔は最高だな、癒される。

ロゼとリゼは、リリーの様に可愛いという感じでは無く清楚な感じで美しい、青い髪で冷たい印象を受けるが、笑った時の感じはすごくいい。

「ロゼ、手を出してくれないか?」

「はい」

そっとロゼの手を握る、メイドとして仕事をしている割に柔らかく綺麗な手をしていた。

魔力は確かに魔法を使うには少ない、少ない魔力であの動きが出来るのなら、俺ならもっとすごい速さや力が出せるのか?

やり方を聞きたいが、流石にこれ以上付き合わせるのは忍びないな。

「ロゼありがとう、長いこと付き合わせてしまった、寝る事にしよう、また今度時間があるときに話を聞かせてくれ」

「はい、エルレイ様おやすみなさいませ」

「ロゼおやすみ」

ロゼが部屋から出て行った後、念話の魔法書を開いた。

そこには予想通り遠方の人と話せる内容が書いてあった。


念話 :一度触れた相手と離れていても念話で会話する事が可能。


これはルリアとリリーにも覚えさせよう、特に難しいことは無いだろう。


翌朝、朝食の為食堂へと向かい席へと座る、しかし今日はいつもの席より一つ下だ。

昨日まで俺が座ってた場所にはリリーがドレスを着て座っている、ドレス姿とてもよく似合っていて非常に可愛い。

その事で食堂に集まった人達のざわめきがうるさいが、リリーの可愛さに比べればどうと言う事は無い。

ラノフェリア公爵様が席に座ると、マルティナ様は信じられないといった表情で問い正した。

「お父様、どうしてメイドが席に座っているの?」

「その事で皆に報告がある、本日よりリリーを我が家に向かい入れる事となった、仲良くしてやってくれ」

「なっ、メイドを養女にですって・・・ありえないわ・・・」

マルティナ様はぶつぶつとつぶやいている。

「父上、流石に私もそれを受け入れる事は出来ません」

次男ルノフェノ様が噛みついた。

「ふむ、ルノフェノどうして受け入れられないのだ?」

「それは当然の事、我が家は由緒正しき公爵家、どこの誰だか分からないメイドを受け入れる事などあってはならない事なのです」

「ルノフェノの言っている事は正しい、だがこれは私が決めた事だ反論は許さない」

ルノフェノ様はそれを聞いてわなわなと震えていた・・・まぁ彼の気持ちも分からないでもないが、俺はリリーの味方だ、可愛いは正義。

「失礼する!!」

ルノフェノ様は立ち上がり食堂を出て行った、マルティナ様も続き出て行ってしまった。

「ふむ、ここに残ったものは納得して貰えたと思って構わないか?」

「急な話だったから二人は混乱しているだけでしょう、私が説得致しますのでどうか二人を責めないでやってくださいませ」

「任せた、エーゼル頼んだぞ」

「はい」

エーゼル様は立ち上がり二人の後を追って行った、彼女が二人の母親なのだろう。

「では頂こう」

「「「頂きます」」」

その後は普通に食事を終えた、ネレイト様は、エクセア様はリリーに色々聞いていたがユーティア様は終始無言だった。

ロゼリア様の娘がユーティア様だと思うが、彼女がまともに会話しているのを見た事が無い、公爵家めんどくさいな、男爵家で良かったと改めて実感した。

食事の後、話をする為にルリアの部屋に集まった、ルリアとリリーにメイドのロゼとリゼの五人だ。

テーブルの椅子に座るとリゼとロゼがお茶を配膳していた。

「ルリア、リゼとロゼにも話を聞いてもらいたいから座って貰っていいだろうか?」

「もちろんいいわよ、リゼ、ロゼ貴方たちの分のお茶も入れて席に座って頂戴」

「「畏まりました」」

二人が席に座るのを待って話を始める。

「俺は出来るだけ早くここを出て家に戻ろうと思う、戦争が始まるのは早くて四日後だ、ゆっくりしている暇は無い」

「ええ、構わないわよ」

「帰りは空間転移を使うので一瞬で戻れると思う、ただし、まだ一度しか試していないので午前中少し練習をしたい」

「そう分かったわ、練習には私が付き合ってあげるわ」

「いや、済まないが練習にはリゼかロゼ、どちらか一人付き合って欲しい、ルリアはリリーと準備をしていてくれ」

ルリア気持ちは分かるが睨まないでくれ・・・。

「納得いかないけどしょうがないわね、リリーを一人にする訳にもいかないわ」

「ルリアありがとう」

ルリアの頭を撫でて機嫌を直してもらう事にしよう、撫でようと手を伸ばすと跳ね除けられた。

「分かってるから、そういうのは要らないわ」

腕を組み顔を背けられた、むぅ上手くいかないものだな・・・。

「それとルリアとリリーはこの本を読み練習してくれ」

念話の魔法書をテーブルに置いた。

「昨日お父様から貰った本ね、わかったわ」

「出立は今日の午後で構わないだろうか?」

「分かったわ」

「エルレイ様大丈夫です」

「「承知致しました」」

「急な話で悪かったがよろしく頼む、では俺は練習に行ってくるよ」

「えぇ気を付けてね、昨日のようなことが無いようにしなさい」

ルリアがそう言うとリリーが悲しそうな顔をしていた。

「リリーを悲しませるような事はしないさ」

リリーの頭を撫でてから部屋の外に出た、ロゼは俺の後に付いて来ている。


館の外に出てロゼに向きなおり、これからする事の内容を話す。

「ロゼ、これから少し遠出をするがいいか?」

「はい構いません、リゼです」

・・・・・・また間違えた様だ。

「すまないリゼ、昨日ロゼにも言ったが俺はまだ二人を見分ける事が出来ない、なるべく早く分かる様努力する」

「慣れておりますので構いません」

「リゼ、これから飛行魔法を使い人目が付かない場所に移動する、その際リゼを抱き上げるが構わないだろうか?」

「はい、エルレイ様は私達の主人です、何をされても構いません」

メイドとはこの様な物なのだろうか、何をされても構わないとかとても嬉しいが、そう言うのはあまり好みじゃないな。

「リゼ、以前はどうだったか知らないが俺は使用人でも大切にしたいと思っている、嫌な事はさせたくないから嫌なら正直に言ってくれて構わない」

「お気遣いありがとうございます、しかし本当にそう思っているのでエルレイ様、遠慮なく何でもお申し付けください」

うーむ、会って間もないのにどういう事だろう・・・主人に従順に従うよう仕込まれているのだろうか?

少し時間をかけて話し合って行く必要があるか、まぁ今は時間が無い、やる事をやろう。

「では抱きかかえるから落ちない様しっかり掴まっていてくれ」

「はい、エルレイ様お願いします」

リゼを抱きかかえる、リゼは俺より身長も高いので少々バランスが悪いが問題は無い、リゼの柔らかい胸が当たっていてとても気持ちいいが問題ない・・・。

「では飛ぶぞ」

リゼはしっかりと摑まってきて更に胸が押し付けられた、魔法で飛び上がり広大な公爵敷地内に人目に付かない場所を探す。

「エルレイ様、とても素晴らしい景色です」

リゼは空からの景色を見渡し目を輝かせている、こういう姿を見ると年相応の女の子だなと思う。

「俺も最初飛んだときは空からの景色に感動したからよくわかる、だが今日は飛ぶことが目的じゃないのであの場所に降りる」

敷地内の森の中に円く空いている場所を見つけそこへと降りて、抱えているリゼを地面に立たせた。

「少し残念です」

「また機会があれば連れて行ってやろう」

「本当ですか、お願いしますね」

リゼは興奮しているのか、多少言葉使いが崩れているが構わないだろう。

「でもリゼとロゼは俺のメイドになったんだよな?」

「はい、そうです」

「それならいずれ自分で魔法を使い飛べるようになるかもしれないぞ」

「本当ですか?私もロゼも魔力少なくて魔法使えませんよ?」

リゼは首を傾げて疑っているようだ、しかしリゼは魔力が少ない事が分かっている、自分の魔力を感じることは出来ているのだろう。

昨日ロゼも魔力を使って筋力の強化をと言っていたからな、意外と早く魔法習得出来るかもしれないな。

「すぐには無理だが、時間がある時に魔法の使い方を教えるよ」

「ありがとうございます、楽しみにしていますね」

リゼは本当に楽しみなのだろう、にっこりと微笑んでいた。

「あぁ、さて本来の目的、空間転移の練習をやろう、手を繋いでくれ」

「はい」

リゼは俺の手をぎゅっと握ってきた、そんなに強く握らなくてもいいのだが手が離れても危ないか。

何処に行ってみようか・・・あの場所に行ってみるか。

「リゼ、今から魔法を使う、手を離さない様にしっかり握っていてくれ」

「はい」

さらに力が籠められる、転移先の場所を強く思い魔法を発動させる、一瞬目の前が暗くなり、次の瞬間思っていた街へと現れた。

「リゼ、無事成功したようだ」

「エルレイ様、ここはどこでしょうか?」

リゼはあたりを見回していた。

「ラノフェリア公爵邸に来る前に寄った街だ、飛行魔法で降り立って宿に泊まっただけだから街の名前を知らない」

「そうなのですね、どうしてこの街へ?」

「前回来た時街を見て回れなかったからさ」

俺はにやりと笑うとリゼは理解したようだ。

「分かりました、お供致します」

リゼを伴って街を見て歩く、田舎の男爵領だったから街並みは新鮮だ。

「リゼ、何か欲しいものは無いか?」

「特にございません」

「本当にそうなのか?遠慮しなくていいんだぞ」

「ありません、そう言うエルレイ様は何かご購入されないのですか?」

「うーん、特に欲しい物って無いんだよな・・・強いてあげれば魔法書位かな」

「エルレイ様は魔法の事しか頭に無いのでしょうか?」

「そうかも、魔法使っているのが楽しくてね」

「フフッ、そうでしたか、それでしたらルリア様とリリー様に何か買っていかれてはいかかですか?」

「なるほど、それはいいかもな・・・しかし公爵令嬢に買って行って喜ばれる物ってあるのか?」

「そうですねぇ・・・あのお店の商品なら喜ばれるかもしれません」

リゼが指さした先には女性向けのアクセサリーや小物が売ってあった。

「よし入ってみよう、しかしこういう物は買ったこと無いからリゼも手伝ってくれ」

「畏まりました」

店内に入ると指輪やネックレスと言った宝飾品、化粧品みたいな物、小物入れや鞄色々な商品があり、これから選ぶのはかなり難易度が高いミッションに思われる。

「リゼ、どれを選んでいいのか全く分からない、選んでもらえないだろうか?」

「いえ、これはエルレイ様が選んだものでないといけないのです」

「むぅ、では何かヒントをくれないか?」

「はい、ルリア様とリリー様、お二人の特徴は何でございましょう?」

「特徴か・・・怒りっぽいとか?」

「いえそうではなく、見た目の話でございます」

見た目か・・・ルリアの見た目は赤い髪が腰まで伸びていて黙っていれば可愛い、リリーは銀の髪がとても美しくすべて可愛い。

「そうか髪飾りか、髪をとかす櫛とかならいいのか?」

「はい、髪飾りなどいくらあっても困るものではないでしょう」

・・・髪飾りが飾ってあるところを眺める事少し、赤い大きなリボンの髪飾りと色違いの白の大きなリボンの髪飾り、ピンクと黄色の髪留め、全部で4個購入した。

「さてリゼ、戻ることにしよう」

「はい、エルレイ様」

人目に付かない裏路地に入り、リゼの手を取って森の中に戻ってきた。

「空間転移は問題なく使えるな、リゼ気分が悪くなったとかないか?」

「はい、ございません」

「では軽く空の旅をして屋敷に戻ろう」

「はい、エルレイ様」

リゼはにこやかに笑みを浮かべている、空の景色が気に入ったようだな、少し遠回りをしてから屋敷へと戻った。


屋敷に入り、リゼに案内してもらってルリアの元へ向かう、未だに部屋の場所は分からない、似たようなドアが続く廊下には慣れないな。

ルリアの部屋へと入ると準備は終わったようで、テーブルの椅子に座り二人はお茶を飲んでいた。

「エルレイお帰りなさい」

「エルレイ様お帰りなさい」

「ルリア、リリーただいま」

俺も椅子へ座ると、ロゼがお茶を入れてくれた。

「ロゼとリゼも座ってくれないか?」

「「畏まりました」」

二人は自分たちのお茶も用意して席に着いた。

「リゼと二人での空間転移は上手く行ったよ」

「そう、何処まで行ってきたのかしら、随分時間かかったみたいだけど?」

「まぁそうだな、転移自体は一瞬で終わる、この前泊った街に行ってきたんだ」

「それでリゼとデートして遅くなったと?」

ルリアが激おこで睨んでくる、しかし慌てる事は無い、今回は秘密兵器がある!!

秘密兵器を収納からそっとテーブルに出し一人ずつ手渡した。

「この白いリボンの髪飾りはルリアに、赤いリボンの髪飾りはリリーに、ピンクの花の髪留めはロゼに、黄色の花の髪留めはリゼに」

「これを選んでたから遅くなったんだよね」

「そう・・・ありがとう」

ルリアの機嫌はなおって、笑みを浮かべて喜んでくれた様だ、リゼに感謝だな。

「エルレイ様ありがとうございます、大事に致します」

リリーは髪飾りを胸に抱きしめ大喜びだ。

「私達にまでこの様な物を、ありがとうございます」

ロゼは喜んでいるのか分からない、表情がいつもと同じだ。

「エルレイ様、あの時私のも買ってくださっていたんですね、嬉しいです」

リゼはとてもにこやかな表情で喜んでくれた、なるほど二人の違いが少しわかって来た。

それにその髪留めは二人を判別するために買ったという事は内緒だ、ピンクがロゼ、黄色がリゼ、付けて貰えれば間違えなくて済む。

「ちなみにルリアとリリーのリボンの色はお互いの髪の色を選んでみた、銀は無かったから白になったんだが、姉妹になった記念と言う事で」

「そうなのね、リリーと姉妹になれた事はとても嬉しいわ、エルレイありがとう」

「この赤いリボンがルリア、エルレイ様大事にしますね」

ルリアとリリーはお互いに喜んでいる。

「ところでリリー、エルレイと呼び捨てにしてもらいたいのだが、あと敬語も無しにしてもらえると助かる」

「ですが・・・」

「そうね、私の妹になった訳だしその方がいいと思うわ」

リリーはしばらく考え込んで・・・。

「分かりました、エルレイさん」

「エルレイでいいんだけど?」

「エルレイ、それがリリーの限界よ、諦めなさい」

まぁしょうがないか。

「分かった、話は変わるが準備は終わったのかい?」

「えぇ、いつでも出立できるわ」

「リゼは出かけていたけど、準備は大丈夫か?」

「はい、準備は出来ております」

「そうか、では午後出立するとしよう」

「ラノフェリア公爵様に挨拶をしたいが、もうすぐ昼食かな?」

「そうね、その後がいいでしょう」

「分かった、ルリアとリリーは念話使えるようになったのだろうか?」

「ええ、問題無かったわ」

「はい、覚えました」

ルリアとリリーから念話が届く。

『エルレイ、聞こえる?』

『ルリア聞こえている、流石ルリアだ』

『これくらい魔法使いなら誰だってできるわよ』

『そうか』

『エルレイさん』

『リリー聞こえているよ』

『これで離れていても会話できるのですね、嬉しいです』

『あぁ俺もリリーと話せて嬉しいよ』

『何にやけているのよ』

『何でもないぞ』

「ふむ、一度に二人と会話するのは大変だな」

「それもそうね、本返しておくわ」

ルリアから念話の魔法書を受け取り収納する。


昼食後、ラノフェリア公爵様に挨拶をするため執務室へ向かった。

ルリアがノックし、また確認も聞かずに部屋へと入って行く。

「お父様入るわよ」

「失礼します」

俺もルリアに続き部屋に入る、ラノフェリア公爵様は机の椅子に座ったままだ。

「ラノフェリア公爵様、これから出立するのでご挨拶にお伺い致しました」

「うむ、急がせてしまってすまないな、本来であれば王都観光などしてもらいたかったが、それはまた今度ゆっくりと出来るだろう」

「はい、それでこちらに行き来する際に人目に付かない部屋か場所があれば助かるのですが」

「空間転移に使ってもらう部屋は用意している、後でヴァイスに案内させるが常に鍵が掛かっている、こちらに来た際は中にあるベルを鳴らしてくれ」

「畏まりました」

「念話も使える様になりましたので、いつでもご連絡ください」

「うむ、これをアリクレット男爵に渡してくれ」

一通の封筒を差し出してきた、それを受け取る。

「確かにお預かり致しました」

「エルレイ君、ルリアとリリーの事頼んだぞ」

「はい」

「ルリア、リリー気を付けて行って来てくれ」

「はいお父様」

「お父様行って参ります」

ルリアとリリーがお辞儀をすると、ラノフェリア公爵様の表情が嬉しいのやら寂しいのやら複雑な表情だ。

「では失礼致します」

執務室を出て一度皆と別れて客室へと戻り鞄を抱えてエントランスへと集合した。

そこにはアベルティア様がいてルリアと話していた。

「アベルティア様、短い間でしたがお世話になりました」

「あら、またいらしてくださいね、それと二人の娘をよろしくお願いしますね」

「はい」

アベルティア様との挨拶を終え、ヴァイスさんに声を掛ける。

「ヴァイスさん部屋に案内をお願いします」

「畏まりました、皆さんこちらです」

ヴァイスさんの後を歩いて行く、そこは一回の奥まった場所で鉄製の扉が特徴的だった。

ヴァイスさんが鍵を開け部屋の中に入ると、部屋全体は薄暗く窓が無い部屋だった。

「この部屋になります、エルレイさん転移してくる際は必ずこの部屋をお使いください、この屋敷の他の場所への転移は敵対行動とみなしますのでご注意ください」

「分かった」

当然だな、誰だって家に勝手に入って来られたくはない。

「エルレイ様、お手を拝借したく・・・」

「あぁ」

ヴァイスさんは手を差し伸べて来た、それを握り返す。

「何か御用の際はいつでもご連絡ください、そして私から公爵様の御用をお伝えする事がございますのでご容赦ください」

「わかった、では行こうか皆手を繋いでくれ」

ルリアとリリーの手を握る、暖かくて柔らかい感触が両方の手の平から伝わる、ルリアとリリーもそれぞれロゼ、リゼと手を繋いだ。

「ヴァイスさん失礼します」

「お気を付けて行ってらっしゃいませ」

ヴァイスさんはお辞儀をし見送ってくれた。

「俺の部屋に転移する、行くぞ」

皆若干緊張した眼差しだ、俺の部屋をイメージして魔法を発動させる。

一瞬暗闇に包まれ、見慣れた部屋へと転移した。

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