第二十話 キュロクバーラ王国へ
キュロクバーラ王国に辿り着き降り立った場所は、高い山の山頂付近に作られた城の横に併設されている、グリフォンの飼育施設の様な所だった。
城といったが要塞に近い感じだな、ここに降り立つときに見た感じ回りに街は無く、防衛拠点とグリフォンの飼育施設と言った所なのだろう。
山頂付近に作られているため、敵国からの防衛はかなり強固だと思われる。
ただこの地で食糧生産しているようでは無いので、どこからかグリフォンで輸送してきているのだろう。
『グール、グリフォンは魔物なのだろうか?』
『マスター、そいつは難しい質問だぜ、俺様思うに以前は魔物だったが今は違うと言った所じゃねーか』
『そうなのか』
『以前話したが魔物の体内には魔石があるんだが、ここにいるグリフォンには無いように思えるぜ』
『魔石が無いと何が違うんだ?』
『魔石による能力がねーんだな、このグリフォン飛ぶだけしか出来ねーと思うぜ』
『そうか、ありがとう』
人を乗せて飛べるだけでもすごいと思うが、攻撃力としては期待できないという事だな。
しかしあの足の爪に捕まれると人なんか簡単に貫かれたり、そのまま上空へ運ばれたりしそうだな。
グールと念話で話をしているとグリフォンから降りて来たマティアスがこちらにやって来た。
「エルレイ、すまなかった、まさかグリフォンについてここまで飛んでこられるとは思っていなかった」
マティアスはそう言うと頭を下げた、そこまで誤って貰う事ではないがここは敵国、強気で行かないといけないだろう。
「私が最強魔法使いだという事が分かりましたか?」
「あぁ、分かった、ただこの王国は強さがすべてだ、王に実力を認められなければ帰って貰う事になるから頑張ってくれ」
マティアスには俺は認められてという事だろう、しかし実力主義なのか、それならば俺の力を示すだけでいいから案外楽かもしれないな。
「エルレイ、王の所に案内するから着いて来てくれ」
マティアスの後をリゼと共に付いて行く。
『リゼ、一応敵国だから注意しておいてくれ、ただし身体強化はよほどの事が無い限り使わないでくれ』
『承知しました』
まぁ俺はソートマス王国の代表として来ている訳だから何もされないとは思うが、実力を試すため何かやってこられるかも知れないからな。
それとリゼの身体強化はこちらの切り札だ、出来れば見せないでおきたい、それに今戦っている相手が使っているからな、身体強化が出来ると知られると警戒されてしまうだろう。
城内に入ると、そこにはソートマス城やリアネ城とは違って優雅さのかけらも無く、どう見ても軍事施設のような殺伐として雰囲気に包まれていた。
やがてマティアスは大きな扉の前で立ち止まった。
「エルレイ、そのメイドはここに置いて行ってくれ」
「いえ、お断りします、彼女は私の護衛も兼ねていますので連れて行きます」
こんな所にリゼを一人置いて行けるはずがない、いつ何が起こるか分からないからな、リゼを人質に取られることも考えなければならない、まぁリゼが簡単に摑まるとも思えないが、この地にいる間は出来るだけ離れない様にしておこう。
「・・・分かった、王に失礼の無い様にしてくれ」
マティアスと暫く睨み合っていたが、俺が折れないと思ったのか納得してくれたようだ。
やがて目の前の扉が開かれ、マティアスに着いて俺も入り、マティアスは跪いた。
俺もしたほうが良いかとも思ったが、俺はソートマス王国の代表だ、そのまま立っている事にした。
その事で王様の周囲がざわついていたが、俺は気にせず目の前の王様と睨み合っていた。
王様は何と言うか、今にも剣で斬りかかってきそうな感じの鋭い目つきと鍛えられた肉体を持つ人だった、なるほど、実力主義は王様まで強くなくてはいけないのだな。
髪は黒く短く切りそろえており、軍人と言った方が合っていそうな感じだ。
やがて王様が口を開いた。
「マティアス、後ろの生意気なガキが魔法使いだと言うのか?」
「えっ!」
王様がそう言うとマティアスは慌てて俺の方を振り向き、俺が跪いていない事に気が付き慌てて俺は跪かせようとした。
「エルレイ!王の前だぞ!」
「マティアス、構わん!」
「しかし・・・」
「俺が良いと言っているのだ!」
「はっ!」
マティアスは王様に止められて、再び前を向いた。
「さて、ガキ、貴様の名前は何と言うのだ?」
・・・俺は黙ったまま答えない。
「エルレイ!王が聞いているのだぞ、答えないか!」
マティアスがまた慌てて俺に言って来るが無視だ、わざわざここまで来てやったのにガキ呼ばわりされては答える訳には行かない。
またしばらく王と睨み合う。
「・・・・・・どうやら俺は招かれざる客の様だな、リゼ、帰るとするか」
「はい」
俺は振り返りリゼと共に帰ろうとすると、兵士が俺たちを帰さないと扉の前を塞いだ。
素直に帰してはくれない様だ・・・。
「死にたい奴から掛かって来るといい!」
俺は目の前にいる兵士達にそう言って、ルリアが得意な風の障壁を纏った。
ルリアと違うのは近づく物を吹き飛ばすだけで、切り刻まない様にしておいた。
本当にここで相手を殺す訳には行かないからな、そんな事をしたら本当にソートマス王国とキュロクバーラ王国の戦争になってしまう。
『リゼ、床一面凍らせてくれ』
『はい』
「アイスフィールド!」
リゼは相変わらず魔法を口に出して言うのだな・・・まぁ今回のは一目見て床が凍ってると分かるからいいけど・・・。
兵士達は床が凍った事で足を滑らせていたが、それでも一斉に剣を抜いて俺達に襲い掛かって来た。
当然俺の風の障壁によって兵士達は押し戻され、凍った床で壁まで滑って行った。
さて、今度こそ邪魔者がいなくなったから扉から出て行こうとすると、背後から王様の笑い声が聞こえて来た。
「わはははははは、客人、すまなかった!」
王様が一応謝っている様なので、俺は振り向き再び睨みつけた。
「俺はアドルフィス・オブ・キュロクバーラ、今までの無礼を詫びよう」
王様は名前を言って詫びて来たが、頭は下げて無いし依然とこちらを睨みつけて来ている。
まぁ王様だから簡単に頭を下げる事は出来ないのだろうからいいけど。
「俺はエルレイ・フォン・アリクレット、ソートマス王国を代表してここに来ている」
凍っていた床はすでにリゼによって解除されている。
俺は再び元いた位置へと戻った。
「エルレイ、試すような真似をしてすまなかった」
「わざわざ試さずとも、俺の事を調べたからここに呼んだのだろう?」
「確かにそうだが、俺は自分の目で見た物しか信じない性質だからな」
王様は悪びれずそう言い放った、試される方の身にもなって欲しい物だ、俺としては協力してラウニスカ王国を滅ぼしたいと思っているのだからな。
あの場で止められなかったらどうしようかと、実は焦っていたのだ・・・。
かと言ってガキ呼ばわりされたまま返答していてはソートマス王国が舐められてしまうからな。
先程言ったようにソートマス王国を代表してここに来ているのだから。
「それで、俺の実力は認めて貰えたのだろうか?」
「いや、今のはお遊び程度だろ、でもまぁよい今日はもう遅い、ゆっくり休んでくれ」
王様がそう言うと後ろの扉が開かれた、出て行けという事だな。
俺は振り返り部屋を出て行く、部屋の外にはメイドが待機しており客室まで案内してくれた。
「これより食事をご用意いたします、しばらくお待ちください」
「すまないが、二人分同じテーブルに用意してくれ」
「畏まりました」
こう言っておかないとリゼの分は別に用意されるだろうからな。
リゼと席に座り料理が来るのを待つ。
「エルレイ様、本当に帰るのかと思いましたよ」
リゼは俺が帰るとは思っていなかったのだろう、それにその気は無かったが止められなければ帰るしか無かった。
「そうだな、しかし舐められたままでは今後、良いように使われるだけになっていただろうからな」
「それは確かにそうですね、それならばもっと派手にやっておくべきだったのでは?」
「そう言う訳には行かない、あれ以上敵の兵士を傷付けると一緒に戦ってはいけなくなるからな」
「難しいですね・・・」
「そうだな」
リゼと話をしていると料理が運ばれてきてテーブルに並べられていった。
「食事が終わりましたらお知らせください」
そう言ってメイドは部屋から出て行った、料理を頂くとしよう。
一口食べて、リゼと目を合わせる・・・不味い。
生前、勇者時代、それと今いるこの世界で一番まずい食事では無いだろうか、それくらい美味しくなかった。
しかし出された物を残す訳にもいかず黙々と食べて行く、やはり山の上という事で保存食ばかりと言う訳だな、全体的に水分が少なくぼそぼそしている。
生前の記憶を持っている事を知られない様に料理に注文を付けたり文句を言ったことは無いのだが、流石にこれは文句の一つも言いたくなる。
「エルレイ様、美味しく無いです・・・」
「そうだな・・・」
リゼも顔を歪めてはいるものの食事は残さない様に食べている、普段から俺が食事を残さない様言っているからな。
作って貰った人には感謝をしなくてはいけない。
何とか二人共食事を食べ終え、メイドに食器を下げて貰った。
そこで俺は収納より果物を取り出しリゼと二人で口直しに食べた。
果物はどんな時でもすぐ食べられるから結構な数をいつも持ち歩いている、それがこんな時に役に立つとは・・・。
「エルレイ様、美味しいですねぇ、もう一個下さい」
リゼにもう一個取り出して渡してやると、美味しそうに食べていた。
その後部屋にあるお風呂に入ろうとしたら、メイドからお湯をお持ち致しますのでそれで体を拭いてくださいと言われた。
山頂だから水も貴重だという事だろう、俺はそれを断りリゼにお湯を張って貰って入る事にした。
いつもお湯は魔法で用意しているから問題は無いのだがな。
就寝する訳だが扉のロックはした方が良いだろうか?
まぁ襲って来ても問題無いな、事前にグールが教えてくれるだろう。
リゼを抱きしめて寝る事にしよう。
翌朝、また美味しくない朝食を頂いた後王様に呼び出された。
「エルレイ、顔色が良く無いがどうかしたのか?」
王様が不機嫌そうにしている俺の顔を見てそう聞いて来た、ただ王様の表情はにやにやと笑っていた。
「あんな不味い食事を出されれば誰でも機嫌が悪くなると思うぞ」
「わはははは、すまんな、いつもであれば美味い料理を出してやれるのだが、今は戦時中、新鮮な食料は前線に送っている、悪く思わんでくれ」
なるほど、それならば不味くても我慢して食べなくてはならないだろう、これが逆で前線に保存食を送っていては兵士の士気が下がるだろうからな。
意外といい王様なのかも知れない。
「それならば納得した、俺は今日何をすればいいんだ?」
「勿論前線に向かって貰う、こんな所にいては意味が無いからな」
王様はにやりと笑いそう言って来た、しかしいきなり前線か、敵と味方の情報が欲しかったが仕方が無い、行くとするか。
「分かった、案内を頼む」
「では出陣するぞ!!」
王様は立ち上がりそう宣言すると、周りの皆も慌ただしく移動し始めた、あれもしかして王様自ら出陣するのだろうか?
「エルレイ、行くぞ着いて来てくれ」
マティアさんが俺に寄って来て誘導してくれた、外に出て皆グリフォンに乗り込んでいる。
やはり王様も一回り大きなグリフォンに乗り込んでいるから、前線に出るのだろうな。
「ラウニスカ王国を滅ぼしに行くぞ!!」
「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」
王様が掛け声を上げると一斉にグリフォンが飛び立った。
俺も遅れない様リゼを抱えてマティアスが乗るグリフォンの後を付いて行った。
グリフォンは編隊を組み、乱れる事無く飛んで行き二時間ほどで街の大きな屋敷の庭へと降り立った。
多分占拠した街なのだろう、上空から兵士以外見かけなかったな。
マティアスがグリフォンから降りて来て俺の所へやって来た。
「エルレイ、屋敷の中で軍議を開く着いて来てくれ」
「分かった、所でここの住人はどうしたのだ?」
「全員追い出した、殺してはいないぞ」
「なるほどな、ここ以外の街もそうなのだろうか?」
「そうだが、どうかしたのか?」
「いや、俺の領地に難民が押し寄せて来て困っていたからな」
「それはすまなかった、しかしそれはラウニスカ王国が住民の保護を行わなかったからで、俺達の責任では無いぞ」
「そうだが、文句の一つも言いたくなるものだ」
「そうだな、だがそれも今回で終わらせる」
マティアスは真剣な表情でそう言った。
「俺もその為に来たのだしな」
しかし屋敷の中はがらんとしているな、調度品は全て運び出されたのだろう、戦争はお金がかかるからな仕方のない事だろうか。
やがて会議室と思われる部屋に入った。
「エルレイはここに座ってくれ」
王様が座る席の横の列の一番前に座らされた、どうやら俺は客人として認められた様だな。
他の皆も席に着き、最後に王様が席について軍議がはじめられた。
「報告します、ラウニスカ王都の北門、東門、西門については包囲が完了いたしました、南門に関しては抵抗が激しくこちらの兵も大打撃を受け断念致しました」
目の前に広げられているラウニスカ王都は東西南北に門があり街の中央に城が建てられている様だな。
四か所包囲しないと逃げられるが、逆に逃げ出してくれれば後は楽に処理出来そうな気もするな。
まぁ城を捨てるとは思えないから、四か所を包囲して兵糧攻めをやろうとしているのだろう。
「そうか、例の部隊が出て来たのか?」
例の部隊とは多分身体強化を使う部隊の事だろうな。
「はい、その為多くの兵が犠牲となりました、そして敵部隊を討ち滅ぼす事も出来ませんでした」
「ふむ・・・」
王様はそこで考え込んでしまった。
身体強化、たとえ十秒しか使えなくても多くの兵が殺される事は間違いないだろう、しかも部隊と言っていたから、交互に使って行けばずっとあの高速で動く敵がいる事になる。
思ってた以上に厄介だな。
「エルレイ、何かいい案は無いか?」
王様が俺に尋ねて来た、良い案と言われてもいきなり出て来るはずもない。
「そうだな、現地を見ていないので何とも言えないが、グリフォンで城を直接攻撃するのは出来ないだろうか?」
俺がそう言うと周囲から罵声が飛んで来た。
「グリフォンを捨てろと言うのか!」
「そんな事をしては兵もグリフォンも死んでしまう」
「静まれぇ!」
王様が大声で騒いでいる連中を黙らせた。
「エルレイはグリフォンで攻撃すると言ったのだぞ、城に乗り込むとは言っていない」
王様の言う通り俺はグリフォンを使い上空からの攻撃手段が無いか聞いて見ただけで、城に降り立っては身体強化の餌食となるだけだからな。
「王様、グリフォンは足でどれくらいの物を運べるのだろうか?」
「なるほど、グリフォンに岩を運ばせて上空から落とすという事だな?」
「はい」
王様は頭の回転が速い様だな、俺が考えている事が分かった様だ。
「それは可能だが、グリフォンが持てる大きさの岩を集めるのが難しいな」
「それは俺が用意しよう」
「ふむ、伊達に道や闘技場を作ったわけでは無いという事か」
「そう言う事だ」
「しかし城を破壊出来たとしよう、その場合南門から逃げられるのでは無いのか?」
「そうだな、だから南門は俺が封鎖する」
ここで逃がしては俺の領地が危なくなる、確実にこの場でラウニスカ王国を滅ぼしておかねばなるまい。
「また兵を犠牲にするつもりか!」
「あの部隊にやられてしまうぞ!」
またもや罵声を浴びるが、王様はじっと俺の目を見て来ている。
「任せて大丈夫なのだな?」
「あぁ、南門を抜けられると俺の領地に向かわれるからな、必ず食い止める!」
「分かった、エルレイに任せよう」
王様がそう言うと周りは静まりかえってしまった。
「では今日はエルレイにグリフォンが運ぶ岩を作って貰い、明朝ラウニスカ王国へ攻撃を開始する!」
「「「はっ」」」
「マティアス、エルレイに付いて行き岩を作る場所の選定を行え」
「はっ」
マティアスと共に外に出て、マティアスがグリフォンに乗り込み、俺はリゼを抱えて一緒に飛び立った。
マティアスの横に並び話を聞く。
「マティアス、何処かあてがあるのか?」
「そうだ、あの山を越えた所がラウニスカ王都だ、したがってあの山の山頂辺りが良いのではないかと思う」
「なるほど、グリフォンが降りれる場所があれば俺は何処でも構わない」
「分かった」
山頂からだと運んで高度を落とさずそのまま城に落とせていいな。
やがて山頂へと着きその地に降りた、丁度グリフォンも降りられるような場所があり、大きな樹も無くやりやすいな。
ここから遠くにラウニスカ王都と思われる街が見える、リアネの街より大きい様だな。
「いくつか作ってみるからグリフォンに握らせて、持ちやすいのを選んで貰えないか?」
「分かった」
俺は土を固めて球体から、少し凸凹がある奴や棒状の物、色々な形の物を作ってグリフォンの前に置いて行った。
マティアスが命令すると、グリフォンは器用に一つずつ掴んで感触を確かめていた。
中々グリフォンの仕草は可愛いものがあるな、俺も一匹欲しいと思うが譲ってはくれないだろうな・・・。
「エルレイ、これがいいようだ」
マティアスが選んだものは球体にグリフォンの爪の形にへこませたものだった。
「分かった」
俺はそれを次々と量産して行き、その作業は昼食をはさんで夕刻まで続けた。
およそ五千個はあるだろうか、途中でマティアスが止めたが少なくて文句言われるよりましだろうと思い、時間の許す限り作った。
グリフォンが何匹いるか俺には教えて貰ってはいない、その辺りは軍事機密と言う奴だろうな、ここまで来る時見た数は五百匹はいただろうか、正確な数は分からない・・・。
これだけの数があれば街はほぼ潰せるだろう・・・そう言えば街に人が残っているのか知らないな。
「マティアス、街に人は残っているのだろうか?」
「分からない、報告によれば逃げ出した者もいるそうだが、街の中を確認できないからな」
「それもそうか」
無関係の人が死ぬのは本意では無いが、犠牲が出ない事を願う事しか出来ないな・・・。
俺達は屋敷に戻り明日に向け休息をとる事にした。
早朝、夜明けとともに叩き起こされ、軽い食事を急いで摂った後屋敷の外へ全員集合していた。
王様が兵士達の前に出て来た。
「今日をラウニスカ王国最後の日とするぞ!!」
「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」
王様が兵を鼓舞し、皆グリフォンへと乗り込み飛び立って行く。
俺はリゼを抱えて、マティアスと共に南門へと向かった。
着いて来なくていいと言ったのだが、俺のお目付け役で見届けなければならないらしい。
それならば遠慮なく案内をして貰おう。
ラウニスカ王都上空を飛び南門へと向かう。
ラウニスカ王都を上空から見たところ中央に城があり、そこから放射状に街並みが広がっているのが分かる。
あの街を今から破壊するのかと思うと罪悪感を覚えるが、これ以上身体強化を持つ者を作り上げるための犠牲者を無くすためにもラウニスカ王国を滅ぼす必要がある。
「リゼは今回戦う必要無いからな」
リゼも思う所があるのかラウニスカ王都をじっと眺めている、それに相手は敵とは言え孤児などを集めて作られた者たちだ。
リゼとロゼがどの様な経緯でラウニスカ王国に捕えられたのかは聞いていないし聞く気も無いが、似たような境遇だと予想は出来る。
そのような者たちとリゼを戦わせる訳にはいかない。
「エルレイ様、私は過去を打ち払うために戦います!」
リゼは真剣な表情で俺を見つめて来た、どうやら覚悟を決めている様だな。
「分かった、戦う事を認めよう、ただし条件がある、身体強化を使わない事が条件だ」
リゼが過去を打ち払うと言うのであれば、今後身体強化を使わない様に、いや、俺が使わせないようにしなければならない。
それに今回身体強化に頼っていては、相手の数に負けてしまうだろう。
最悪リゼが無理に連続使用して死ぬ可能性もある、そんなことは絶対あってはならない!
「ですが、今回使わないと勝てません!」
「リゼ、身体強化を使わないでも十分戦えるよう今まで魔法を訓練してきた、それに俺は身体強化が使えないが負けると思うか?」
「・・・いえ、思いません」
「リゼも同じだ、俺はリゼが魔法だけで勝てると信じているぞ!」
「分かりました」
「過去を打ち破るためにも今後身体強化は禁止する、勿論俺はリゼを全力で支えて行くからな」
「はい!はい!」
リゼは顔を俺の胸に埋め泣いている様だった、リゼとロゼが身体強化を使わずともすむよう全力を尽くしていかなければならないな。
俺はその事を心に刻み、マティアスのグリフォンの後に続き、ラウニスカ王都の南門から続く街道へと降り立った。
南門からの距離はおよそ一キロと言った所だろうか、近くに降りるとグリフォンが狙われるからな。
マティアスはグリフォンを降りこちらにやって来た。
「エルレイ、すまないが俺はこれ以上近寄れない」
「構わない、マティアスは上空に待機していてくれ」
「分かった、無事を祈る」
マティアスはそう言ってグリフォンに乗り込み飛び立っていった。
上空から確認した感じでは南門の外に敵はいなかった。
南門の前は開けた場所となっており隠れる場所も見当たらない、身体強化の部隊もその方が戦いやすいだろうからな。
「さてリゼ、グリフォンが城を攻撃するまでもうしばらく時間がある、どうすれば敵を逃がさず全滅させられるだろうか?」
「そうですねぇ、門をストーンウォールで囲ってはどうでしょう?」
「それだと、他の門に向かうのではないのか?」
「そうでした、門は四か所ありました・・・」
「出来るだけ南門へ敵が来るようにして、さらに逃げられない様にしたいのだが・・・」
「それでしたら、地面を凍らせておきましょう、身体強化を使ったとしても飛ぶわけではありませんので、移動が困難になります」
「それは良いな、では上空から地面を広範囲に凍らせていこう」
「はい」
リゼを抱えて飛び上がり、二人で周囲の地面を凍らせていく。
「リゼ、南門の前は少し凍らせないでおこう」
「どうしてでしょう?」
「南門の前まで凍らせては、敵が出てこれないのでは無いのだろうかと思ってね」
「そうですね、ではそのように致しましょう」
地面を広範囲で凍らせたので少し肌寒く感じられる、障壁を張り冷気を遮断し体温を保つ。
「エルレイ様、暖かいです」
リゼは冷えた体を俺に寄せて暖を取っている、お陰で俺も暖かく気持ちが良い。
二人で抱き付いていると、それを邪魔するかのようにキュロクバーラの伝令兵から念話が入った。
『エルレイ様、もう直ぐ城への攻撃を開始します』
『分かった』
「リゼ、城への攻撃が開始される様だ」
「分かりました」
リゼは真剣な表情になり城の方向を見据えている、俺もそちらを見ると城の上空にグリフォンが次々と到着している様子が見えた。
グリフォンは上空から岩を落とすと、また来た方向に反転し戻って行った。
「ズズーン!」
グリフォンから落とされた岩は城に命中し、激しい音と地響きを伴いながら城の一部が崩れて行った。
グリフォンは流れ作業の様に次々と岩を落として行く、かなりの高さから落としている為、命中精度は良く無いだろうが、大きな城のどこかには当たっているため、多少の誤差など関係ない。
城は岩が当たった場所から次々と崩れて行き、暫くすると元の形が分からないほど崩れ去ってしまった。
そこでグリフォンの岩での攻撃が収まり、上空で様子を見ている様だった。
俺の所からは確認できないが、城の中に残っている人はいないだろう、いても亡くなっているか閉じ込められて出られなくなった人だけだと思う。
それほどまでに城は崩れていた。
『エルレイ様、城から多数逃げ出す者を確認、その多くはそちらに向かっております』
『分かった、こちらの準備は整っている、南門から出て来た者を全力で攻撃するので、こちらには近寄らない様にと伝えてくれ』
『承知しました』
「リゼ、いよいよこちらに来る様だ」
「準備は出来ております」
「このまま上空から攻撃しよう、わざわざ敵が得意な地上に降りる必要は無いからな」
「そうですね」
リゼの表情は険しいが、特に恐れている様な感じでは無いな。
リゼがどの様な訓練を受けたのかは俺には想像できないが、ラウニスカ王国に対して恐怖を抱いているのでは無いのかとも思ったがその心配は必要なさそうだ。
俺は心を引き締め南門を凝視し、敵が来るのを待ち構えていた・・・。
≪キュロクバーラ王国サイド≫
ラウニスカ王国を滅ぼすべく屋敷を飛び立ち、エルレイがラウニスカ城を攻撃するために用意してくれた岩がある山頂へ来たのだが、想像以上の岩の多さに驚いた。
マティアスから岩の数の報告は受けていたが、実際に見るのとではやはり違うな。
グリフォンの数は千、今回の攻撃に使うのが七百、残り三百は物資の輸送に使っている。
この山頂からラウニスカの上空まで五分も掛からないだろう、取り合えず一度全部隊に一個持たせて城に落として見るとしよう。
どのくらいの破壊力があるのか分からないからな、それによっては二、三往復する必要が出てくるかもしれん。
「全部隊、岩を持って城に落とし、再びここへ戻って来るよう指示を出せ!」
「はっ!」
さて、エルレイが考えたこの方法上手く行けばいいのだがな。
俺もグリフォンに飛び乗り、岩を一個持たせた。
「狙いはラウニスカ城!高度を維持しつつ城目がけて岩を落とし破壊するぞ!」
「「「おぉぉぉぉぉぉぉ」」」
俺は先頭に立ち、真っ先に岩を城目がけて落とした。
岩は城に命中し想像した以上の破壊をもたらしてくれた。
岩は次々に落とされ全員が落とし終わった所で城は見るも無残に破壊しつくされていた。
中にいたのは慌てて外に出て被害は免れた様だが構わない。
「次は、部隊を三つに分け北門、東門、西門の内側にいる兵に落として行け!」
「はっ!」
これで残るは南門のみだ、エルレイの実力見せて貰う事にしよう。
≪ラウニスカ王国サイド≫
「スタニス王、報告いたします、現在こちらに数多くのグリフォンが上空から近づいてきております」
「魔法障壁の準備と敵が降りて来た際には英雄部隊に撃退させよ!」
「はっ!」
グリフォンなどいくら来ても無駄な事よ、我が英雄部隊の敵では無いわ!
英雄部隊とは身体強化能力者を集めた部隊で六人一組で現在二十組が在籍していた。
六人一組という事は一人身体強化を使い次々と交代しながら身体強化を使っていけるので隙が無く、地上においては無敵を誇っていた。
身体強化の順番待ちをしている者は、体を覆い隠すほど大きな盾を持ち、それを前後左右四枚の盾で守っており遠距離攻撃を受け付けない。
近づいてくる敵は身体強化を使っている者が排除するため、負ける事など考えられなかった。
そして英雄部隊と言うだけあってラウニスカ王国では優遇されている、住む家は貴族が住むような所で、使用人と女を与えられ何不自由ない生活を送っていた。
その事でスタニス王への忠誠は高かった。
ニーナがいた暗殺部隊とは大違いである、暗殺部隊は主に新人や女性に与えられ、給与も安く厳しい生活を強いられていた。
暗殺部隊は二人一組で構成されていて、暗殺を実行する者とそれを監視する者、当然暗殺する者にその事は知らされておらず、任務に失敗すると監視する者から抹殺されるようになっていた。
ニーナは運よく逃げ延びた様だが結局追い付かれ毒を食らって死にかけた訳だ。
ニーナの事は置いとくとして、暗殺部隊で任務を成功して行けば、いずれ英雄部隊へと格上げされる事となる。
男性にはそれを最初に教えられ必死に働く訳だが、女性には知らされない。
単に男性の方が操りやすいと言う理由だ・・・。
英雄部隊が城の周りに配置に付いた頃、城に何かが降って来ていた。
「魔法障壁を張れ!」
英雄部隊の周りに配置されていた魔法使いが障壁を張り、英雄部隊は盾を上に構え敵の攻撃に備えた。
「ズズーン!」
大きな音と地響きが轟き城が大きく崩れて行く。
「お前達、城内にいるスタニス王を外へお連れしろ!」
「「「はっ!」」」
城からは次々と使用人達が逃げ出して来ていた、やがて先程中に入って行った英雄部隊がスタニス王を無事助け出し城外へと出て来た。
「何が起こっているのだ!」
「上空からグリフォンによる攻撃を受け城に大打撃お受けております、ここも危険ですので離れましょう」
「うむ、急ぎ離れるぞ!」
用意してあった馬に跨り城から何とか逃げ切り振り返って見ると、そこには見るも無残な姿となったラウニスカ城と思われる瓦礫があるだけとなっていた。
「街の門はどうなっている?」
「はい、依然として北門、東門、西門は封鎖されております、しかし南門は前回の攻勢により封鎖は免れております」
「では、南門を抜けアイロス城を奪還する作戦を実行に移すぞ!」
「はっ!」
南門は何とか封鎖を免れてはいるが、街への物資の運搬は途中で攻撃を受け上手く行っていない、いずれ城を捨て出て行かねばならなかった訳だ。
多少早まっただけで問題は無い、難民に紛れ込ませていた密偵からは攻撃を受けず、食料の提供を受け、さらに家と農地まで与えられたと報告を受けたからな。
難民を装い敵地に入り、英雄部隊で城を強襲すれば城を奪う事など容易い事だ。
そこで再び再起をし、またこの地を取り返せばよい事だ。
英雄部隊に守られ南門へとやって来た、他の家族はどうなったのかはわからんが家族などまた作ればよい、そう思い考える事をやめた。
「門を開けよ!」
門が開き英雄部隊に守られて街の外へと出た、外は静まりかえっておりひんやりと肌寒い。
「周囲を警戒しつつ、急ぎ進軍せよ!」
英雄部隊は性質上全員徒歩だ、それに今回急であったため補給物資も無い、急ぎ隣町へ向かい物資をそろえてから隣国へ向かわねばならぬ。
暫く道を進むと先頭部隊が歩みを止めた。
「報告します、地面が凍っており前に進むためには時間が掛ります」
「なら横道にそれれば良かろう!」
「いえ、周囲も全て凍っております!」
この地域は温暖で地面が凍るなどありえない。
「敵の攻撃か!周囲の警戒を怠るな!」
「はっ!全軍戦闘態勢を取れ!」
キュロクバーラ軍は素直に逃がしてはくれない様だな、しかし周りにグリフォンは見えない。
地面を凍らせている事から魔法使いだと思うが、キュロクバーラ軍に水の上級魔法の使い手がいたという報告を受けてはいない。
となると別の勢力が?
思考を遮る様に報告が届いた。
「報告します、前方上空に敵と思われるメイドを抱えた子供の魔法使いを発見致しました」
「メイドを抱えた子供だと!!」
「はっ、その様に報告を受けました」
「そうでは無い、急ぎ撤退せよ!!」
「はっ、はい!全軍撤退!!」
何と言う事だ、敵はキュロクバーラ軍だけでは無かったのか!
それならばこの地面が凍っているのも納得できる。
メイドを抱えた子供の魔法使いと言えば、アイロス王国を滅ぼした奴の事では無いか!
ここに敵がいないのは奴の魔法に巻き込まれないためだったとは、迂闊だった。
密偵から奴の報告を受けた時は馬鹿な話だと思ったが、実際にメイドを抱えている子供の魔法使いなど他にいるはずもない。
奴に向けた暗殺は失敗に終わったと言う報告も受けている、これから攻め込む予定のアイロス城も奴の根城だ。
それでも、英雄部隊で襲えばこちらも無事では済まないだろうが倒せると思っていた。
しかしこのような何もない場所で奴と戦うのは自殺行為だ。
街へと引き返そうとした所で視界が真っ白に覆われる事となった・・・。
≪エルレイサイド≫
「リゼ、門が開いた、覚悟は出来ているな?」
「はい、大丈夫です」
「敵が近づいてきたら凍らせてやれ」
「はい、全力で行きます!」
門からは大きな盾を構えた敵部隊が道沿いに進行してきた。
「エルレイ様、あの盾を持った部隊が身体強化を持つ者たちです」
「そうか、なぜ盾を持っている?」
「詳しい事は何も分かりません、ただ王の周囲を守っていたのは覚えております」
「なるほど、しかし身体強化を持った者たちを逃がす訳には行かない、ここで仕留めるぞ!」
「はい!」
先頭の部隊が凍っている位置へと辿り着き歩みを止めた。
「エルレイ様、行きますね」
「あぁ、守りは俺がやるから全力で攻撃してくれ」
「はい、ブリザード!!」
リゼの元気な声によって辺りは真っ白な猛吹雪となった。
俺とリゼは障壁に守られており全く寒さを感じることは無いが、この猛吹雪にさらされている全ての生物はすぐさま体温を奪われ凍り付くだろう。
暫くすると猛吹雪は晴れ、眼下一面真っ白な銀世界となっていた。
「エルレイ様、敵を倒せたのでしょうか?」
「リゼのねーちゃん、生きている奴はまったくいねーぜ!」
俺の代わりにグールが答えてくれた。
「それなら降りて確認するか」
「はい」
凍って氷像となった敵部隊に近づき確認をする、まぁ確認するまでもなくこの状態で生きている人なんていないだろう。
その中に馬に騎乗したまま凍っている人を確認した。
「奴がこの部隊の指揮官だろうか?」
「この状態では顔も分かりません・・・」
「そうだな、融かしてみるか」
指揮官と思われる男の上半身だけ融かして行った、やがて顔の表情が分かる様になるとリゼが声を上げた。
「エルレイ様、こいつがリリー様の家族を殺した犯人です!」
「と言う事はラウニスカ王なのか」
「はい」
こいつは俺が殺してやりたいと思っていたが、リゼも同じ気持ちだっただろうからな。
「エルレイ様、もう少し融かしますね」
「そうだな、こいつはキュロクバーラ王にも見せないといけない」
リゼは残っている氷を融かすと死体に近づき腕から何か外して持って来た。
「リゼ、それは何だ?」
「はい、この腕輪はラウニスカ王家に伝わる魔道具で、身体強化を持つ者を作り上げる物です」
「そうか・・・」
リゼにとっては許しがたい物だろう・・・。
「エルレイ様、破壊してもよろしいでしょうか?」
「勿論構わない、リゼの好きにするといい」
「ありがとうございます」
リゼはそう言うと思いっ切り上空に腕輪を投げ。
「エクスプロージョン!」
腕輪目掛け魔法を撃ち込み粉々に破壊した。
俺はリゼを優しく抱きしめる。
「エルレイ様・・・」
残念な事に身長が足りず胸を貸せないが、リゼは俺の頭を抱えて泣いていた。
「これでリリー様は喜んでくれるでしょうか・・・」
「いや、リリーはこんな事では喜ばないな」
「えっ!」
リゼは驚いていたが、本当にリリーがこんな事で喜ぶとは思えなかった。
「リリーはリゼと俺が無事帰って来ればそれだけで喜んでくれるよ」
「はい、そうですね・・・・」
暫くリゼが落ち着くのを待っていた。
「エルレイ様!リリー様を喜ばせる為にさっさと帰りましょう!」
リゼは元気を取り戻し、にっこり微笑んでそう言っていた。
「俺もそうしたいが、キュロクバーラ王と話をしてからだな・・・」
「そうですね、では念話で知らせておきます」
「頼んだ」
リゼに念話を頼み、この死体をどうしようか考えていると、グリフォンが二匹近くに降り立った。
グリフォンからはマティアスとキュロクバーラ王が降りて来て、こちらに歩いて来た。
「寒いな・・・これは全部エルレイがやったのか?」
「いや、リゼと二人でやった」
「ふむ、ただの護衛では無いという事なのだな・・・」
「勿論リゼも俺と同じ強さを持った魔法使いだ、役に立たない者を戦場に連れて来ては邪魔なだけだからな」
「確かにそうだな・・・それでそこの死体がラウニスカ王か?」
「あぁ、勝手に殺してしまってすまなかったな」
「いや、構わない、どの道死んで貰う事になる訳だからな、手間が省けた訳だ」
「この死体はそちらに任せて構わないか?」
「うむ、ラウニスカ王が死んだことを示さなければならないからな」
「それで街に残っていた兵士達はどうなった?」
「それはこちらで片づけた」
「そうか、ならば俺はもう用済みだな、帰って構わないか?」
ラウニスカ王は倒したから俺の役目は終わりだろう、早く帰って皆を安心させてあげたい。
そう思っていたが、王様はにやりと笑い俺の肩に手を回して来た。
「残念だがまだ帰って貰う訳には行かない、ソートマス王に親書を届けて貰わないといけないから、キュロクバーラ王国まで着いて来てもらうぜ」
そうだった・・・今回の件で不可侵条約を結ぶのだったな、すっかり忘れていた。
「分かった」
「マティアス、エルレイを連れて先に城に帰ってくれ」
「承知しました、王もお早いお帰りをお願いします」
「うむ、指示を終えたらすぐ戻る」
「はっ!」
王様は俺の肩から手を離しグリフォンへと戻って行った。
「エルレイ、案内するから着いて来てくれ」
「分かった」
俺はリゼを抱えて飛び立ち、マティアスが乗るグリフォンの後を追いかけて行く。
「リゼ、残念だがもうしばらく帰れそうに無いな」
「そうですね、ですがリリー様もロゼも私達が無事だと知り、喜んでくれましたから大丈夫です」
「それは良かった」
「ですので、もうしばらくはエルレイ様と二人っきりです!」
そう言ってリゼは俺の胸に頭を預けて来た。
「そうだな、リゼと二人の時間を楽しむとするか」
「はい」
俺とリゼはマティアスが乗るグリフォンの後をイチャイチャしながら飛んで行く事となった。
戦闘が終わったからこれくらい構わないだろう・・・。
周囲をよく確認しないでマティアスの後をついて飛んでいたせいで、ここが何処だか全く分からなくなっていた。
眼下を見渡すと、大小さまざまな山にその間を流れる川、大自然あふれる光景が広がっていた。
「綺麗な所ですね」
「そうだな」
リゼも大自然広がる光景を見て感動している様だった。
やがて山から平地に広がる大森林が見えて来て、その中りぽつんと丸く穴が開いている様な感じで街が見えて来た。
「エルレイ様、街が見えてきました」
「そうだな、あれがキュロクバーラ王国の王都なのだろうか?」
「こんな森の中だと、不便かも知れませんね」
「グリフォンでの移動が前提なのだろうな、そうする事によってほかの国から攻められにくい」
「確かにそうですね、しかし私は住みたくは無いですね」
「そうか?俺は案外住み心地が良いのではないかと思うが・・・」
「それはエルレイ様が飛べるからそう思うのですよ」
「そうかも知れないな・・・」
「そうです」
リゼの言う通り空を飛べなかったら、孤立した街の中では不便で住み心地が悪いかも知れないな。
他の街との交流も無いから文化の進展も速度が遅くなるだろうし、周りが森だから狩猟に出掛けたりするのだろう、それはそれで楽しそうではあるが、毎日となると飽きるかな。
街に近づくにつれ、かなり大きな街だという事が分かった、街の周りには畑が一面に広がっている。
マティアスのグリフォンは街を横切り、奥にそびえたつ城の大きな円形の尖塔に開いた場所へと降り立ち、俺もそこに続けており立つ。
尖塔の中はグリフォンの飼育施設となっている様で、飼育員がマティアスのグリフォンを連れて寝床と思われるところへ連れて行った。
「エルレイ、こっちだ」
マティアスの案内のもと、尖塔の螺旋階段を下りて行き客間へと通された。
「すまないが、しばらくここで休んでいてくれ、昼食の準備が整ったら呼びに来る」
「分かった」
マティアスはそう言うと部屋を出て行った、特にする事も無いのでリゼと供にソファーに座り休憩する事にした。
「エルレイ様、これでラウニスカ王国は滅びたのでしょうか?」
「そうだな、まだ軍や貴族は残っているだろうが時間の問題だろう」
「そうですね・・・」
リゼは俯き酷く落ち込んでいる様だった、リゼがどの様にしてラウニスカ王国で訓練を受けたのかは分からないが、故郷が無くなったのだ悲しく思うのかもしれないな。
「リゼはラウニスカ王国が無くならない方が良かったのだろうか?」
「いえ、そんな事はありません、私の手で王を倒せてよかったと思っています、ただ・・・」
「どうしたんだ?」
「リリー様にあの城を返してやる事が出来なかったのを残念に思います」
「そうだな、それに関してはすまなかった、俺が壊すよう仕向けたからな」
「それは私も止めませんでしたし、それにロゼとニーナも城が無くなって喜ぶ事でしょう」
「まぁリリーは城を得て王女に戻るつもりは無いだろう、リリーはルリアの妹で俺の婚約者だ、そしてリゼとロゼの家族でもある、それでいいんじゃないのか?」
「そうですね」
リゼは笑顔を取り戻し俺に横から抱き付いて来た。
俺はリゼを受け止め頭をゆっくりと撫でて行く、リゼの青いサラサラの髪の感触を楽しみながら二人で暫く抱き合っていると部屋の扉が開きマティアスが入って来た。
「すまん、お邪魔だったか」
「いや、構わない」
リゼは素早く座りなおし姿勢を正していた、マティアスも気まずそうに顔を背けて気を利かしてくれていた。
「昼食の準備が出来てから着いて来てくれ」
「分かった」
俺は別に見られても構わなかったのだが、リゼは恥ずかしかったのだろう、少し顔が赤くなっていた。
マティアスの後に続いて食堂へと連れてこられた、そこには綺麗に着飾った女性ばかり座っていた。
戦時中だから男は皆出払っているのだろう、今ここにいる男性はマティアスと俺の二人だけで気まずい。
俺はマティアスの隣の席に座らされ、以外にも俺の隣にリゼの席を用意してくれていた、リゼは流石に戸惑いを見せ座っていい物か迷っている様だった。
リアネ城なら構わないが、他の場所でメイドが一緒の席で食事をする事は許されないだろうからな。
「マティアス、リゼを座らせていいのか?」
「うむ、二人共客だから構わない」
「そうか、それならば遠慮しないで座らせて貰おう、リゼ座ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
リゼはマティアスにお辞儀をして俺の隣に座った。
やがて食事が給仕の手によって運ばれてきた。
「エルレイ、全員の紹介は夕食時にでも王がなさるだろうから省かせて貰うが、ここにいるのは王の妻たちとその子供だ」
という事はマティアスも王子という事だろうな。
「皆さん初めまして、ソートマス王国の魔法使い、エルレイ・フォン・アリクレットと申します」
俺が挨拶をすると一人の女性が代表してあいさつしてくれた。
「エルレイさん、私はクラリーチェ・オブ・キュロクバーラ、王の妻です、よろしくお願いしますね」
「こちらこそよろしくお願いします」
俺がそう受け答えをすると、マティアスが怪訝そうな顔で俺の事を見て来た。
「エルレイ、母に対してはやけに物腰が柔らかい対応だな」
「目上の者に対してはそれなりの対応をするぞ」
「えっ?王に対してあれだけ尊大な態度で向き合っていたのにか?」
「それは最初に王様が俺の事をガキ呼ばわりしたからだ、俺はソートマス王国の代表だからあんな態度をされれば、こちらとしてもそれなりに対応しないと、ソートマス王国が下に思われてしまうだろう?」
「それは確かにそうだな、エルレイすまなかった」
「マティアスが謝る事では無いだろう」
「そうなのだが、最初にも言った通りこの王国では強さがすべてだ、だから王もエルレイを挑発して実力を見極めていた訳だ」
「あの場で俺が挑発に乗らずに素直に対応していたらどうなっていたのだ?」
「その時はまた別に力を示して貰っていただろう」
「どちらにしても俺は試された訳だな・・・」
「そうなるな、だがエルレイは力を示し敵を打ち破ってくれた、誰も文句を言う奴はいないだろう」
「そうして貰いたい物だな」
俺とマティアスが話し込んでいると、クラリーチェさんから注意を受けた。
「マティアス、それとエルレイさんも食事が冷めてしまいますよ」
「はい」
「頂きます」
昼食を頂く事にした、リゼも待っていてくれたようで手を付けていない。
俺は俺は恐る恐る食事を口に運んだ、今朝までの不味い食事を思い返し警戒していた。
「美味い!」
思わず声に出してしまった、それを見ていたマティアスは笑っていた。
「エルレイ、美味いだろう!」
「あぁ、あまりの美味さにびっくりしたよ」
「あの不味い保存食の後だからな、俺も久々に美味い食事を食べる事が出来たよ」
どうやら俺だけではなくマティアスもあの不味い料理を食べていた様だな。
隣で食べているリゼも笑顔で食事を食べていた。
最後に出された果物が特に美味しかった、俺の領地には無い物だな。
俺の領地にも欲しいと思ったが、果物は気温や湿度によって作れない物があるからな、帰りにこの街の市場や畑を見学させて貰うとしよう。
「エルレイ、王は夕刻にならないと戻られないそうだ、その間何か見たい物とかあれば案内させるが?」
「そうだな、街を見て回りたいな」
留守番をして貰っているルリア達にお土産を買って帰らないといけないよな。
「分かった、誰かエルレイの案内を頼めないだろうか?」
マティアスは食堂にいる王女と思われる少女達に声を掛けたが、顔を見合わせるだけで誰も反応しなかった。
そもそも街を見に行くのに王女に声を掛けるのが間違っているんじゃないのか?
「エンリーカ、案内しては貰えないだろうか?」
「なんで私なの?他にもいるじゃない」
あからさまに嫌そうな顔をしてマティアスを睨みつけていた。
「この中ではエンリーカが年上だからでは駄目か・・・」
「分かったわ、ただし先にエルレイの実力を見せて貰ってからよ!」
ここでも実力を見せないといけないんですね・・・キュロクバーラ王国は徹底した実力主義なんだな。
「エルレイ、すまないが妹達に実力を示して貰えないだろうか・・・」
マティアスは申し訳なさそうにそう言って来た、先程誰も文句を言う奴はいないと言ったばかりだからな・・・。
「マティアスが案内してくれれば助かるのだが」
「俺はまだやる事があって案内してやる事が出来ないのだ」
「そうか、何処か魔法を使っていい場所があれば案内してくれ」
「分かった、エンリーカ案内してやってくれないか」
「分かったわ、エルレイ、着いていらっしゃい」
エンリーカさんと他三人の少女の後をリゼと共に着いて行き、城外へと出て訓練場と思われるところへ連れてこられた。
「エルレイ、あの標的を壊せたら街を案内してあげるわ」
エンリーカさんが指示した標的は、明らかにグリフォン用と思われる大きさの物だった。
最初から案内する気は無いという事だな、それならば本気で壊しに行こう。
「エンリーカさん、あの標的、本当に壊していいんですね?」
「壊せる物ならね」
エンリーカさんは俺が壊せないと思ってニヤニヤしている、確かに普通の魔法では壊せないだろう。
「リゼ、皆を障壁で守っていてくれ」
「承知しました」
リゼは俺から離れ四人の少女の所へ行き障壁を張った、俺はそれを見届けてから魔法を作り上げた。
ファイヤーボールを作りそれを圧縮してさらに魔力をつぎ込んでいく、炎の色が赤から青そして白へと変わって行く。
ファイヤーボールの大きさは拳よりも小さい、少女たちはあまりにも小さなファイヤーボールを見て落胆の表情を見せていた。
「よーく見ておけよ!」
俺はファイヤーボールを高速で標的に向け撃ち出した!
「ドッゴーーーーーン!!」
大きな爆音と衝撃がこちらまで響いて来る!
やがて炎と煙が晴れ、標的があった場所が見えて来た、するとそこには半径五メートルほどの大きな穴がぽっかりと開いていた。
少しやり過ぎただろうか・・・あまりの音と衝撃で城の衛兵が駆けつけてきたくらいだからな・・・。
「何事でしょうか!!」
そこで呆然と立ち尽くしていたエンリーカさんが正気に戻り衛兵に対応してくれた。
「何でもないわ、エルレイの魔法を見せて貰っただけよ」
「承知しました、しかしあれは・・・」
衛兵も大きな穴を見て立ち尽くしていた。
「すみません、やり過ぎました、すぐに元に戻します」
俺は慌てて穴の場所へ飛んで行くと、まだ内部は高熱によりくすぶっていた。
取り合えず土を掘り起こし、熱されている部分を覆い隠すように埋め戻し何とか平らな状態へと戻した。
穴を埋め戻して皆の所へ戻ると、リゼが質問攻めにあっている様だった。
「エルレイ様、助けてください」
リゼは俺の後ろに隠れてしまった。
「エルレイ、今の魔法はただのファイヤーボールでは無いわよね」
「エルレイ、私エレオノラ、街へ案内してあげます」
「エレオノラずるーい、私はリディアよ、私が案内してあげちゃう」
「エミリア、エルレイ、一緒に行こ」
一気に俺に四人の少女が近寄って来て一斉に話しかけられた、さらにエミリアさんと名乗った少女はすでに俺の手を握り歩き出そうと引っ張っていた。
リゼが俺に助けを求める訳だ、先程まで俺に無関心だったくせに魔法を見てこの手の平返しは流石にどうかと思う。
これは王様の血筋なのだろうか、自分でみた物以外信じないという事なのだろうな。
「一度に全員に話しかけられても答えられないからな!」
俺がそう言うと四人の少女は誰が話すのか牽制している様だった、そのまま放置していると喧嘩を始めそうな雰囲気だ。
「皆で街に案内してくれないかな?その間に先程の魔法の事も説明しよう」
「分かったわ、では街へ行きましょう」
エンリーカさんがそう言うと皆納得したのか歩き始めた、エミリアさんはずっと手を握ったままだ。
「ところで護衛はつけなくて大丈夫なのだろうか?」
「街に行くのにあなたの所では護衛が必要なのかしら?」
エンリーカさんに逆に聞き返されてしまった、この街は安全と言う事なのだろうか?
「そうですね、王族や貴族は一人で街を歩く事はありません」
「ふーん、それは不便ね」
エンリーカさんは呆れたような表情を見せていた。
「ここでは強い者がすべて、負けた物はそれに従うしか無いの」
エレオノラさんがそう説明してくれた、それは街で襲われて負けてもその人のせいという事なのか。
「エレオノラさんは、強いのですか?」
「勿論強いですよ、でもそれは同じ歳での話です、大人が子供を傷つける事はこの王国では何より許されない事なのです」
なるほど、だから街へ出ても問題が無い訳か、俺の領地でもその様なルールが作れないだろうか?
でもなぁ、ただ傷つけるなと言ってもその定義が難しい気がする、今でも暴力を振るったやつは警備隊で捕まえる様になっているから無理に作る必要も無いように思える。
後でゆっくり考えて見るか。
「エルレイ、あのファイヤーボールはどんなものだったの?」
エミリアさんが頭を傾け俺の顔を覗き込むようにして聞いて来た、その聞き方は可愛すぎて思わず答えてあげたくなるな。
しかし無詠唱の事を話す訳には行かない、リゼも話せないで困っていたのだろうしな。
「普通のファイヤーボールだよ、ただ少しだけ工夫をしているけどね」
「くふう?」
「それは教えてあげられない」
「エルレイのけち」
可愛く言われても無理な物は無理だ。
「グリフォンの能力や餌、そして増やし方等、俺に教えられないだろう?」
「エミリア、教えちゃだめよ!」
エンリーカが慌ててエミリアの口を手で押えてしまった。
「俺の魔法もそれと同じで教えられない訳です」
「分かったわ、グリフォンの事も聞かないで頂戴」
「勿論わかっている」
俺がそう言うとエンリーカはエミリアの口から手を離した、エミリアは口を押えられ怒っている様だったがエミリアも話せない事は理解しているのだろう、エンリーカに対して文句を言う事は無かった。
城門を抜け街へと出た、人通りは多く結構賑わいを見せていた。
「エルレイ、あっちに美味しい食べ物売ってるところがあるの!」
リディアさんは俺の手を握り引っ張り始めた、力が意外と強く俺はリディアさんに引きずられる形となり、反対側の手を繋いでいるエミリアさんも必然的に引きずられていった。
「エルレイここよ!買ってちょうだーい」
リディアさんが立ち止まると店の中からいい匂いが漂って来た。
「ちょっとリディア、エルレイはお客さんなのよ!」
エンリーカさんはリディアさんを咎めてはいるが、目は店の中に向けられていた。
「リディアさん、買いますから手を離してください」
「ありがとう、おばあさん、これ六個ちょうだーい!」
リディアさんは笑顔で手を離し店の中に入ってさっそく注文していた、いつも買っている物なのだろう。
「あらリディア王女様、いつもありがとうございます」
店のおばあさんも顔見知りの様で、王女様だと言うのに普通に対応していた。
俺はおばあさんにお金を支払い店を出た。
「エルレイ、はいこれー」
リディアさんは紙に包まれたお菓子を俺に渡してくれた、俺はそれを受け取りかぶりつく。
もちっとした触感に果物の甘い味が口の中に広がって来る、これはもしかして蜂蜜だろうか?
砂糖はソートマス王国でもあったが、蜂蜜は今まで無かった。
「リディアさん、この甘いのは何でしょうか?」
リゼがいるから、蜂蜜と言う単語を口に出す事が出来ないので普通に聞いて見た。
「ふふーん、これはね、蜂蜜と言ううのよー」
リディアさんは胸を張って自慢げに教えてくれた。
やはりそうか、という事はキュロクバーラ王国では養蜂が行われているのだろうか、もしそうだとしたら技術を教えて貰い俺の領地でもやりたいな。
「蜂蜜とはどのような物か教えて頂けないでしょうか?」
「そうねぇ、どうしよーっかなー?」
リディアさんは素直に教えてはくれない様だな。
「リディア、教えちゃだめよ」
またもやエンリーカさんがリディアさんを止めてしまった、この流れは何か要求されるのだろう・・・。
「エンリーカ、わかっているってばー」
リディアさんもにやりと笑っていた。
酷い要求をされる前にここはいったん引き下がった方が良いだろう。
「もう聞きませんので、別の所に案内してください」
「えぇー」
それを聞いてリディアさんが明らかに残念そうな表情を浮かべていた、やはり要求はとんでもない物だったに違いない。
「じゃ次は私です、エルレイ着いて来て下さい」
今度はエレオノラさんが俺の手を引き歩き出し、着いた先は果物屋さんの様だった。
「おばさん、いつものやつを六人分お願いします」
「はいよ、エレオノラ王女様、少し待っておくれ」
果物屋のおばさんは奥に引っ込んで行き、暫くして木のコップに入った飲み物を持って来てくれた。
「お待ちどうさま」
一人ずつコップを受け取り代金を支払った、そして一口飲んで見ると甘酸っぱくてとても美味しかった。
「美味しい」
「そうでしょう、これはそこに売ってある赤い果物、パイオを搾った物なのですよ」
エレオノラさんが指さした先には赤くて丸い果物が陳列されていた、赤いメロンといった感じだろうか、他にの沢山の果物が陳列されているがどれも見た事が無い物ばかりだ、隔離された地だからだろうか?
果物のジュースを飲み終えコップをおばさんへと返却して、皆へのお土産にと果物を一通り購入した。
「エルレイ、今買ったの果物何処にやったのですか?」
エレオノラさんが俺の隣で果物を購入するのを見ていたのだが、いつもの調子で買った物を収納してしまった。
見られたのは仕方が無い、俺の不注意だった。
「収納魔法と言って、魔力で作った空間に物を入れておけるのですよ」
「魔法ってすごいんですね」
そう言うとエレオノラさんは収納している空間を探すように俺の周囲を回りながら見渡していた、そんな所に無いですからね・・・。
「次は私が案内するわね」
皆飲み終わったようで、エンリーカさん俺の手を握り先導してくれた。
エンリーカさんが案内してくれた場所は日用品を取り扱っている店が並んだところだった。
「ここで生活に必要な物はほとんど揃っているわよ」
「店の中を見ても構わないだろうか?」
「構わないわよ、好きな店に入ってちょうだい」
そこで俺は衣類を売っている店へと入ってみた。
服は動物の毛や皮で作られている物がほとんどで、比較的暖かい気温だと言うのに、着ると暑い様な分厚い作りの服が多く見られた。
「エンリーカ、この服はどんな時に着るのだろうか?」
「これはグリフォンに乗る時に着る物よ、空の上は寒いからこれを着ていないと凍えてしまうわ」
そうか、俺は障壁で外気温を遮断しているから上空を飛んでも問題は無いが、何もしていなかったら確かに寒いよな。
と言う事は一般の人も普通にグリフォンに乗れるのだろうか?
「グリフォンには誰でも乗れるのだろうか?」
「後ろに乗る事は出来るわ」
つまり移動用のグリフォンがあるのだろうな。
「エンリーカはグリフォンの操縦が出来るのだろうか?」
「まだ出来ないわ、グリフォンの操縦は成人してからでないと危ないのよ」
まぁ確かにグリフォンから落ちたりしたら危ないだろう、もう少し詳しく聞きたいが教えてくれないだろうからこれくらいにしておこう。
「エンリーカ、ありがとう」
「あら、服は買わないのかしら?」
俺が店を出ようとするとエンリーカは首を傾げて聞いて来た。
「また今度来た時に買う事にするよ」
「そう、また来るのね・・・」
「来てはいけないのか?」
「そうでは無いのだけれど、貴方の王国とは敵同士では無いのかしら?」
「そうだが、今回俺が手伝った事で敵ではなくなるかもしれない」
キュロクバーラ王がどの様な判断を下すか分からないが、少なくとも今まで接してきた感じでは俺に対しては友好的だったと思う。
「そうなるといいわね」
エンリーカはにこやかに微笑むと上機嫌で店を出て行った、俺もそれに続いて店を出て、食器や薬を売っている店を見て回った。
この王国では病気や怪我を治すのは主に薬で魔法はその補助的な使われ方をしている様だ。
そもそも魔法使い自体少ないような言い方をエンリーカはしていた。
もしかして戦争での負傷者も薬のみの治療で行っているのかもしれないな、ラウニスカ王国との戦闘で多くの犠牲者が出たと言っていたからな。
今夜王様と話す時に聞いて見る事にしよう、などと考え事をしていると手を握られ引っ張られた。
「エルレイ、こっち」
エミリアさんが俺の手を握り案内してくれるようだった、エミリアさんの案内で訪れた場所は街の中を流れている川辺で沢山の花が咲き誇っていた。
「綺麗ですね」
「お気に入りの場所」
エミリアさんはそう言うと土手に座り込んだ、俺もその横に座ると皆も並んで座っていた。
「風が気持ちいですね」
川から吹いてくる涼し気な風と花の香りが心を癒してくれるようだった。
「ここに来ると嫌な事を忘れられる」
「嫌な事があるのでしょうか?」
「ちょっとだけ」
エミリアさんはそう言うと俯いてしまった。
「エミリアの嫌な事は勉強だものね~」
リディアさんが茶化すように言っていた、誰しも勉強とは嫌な物だろう・・・。
何でもそうだが本人が嫌な事を無理やりさせても上達はしないからな。
俺には関係ない事と突き放せばそれまでなのだが少し聞いて見る事にするか。
「エミリアさん、好きな事はありますか?」
エミリアさんは少し考えてから答えてくれた。
「・・・グリフォンに乗せて貰う事」
「そうですか、空を飛ぶ事は気持ちが良いですからね」
「うん」
エミリアさんは元気よく頷いた。
そこで俺が会話を終えると、横で聞いていたエンリーカさんが突っ込んで来た。
「それで話は終わりなの?」
「そうですが?」
「私はてっきりエミリアの勉強嫌いをなおしてくれるのかと思ったわ」
「ここで私が何か言った所で急に勉強が好きになるわけではありませんからね」
「確かにそうだけど・・・」
「全てはエミリアさんのやる気次第です、嫌な事ばかりでは気が滅入ってしまいますから、楽しい事と交互に出来たらいいと思ったまでです」
「そうね・・・」
エンリーカさんはそこで考え込んでしまった、エンリーカさんはエミリアさんに勉強を教えているのだろうか?
人にものを教えるのはとても難しい、エリオット達の教育をラウラに任せたのは俺に教える自信が無かったと言うのもある。
ラウラにはヘルミーネを教育した実績があったからな、エリオット達も立派になったし良かったと思う。
さて川辺でゆっくり休めた事だし戻るとするか。
「エンリーカ、そろそろ戻るとしよう」
「そうね、分かったわ」
皆立ち上がり城へと戻る事となった、帰る途中エンリーカたちは何度か声を掛けられていたがにこやかに対応していた、普段から街へ出歩いている事が良く分かった、そしてこの街が平和だという事も・・・。
俺の街で同じように出来ない事を残念に思いながら城へ辿り着いた。
「エンリーカさん、エレオノラさん、リディアさん、エミリアさん、街を案内して頂きありがとうございました」
「気にしなくていいわよ」
「いつでもご案内いたします」
「またおごってね~」
「楽しかった」
四人と別れて俺とリゼは近くにいる使用人に聞いて客間へと戻って来た。
二人でソファーに腰掛けて一息つく。
「エルレイ様、疲れましたね」
「そうだな」
四人に振り回されてかなり疲れた感じだ、だがこの街の食べ物は普段食べている物と違った物ばかりで良かったな。
特に果物は美味しかった、王様が許してくれれば定期的に買いに来たいくらいだ。
軽く横になろうかと思っていたら扉がノックされてマティアスが入って来た。
「エルレイ、街から戻ったばかりですまないが、王が戻って来たので来て貰えないか?」
「分かった」
休みたいが遊びに来ている訳では無いからな、気合を入れる様に立ちあがりマティアスの後を付いて行く。
「エルレイを連れてまいりました」
「入っていいぞ」
マティアスの後に続いて部屋に入るとそこには、大きなテーブルがあり奥の席に王様が座っていた。
「エルレイ、座ってくれ」
王様に勧められて椅子に腰かけた。
「エルレイ、改めて礼を言う」
「いえ、私はソートマス王の命令に従ったまでの事です」
「そうか、所で話し方が変わってないか?」
「もう虚勢を張る必要ありませんからね」
「ふむ、まぁ俺としてはどっちでもかまわないがよ」
「それで、ラウニスカ王都の制圧は完了したのでしょうか?」
「無事終わった、まだ周囲の貴族の排除が残ってるが時間の問題だろう」
という事はさらに俺の領土に逃げ込んでくる人が増えそうだな、アドルフに対策を取るよう言っておかないといけないな。
「それはおめでとうございます」
「ありがとよ」
王様は感謝を述べてはいたが表情は硬いままだった。
「それでソートマス王国との不可侵条約は結んでいただけるのでしょうか?」
俺がそう言うと王様は少し考えるようなそぶりを見せた。
「そうだなぁ、マティアスはどう思う?」
「王よ、正直に話しても構わないのでしょうか?」
「構わないぞ」
「キュロクバーラ王国として不可侵条約を結ぶ以外の手段はありません」
マティアスははっきりとそう言い切った、俺の前でそう言っていいのか?
「どうしてそう思うのだ?」
「現在我が軍は消耗しており、ソートマス王国と・・・いえ、エルレイと戦って勝利する事は不可能です」
「マティアスが言うのならしょうがない、不可侵条約を結ぶしか無いな」
なるほど、王様が負けを認める訳には行かないからマティアスに言わせたのか、めんどくさいな、まぁ俺もキュロクバーラ王国とは戦いたくないしな、そもそも戦争なんてしたくない。
今ある領地でルリア達と楽しく生活していければそれでいい。
「ありがとうございます、ところで今回ラウニスカ王国との戦いは長く続いていたと聞いております」
「まぁそうだな、お陰で兵の被害が激しい」
兵の事を思ってか王様の表情が厳しくなった。
「そうでしたか、もしよろしければ私が傷付いた兵の治療を致しましょうか?」
「そりゃあこちらとしてはありがたいが、見返りは出せないぞ」
「勿論必要ありません、こちらとしてはせっかく不可侵条約を結んだのに他の国に滅ぼされては困りますからね」
「そう言う事なら遠慮なく力を貸して貰おう、明日マティアスに案内させる」
「分かりました」
「しかし、いくら命令とは言え俺達にあんなこと教えてよかったのか?」
「何のことでしょう?」
「岩を落として城を壊す事だよ、下手をすると自分の所がやられるとか思わなかったのか?」
「そうですね、上空から物を落とすのは誰でも考える事では無いでしょうか?」
「そうだな、何度か試した事はある、ただ同じ物を大量に用意できなくて断念したがな」
「今度からは鉄や銅辺りで作ればいいのではないでしょうかね?」
「ふむ、金は掛かるが兵の命には代えられないか・・・」
「そう思います、それとソートマス王国にその手段は通用しませんからね」
「そうだな、こちらのグリフォンが先に落とされてしまうだろう」
王様はグリフォンが落とされると言いながら表情は穏やかだった、あくまで戦うとしたらの話だからな。
王様もソートマス王国と戦う気は無いのだろう。
「話は変わりますが魔物が出た、という話を聞いた事がありますでしょうか?」
「魔物だと?いや聞いた事は無いな」
王様は魔物と聞いて少し驚いた表情を見せていた。
今までと言うか千五百年この大陸にいなかった物だからな、当然の反応だろう。
「それならばよかったです、ではルフトル王国とリースレイア王国が戦争した話は耳にしていますでしょうか?」
「それは知っている、リースレイア王国は無残に敗北したらしいな」
「はい、その時私はルフトル王国側で参戦しておりました、その時魔物が現れたのです」
「なんだと!その話詳しく聞かせてくれ!」
王様は立ち上がり身を乗り出して聞いて来た、魔物が出たとなれば国の一大事だからな。
「リースレイア王国が魔剣を使用しているのはご存知でしょうか?」
「うむ、有名な話だからな」
「リースレイア王国がルフトル王国に攻め込んだ時に使っていた魔剣が魔法を吸収する物でした」
「魔法を吸収するとは・・・それはエルレイの魔法もか?」
「はい、こちらの攻撃は通用しませんでした、ただその魔剣には欠陥があったのです」
「欠陥と言うのが魔物に繋がるのか?」
「そうです、一定量の魔法を吸収すると、魔剣の所有者を魔物に変えてしまいました」
「つまり人が魔物になったのか」
「はい、そうです」
「それで、その魔物はどうしたのだ?」
「幸い、魔物になった者は魔法を吸収する事がありませんので、すべて倒しました」
「そうか・・・リースレイア王国はその様な事を行う国だったとは」
「王様、私の予想ですがリースレイア王国にその様な意図があったとは思えません、自国の兵が犠牲になっている訳ですからね」
「と言う事はミスクール帝国か・・・」
「はい、もしこの王国で魔法を吸収する魔剣や魔導具を見つけた場合は生物を近寄らせないようにしてください、連絡を頂ければ私が破壊に参ります」
「エルレイは破壊する事が出来るのか?」
「はい、方法は教えられませんが確実に壊せます」
「分かった、その時は協力を願おう」
「ありがとうございます、私としてもその様な物が存在すること自体許せませんので」
「そうだな、情報提供感謝する」
この地は隔離されている様だからそこまで心配する必要は無いと思うが、絶対にと言うことは無いからな。
王様との会談はここで終わり、夕食へと招待された、正直リゼと二人で食べる方がありがたいのだがそう言う訳には行かないよな。
食堂へと入り昼食時と同じようにマティアスの隣に俺とリゼが座った。
昼食時と同じように女性達ばかり席に着き、最後に王様が席に座り全員そろった様だ。
「エルレイ、食事の前に家族を紹介しよう、妻のクラリーチェ、モニカ、アンジェラ、イザベラ、アマリア、ナディア、マリア、クリスティナ、ヴィルナ、アイタナ。
そして長男マティアス、五女エンリーカ、六女エレオノラ、七女リディア、八女エミリア」
王様に紹介された人は俺に一礼してくれたが、妻多すぎない?ひーふーみーよ・・・十人いるよ。
男の子供はマティアスだけだが、多分他は戦場からまだ戻っていないか、結婚して出て行っているのだろう。
女の子供はエンリーカで五女だという事はすでに四人は嫁に出したという事だな。
凄いな、いや待てよ・・・俺はルリア、リリー、ヘルミーネ、アルティナ姉さん、ロレーナ、リゼ、ロゼ、ラウラ・・・すでに八人いた、人の事は言えなかったな。
王様が家族の紹介をしている間に食事は用意され準備は整っていた。
「料理が冷めないうちに頂こう」
王様がそう言うとみんな一斉に食べ始めた、俺も食べる事にした。
美味い、この料理なら毎日食べてもいい感じだ、あの保存食は二度と食べたくは無いな。
俺が食事を楽しんでいると王様が話しかけて来た。
「エルレイ、昼間娘たちと街へ出かけたらしいな」
王女様達と出かけたのは不味かったのだろうか、でも王様の表情は笑顔だな、特に警戒する必要は無いか。
「はい、街で見る者はどれも新鮮で食べ物もおいしく、いい街だと思いました」
「そうか、それは良かった、所でエルレイ四人の内で誰か気に入った者はいたか?」
はっ?気に入った者とは・・・特に気に入ったとかは無いが、ふと周りを見ると俺の答えを興味津々といった感じで皆見つめて来ている。
これは誰か答えなければいけない所だろうか・・・しかしそう言うつもりは全く無かったからな、単に街を案内して貰っただけだし。
「いえ、街を案内して頂いただけですので・・・」
「ふむ、エルレイ、遠慮することは無いぞ、ソートマス王からもお前に一人嫁をくれてやってくれと書いてあったからな」
陛下ーーーーーー、何てこと書いているんですか!確かに一人嫁に貰えばそれだけ絆が深まり不可侵条約にも効果が見込めると思うが・・・。
それはソートマス王家が貰えばいい話であって俺の所では決してないはずだ。
しかし既に陛下からの親書に書かれていたという事は、俺が一人嫁に貰わなくてはいけない事は決定しているのだろう。
嫌かと言われればそれは嫌では無い、皆綺麗でかわいいし、しかし九人目ともなれば考えてしまう、今でさえ結構大変なのに、それにこの王女たちは元気が良すぎる、実力主義という事もあって皆鍛えているのだろう。
俺が悩んでいると意外な所から声が掛かった。
「あなた、そんなに急に言われては娘たちも、そしてエルレイさんも困ってしまうでしょう、二、三日様子を見てはいかがでしょう?」
えーと、名前はクラリーチェさんだったかな、王様の奥様がそう言ってくれた。
「それもそうだな、しばらく滞在してゆっくり考えてくれ」
「・・・分かりました」
陛下と王様の言葉を断る事は出来ず、頷いてしまった。
顔を上げ四人の王女を見て見る、皆黒髪が美しく綺麗で笑顔を浮かべている。
街に出た時もそうだが、殆ど黒髪だった、ここにいる俺とリゼ以外皆黒髪だからな。
それはいいとして、四人共表情は笑顔だが目が獲物を狙う鷹の様な感じでこちらを見つめている。
これはあれか、俺が昼間に魔法を見せたからだろう、ここでは強い者がすべてと言っていたからな・・・。
気まずい雰囲気の中夕食を終え客室へと戻って来た、ソファーに座ると隣にリゼも座って来た。
「エルレイ様はどなたをお選びになるのでしょう?」
早速リゼが四人のうち誰を選ぶのかを聞いて来た。
「分からないよ、昼間に街を案内して貰っただけだしな」
「そうですね」
「それならばリゼは誰となら仲良くやって行けると思う?」
「難しい質問ですね」
「そうだろう、二、三日滞在しなくてはならなくなったから、その間にリゼも考えてくれ」
「分かりました」
「俺はアドルフに連絡するから、お風呂を入れて貰えるか?」
「はい」
リゼは立ち上がり客室にある風呂場へ向かった。
『アドルフ、今話せるか?』
「エルレイ様、大丈夫でございます』
『ラウニスカ王を倒し、キュロクバーラ軍によって王都は占拠された』
『流石でございます』
『それで、そちらにさらに難民や貴族が流れ込む可能性がある、警戒を怠らない様にしてくれ』
『はい、すでにトリステン率いる警備隊を差し向けております』
『やけに手回しが早いな』
『はい、エルレイ様が戦争に向かった以上、早期に終わる物と予想しておりましたから』
『そうか、俺はこちらで怪我人の治療やそのほかまだ用事が残っており、帰るのに数日かかる』
『承知しました、それと一つエルレイ様に報告が御座います』
『なんだ?』
『はい、ルリア様達も国境へと向かいました』
『そうか・・・』
『お止め出来なかった事、誠に申し訳ございません』
『いや、俺がルリアに留守の間領地を守ってくれと言ったからな、アドルフのせいではない、護衛は誰かつけてくれたのだろうか?』
『はい、妻とニーナをトリステンからお借りし警護に付けました』
『その二人なら安心して任せられるな、トリステンには俺が後から謝っておこう』
『よろしくお願いします』
アドルフとの念話を終え、今度はルリアに念話する事にした。
『ルリア』
『エルレイ、何かしら?』
『アドルフに聞いたが国境に向かったそうだな』
『そうよ、悪いかしら?』
『いや、俺が頼んだ事だからな、それより皆を複数人で行動させる様にしてくれ』
『分かっているわよ』
『それとルリアも無理しないでくれよ、困ったらリリーやロゼに頼るんだぞ』
『えぇ、心配しなくても分かっているわよ』
『それと俺は数日戻れないから頼んだぞ』
『分かったわ、忙しいからこれで終わりにするわね』
ルリアから念話を切られてしまった、心配し過ぎただろうか・・・。
しかし心配な物はしょうがないよな、今にでも転移でルリア達の所に行きたい気持ちだ。
そうしているとリゼがお風呂の準備が出来たと呼びに来てくれたので入る事にした。
その夜、またリゼと二人で就寝する事となった。
俺が寝ているとグールに起こされた。
『マスター、敵では無いが部屋に入ってこようとしている者がいるぜ』
『そうか、敵ではない?』
『報告するかどうか迷ったが、言わないで怒られたくないからよ』
『グール、ありがとう』
眠たい目を開けると、扉の鍵が回る音が聞こえた後、扉がゆっくりと開かれ中に誰かが入って来た。
リゼも目を覚ましたようで、ベッドの中から二人でその様子を伺う。
『エルレイ様、誰か入って来たようです』
『その様だな、グールが敵では無いと言っているから攻撃はするなよ』
『承知しました』
その者は音を立てない様、抜き足差し足でゆっくりとベッドへ近づいて来た。
「こんばんは」
「ひっ!」
俺が声を掛けるとその者はびっくりして後ろに尻餅をついて座り込んでしまった。
よく見るとエンリーカさんだった。
「こんな夜更けにどうされたのですか?」
「エルレイと一緒に寝ようと思ってやって来たわ」
俺が質問するとエンリーカさんは立ち上がりそう言うとベッドの脇に近づいて来た。
「えっ?何でメイドと一緒に寝ているのよ!」
エンリーカさんは俺とリゼを交互に見て困惑している様だった、まぁ普通男女が一緒に寝ているのを見れば勘違いの一つもするだろう。
「いつも一緒に寝ているから?」
「なんで疑問形なのよ!」
エンリーカさんとやり取りをしていると、後二人部屋に入って来た。
「エンリーカ、抜け駆けはいけません!」
「そうよ、エルレイは私と一緒に寝るのよねー」
エレオノラさんとリディアさんだった訳だが、二人もベッドの傍へ来て俺とリゼを見て驚いていた。
このままでは収拾がつかないのでベッドから抜け出し三人の前に立った。
「申し出は嬉しいけど、結婚前の女性が男性の部屋に押しかけて来るのはどうかと思います」
「だってお母様がそうしないと他の三人に取られると言われたからよ」
「私も同じことを言われました」
「私も言われたけど、言われる前から来るつもりだったからねー」
どうやら三人の母親の仕業らしい、それにしては一人足りないな。
「エミリアは言われなかったのだろうか?」
「エミリアはまだ子供だから寝たら起きないわ」
なるほど・・・それは他の三人もまだ子供だろうと言いたかったが俺も子供だしな。
「しかし、部屋に戻っては貰えないだろうか?王様に見つかっては俺が叱られてしまう」
「それは大丈夫よ、お父様も応援してくれているわ」
「その通りです」
「お父様は寛大だからねー」
確かにあの王様そんな感じだったな、かと言って今日一緒に寝る訳には行かない。
「どちらにしても部屋に戻ってくれ」
「仕方ないわね」
「残念です」
「明日は私と寝よーねー」
三人はようやく部屋を出て行ってくれた。
「リゼ、寝なおすか」
「はい」
俺とリゼは再びベッドに潜り込み抱き合って眠った。
翌朝目を覚ますと隣にエミリアさんが眠っていた・・・。
「リゼ、気が付いていたか?」
「いえ、全く気が付きませんでした」
グールは二度目だから教えてくれなかったのだろうが、それでも扉が開けば俺もリゼも気が付くはずなのだが、不覚だ・・・。
可愛い寝顔でずっと見ていたいがエミリアさんには起きて貰おう。
「エミリアさん、起きてください」
俺が声をかけるとエミリアさんは目をこすり、可愛い欠伸をしてから起きてくれた。
「ふぁ~、エルレイおはよう」
「エミリアさん、おはようございます」
エミリアさんはモソモソとベッドを出て、背伸びをしてから部屋を出て行った。
「何だったのでしょう?」
「さぁ、取りあえず母親に言われた通り、俺と一緒に寝に来ただけなのではないだろうか?」
「なるほど・・・」
三人が言ったようにエミリアさんはまだ子供なのだろう、見た目も子供っぽいしな。
そう言えば四人の年齢を聞いて無かったな、機会があった時に聞いてみる事にしよう。
リゼに着替えさせてもらい朝食を頂いた後、マティアスの案内で城に隣接する兵宿舎へと連れて来られた。
「エルレイ、ここには重傷者が運ばれてきている、今ここの薬師を呼んでくるから待っていてくれ」
マティアスはそう言って奥に消えて行った、薬師という事はここでは魔法での治療は行われていないのだろうな。
薬での治療が悪いとは言わない、生前は病気の度に薬を飲んでいたからな、ただ今魔法での治療を覚えてからどうしても劣って見えてしまうだけだ。
マティアスが奥から年老いた男性を連れて出て来た。
「エルレイ、こちらが薬師のライモンドだ」
「初めまして、エルレイと申します」
「ライモンドじゃ」
ライモンドさんは良い表情をしていないな、まぁ自分の治療をしているのを否定されるかもしれないのだからな。
そんな事より患者が元気になる事が重要だ。
「重症な患者さんから見せていただけませんか?」
「こっちじゃ、ついてまいれ」
ライモンドさんの後に続いて病室へと入ると、そこには顔色が悪く、死にかけているような人々がベッドに大勢寝かされていた。
「早速治療致します」
患者さんの手を握り魔力を調べる・・・なるほど毒にやられたのだろう、かなり危険な状態だった。
患者さんの負担にならない様ゆっくり魔力を流し込み、体内の毒を排除した後傷を治療した。
「ふぅ、これでよし!」
俺は次々とベッドに寝ている患者さんの治療を行っていった、後ろでライモンドさんとマティアスが何か言っている様だったが、治療に集中しているため聞こえてこない。
やはり治療は魔力の消費も多く、それより精神的にかなり疲れる。
この部屋の患者さんの治療を終え、ライモンドさんの所へと戻った。
「まだ他にも患者さんはいませんか?」
「あぁ、こっちじゃ」
次に案内された部屋の患者さんも似たような感じで、毒に侵されている者がほとんどだった。
全部屋の治療を終えたのは昼頃となり、俺は精神的に疲れ果てリゼに抱きかかえられている状態だった。
「エルレイ、ありがとう」
「魔法とはすごいものじゃな、エルレイ助かった、ありがとう」
マティアスとライモンドさんは感謝の言葉を述べてくれていたが、まだ患者さんはこれで全部のはずがない。
「ライモンドさん、患者さんは体力が落ちていますので栄養を取らせてあげてください」
「うむ、後の事はわしに任せてお主は休んだ方がよかろう」
「そうだな、エルレイ、取りあえず昼食にしよう」
マティアスはそう言って俺達を城の食堂へ連れて行ってくれた。
「リゼありがとう、もう降ろしてくれて構わないぞ」
「いえ、食堂までは降ろしません」
食堂へ向かう際中持ち直したので自分で歩こうと思ったのだが、リゼはそれを許してくれなかった。
衛兵や城の使用人に見られて恥ずかしかったのだが、仕方が無い、リゼに甘える事にしよう。
食堂へ着くと既に皆食べ始めており、マティアスと俺とリゼはそこに加わる形で席に着いた。
ただそこには王様の姿は無かった、戦争が終わったばかりだから忙しいのだろうな。
席に着くとすぐに食事が運ばれてきて、頂く事になった。
「エルレイ、もう大丈夫なのか?」
マティアスが心配そうに声をかけて来た。
「もう大丈夫だ、精神的に疲れただけで、魔力にはまだまだ余裕があるからな」
「あれだけの治療魔法を使ってまだ魔力に余裕があるのか、とても信じられないな」
マティアスは驚いていたが、普通の魔法使いだと数人治療しただけで魔力が無くなるだろうから当然の事だな。
俺の魔力が異常に多いのは間違いないだろう、それにグールにため込んでいる魔力も膨大な量となっている。
今なら転移門も十分使いこなせるだろう、ただ使う所が無いのと、使えばさらに敵を増やすだろうから今後も使う予定は無いな。
「エルレイはいくつの属性を使えるのかしら、空を飛んでいたし、昨日は炎を使っていて、今日は治療を行ったのでしょう?」
エンリーカが俺に疑問を投げかけて来た、今エンリーカが上げただけで三つの属性がある訳だ、しかもマティアスの前では地属性も使っている、マティアスもそれに気づいたのか探るような眼で俺を見てきている。
「エンリーカさん、俺は全属性が使えるのですよ」
それを聞いてみんな驚いていた、ここに魔法を使う人が少ないとはいえ常識的に二属性までしか使えないと言うのは知っているだろう。
「エルレイ、凄いじゃない!」
「そうですが、得意な属性を持つ他の人とは威力が劣るのですよ、例えばここにいるリゼは水属性が得意です、同じ魔法をリゼと正面から撃ち合うと私が負けてしまいます」
「そうなのね、それでも全部使えた方が便利そうじゃない?」
「確かにそうですね、おかげで色々面倒ごとを押し付けられますが・・・」
俺は苦笑いをしてそう答えると、エンリーカさんも微妙な表情をしていた。
戦争に巻き込まれてここに来ている訳だからな・・・。
「ところで、エルレイ、午後は大丈夫だろうか?」
マティアスが申し訳なさそうな表情で訪ねて来た。
「大丈夫です、美味しい昼食を摂って元気になりましたからね」
「そうか、あまり無理しなくてもいいんだぞ?」
「いえ、私の事より怪我人の方を優先してください」
「分かった」
昼食を終え、マティアスはグリフォンへと乗り込み飛び立った、俺はリゼを抱えてそれを追いかける。
「エルレイ様、本当に大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫だぞ、精神的な疲れだから食事を摂った事で元気になったよ」
「それならばいいのですが、無理はしないで下さい」
「そうだな、しかし目の前に怪我人がいたら放っておけないだろ?」
「そうですが、それでエルレイ様が倒れては困ります」
「倒れた時はリゼが支えてくれ、別に回復魔法で俺が死ぬ訳じゃないからな」
「分かりました、エルレイ様が倒れた時は悪戯しますからね」
「構わないぞ、その時はリゼの好きなようにしてくれ」
「遠慮しませんからね」
俺とリゼは笑い合った、リゼと話した事で幾分疲れは取れたな。
マティアスの後に着いて辿り着いた場所は、初日に来た山頂にある要塞だった。
ここはやはり前線基地の様だな。
「エルレイ、こっちだ」
マティアスの案内で要塞内にある救護所へと来た。
ベッドに寝ている患者は毒にはやられていない様だが傷が酷い、中には腕や足が無い者も多く見受けられる。
近くの腕が無い患者の手を握り魔力を流し込んでいき、魔力で腕を再生させる。
それを見ていたマティアスが驚きの表情を見せていた。
「エルレイは部位欠損も直せるのか!」
「死んでいなければ殆ど治せると思うぞ」
「凄いな・・・」
「古傷も治せるから、一通り治療が終わった翌日にでも呼んで来てもらえれば治してやれるぞ」
「それは助かる」
その後も次々とベッドに寝ている患者の治療を続け、ほとんど終わった所で力尽きた。
「リゼ、後を頼む・・・」
リゼに倒れ掛かる様にして意識を失った。
・・・・・・・・
・・・目を覚ますと辺りは真っ暗で、ベッドに寝ている様で目の前にリゼの顔があった。
「リゼ、おはよう」
「エルレイ様、おはようございます、たっぷり悪戯させて貰いましたからね」
リゼは微笑みながらそう言って来た、そう言っているがリゼは何もしていないのだろう、まぁ何かされてても問題は無い。
そのまま寝ていようと思ったが喉が渇いたので体を起こしベッドから出て立ち上がった。。
「エルレイ様、何か必要ですか」
「水が飲みたいと思ってな、リゼは寝てていいぞ」
「いえ、私が用意いたしますのでソファーに座って待っていてください」
「分かった」
リゼには心配かけた様だから素直に従っておこう。
「はい、お水です」
「ありがとう」
リゼに渡された水を一気に飲み干すと寝ぼけていた頭がすっきりしてきた。
「何か食べられますか?」
夕刻に倒れたから夕食は食べていない事になるが、寝ていたせいかお腹はそこまで減っていなかった。
「いや、大丈夫だ、それよりゆっくり休んだ方が良さそうだ」
「そうですね、では一緒に寝ましょう」
リゼと一緒にベッドに潜り込み、リゼを抱きしめて目を瞑るとやはり疲れているのだろう、すぐにまた眠ってしまった。
翌朝の目覚めはすっきりした物だった、回復魔法での疲れは精神的な物だから体調は万全だ。
となるとお腹が減って来る訳だ、リゼに着替えさせて貰い食堂に向かう所でふと思い出す、ここの食事は不味かったのだという事を・・・。
食堂へ着くとマティアスはすでに席についており、俺も隣へと座った。
「マティアス、おはよう」
「エルレイ、元気そうだな、もう大丈夫なのか?」
「一晩寝てすっきりしたぞ」
「それは良かった、それで今日も頼めるだろうか?」
「勿論だ、途中で止めると気分良くないからな」
「そうか」
マティアスと会話している間に食事が運ばれてきた。
恐る恐る一口食べてみる・・・あれ?不味くない、俺が不思議そうにしていると横でマティアスが笑っていた。
「あははは、エルレイ、もうあのような食事は出てこないぞ」
「そうなのか、それは助かる」
「戦闘はほぼ無くなったからな、それにラウニスカ王国で食料調達も可能となった事で余裕が出来た」
「なるほどね」
朝食を美味しく頂き、マティアスはグリフォンへ乗り、リゼを抱えて追いかけて行くと、ラウニスカ城があった場所の横にある兵舎へとやって来た。
「エルレイここで最後だ、ここには比較的軽症な者を置いているが数が多い、昨日の様に倒れる前に止めて翌日に回して貰って構わない」
「分かった、今日は倒れないようにするよ」
マティアスは苦笑いをしていた、これ以上リゼやマティアスに心配を掛けない様倒れる前で止める様にしないとな。
マティアスの言う通り軽傷の者が多かった、毒でやられていた者は薬師の所に送られ、それ以外の重傷者は要塞の方に送られていたのだろう。
患者を治療して行くと、確かに部位欠損は無い物の、それなりに斬られている者が多かった。
戦闘での負傷だからこんな傷になるのだろうな。
昨日までとは違い皆意識がはっきりしているので、治療の度にお礼を言われ少し恥ずかしい思いをした。
昼食をはさみ夕刻まで治療を続けた、傷が浅い分精神的疲労も少ない訳だ、まだ治療できていない者はいるが明日まで我慢して貰おう。
治療を終えて兵舎の外に出ると、マティアスは待っていてくれたようで申し訳なく思う。
「マティアス、待たせた様ですまない」
「何を言っているんだ、お願いしているのはこちらだ、エルレイが気にする事では無いぞ」
「そうか、ありがとう」
「エルレイ、ここにはまだ寝る場所が無いのでな、移動するから着いて来てくれ」
「分かった」
リゼを抱えてマティアスのグリフォンを追いかける、そうか、俺が城を破壊するように仕向けたからいけなかったのかな。
でもあの城はリゼ、ロゼ、ニーナにとっていい思い出が無い場所だろうから壊して置きたかったんだよな。
リリーがどう思っているかは分からないが、リリーには城を壊した事は帰って謝ろう。
マティアスが降り立った場所は城を攻める際に使った屋敷だった。
到着した時は日も暮れていたので
マティアスとそのまま食堂へ向かった、そこには王様と数人の男性が座っていた。
席に座ると王様から声が掛かった。
「エルレイ、ご苦労だった」
「いえ、まだ全員治療が終わったわけではありません」
「そうか、しかし重症の者は命を落とさずにすんだ、兵に代わり感謝する」
そう言うと王様は俺に頭を下げた。
「王様、頭を上げてください、私に頭を下げていては威厳に関わりますよ」
「ふむ、気にするな、ここには家族しかおらん、それに民の命を救ってくれた者に対して礼を言えない様では、それこそ威厳が落ちてしまうわ」
王様はそう言って笑っていた、確かにそうかも知れないな、だからと言って王様から頭を下げられる方としては止めて貰いたい所だ。
「食事の前にエルレイに紹介しておこう、次男マヌエル、三男ヴィート、四男ベニート、五男レンツオだ」
「皆様初めまして、エルレイと申します」
一通り紹介が終わり食事となった。
「王様、息子さん達も戦争に参加していたのでしょうか?」
「そうだ、我が王国に戦えない者は不要だからな」
なるほど、王族であろうと関係無い訳か、厳しい様だが王城でくすぶっているよりはましかな。
「そのせいで、何度死にかけたか分かった物じゃない」
「マヌエル兄さんはまだいいじゃないか、俺なんて部隊が半壊したのだぞ」
「それはヴィートがちゃんと指揮をしていなかったからだろう」
「指揮はしていたさ、マヌエル兄さんもあの敵部隊と戦って見れば分かるさ」
マヌエルとヴィートが口喧嘩から殴り合いの喧嘩になったが誰も止めるものはいない。
「王様、止めなくてよろしいのでしょうか?」
「そうだな、お前達食事が不味くなるから外でやれ!」
王様がそう言うと二人とも睨み合ったまま部屋の外に出て行って、また喧嘩を始めた様な音が続いていた。
「エルレイ、いつもの事だから気にせず食べてくれ」
「分かりました」
いつもの事なんだ、まぁ喧嘩するほど仲がいいとも言うしな・・・。
暫くして二人して顔を腫らした状態で戻って来て、黙って食事を始めた。
決着はつかなかった様だな・・・。
「ところでマティアス、エルレイの治療は何時頃までかかるのか?」
「はい、明日には兵の治療を終え、明後日古傷の者を城にて治療して頂く予定です」
「古傷の治療だと?」
「はい、エルレイは以前失った手足をも治療出来るとの事でしたので、お願い致しました」
「ほう、そうは凄いな、エルレイ疑うようですまないが、本当にその様な事が出来るのか?」
「はい、魔力で手足を形成して元に戻す訳ですから、傷の新旧は問いません」
「なるほどな、では三日後城に戻る、その時にソートマス王への親書を渡そう」
「はい、よろしくお願いします」
あと三日で帰れる訳か、もう少し頑張る事にしよう。
次の日残っていた兵の治療を終え、その日の内にキュロクバーラ城へと戻り。
また次の日朝食を終えた俺とリゼは、マティアスに案内され城の玄関へとやって来た。
そこには大勢の街の人が集められていて、治療用だと思われる椅子やベッドが用意されていた。。
「エルレイ、ここで治療してやってくれ」
「分かりました、一人ずつ連れて来て下さい」
マティアスは兵に指示を出し俺の前に患者を連れて来てくれた。
患者たちは部位欠損の者を中心に集められている様で、手や足が元通りになって行くと喜び、感謝の言葉を俺に賭け次の人へと代わって行った。
その様子を城にいる人達も遠くから見ていた様だが、治療している時は周りを気にしていられないんだよな。
治療は古傷だけあって、皆痛みが無いから気分が楽だ。
人が苦しんでいるのを見ると、俺も苦しくなるからな。
そのせいか治療は順調に進み、昼を少し過ぎた頃に終える事が出来た。
「エルレイ、本当にありがとう」
「マティアス、皆喜んで帰って行ってくれたから俺も気持ちが良いよ」
「そうだな、少し遅くなったが昼食にしよう」
「そうしよう、さすがにお腹が減ったよ」
マティアスとリゼと共に食堂へ行くと、さすがに誰もいなかった。
三人で食事をしていると、そこに四人の王女がやって俺の前の席に座った。
「エルレイ、失った手足も元に戻せるなんて凄いわね」
「感動しました」
「エルレイ、他にどんな事が出来るのー?」
「エルレイ、すごい」
四人一気に話しかけられて返答に困る。
「お前達、一度に全員で話しかけたらエルレイが困るだろ!」
マティアスが叱ってくれた事で四人共静まりかえってしまった。
「では私が代表して、この後何か予定があるのかしら?」
エンリーカさんが代表して聞いて来た、先程とは何か違う気がするがまぁいいか。
「マティアス、午後の予定は何かあるのだろうか?」
「何も無いぞ、エルレイさえよければ四人と遊んでやってくれ」
マティアスはニヤニヤしながらそう答えた、そう言えば四人の中から一人選ばないと行けないのだったな、すっかり忘れていたよ。
「分かった、それでは皆さん、お付き合いして頂けますか?」
「「「「はい」」」」
皆笑顔で答えてくれた、食後四人とリゼを連れて城の玄関へとやって来た。
「今日は何処に案内して欲しいのかしら?」
「そうだな、街の外の畑を見て回れないだろうか?」
「畑なんて見てどうするのかしら?」
エンリーカさんは首を傾げて聞いて来た、どうしても少女がやるそう言う仕草は可愛らしくてたまらない。
そんな事より今は答えるのが先だな。
「俺は領主なんだよ、この王国で作られている物がどんな物か知りたいんだよ」
「ふーん、まぁいいわ、着いてらっしゃい」
エンリーカさんはそう言うと俺の手を握り歩き出した、ちなみに反対の手は食堂を出る際からエミリアさんに手を握られていた。
「ずるいです」
「私が手を繋げないよー」
「早い者勝ち」
エレオノラさんと、リディアさんは文句を言っていたがエンリーカさんは無視して歩いていた。
今日治療をしたからだろう、街の中を抜ける時あちこちから声が掛かりお礼を言われ、気持ちだからとお菓子や果物を沢山もらう事となり、街を出るころには四人とリゼと俺の手にいっぱい持つ事となった。
「一度収納するから、俺に渡してくれ」
「えー、今食べたいのにー」
「食べたい物だけ残していいから、持ちすぎて食べることも出来ないだろう?」
「わかったー、後でまた出してねー」
「勿論ゆっくり出来る所があればそこで食べる事にしよう」
頂き物を収納し歩き始める、街の外はすぐ畑になっており色々な作物が植えられていた。
「この辺りは、普段食べるお野菜が中心ね」
エンリーカは詳しい様で畑になっている作物の説明を丁寧に行ってくれた。
暫く畑の周りを歩き、川辺で休憩する事となった。
俺はいつもの様にテーブルと椅子と日除けの屋根を作り、リゼにテーブルクロスを掛けて貰った。
「さぁ皆座ってくれ」
その様子を皆は呆然と見ていたが俺が声を掛けた事で正気に戻りまた四人一斉に話しかけられた。
「魔法ってこんなことも出来るのね」
「地属性魔法でこんなことが出来るのですか」
「すごーい、椅子も固くなーい」
「かっこいい」
俺はテーブルに先程頂いたものを並べて行く、とは言え量が多いので食べられる分だけにしておいた、余りはルリア達のお土産にしよう。
「さぁ食べようか」
「「「「はーい」」」」
色々な種類のお菓子に果物を貰ったから皆で少しずつ分け合って食べる事となった。
「食べ過ぎたわね」
「お腹いっぱいです」
「私はまだ食べられるよー」
「無理」
四人は満足してくれた様だ、俺も少し食べ過ぎた感じだな。
リゼは後かたずけをしてくれている、俺は先程から気になっていた事を聞く事にした。
「エンリーカさん、あの木陰に置いてある物は何でしょうか?」
土手の上に木が数本植わっている所に木の箱がいくつか置いてあった、俺の記憶が確かならあの中に蜂の巣があるのだろう。
「あれは・・・知らないわ」
エンリーカさんはあくまで俺に教えないつもりの様だな、顔を背けてしまった。
無理に聞き出すのはしたくないから、王様にでも聞いて見るか。
「分かりました、ところで果物を植えているところが無いようですが何処にあるのでしょう?」
「それはここから少し遠いわね、あの山の斜面で作られているのよ」
エンリーカさんが指さした先にある山には、確かに自然に植わっている木とは違うように見えた。
「そうなんですね、さすがにあの場所へ行くのは無理ですから、そろそろ戻る事にしましょうか?」
「そうね」
俺とエンリーカさんが納得した所でエレオノラさんに止められてしまった。
「エルレイ、私飛んでみたいです」
ふむ、一人ずつ抱えて飛んでやることは可能だな、ここはリゼに守っていて貰えればいいか。
「エレオノラさん、いいですよ」
「ずるーい、私も飛びたーい」
「私もですわ」
「エルレイ、私も飛びたい」
皆こう言って来る事は分かっていた、順番に飛んで見る事にしよう・・・いや、待てよ、まだ練習していないが纏めて飛ぶ事は出来るよな。
「皆ちょっと待っていてくれ、少し練習してみたい事があるんだ」
そう言うとリゼが真剣な表情で聞いて来た、練習していないからリゼが心配に思うのは当然だ。
「エルレイ様、ルリア様がやっていた事をやるおつもりですか?」
「ちょっと練習してみて、駄目ならあきらめるよ」
「分かりました」
「そうだ、リゼ、氷像を五体作ってくれないか?」
「五体ですね」
リゼは俺が言いたい事が分かったようで、にっこりと微笑んで氷像を作り始めた。
エンリーカさん、エレオノラさん、リディアさん、エミリアさん、最後に俺の氷像が作られた、そこはリゼを作って欲しかったのだが残念だ。
「これは私たちですわね」
「綺麗です」
「私の氷像きれーい」
「キラキラしてて綺麗」
皆自分の氷像に感動している様だが本来の目的の為俺は氷像へと近づいた。
魔力を込めて飛行魔法を発動させる、ラウラが見つけた方法だ、俺の思った通りに俺と五体の氷像は浮かび上がり問題無く飛ぶ事が出来た。
暫く飛び続け問題無い事を確認して、皆の下へと降り立った。
「リゼ、問題無い様だ」
「はい、確認しました」
「では皆空の旅にご招待するから、暴れない様にしてくれ」
「「「「はーい」」」」
俺がそう言うと何故かリゼが俺の前に近寄って来た。
「リゼ、どうしたんだ?」
「エルレイ様、以前お約束した事をお忘れでしょうか?」
あぁ、確かこうやって複数人飛行魔法で運べるようになってもリゼは抱えて飛ぶと約束したな。
「勿論覚えているよ」
俺はリゼを抱きかかえて四人の近くへ移動した。
「今から飛ぶからな」
「エルレイ、何でメイドを抱えているのかしら?」
エンリーカさんの疑問はもっともな事だろう、俺が答えようとするとリゼが先に答えてしまった。
「皆様申し訳ありません、ここは私の指定席なのです、たとえ王女様とはいえお譲りする事は出来ません」
「意味が分からないわ」
まぁそうだろうな、話しても分かってわ貰えないだろうから飛ぶ事で誤魔化そう。
俺は飛行魔法を使い皆をゆっくりと浮かせて行った、周囲にはいつもより強力に障壁を張ってある、何があっても大丈夫だろう。
「浮いたわ」
「飛んでいます」
「下に何も無ーい」
「気持ちいい」
四人はそれぞれ感想を述べていた、どうやらリゼの件は誤魔化せたようだ。
「では少し速度を上げて飛ぶからな」
俺は速度を上げ畑の上空を飛び回る。
「グリフォンと違って風を感じないのね」
「障壁で守っているから、風も寒さも感じる事は無いね」
「そうなのね、それならもう少し高く飛んでもらえないかしら?」
「分かった」
エンリーカの要請を受けて高度を上げて行く、皆グリフォンに乗っているからだろう、怖がる様子は見受けられないな。
この高さからは山に囲まれたキュロクバーラ王都の姿がはっきりとわかり、海も見える。
「街が小さく見えるわ」
「こんなに高いのは初めてです」
「海が見えるー」
「綺麗です」
そう言えば海には行った事が無いな、大型の魔物がいるらしく近寄った事も無かったからな。
今なら大型の魔物だろうと問題なく倒せると思うが、水は危険だからな、今四人を連れたまま行くのは不味い。
「そろそろ城に戻ろうか?」
「そうですわね」
「分かりました」
「まだ飛んでいたいー」
「残念」
リディアさんとエミリアさんがまだ飛んでいたそうにしていたが、あまり遅くなってもいけないからな。
「では最後に、グリフォンより早く飛んで城に戻る事にしますね」
「グリフォンより早く飛べるのでしょうか?」
「グリフォンと違って魔力を注いだだけ速度は上がるからね」
「そうなのですね」
「では行きます」
徐々に速度を上げグリフォンの二倍くらいの速度まで上げて一気に城に向かって飛び、ゆっくりと速度を落として城の玄関前に降り立った。
衛兵を驚かせてしまったけど、王女様たちがいたから何事も無くすんでよかった、リアネ城のような感じで降り立ったが、普通だと攻撃されても文句言えないよな。
「エルレイ楽しかったわ、ありがとう」
「エルレイありがとうございます」
「エルレイ凄く早かったー、また連れて行ってねー」
「エルレイ、ありがと」
そこで四人とは別れて、俺とリゼは客室へと戻って行った。
リゼとソファーへ座り一息つく。
「エルレイ様はどうなされるおつもりでしょうか?」
「どうするとは?」
「四人の王女様の件です」
「そうだったな、正直皆いい子で選びきれないかな、リゼは誰か気に入った子はいるのだろうか?」
「そうですね、エンリーカ様は頭がよく博識でエルレイ様の下で良く働いてくれそうです、エレオノラ様は真面目でいい印象を受けました、リディア様は元気いっぱいでルリア様達ともすぐ馴染まれるかと思います、エミリア様は少々子供ですが根は素直な方だと思います」
リゼも俺と同じような印象を受けたようだな。
「俺も似たように感じた、実力主義という事もあって皆向上心が高い気がする、魔法もすぐ覚えてくれるだろう」
「はい、ですのでどなたが来ても問題ないと思います」
「そうだな」
結局リゼとの話し合いでも誰か一人に決めることは出来なかった。
そう言えばまた年齢を聞くのを忘れたな、少女とは言え女性に年齢を聞くのはやはりためらわれる物だな。
暫くゆっくりしているとマティアスが夕食だと呼びに来てくれた、使用人に任せればいい物を自ら呼びに来るのは律儀なのか、それとも俺が重要視されているのか分からないがな。
マティアスに連れられて食堂の席に着く、女性たちも次々と席へ着き最後に王様が席について食事が始まった。
王様、今日はこちらに戻られてきていた様だ、明日親書を頂く事になっているからその為に戻って来たのだろう。
俺の時もそうだったが、領地を奪ってそれで御終いではない、そこからが本当に大変なのだと今実感している所だからな。
本来であれば王様はここにいて指示を出すだけでいいのだろうが、この王国は王様自ら出歩くようだからな。
その方がその場で素早い決断を下せると言う利点はある、グリフォンと言う移動手段があるから出来る事だな。
「エルレイ、今回の治療、改めて感謝する」
「気にしないでください、こちらとしてもキュロクバーラ王国の安泰は望むところですからね」
俺も単に親切心でやったわけではない、打算したところが大きいからな。
「ふむ、エルレイは欲が無いのだな、俺に恩を売っておこうとは思わないのか?」
王様はにやりと笑ってこちらを睨んで来た。
「そのつもりはありません、私に野心はありませんからね、家に戻って平和に暮らせればそれで充分ですので」
「そうか、だがそれだけの力を持っていればそういう訳にはいくまい」
「そうですね・・・今回もまた戦争に巻き込まれましたし」
「わはははは、力を持つ者の定めだ、諦めてこの大陸を制覇すれば、エルレイが望む平和な暮らしが出来るのではないのか?」
王様の言う事は最もだろう、残るはリースレイア王国とミスクール帝国、この二つの国を制覇してしまえば少なくとも大きな争いに巻き込まれる事は無くなるだろう。
しかしその後、統治という面倒な仕事が舞い込む事になる、今自分の領地で手一杯なのに出来る訳が無い。
魔物と言う不安な要素はあるが、今は静観するしかないだろう。
「そうかもしれません、ですが今は自ら動くことは出来ません、ソートマス王国から遠く離れていますからね」
「そうだな、奪った所で混乱を招くだけかもしれん、我が王国も今は手に入れた領地で精一杯だからな」
キュロクバーラ王国は手に入れた領地に、グリフォンの中継地点を作る事が何より優先されるだろう、それは数年から十数年かかると思われる。
そうしないと輸送は勿論の事、防衛としても機能しないだろうからな。
となるとキュロクバーラ王国としても他の国へ侵攻する余裕は無い訳だ、当分は防衛主体となるだろう。
「ところでエルレイ、どの娘を選ぶのかもう決めたのか?」
王様がそう言うと四人の王女の視線が、いや、ここにいる全員の視線が俺に注がれた。
「申し訳ございません、皆様魅力的で決めかねております」
「ふむ」
王様は手を顎に当て何か考えている様だった。
「エルレイ、私を選んでくださいな」
「エルレイは私を選びます」
「えー、私だよねー」
「ふっ、エルレイは私と寝た、だから私を選ぶ」
皆が懇願する中、エミリアさんは俺と寝た事を暴露した、単に横に寝ていただけだがこの場合の寝たという意味合いは違って聞こえるな・・・。
「ほう」
三人の王女がエミリアさんの発言に驚愕する中、王様は目を細めてこちらを睨んで来た。
「エミリアさんと寝たと言うのは、朝起きた横に寝ていただけであってやましい事は何もありません」
俺は焦って弁明をすると、王様は笑い出した。
「わはははは、勿論そんなことは分かっておる、三人は追い返したと聞いているからな、エミリアが横に寝たのを気が付かなかったのであろう?」
「面目ありません・・・」
王様に指摘され恥ずかしくなって下を向いてしまった、エミリアさんにどうして気が付かなかったのかいまだに不明である。
「ふむ、今の所エミリアが一歩抜け出た感じだな、エンリーカ、エレオノラ、リディア、頑張るのだぞ」
「「「はい、お父様」」」
王様はそう言うと食堂を出て行った、こういう所まで実力主義なのだろう、俺を勝ち取れと三人を煽っていった。
という事は必然的に俺が寝ようとすると四人ともやってくる訳だ、俺は明日の朝、親書を受け取り次第帰る予定だからな。
取り合えず四人をソファーへ座らせた後、俺も座りリゼにお茶を入れて貰った。
「エルレイ、今夜は私と寝てくださいね」
「エルレイは私と寝るのです」
「えー私と寝るのー」
「・・・」
ソファーに座るなりこんな感じだ、エミリアさんだけはすでに眠たそうにこっくりこっくりとしている。
「リゼ、エミリアさんをベッドに寝かせてくれ」
「承知しました」
エミリアさんはリゼに手を引かれてベッドに向かい横になって眠った。
客間という事でこの部屋にはベッドが四つ設置されている、何時もリゼと二人で寝ていたから一つしか使ってはいなかったが、ここにいる全員寝ようと思えば出来ないことは無い。
でも彼女達の目的は俺と眠る事であって一緒の部屋で眠る事では無い。
「取り合えず落ち着いて話をしよう」
「分かったわ」
「分かりました」
「分かったー」
「お互いの事をまだよく知らないから、先ず俺の事を知って貰おうと思う。
俺の名前はエルレイ・フォン・アリクレット、ソートマス王国では侯爵位を頂いており旧アイロス王国の領地を管理している。
歳は十一歳で婚約者は八名おり、君達の誰かが九人目という事になる、それでもかまわないのだろうか?」
「もちろん構いませんわ」
「問題無いです」
「九人目だろうと気にしないよー、要はその中で一番になればいい事だからねー」
「そうか、今度は君達の事を教えて欲しい」
「では私から、キュロクバーラ王国第五王女、エンリーカ・オブ・キュロクバーラですわ、歳は十三歳、王国内の農業に関して勉強して来ましたわ」
なるほど、どうりで野菜にも詳しい訳だ、俺の領地には農地は沢山あるからエンリーカさんに来て貰えれば大いに助かるな。
「私はキュロクバーラ王国第六王女、エレオノラ・オブ・キュロクバーラです、歳は十二歳、王国内の物流を主に勉強して来ました」
真面目そうなエレオノラは物流を学んだのか、その辺りはアドルフに全部任せているからなエレオノラさんにアドルフの手伝いをして貰う事が出来るな。
「私はキュロクバーラ王国第七王女、リディア・オブ・キュロクバーラだよー、十歳で勉強はいまいちかなー、だけど四人の中で剣術は誰にも負けないよー」
元気なリディアさんらしいな、ルリアのいい相手になりそうだし、武闘大会にも出たいと言うかも知れないな。
「寝ているエミリアさんは私が説明しますわ、キュロクバーラ王国第八王女、エミリア・オブ・キュロクバーラ、歳は八歳、勉強も剣術も年相応ですわ、そして根は素直でいい子ですよ」
エンリーカさんはエミリアさんの事を丁寧に説明してくれた、こうして競争しているが皆仲がいいのだろうな。
少し申し訳ない気分になる、やはり誰が来てもいい気がするが俺が選ばないといけないのだろうな。
「分かった、今すぐ誰かを選ぶことは出来ない、今晩ゆっくりと考えたいからそこのベッドに寝てくれないだろうか?」
「あら、今日は追い返さないのですね」
「追い返せば先に寝ているエミリアを贔屓したと思うだろ?」
「そうですわね、それではお言葉に甘えてお先に休ませて頂きます」
「エルレイおやすみなさい」
「おやすみー」
三人はそれぞれ別々のベッドに入り寝てしまった。
リゼはそっと俺の横に来て座った。
「・・・」
リゼは特に何も言わずに隣にいるだけだった。
俺としてもリゼに相談する必要もない、リゼは俺が誰を選んだとしても文句を言う事は無いだろう。
四人誰を選んだとしても俺の損になることは無いとリゼも思っているだろうからな。
それだけ四人とも魅力的だという事だ。
リゼと俺はそれぞれ体を寄せ支え合う様にして朝を迎える事となった。
「あー、二人で寝てるー」
翌朝リディアさんの大きな声で目を覚ました、いつのまにか寝ていた様だ隣で寝ていたリゼも目を覚ましていた。
「リゼ、おはよう」
「エルレイ様、おはようございます」
俺はソファーから立ち上がり背伸びをする、ソファーの座り心地は悪くないので体は痛く無いが座っている姿勢で寝ていたのと寝不足により多少体が怠い。
リディアさんの大きな声で他の三人も起きて来たようでベッドから出て来ていた。
「エンリーカさん、エレオノラさん、リディアさん、エミリアさん、おはようございます」
「エルレイ、おはよう」
「エルレイ、おはようございます」
「エルレイ、おはよー」
「エルレイ、おはよう」
朝の挨拶を済ませると四人は部屋を出て行った、着替えて食堂へと向かう。
「エルレイ、おはよう」
食堂に入るとマティアスが元気よく挨拶をしてくれた。
「マティアス、おはよう」
「眠そうだな、それでだれを選ぶか決めたのかい?」
「それは王様に話す事にするよ」
「そうだな、その時まで楽しみにしておこう」
マティアスと共に席に座ると他の人達も席に着き、最後に王様が座り食事が始まった。
「エルレイ、その分だと随分悩んだようだな」
王様は俺が眠たそうにしているのを見てそう聞いて来た。
「はい、お陰で寝不足です」
「ふむ、そこまで真剣に考えてくれるとは嬉しい限りよな」
王様は嬉しいかも知れないがこちらとしてはえらい迷惑だ・・・。
「結論は後で聞く事にして、食事を楽しもう」
その後王様は特に聞いて来ることは無く食事を終えた。
「エルレイ、この後謁見の間で親書を渡す事になっているからこちらへ来てくれ」
マティアスの案内で一度控え室へと通された、陛下と会う時も待たされるからな、何かと準備が必要なのだろう。
暫くしてマティアスが呼びに来てくれて謁見の間へと入って行った。
今回はちゃんと片膝をついて頭を垂れた。
「面を上げよ」
頭を上げ王様を見る、普段はそこまで無いが王座に座る王様は貫禄がやはり違うな。
「エルレイ、我が軍に知恵を授け、ラウニスカ王を討った功績見事であった!さらに多くの兵や民を癒した事大儀である!よってエルレイには褒美として我が娘を授ける事とする!」
「ありがとうございます、しかし王様にお願いがございます」
「ふむ、願いとは何だ?」
先程まで緩やかだった王様の表情が引き締まる。
「はい、一晩考えた結果、私は王女様を頂く事は出来ません」
王様の表情がより一層厳しい物となった、王様の褒美を拒否したのだから当然の事だ、この王国の民ならここで殺されているかも知れない。
「理由を聞こうか」
王様は低い声で威圧するように言って来た。
「王女様達はどの方もとても魅力的で、そして仲のいい姉妹だという事が短い付き合いではありますが感じる事が出来ました、私が誰か一人を選んでは、将来的にソートマス王国とキュロクバーラ王国の間で亀裂が生じるかと思ったのです」
俺がそう答えると王様は暫く黙り込み、やがて大声で笑い始めた。
「わはははははは、そんな事で亀裂が生じる様には育ててはおらん、しかし、エルレイがそこまで心配するのであれば四人ともくれてやろう!」
えっ?四人全部って王家としてそれは大丈夫なのだろうか?
「王様、すでに私には八人の許嫁がおります、ですので四人も頂く訳にはまいりません」
「エルレイ、お主が申した事だぞ、それに妻が多い事は強者の証だ、遠慮することは無い」
ここまで言われて断るとさすがに不味い気がするな・・・。
「分かりました、ありがたく四人を受け入れさせてください」
「うむ、それとこれはソートマス王へ渡してくれ」
王様がそう言うと文官らしき人が親書を携え俺の前に来て手渡してくれた。
「確かにお預かりいたしました」
「エルレイ、四人の事頼んだぞ」
「はい、大事にさせて頂きます」
謁見の間を後にする、一人をきちんと選べばよかったのだろうか・・・なぜか四人貰う事になってしまった。
これで許嫁が十二人になってしまった、流石に多すぎだろうと思うがもう後には引けない。
客間まで送ってくれたマティアスが俺と一緒にソファーへと座った。
「エルレイ良かったな、四人も貰えて」
「そうだな、確かに四人共聡明で美しいから良かったんだろう・・・」
「俺も今回エルレイの手伝いをした事で新たに二人貰う事になっている」
「そうなのか、と言うか結婚していたのか?」
「そうだぞ妻は四人いる、今は戦時中という事で食事は別だったがこの城にはいるぞ、そして子供も六人いる」
「そうなのか、てっきり王族と一緒に食事をしていたから、あの場には独身者しかいない者とばかり思っていた」
「確かにそう思うのが普通だな、俺の家族まではあの食堂に入りきれないからな、別の所で食べている」
「なるほど、ところで俺は今日帰りたいのだが四人はどうしたらいいのだろう?」
「そうだな、準備があるだろうから妹達は明日迎えに来て貰えないだろうか?」
「分かった、そうだなマティアスにと言うか、王様にも教えて置いて貰いたいのだが、マティアスは空間転移魔法と言うのを知っているだろうか?」
「いや知らない」
「空間転移魔法と言うのは、俺が行った事がある場所に一瞬で移動できる魔法だ」
「それは凄い魔法だが、とても危険だな」
マティアスは真剣な表情で俺を見て来た。
「マティアスが想像した通り危険な魔法だ、だから使うのには細心の注意を払っている、マティアスには俺が転移してくる場所を指定して欲しい、俺はその場所にしか転移してこないことを約束する、そしてもしそれ以外の場所へ俺が転移してきた場合遠慮なく攻撃してくれて構わない」
「分かった、場所に関しては今から王と相談して来る、少し待っていてくれないか?」
「よろしく頼む」
マティアスはそう言って部屋を出て行った、さて今の内にロイジェルク様に連絡を入れるか。
『ロイジェルク様、エルレイです、今話をしても大丈夫でしょうか?』
『エルレイ君、構わないぞ』
『ありがとうございます、先程キュロクバーラ王より陛下への親書を受け取りました』
『そうか、よくやってくれた』
『つきましては陛下に拝謁したく』
『親書は出来るだけ早く届けた方が良いだろう、午後私の所へ来てくれないか?』
『分かりました』
『では待っている』
ロイジェルク様との連絡が終わり一息つく。
この地に来てから予想以上に長くかかってしまったな、ルリア達が無理をしていなければいいのだが・・・。
リゼはロゼと連絡を取っていた様だが、俺はあれ以来ルリアと連絡していない、連絡をすればまたルリアから切られるかもしれないからな。
どうしても心配してしまうのはしょうがない事だろう。
ソファーで寛いでいると、マティアスが戻って来た。
「エルレイ、待たせてすまない」
「いえ、こちらからお願いした事ですから」
「では、転移して来て貰う場所へ案内する」
マティアスに案内され廊下を歩き、城の外へ出て城の周りの少し開けた場所へとやって来た。
ロイジェルク様の時の様に鍵のかかる部屋かと思ったが外だったな、この場所だと城内に転移されるより安全だな。
「エルレイ、転移して来る時はこの場所にしてくれ」
「分かった、後念話を使える者がいれば事前に連絡を入れるのだが」
「そうか、なら俺に連絡してくれ」
「マティアスは魔法が使えたのか?」
「初級魔法が使える程度だな、なかなか上達しないよ」
「そうか、良い事を教えてやろう、毎日魔力を限界まで使えば魔力は増えて行くぞ」
「なんだって!それは本当の事か?」
「もちろん本当だ、今の俺があるのはそのお陰だからな」
「しかし、そんなこと俺に教えてよかったのか?」
「構わない、マティアスとは家族になるんだからな」
「家族か・・・確かにそうだな」
「マティアス兄さんと言った方が良いだろうか?」
「止めてくれ、なぜだか気持ちが悪い」
二人して大声で笑った、俺が教えたとアドルフが知ったら怒るかも知れないが、黙って置けばばれないだろう。
「ではマティアス、また明日連絡を入れてから来る事にするよ」
「分かった、ではまた明日」
リゼと手を繋ぎ転移でリアネ城へと戻って来た。
「やっと帰って来れましたね」
「そうだな、今回少し長かったな」
リゼを連れアドルフの下へとやって来た。
「エルレイ様、お帰りなさいませ」
「アドルフただいま、変わりは無いだろうか?」
「はい、ルリア様達はすでに戻られております、今現在難民の流入は確認されておりませんが、トリステン率いる警備隊にはもうしばらくアヒム男爵の所に駐留させております」
「そうか、警備隊が帰還する時には俺が輸送した方が良いだろう」
「そうですね、エルレイ様お願いします」
「今日は午後陛下の所に行って来る、そして明日はまたキュロクバーラ王国へ許嫁を貰いに行く事になっている」
「さすがエルレイ様です、これで領内の安全は確保できるわけですね」
「隣接する地域は全て不可侵条約を結んだ事になるからな、当面は安全だろう、だが魔物と言う不安要素がある油断しない様にしなければならない」
「承知しました」
「では、ルリア達に報告して来る」
「はい、行ってらっしゃいませ」
リゼと一緒に執務室を出た。
「ルリア達は訓練場だろうか?」
「いえ、先程確認しました所、皆様お部屋にいらっしゃるようです」
「そうか」
俺は急いで部屋へと戻り扉を開けて中を見ると、全員元気な顔を確認でき安堵した。
「皆ただいま」
「エルレイ、遅かったじゃない」
「エルレイさん、お帰りなさい」
「うむ、待ちくたびれたぞ」
「お姉ちゃん寂しかったぁ」
「エルレイ、お帰りなのじゃ」
「「エルレイ様、お帰りなさいませ」」
リゼが事前に連絡していたのか皆俺の帰りを待っていてくれた様だな、アルティナ姉さんは早速俺に抱き付いて来た。
「アルティナ姉さんただいま、怪我とかしなかった?」
「大丈夫よ、誰も怪我して無いわよ」
「そうかよかった」
アルティナ姉さんに抱きしめられ声を聞いたら心から安心できた、アルティナ姉さんはギュッと俺を抱きしめた後離れて行った。
そして俺はルリアに近づき抱きしめる。
「ルリア、俺の代わりに頑張ってくれてありがとう」
「ふんっ、当然の事をしたまでよ!」
ルリアはそう言って顔を横に向けてしまったが、体は俺に預けて来ている、こういう仕草がたまらなく可愛いいのでしばらく抱き付いたままでいたら怒られてしまった。
「いつまでそうしているのよ!」
ルリアは強引に俺を引きはがした。
「ほら、まだ他にも貴方の事を待っていた人がいるんだから!」
「そうだな、リリーおいで」
「はい」
リリーは俺の腕の中にそっと入って来て抱きしめて来てくれた。
「リリー、ラウニスカ王は倒したよ」
「エルレイさん・・・」
リリーは俺の胸に顔をうずめて泣いていた・・・リリーがどんな思いなのか俺には分からない、だがこれでリリーを狙う者がいなくなったのは確かだろう。
これ以上リリーに掛ける言葉が見つからない、ただ俺はリリーが泣き止むまで抱きしめている事しか出来なかった。
「エルレイさん、ありがとうございます」
リリーはそう言って顔を上げ、その時リリーの髪の色は元の銀色へと戻った。
「リリー、もういいのかい?」
「はい、この髪はお母様から頂いた物ですから大事にしていきたいと思います」
「そうか、俺もリリーにはその髪の色が一番似合っていると思うよ」
「ありがとうございます」
リリーの表情は晴れやかだった、髪の色はリリーにとって大事な物だったのだな、皆に迷惑を掛けたくないと強く思い無理していたのだと分かった。
リリーは俺から離れルリアと抱き合って二人で喜びそして泣いていた、誰が見ても仲のいい姉妹にしか見えないだろう。
ルリアとリリーを見ていたいがこちらを睨みつけている視線があるからな、そちらへと行き抱きしめた。
「ヘルミー、ネただいま」
「うむ、エル、会いたかったぞ」
ヘルミーネは俺の事を強く抱きしめて来た。
「ヘルミーネは鏡で俺の事を見ていたのでは無いのか?」
「そうだ、いつもリゼとイチャイチャしていたな!」
イチャイチャしていたかは置いておくとして、リゼとずっといたのは間違いではない。
「護衛としてリゼには着いて来てもらったから、いつも一緒にいたな」
「それと毎日一緒に寝ていた様だから、当分リゼは順番から外す事が決まったからな!」
「そんなぁ~!」
ヘルミーネの言葉を受けてリゼが悲鳴を上げる、ヘルミーネの言っている事は正しいから俺がリゼを助けてやる事は出来ない。
「ヘルミーネがいつも通り元気で安心したよ」
「うむ、エルもだな」
ヘルミーネはにっこりと笑い俺から離れて行った。
「ロレーナ、お姉さんとして皆を守ってくれてありがとう」
俺はそう言ってロレーナを抱きしめた。
「それは勿論じゃ、お姉さんじゃからな」
ロレーナはにこにこしながら俺の事を抱きしめてくれた、その足元でソルも尻尾を思いっ切り振っている。
「ウィル、ソルと遊んでやってくれ」
「はーい」
ウィルはずっと隠れたままだったからな、久々に表に出られて喜んでソルとじゃれ合い始めた。
「ロレーナは皆と仲良くなれたのだろうか?」
「皆優しくて私と手を繋いでくれるのじゃ、心配せずとも仲良しじゃぞ」
「そうか、それは良かった」
ロレーナはいつもにこにこしているからな、皆の心を癒してくれるのだろう、そう言う意味ではお姉さんと言うのは間違いでは無いな。
「これからもお姉さんとして皆を支えてくれ」
「勿論なのじゃ」
「でもロレーナが困ったときは遠慮なく皆に頼ってくれ、ここにいるのは皆家族だからな」
「分かったのじゃ」
ロレーナはにっこりと笑って俺から離れて行った、そしてラウラへと近づいて行きゆっくりと抱きしめた。
「ラウラ、ただいま」
「エルレイ様、お帰りなさいませ」
ラウラは俺を抱きしめ泣いていた。
「ラウラ、心配かけた様ですまなかった」
「いいえ、エルレイ様が無事で嬉しいのです」
「そうか、俺もラウラが無事で嬉しいよ」
「エルレイ様・・・」
ラウラとは暫く抱き合っていた、いつもラウラには面倒な役割ばかりやって貰っているからな、ラウラを労ってやりたいそう思うのだ。
ラウラは満足したのかスッと俺から離れた、さて最後はロゼだな、俺はロゼの所に行き優しく抱きしめた。
「ロゼ、ラウニスカ城は破壊した」
「はい、ありがとうございます」
「もう一つはリゼから聞いているか?」
「いえ、何のことでしょう?」
リゼは自分で伝えなかったのか・・・。
「ラウニスカ王を倒した際、持っていた魔道具はリゼが破壊したよ」
それを聞いて今まで表情を崩さなかったロゼが驚きと共に目から涙が零れだした。
「エルレイ様・・・」
ロゼは俺に寄りかかり泣き崩れてしまった・・・。
俺がロゼを慰めていると、リゼとリリーもやって来て一緒にロゼを抱きしめてくれた。
俺には二人の苦しみを理解することは出来ないが、周りの仲間が次々といなくなっていく恐怖は想像を絶するものだったのだろう。
「エルレイ様、リリー様、リゼ、ありがとうございます」
ロゼの目は赤く腫れあがっていたが、表情は笑顔だった。
リリー、ロゼ、リゼも心に刺さっていた物が抜けたように晴れやかな表情を見せていた。
「皆落ち着いたようだな、出来れば詳しく教えて欲しいものだ」
ヘルミーネが俺達がなぜ泣いていたのか説明を求めて来た、ヘルミーネ、アルティナ姉さん、ロレーナ、ラウラには詳しく話してはいなかったな。
「リリー、リゼ、ロゼ、話していいか?」
「「「はい」」」
俺はリリーが王女であった事、リゼ、ロゼそしてニーナが身体強化の訓練を無理やりやらされた事を説明した。
「薄々は気付いていたけど、大変だったのね」
「だがこれで悩む必要もなくなったわけだな」
「よく分からないが、これからは私を頼ってくれていいのじゃからな」
皆優しいからここにいればリリー、リゼ、ロゼも今までの事を忘れて暮らせるようになるだろう、いや、そうしなければならないな。
湿っぽかった雰囲気も明るくなり、いつものような感じに戻ってくれた。
久々にみんなで楽しく話をしながら昼食を摂った後、俺はロイジェルク様を連れ王城へ向かう馬車の中にいた。
「エルレイ君、今回は時間がかかったようだな」
「戦争自体はすぐ終わったのですが、傷ついた兵士の治療に時間がかかりました」
「ほう、しかしそれはエルレイ君がやる必要は無かったのではないのかね?」
「確かにそうですが、目の前で苦しんでいる人を見捨てて帰って来る事は出来ません」
「エルレイ君らしいな」
ロイジェルク様はにこやかに微笑んでいた、馬車は王城へと着き陛下の執務室へとやって来た。
今日も陛下とロイジェルク様と俺の三人だけだ。
「エルレイ、ご苦労であった」
「はい、ソートマス王国の名を汚さぬよう頑張ってまいりました」
「うむ」
「こちらがキュロクバーラ王からの親書になります」
俺は預かっていた親書を陛下へと渡した。
「読ませてもらう」
陛下が親書の封を切り読み始める、暫く沈黙が続きやがて陛下が顔を上げた。
「エルレイは相当気に入られた様だな」
「はい、大変親切にしていただきました」
「私は一人娘を寄こせと書いたのだが、四人も寄こしてくるとは驚きだ」
四人?確かに四人貰う事になったが親書はそれが決まる以前に書かれているはずだ、あの場でが何か書いた素振りははなかったしな。
という事は最初から四人の予定だった?俺が一晩悩んだのは無駄だったという事か・・・。
「はい、四人の王女様を頂く事になりました」
「それほどエルレイを脅威と感じたという事だな」
「脅威かどうかは分かりませんが、友好的に接して頂きました」
「何にせよこれで不可侵条約は結ばれるわけだ、ただ、エルレイには申し訳ないが今回エルレイが活躍したことは公に出来ない、よって私から表立っての褒美を渡す事も出来ぬ、許せよ」
キュロクバーラ王国の面子の問題だな、俺の手伝いが無ければ勝てなかったのかと思われては今後の統治に影響が出るし、他の国からも狙われやすくなる。
更にソートマス王国が領地を貰わなかった事で、貴族から陛下に文句が来るかもしれないからな。
だから陛下は俺への褒美として王女様を要求したわけだ、俺は特に褒美が欲しかったわけではないが、陛下としては褒美を渡さない訳にはいかないからな。
「いえ、褒美は四人の王女様を頂きましたので十分でございます」
「そう言ってくれると助かる、キュロクバーラ王への親書を書くのでしばらく待っておれ」
陛下はそう言うと席に戻り机のベルを鳴らし、使用人を呼んで俺とロイジェルク様にお茶とお菓子を用意してくれた。
俺は遠慮なくお菓子を食べお茶を頂く、ロイジェルク様はお茶だけ頂いていた。
陛下は早くも書き終えた様で蝋で封をし、こちらへとやって来た。
「ふむ、こうして見ると普通の子供だな」
「陛下もそう思われますか」
「うむ、強力な魔法使いには見えんな」
俺がお菓子を食べているのがそんなに変なのだろうか?大人でも普通にお菓子は食べると思うのだが・・・。
「エルレイ、これをキュロクバーラ王へと渡してくれ」
「お預かりいたします、明日再度キュロクバーラ王国へ向かう予定です、その時にお渡しいたします」
「頼んだ」
陛下から親書を受け取り部屋を出る、その際ヘルミーナに渡してくれと陛下からお菓子の包みを手渡された。
やはり心配なのだな、今度来る時はヘルミーナも一緒に連れて来る事にしよう。
ロイジェルク様を屋敷へ送り届けリアネ城へと帰還した。
翌朝キュロクバーラ王国に行くためマティアスへ連絡を入れた。
『マティアス、今からそちらへ向かうが構わないか?』
『エルレイ構わないぞ、迎えに行くからその場で待っていてくれ』
『分かった』
俺はリゼを連れてキュロクバーラ王城の広場へと転移した、流石にマティアスはまだ到着していない。
「エルレイ様、皆に四人連れて来る事を知らせないでよかったのでしょうか?」
昨日皆が良い雰囲気になっていたから、話を切り出せないで今日を迎えていた。
「皆を驚かせようと思って・・・ではいけないよな」
「そう思います」
「まぁ知らせずここまで来てしまった訳だから、俺が皆に頑張って説明するよ・・・」
「四人とも良い方ですから会って話し合えば分かって貰えるとは思います」
「そうだよな」
「ただ、エルレイ様は許されないかと・・・」
「それは諦めているよ・・・」
リゼと話をしているとマティアスが走ってやって来てくれた。
「はぁはぁ、エルレイ、待たせてすまない」
「そんなに慌てて来なくても構わなかったのですが・・・」
「そうもいかないさ」
「マティアス、ソートマス王から親書を預かって来ている、王様に合わせてくれないか?」
「分かった、王もエルレイを待っていたからな」
「そうか、案内を頼む」
マティアスの案内で謁見の間へと通され、膝を突き頭を垂れる。
「面を上げよ」
頭を上げ王様の顔を見ると穏やかな表情を浮かべていた。
「エルレイ、便利な魔法を持っている様だな」
「はい、その便利さ故、多くの仕事が舞い込んできます」
「そうだろうな」
「それでソートマス王より親書を預かってきております」
俺が親書を差し出すと、文官がそれを受け取り王様へと渡し、王様はそれを読み始めた。
「・・・ふむ、キュロクバーラ王国とソートマス王国の不可侵条約が結ばれた、これでエルレイは戦争の心配が無くなった訳だ」
「王様それは違います、ルフトル王国と更にキュロクバーラ王国からも王女様を頂きましたので、私は両国の危機の場合は必ず駆けつける所存です」
「そうか、俺はそんなつもりで娘を差し出したわけでは無いが、エルレイがそう言うのであれば遠慮はしないぞ」
「はい」
「エンリーカ、エレオノラ、リディア、エミリア」
「「「「はい」」」」
王様が四人の王女様を呼び、王女様達は俺の横へと並んだ。
「エルレイをしっかりと支えるのだぞ」
「「「「はい」」」」
「エルレイ、娘たちの事頼んだぞ」
「はい、大切に致します」
俺は四人の王女様達と謁見室を後にした。
「マティアス、四人の荷物は何処にあるのだろうか?」
「あぁ、グリフォンで運ぶようにしている」
「言うのを忘れていたな、荷物も俺が運べるからそこへ案内してくれ」
「分かった、しかしエルレイは何でも出来るのだな・・・」
「そうかも知れないが、出来ない事もあるぞ」
「そうなのか、それはどんなものだ?」
「流石にそれは教えられないな」
「駄目か」
マティアスと笑いながら螺旋階段を上って行く、グリフォンで運ぶよう城の尖塔へと準備していた訳だな。
螺旋階段を登り切ると、そこに四つの大きな鞄が置いてあるだけだった。
確かにこれを王女様が持つには大きいが、グリフォンで運ぶと考えるとこれ以上の大きさは無理だろうな。
俺はそれを収納していく。
「収納魔法と言って、魔力で作った空間に荷物を入れて行ける訳だ」
「便利だな、俺にも使えるだろうか?」
「多分無理だろう、この魔法書自体厳重に管理されていたし、俺も他人に教えるのを禁止されている」
「確かにそうだな、こんな魔法が誰でも使えたら世界が変わってしまう」
「それに転移魔法もそうだが魔力を大量に消費する、普通の魔法使いでは使うことも出来ないよ」
「なるほど、あれだけ大量の人を治療出来る様でないと無理だという事か」
「そう言う事だな」
荷物を預かり城の玄関へとやって来た。
「エルレイ、遅いですわよ」
「待ちくたびれました」
「遅ーい」
「エルレイ、早く行こ」
「すまなかった、では行こうか」
四人の王女様とマティアスを連れて城の横にある広場へとやって来た、帰る時は何処からでもいいとは思うが、一応礼儀としてこの場所を使った方が良いだろう。
「ではマティアス、何かあったらいつでも連絡してくれ」
「あぁ、頼りにしている、妹達の事頼んだぞ」
「大事にするよ、では皆俺と手を繋いでくれ」
リゼと四人が手を繋いだことを確認して、転移でリアネ城でと戻って来た・・・。




