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公爵令嬢の婚約者  作者: よしの
第一話 アリクレット男爵家
24/27

第二十三話 新しい婚約者

≪リースレイア王国サイド≫

エルレイ達が休日を楽しんでいる間、リースレイア王国では連日会議室に王国の重鎮が大勢集まり軍議が開かれていた。

「このままでは我が王国は滅んでしまいますぞ!」

第一魔剣軍団長アンドレアルスは声高に言い放った。

「じゃが、アンドレアルスの提案通りミスクール帝国に侵攻しても勝ち目はあるまい?」

真っ白な顎髭を蓄えた老人の宮廷魔導士フィリップが、アンドレアルスの意見に異を唱える。

「お主は否定するばかりで無く、何か策を出してはどうなのだ!」

「じゃから、戦争を終えたばかりで疲弊しておるキュロクバーラ王国に攻め込めばいいと言っておるのじゃ

「それこそ無理に決まっておる!敵のグリフォン部隊に魔剣で対抗するのは無謀すぎる、それにルフトル王国に続いてキュロクバーラ王国もソートマス王国と不可侵条約を結んだ、これの意味が分からぬ訳ではあるまい!」

「ふんっ!ソートマス王国の魔法使いなど、わしら宮廷魔導士が倒してくれるわい!」

「面白い!やれるものならやってみるがいい!」

「お主ら腰抜けとの違いを見せつけてやるわい!」

毎回二人の罵り合いで軍議は全くと言って進んでいない・・・。

「毎日毎日飽きないものだねぇ・・・」

魔剣開発部のガロがため息交じりにぽつりと言った。

「ガロ!お主何か言いたそうだな!」

「いや?こんなくだらない軍議で時間を無駄に浪費しているより、開発部に戻って作業してた方がましだな~と思っただけですよ」

「王国の命運をかけた軍議をくだらないとは何事だ!」

「俺は戦う訳じゃないですからね、皆さんのお好きな様に攻め込んだらどうですかね?」

アンドレアルスは顔を真っ赤にしてガロに激怒したが、ガロは涼しい表情でそれを軽く受け流し会議室を出て行こうとする。

「ガロ、何処に行くつもりだ!」

「さっきも言った通り、開発部に戻って皆さんの為の魔剣を作るに決まってるじゃないですか~」

「ぐぬぬ!」

ガロは軽く手を上げて会議室を出て行ってしまった・・・。

「魔剣などに頼るから、あんな若造に頭が上がらんのじゃ!」

ガロが出て行くのを黙って見ているしか出来なかったアンドレアルスをフィリップが罵った。

「何じゃと!、我が軍の戦いは魔剣のみに頼ってる訳では無い!」

二人はまた言い争いを始めてしまった・・・。

「二人ともお止め下さい!!」

ルフトル王国との戦いで戦死したヨルゲンに変わり、新しく飛空魔剣部隊隊長となったバーニアンは二人を止めようとするがいい争いは止まることなく激しさを増して行くばかりだ・・・。

「静まれぇ!」

今までずっと軍議に参加していたが、これまで一度も口を開かなかったディヴァール・ヒュー・ド・リースレイア王が二人の争いを止めた。

「陛下、失礼しました」

「陛下、申し訳ないのじゃ」

二人は陛下に頭を下げ沈黙した。

「今日まで皆の意見を聞かせて貰った、我が王国はルフトル王国に敗北し、キュロクバーラ王国とミスクール帝国に侵攻しても敗北するという事だな、とは言えこのまま何処にも侵攻しなければ恐らくミスクール帝国に滅ぼされるのは間違いない」

陛下の現実をよく理解したお言葉に皆言葉を失った。

「陛下、お言葉ですが我が軍が敗北するなど戦って見なければ分かりません!」

アンドレアルスは力強く言い放ったがその言葉は陛下によって覆された。

「軍の忠実な働きには感謝しておるが、魔石をミスクール帝国に頼っている以上こちらの攻撃は通用しないであろう」

その事はアンドレアルスも十分承知している、この国にある魔石より多く所持しているのは明らかで、それを魔道具として活用しているミスクール帝国に魔剣が通用するはずもなかった。

それにこの前の魔力を吸収する魔石は、あれからさらに調べてあり、一定以上の魔力を保持させなければ魔物にはならないことも分かっていて、こちらの魔剣での攻撃は全て吸収されるだろうとガロに予想されていた。

だが魔剣部隊は剣のみで戦えるよう鍛えてあるから、アンドレアルスは十分戦えると思っていた。

「陛下、我が軍は死力を尽くしてミスクール帝国を滅ぼして見せます!」

「もうよい、パーヴェルに続きお主まで失う訳には行かないのだ、ヒューイット」

陛下は財務官のヒューイットに声を掛けた、ヒューイットは陛下の幼少からの親友にして、財務官として一番の信頼を受けている人物だった。

「はい、僭越ながら私からの提案をお話致します、ソートマス王国とアイロス王国、ルフトル王国とリースレイア王国、キュロクバーラ王国とラウニスカ王国、全ての戦争の勝者にソートマス王国の魔法使いが関係している事は皆様もご存知かと思います」

「その事を知らない国など無いだろう!」

「ふんっ!わしでも同じような事が出来るのじゃ」

アンドレアルスとフィリップは財務官風情が軍議に口出しして来るなと言いたげにしていた、ただ陛下に指名されていたためそれ以上口出しする事は出来なかった。

「ですのでリースレイア王国としてもその魔法使いに助力を申し出てはどうかと、提案させて頂きます」

「馬鹿な!パーヴェルとヨルゲンはそいつに殺されたのだぞ!!」

アンドレアルスはフィリップに今にも掴みかからん勢いでフィリップを睨みつけた、仲間の仇に助力を申し出る等とても許容しがたい事だ。

「確かに仲間の仇であるのは間違いないでしょう、しかしあの戦争はパーヴェル自ら陛下に進言して行った事で、リースレイア王国の責任ではありません」

「何だと!王国の為に戦った仲間を愚弄する気か!!」

「そうではありません」

「ふんっ!確かにあの戦いはパーヴェルの独断じゃった、しかしその戦った相手がその提案を受けてくれるはずがないじゃろう?」

アンドレアルスは立ち上がってヒューイットに掴みかかり、フィリップはそんな馬鹿な提案通るはずもないと見下していた。

「ヒューイット、、パーヴェルに侵攻の許可を出したのは私だ、勿論あの侵攻は我が王国の責任だ、口を慎め!」

陛下がヒューイットを叱責すると、アンドレアルスも落ち着きを取り戻しヒューイットを掴んでいた手を放し席へと戻った。

「陛下、申し訳ございませんでした」

「ヒューイット、謝る相手が違うぞ」

「はい、アンドレアルス殿、大変申し訳ございませんでした」

ヒューイットは深々とアンドレアルスに頭を下げ謝罪した。

「そこまで言うのだから何かしら魔法使いに関する情報を掴んでおるのだろうな!」

アンドレアルスが息を巻いてヒューイットを問い詰めた。

「はい、魔法使いに関して独自に調べた結果、ソートマス王国、ルフトル王国、キュロクバーラ王国の全てにおいて王女を魔法使いに差し出している事を掴みました」

「つまり、魔法使いに我が王国からも王女様を差し出せば助力を乞えると言いたいのだな?」

「その通りです!」

「馬鹿な!仇である相手に王女様を差し出すなど陛下がお許しになるはずなかろう!」

「アンドレアルスの言う通りじゃな!しかし情報では魔法使いは子供だという事では無かったか?」

「はい、十一歳という事です」

「随分とませたガキじゃな」

しかし十一歳なら歳が合いそうな王女様は第三王女ポリアンナ様十三歳、第四王女グロリアーナ様十一歳、第五王女ベアトリス様九歳の三人おるな、果たして陛下はどの王女様をお選びになるのやら・・・。

「・・・私も大事な娘を仲間の仇に渡すのは心苦しい、しかしお前達の命には代えられん、断腸の思いでヒューイットの提案を受け入れようと思うが皆はどうだ?」

陛下は軍議に参加している大勢の者達を見渡した。

「陛下のお気持ちお察しいたします」

「陛下のご決断に感謝致します」

次々と陛下のご決断を称賛する声が巻き起こって来る。

「陛下、ソートマス王国への使者は私に努めさせてください」

アンドレアルスは陛下の決断を受け止め、せめて相手の見極めを責任を持って行おうと思い願い出た。

「アンドレアルスに行って貰えると心強いが、軍団長に抜けられてはこの王国の防衛が心もとなくなる」

「それは・・・」

パーヴェル亡き今俺が抜けると確かに軍団を率いる者が居なくなる・・・アンドレアルスが困っていると第一魔剣軍団副団長ノーリッシュが申し出た。

「団長に代わり、私が使者をお勤め致します」

「うむ、ノーリッシュ、ソートマス王国への使者として任命する!」

「謹んでお受けいたします、必ずや魔法使いを連れてまいります」

「うむ、他の者はミスクール帝国への侵攻を全力をもって行う準備をいたせ!!」

「「「はっ!」」」

リースレイア王の言によって、ミスクール帝国への侵攻が決定した、翌日親書を携えたノーリッシュと少数の護衛がソートマス王国へ向け旅立った・・・。


≪エルレイサイド≫

再び戦争に巻き込まれるとは思ってもいないエルレイ達は、ルフトル王国で休日を過ごし、リアネ城へと戻って来て部屋で寛いでいた。

「エンリーカ、エレオノラ、リディア、エミリア、ユーティア、エルミーヌには贈り物があるからこちらに来てくれ」

一人ずつペンダントを付けて行く、ラウラにはお店で付けてあげていた。

「エルレイ、嬉しいですわ」

「エルレイ、ありがとうございます」

「エルレイ、ありがとー」

「ありがと」

「エルレイ、ありがとう」

「エルレイ様、ありがとうございます」

皆喜んでくれたようでよかった、ユーティアはこれよりいい物を持っていそうだったから、もしかしたら喜ばれないかもと思っていたりもした。

「それとリゼ、ロゼ、エルミーヌには櫛を買ってきた、これで皆の髪を美しくしてやってくれ」

「「「エルレイ様、ありがとうございます」」」

櫛も一人ずつ手渡ししていくと、今回何も貰わなかった者たちがこちらをじっと見つめて来ている・・・。

「エル、私達には何も無いのだな・・・」

「ヘルミーネ達には前回贈ったから今回は我慢してくれ、次はちゃんと買って来るからさ」

「ふむ、約束だからな」

やはり皆の分買って来た方が良かったのだろうか?しかしそれだと不公平になりそうな感じがするんだよな・・・買ってこなかったからどうにも出来ないので我慢して貰うしかない・・・。

翌朝道を作りに行く前に執務室へと寄った、休日明けは連絡ごとが多いからな、やはり俺は休まない方が楽が出来そうな気がするんだよなぁ・・・しかし皆を休ませるためには俺が率先して休まなければいけない。

「アドルフ、おはよう、変わった事は無かっただろうか?」

「エルレイ、おはようございます、昨日はいつも通り平和な一日でございました」

「それは良かった、道を作る作業だが、何も問題が起きなければ三、四日で終わる予定だ」

「承知しました、エルレイ様のおかげでリアネの街から王都まで片道五日で到着できるようになり、物資の輸送が楽に出来る様になりました」

以前の事を考えるとかなり早く到着できるようになったが、まだ五日も掛かるんだよな・・・魔石が手に入ればグールから魔道具の作り方を教わって、列車とか作れそうな気もするのだがな・・・。

肝心の魔石が魔物を倒してからしか手に入らないから、この大陸に魔物がいない以上無理な話と言う物だな。

魔大陸に魔物を狩りに行って見たい気もするが、今はそんな余裕も無いし、どんな危険があるのか分からないから無理も出来ない。

魔石と言えばミスクール帝国だ、吸魔石を使ったと思われる魔石もミスクール帝国で作られている様なのだが、ロイジェルク様にミスクール帝国の調査を依頼して以降、連絡が無いんだよな。

今度お会いした時に聞いて見る事にするか。

「エルレイ様?」

「すまない考え事をしていた、報告は以上か?」

「もう一件御座います、こちらをご覧ください」

アドルフより資料を手渡されて急いでそれを読む、以前頼んでいた使用人と警備兵達のパーティに付いて書かれていた。

「・・・なるほど、使用人と警備隊を半数ずつ、二日間の日程で行う訳か」

「はい、トリステンとも協議した結果、全員参加させるのは無理だと言う事でこの様な形にさせて頂きました」

「分かった、問題無いからこのまま進めてくれ」

「承知しました、十日後開催の予定をしております」

「そう言えば警備隊の方の服は頼んだのだろうか?」

「はい、エルレイ様はそちらも気になさるだろうと思い、私の独断で用意させました」

「警備隊の服は忘れていたから助かったよ、ありがとう」

せっかくのパーティで警備服のままでは可哀そうだからな、アドルフの機転に感謝しなくてはいけないな。

「では行って来るよ」

「エルレイ様、お気を付けて行ってらっしゃいませ」

部屋に戻りヘルミーネ、ロゼ、ラウラを連れて道作りを再開し、三日後にリアネの街からルノフェノ男爵領までの道も完成した。

「ヘルミーネ、ロゼ、ラウラ、完成だ!」

「うむ、疲れたが気分は最高にいいぞ!」

「「エルレイ様、ヘルミーネ様、お疲れさまでした」」

ヘルミーネは一つの事を成し遂げて非常に満足している様だった、それはロゼとラウラも同じで、にこやかに微笑んでいた。

ここで皆を抱きしめてやりたいが、周囲には結構見学していた人もいて、人だかりが出来ているから早々に帰る事にしよう。

転移でリアネ城の玄関に戻って来た、ロイジェルク様の所に報告に行かないといけないな。

「これからロイジェルク様の所に報告に行くが、ヘルミーネも着いて来るか?」

「それは遠慮する、エル一人で行って来るがいい」

ヘルミーネは相変わらずロイジェルク様が苦手の様だな、報告だけだから一人で行って来るとするか。

「分かった、一人で行って来るよ」

「エルレイ様、ルリア様をお連れしてはいかがでしょう?」

俺が一人で行こうとすると、ロゼがルリアを連れて行けと提案して来た、確かにロイジェルク様にルリアの顔を見せてあげると喜ばれるだろうし良い事だな。

「分かった、ではルリアをここに呼んで来てもらえないか?俺はヴァイスさんに連絡を付けないといけないから」

「承知しました」

俺はヴァイスさんに連絡を取り了承を得た所で、ルリアが飛んでやって来た。

「エルレイ、お待たせ」

「ルリア、そんなに急いで来る様な要件でも無かったのだが・・・」

「話は聞いているからお父様の所に行きましょう」

珍しくルリアの方から俺の手を握って来て早く転移しろと催促して来た。

「では行って来る」

「エル、ちゃんと私も道を作った事を言って来るのだぞ」

「「エルレイ様、ルリア様、行ってらっしゃいませ」」

皆に見送られてルリアと共にロイジェルク様の館へとやって来て、ベルを鳴らしヴァイスさんに案内されて応接室へとやって来た。

ルリアとソファーに座ると、お茶とお菓子が用意され、それを頂きながらロイジェルク様を待つ事にした。

暫くしてロイジェルク様とネレイト様が部屋に入って来た。

「ロイジェルク様、ネレイト様、お久しぶりです」

「エルレイ君、それとルリアも元気そうだな」

「エルレイ、ルリア、久しぶり」

「お父様、ネレイト兄様、お久しぶりです」

一通り挨拶を済ませソファーへと腰掛けた。

「ロイジェルク様、ネレイト様、今日は依頼されておりました道が完成した報告に参りました」

「うむ、これでエルレイ君の領地との行き来が楽になり、お互い繁栄する事間違いなしだな」

「はい、その通りかと思います」

「しかし、予定より随分と早い出来だったな」

「はい、今回ヘルミーネ王女とロゼ、ラウラの四人体制で行ったので早く仕上げる事が出来ました」

「ほう、王城では問題ばかり起こしていたヘルミーネ王女が、立派な魔法使いに成ったものだな」

ロイジェルク様は目を細めて当時の状況を思い出している様だった、俺も初めて会った時ヘルミーネにはいい印象を持たなかったからな・・・。

「はい、ヘルミーネ王女は難民の時でも活躍してくれました」

「ルリアは参加しなかったのだな」

ネレイト様がルリアにそう質問をすると、ルリアに睨まれ慌てて目をそらしていた・・・。

「ネレイト様、ルリアは火と風の属性を使いますので、この様な作業には向いていないのですよ、しかし攻撃に関して言えば私を超える魔法使いに成ったのは間違いありません」

「ふむ、エルレイ君がそこまで言うとはルリアは頑張ったのだな」

「ルリア、凄いじゃないか」

「そんなことないわよ」

ルリアはロイジェルク様とネレイト様に褒められて恥ずかしくなったのか顔を背けていた。

忘れないうちに魔石の事を聞いておくとするか。

「ロイジェルク様、以前お願いしていた魔石に関しての情報はつかめたのでしょうか?」

俺がそう問うとロイジェルク様は暫く考えてから話してくれた。

「・・・その件に関しては調べは終わっている」

「そうなのですね」

「うむ、だが全てを調べられたわけでは無い、と言うよりほとんど分からなかったと言うのが正確だな」

ロイジェルク様の情報網をもってしても分からなかったのか・・・。

「だが分かっている事だけ話しておこう、魔力を吸収する魔石の出所だが、ミスクール帝国であることは間違いない」

「やはりそうですか・・・」

「うむ、まずミスクール帝国に関して説明しよう、魔導具を配備した強力な軍により、千年前はリースレイア王国、キュロクバーラ王国、ラウニスカ王国を従えていた、しかし魔物がいなくなってから五百年の間に魔石の在庫は尽き、力を無くしたミスクール帝国はラウニスカ王国、キュロクバーラ王国、リースレイア王国に独立を宣言され現在へと至る。

しかしここ数十年、また魔石がミスクール帝国より産出される様になり、徐々に力を取り戻して来ている様だ。

その事を突き止めようと傭兵を雇い、城の周辺を調べて見たが戻って来た者は一人もいなかった。

それでも城の敷地内に、魔道具を作っていると思われる施設がある事は分かった」

余程厳重に警備されているのだろう、それが人による物なのか魔道具による物かは分からないが、恐らくヘルミーネが持っている遠くの人物を見る事が出来る様な魔導具で監視しているのだろうな・・・。

「それだけ分かれば十分です、今の所何処にも魔物が出たという情報は入って来ていないのでしょう?」

「うむ、あれ以来魔法を吸収する魔剣の話も魔物が発生したと言う知らせも無い、リースレイア王国にあれだけの数の魔石を売ったのだから、量産体制が出来ているのかと思ったのだがな・・・」

「そうですね、引き続き注意しておかなければならないという事ですね」

「その通りだ、この後も情報は出来る限り集めておく」

「よろしくお願いします、しかしあまり犠牲者を出してほしく無いのですが・・・」

「分かっている、私も犠牲を出すやり方は好きでは無いからな」

「エルレイはミスクール帝国を滅ぼすつもりなのか?」

今までずっと話を聞いていたネレイト様が質問して来た。

「分かりません、ただ人を魔物に変えるやり方は気に入りませんね・・・」

「あれは酷かったわ、エルレイがやらないのであれば私がミスクール帝国を滅ぼしてやるわよ!」

ルリアもあれは目の前で見ているから許されないものなのだろう、しかしルリア一人で行かせる訳には行かないし、ロイジェルク様も顔を強張らせているからな・・・。

「ルリア、ミスクール帝国を滅ぼしに行く時は俺も一緒に行くから一人で行こうとはしないでくれ、それにまだ情報が少なく勝てる見込みも無いからな、ロイジェルク様が調べてくれるのを待つ事にしよう」

「分かったわ、お父様よろしくお願いね」

「う、うむ、任せておくが良い」

ロイジェルク様調べる気が無くなったりしないだろうか?俺がロイジェルク様の立場だとすると大事な娘の為に情報は集めるが教えたりしないだろうな・・・。

その時は俺一人にロイジェルク様から声が掛かりそうだ・・・。

「話は以上だな、エルレイ君には報酬を渡そう」

ロイジェルク様はこれ以上ルリアが何か言いださないうちに話を切り上げた様だった。

ロイジェルク様がそう言うと後ろに控えていたヴァイスさんが部下に合図し、数人の執事が金貨の入っている重そうな箱を数箱ソファーの横へと置いた。

「エルレイ君、中を確認してくれ、ルノフェノの分も含まれているからな」

「分かりました」

ヴァイスさんが箱のふたを開けるとぎっしりと金貨が詰まっていた。

「確認しました」

「うむ、では失礼する、ルリア元気でな」

「エルレイ、ルリアまたね」

「ロイジェルク様、ネレイト様、ありがとうございました」

「お父様、ネレイト兄様、お元気で」

俺は金貨が詰まった箱を収納し、ルリアと共にリアネ城へと戻って来た。

「ルリア、俺はアドルフの所に報告に行って来るよ」

「私も着いて行くわよ」

「別に訓練に戻って貰っても構わないのだが?」

「いいから行くわよ」

ルリアは俺の手を引っ張って執務室へと向かった、今日はやけに俺と一緒にいたがるものだな、いつもならさっさと訓練に戻って行くはずなのだが、何かあったのだろうか?

ルリアと執務室に入り席に着くとアドルフがルリアの椅子も用意してくれて、ルリアは何の迷いもなく椅子に座った。

「アドルフ、ありがとう、道は完成しロイジェルク様にも報告して来たよ」

「エルレイ様、ルリア様、お帰りなさいませ」

俺は自分の机の上に金貨が詰まった箱を並べて行くと、アドルフは蓋を開け中身を確認し、部下に指示を出し運ばせていった。

「エルレイ様、ありがとうございます、資金にかなりの余裕が出来ました、これで新しい事業がまた出来ますので何かいい案が御座いましたらよろしくお願いします」

アドルフはニコニコしながら俺に何か案を出せと迫って来ている様だった、しかしそう簡単にいい案が出る筈もない。

「取り合えず今やってる案件を消化してからだな、明日からはシルクの制作現場にエンリーカ、リリー、ロレーナ、ロゼを派遣して色々試してもらう予定だ」

「それは助かります、ゼロから始めた事業ですので中々いい報告が上がってきておりませんでした」

「そうだろうな、エンリーカがこの前ルフトル王国に行った時に勉強して来たから、どうにかしてくれるだろう、それとお酒造りの方はどうなっている?」

「そちらは順調に仕上がっている模様です、今度のパーティの時に試作品を提供する予定にしております」

「それは良かった、味見するのが楽しみだ」

「エルレイは飲んでは駄目よ!」

俺はお酒が飲めると思って嬉しくなったがルリアに止められてしまった・・・。

「いや、試作品だし味見をしないと駄目だろ?」

「それは私の方で致しますので、エルレイ様は成人なされてからお飲みになって下さい」

アドルフまで俺が飲む事を止めて来た、確かに成人してから飲むのが正しいのだが、目の前に美味しそうなお酒があるのに飲めないとは悲しすぎる、皆に隠れて飲む事にしよう・・・。

「分かった、成人まで我慢するよ・・・そう言えば成人になるまでに王都に屋敷を用意して貰えないだろうか?」

「はい、そちらは既に建物は押さえております、ただし、今すぐには使えません」

「まぁ使用人を雇わないといけないだろうしな」

「いえ、そちらの事では無く、王都に購入した建物は立派な物でして、エルレイ様が公爵になられませんと身分と釣り合わず使用する事が出来ません」

「何でそんな建物を購入したんだよ・・・」

アドルフにしては先走った事をしたものだな、公爵になる予定もなれる見込みもないと言うのに・・・。

「エルレイ様は既に公爵に成れるだけの功績を上げております、ルフトル王国とキュロクバーラ王国の戦争で見事に勝利致しましたし、武闘大会と難民問題で収益を増やしております、これ以上の功績は無いとか思われます」

「確かにそうだが、戦争関して言えば報酬は頂いているし、武闘大会と難民問題は俺の領内だけの事では無いのか?」

「エルレイ、戦争の報酬と功績は別よ、それに領内の収益が上がれば陛下に収める税金も増える訳だから十分な功績になるのよ」

「ルリア様の言う通りでございます、ですので近いうちに陛下から公爵位を授けられる事かと思います」

ルリアとアドルフはすでに俺が公爵になるのだと疑っていない様だが、本当なのだろうか・・・公爵になっても今と変わらないだろうし、どうでもいい事だな。

「分かった、アドルフは俺が公爵になった時の為に王都で働く使用人の準備を頼むよ」

「畏まりました」

これで俺の王都への移動用とユーティアの為の館の準備は整ったようなものだな、後はミスクール帝国が何かしら動きを見せた時の為の準備をしないといけないな。

「アドルフ、領内に大規模な魔法の訓練をしても構わない様な場所は無いだろうか?」

「大規模な魔法ですか?」

アドルフは首を傾げて地図を取りに自分の席へと戻って行った。

「エルレイ、大規模な魔法って何をするつもりなの?」

「ロイジェルク様の所で話した様に、ミスクール帝国との戦いを想定して準備をしないといけないと思ってね」

「そうね、でも大規模にしても魔法は通じないのでは無いかしら?」

「その通りだね、例えばアイロス王国が使っていたようなゴーレムが出て来るかも知れない、その為の色々試しておきたいが訓練場では出来ないからな」

ルリアはゴーレムと聞いて表情を厳しくしていた、あの時ルリアは殴られて気絶していたから、今度ゴーレムと会ったら絶対雪辱を晴したいだろう。

「確かに今のままだと、またゴーレムにやられてしまうわね・・・」

「エルレイ様、お待たせしました、この場所はいかがでしょうか?」

アドルフは俺の机に地図を広げて場所を示していた。

「ここは山の上?」

「はい、この山の上は開けており周りに人も住んでおりませんので、どの様な魔法を使っても大丈夫かと思います」

「良さそうね、エルレイ行って見ましょう」

ルリアは立ち上がり俺の手を引いて執務室を出て行こうとする、ルリアの力が強すぎて普通に引っ張られていくのは情けないな・・・。

「アドルフ、行って来る・・・」

「はい、行ってらっしゃいませ」

アドルフは引きずられていく俺をニコニコを笑顔で送り出してくれた。

ルリアと共に飛び立ち目的の山頂へとやって来た、周りは大小様々な岩があちこちに転がっていて草も生えていない、と言うかかなり標高が高く、障壁を張っていないと寒くて凍えてしまうだろう。

「誰もいないわね」

「そうだね、さすがにこの高さまで登って来る人もいないだろう」

「早速やるわよ、エルレイはゴーレムを倒した時、上から岩を落としたと言ってたわね」

「ゴーレムを泥で滑らせて転倒させてから岩を落として倒したな、あれくらいの岩だったな」

丁度近くにある岩が同じくらいの大きさだった。

「これを持ち上げて飛べばいい訳ね」

「そうだが、それを持ち上げて飛ぶのは無理では無いだろうか?」

どれくらいの重さがあるか分からないが、少なくとも一トンは軽く超えると思われる・・・。

「やってみなければ分からないわ」

ルリアは岩の傍に行き、飛行魔法を掛け岩と飛び上がろうとするが、さすがに浮かび上がる事は無かった。

「駄目ね、もう少し魔力を増やさないといけない様ね」

ルリアは再度やろうとしたので俺は慌ててそれを止めた。

「ルリア待ってくれ、実戦でそんな大きな岩を落としても避けられてしまうし、一個だけ落としても効率が悪い」

「どうすればいいのよ」

「前やった小さな岩を飛ばす事に専念した方が良いだろう」

「それではゴーレムを倒す事は出来ないわ」

「そうだね、だから大きさを少しずつ大きくして行って、どれが一番破壊力と速度が良いか試して行きたいと思う」

「分かったわ、作って頂戴」

俺はゴーレムを想定した大き目で堅い壁の標的をいくつか作り、ルリアに大きさや形の違う弾を作って渡した。

ルリアはそれを打ち出して行くがどれも壁を壊す事は出来ず、ルリアは徐々に機嫌が悪くなって行った・・・。

「エルレイ、全然壊れないじゃない!」

「ゴーレムを想定して壁を硬くしたから簡単には壊れないだろう・・・」

「壊れる弾を寄こしなさいよ!」

「でも今日はこのくらいにしておこう」

「分かったわ、明日もやるわよ!」

ルリアは壁が壊れなかったのが気に入らない様で、最後に自分の得意な火の魔法で壁を吹き飛ばしてしまった。

「ふんっ、帰るわよ!」

「はい」

ルリアはすっきりとした表情で俺の手を取り転移でリアネ城へと戻って来た。


翌朝エンリーカ、リリー、ロレーナ、ロゼをシルク作りの場所へ送り届けた後、ルリア、ヘルミーネ、リゼ、ラウラと共に昨日の山頂へとやって来た。

リリーとアルティナ姉さんには残っている者への魔法の訓練をお願いした、ヘルミーネも着いて来る必要無かったのだが、私が作った壁を壊してみろと、張り切って今丈夫な壁を制作中だ・・・。

「エルレイ様、あの壁を弾を飛ばして壊す訳ですね」

「そうだ、あの壁はゴーレムを想定して作ったからかなり丈夫だぞ」

「分かりました、ではエルレイ様、作って下さい」

今日は俺とヘルミーネが弾を作る役で、ルリア、リゼ、ラウラが飛ばす役だ。

「エル、壁を作って来たぞ」

「ありがとう、次は色々な大きさや形の弾を作ってやってくれ」

「うむ、任せるがいい」

ヘルミーネは次々と色々な弾を作って行く、ヘルミーネは飛ばすより作る方が楽しい様だな、俺も負けない様に作って行く。

やがてヘルミーネの作った弾をルリアが打ち出し壁を貫通して行った。

「やっと貫通したわね」

「私の弾が良かったのだな!」

「ルリア、ヘルミーネ凄いぞ、ヘルミーネ、もう一度同じ弾を作って見せてくれ」

「うむ、いいだろう」

ヘルミーネが作る弾の形状を確認、両端が尖った直径二十センチの双円錐形だな、俺も同じ様に作りリゼに渡した。

「行きますよ~」

リゼは俺が渡した弾を撃ちだすと見事に壁を貫通した。

「エルレイ様、やりました!」

「その弾でいい様だな、後は同じのを量産して行こう」

「分かった」

俺とヘルミーネで弾を量産して行った。

「ルリア、今度はこの弾を何個同時に運べて撃ちだす事が出来るか試して見てくれ」

「分かったわ」

ルリアは弾の数を変えながら飛び上がり、撃ちだす訓練を始めた。

「同時に運べるのは二十個が限界ね、ただ飛びながら撃ちだす事を考えると十個くらいが安全だと思うわ、それと箱に入れればもう少し運べるわね」

「分かった、ロゼにも後で訓練して貰うとして、運ぶ方法を少し考えた方が良さそうだな」

「エルレイ、お願いね」

どうやらルリアは考えてくれないらしい、急ぐ事でもないしゆっくり考える事にするか・・・。

「ではリアネ城に戻って昼食にしよう」

「エル、外では食べないのか?」

「さすがにここで食べる訳には行かないだろう・・・」

「そうだな、仕方が無い帰るとするか」

ヘルミーネも岩ばかりで寒いこの場所で食べる気にはならなかった様だ、皆を連れてリアネ城へと戻り昼食を美味しく頂いた。

久しぶりに訓練に集中出来たいい日々を送り、魔法が効かない相手への戦い方も皆慣れてきたようだった。

対人向けには今まで通り小さな弾丸を打ち出すようにし、対物に対してはヘルミーネが作った大き目の弾を打ち出し、そして俺はそれでも倒せない敵がいた場合に収納に入れた一メートル大の岩を上空から落とす事となった。

これでも倒せないような敵がいた場合は撤退し、対策を考え直すしかないと皆で話し合い決定した。

魔道具でどのような事まで出来るのかが分からないからな、ヘルミーネが持っている魔道具でさえ俺が知っている魔法では実現できなかった事だ。

遠くを見る魔法は光属性でウィルに出来るか聞いたところ出来ると言う事だった、ただ特定の人物を指定して見ることは出来ず、単に遠くが見えるようになるだけと言う事だった。

俺の予想では念話辺りの魔法と組み合わせていると思い試してはみたが上手くいかなかった、魔石があれば俺もいろいろ試してみたいのだが、今は他にやることがあるし無い物をいっても仕方がない。

そんなことより明日から二日間は使用人と警備隊のためのパーティが開催されるため、皆準備に忙しく走り回っていた。

俺はと言うと特に何もする事なく、アドルフからは挨拶を考えておいてくださいと言われただけだった。

使用人たちのためのパーティなのに忙しく働かせているのは申し訳なかったが、俺が作業の手伝いをするとかえって邪魔になるだけだからな・・・。


翌日リアネ城のパーティ会場は普段着慣れない立派な服を着た警備隊とその家族、使用人の夫婦と子供たちも参加し、大いに賑わっていた。

もちろん俺たちも全員参加していて、今日はラウラとエルミーヌが普段のメイド服から美しいドレスへと着替えて参加している。

リゼとロゼも着替えていいといったのだが、二日間半分ずつの参加ですからと、今日はいつものメイド服を着て俺たちのお世話をするとの事だった。

確かにリゼ、ロゼ、ラウラ、エルミーヌだけ贔屓して二日間とも参加させるのは他の者に示しがつかないからな・・・。

「エルレイ様、ご挨拶をお願い致します」

アドルフも今日は裏方に回っているようで、パーティの進行役をやっているようだ。

俺は壇上へと上がると今まで騒がしかったのが静まり返り、皆の視線が俺に向けられた。

「今日は俺たちのために日夜働いてくれている皆に、感謝の気持ちを伝えるためこのようなパーティを開くことになった、ささやかながら料理とお酒を用意しているので、遠慮はいらないから楽しんでくれ」

「「「パチパチパチパチ」」」

俺の挨拶が終わると拍手が巻き起こり、今まで我慢していた子供たちはいっせいに食べ物へと群がっていった。

俺はそれを横目で見ながら壇上から降りて、皆がいる所へとやってきた。

「短い挨拶でしたわね」

「エンリーカ、長い挨拶は嫌われるからな」

「まぁそうですわね、所でエルレイ、私と踊ってくださらないかしら?」

エンリーカが俺を踊りに誘ってきたが今日は彼女を優先するわけにはいかない。

「エンリーカ、すまないが後で踊るから待っていて貰えないだろうか?」

「そうでしたわね、今日の主役は私たちでは無いのですね」

「そういう事だ」

エンリーカは俺が言いたい事を分かってくれたようで引き下がってくれた、俺は日頃お世話になっているラウラのもとへと向かった。

「ラウラ、一緒に踊ってくれないだろうか?」

ラウラの前に手を差し出すと、にこっと微笑んで手を取ってくれた。

「はい、よろしくお願いします」

ラウラを連れて踊り始めた、まだ始まったばかりで誰も踊っていなくて俺とラウラの独壇場だった。

ラウラは皆に見られていて恥ずかしそうにしていたが、それが可愛らしくとてもいい。

「ラウラ、ドレスがよく似合っていて綺麗だよ」

「エルレイ様、ありがとうございます」

俺が褒めるとラウラは顔を赤くしてややうつむき加減になった、ラウラの身長でうつむくと俺とちょうど目が合う形となりさらに顔が赤く染めあがっていった。

ラウラとは練習の時に散々踊ったが、ドレスを着てこのような場所で踊るのとはやはり違うな、ラウラがいつも以上に可愛くて仕方がない。

俺とラウラが一曲踊り終える頃には他にも踊り始める者たちが出始めていた、とは言えほとんど使用人だけだな、警備隊の人たちはダンスを踊ったことなど無いだろうから周りで見ているだけのようだ。

「ラウラ、楽しかったよ」

「はい、私も楽しかったです」

ラウラと別れて、エルミーヌのところへとやってきた。

「エルミーヌ、踊ってくれないか?」

「エルレイ様、よろしくお願いします」

エルミーヌは俺の手を取り、二人で楽しく踊り始めた。

エルミーヌと踊るのは初めてだが、体が密着していて大きな胸が当たり、柔らかな感触が非常に気持ちがいい。

エルミーヌは元貴族と言う事もあってダンスを踊る姿はとても様になっている。

「エルミーヌ、とても上手だね」

「エルレイ様もお上手ですよ」

「ラウラに鍛えられたからな・・・」

「うふふ、そうでしたか」

エルミーヌと胸の感触を楽しみながらダンスを踊っていた、ずっと踊っていたかったがそう言う訳にもいかず一曲終わってしまった。

「エルレイ様、楽しかったです、また踊ってくださいね」

「エルミーヌとなら一日中でも踊っていたかったよ、また機会があったら踊ろう」

「はい」

エルミーヌと別れて、エンリーカを踊りに誘った。

「エンリーカ、お待たせ」

「それほど待っておりませんわ、ですが・・・」

エンリーカはそっと俺に耳打ちして来た。

「あまりエルミーヌに体を近づけすぎると、皆さんから恨まれますわよ」

エンリーカの指摘を受け皆の方を見ると俺を睨んで来ているな・・・。

「出来れば踊る前に言って欲しかった・・・」

「自業自得ですわね、それより踊りましょう」

「そうしよう」

後で皆から非難を受けるのは確実の様だから諦めるとして、エンリーカとのダンスを楽しむ事にしよう。

「エンリーカはダンスがとても上手なのだな」

「エルレイ、それはどういう意味かしら?」

「悪い意味では無いよ、ただキュロクバーラ王国ではこの様なパーティは無いのでは無いのかと思ってね」

「確かにエルレイの言う様な物はありませんわ、この王国の様に貴族がいませんからね」

「それならば王国の要職や領地の管理などはどの様にしているのだ?」

「実力を示し、王に認められた者が王国の要職に就き領地の管理をするのですわ、実力とは武力だけでは無く、学問においても同じ事ですわ」

「なるほどな、それでエンリーカは農業の勉強をしていたのだな」

「そうですわ、どなたと結婚するにしても王国の為に働くつもりでしたわ」

「それはすまなかったな、俺と婚約する事になって・・・」

「エルレイ、そんな事はありません、私はここに来て幸せな毎日を送っていますわよ」

エンリーカは優しく微笑んでくれていた。

「それよりエルレイ、ダンスに集中してくださいな」

「そうだな」

俺はエンリーカと楽しく踊る事にした。

「エルレイが話ばかりしていますからもう曲が終わってしまいましたわ」

「それはすまなかった」

「また踊って下さいね」

「もちろんまた機会がある時に踊る事にしよう」

今からもう一度踊ろうと言いかけたが、エレオノラが待ち構えているのが見えた、エンリーカもそれが分かっていたから素直に引き下がったのだろう。

「エレオノラ、踊ろうか」

「はいです」

エレオノラの手を取り踊り始めた。

「先程エンリーカとは楽しそうにお話をしていましたね」

「そうだな、キュロクバーラ王国の仕組みを教えて貰っていたよ」

「そうですか、では私ともお話をしてください」

「ダンスに集中した方が良いのでは無いのか?」

「ダンスはお話をしながらでもできます」

「エレオノラが良いのならそうしよう、どんな話が良いだろうか?」

「エルレイの子供の頃の話を聞きたいです」

「子供の頃と言ってもなぁ、今も十分子供なんだが・・・」

「言い方を変えます、私達と会う前の事を話してください」

「分かった、ではルリアと会った時の事から話そう・・・」

簡単にルリアに会ってからの事を踊りながら話した、さすがにすべて話すような時間も無く途中で終わってしまった。

「続きは夜にでも話してください」

「分かったよ」

エレオノラはダンスが楽しかったのか話が楽しかったのか分からないが、喜んでいたからいいのだろう・・・。

「リディア、踊ろう」

「私は踊るの苦手だよー」

「大丈夫、手を繋いでいるだけでいいからさ」

「んーじゃよろしくー」

リディアは踊るのを嫌がっていたが手を取ってくれた、嫌がっているのを無理やりやらせたくは無いが一度くらいは踊っておかないといけないだろう。

しかし踊るからにはリディアにも楽しんでもらいたいな。

「リディア、俺の足を踏んでも構わないから楽しく踊ろう」

「分かったよー」

リディアは苦手と言うだけあって動きがぎこちない。

「リディアはダンスより剣を振っている方が良いのだろうか?」

「そうだねーこんなゆっくりだと調子が狂うと言う感じかなー」

「なら少し早く動くぞ」

俺は周りで踊っている人に当たらない様注意しながら踊る速度を速めて行った。

「あははは、エルレイ、これは楽しい!」

「それは良かった、ではもう少し速度を上げるぞ」

「いいよー」

リディアと踊る速度を上げて行き最終的には倍くらいの速度で踊る事となった。

「エルレイ、楽しかったー、こんなダンス初めてだよー」

「楽しんで貰えたのなら良かったよ」

俺とリディアは肩で息をしながら笑い合っていた、他の貴族がいる時には出来ないが今日は身内だけだから誰も文句を言うような人はいない。

「じゃぁエミリアと代わるねー」

リディアはそう言ってエミリアの所へ行き、エミリアの手を引いてこちらに連れて来てくれた。

「エミリア、一緒に踊ろう」

「踊ります、でもあんなに早いのは無理」

「あれはリディアとだけだから普通に踊るよ」

「そうして」

エミリアの身長は俺より唯一低いので非常に踊りやすい、ラウラとは俺がかなり手を上げている状態になるからな・・・。

「エミリアは勉強と魔法の訓練ばかりで辛かったりしていないか?」

「大丈夫、勉強も魔法も楽しいし、皆も優しくしてくれる」

「それは良かった、エミリアの事を妹だと思って可愛がってくれているのだろうな」

「うん、お姉ちゃんがいっぱい増えて嬉しい、でも妹も欲しい、エルレイ、連れて来て」

エミリアはそう言うがこれ以上婚約者を増やしたくは無いし、八歳のエミリアの妹となると流石に婚約者としては駄目だろう・・・。

「それは難しいかな・・・」

「そう・・・ならマリーを妹にして欲しい」

マリーか・・・確かトーマとフリストが好きなのでは無かったのだろうか?

「エミリアはマリーと仲がいいのか?」

「歳も同じだしいい友達」

「そうか、でもマリーを妹にしてあげる事は出来ないかな」

「どうして?」

「マリーにも好きな人がいるだろうし、マリーの事を好きな人もいるかもしれない、無理強いは出来ないよ」

それにマリーを婚約者にしたらルリアがものすごく怒りそうだしな・・・。

「マリーがエルレイの事を好きならいいの?」

「うーん、でもやはり無理だな」

マリーは俺が腕を治してやった事で懐いているのは知っている、マリーも助けて貰った恩を感じているだけだろう、何よりトーマとフリストがマリーの事を好きなようだしな、皆の仲を裂くような事はしたくない。

「残念・・・」

エミリアは妹が出来ない事に肩を落としていた、エミリアとのダンスと言うかお話は終わり、俺もようやく席へと戻って行った。

さて今日は他に貴族もいないからパーティの美味しい食事を食べられると思い、料理を選んでいる所で声を掛けられた・・・。

振り返ると貴族と言われても不思議ではない位格好いい出で立ちのトリステンと、美しいドレス姿のニーナが立っていた。

「エルレイ様、本日はこの様なパーティをして頂き警備隊を代表してお礼を申し上げます」

「トリステン、今日はその様な硬い挨拶は必要無いぞ」

「そうだとは思ったのですが、隊長と言う立場上そう言う訳にも行きません」

「まぁそうだな、しかしトリステンその服装とてもよく似合っていて格好いいぞ」

「エルレイ様もそう思うさね」

「うむ、そしてニーナのドレス姿もとても美しいぞ」

「あ、あたいの事はどうでもいいさね」

二人共褒められた事が恥ずかしいのか、少し顔が赤くなっていた。

「そう言えばトリステン、この領地で作られた新しいお酒はもう飲んだだろうか?」

「はい、果実酒ですね、とても口当たりがよく美味しく頂きました」

「そうか、所でそのお酒は何処にあるのだ?」

「あの辺りで配られていた様ですが、今日の分はすでに無くなったようですね・・・」

皆に飲み干された後だったか・・・警備隊は酒飲みが多そうだから遅くまでは残って無いか、残念だが明日に期待しよう。

「まだ試作品の段階だから量産は出来て無い、しかし来年からはさらに多くの量が作られるはずだから期待していてくれ」

「はい、楽しみにしております」

トリステンは果実酒を気に入ったのだろう、笑顔でそう答えた。

「ところで二人はもうダンスを踊ったのだろうか?」

「いえまだですが・・・」

「あたいがダンスを踊れるとでも思っているのさね?」

「なるほど、トリステンは踊りたいがニーナが断っているという事だな」

「はい・・・」

「ニーナ踊りが下手でも誰も笑う者はいないぞ、俺も一番最初に踊らされた時は全く踊れなかったからな」

「でも・・・」

「こういう機会は少ないから楽しんできた方が良いぞ」

俺はそう言ってトリステンに目配せすると、トリステンはニーナの手を取って踊り場に連れ出して行った。

ニーナは最初抵抗している様だったが、踊り始めるとニーナはトリステンに体を預けて仲良く踊りを踊っていた。

よく見るとラルフとエレンも仲良さそうに踊っているな、オスカルとアンナも二人仲良く食事を楽しんでいる姿を確認できた。

他はと言うと今日は仕事をしている様だな、明日の方になったのだろう。

しかしこうして、綺麗な服装に身を包んでいる姿を見ると誰も孤児だったとは想像できないだろう。

ダンスを踊っているラルフとエレンは美しく踊っているし、オスカルとアンナもマナーを守って行儀よく食べているからな。

さて仲のいい恋人達を見ているより美味しい食事を楽しむ事にしよう、そう思い振り返るとドレス姿のメイド達が俺の周りにやって来ていた。

「エルレイ様、私達と踊ってください」

「それは構わないが、旦那と踊った方が良いのでは無いのか?」

「主人とは既に踊りましたので問題ございません」

そう言う事であれば普段お世話になっている以上踊ってあげない事は出来ないな。

「では時間の許す限り踊る事にしよう」

「ありがとうございます」

一人ずつ交代しながらメイド達と踊って行く、そう言えばパーティは夕食時まで続けられるのだったな・・・。

途中で飲み物は飲ませて貰ったが、パーティが終わるまで踊り続ける事となった・・・。


パーティ二日目、今日はリゼとロゼが美しいドレス姿で俺の前に立っていた。

「リゼ、ロゼとても綺麗だよ」

「「エルレイ様、ありがとうございます」」

珍しく二人そろって返事をしたな、出会った頃は良く二人で同じような話し方で返事をしていたのだが、今は二人共個性が分かりその様な事は滅多に無かったからな。

こうして着飾った二人を見るとそっくりで、一目見ただけではどちらか分からないだろう。

「では挨拶を済ませて来るから待っていてくれ」

「「はい」」

俺は昨日と同じように短い挨拶を済ませ、再びリゼとロゼの前へと戻って来た。

「リゼ、俺と踊ってくれ」

「はい、ですがもう少し雰囲気が出るような誘い方は無かったのでしょうか・・・」

「そうだな、ちょっとやり直そう」

いくらリゼとは言えあの誘い方は不味かったな・・・。

「リゼお嬢様、私と一曲踊って頂けないでしょうか」

「はい、喜んでお受けいたします」

俺がリゼお嬢様と言ったのが気になったのか隣にいたロゼが笑いを必死にこらえている様だった。

「っ、リゼお嬢様はさすがに無いかと思います・・・」

「ロゼ、どこからどう見ても今の私はお嬢様でしょう!」

「見た目はそうですが、中身がね・・・」

「俺もそう思うが、今日はリゼお嬢様で通す事にしよう」

「エルレイ様、酷いです」

「さぁ、リゼお嬢様ダンスに行きましょう」

ロゼと喧嘩しているリゼの手を取り踊場へと連れだした、ほっといたらずっと喧嘩していそうだったからな。

リゼと踊り始めたのはいいが、やたらとリゼが体を密着させて来るので踊りにくい・・・。

「リゼお嬢様、少々踊りにくいのですが・・・」

「エルレイ様はこうした方が気持ち良く無いですか?」

気持ちいいか気持ちよく無いかで言えば、確かに胸が当たって気持ちいいが、エルミーヌの様には行かないよな・・・。

「リゼお嬢様の気持ちは嬉しいですが、今は踊りを楽しんだ方が良くないでしょうか?」

「そうですね、では踊りを楽しみましょう」

リゼも当然踊りにくかったようで密着していた体を離し楽しく踊る事が出来た。

「もう終わってしまいました」

「残念だが、こう言うのはたまに踊るから楽しい物だぞ」

「そうかも知れませんね、今度はお部屋でも構いませんから踊って下さいね」

「約束しよう」

こういう機会でもない限り、リゼ達とは踊る機会が無いからな、練習という事でたまに部屋で踊る事にしよう。

リゼと共にロゼのことろに戻って来た。

「ロゼお嬢様、一緒に踊って下さいませんか?」

「はい、ですがお嬢様は止めてください・・・」

「そうか?リゼお嬢様は気に入ってくれたが・・・」

「私はいつも通りで構いません」

「ロゼがそう言うなら普通に接しよう」

「はい」

ロゼは微笑んで俺の手を取り踊り出してくれた、リゼとは違いロゼは優雅に踊るものだな。

「ロゼは楽しく生活できているだろうか?」

「はい、毎日楽しく過ごしております」

最近のロゼは笑っている姿をよく見かける様になった、やはりラウニスカ王国が滅んだ事で日々緊張して過ごす事が無くなったのだろう。

「エンリーカ達ともうまく行っているだろうか?」

「はい、皆様良い人達ばかりで今の所誰とも諍いを起こしている事はありません」

「ユーティアはどうだろう?」

「ユーティア様はルリア様とも仲直りされましたし、お部屋で話す時は非常に良い方ですからね」

「そうで無いとあれだけの人脈を持ってはいないだろうからな」

「そう思います」

「皆仲良く出来ている様でよかったよ、何か問題が起きたらすぐ知らせてくれ」

「はい、ですがその心配は必要無いかと思いますよ」

「俺もそう思っているよ」

「ただし、これ以上婚約者を増やさない様にして頂けると助かります」

「そうするよ・・・」

ロゼが言う様にこれ以上婚約者を増やす訳には行かないな、一人ずつに接する時間も減って行くし、俺の体がもたないかも知れない、この後また皆と踊らないといけないだろうしな・・・。

ロゼとのダンスを終えリゼの所に戻って来た、ルリア達とも踊らないといけないが俺には先にやるべき事がある!

「リゼお嬢様、ロゼ、用事があるから少し離れる、すぐに戻って来るからな」

「はい」

「行ってらっしゃいませ」

二人から離れて目的の場所へと足を運ぶ、場所は昨日トリステンから教えて貰っているからな。

その場所に着くと皆並んでグラスを受け取っているな、俺も最後尾に並んで待っていると声を掛けられた・・・。

「エルレイ様、何をなさっているのでしょうか?」

「アドルフ、やはり味見はしないといけないだろうと思ってな・・・」

振り向いた先には着飾ったアドルフとカリナさんが優雅にたたずんでいた、普通に貴族の夫婦にしか見えないな・・・。

「エルレイ様にはまだ早すぎます、列から離れてください」

見付かったのなら仕方が無い、俺は素直に列から離れる事にした。

「それでアドルフは味見をしたのか?」

「はい、飲みやすくとても美味しかったです」

くそー一口でいいから俺も飲んで見たかった・・・。

「エルレイ様、私と踊って頂けませんか?」

カリナさんが俺を踊りに誘って来たが、アドルフは構わないのだろうか、俺はアドルフを見ると頷いてくれた。

「分かった、ではお相手致しましょう」

「ありがとうございます」

カリナさんの手を取り踊り始めた、メイド長という事もあって踊りの方も上手だな。

「カリナさん、とても上手ですね」

「私は指導する立場ですから出来て当たり前なのです」

「そうかも知れないが、踊る機会なんて無いだろう?」

「そうですね、エルレイ様にはこのような機会を作って頂き使用人を代表して感謝申し上げます」

「それは俺の方が皆には感謝をしているから気にしないでくれ、頻繁には出来ないが年に一度はこれからも続けて行きたいと思う」

「ありがとうございます、それと使用人のお見合いの機会にもなりましたから助かりました」

「そうか、この前新しく来た使用人達も相手が決まったのだな」

「はい、それと休日が出来た事でもお互いが知り合う機会にもなりました」

「それは良かった、そう言えば休日はアドルフと出かけたりしたのだろうか?」

「はい、街に出掛けてまいりました、主人は気乗りしなかった様ですがリアネの街をゆっくり見て回る事が出来ました」

「俺も休日出掛ける事になったが、働いていた方が楽だったよ・・・」

「ふふっ、主人もそう申しておりました」

アドルフも俺と同じで働いていた方が気が楽なのだろうな、でも休日は必要だからこのまま続けることにしよう。

カリナさんとのダンスを終えアドルフの所に戻ると、カリナさんがお願いをしてきた。

「エルレイ様、お願いがございます、一人だけ相手が決まっていない者がおりまして踊って頂けないかと・・・」

「それは構わないぞ、しかし一人だけとは相手がいなかったのだろうか?」

「いえ、本人が断って来ましたので仕方なく・・・」

「それは仕方が無いな、本人が嫌がる物を無理やり押し付けるのは良くない」

「はい、あちらにおりますのでよろしくお願いします」

カリナさんが言った方向にはドレス姿で一人寂しそうにたたずむ少女の姿があった。

「マリーか・・・トーマとフリストはどうしたのだ?」

「トーマとフリストにはお相手が見つかりました」

周りを見渡すと確かにトーマとフリストは女性を連れて楽しそうにしているな、ついでにエリオットにも相手の女性がいる様だ。

という事はあの八人の中でマリーだけ相手がいない事になるな・・・。

「行って来る」

「はい」

アドルフとカリナさんと別れて、一人たたずむマリーの所へとやって来た。

「マリー、ドレスとてもよく似合っているよ」

「エルレイ様、ありがとうございます」

俺がマリーに声を掛けると寂しそうにしていた表情が一変して笑顔に変わった。

「マリーはどうして結婚を断ったのだ?」

「それは・・・私はまだ子供ですし、それに・・・それに好きな人がいますので!」

マリーは恥ずかしそうに俯いて、小さな声でしかしはっきりと聞こえるように言った。

「八歳での結婚は確かに速すぎるな、好きな人はトーマかフリストでは無かったのか?」

「それは違います!」

マリーは力強く否定した、ここにトーマとフリストがいなくてよかったな・・・。

「そうか、マリーと一緒に踊ろうかと思ったが好きな人がいるのなら止めておいた方がいいだろうか?」

「あっ、いえ、その・・・」

マリーは俺の事が好きなのだろうけど言い出せない様だな、この様な事は男の俺の方から言ってやらないと駄目だな。

「しかし、俺はマリーと踊りたいからな、どうか踊ってはくれないだろうか?」

俺が手を差し出すと、マリーは少し迷ってから手を取ってくれた。

「よ、よろしくお願いします」

マリーはややおぼつかない足取りだがしっかりと俺の動きに着いて来てくれている、相当練習したのだろうな。

「マリー、もう少し力を抜いて踊りを楽しんでくれ」

「はい」

俺がそう言うとマリーは笑顔で答えてくれて、踊りもスムーズ行くようになった。

「いいぞその調子だ、踊りは失敗してもいいから楽しまないとな」

「はい、エルレイ様、凄く楽しいです」

マリーは俺とのダンスを楽しんでくれている様でこちらも楽しい気分になって来るな。

しかし楽しい時間と言うのはあっという間に過ぎるものでマリーとのダンスは終わってしまった。

マリーは名残惜しそうにしていたが、やがて決心したように俺の手を離した。

「エルレイ様、踊って頂きありがとうございました」

「マリー、俺も楽しかったよ、ありがとう」

しかしこのまままたマリーをこの会場で一人にさせるのは可哀そうだな・・・俺は再びマリーの手を取った。

「エルレイ様、どうかなさいましたか?」

「マリーを皆の所に連れて行こうと思ってね、一人じゃ寂しいだろう?」

「はい・・・ですがよろしいのでしょうか・・・」

「構わないさ、今日はマリーたちが主役だからな、美味しい物をいっぱい食べるといい」

俺はマリーを連れて皆がいる所へとやって来た。

「はぁ、やっぱりこうなってしまったのね・・・」

ルリアが俺とマリーを見て大きなため息をついていた。

「ルリア、マリーにここで美味しい物を食べさせてやってくれないか」

「分かったわ、マリー、こちらにいらっしゃい」

「はい」

ルリアは面倒見がいいから任せて置けばマリーが寂しい思いをする事は無いだろう、それに仲が良いと言っていたエミリアもマリーの所に来た様だからな。

「エルレイ、お姉ちゃんと踊りましょう」

「アルティナ姉さん、踊りましょう」

こうなる事は分かっていたからアルティナ姉さんと踊った後は一人ずつ皆と踊って、さらにその後着飾ったメイド達とも踊りこの日もパーティの食事にありつく事は出来なかった。

そしてその夜、部屋にはマリーがやって来ていた。

「エルレイ、マリーの分のベッドも用意してあげなさい」

何故ルリアがマリーのベッドを用意するように言っているのかは分からないが、残念な事にもうベッドの在庫が無かった、今注文はしているがもうしばらくかかるだろう。

「ルリア、もうベッドは無いんだよ」

「あらそうなのね、でも構わないかしら、どうせ一つは空いているのだし」

「そうだが、どうしてマリーのベッドを用意しないといけないのだろう、誰かの専属になったのだろうか?」

その事はを聞いてルリアは呆れた表情を浮かべていた。

「エルレイ、一つ確認するわ、パーティで踊った時にマリーを婚約者にしたのでは無かったのかしら?」

「一緒に踊っただけで、特にその様な事は言ってないと思うが・・・」

記憶を思い浮かべてもその様な事を言った覚えはない、確かにマリーは俺の事が好きだろうとは思ったがまだ子供だし、そのうちいい人でも見つかれば気持ちは変わるかも知れないからな。

それにロゼに婚約者は増やさない様にと言われたからな、マリーを婚約者にするつもりは無かった。

「分かったわ、それなら今マリーを婚約者にしなさい」

「えっ!」

ルリアに突然言われて驚いてしまった、ルリアは俺が婚約者を増やす事が嫌なのだと思っていたのだがそうでは無いのか?

「なに?エルレイはマリーの事が嫌いなのかしら?」

俺が驚きの表情を見せ、ルリアが嫌いなのかと言った事でマリーが泣きそうになっていた。

「そんな事はない、マリーの事は好きだぞ、ただこれ以上婚約者を増やす事は良くないと思ってな・・・」

「エルレイも一応考えてはいた様ね、でもマリーの事は全員納得しているからいいのよ」

そうなのかと思って皆を見渡すとにこやかに笑っていたり頷いてくれたりしていたので、ルリアの言う事に間違いは無さそうだ。

「ルリア、分かったよ」

俺はマリーに向き直り真剣な表情でマリーを見つめた。

「マリー俺の婚約者になってくないか?」

「エルレイ様、よろしくお願いします」

マリーは大粒の涙を目に貯めながら嬉しそうにそう答えてくれた、そして泣きだしたマリーを俺は優しく抱きしめた。

「マリー、これからよろしくな」

「はい、はい!」

マリーは俺にしがみつき暫く泣き続けていた・・・。

「今回はルリアの早合点だった様ね」

「そうね、私の所に連れて来たからすでに婚約者にしたのだと思っていたわ」

「ですが良かったと思いますよ」

「うむ、可愛い妹が出来たと思えばいい事だ」

「また家族が増えて嬉しいのじゃ」

「マリーは私の妹」

どうやらルリアの勘違いでこの様な状況になったのは外野が話ているのを聞いて分かった、俺もマリーの事は嫌いでは無いし皆も納得してくれている様だから良かったという事にしておこう。

「エルレイ様、ありがとうございました」

マリーはようやく落ち着きを取り戻し俺から離れて行った。

しかし皆もう寝る準備をしている、いつもの感じだとマリーと一緒に寝る事になる、マリーは朝ここに来ているからその事は知っているだろう・・・。

「マリー、今日からここで一緒に生活して貰う訳で、今日は俺と一緒に寝て貰うが構わないだろうか?」

「はい、着替えてまいりますので少々お待ちください」

マリーはそう言って部屋から出て行った、マリーはドレスから着替えてメイド服だったからな、寝間着を今まで住んでいた部屋に取りに行ったのだろう。

暫くしてマリーは寝間着に着替えて俺のベッドへとやって来た。

「エルレイ様、失礼します」

「一緒に寝るだけで何もしないから緊張しなくてもいいぞ」

「はい」

そうは言っても一緒に寝るだけでもマリーにとっては恥ずかしかったりするのだろうからな・・・。

マリーはゆっくりと俺のベッドへと入って来た。

俺はいつも他の人にもするようにマリーに抱き付き眠る事にした。

「マリー、おやすみ」

「エルレイ様、おやすみなさいませ」

少し緊張している様だが、マリーは微笑んでくれたので大丈夫だろう、俺はマリーの暖かな体温を感じながらぐっすりと眠りについた。


翌朝目を覚ますとマリーが笑顔でこちらを見つめていた。

「マリー、おはよう」

「エルレイ様、おはようございます」

毎日の事だが朝目覚めた時に好きな女性の笑顔で目覚めるのはとても気持ちが良い物だな。

ずっとマリーの可愛い顔を見ていたいがそう言う訳にも行かない、マリーにも仕事があるしベッドの横で立って待っているリゼをあまり待たせると怒られてしまうからな。

ベッドから起き上がり、リゼに着替えさせて貰って朝食をすませから執務室へとやって来た。

エンリーカ達は毎朝シルク工場に行っているが、そんなに遠くないので送迎はロゼが行っている、他に外出する者と言えばユーティアだが大抵午後からだから送迎はその時に行えばいい。

リリーがエンリーカと共に出掛けているので、魔法の訓練をアルティナ姉さんに任せているのが心配だ、後で様子を見に行く事にしよう・・・。

道を作り終えた俺はと言えば特に急いでやる事はなく、執務室での事務作業と午後少し訓練をする程度になっている。

「アドルフ、二日間ご苦労だった」

「準備は大変でしたが、皆楽しんでおりましたので良かったと思います」

「それは良かった、毎年開催する事にしよう」

「はい、ありがとうございます」

「それで急ぎの要件はあったりするのだろうか?」

「特に急ぎの要件はありませんが報告が御座います、以前エルレイ様が申されていた魔法と剣術を教える場所が完成いたしました」

「それは凄い、ではすぐにでも生徒の募集を始めるのだな」

「いえ、それが剣術を教えるのには問題無いのですが、魔法を教えるのはロイジェルク様に止められました」

「そうか、魔法が市民に広がるのを良しとしなかったのか?」

「それもございますが、ロイジェルク様のお考えではまずは軍隊からという事の様です」

「そうだな、俺も警備隊に先に教えたし、魔法を悪用されても困るからな・・・」

「ですので、数年は待って欲しいとの事でした」

「分かった、俺も魔法の事はそこまで急いでいる訳では無い、それよりも読み書きを教える事の方が重要だ」

「それに関しても進めておりますが時間が掛ります」

「そうだな、俺が死ぬまでにはこの街にいる全員読み書きが出来る様にしたいものだ」

「その様に努力いたします」

アドルフとの会話もお終わり二日分の資料の確認作業に追われる事となった・・・。

数日間は平和な日々を送り皆との生活を満喫していた。

朝いつもの様に執務室へ行くとアドルフから急用ですと言われた。

「先程ロイジェルク様よりご連絡があり、陛下がお呼びになっているので至急来て欲しいとの事でした」

「そうか、ではすぐにでも出かけないといけないな、皆に知らせてから向かう事にするよ」

「よろしくお願いします」

陛下に呼ばれたのならリゼを連れて行く必要は無いので、ルリアに知らせておけばいいかな。

『ルリア、陛下に呼ばれたので今から行って来る、皆に知らせておいてくれないか?』

『エルレイ、待ちなさい、私も着いて行くわよ』

『陛下に会いに行くだけだからルリアが来る必要は無いぞ』

『いいから私も着いて行くから一人で行かない様に!』

『分かったよ、今玄関に向かっているから来てくれないか』

『分かったわ、絶対に一人で行っては駄目よ!』

何故か分からないがルリアは着いて来るつもりの様だな、陛下もルリアが着いて来ても気にはしないだろう、それならばヘルミーネも連れて行った方が良いのだろうか?

・・・駄目だなヘルミーネがいては陛下も難しい話は出来ないだろうし、ルリアだけ連れて行く事にするか。

玄関に出ると訓練場にいたのだろう、空からルリアが降りて来た。

「エルレイ、お待たせ、さぁ行くわよ!」

何故か張り切っているルリアの手を取りロイジェルク様の屋敷に転移し、ロイジェルク様を連れて王都に向かい、城へ行く馬車の中にロイジェルク様とルリアの三人で座っていた。

「ルリアが着いて来るとはどういった風の吹き回しなのだろうか?」

「今度からずっとエルレイには私が付いて回る事に決まったのよ」

いつ決まったのだろう・・・ロイジェルク様は俺の方を見て来たが俺も知らないと首を横に振るしかなかった。

「そうか、陛下も嫌がりはしないだろうから問題は無いが・・・」

ロイジェルク様もルリアが着いて来た真意に苦慮している様だ、俺も何故着いて来たのか分からないからな・・・。

「それより今日はどの様な用件で呼ばれたのかしら?」

「私も詳しい話は聞いていないが、数日前にルノフェノの領地をリースレイア王国の使者が通ったと言う事は聞いている、多分その事についてであろう」

「つまりまたエルレイが戦争に借り出される訳ね」

「うむ、その様な話なのだろうな」

「リースレイア王国と言えば私達が戦った相手ですよ、そんな相手に協力するつもりはありませんよ・・・」

「私もそうね」

ルリアもリースレイア王国と聞いて表情を歪めていた、ミスクール帝国に良いように使われたとはいえ一度戦った相手だ、協力してくれと言われて、分かりましたとは言えないな。

「とにかく陛下に会って話を聞いて見ない事にはどうしようもないな」

「そうですね・・・」

馬車の中は嫌な雰囲気になりつつ王城へと辿り着き、最近よく行く陛下の執務室へと通された。

「陛下、お待たせいたしました」

「エルレイ、急がせてしまってすまんな、そちらに座ってくれ」

ロイジェルク様とルリアと俺は並んでソファーに座ると、陛下もこちらにやって来て座った。

「今日は珍しくルリアが来ている様だな」

陛下はルリアを見て少し驚いたようだが、いつものような笑顔にすぐ戻った。

「陛下、お久しぶりです、今後エルレイのお供をさせて頂く事になったのでよろしくお願いします」

「ふむ、エルレイが無茶しない様見守るのだな」

「はい、その通りです」

なるほど、この前からルリアが俺に着いて来る様になったのは俺を監視するためだったのか?

まぁ別にルリアに着いて来られても困る事は無いから問題は無いな。

「では本題に移ろう、今日エルレイに来て貰ったのは昨日リースレイア王国からの使者が親書を携えて来たからなのだ」

そう言うと陛下は親書をロイジェルク様の前に差し出した。

「読ませて頂きます」

ロイジェルク様はそう言って親書を受け取り読みだした、全て読み終わると俺にも渡してきて読ませて貰う事にした。

内容は堅苦しいので要約すると。


ソートマス王元気~、そっちは順調に行ってていいよね~。

まぁこっちも魔剣があるから本気になれば何処にでも攻められるんだけどさ~。

前回ルフトル王国の件はちょっと軍が暴走しちゃったんだよねぇ、ごめんね~。

それはそうと、今度うちもミスクール帝国に攻め込もうと思ってるんだよねぇ~。

そ・こ・で、悪いんだけどさ~、そちらの魔法使いを貸してくれないかな~、勿論報酬は払うよ~。

そっちとは離れているから土地を渡す訳には行かないでしょう~、王女を一人魔法使いの嫁に差し出すから助けてくれないかな~。

それと魔剣もおまけに十本付けちゃう、どう?お得でしょう~。

魔剣はお金を出しても手に入らないから、この機会を逃すと二度と手に入らないよ~。

いい返事を期待してる~。


と言う内容だった、俺は読み終わった親書をルリアに見せると震えだし、非常に怒っている様だった。

まぁルフトル王国の件はごめんねの一言しか触れられていなかったからな、ルリアが怒るのも仕方が無い。

「ふざけないでよ、あれだけの人が魔物になって死んだのにこれは無いんじゃない!」

「俺もそう思うが、ルリア、陛下の前だから冷静になってくれ」

「っ、失礼しました」

ルリアは陛下の前だという事を思い出し、頭を下げて謝った。

「まぁよい、私もその内容にはいささか頭にくるものがあったからな」

そうですよね、ルフトル王国の件は置いておくとしても報酬が少なすぎる気がする。

魔剣十本と言われても正直ソートマス王国に必要かと言われれば、必要無いと答えるだろう。

確かに魔剣は素晴らしい物だが、魔力が供給できなければただの剣だ、魔剣に魔力を供給するためには宮廷魔法使いを魔剣の数だけ揃えないといけないからな。

それに十本魔剣があった所で軍で運用するには数が少なすぎて実用的ではない、結局魔剣十本手に入れても貴族への褒美として渡すくらいの価値しかない物だろう。

「エルレイ、この話は断るのよ」

「ルリア、そう急ぐものではないよ、陛下の話を聞いて見てから考えよう」

「そうね」

「ふむ、では話そう、結論から言うとこの話は受けたいと思う、理由はミスクール帝国だな、かの国は魔物を作り出す魔石を作り出した、それはこの千五百年この大陸からいなくなった魔物を再び呼び戻す危険な物だと私は思う、故にミスクール帝国を排除しなければならないと思うが、皆はどう思う?」

陛下の言葉を受けロイジェルク様もルリアも考え込んでいる様だ、暫くしてロイジェルク様が口を開いた。

「・・・私も陛下の意見には賛成です、ですがミスクール帝国に関しての情報が少なく、今攻め込むのは危険だと判断します」

「そうだな、しかしいつになれば情報が揃うのか、そしてそれまでに魔物がこの大陸を蹂躙する事は無いのか、という懸念が残るな」

「そうですね、エルレイ君はどう思う、攻め込むのはお前だからな」

ロイジェルク様は真剣な表情で問いかけて来た。

「はい、一応魔法が効かない相手への対策は出来ておりますから、リースレイア王国の手助けをする事は可能です、ですが感情的には手伝いたくないと言うのが本音ですね」

一度戦った相手と仲良く一緒に他の国へ攻め込むとは難しい事だと思う、信用して背中を預ける事も出来ないしな。

「それに報酬も少ない様に思います」

「エルレイ、また婚約者を多く貰うつもりなのかしら!」

ルリアが今にも殴り掛かって来るような感じで俺を睨んで来たので、慌てて訂正をする。

「もう婚約者は要らないから他の報酬にして貰おう、例えばお金とかにして貰えばいいんじゃないかな」

「はっはっはっ、エルレイも嫁には弱いのだな」

陛下は笑って俺達のやり取りを見ていた。

「そうだな、報酬の件は私も不満に思う所だ、それとエルレイが言う様に一度戦った相手を信用できない事にも理解できる、だがそこを曲げてこの大陸の為に働いてはくれないだろうか?」

陛下に頭を下げられてしまったし、俺もミスクール帝国は放置したくないしな。

「分かりました、陛下、頭をお上げください」

「そうか引き受けてくれるか」

「はい」

「報酬の件は明日から使者と協議して決める事にする、エルレイには王女は必要無いのだな?」

陛下はルリアを横目に俺に聞いて来た、ここで必要だと答えたらまず間違いなくルリアに殴られるので止めて置く・・・。

「はい、必要ありませんし、魔剣も必要ありません」

「無詠唱が出来るエルレイに魔剣は無用だの、それとは別にエルレイには頼みたい事がある、ルフトル王国とキュロクバーラ王国に今回の件を知らせる親書を渡してくれないか」

「分かりました」

当然その二国には知らせておく必要があるな、ルフトル王国の女王様は自領を使者が通って行っただろうから知っているかもしれないが、不可侵条約を結んでいる以上筋は通さなければならない。

陛下は事前に用意していた親書を二通俺に渡して来た。

「お預かりいたします」

「交渉は明日中掛かるだろうから、それまでには渡してくれ」

「承知しました」

陛下の執務室を出てロイジェルク様とルリアと共に帰りの馬車へと乗り込んだ。

「エルレイ君、今更だが受けてよかったのかね?」

「危険は承知です、ですがミスクール帝国を放置できないのも事実ですから」

「そうだな、だが危なくなったらリースレイヤ王国の事は捨ててでも帰ってっ来るのだぞ」

「はい」

「お父様心配しなくても大丈夫よ、私が人を魔物に変える様な国滅ぼしてくるわ」

ロイジェルク様は俺の心配よりルリアの心配をしているのだけどな、と思ったが口に出して言う訳には行かない・・・。

「ルリアには行って欲しく無いのだが・・・」

「いやよ、その為に今日まで訓練してきたのよ」

「ロイジェルク様、ルリアの事はこの命に代えてもお守りしますので・・・」

「うむ、エルレイ君、頼んだぞ」

ロイジェルク様もルリアを説得するのは無理だと分かっているからか諦めてしまった様だ。

ロイジェルク様を送り届けリアネ城へと戻って来た、親書を届けに行かないといけないがアドルフに報告してからだな。

執務室へ向かうとルリアも当然の様について来た。

「アドルフ、ただいま」

「エルレイ様、ルリア様、お帰りなさいませ」

「陛下からの話は、リースレイア王国に助力してミスクール帝国に攻め込むという内容だったよ」

アドルフはその事を聞いて表情を厳しくしていた。

「それでエルレイ様はお受けになったのですか?」

「魔石の件があるから受けて来たよ」

「そうですか、ミスクール帝国は今は弱体しておりますが以前はこの大陸の半分を支配していた大国です、どの様な攻撃手段を持っているか分かりませんので、ご注意ください」

「ありがとう気を付けるよ、それと今からその事を知らせにルフトル王国とキュロクバーラ王国に陛下の親書を持って行って来る」

「承知しました、リースレイア王国へのご出立はいつ頃でしょう?」

「明日陛下が使者と報酬の件で交渉をすると言う事なので、早くて明後日だろうな」

「それまでの準備を整えて置きます」

「頼むよ、それと今回はルリア、リリー、リゼ、ロゼを連れて行くからその分の食料も用意しておいてくれ」

「畏まりました」

「リリーを連れて行くとは意外ね」

「リリーを戦争に連れて行きたくは無いが、怪我人の治療にはリリーの力が必要だ、前回キュロクバーラ王国では苦労したからな」

「まぁリリーも連れて行って貰えて喜ぶ事でしょう、しかし連れて行かない者からは不満が出るわよ」

「そうだな、アルティナ姉さんとヘルミーネは争い事には参加しないと言っていたが、ロレーナとリディア辺りは着いて来ると言うかもな」

「でしょうね、でも連れて行かないのよね」

ロレーナの火力はルリア、リゼに続く物があるから戦場に連れて行けば活躍する事は間違いないだろう、しかしロレーナの心をくだらない戦争で傷つけたくはない、リディアは剣の腕前は確かだが、魔法の方はまだまだの様だから戦争に連れて行くには危険すぎる。

「そうだ、ロレーナを連れて行けば強力な攻撃力ととなるが、あの笑顔を失わせたくない、リディアは一対一なら戦えると思うが戦争はそうでは無いからな」

「私も同じ意見ね、二人の説得はエルレイの仕事だから頑張りなさい」

「それは全力で頑張るよ、ではアドルフ、連絡が取れ次第行って来るよ」

「はい、行ってらっしゃいませ」

執務室を出て玄関へと戻る。

「ルリアはヘルミーネとロゼに弾を大量に作ってもらうよう頼んでくれないか?」

「分かったわ」

俺はまずソフィアさんに連絡を付ける事にした。

『ソフィアさん、今大丈夫でしょうか?』

『はいエルレイ様、何か御用でしょうか?』

『急な事ですみませんが、女王様に面会できないでしょうか?』

『構いませんよ、お待ちしておりますね』

女王様はあの場所から動けないのだろうからいつでも会う事は可能で助かるが、問題はキュロクバーラ王だな、マティアスに連絡してみるか。

『マティアス、今良いだろうか?』

『エルレイ、構わないぞ』

『急用で明日までに王様に会いたいのだが時間を取れないだろうか?』

『そうだな、今王は外出しているが、明日の午前中なら会えるよう手配しておく』

『助かるよ、明日そちらに伺うからよろしく頼む』

『分かった、所で急用とは何だろうか?』

『リースレイア王国とミスクール帝国の件だ』

『そうか・・・分かった、王にも伝えておく』

やはり王様は外出していたな、ラウニスカ王国を手に入れたばかりだから忙しいのだろうな。

「ルリアも着いて来るんだよな?」

「もちろんよ」

「ではルフトル王国に行こう」

ルリアの手を取ってルフトル王国の結界前へとやって来た。

『ソフィアさん、結界前に着きました』

『エルレイ様、少々お待ちください』

暫くするとソフィアさんが出て来て結界内へと入れてくれて城まで運んで貰った。

「女王様、急な訪問にも拘らずお会いして頂きありがとうございます」

「エルレイ、構いませんよ、ここへ来た理由も分かっておりますからね」

女王はそう言って微笑みかけてくれた、リースレイア王国の使者がこの地を通過しているからな知っていて当然の事だ。

俺は陛下から預かった親書を取り出し文官へと渡し、それが女王の下へと届けられる。

女王は親書を読み終え、俺を見て苦笑いをしていた。

「また戦争に駆り出されるとは、エルレイも大変ですね」

「はい、今回リースレイア王国に力を貸す義理は無いのですが、ミスクール帝国を放置することも出来ませんので仕方なく・・・」

「そうですね、あの魔石はミスクール帝国から流れて来た物ですが、私にも未だに出所が分かりません」

女王様は光の精霊エルによってさまざまな物を見通せるようだが、それでも無理なのか・・・。

「女王様でも見通せない場所があるのですね」

「えぇ、ミスクール帝国の城はこの国の様に結界が張られていて中を見通せないのです」

「ここと同じような結界ですか・・・」

「少し違いますね、この結界の様に侵入を阻害する物では無く、中を見えなくしたり入って来た者が監視出来たりするようですね」

なるほど、だからロイジェルク様が雇って調べようとした者が見つかり戻ってこなかった訳か、この事はロイジェルク様にも知らせてあげないといけないな。

「分かりました、貴重な情報ありがとうございます」

「これくらい構いませんよ、それに今回私達は手伝う事が出来ませんからね」

「それは当然の事です、私も旗色が悪くなったらリースレイア王国を捨ててでも逃げてきますよ」

「それが良いでしょう、エルレイを失うと戦争の範囲がまた広がりますから気を付けてくださいね」

「はい、私もまだこの歳で死にたくありませんからね」

「そうですね、ロレーナを悲しませないようにしてください」

「はい、それと今回ロレーナを戦場には連れて行きませんのでご安心してください」

「そうなのですね、ロレーナを連れて行った方が戦力になるでしょうに」

「そうですが、今ロレーナは皆と協力して楽しそうにシルク作りに精を出しています、そんな彼女を戦場に連れて行くのは忍びないので留守番して貰います」

「ふふっ、ロレーナは楽しく暮らしているのですね、その生活を守るためにも頑張らないといけませんね」

「はい」

「俺様が着いているから安心して待ってな!」

「グール、エルレイの事頼みますよ」

「おうよ!任せておきなって!」

今回グールに頼る事もあるかも知れないが、こいつをあまり調子に乗らせたくは無いな。

「では女王様、これで失礼させて頂きます」

「気を付けて下さいね」

女王様の部屋から出てルフトル王国を後にした。


翌朝キュロクバーラ王国へとルリアと共にやって来た。

「マティアス、おはよう」

待ち構えてくれていたマティアスに挨拶すると笑顔で迎え入れてくれた。

「エルレイ、おはよう、今日はいつものメイドでは無いのだな」

マティアスはルリアを不思議そうに見ていた、そう言えば紹介した事無かったな。

「俺の婚約者でルリア」

「ルリアです、よろしくお願いします」

「俺はマティアス、王の補佐をやっている、よろしく頼む」

お互い挨拶をしたところでマティアスは城に案内してくれて謁見室へと通してくれた。

「王様、お久しぶりです、急な訪問に答えて頂きありがとうございます」

「うむ、マティアスから聞いたが、また戦争なのか?」

「はい、詳しくはこちらをお読みください」

俺は親書を渡し、王様の所に届けられて読み始めた。

「・・・なるほど、しかしエルレイはリースレイア王国と戦ったのでは無かったか?」

「はい、しかしミスクール帝国が人を魔物に変える魔石を所持している以上、放置できないと思い助力する事に致しました」

「そうか、俺としてはどちらも潰してくれれば助かるのだが、そう言う訳にも行かないか・・・」

「潰すのは簡単ですが、その後の管理が出来ません」

「わははは、潰すのは簡単だとは言うじゃないか!」

「空から魔法で吹き飛ばせばいいだけですからね、実際にはやりませんが・・・」

「そうよな、エルレイがそこまで非道なら俺も娘を預けたりしないからな、所で娘たちは元気にしておるか?」

「はい、エンリーカは農業の指導をして貰っています、エレオノラ、リディア、エミリアは毎日魔法と剣の訓練をしております」

「ほう、魔法を使えるようになったのか?」

「はい、指導次第では誰でも魔法は使える様になります」

「ふむ、非常に興味深いが教えてはくれないのだろう?」

「申し訳ございません、グリフォンと同じで秘密でございます」

「わははは、そうよな、グリフォンを出されてはこれ以上聞き出す訳には行かないな」

「そうして頂けると助かります」

王様は笑っていた表情が真剣にな物に代わりこちらを見て来た。

「話は元に戻るが、ミスクール帝国には気を付けろ、どんな魔導具があるのか分からん、正直な所俺もあの国には手を出しかねておる、密偵を送り込んでいるが情報がつかめておらんのでな」

当然隣の国だから注意を払っているのだろう、女王様も分からないと言っていたから無理もない。

「その件で一つ情報が御座います、ルフトル王国で教えて頂いたのですが、ミスクール帝国の城には敵を発見する結界が張られていて中に入るとすぐ見つかるそうなのです」

「やはりそうか、これまで送った密偵が一人残らず戻って来ておらんからな、そう言う事では無いかと思っておった」

「ですので、無駄な犠牲を出さないためにも城へは近づかない方がよろしいかと思います」

「分かった、しかしエルレイが潰してくれればそんな事は必要なくなるだろうから頑張ってくれたまえ」

「出来る限り頑張ってみます」

王様との謁見を済ませ、マティアスに見送られてリアネ城へと戻って来た、その日はヘルミーネとロゼが作ってくれている弾作りに参加し、作れるだけ作って収納した。

夕刻ロイジェルク様から連絡があり、使者との交渉がまとまったので明朝出立の準備をして王城に来てくれという事だった。

夕食後部屋に皆を集めて出かける事を離す事にした。

「皆薄々気付いていると思うが、俺は明日からリースレイア王国に行きミスクール帝国との戦争に参加する事となった、そこで連れて行くのはルリア、リリー、リゼ、ロゼの四名にする」

俺がそう言うとやはりと言うか連れて行かない者たちから不満が上がった。

「私も行きたいー」

「エルレイ、私も行きたいのじゃ」

「エルレイ、私は何故付いて行ってはいけないのかしら?」

リディアとロレーナは予想していたがエンリーカは争い事は好まないかと思っていたから意外だ。

「リディア、これは剣術の訓練ではなく戦争だ、一対一で戦うのとは違うのだよ」

「でも魔法も使える様になったよー」

「しかしリディアは他の皆に魔法でも勝てないだろう?」

「それはまだ習い始めたばかりだからしょうがないじゃないかー」

「そう言う事だ、上達したら連れて行くからそれまで訓練を頑張ってくれ」

「うー、わかったよー」

リディアは渋々納得してくれた様だ。

「エンリーカも同じ理由だな、それにシルク作りの方を頑張って貰いたい」

「残念ですがその通りですわね、しかしロゼを連れて行かれては移動出来ませんわ」

今までロゼが皆を連れて行っていたからな、代わりはアルティナ姉さんにやって貰うしかないか。

「アルティナ姉さん、お願いできないだろうか?」

「エルレイの頼みだからお姉ちゃん断らないわよ、しかし虫を見るのは嫌よ・・・」

やはりブルーモスを見るのは嫌の様だな、ラウラも同じ様だから頼まなかったのだが・・・。

「アルティナには送迎だけお願いしますわ」

「それなら任せてちょうだい」

二人で解決してくれた様だな、さてロレーナだが・・・。

「ロレーナもエンリーカと一緒にシルク作りをやって貰えないだろうか?」

「嫌じゃ、私もエルレイと共に戦いたいのじゃ」

「ロレーナは強いから、俺の代わりにここの皆を守って貰いたいのだが駄目だろうか?」

「むーどうしてもか?」

「どうしてもだ、ソルも頼むぞ」

「「任せるワン」」

俺がソルに頼んだことでロレーナも折れてくれた様だ。

「分かったのじゃ、しかし早く帰って来るのじゃぞ」

「あぁ、約束するよ」

さて残るはユーティアだな。

「ユーティアとエルミーヌは暫く王都で暮らして貰うが良いだろうか?」

「それで構わないわ、どちらかと言えば私がお願いしなければならない事よ」

「そうだな、警備を付けた方が良いだろうか?」

「必要無いわ、お父様の館は安全だから」

「それもそうか、では明日の朝一緒に出掛けるから準備をしておいてくれ」

「分かったわ」

「承知しました」

「では他の皆留守の間頼んだぞ」

「うむ、エル私に任せておけ」

皆しっかりしているから大丈夫だろう。

リースレイア王国に行く際にリゼとロゼの服装をメイド服じゃない物にしておかないといけないな、そうしないと一緒に食事も出来ないし、リゼとロゼも立派な魔法使いだから相手に下に見られたくはない。

「ルリア、相談がある、リゼとロゼの服装を俺達と同じにしていく事は可能だろうか?」

「それはリースレイア王国での事かしら?」

「そうだ、リゼとロゼも立派な魔法使いだから相手になめられたくはない」

「そうね、エルレイ、いい考えだわ、アルティナの服を着せてはどうかしら?」

「アルティナ姉さん、良いだろうか?」

「もちろんいいわよ、きれいなのを用意しするわね、リゼ、ロゼ、こっちに来て頂戴」

「エルレイ様、よろしいのでしょうか?」

「構わないさ、俺の婚約者として紹介すれば問題無い、そうすれば俺達といつもの様に食事も出来るからいいだろう」

「そうですね、ではアルティナ様、よろしくお願いします」

リゼは喜んでアルティナ姉さんの所に行った、しかしロゼはまだ迷っている様だ。

「ロゼも遠慮しなくていいんだぞ、これは俺の我儘だからロゼが気にする事はない」

「・・・分かりました、では服を選んでまいります」

ロゼも笑顔になりアルティナ姉さんの所に服を選びに行った、さて俺はミスクール帝国との戦いに向け思考を巡らせる。

弾の準備は出来たが何か忘れている物は無いだろうか、今回の戦いで最優先されるのは俺達が無事帰る事で無理は絶対しない。

最悪負けたとしても情報を持ち帰ればやり返せるだろうからな、という事で俺達は前面に出ず、リースレイア王国軍を最大限に活用する事にしよう。

元々リースレイア王国の戦いだから犠牲者が出たとしても俺のせいでは無いし、こちらの攻撃手段を相手に見せたくもない。

弾は出来るだけ見せない様に戦って行く事にした方が良さそうだな。

後でルリア達とも話し合いをして方針を固めて置こう。


≪リースレイア王国サイド≫

「金貨一万枚だと!!」

ソートマス王国に使者として行ったノーリッシュから念話で伝えられて来た事は、娘も魔剣も不要だから金貨一万枚寄こせと言う物だった。

「ノーリッシュからはその様に伝えられました」

怒り狂う陛下に対して恐る恐るヒューイットは伝えた。

「そんな事は分かっておる、金貨一万枚払えるはずが無い事はお前も分かっておるだろう」

財務官を任せられているヒューイットにもその事は十分に分かっている、ただ念話で伝えられたことを言っただけだ・・・。

「どう返事いたしましょう?」

「ソートマス王国も払えないと分かっていて吹っ掛けてきておるのだろう、ならば値段を下げ交渉するのもお主の役割だろう!」

陛下にそう言われたが財務官としてお金の管理はしているが、交渉役までは私の仕事では無いと思う。

陛下とは幼少の時より親しくして頂いてこの様な役職も与えられて皆からは羨ましく思われているが、実際には陛下の我儘に付き合わされてとても大変なのだと声を大にして言いたい。

今回の魔法使いの件も財務官である私が調べる物では無く、軍務官に任せる所だろう・・・。

交渉役も同じだが、やれといわれればやるしかない・・・。

「出来るだけ値段を下げるよう交渉致します」

「ヒューイット、任せたぞ!」

さて使者のノーリッシュに念話で指示を与えながらソートマス王国と交渉を進めて行く・・・。

夕刻まで続けられた交渉でなんとか半額の金貨五千枚に下げ、それでも一括で払うのは厳しいので金貨五百枚を十年間支払う事で合意できた。

それともう一つ条件を付けられ、ソートマス王国、ルフトル王国、キュロクバーラ王国の三国と不可侵条約を結ぶ事を約束した。

「以上の様になりました」

「うむ、金貨五千枚は高いが毎年五百枚なら痛くはない、その値段でミスクール帝国が手に入るのなら安い物だな」

「その通りでございます」

「しかしこちらが負けた時にはどうするのだ?」

「それは・・・大変申し上げにくい事ですが、この国は滅びますので支払う必要もなくなります・・・」

「う、うむ、そ、そうだな・・・」

あれもしかして陛下はこの戦争が王国の命運をかけた戦いだという事に今気が付かれたのだろうか・・・。

「ですので全軍を持ってミスクール帝国に立ち向かう必要がございます」

「当然だ!アンドレアルスにもその様に伝えてくれ」

「畏まりました」

陛下の下から離れて一息つく。

「はぁ、これで魔法使いが使い物にならなかったらこの王国は終わりだな・・・」

思わず声に出して言ってしまって慌てて周囲を確認する、どうやら誰にも聞かれていなかった様だな、こんな言葉を発したと周囲に知られてしまえば俺の立場も危うくなる。

魔法使いには頑張って貰うとして、家族を逃がす算段を立てなければならないな。

お隣のルフトル王国は自由で誰でも受け入れてくれるがあまり裕福では無い、キュロクバーラ王国は戦争が終わった後なのでここも厳しいだろう、やはりソートマス王国の魔法使いの領地が活気があり、外からの人も簡単に受け入れてくれるからいいな。

陛下に頼まれた情報収集もこの様な役に立つとは調べて置いてよかった、そう思いつつヒューイットは城の廊下を歩いて行くのであった・・・。


≪エルレイサイド≫

翌朝朝食を済ませて玄関へと皆集まっていた。

「皆後の事は頼んだぞ」

「うむ、任せておくがいい」

「エルレイ、早く帰って来てね」

「気を付けて行って来るのじゃぞ」

「留守の間は守っておきますわ」

「行ってらっしゃい」

「お土産よろしくねー」

「気を付けて」

「「エルレイ様、行ってらっしゃいませ」」

皆と別れを済ませ、ロイジェルク様を迎えに行き、ユーティアとエルミーヌを王都の館に残して城へと向かう馬車へと乗り込んだ。

「今日はいつものメイド服では無いのだな」

ロイジェルク様が馬車に乗っているロゼとリゼの姿を眺めていた。

「はい、リゼとロゼも魔法使いですので、リースレイア王国には魔法使いとして連れて行く事にしました」

「ふむ、それはいい考えだ、五人の魔法使いを連れて行ったとなれば向こうもこちらの要求を受け入れるほかないだろう」

「はい、メイド服では魔法使いに数えられないですからね」

キュロクバーラ王国ではリゼが実力を示した事によって魔法使いとして扱われたが、他の国ではそう言う訳には行かないからな。

「その通りだな、だが彼女達には申し訳ないが陛下の前には出さぬようにな」

「それは心得ております」

残念な事だが陛下の前に貴族以外の者を立たせる事をこの王国では認めていない、この王国に住んでいる以上は守らなければならない事だ。

「お父様、使者は馬車で来たのよね?」

「そうだが?」

「と言う事はリースレイア王国までは馬車の旅という事ね・・・」

「そうなるだろう」

「エルレイ、そんなの時間の無駄だから飛んで行きましょう」

「そうだな、ロイジェルク様、馬車で行くとなるとどれくらいの日数が掛かるのでしょうか?」

「ふむ、最低でも半月は掛かるのでは無いだろうか?」

半月か・・・確かにルリアの言う通り時間の無駄だな。

「飛んで行く事にしよう」

「しかし使者を置いて行く訳には行かないだろう」

「ロイジェルク様、大丈夫です、以前ルフトル王国で運んで貰った様な事が出来る様になりましたので、複数人同時に運べます」

「それは凄いな」

「馬車は運んで貰わないといけませんが、使者を連れて帰れば問題無いでしょう」

「そうだな」

馬車は王城へと辿り着き、リゼとロゼは控え室で待っててもらい謁見室の横にルリアとリリーと並んで立っていた。

陛下と使者が謁見室に入って来て始まった。

「面を上げよ」

「はっ」

「リースレイア王国の使者ノーリッシュに紹介する、我が王国最強の魔法使いエルレイだ」

陛下から声が掛かり俺は使者の前に歩みを進めた。

また王国最強の魔法使いと言うから宮廷魔導士たちがいる辺りからの視線が痛い、まぁ彼らの実力は俺の家族よりはるかに下だし、下手をすると警備隊より魔法が使えないのでは無いだろうか・・・。

ロイジェルク様も今後軍に魔法を使わせようとするだろうから、益々彼らの立場は無くなって行くな・・・。

そこは努力を怠った彼らの責任という事で俺は知らない。

「そなたが魔法使いか、話には聞いていたが本当に子供なのだな」

ノーリッシュは俺の事を上から下にと観察していた、そんなに見ても子供であることに変わりは無いぞ・・・。

「確かにエルレイはまだ子供だが、これまで数々の戦場で勝利をもたらして来ておる、丁重に扱ってくれ」

「はっ、失礼しました、私が責任を持ってお預かりいたします」

「うむ、それとこれをリースレイア王に渡してくれ」

陛下がノーリッシュに親書を渡して終わった、俺達は謁見室を出てリゼとロゼが待つ控室へと向かい、城の玄関へと出て来た。

既にノーリッシュは馬車の前で俺が来るのを待ち構えていた。

「エルレイ、俺はリースレイア王国第一魔剣軍副団長のノーリッシュだ、よろしくお願いする」

「俺はエルレイ、今回俺の婚約者の魔法使いを四人連れて行く」

「そうか、しかし馬車に乗れないな、そちらで一台馬車を用意してくれないか?」

「その必要は無い、リースレイア王国まで飛行魔法で飛んで行く、もちろんノーリッシュも送って行こう」

「馬鹿な、リースレイア王国までどれだけの距離があると思っているのだ」

「それは気にしなくていい、数時間で着くからな、それより馬車で帰らせる者と飛んでいく者に分けてくれ」

「本気なのか?」

ノーリッシュは飛んで行く事を信じではくれず聞き返して来た。

「ノーリッシュ、そんなことも出来ない魔法使いを連れて帰っても役には立たないだろう?」

「う、うむ、そうだな、では暫く待ってくれ」

ノーリッシュはそう言うと馬車で待つ部下の所へと行った、暫くして二人の部下を連れて来た。

「俺とこの二人を頼む」

「分かった、ルリアはリリーを頼む」

「分かったわ」

さて俺はリゼを抱きかかえ三人を連れて飛び立った、本来王都上空を飛行魔法で飛ぶ事は許されていないのだが、今日は特別にとロイジェルク様が許可を貰ってくれていた。

俺と共に飛び上がった三人は下を見て驚いていた。

「本当に飛べるのだな・・・」

「これくらい出来なくては最強の魔法使いとは言われません」

「うむ、そうだな」

「では速度を上げるので驚かないで下さいね」

俺とルリアとロゼは飛ぶ速度を上げて行き、ソートマス王国、ルフトル王国の上空を飛び越えリースレイア王国へと向かって行った・・・。


≪マリー視点≫

私は六歳の時、母親からこれからは一人で生きて行きなさいと言われて、街の路地に置いていかれました。

その日はただ呆然とするだけでその場にずっと佇んでいました、また母親が迎えに来てくれると信じて・・・。

しかし翌日になっても母親は迎えには来てくれず、お腹もすいて来たので食べ物を探しました。

お金も持っていない私は食べ物を買うことも出来ず、井戸で水を飲む事で飢えをしのぎました。

その次の日も何も食べる事が出来ず、とうとう私は市場で果物を盗んでしまいました。

しかし六歳の私ではすぐに捕まってしまい、警備兵に渡されて牢屋に閉じ込められました。

そして盗んだ罰として腕を切り落とされ、血が出ない様に治療はしてくれましたが、激しい痛みと熱で三日間ろくに眠る事も出来ませんでした。

しかし牢屋にいる時はまだ良かったのです、食事と飲み物がちゃんと食べられましたから。

牢屋に入れられて一週間がたち外に出されました、切られた腕の痛みは和らいできましたが、片手が無い不自由さは何とも言えない物でした。

これからずっとこのままなのだと思うと涙が止まりません、しかしいつまで泣いていてもお腹が減るばかりですから、また食べ物を探しに行きました。

道行く人には片手の私を見て泥棒だと非難の声を浴びせかけられ、私は逃げるように裏路地へと迷い込んでしまいました。

少し薄暗くて汚く少し怖い感じのする場所でした、そこがどんな場所なのか当時の私に分かるはずもなく彷徨っていると、声を掛けられました。

「こんな所を一人で歩いていると危ないよ」

エレンとの初めての出会いでした、その後エリオット達の所に連れていかれて仲間にして貰いました。

そこで皆から少しの食べ物を分けて貰いました、そして盗みを働いてはいけないと言われました。

ではどうしたら食べ物が食べられるのかと聞いた所、翌日から一緒に集めに行こうと言われて着いて行きました。

朝は残飯があるからと食堂等の裏口を回り、昼になると下水から街の外に出て木の実や食べられる草など教えて貰いながら集めて回り、夕方には市場で売れ残りを分けてくれる所があると連れていかれて腐った果物や野菜を貰って皆で分けて食べました。

木の実は食べられましたが、残飯も草も腐った果物や野菜は美味しくありません、しかし我慢して食べました。

それしか食べるものが無いのですから・・・しかし僅かな食料を八人で分けて食べるのですから皆常にお腹を空かせていました。

そんな日々は続き、片手での生活も慣れ何とかやって行ける様になった時、アンナが病気で倒れてしまいました。

どうにか元気になって貰おうと、皆で少しずつアンナに良い物をより多く食べて貰いましたが、一向に良くなりません。

むしろ日々アンナは弱って行きます、そんな時にエリオットはアンナの為に盗みをする事を決心します。

皆は止めましたがエリオットの意志は固く、それならば皆で盗みをしようと言ったのですが、捕まるのは俺一人でいいと言って私達を別れてエリオットは一人で行動する様になりました。

最初の内は上手く行っていたのですが続けて行くうちに周りの警戒も厳しくなり、ついに捕まったと外に出ていた私達の所にエレンが知らせに来てくれました。

そして何故か私の腕を治してくれる人がいると連れていかれました。

その人は豪華な衣装を纏った一目で貴族だと分かる出で立ちでした、幼い頃母親に貴族に関わってはいけないと厳しく言われていたので、肩に触れられた時は恐怖を感じました。

しかしその人から暖かな物が流れて来て徐々に失ったはずの手の感触が戻って来ました。

暫くすると私の手が元通りになっていました、感触を確かめるように手を開いたり閉じたりしました。

私の手が付いている、嬉しくて泣いてしまいました。

その後魔法で城へと連れて来られました、遠くから見る事はあってもこんなに間近で見たのは初めての事です。

城の中へと連れられていき、お風呂に入れられて、美味しい食事をお腹いっぱい食べさせて貰い、柔らかなベッドで眠りました。

翌朝もまた美味しい食事をお腹いっぱい食べさせて貰い部屋に戻ると、昨日城に連れて来てくれた人が入って来ました。

名前はエルレイ様、私の手を治して下さった恩人です。

エルレイ様は私達に住む場所と食事、それと仕事を与えてくれました。

仕事は読み書きに計算と体を鍛える事だそうです。

最初はそんな仕事があるのかと疑っていましたが本当の事でした。

読み書きと計算を覚えるのは大変で、皆で手分けして教え合って覚えました。

体を鍛える事は毎日の食事集めに比べれば楽でしたし、魔法を覚えるのが楽しくてたまりませんでした。

しかし魔法を覚えて行くにしたがって、リリー先生たちが行っている魔法とは違う物だと分かりました。

リリー先生に教えて下さいとお願いしましたが、これは教えられないのですと断られました。

エレンとアンナの三人でリリー先生たちの魔法を見て自分たちでどうにか出来ないかと試しましたが無理でした。

ラウラ先生もエルレイ様に教えて貰って出来る様になったので自分たちだけでは無理だと言われて諦めました。

読み書き計算を覚えた私達は、今度はお城で働くために必要な事を教わりました。

それは今まで以上に厳しい物でしたが、皆エルレイ様の役に立つのだと必死に覚えました。

それでも全ての事を一度に覚えるのは無理なので、三人で別々の事を覚えて夜に教え合う事にしました。

三人で話し合って、一番幼い私には簡単そうな紅茶の入れ方を覚える事になりました。

しかし一番簡単と言うのは間違いでした、何度入れてもラウラ先生に合格を貰えません。

確かにラウラ先生が入れた紅茶と私が入れた紅茶では味が全く違います、私が入れた紅茶は苦かったり、味が薄かったりします。

ポットの蓋を開けて中を確認できればいいのですが、それは絶対してはいけないと厳しく言われました。

そこでラウラ先生にコツを教えて貰ってから数日後、ようやくラウラ先生から合格を頂きました。

ですがそこで終わりでは無かったのです、毎日合格を貰える様にならないといけないと言われました。

一度合格を貰ったから同じように入れれば、毎日合格を貰えるのではと思ったのですが駄目でした。

晴れた日と雨が降った日、それに暑い日寒い日では紅茶の味が変わっていました。

ラウラ先生は毎日入れて覚えないといけないから数年は掛かるとの事でしたが、エルレイ様に仕えるには試験に合格しなくてはいけないという事でしたから皆で必死に紅茶を入れて覚えました。

そして試験の日、皆で努力した結果全員エルレイ様に仕える事を許されました、そして私はエルレイ様に紅茶をお出しする許可も頂きました。

これから毎日エルレイ様の為に紅茶をお出しできるとこの時は喜びました。

試験の次の日、正式にエルレイ様の使用人として認められエルレイ様のお世話が出来ると喜びました。

しかし朝エルレイ様の部屋を訪れると、リゼさんにエルレイ様のお世話は私の仕事ですと断られてしまいました。

ですがこの部屋で皆様のお世話は出来ますので、いつかエルレイ様のお世話が出来る事を信じで頑張ります。

日々は過ぎ去っても依然としてエルレイ様のお世話は出来ません、ですかエルレイ様の婚約者の皆様とは仲良くして下さり、私にも気を使ってくださいますので楽しい日々を送っております。

そんな中メイド長のカリナさんよりお見合いをしないかといわれました、お相手は新しく来た執事達の中からと言われましたが、八歳の私にはまだ早いですし何よりエルレイ様以外の男性とは結婚などしたくありません。

その事をカリナさんに伝えると、それはとても難しいから諦めなさいと言われました、そんな事は私も分かっています、孤児だった私とエルレイ様では身分が違いますし、エルレイ様には私の事など見て貰えていないのですから・・・。

見合いを断った後、仕事を一日休むように言われました、私の仕事がいけなかったのかと聞きましたがそうでは無く、エルレイ様が使用人全員に交代で一日休むようにと指示されたとの事でした。

エルレイ様の命令でしたら仕方がありませんので休む事にしました、しかし私はやる事がありません。

他の人は夫婦で街に出掛けたりしている様ですが、私は一人で出かける気にはなりませんでした。

お給料を頂いていますからお金は以前と違って持っています、ですが皆さんお二人で出かけているのに私だけ一人で出かけても面白くありません。

仲が良かったラルフとエレン、オスカルとアンナは二人で出かけて行くのは当然でしょう、エリオット、トーマ、フリストも新しく来たメイドと出かけているのを見て、私もエルレイ様と一緒に出掛けたいと強く思いました。

ですがそれは当然叶わぬ事、仕方なく私は魔法の訓練と体力作りで一日を潰す事しか出来ませんでした。

でもそれはエルレイ様の婚約者の皆様と一緒に訓練させて貰い、楽しかったのでよかったのですが・・・。

エルレイ様は私達使用人の為にパーティを開いてくれる事になりました。

パーティは二日間行われ私は二日目に参加する事となりました。

一日目はそれはとても忙しく、皆普段の仕事を終わらせた後はパーティ会場へと向かい給仕をしておりました、それは私も同じでパーティ会場でエルレイ様の踊る姿を横目に、明日は私もエルレイ様と踊る事が出来たらどんなに幸せだろうと思いながら仕事を頑張りました。

翌日ドレス姿に着替えた私はパーティ会場へと入りましたが、皆男女二人連れで楽しそうにしておりました。

私は一人寂しい思いをしながらエルレイ様を目で追いかける事しか出来ません。

エルレイ様はリゼさんとロゼさんとの踊りを終えどこかへ向かわれました、あれは確か新しいお酒を振舞っている所ですね。

昨日皆さんに注いでいましたので覚えています、エルレイ様はお酒を飲まれるのでしょうか?

どうやら皆様に内緒で飲もうとしていた様ですね、アドルフさんに見つかり止められてしまったようです。

その後エルレイ様はカリナさんと踊りました、私もエルレイ様に申し込めば踊って貰えるのでしょうか?

しかし断られた時の事を考えると勇気がわきません・・・そう思っているとエルレイ様の方からこちらにやって来て私に踊りを申し込んでくれました。

エルレイ様と手を繋ぎ踊ります、昨日からずっとこうなりたいと思っていたのでとても幸せです。

しかしそんな幸せな時間はあっという間に過ぎ去ってしまいました、ずっとこうしていたいのですがそう言う訳にも行かずエルレイ様の手を離しました。

しかしエルレイ様は再び手を取ってくれて私をルリア様の所へ連れて行ってくださいました。

ルリア様は今日は貴方が主役よと言って私に食事を摂って下さいました、その後ルリア様と最近仲良くしてくださっているエミリア様がずっと私の面倒を見てくれました。

パーティが終わるとルリア様が着替えて部屋にいらっしゃいと言われたので、お仕事があるのかと思いメイド服に着替えて部屋に行きました。

するとルリア様が言い方が悪かったわね、寝間着に着替えて来て欲しかったのだけどまぁいいわ、もうすぐエルレイが来るでしょうからそのまま待ってなさいと言われた。

よく分かりませんがエルレイ様のお世話が出来るのでしょうか?そう思いエルレイ様が来るのを待っていました。

エルレイ様が部屋へやって来ると、ルリア様が私をエルレイ様の婚約者にと言ってくれました。

理由はよく分かりませんが、とにかく嬉しくてたまりません。

エルレイ様からも正式に婚約者にして頂き、優しく抱きしめてくださいました。

私は嬉しくて涙が止まりません、手を治して貰ってからずっと想っていた事なのですから。

私が泣き止むと、エルレイ様は一緒に寝る為に着替えて来て欲しいと言ってくれました。

皆様のお世話をするようになって分かった事なのですが、エルレイ様は毎日婚約者の皆様とご一緒に寝ておられます。

毎朝そのお姿を見る度に私もいつかはと夢に見た物ですが、ついに現実となる時が来たのですね。

私は急いで着替えてエルレイ様のベッドへと入りました。

エルレイ様は私の事を優しく抱きしめてからお休みになりました。

ラウラ先生にこの事を聞いた事がありましたが、とても眠れないと言う事でした。

確かにこれは眠れません、エルレイ様のお顔が目の前にあり、幸せを感じてずっとこうしていたいと思います。

私は皆様が寝静まったのを確認してエルレイ様をそっと抱きしめます。

今日はエルレイ様と婚約した記念日ですから何か思い出になる事をしておきたいです。

となるとやはりあれでしょうか・・・。

しかしいざやろうとすると心臓が高鳴り、その音でエルレイ様が起きてしまうのではないかと思うほどです。

明け方ようやく決心をしエルレイ様に軽く口づけ致しました。

これまでにないほど幸せを感じます。

結局朝まで眠れませんでしたが、エルレイ様の朝の挨拶を聞いて眠気など吹き飛んでしまいました。

これからエルレイ様との幸せな日々が送れるのだと思いましたが、リゼさんはやはりエルレイ様のお世話を譲ってはくれませんでした。

しかしリリー様が全部取ってはいけませんと言ってくださり、エルレイ様に紅茶を差し出す事を許されました。

そして私が慣れた頃には交代でエルレイ様のお世話をさせてくれる事も決まりました。

私はお着替えを手伝うのが苦手ですから早く慣れないといけません、エルレイ様のお世話をするために頑張って行き、皆様との幸せな生活を楽しんで行きましょう・・・。

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