第二十五話 ミスクール帝国強襲
上空へと飛び上がった俺達は、下に見える景色がとても小さく見えるほど上昇していた。
「エルレイ、何処まで上がるのよ!」
「ここまでくれば大丈夫かな、これから皆を鳥の姿にするから、飛ぶ練習をしてくれ」
「飛ぶ練習ですって?」
ルリアは既に飛んでいるのに練習とはどういう事なのか分からないでいる様だ、実際に鳥の姿になって貰った方が早いな。
「ウィル」
「は~い」
「皆を鳥の姿にしてくれ」
「分かった~」
ウィルによって全員鳥の姿へと変わった、当然垂直に立っている状態だったから、鳥の姿になった時にもまっすぐ立っていて、羽を閉じている状態になっている訳だ。
「手本を見せるから同じようにやってくれ、まずは体を横にして手を広げる、これだけで鳥が飛んでいるような感じになっただろう」
俺の飛行魔法で繫がっているリゼも横になっているが、手を広げていないため羽を閉じている状態になっている。
「そうね、私達の今の姿は違和感しか無いわ」
「エルレイ様、こうですね」
リゼは手を広げて上下に羽ばたくように動かしていた。
「リゼの様な感じにすると、飛んでいるように見えるだろう」
「分かったわ、やってみるわね」
「ロゼ、私達もやりましょう」
「リリー様、では横になりますね」
ルリア、リリー、ロゼもそれぞれ体を横に倒して翼を広げていた。
「これは本当に鳥になったような感じね」
「楽しいですね」
「そうだな、今は空中に静止しているが、鳥は静止しないので注意してくれ」
皆鳥の姿になっていて表情はいまいち分からないが、声で楽しんでいるのが分かる。
「では高度を下げながら、飛ぶ練習をして行こう」
「分かったわ」
「ロゼ、行きましょう」
「はい」
「エルレイ様、私達も行きましょう」
「そうしよう」
それぞれ鳥の飛び方を色々試しながら、楽しそうに飛んでいる様だった。
『鳥の姿の時の会話は、念話を使おう』
『そうね、鳥は話さないわね』
『エルレイさん、分かりました』
『はい』
『承知しました』
しばらく練習すると、皆鳥の様に飛び回る事が出来る様になっていた。
『皆上手くなったようだな、次は降り方と飛び立ち方だな、俺が手本を見せるから同じようにやってくれ』
『分かったわ』
『分かりました』
地上に近づき、羽ばたきながら速度を落とし、ゆっくりと降り立った。
続いてルリア、リリー、ロゼも同じ様に着地した、普段鳥の姿を見ているだろうから、上手く出来た様だな。
『では飛び立つぞ』
俺は羽ばたいて、徐々に速度を上げ飛び立った、他の皆も続いて飛び立っていた。
『問題無い様だな』
『そうね、最初は戸惑ったけど慣れて来たわ』
『鳥さんになったみたいです』
『リリー、上手いぞ』
これで準備は整ったな。
『エルレイ、ここまでやったという事は、ミスクール帝国に行くのよね』
『そうだ、とは言え今日は偵察だけだな』
『分かったわ、では行きましょう』
ルリアが先に飛んで行き、俺達はそれを追いかける様飛んで行った。
さて、今の内にロイジェルク様とマティアスに連絡を入れておこう。
『ロイジェルク様、今よろしいでしょうか?』
『エルレイ君、大丈夫だ』
『リースレイア王国は撤退し、防衛に専念する事となりました、それで私達はリースレイア王国を離れ、ミスクール帝国の偵察に向かっております』
『そうか、気を付けてくれたまえ、それとこちらの準備は整っている、いつでも取りに来るといい』
『ありがとうございます。偵察が終わり次第お伺いします』
『うむ、無事に戻って来るのを待っている』
リースレイア王国にいる間にロイジェルク様には動いて貰っていた、陛下からの許可を頂いて来て貰った訳だ。
ソートマス王国の方は問題無い様だが、キュロクバーラ王国の方はどうなったのだろう、マティアスに聞いて見よう。
『マティアス、今大丈夫だろうか?』
『エルレイ、大丈夫だ、俺に連絡が来たという事は、リースレイア王国は敗北したのか?』
『まだ完全に負けた訳では無いが、自国に戻り、防衛に専念する事となった』
『そうか、ミスクール帝国はエルレイの手に負えないくらい強かったのか?』
『強かったな、詳しい事はそちらに行ってから説明するよ』
『分かった、王は城にて待機しているから、いつ来て貰っても構わない』
『ありがとう、今ミスクール帝国の偵察に向かっているから、それが終わったらそちらに向かう』
『分かった、無理するなよ』
『もちろんだとも』
二人に連絡を終えたから、後は偵察してから行くだけだな。
ミスクール帝国の帝都の位置を俺達は知らないから、道沿いに飛び続け、一時間ほど飛んだ所で大きな街が見えて来た。
『エルレイ、あれがそうじゃないかしら?』
『エルレイさん、大きなお城が見えます』
『そうだな、やっと着いた様だ、念のため障壁を強化しておこう』
『分かったわ』
『分かりました』
帝都上空に到達し街を見渡す、リアネの街の三倍ほどあるのでは無いだろうか、以前大陸の半分を支配していただけの事はあるな。
『大きいわね』
『凄く栄えています』
『そうだな、何処か降りられる場所は無いだろうか・・・』
『エルレイ様、あの建物の上はいかがでしょうか?』
ロゼが見ている方角に、一際高い建物があり、屋根に降りられそうだ。
『あの場所に降り立とう』
『良さそうね』
屋根の上に五羽の鳥が降り立った、練習した甲斐があり、全く違和感を感じる事は無かった。
『手を広げているのに疲れました・・・』
『そうね、思ったのだけれども、街の近くで鳥になっても良かったのでは無いかしら?』
リゼが言う様に手を広げているのは意外と疲れる、そしてルリアが言った事にも途中で気が付いていたが、皆鳥の姿で飛ぶのを楽しんでいる様だったから、そのまま来た訳だ・・・。
『たまにはこう言うのも楽しくていいだろう』
『はい、とても楽しかったです』
リリーはとても楽しそうにしていたから、これでよかったのだ。
『それより街を見るわよ』
ルリアに言われて、改めて街並みを上から眺める、街には多くの人々が行き交い活気があり平和に見える。
城の方を見ると、ぼんやりしていて正確な姿を見る事は出来ない様だ、あれが結界なのだろう。
『エルレイ、城の中を見ないと意味が無いのでは無いかしら?』
『そうだが、あの結界があるから見に行く事は出来ないな・・・』
『グールは解除できないのかしら?』
『俺様剣だぜ!無理に決まってる!と言いたい所だが・・・出来ない事は無い、俺様で結界に触れれば、その時だけ魔力を吸収し解除できるぜ、その場から離れればまた結界は発動するだろうよ、何故なら結界を張っている元を壊したわけではねーからな!』
『使えるじゃない、エルレイ、行きましょう』
グールを使って結界に入れるのは嬉しいが、今は止めておこう。
『ルリア、もし見付かればミスクール帝国に警戒されてしまう、まだこちらの準備が出来ていないから、今日は止めておこう』
『準備とは何かしら?』
『この後ロイジェルク様の所に行って、キュロクバーラ帝国にも行く事になっている、それが終わらない事には、ミスクール帝国に攻め込む事は出来ないんだよ』
『分かったわ、エルレイは滅ぼした後の事を考えているのね』
『そう言う事だ、では街を出るとしよう』
『そうね』
『承知しました』
屋根の上から飛び立ち帝都の外へと飛んで、近くの山頂へと降り立った。
『ここに転移して来るのね』
『その通りだ、皆姿を元に戻してくれ』
ロイジェルク様の所に行くのに、鳥の姿ままではいけないだろう、皆魔法を解除し元の姿へと戻って行った。
「では転移するぞ」
皆と手を繋ぎ、ロイジェルク様の館へとやって来た。
ベルを鳴らし、ヴァイスさんに応接室へと案内して貰った。
「久々にゆっくり座れるわね」
「そうですね」
ルリアとリリーはソファーで寛いでいて、俺もソファーに座っているのだが、リゼとロゼは壁際に立っているので、少し申し訳なく思う。
二人はそれが当然だと思っているので、気にしている様子は無いのだが、今はメイド服では無いので違和感がある。
そう思っているとロイジェルク様が部屋に入って来た。
「ロイジェルク様、ただいま戻りました」
「お父様、ただいま」
「お父様、ただいま戻りました」
「うむ、エルレイ君、ルリア、リリー、無事で何よりだ」
ロイジェルク様はルリアとリリーの無事の姿を見て穏やかな表情を見せ、安心している様だった。
これからの事が危険で大変なのだけどな・・・。
「それで、キュロクバーラ王国への支援許可は下りたのでしょうか?」
「うむ、資金援助の許可は頂いた、詳しい内容については今後、キュロクバーラ王国との交渉で決めて行く事となる」
「ありがとうございます」
「これが陛下から預かった親書だ、キュロクバーラ王に渡してくれ、それと交渉の連絡役としてヴァイスを連れて行ってくれ」
「分かりました」
俺は親書を受け取った。
「では、これから向かいたいと思います」
「うむ、くれぐれも用心してくれたまえ、ルリアとリリーも用心するのだぞ」
「お父様、心配しなくても大丈夫よ」
「はい、お父様」
ロイジェルク様は、本来であればルリアとリリーを行かせたく無いのだろうが、説得出来ないと諦めている様だ・・・。
ロイジェルク様の為にルリアとリリーを、いや、皆無事に帰って来れるよう頑張るしか無いな。
ロイジェルク様は部屋を出て行かれた。
「ヴァイスさん、キュロクバーラ王国に行きましょうか」
「エルレイ様、よろしくお願いします」
皆とヴァイスさんを連れて、キュロクバーラ城の広場に転移して来た。
『マティアス、今着いた』
『エルレイ、迎えに行くから待っていてくれ』
暫くすると、城の中からマティアスが走って出て来てくれた。
「エルレイ、待たせてすまない」
「いえ、要件をお願いしているのはこちらですからね、マティアスに紹介します、今後交渉の連絡役となるヴァイスさんです」
俺がヴァイスさんを紹介すると、礼儀正しく一礼をして自己紹介をしてくれた、
「マティアス様、私はヴァイスと申します、よろしくお願いします」
「あぁ、よろしく頼む」
マティアスとヴァイスさんは握手を交わし、お互い念話が出来る様にしていた。
「エルレイ、王が待っている、着いて来てくれ」
「分かった」
マティアスに案内され、謁見室へと通された。
「エルレイ、ミスクール帝国は強かったのか?」
顔を見るなり王様はそう言って来た、確かに今はその事が一番重要か・・・。
「はい、魔法を吸収し、人を魔物に変え、更に一万以上の飛行部隊がいました」
「そうか・・・」
飛行部隊と聞いて、王様の表情が険しくなった、グリフォンでの優位性が無くなる訳だからな・・・。
「ですが、飛行部隊は魔法を吸収できませんので脅威ではありません、まだ何か隠している魔導具があるかも知れませんが、何とか対応出来るでしょう」
「ふむ、こちらでも古い歴史書を調べさせ分かった事がある、エルレイが今言ったような飛行部隊と、地上において無敵を誇った装甲車両部隊があった様だ」
「装甲車両ですか、それはどのような物か分かるのでしょうか?」
「歴史書によると、剣はおろか魔法も効かず、様々な魔法を撃ち出し、敵をなぎ倒して進むそうだ」
ゴーレムを想定していたが、装甲車両部隊か、こちらの方が楽そうだが、数が多そうだな。
「魔法が効かない相手への対策はしておりますので、大丈夫だと思います」
「それは頼もしいな、さて本題に入ろうか」
王様は真剣な表情で俺を見て来た、これからの話は、キュロクバーラ王国にミスクール帝国を滅ぼして貰うという事だからな。
「ソートマス王より預かって来た親書です、こちらを先にお読みください」
俺が親書を差し出すと文官が受け取り、王様の下へ届けられた。
王様はをれをじっくり確かめる様に読んでいた・・・。
「・・・ソートマス王国からの支援は分かった、エルレイは何をしてくれるのだ?」
王様は親書を読み終え俺に向けて聞いて来てた。
「まずはミスクール帝国侵攻の助力を致します、その後はキュロクバーラ王国全土の開発援助を行います」
「ほう、全土となると相当な労力と資金が必要となるぞ、それをエルレイが出せるのか?」
「労力の方は魔法で出来る範囲に限りますが、資金においてはソートマス王国からという事になります」
「なるほどな、マティアスはどう思う?お前の代にも関係してくる話だからな」
王様は横に控えているマティアスに意見を求めた、次の王がマティアスになるのだろうから当然の事だな、ラウニスカ王国とミスクール帝国の領土全ての開発となると、数十年は掛かるだろう。
「私は賛成できません、急速に領土を増やしては纏めるのが困難と思われます、そしていずれ反乱を起こされ、独立されるでしょう」
マティアスがそう思うのは正しい事だな、キュロクバーラ王国は実力主義で貴族がいない、よって人材も限られ、急速な領土拡大は破滅に繋がるのだろう。
それでもミスクール帝国と隣国であるキュロクバーラ王国が動いてくれないと、滅ぼした所で混乱が増すだけになってしまうから、どうにか侵攻してくれるよう説得しなければならない。
「親書にも書いてあると思いますが、領地を治める代官の貸与も致します、どうにか侵攻して頂けないでしょうか?」
俺は必死に説得を試みるが、二人の表情は厳しいままだ・・・。
しばらく沈黙が訪れる・・・それを破ったのはルリアだった。
「男ならさっさと決めなさい!ミスクール帝国を放置すれば、この国の人達も魔物に変えられてしまうかも知れないのよ!」
ルリアは胸を張り、王様に向け言い放った、下手をすれば処罰されてもおかしく無いんだぞ。
俺は心配そうに王様の表情を見ると、なぜか笑みを浮かべていた。
「わははははは、エルレイの嫁は肝が据わっておる様だな!そこまで言われては動かない訳には行かないな!
しかし、実際に統治するには広すぎる、そこでミスクール帝国を滅ぼした暁には、エルレイに、前回獲得したラウニスカ王国をくれてやる!」
王様がそう言った事で周囲がざわめきだした、しかし王様の決定に異を唱える者などいる訳もなく、ミスクール帝国を滅ぼした後、ラウニスカ王国の領土が俺の物となる事が決まってしまった。
「では協力して頂けるのですね!」
「うむ、詳しい作戦に関しては場所を改めて行う事にしよう」
「ありがとうございます」
ルリアに助けられて?ミスクール敵国への侵攻が決まった。
謁見室を後にし客間へと通された、時刻は夕暮れとなっており、今日はここに泊まり、明日作戦会議を開く事となった。
部屋でゆっくりしたいが、ヴァイスさんを先に送り届けないといけない、城の広間に出て、ヴァイスさんを送り届けて来た。
客間に戻ると、夕食は部屋に用意されており、皆で頂く事にした。
「ここの料理は使っている野菜が違っていて、美味しいわね」
「そうですね、ルフトル王国のお野菜も美味しかったですが、ここのも凄く美味しいです」
ルリアとリリーは気に入ってくれたようで何よりだ、リゼと俺は食べなれて来たから、そこまで新鮮に感じる事は無いな・・・。
「エルレイ様、このお野菜を領内で栽培する事は出来ないのでしょうか?」
「ロゼ、それはエンリーカに止められたんだよ、ここの野菜が欲しければ、俺の所の野菜を持って来て交換すればいいと言われてな」
「確かにそうですね、戦争が終わったらキュロクバーラ王国まで道を繋げましょう!」
「出来ればそうしたいが、道は戦争にも使われるからな、王様が許可を出してくれるか分からない・・・」
「それは不可侵条約を結んでいるので、関係無いのでは無いでしょうか?」
「俺が生きている間はそうだが、その後どうなるかは分からないからな、道は俺が死んでも残っているだろうし」
「それは残念ですね」
ロゼは肩を落としていた、道を作るにしてもこの場所は山に囲まれており、作るのは大変な作業になるだろう。
それよりグリフォンで運べるような物を作った方が早そうだ。
楽しい夕食を終え、ここの所歩き続けていたため、早めに眠る事にした。
翌朝会議室に呼ばれて中に入ると、王様とその王子達が揃っていた、マティアス以外の名前は忘れてしまったが・・・。
席に着き、暫くすると王様も部屋に入って来て会議が始まった。
「私が進行を務める」
マティアスが進行役の様だな。
「これが今回攻め滅ぼす、ミスクール帝国の地図になる」
マティアスがテーブルに地図を広げた、地図で場所を確認した事が無く、帝都の正確な位置を知らなかったから助かる。
なるほど、帝都は北よりの位置にある訳か、普通に攻め込むなら、かなり大変な事になりそうだな。
しかし今回はグリフォンがあるため、直接帝都まで行けるだろう。
「それでエルレイは、どの様に攻め込むつもりだ?」
「はい、転移で帝都近くの山まで移動し、一気に城を攻め落とすつもりです」
俺は地図に記された山を指した。
「エルレイはそれでいいかも知れないが、我々は飛んで行く事になるのだろうか?」
「いえ、皆さんもグリフォンと共に、転移でこの地まで移動して貰います」
「それは面白い!俺の部隊で城を攻め落とさせて貰う!」
マティアスの弟の誰かが声を上げた。
「ヴィートはまた部隊を壊滅させるから、任せられん!」
「またとは何だよ!前回も壊滅はしてないぞ!」
「マヌエルにヴィート、まだ会議は終わって無いぞ、喧嘩をしたければ終わってからやれ!」
マティアスが怒鳴ると二人とも大人しくなった、以前食堂で喧嘩した二人だったな、思い出したよ、しかし二人の名前はこれで覚えた!
「それで我々はこの前の様に城を破壊すればいいのか?」
その方が簡単で速いのだが、吸魔石を見つけて処理しなければならないので、いきなり破壊する事は出来ない。
「いえ、今回は城の制圧をお願いしたいのです、何故なら、人を魔物に変える魔石を見つけ出し、破壊しなければならないからです」
「分かった、それでエルレイはどうするのだ?」
「私は城に併設されている、魔道具の研究所に攻め込みます、恐らくこちらに魔石があると思われますので」
「そうだな、それでもし城の方にあった場合はどうすればいいのか?」
「城の方にはルリア、リリー、ロゼの三名を付けますので、魔物にされる魔石があったとしても、こちらで対処致します」
ルリア達はこの場にいなくて、勝手に決めているが、城と研究所同時に攻め込まないと意味が無いからな。
多分反対されるだろうが、会議の後、説得しなければならないな・・・。
「分かった、王よ、いかがなさいますか?」
マティアスは、今までずっと黙って聞いていた王に問いかけた。
「ふむ、確かに面白い作戦ではあるが、失敗した時の危険は大きいな、だが恐れていてはミスクール帝国に勝てるはずもない!
エルレイ、頼んだぞ!」
「はい、全力を持ってミスクール帝国を滅ぼしましょう」
「うむ、マヌエル!ヴィート!お前達の部隊で城を攻め落とせ!
ベニート!、レンツオ!お前達は国境を守り、不審な者を一切通す出ないぞ!
今日中に準備を整え、明朝、夜明けと共に出撃する!」
「「「「はっ!」」」」
王様が命令を下し、その場は解散となった。
俺も客間へと戻り、皆に説明する事にした。
「エルレイ、会議はどうなったのかしら?」
部屋に入るなり、ルリアに聞かれた、気になって仕方が無かったのだろうな。
「明朝、夜明けと共に出撃する事になったよ」
「それで?」
「俺達とグリフォン部隊で、城を一気に攻め落とす事になった、そこでルリアとリリーとロゼには、グリフォン部隊と共に城に攻め込んで貰いたい」
「エルレイはどうするのよ」
「俺はリゼと共に、魔道具の研究所に攻め込む!」
「エルレイの方が危険じゃない!私もそっちに行くわよ!」
まぁそう言うだろうと思ってはいたが、戦闘に慣れていない、リリーとロゼを二人にするのは危険だ。
「ルリア、城に危険が無い訳じゃない、むしろ皇帝を守るための強力な魔導具があるかも知れないから、城の方に行ってくれないだろうか?」
ルリアは暫く考えて答えを出した。
「・・・分かったわ、リリーとロゼの二人だけにする訳にも行かない、と言う事でしょう」
「そうだ、本当は五人全員で纏まっていたいが、吸魔石が何処にあるのか分からない以上、城と研究所を同時に攻める必要があるんだよ」
「そうね、リゼ!危険だと判断した場合、無理やりにでもエルレイを連れて逃げなさい!」
「はい、命に代えてもエルレイ様をお守りします!」
「命をかけては駄目よ、リゼが死んだらみんなが悲しむじゃない、リゼも無事に帰って来るのよ!」
「はい、分かりました」
なぜリゼに言うのだろう、俺は危険な事には近づいていないと思うのだがな・・・。
さて、ロイジェルク様に報告しておかないといけないだろう。
『ロイジェルク様、エルレイです』
『エルレイ君、どうなったかね?』
『はい、明朝攻め込む事となりました』
『そうか、気を付けるのだぞ!』
『はい、十分気を付けます、それと、ミスクール帝国を滅ぼした後、ラウニスカ王国の領土全てを頂く事になったのですが、領地を治める貴族の準備をお任せしてもよろしいでしょうか?』
『うむ、任せておくが良い、しかし全土を寄こして来たか、陛下は半分要求したと言っておったのだがな・・・』
やはり陛下が要求したのか、俺としては管理が面倒な領土は全く要らないのだが、そこはロイジェルク様とアドルフがどうにかしてくれるだろう。
待てよ、親書に書いてあったという事は、王様は最初から俺に領土を寄こすつもりだった?それなのにマティアスに聞いたりしていたよな。
エンリーカ達を婚約者として渡す時もそうだったが、あの王様はかなりの曲者だな、そうで無ければ王様には慣れないのかもしれないが、俺としては非常にやりにくい相手だ・・・。
『ロイジェルク様には大変ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします』
『それも、ミスクール帝国に勝ってからの話だ、油断する出ないぞ』
『はい、肝に銘じます』
ロイジェルク様への連絡を終えると、やる事が無くなってしまったな。
ルリア達はソファーで寛いでいるし、明日の準備で何か見落としている事は無いだろうか?
弾は箱に詰めて飛行魔法で運べるようにしているし、転移する場所も決めてある。
俺達が魔物にならないように、障壁に込める魔力を多めにしておけばいいし、結界に関しては攻め込むのだから、見つかっても関係ない・・・。
俺が考え込んでいると、ルリアに声を掛けられた。
「エルレイ、何を悩んでいるのよ?」
「明日の準備で、何か忘れている事は無いかと思って・・・」
「今更悩む事なんて無いわよ、明日は全力で当たればいいのよ!」
「まぁそうなんだけどさ」
確かにルリアの言う通りなのだが、相手の情報をすべて調べ切った訳ではなく、不安に思ってしまう。
「エルレイ、分からない事を考えても無駄よ!今日は暇なんでしょ?」
「今のところ、特にやる事は無いかな・・・」
「じゃぁ出かけるわよ、リゼ、ロゼ、準備して頂戴」
「「承知しました」」
ルリアがそう言うと、二人とも喜んで出かける準備を始めてしまった、今更出かけないとは言えないので、大人しく従うことにした。
出かける事を、マティアスに知らせておかないといけないな。
『マティアス、今いいか?』
『エルレイ、構わないぞ』
『今から街に出かける事になったのだが、何か用事があったりするだろうか?』
『特にないな、エルレイ達は明日に備えて英気を養ってくるといい』
『ありがとう』
準備は整ったようなので、街へ出かける事にした。
リリーと手をつなぎ、反対側をロゼとつないだ。
「エルレイさん、この街は平和でいいですね」
「そうだな、とても素晴らしい事だ」
街を歩いていても、襲われたり絡んでくる人はいないが、挨拶は良くされる。
「エルレイ様は、この街でも有名なのですね」
エンリーカ達と歩いていたり、街の人の治療も行ったから、皆友好的に話しかけてくれている。
リディアが案内してくれたお菓子屋も、俺の顔を覚えていてくれたようで、にこやかに話しかけてくれてお菓子を作ってくれた。
その他のお店にも寄ったが、どのお店も似たような対応で、快く俺達を迎え入れてくれた。
「エルレイさん、楽しかったですね」
リリーはあちこちの店で買い物が出来て、満足した表情を浮かべていた。
「皆いい人達ばかりで、買い物していて気持ちが良かったな」
「はい」
俺の街もこの様な感じに出来ればいいのだが、それをするためには護衛なしで日頃から街に出歩かないといけないな。
当然アドルフが許してくれるはずもなく、この街の様に、閉ざされた環境でないと無理だろうか・・・。
そろそろお昼時となり、俺達は街を出て、エミリアのお気に入りの場所へとやって来た。
今日も沢山の花が咲き誇っていて、心が癒されて行く。
今日はお弁当を作って来ていなかったので、リゼに材料と調理道具を渡して作って貰う事にした。
調理台を作った後、ロゼと二人でテーブルと椅子を作り料理が出来上がるのを待った。
「皆様、お待たせしました」
出来上がった料理がリゼによってテーブルに並べられ、皆で頂く事となった。
「昨日まで戦場にいたのが嘘の様ね」
「そうですね、風が気持ちいいです」
昨日までは行軍の途中で急いで食べていたから、こうしてゆっくりと昼食を摂るのも久々だ。
また明日からは・・・いや、明日の事は今考えないでおこう。
皆で会話しながらゆっくりと食事を終え、ロゼに入れて貰ったお茶を頂きながら、景色をぼーっと眺めていると、リリーが俺の肩に頭を乗せて来た。
「こうしていると.心が落ち着きます」
「俺もリリーが傍にいると、安心するよ」
逆隣りに座っていたロゼも、俺に体を預けて来た、ロゼから行動して来るのは珍しい。
「エルレイ様、幸せです」
「俺も幸せだよ」
三人で幸せを感じていると、正面に座っているルリアは横目で、リゼはじーっとこちらを羨ましそうに見ていた。
お昼まではリリーとロゼの時間だから邪魔をして来る事は無いが、ルリアとリゼは急いでお茶を飲み終え、スッと立ち上がり、リゼは食器をかたずけ始めた。
ルリアは早く出掛けるわよ!っといった感じの目つきでこちらを見ている、リリーとロゼもその視線に気が付き、俺から離れて移動する準備を始めた。
かたずけが終わり、ルリアとリゼと手を繋ぎ歩き出した。
「ルリア、これからどこに行くのだろうか?」
「特に決めて無いわよ、リゼは行きたい所があるかしら?」
「そうですね、このまま気ままに散歩でいいのではないでしょうか?」
「だそうよ」
「そうだな、ゆっくり散歩しますか」
特に急ぐ必要もないし、二人とも楽しそうにしているから構わないか、三人で会話をしながらゆっくり歩いて行く。
リリーとロゼも後ろを二人で話しながら着いて来ている。
景色は畑と山ばかりだが、こうしたゆっくりとした時間は、とても貴重な時間だと言える。
しばらく散歩を続けていると、リゼが休憩しようと言って来た。
「エルレイ様、あの木陰で少し休みましょう」
「分かった」
木陰に移動し、テーブルクロスを取り出し、地面に敷いてそこに座った。
俺だけならそのまま座ったのだが、皆の服を汚す訳には行かない、今は普段着を着ていて汚しても構わないとは思うが、リゼとロゼはアルティナ姉さんから借りている服だから気にするだろう。
「エルレイ様、あれを出してください」
リゼに以前ここで買った蜂蜜漬けと、コップを渡す、蜂蜜漬けの半分は使用人達に分けてやり、残りの半分は自分達用にと部屋に置いてある。
これは出かける時に分けて持って来ていた分だ、残りも少なくなっていたから、午前中に買っておいたのも別にある。
リゼは蜂蜜漬けをコップに少し入れて、魔法で冷やした水を作り、コップを満たしていく。
「出来ました、皆様どうぞ」
リゼからコップを受け取り、一口飲むと、良く冷えてて甘くて美味しく、乾いた喉が潤って行く。
「美味いな~」
「アライアさんとインドロさんに、感謝をしなくてはね」
「そうですね」
「ルリアは良く名前を憶えているな」
俺はルリアに言われるまで、蜂蜜漬けを作っていた人の名前を忘れていた。
「エルレイは人の名前を覚える気が無いわよね」
ルリアは呆れた表情で俺を見ていた。
「そう言う訳では無いのだが、リースレイア王国でも大勢の名前を覚えないといけなかったし、一度会っただけの人の名前はなかなか覚えられない・・・」
「貴族なのだから、人の名前を忘れては駄目よ!」
貴族ってそういう物なのか、俺の領地の貴族の名前で憶えているのは、国境で難民の対応に当たったアヒムだけだな・・・不味いのかもしれない。
リアネ城に戻ったら、領地の貴族の名前だけでも覚える事にしよう。
俺が飲み終えた頃、リゼが俺に体を預けて来た、お昼にリリーとロゼにしてあげたからな。
ルリアは横目でこちらを見て来ているが、近寄っては来ない、ルリアの性格上自ら進んで甘えて来る事は無いので、俺はルリアの肩に手を回して抱きよせた。
「私は別に、暑いから近寄りたく無かったのよ」
ルリアはそう言うが離れようとはしない。
「俺がルリアとこうしたかったから、我慢してくれないか?」
「しょうがないわね・・・」
ルリアはそう言うと、完全に俺に体を預けて来た。
「エルレイ様、私にも手を回してくださいよ」
リゼは十分俺と密着していると思うが、やらないと機嫌を損ねるので、腕を回して抱きしめてやった。
二人の柔らさと体温を感じ、ずっとこうしていたいと思い、幸せを感じる。
「ルリア様、エルレイ様に貸しがありましたよね?」
「まだ使っていないから、残っているわよ」
二人が俺を挟んで貸しがあった事を確認している、複数人で飛べる方法を、ルリアから教えて貰った時の物だ。
あれから何も要求されて無いから、当然まだ残っている、リゼは何を要求するつもりだろうか?
念話で話しているのだろうか、徐々にルリアの顔が赤くなって行っている。
「エルレイ様、話がまとまりました」
「ちょっとリゼ、まだ納得して無いわよ!」
ルリアは慌ててリゼを止めている様だが、リゼは決定しましたというような表情を見せていた。
「今要求しないと、またこの様な機会がいつ来るか分かりませんよ!」
「それはそうかも知れないけど・・・」
「ルリア、いいじゃないですか、私もしてみたいですし」
リリーもルリアを説得し始めた、いったい何を要求されるのだろうか?
「ルリア様、私も恥ずかしいですが、ここでためらっていては、他の人達に先を越されてしまうかも知れません!」
ロゼがルリアを説得した事によって、ルリアが折れた。
「分かったわよ、好きにすればいいじゃない」
ルリアはそう言うと、何故か俺から顔を背けてしまった。
「はい、ルリア様の許可も頂きましたので、エルレイ様に貸しを返して頂きます」
リゼは嬉しそうに此方を見て来た。
「分かった、それで要求は何なのだろうか・・・」
この状況だと、どの様な要求でも俺は飲まないといけないだろう、明日は戦争だから、無茶な要求は無いと思いたい・・・。
俺は息を飲み、リゼからの要求を待った・・・。
「エルレイ様・・・私達と口づけをしてください!」
・・・口づけか、俺は安心して息を吐いた。
「はぁ~」
「エルレイ様、ため息をつきましたね!私達は真剣なんですよ!」
リゼに怒られてしまった、確かにリリー、リゼ、ロゼは真剣な表情をしている。
「すまない、もっと凄い要求をされるのかとビクビクしていたのだが、口づけと聞いて安心したんだよ」
「えっ!もっと凄い事要求してもよかったんですか!」
リゼが興奮して俺に詰め寄って来た。
「いや、要求は口づけだな!ではルリアからにしよう」
俺がそう言うと、ルリアは立ち上がって離れてしまった。
「私は別に最後でも構わないわよ・・・」
ルリアはこう言っているが、一番最初に婚約者となった、ルリアからしてやらないといけない。
今までも皆と口づけをしようと何度も思ったのだが、やはりルリアにしてない事を他の婚約者にする訳にも行かず、今日まで来たのだ。
ルリアは自分から甘えて来る事は少なく、中々機会が無かったからな。
皆も分かっているから、誰一人として先にしてくれとは、言って来ない。
俺は立ち上がり、ルリアの所に行って、背中から優しく抱きしめた。
ルリアはビクッとしたが、離れる事は無かった。
「ルリア、一番最初に俺と婚約したルリアからでないと、他の婚約者には出来ないんだよ」
ルリアは暫く沈黙していたが、あまり力を入れて無かった俺の腕を取って、俺の方に向き直ってくれた。
「・・・分かったわ・・・好きにしなさい」
ルリアは俯き加減で、顔は真っ赤だ。
「ルリア、愛しているよ」
俺はルリアの体に手を回し、ゆっくり抱きしめる様にして、ルリアの唇に優しく口づけをした。
ルリアの柔らかい唇の感触を楽しんでいると、ルリアから突き飛ばされてしまった。
「ぷはっ!いつまでやってるのよ!」
ルリアは息を止めていた様だ・・・。
「ルリアとずっと口づけをしていたかったのだが・・・」
「またいつでもしてあげるわよ!それよりリリー達が待っているでしょ!」
それもそうだな、それにまたしてくれると言ってくれたからな、今度からは遠慮なくさせて貰おう。
俺がリリーの方へ行くと、リリーは俺に抱き付いて来た。
「リリー、愛しているよ」
「エルレイさん、私も愛しています」
リリーと抱き合ったまま見つめ合い、ゆっくりと口づけを交わした・・・。
暫くして、どちらからともなく離れた、リリーは顔を赤くし、口づけの余韻に浸っているような感じで、ぼーっとしている。
俺も、もう少しリリーとの余韻に浸っていたいが、リゼとロゼが待っているので、リゼの所へ向かった。
当然の事の様に、リゼは俺を抱きしめて来たが、身長差があり、この状態で口づけをする事が出来ないから、リゼを引きはがした。
「リゼ、少ししゃがんでくれないか」
「そうですね、これでいいですか?」
リゼには少し辛い体勢になってしまうが、こうして貰わないと届かないからな。
「リゼ、好きだよ」
「えぇ~、何で私は愛じゃないんですか!」
リゼの事を愛していない訳では無いが、何となくリゼの顔を見ていると、恥ずかしくて言えなかった・・・。
「皆同じより、変えた方が良いかなと思って・・・」
「そこは変えては駄目な所です!やり直してください!」
確かにそうかも知れないが、やり直すのはもっと恥ずかしいぞ、でも言ってやらないといけないよな・・・。
「リゼ、愛しているよ」
「はい、私も愛しています」
リゼと口づけを交わす・・・そのままリゼに抱きしめられ、暫く解放してくれなかった。
リゼが満足した頃解放され、やっとロゼの番になった。
ロゼはしゃがんで待っていてくれた。
「ロゼ、愛している」
「エルレイ様、私も愛しております」
ロゼと口づけをすると、恥ずかしかったのか、ロゼはすぐ唇を離してしまった。
ロゼだけ短い時間にする訳には行かないので、ロゼの頬を両手で挟んで、もう一度口づけをした。
ロゼは驚いた様だったが、大人しく受け入れてくれた。
十分ロゼとの口づけを堪能した所で、ロゼを解放した。
「エルレイ様、強引過ぎです」
ロゼはそう言っているが、怒っているような感じでは無かった。
「皆と同じように、ロゼも愛しているから、同じ時間口づけしていないといけないだろうと思ってな」
「そうでしたか、ありがとうございます」
確かに少し強引だったから、罪滅ぼしの為にロゼを抱きしめてやった。
皆との口づけを終え、明日は早いから帰る事にした。
ルリアとリゼと手を繋いで帰っているが、ルリアは城に着くまで、俺と目を合わせてはくれなかった・・・。
夕食後は早めに寝て、明日に備える事にした・・・。
翌朝、まだ空が白み始める前に、リゼに起こされた。
「エルレイ様、起きてください」
まだ少し眠いが、今日は大切な日なので起き上がった。
「リゼ、おはよう」
「エルレイ様、おはようございます」
ロゼもルリアとリリーを起こし、出掛ける準備を始めていた。
俺もリゼと共に準備をし、最後にグールを取り出して、ナイフ状だったのを剣の形に変えた。
「グール、今日は役に立って貰うぞ!」
「やっと俺様の出番って訳だ!任せておきな!」
吸魔石を発見し、破壊しないといけないからな、グールを腰に下げ、出掛ける準備は整った。
昨日、ロゼが用意しておいた朝食を食べていると、マティアスが部屋にやって来た。
「エルレイ、準備が出来次第、城の外に出て来てくれ」
「分かった」
俺達は急いで朝食を食べ終え、城の外へと向かった。
城の外に見える山からは、まだ太陽は見えていない。
広場に向かうと、王様とマティアスの前に、グリフォンに乗った兵士達が整列をしていた。
「すみません、お待たせしました」
「うむ、エルレイ、今日は頼んだぞ!」
「はい」
俺達も兵士達の所に並ぼうとしたら、マティアスにここでいいと、横にならばされた。
「今日は、ミスクール帝国の帝都を叩く!
一気に城に攻め込み、皇帝を討ち取るぞ!!」
「「「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」
王様の言葉が終わると、マティアスが俺に振って来た。
「これより、ミスクール帝都近くの山頂に出る転移門を出します、時間は十分にあるので、慌てず門をくぐって下さい」
俺が転移門だと言うと周囲はざわめきだし、ルリアとリリーは心配そうな表情で、俺に詰め寄って来た。
「転移門って、大丈夫なの!」
「エルレイさん、無茶しないで下さい」
以前使った時は、魔力切れで倒れて、ルリアとリリーには心配をかけたからな。
「大丈夫、魔力は十分足りているから、倒れる事は無いよ」
「本当でしょうね!倒れたら殴るわよ!」
ルリア、倒れてからは殴らないで欲しい、実際にそうする訳では無いのだろうが、ルリアなりに心配してくれているのだろう。
「それに、これだけの人数を転移させるより、転移門を出した方が魔力は少なく済む」
「確かにそうかも知れないわね」
グリフォンと兵士を合わせると五百以上はいるだろう、空間転移よりは転移門の方が、はるかに魔力が少なくて済むのは間違いない。
「これより転移門を出します!」
兵士達の前に出て、ミスクール帝国の山頂へと続く転移門を出現させた。
「行くぞ!!!」
皆転移門に驚いていたが、グリフォンに乗ったヴィートが最初に転移門を通過して行った事で、他の兵士達も続々と転移門を通過して行った。
グリフォンの足が速く、皆騎乗していたので五分ほどで全員転移門を通過して行った。
最後に王様とマティアスもグリフォンに乗って通過して行き、俺達も転移門を通ってミスクール帝国の山頂へと出た。
転移門を消し、王様の所へ行った。
「これより城に攻め込みます、私達が先行するので、皆さんも遅れないよう着いて来て下さい!」
収納より弾を入れた箱を、ルリアに二個、ロゼに一個渡し、俺も一個取り出して、リゼを抱えて飛び立った。
グリフォンも一斉に飛び立ち、綺麗に隊列を組んで俺達に着いて来ている。
空はようやく太陽が顔を出し、明るくなってきていた。
『ルリア、リリー、リゼ、ロゼ、決して無理はするなよ、無事に帰って来る事を優先してくれ!』
『分かっているわよ、それを言うなら、エルレイこそ無茶しないのよ!』
『そうです、エルレイさんは決して無茶をしないで下さい!』
『リゼ、エルレイ様をちゃんと守るのですよ!』
『エルレイ様の安全は、私がお守りしますから安心してください』
皆の事を心配したら、逆に俺の事を心配されてしまった、俺はそんなに無茶をしているだろうか?
俺としては、安全な所から攻撃したりしていると思っているのだが・・・。
『エルレイ、城が近づいて来たわよ』
『分かっている、グール出番だ!』
『俺様に任せておきなって!』
グールを抜き、前に突き出して、城を覆っている結界に突き立てた!
結界はグールに吸収され、今までぼんやりとしか見えなかった城の輪郭が、はっきりと確認出来る様になった。
「今だ、突入!!」
グールに魔力を吸収された結界の魔道具の効果は無くなったが、また魔力を得る事が出来れば発動する、しかし敵に気付かれず、城まで攻め込む時間が稼げればそれでよかった。
『ルリア、リリー、ロゼ、城の方は任せた!』
『分かったわ』
『はい』
『承知しました』
「リゼ、俺達はあの建物に侵入する!攻撃して来る者には容赦しなくていい!」
「はい!」
「グールは吸魔石がありそうだったら、そちらに誘導してくれ!」
「分かってるぜ!」
俺は研究所の前に降り立ち、リゼを下ろした。
突然目の前に現れた俺達に、研究所の入り口で警備していた兵士が二人、襲い掛かって来た。
「アイシクルショット!」
リゼの魔法によって貫かれ、二人共倒れてしまった。
研究所の扉を開け、中に入って行く、早朝なだけあって、中は静まりかえっていた。
長い廊下が続き、左右に扉がいくつもある、一つ一つ確認している暇はないので、グールを頼りに奥へと進んでいく。
廊下の奥までやってきたが、グールは何も言わない。
「グール、どうなっているんだ?」
「マスター、地下のようだぜ!」
地下か、ここまで来たとき下に降りる階段を見つける事は無かった。
「どこから降りられるか分かるか?」
「さーな、建物の構造までは分からねーよ」
「それもそうか」
「エルレイ様、どういたします?」
「扉を全部確認していくしかないだろう」
「そうですね」
リゼと扉を一つずつ開けて確認していく、部屋の中はほとんど同じで、机と本棚が幾つも置かれており、研究資料をまとめている部屋なのだろう。
やがて奥へと続く廊下を発見した。
「リゼ、ここだろう」
「はい」
廊下をさらに進むと扉があり、鍵がかかっていて開かなかった。
「エルレイ様、壊しますね」
「任せた」
リゼは鍵穴の所を高温で溶かし、扉を蹴って開けた。
「エルレイ様、階段がありました!」
リゼが蹴破った扉の先に、地下へと続く階段があった、俺達は慎重に階段を下りていく。
「どうやらここが魔道具製作所のようだな」
「見た事がない器具がたくさん置いてあります」
様々な器具が置かれていて、どれも興味深いが今はそれどころではないな、それに吸魔石を破壊し終わったら、この研究所全て破壊するつもりだ。
二度と人を魔物に変えるような物を作り出せないよう、徹底的に破壊しておかなければならない!
「マスター、あっちのようだぜ!」
グールの言う方向に進んでいく、幸い人は誰もいないから邪魔をされず奥へとたどり着いた。
「この部屋だ!」
重厚な扉があり、いかにも重要な物を守っていそうな感じだ。
「エルレイ様、壊しますね」
リゼが先ほどと同じように扉を破壊しようと試みたが、扉は壊れることなく、リゼの魔法は吸収されているようだった。
「エルレイ様、ゴーレムの時と同じような感じがします」
「そうだな、リゼ、後ろに下がってくれ」
「はい」
俺は背後に浮かせていた箱から弾を取り出し、扉に向け撃ち出した。
弾は鍵穴を貫通し、扉を押すと、ゆっくりと開いて行った。
部屋の中に入ると、中央に白くぼんやりと光る大きな岩が置かれており、何かの結界が張られているようだった。
「マスター、あれが吸魔石だ!」
「グール、壊せるのか?結界が張られているようだが・・・」
「問題ないぜ、大方、吸魔石へ魔力を吸収させないよう、障壁を張っているだだろうさ!」
「そうか、ではどうすればいい?」
「俺様を吸魔石に突き立てるだけでいいぜ!」
「分かった、グール、頼んだぞ!」
俺はグールを力いっぱい吸魔石に突き立てた!
グールは吸い込まれる様に吸魔石に突き刺さり、力を込めていた俺は、前に倒れこみそうになった。
グールが突き刺さった吸魔石は、白くぼんやり光っていたのが徐々に薄れていき、最後には砕け散って砂になってしまっていた。
「マスター、終わったぜ!」
「グール、他にも無いか調べてくれ!」
「吸魔石の反応は、もうねーな、ただ、そこの棚に魔石があるようだぜ!」
グールが指摘した棚を調べると大量の魔石を発見した、それをすべてグールで破壊し終えた。
「リゼ、この研究所をすべて燃やし尽くすぞ!」
「分かりました」
俺はリゼを抱えて浮かび上がる。
「行きますよ~、ファイヤーウォール!」
リゼの魔法によって、周囲はたちまち火の海となる、俺達は地下を飛び回り、火を放っていく。
地下に火を放ち終わり、階段を上っていき一階に出ると、騒ぎで気が付かれたのだろう、研究員と思われる人たちが入ってきていたが、地下から噴き出る炎を見て逃げ出していた。
さらに俺達は、各部屋にも火を放ち建物全体に炎が回ったところで、外に飛び出した・・・。
≪ルリア視点≫
私達は城の玄関に降り立つと同時に、門番を倒したわ。
私達に続いて、グリフォン部隊も降り立ち、グリフォンから一人降りて来てまた飛び立っていった、どうやらグリフォン自体は上空で待機するようね。
全員揃った所で、城へと突入したわ、私は弾が入った箱を背後に二個持っているので、浮いたまま移動していた。
私達の目的は、城の制圧と皇帝の確保、皇帝の確保はキュロクバーラ軍に任せるとして、私の役割は敵の排除ね。
城の中は早朝と言う事もあり、使用人たちが忙しそうに働いていたけど、私達を見るなり驚き、逃げ惑う者や、襲って来る者もいた、襲って来る者は容赦なく排除するわ。
奥に進んで行くと、近衛兵と思われる集団に出くわしたわ。
魔導具で武装している様だけど、残念な事に私達の敵では無いわね。
ウインドカッターを使い次々と倒していき、豪華な扉の前に辿り着いたわ、恐らく皇帝の寝室の様ね。
後ろに着いて来ている、キュロクバーラ軍に目配せをして、道を譲ってあげたわ。
「リリー、ロゼ、他の所を探索に行くわよ」
「ルリア、ここはもういいのでしょうか?」
「皇族を捕らえるのは、私達の仕事では無いわ」
「そうですね、では行きましょう」
「使用人達にも気を付けなさい、カリナみたいな強い人がいるかも知れないわ」
「承知しました」
リリーとロゼに注意したけど、私自身も油断しないで気を付けないといけないわね。
気を引き締めて、城内の探索をする事にしたわ。
三人でくまなく城内を探し回ったけど、エルレイが探している魔石を見つける事は出来なかったわ。
となると、敵が城内に入って来ない様に、城の玄関を守る必要があるわね。
「リリー、ロゼ、あの窓から外に出て、城の玄関を守るわよ」
「そうですね、外が随分と騒がしい様ですからね」
「承知しました」
窓の外からは戦闘音が聞こえて来ていた、窓から飛び出し、戦闘音が聞こえて来る玄関へと向かったわ。
案の定、敵兵が城の中に入ろうと、玄関でキュロクバーラ軍と交戦していたわ、私は敵兵に向け魔法を撃ち込み、玄関の前に降り立ったわ。
「ここは私達で守るから、貴方達は下がりなさい!リリーは負傷者の治療を任せるわね、ロゼはリリーに着いて行ってやって頂戴」
「はい」
「承知しました、ルリア様、お気を付けて」
さて、先程の私の魔法で敵は怯んでいる様だけど、まだ完全に戦意を失っている訳では無さそうね。
「死にたい奴から、掛かって来なさい!」
私はファイヤーボールを頭上に大量に浮かべ、敵を迎え撃つ事にしたわ。
先程までは城内で得意な炎を使う事が出来なかったけれど、ここなら遠慮はいらないわよね。
敵は私のファイヤーボールを見て恐怖を覚えたのか、逃げ出して行ってしまったわ。
少し数を多く出し過ぎたかしら・・・やってしまった物は仕方が無いわね。
エルレイとリゼはどうしているのかしら?そう思っていると、エルレイ達が入って行った建物から炎が立ち上っているのが見えたわ。
『エルレイ、リゼ、無事なの!』
私は心配になり、念話を送った・・・。
≪ステフィン視点≫
「ステフィン室長!起きてください!」
気持ちよく寝ていた所、部下に叩き起こされた。
「くふふ、こんなに朝早くから何事ですか・・・」
昨夜も遅くまで、あの魔法使いに対抗するための研究をしていて、余り寝ていなかった。
「敵です!キュロクバーラ王国軍が城に攻め込んでいます!」
「くふふふ、警報は鳴らなかったようですが?」
結界内に侵入者が入ると、ステフィンに知らせが行くようになっていた。
「それは分かりません、とにかく早く起きて侵入者を撃退しましょう!」
「くふふ、撃退するのは私の役目ではありませんよ」
「確かにそうですけど、敵は研究所にも侵入しているのです!」
「くふ、それを早く言いなさい!!」
私は慌てて飛び起き、服を羽織って部屋を飛び出しました。
私達が寝泊まりしている施設は、研究所の隣で直ぐに辿り着きます。
「くふふ、敵は何人入って行ったのですか?」
「偶然見た署員の話によりますと、子供と少女の二名だったという事でした」
「くふふふ、それは困りましたね・・・」
私は足を止め考えます、子供と少女と言う事は、間違いなくあの魔法使いでしょう、このまま中に入って行っても負けるのは目に見えています、となればこの城を守る様に配置していた、古代兵器を動かした方が良いでしょう。
「ステフィン室長、どうなさいましたか?」
「くふふ、古代兵器を動かします、動かせる者を集めて来て下さい」
「はい、ですがあれはまだ浮き上がる事が出来ません」
「くふふ、城を守るのに、浮き上がる事は必要無いでしょう」
「はい、分かりました、すぐに集めてまいります!」
私は急いで古代兵器の所に辿り着き乗り込みました、防衛用にと、すでに魔力は十分に貯めておいて助かりました。
今の所二十台しか修理出来ていませんが、あの魔法使いを倒すのには十分でしょう。
何しろこの古代兵器には、魔法を吸収し魔力へと変え、動力にする事が出来るのですから。
魔法を吸収するだけなら、私が作った魔石でも可能ですが、この古代兵器はいくらでも吸収できますし、魔物を作り出したりはしません。
私が追い求めるところの、一つの形がここにあるのです。
残念なのは、まだ私がこれを作り出す所まで至って無い事ですね。
しかし、あと少しで作れそうな所まで来ています、ここであの魔法使いに負ける訳には行かないのです。
部下たちが、ようやく古代兵器へ乗り込む事が完了したようです。
私は外に声を轟かせる魔道具を使い、指令を与えます。
「くふふ、目標は研究所に忍び込んだ賊です!まずはその二人を倒し、その後で、城に入ったキュロクバーラ王国軍を排除します!」
古代兵器を起動させ、研究所へと向かいます。
研究所に近づくと、火の手が上がっているのを確認出来ました。
「くふ、おのれ!私の研究所に火を放つとは許せん!必ず敵を殺しますよ!」
「「「はい」」」
私は古代兵器を研究所へと向け、加速させました・・・。
≪エルレイ視点≫
燃え盛る研究所を飛び出した所で、ルリアから念話が入った。
『エルレイ、リゼ、無事なの!』
『ルリア、こっちは大丈夫だ』
『ルリア様、無事です、そちらはは大丈夫でしょうか?』
「えぇ、こっちも無事よ、今城の玄関を守っているわ、それより研究所はなぜ燃えているのよ』
『吸魔石を無事破壊したから、二度と作れない様に、研究所に火を放った訳だ』
『それなら先に教えておきなさいよ!』
『ルリア、心配かけてすまなかった』
確かに事前に連絡入れて置くべきだったな、もし城が燃えていたら、思いっ切り心配しただろうからな・・・。
「エルレイ様、何か変な物がこちらに迫ってきています」
リゼに言われて前を見ると、確かに変な物がこちらに来ていた。
「あれが古代兵器でしょうか?」
「そうかも知れないな・・・」
王様から装甲車両と聞いていたが、あれは車両には見えない、何故なら蜘蛛の様に足が生えていて、歩いてこちらに来ているからだ。
「へぇ、まだ動くあれがあったのかよ!」
「グールはあれが何か知っているのか?」
「俺様千五百歳だぜ!大概の事は知っているさ」
そう言えばそうだったな、最初からグールに聞いていれば、リースレイア王国に行く必要無かったのでは無いだろうか?
「もしかして、ゴーレムとかも知っているのか?」
「知っているぜ、あの蜘蛛みたいなやつと、ゴーレムに使われている物は同じだ、そもそもあれを作ったのが、クロームウェルだからな!」
・・・グールが魔法を吸収するという所で気が付くべきだった、つまり俺は、クロームウェルの遺産に振り回されているという訳だ・・・。
「エルレイ様、クロームウェルを殺してやりたいですね!」
リゼもゴーレムの攻撃で、俺と一緒に吹き飛ばされたからな、出来れば俺もクロームウェルを殺したい・・・。
「そうだな、しかし今は目の前の敵に集中しよう」
「はい」
そのクロームウェルの遺産である、蜘蛛の様な古代兵器が二十台、俺達の前で停止した。
「くふふ、私は魔道具開発室長ステフィン、貴方はソートマス王国の魔法使いですね、私の大切な研究所を燃やした罪で、今から殺してあげます!」
蜘蛛の古代兵器から、大きな声が聞こえて来た、あれは声を大きくする魔導具だろうか?
ぜひとも欲しい物だな、あれがあれば、武闘大会でエルゼが声を張り上げなくて済む、だが今は目の前の敵を倒す事に集中しよう。
「私はソートマス王国の魔法使いエルレイ!私もお前を殺したいと思っていた所だ、覚悟をするんだな!」
俺も大声を張り上げて言い返した、ステフィンと名乗る者が人を魔物に変える魔石を作った奴だろう。
「くふふ、魔法使いの分際で、この私に刃向かった事を後悔させて差し上げます」
「エルレイ様、あいつの笑い声がむかつきます!やっちゃっていいですか!」
「俺もそう思う、リゼ、弾はいくらでもあるから、遠慮なく撃ち込んでやれ!」
「はい!行きます!」
敵もこちらに向け、移動しながら、魔法を撃ち出していた。
敵の魔法自体は障壁で守れるからどうでもいいが、蜘蛛の古代兵器は素早い動きで近寄って来て、足で俺を串刺しにしようとする。
足の攻撃を受けると、障壁は吸収され、串刺しにされてしまうだろう。
俺はそれを必死に避けているせいで、リゼの撃ち出す弾が狙い通りに撃ち出せなくて、なかなか当たらないでいた。
「エルレイ様、当たりません!」
「リゼ、近くの敵は当てにくいだろうから、遠くにいる敵に当てて見てくれ!」
「分かりました!」
リゼが弾を遠くの敵に高速で打ち出した、敵は避けるつもりが無かったのか、それとも反応出来なかったのか分からないが、弾は古代兵器を貫通して動かなくなった。
「やりました!」
「その調子でどんどん倒していこう」
「はい!」
仲間がやられた事に驚いたのか、ステフィンは慌てて指示を出していた。
「くふふふ、魔法使いの攻撃は魔法では無いようです、吸収出来ないので、躱すしかありません!」
こちらの攻撃も、相手の攻撃も当たれば終わりという点では同じだ。
「エルレイ様、また当たらなくなりました、上空に逃げて、そこから撃ち込みましょう!」
「リゼの言う通り、上空から撃ち込めば楽だろうが、その場合敵は逃げたり、城に向かったりしては困るからな、それに楽しくないだろう?」
「エルレイ様、確かに楽しくはありませんが、楽しんでいてはいけないのでは?」
「ゴーレムの時と同じで、心に余裕を持ってやると、案外当てられる物だぞ」
「そうですね、では楽しんじゃいます!」
リゼは遊び感覚で、どんどん弾を撃ち出して行っていた、それが功を奏したのか分からないが、徐々に当たるようになり、少しずつ敵は数を減らしていった。
さすがに敵も焦り始めたようで、新たな攻撃を仕掛けてきそうな気配だ。
「グール、あれは何を始めようとしているのか分かるか?」
「マスターは知らない方が楽しめるんじゃねーのか?」
「危険は避けたいんだが・・・」
グールに聞いている間に、五台の古代兵器に囲まれていた。
「あれは蜘蛛だからな、来るぞ!」
グールがそう言うと一斉に蜘蛛の古代兵器から網が放たれ、俺は逃げることが出来ずに捕まってしまった。
「エルレイ様、早く逃げましょう!」
リゼも焦っている、俺も焦って網を剥がそうとするが絡まって上手くいかない。
そうしている間に蜘蛛の古代兵器が近づいてきて、俺を足で串刺しにしようとしている。
「マスター、俺様を使いな!」
グールに言われるがまま、振るって網を切る事が出来たが、すでに足は目の前まで来ている!
ダメか!と思った所で、目の前の古代兵器に弾が突き刺さり、動きを止めていた。
『何やってるのよ!、早く逃げなさい!』
網から逃げ出し、上空を確認すると、ルリア、リリー、ロゼが弾を撃ち出し、次々と古代兵器を倒して行っていた。
「エルレイ様、私達もやりましょう」
「分かった」
俺とリゼも加わり、瞬く間に蜘蛛の古代兵器は全滅していった・・・。
ルリア、リリー、ロゼが俺の所に降りてきた。
俺は抱きかかえているリゼを下ろし、凄い形相でこちらに向かって来るルリアに殴られる覚悟を決め、目をつぶった・・・。
「パチーン!!」
ルリアに平手打ちをされ、乾いた音が響き渡った、殴られるより痛い・・・。
目を開き、ルリアを見ると、目に大粒の涙を溜め、今にも泣きだしそうな表情をしていた。
「死んだらどうするつもりだったのよ!私達に助けを求めなさいよ!」
「ルリア、ごめん」
心の中で俺とリゼだけで倒せる物だと過信していた、それが油断となり、リゼを危険な目に合わせてしまい、俺は謝る事しかできなかった。
「謝るんじゃないわよ!」
「そうだな、ルリア、ありがとう」
俺は泣き出しそうなルリアを抱きしめた、それでルリアは安心したのか、涙を流して泣いていた。
「リゼ、なぜ身体強化を使ってエルレイ様を守らなかったのですか!」
ロゼがリゼを問い詰めていた。
「それは、エルレイ様から二度と使うなと言われていたし、ルリア様のお姿が見えたので大丈夫だと思い・・・」
「ロゼ、リゼを責めないでやってくれ、全ては俺が油断したことが悪い」
「ですが・・・」
ロゼが言い淀んでいたが、リリーによって遮られた。
「今回はエルレイさんが全面的に悪いです、ルリアを泣かせてしまったのですからね」
「私は泣いていないわよ!」
ルリアは否定しているが、目を赤く腫らしていて説得力はなかった、そこでルリアが俺から離れたので、リリーを抱きしめようと思っていた所で、古代兵器のハッチが開き、中から人が出てきた。
俺達は慌てて身構える!
「くっ、くふふふ、私たちの・・・負けのようですね・・・」
あの嫌な笑い声は、魔石を作ったステフィンだろうか、顔を見たのは初めてだ・・・体は血だらけで、長くは持たないだろう。
「お前がステフィンか?」
「くふふ・・・そうです・・・もう少しで・・・私の野望が・・・成熟されたというのに・・・残念で・・・す」
そこまで言うと、ステフィンは力尽きたのか、倒れて動かなくなってしまった。
「人を魔物に変えておいて、何が野望よ!」
ルリアは吐き捨てるように文句を言っていたが、その相手はいないので、むなしく響くだけだった・・・。
魔石を作っていた本人が亡くなり、研究所も焼失した事によって、二度と作られる事は無いと思いたい。
「ルリア、城の方は大丈夫なのだろうか?」
「問題無いわよ、軍隊はリースレイア王国近辺に布陣しているでしょう、城に残っていたのは警備兵と近衛兵くらいしかいなかったわよ」
「そうか、マティアスに状況を聞いてみるよ」
「そうして頂戴」
周りの安全を確認し、マティアスに念話を送った。
『マティアス、そちらの状況はどうなっている?』
『エルレイ、こちらは城を制圧し、皇帝、並びに帝国の運営に携わっていた者達も確保した、これから情報を聞き出す所だ』
『そうか、それに関しては全て任せる、こちらは魔石を作っていた場所を突き止め、それを破壊し、研究所を焼き払った。
そして、襲って来た古代兵器を破壊し、魔道具開発室室長ステフィンを殺害した、これで新たに魔石が作り出される事は無いだろう』
『それならば安心だな』
『あくまで新たに作られないのであって、今までに作られて持ち出されている可能性もある、暫くは注意しておいた方が良いだろう』
『分かった』
『では俺達は、外で警戒を続けている、何か異常があったら連絡をしてくれ』
『頼んだ』
念話を終え、皆に説明をする。
「と言う事は当分暇ね」
「暇では無いぞ、敵が城を奪還しに来ないか、注意しておかないといけないからな」
「来るわけないじゃない、来たとしても明日以降よ!」
前線に出ている敵部隊が、この地に戻って来るのには時間が掛るだろう。
魔導具で飛行する部隊も、ここまで飛んで来る魔力が足りるかどうか微妙だろう、仮に飛んで来れたとしても、戦闘に使える魔力が無いから意味が無い。
という事で俺達は城の玄関まで行き、そこでテーブルと椅子を出し寛ぐ事にした。
ロゼがお茶を入れてくれて飲んでいると、玄関の警備をしていた兵士が、こちらを羨ましそうに見ていたので、そちらにもお茶を配った。
「こんなに簡単に終わるのなら、リースレイア王国に行かなければよかったわね」
ルリアはそう言っているが、リースレイア王国に行かなければ情報を得られなかった訳だ。
「リースレイア王国を守る必要があったからな・・・」
「あんな国、助ける必要無かったわよ」
「俺もあの王国は余り好きでは無いが、ミスクール帝国に攻め込まれていたら、魔物の犠牲になる人が出ていただろうし、敵を勢いづかせる事になる」
「それはそうかも知れないけど・・・」
ルリアは納得いかない様子で、不機嫌だ。
「無事に終わった事ですし、その話はもういいではありませんか」
「リリーの言う通りだな」
「ではこれからの話をするわよ」
ルリアは真剣な表情で皆を見渡していた、これからとは何を話すのだろう?
俺としては、数日間この場所守るだけでいいと思っていたのだが・・・。
「ここを守っているだけでは駄目なのか?」
「待っているのは面倒だわ、こちらから攻めるわよ!」
ルリアの言いたい事は分かるが、敵部隊が何処にいるのか分からないから、攻め様が無い。
「何処に攻めると言うのだ?」
「城の中に軍務官くらいいるでしょう、その人に何処にいるのか念話で確認させればいいのよ」
「確かにそうかも知れないが、素直に話してくれるだろうか?」
「そこはエルレイの交渉次第よね」
ルリアは任せたわ、といった感じの笑顔で俺の事を見ていた・・・。
「分かったよ、ちょっと行って聞いて来るよ・・・」
「エルレイ、行ってらっしゃい」
ルリアに笑顔で手を振って送り出された・・・。
取り合えずマティアスが聞き取りをしているだろうから、そこにお邪魔させて貰うか。
『マティアス、ちょっといいだろうか?』
『エルレイ、何だ?』
『そこに、軍に関係している人物、もしくは念話で連絡が出来る人物はいないだろうか?』
『いるぞ、今丁度軍の司令官に話を聞いている所だ、しかしそいつは名前以外話をしてくれなくて困っている所だ』
『分かった、俺も話を聞きたいから、そちらに向かう、何処にいるのだろうか?』
『城の謁見室だ、玄関から廊下を真っすぐ来れば、突き当りの部屋がそうだ』
『分かった、これから向かう』
俺は急いで廊下を歩いて行った、しかし司令官って、軍もいないのに城に残っていたのか?
城の謁見室の扉は開かれており、部屋の中にはキュロクバーラ軍の兵士達に、捕らえられた人達が尋問を受けている様子がうかがえる。
俺はその中にいるマティアスの所へと向かった。
「マティアス、この人が軍の司令官か?」
「そうだ、名前はマクミランと言うそうだ」
マティアスは俺にマクミランの正面を譲ってくれた。
「初めまして、私はソートマス王国の魔法使い、エルレイと申します」
俺が自己紹介すると、後ろ手に縛られて座っているマクミランは、俺の事を睨みつけていた。
「ミスクール帝国軍司令官マティアスだ、やはり貴様がこの襲撃に絡んでいたのか」
「えぇ、この国は人を魔物に変えるという、非道な行いをしましたからね、私にはそれが許せませんでしたから、この国には滅んで貰う事にしました」
「ふんっ、子供が知った風な口を利きおってかに・・・」
「確かに私は子供ですが、物の分別は分かるつもりです」
俺がそう言うと、マクミランは表情を歪めていた、
「確かにあの行いは、俺も思う所がある、しかし再び帝国を大国にするためには、必要な犠牲だったのだ!」
「確かに戦争には犠牲は伴う物ですから、その考えを否定する事はありません、しかし、人を魔物に変えるとなれば話は別です、これは私の個人的な感情ですから、何と言われようと変えるつもりはありません」
「それもこうして捕らえられた俺には、それを否定する事も出来ない訳だ・・・」
マクミランは肩を落とし項垂れてしまった。
「そこでマクミランには、私からお願いがあります」
「お願いだと?」
マクミランは再び顔を上げ、お願いの意味を探るべく、俺の顔を覗き込んでいた。
「これ以上、貴方の部下を無駄に失わない様に、降伏するよう説得して頂けませんか?」
「降伏だと!俺の部下たちは最後の一兵まで戦うだろう!」
マクミランは俺を睨みながら、声高に言った、余程部下達を信頼しているのだろう、それならば尚更説得して欲しい物だ。
「そうですか、それでは残念ですが、これから貴方の部下を殲滅に向かう事にします、ちなみに、蜘蛛の古代兵器と、魔道具開発室室長ステフィンは倒しましたよ!」
俺がそう言うと、マクミランはとても驚いた表情を見せていた。
「あの古代兵器は魔法が効かないのだぞ!どうやって倒す事が出来たのだ!」
「簡単な事ですよ、魔法が効かなければ、魔法以外の方法で攻撃すればいいだけの事です」
「それでも、通常の攻撃も通さないはずだ!」
何を言っても信じて貰えない様だな、実物を見て貰うか、俺は収納より対人用の弾を取り出し、マクミランの目の前に差し出した。
「これは事前に用意していた物です、これを撃ち出す事で、魔法が効かない相手にもダメージを与える事が出来るのですよ」
「そんな物で、古代兵器を破壊したと言うのか・・・」
「別にこれに限らず、剣を撃ち出してもいいんですよ、要は魔法でなければいいだけですからね、それに私はアイロス王国を滅ぼしているのですよ」
マクミランは、俺が言いたい事が分かった様だ。
「そうか、ゴーレム・・・あれも魔法が効かないのであったな・・・」
「そう言う事です、アイロス王国の前に、ミスクール帝国と戦っていれば、私が負けたかも知れませんね」
「わははは・・・我が帝国は戦う前から負けが決まっていたのか・・・」
マクミランは力なく笑い、完全に諦めた様子だった。
「兵士の説得をして頂けますか?」
「分かった・・・俺の懐に念話の魔道具が入っている、それを取り出してくれないか?」
俺はマクミランの懐を探り、長方形の魔道具を取り出した、ガラケーみたいな感じだな。
「そのボタンを押してくれ」
マクミランに言われるがまま、ボタンを押した、マクミランは念話をしている様で、暫く黙り込んでいた。
「すまない、説得を試みたが、兵士達はこちらに向け進軍する準備をしており、とても降伏してくれるような雰囲気では無いとの事だ」
「そうですか、では私が説得に向かいますので、どちらにいるか教えて貰えませんか?」
マクミランは暫く考えていたが、条件付きで教えてくれた。
「分かった、場所を教えよう、しかし、出来るだけ部下を殺さないでくれ・・・」
「降伏を頼んでいるのに殺したりしませんよ、ただし、向かって来る者には容赦はしません、よろしいでしょうか?」
「分かった、場所はリースレイア王国と戦闘した城塞都市だ、あの地に全軍を集結させ、リースレイア王国に攻め込む予定だったからな。
それともう一つ、キュロクバーラ王国に向け、商人を装って、大量の魔石を運んでいる者達がいる、まだ帝国内を移動しているだろうから、見つけ出し、魔石を処理しないと大変な事になるぞ」
それを聞いて、隣にいるマティアスが驚いていた。
「それはどれくらいで我が王国に到達するのだ!」
マティアスはマクミランに掴み掛り問い詰めていた。
「マティアス、落ち着け、それでは答えられないぞ」
「すまない、取り乱してしまった」
マティアスは掴み掛っていた手を離し、落ち着きを取り戻していた。
「安心するがいい、後四、五日は掛かる」
「そうか・・・」
「マティアス、それも俺が対処する、マティアスは国境を守っている者達に、注意するよう連絡を入れてくれ」
「分かった」
「では俺は、先に軍を降伏させに向かい、その後で魔石を探す事にする」
「エルレイ、頼んだ!」
やる事は決まった!ルリア達の所に戻り、軍の降伏に向かわなければならない。
謁見室を出て玄関へと向かった。
「ルリア、敵部隊の場所が分かった、この前戦った城塞都市に、全軍集結しているそうだ」
「そう、行きましょうか」
ルリアは買い物にでも出かける様な気軽さで、そう言って立ち上がった。
ルリアに続いて、リリー、リゼ、ロゼも立ち上がり、ロゼはテーブルを片付けてこちらにやって来た。
皆揃った所で、城塞都市より離れた所に転移した。
「飛んで行こう、ここはリースレイア王国側だから、多分反対側だろう」
「分かったわ」
リリーはロゼと共に、俺はリゼを抱えて飛び上がった。
上空から城塞都市を見ると、街の外に軍隊が整列しているのが見えた。
「あれの様ね、エルレイ、どうするつもりなのかしら?」
「前に立ち塞がり、降伏を勧める」
「あれだけの人数が、説得に応じてくれるとは思えないわ」
どれだけの人数がいるのか分からないが、八万人以上十万人以下くらいだろうか?
確かにルリアが言ったように、俺の言葉に耳を貸すとは思えないな・・・。
「エルレイ様、先に敵の前に魔法を撃ち込めばいいのではないでしょうか?」
「リゼ、それは最悪、そのまま戦闘になる可能性があると思うのだが?」
リゼの言う通り、それで恐怖を覚えてくれればいいが、逆に攻撃されたと思って、そのまま反撃してこないとも限らない。
「そうね、リゼの案で行くわよ!」
ルリアがリゼの意見に賛同した。
「ルリア、待ってくれ!出来れば戦闘になるような事は避けたいのだが」
「分かっているわよ、戦闘にならない様に、実力の差を見せつければいいのよ!」
他にいい案も思い浮かばないし、ルリアの言う通り、こちらに攻撃したくなくなるような、攻撃を見せればいいか・・・。
「分かった、ルリア、リゼ、強力なのを敵の前に撃ち込んでくれ!」
「分かったわ」
「分かりました!」
威力と派手な見た目は、火属性魔法に限るからな、ルリアとリゼに任せる事にした。
俺達は軍隊の前に回り込んだ。
「行くわね!」
「行きますよ!エクスプロージョン!」
ルリアとリゼの強力な魔法が軍隊の前に炸裂した!
辺り一面炎に包まれ、着弾地点にはクレーターも出来上がっている。
後で道路の修復を行わないといけないな・・・俺はそう思いつつ、炎が収まるのを待った。
炎が収まり、兵士達が怯えているのが見えた、説得に応じてくれればいいが・・・。
俺は軍隊の前まで進み、大声を張り上げて説得を試みる。
「キュロクバーラ軍により、城は落ち、皇帝も確保した!!
ミスクール帝国は滅んだのだ!!
これ以上の抵抗は無意味だ、大人しく武装解除し、降伏しろ!!
さもなくば、先程見せた魔法を、遠慮なく撃ち込む!!」
思いっ切り声を張り上げて言ったが、後ろまでは届いていないだろう、拡声の魔道具が欲しい所だ・・・。
俺の言葉を聞いて、兵士達の間に動揺が走る、自分たちが守るべき国が滅んだと言われれば、迷いも生じるだろう。
特にこちらに攻撃してくる様子はない、後ろの状況は今もまだ熱を持って燻っている状況だからな、あれを食らえばどうなるか誰にでも分かる事だろう・・・。
暫くすると、指揮官と思われる人が、護衛を付けてやって来た。
「私はこの軍の指揮官でウエストと言う者だ、そちらはソートマス王国の魔法使いをお見受けする、なぜキュロクバーラ王国に加担している?」
俺の事を知っている様だな、城はキュロクバーラ王国に落とされた訳だから、関係ない俺がこの場にいる事に納得が出来ないのか。
「確かにソートマス王国の魔法使い、エルレイだ、キュロクバーラ王国に与しているのは、その様な条約を結んでいるからだ、それでそちらは大人しく武装解除をし、降伏してくれるのだろうか?」
「今各部隊長が集まり協議中だ、もうしばらく待って欲しい!」
「分かった」
念話で会話をしているのだろう、暫くの間沈黙が続いた・・・。
やがてウエストが口を開いた。
「待たせてすまない、降伏し、武装解除もする、だから兵士達の命は保証してくれ!」
「分かった、ではこれより武器および魔道具を、そこに出来たクレーターに捨ててくれ!」
「なっ、今すぐにと言うのか!」
「何かまずい事でもあるのか?」
「いや・・・分かった、すぐにやらせよう」
「それと、魔石は全て俺の前に差し出せ!言っておくが俺にはあの魔石は通用しないぞ!先程の魔法の様に、魔石の許容量を超えた魔力だと、吸収できないのだろう?」
ウエストは驚き目を見開いていた。
「分かった、魔石も全て持って来させる・・・」
武器や、魔道具も重要だが、魔石を破壊する事が一番の目的だからな。
俺はクレーターの横に移動し状況を見守る事にした。
『ルリア、リリー、ロゼは、そのまま上空から変な事をする者がいないか、監視していてくれ』
『分かったわ、見つけ次第処分するわね!』
『エルレイさん、分かりました』
『承知しました』
俺はリゼと一緒に魔石が運ばれてくるのを待つ事にした。
クレーターには次々と武器や魔導具が放り込まれて行っている、兵士の中にはこちらを睨んで来る者もいたが、襲って来る者はいなかった。
数人は襲って来るかなとは思っていたのだが、ルリアが上空で火の玉を出して威圧しているからな・・・このクレーターが出来た状況を見た者では、反撃する気にはならないだろう。
やがて俺の前に、魔石の入った箱が数十個積み上げられた・・・。
「まだこれだけあったのですね」
リゼも魔石の多さを見て、驚いていた。
「そうだな、これが全て人に向けられていたかと思うと、ぞっとするな」
「はい、そうならなくてよかったです」
さて、この魔石を処分しなければならないな、腰に差しているグールを引き抜いた。
『グール、出番だ!』
『俺様、こんな魔石壊しても、楽しくねーんだが?』
『つべこべ言わずやるぞ!』
『わーったよ!』
俺はグールを箱に入った魔石に突き立てて行く、すると魔石は次々と砕け散っていった。
その光景を、魔石を運んで来た者達が驚きの表情で見ていた、剣を突き刺しただけで砕け散るような物でもないからな。
とにかく数が多くて大変だ、俺は休むことなく魔石を破壊して行った。
魔石を破壊し終わった頃、武器や魔導具を廃棄するのが終わった様だった。
「エルレイ様、武装解除が終わったようです」
クレーターには武器と魔道具の山が出来上がっていて、ルリア達も俺の所に降りて来た。
「エルレイ、これどうするのよ」
『ルリア、俺が収納するから、周りから見えない様に、炎で壁を作ってくれないか?』
『分かったわ、燃やしてしまうのにはもったいないわね』
ルリアは悪い笑みを浮かべていたが、それ以上に俺も悪い顔をしていたに違いない・・・・。
俺が飛んでクレーターの中へと入ると、ルリアが周囲を炎で囲み、周りから見えない様にしてくれた。
さっと武器と魔道具を収納し、ルリアの所に転移で戻った。
「ルリア、派手にやってくれ!」
「えぇ、行くわよ!」
ルリアはさらに魔力を込め、炎を一層燃え上がらせた。
兵士達もそれを見ているから、当然自分たちの武器と魔道具が燃やされているのだと思っただろう。
ルリアは適当な所で燃やすのをやめた、クレーターの場所は真っ黒になり、何があったのかさえ分からなくなっていた。
証拠隠滅と道の再生の為、その場所を掘り返し、綺麗に整地して道を作った。
これをわざわざ掘り返して調べるやつもいないだろう・・・。
俺はウエストの所に向かった。
「これでキュロクバーラ王国に反抗する意思は無いと判断し、兵士達の安全を保障する」
「感謝する、我々は軍を解散し、家路につく事にする」
「もし反乱でも起こそうものならば、直ちに私が滅ぼしに来ると、全員に伝えておけ!」
「はっ!」
あれだけ素直に武装解除に応じてくれたから、無いとは思うが、まだ各街には貴族か、それに類するものが治めていて、その者たちが蜂起しないとも限らない、ここでの情報が伝わって、逃げるなりしてくれるといいのだがな。
それはキュロクバーラ王国の仕事だな、俺にはもう一つ仕事が残っている、そちらを片付けなければならない。
俺はルリア達の所へと戻って行った。
「次は魔石を追いかけるとしよう」
「エルレイ、その前にお昼にするわよ、家を出して頂戴」
ルリアに言われ空を見上げると、昼はとっくに過ぎている様だった。
朝早かったため、確かにお腹がすいているな、家を出し、リゼに昼食を作って貰う事にした。
料理が出来るまでに、マティアスに連絡を入れておこう。
『マティアス、今いいか?』
『エルレイ、大丈夫だ』
『ミスクール帝国軍は降伏を受け入れ、武装解除してくれた、武器と魔導具は回収して、俺がすべて処分した』
『そうか、それで軍はどうなったのだ?』
『軍は解散し、それぞれ帰路に着くそうだ』
『分かった、エルレイ、ありがとう』
『この後、魔石の処理に向かう』
『よろしく頼む!』
マティアスとの念話が終わると、テーブルにはリゼが作った料理が並べられていた。
「リゼ、ありがとう、頂きます」
「はい、頂きます」
リゼが作ってくれた、美味しい昼食を食べ終え、ロゼが入れてくれたお茶を飲んで一息ついた。
このままソファーで横になって、ゆっくり過ごしたいが、そう言う訳には行かない。
俺はお茶を飲み干すと、立ち上がり気合を入れた。
「よし、最後の仕上げに行こう!」
「そうね」
「エルレイさん、頑張りましょう」
「もう二度と、人を魔物にさせません」
「承知しました」
皆も立ち上がり、家を出た。
すると家の周囲には、ある程度距離を取って人だかりが出来ていた。
「やはりここで家を出したのは、不味かったのだろうか?」
「逆よ、エルレイの偉大さを見せつける為には、これでよかったのよ」
なるほど、こちらを見ている人たちは興味と言うより、恐怖でこちらから目を離せない様だな。
俺は家を収納し、リゼを抱きかかえた。
「飛んで行くぞ!」
皆とその場を飛び立ち、ある程度離れた場所まで飛んで、そこから転移で帝都近くの山頂へとやって来た。
そこにはグリフォンが多数いて、物資の搬入も行われている様だった。
「もう準備している様ね」
「その様だな、後の事はキュロクバーラ王国が上手くやるだろう」
「そうね、では魔石を探しに向かうわよ」
「そうしよう」
俺達は再び飛び立ち、山を降りて、道沿いに飛んで行った。
「グール、魔石を見付けたら教えてくれ」
「任せておきな!」
俺達は馬車を見つけては、近づいてグールに確認して貰った。
何十台目かの馬車で、グールが反応を示した。
「マスター、あれだぜ!」
「どっちだ?」
「両方ともだぜ!」
二台の馬車が連なって進んでいる、両方ともに魔石が積んであるのか、どれだけの人達を魔物に変えようとしていたのかと思うと、頭に血が上って来る。
念のためにルリア、ロゼ、リゼに弾の入った小袋を渡す。
「魔石が積んである、何が起きるか分からないから注意してくれ」
「分かってるわよ」
「承知しました」
ルリアはそう言うと、先に馬車の前に降りて行った、俺も続いて降りていく。
「そこの馬車、止まりなさい!」
ルリアが大声で馬車を止めた。
「どうかなさいましたでしょうか?」
突然上空から降りて来て、馬車を止めたというのに、馬車から商人風の男が降りて来て、落ち着いて対応していた。
「馬車に積んである魔石を寄こしなさい!」
「これはご冗談を、馬車に積んであるのは大事な商品です、盗賊にくれてやる言われはありませんよ」
男がそう言うと、二台の馬車から十人位の男達が降りて来て、俺達を取り囲んだ!
ルリアの言い方だと、盗賊に間違われても仕方が無いだろう・・・。
「すみません、言い方が悪かったようですね、人を魔物に変える魔石が積んであると思うので、それだけ寄こしてください」
俺がそう言うと、商人風の男や、俺達を取り囲んでいる者達も、目つきが変わった。
「こいつらは盗賊だ!やっておしまい!」
『ロゼ!リリーを連れて上空に逃げろ!』
『はい!』
ルリアは剣を抜き、俺もグールを抜いて、剣で襲ってきた男達に応戦する。
ルリアは襲ってきた男達を斬り伏せている、俺はルリアの背後を守る様な位置取りをし、応戦をする。
剣の訓練をさぼっていた俺では、ルリアの様に斬り伏せて行く事は出来ないな。
精々、かすり傷を負わせて、グールの能力によって魔力を吸収し、倒す事しか出来ない。
それでも相手が倒れてくれる事には違いないからいいのだが・・・これが終わったら剣の訓練を真面目にやろうと、心に決めた。
数分で決着はつき、俺達を襲って来た男達は、倒れて動かなくなっていた。
全員を始末した瞬間、商人風の男から俺に向け、魔法が放たれた!
俺はグールを軽く振り、魔法を吸収させた。
「なっ!」
商人風の男は驚き、慌てて馬車の中に戻って、魔石を手にして出て来た。
「これでも食らえ!」
商人風の男は魔石に魔力を込めている様だったが、上空からロゼが弾を撃ち出し、魔石を発動させる事無く倒れて行った。
「ロゼ、見事だったわよ」
「ルリア様、ありがとうございます」
ルリアは、上空から降りて来たロゼを褒めていた。
「俺は馬車の中を確認する、外で見張っていてくれ」
「分かったわ、気を付けなさい!」
「グールがいるから大丈夫さ」
「それが信用できないのよ」
「俺様、マスターをちゃんと守っているぜ!」
「どうかしら?時々嘘をつく様だし、信用できないわ」
ルリアの言う通り、グールは俺を騙したりするからな・・・。
「ルリア様、私も着いて行きますのでご安心を」
「リゼ、頼んだわよ」
「はい」
俺一人で中を確認しようと思っていたが、リゼも着いて来る事になった。
馬車の中には人は誰もいなかった、後は箱がいくつも積み上げられており、中には魔石が詰め込まれていた。
「先程と同じですね」
「そうだな、分かりやすくてよかった」
リゼの言う通り、ミスクール帝国軍から集めた、魔石を入れた箱と同じ物だった。
俺はまたグールで魔石を砕く作業をする事となった。
「リゼ、時間が掛るから、ロゼと協力して、外の死体を埋葬して来てくれないか?」
「分かりました」
死体をそのまま放置していては、俺達が本当に盗賊だと思われてしまうからな。
さて、早くマティアスに連絡して、安心させてやろう。
『マティアス、魔石を運んでいる馬車を発見して、確保した』
『そうか、良かった・・・』
マティアスは心底安心している様だった。
『後、俺達に出来る事はあるだろうか?』
『いや、もう無い、後の事は俺達の仕事だから、エルレイは帰ってゆっくりするといい』
『そうか、ありがとう』
『感謝したいのはこちらも同じだ、後日正式にこちらに来て貰う事になる、また連絡を入れるから、その時までゆっくりしていてくれ』
『分かった、何か緊急事態が起きた時は遠慮なく呼んで貰って構わない、いつでも駆けつけるからな』
『エルレイ、ありがとう、そうさせて貰うよ』
帰れると分かったら、元気が出て来て、俺は急いで残りの魔石を砕いて行った。
魔石を砕き終え、馬車の外に出ると、ルリア達はテーブルと椅子を出して寛いでいた、家を出しておけばよかったか・・・。
「皆お待たせ」
「エルレイ、お疲れ様」
「エルレイさん、お疲れさまでした」
「「エルレイ様、お疲れさまでした」」
「ルリア、馬車を燃やしてくれないか?」
「分かったわ」
「では、馬を放してくるよ」
馬車に繋げられている馬を放し、ルリアの下へ戻ると、ルリアは馬車を跡形もなく、灰にしてしまった。
「では、リアネ城に帰ろうか」
「帰れるのね」
「後の事はキュロクバーラ王国で処理するそうだ、また後日領地の受け渡しとかで、呼ばれる事になるだろうけどね」
「それは領地が増える事だから、喜んで行きなさいよ!」
「そうだな」
ルリアは領土が増える事が嬉しいのか、笑顔で笑っていた。
「エルレイさん、早く帰りましょう」
「そうです、エルレイ様、早く帰りましょう」
リリーとリゼは、早く帰りたくてたまらない様だ。
「よし、リアネ城へ帰ろう!」
皆と手を繋ぎ、リアネ城の玄関へと転移で戻って来た・・・。




