第十六話 ラノフェリア家の危機
リアネ城へ着いた俺は、ロレーナを連れてアドルフに報告するため執務室に向かった、アドルフに会う前にロレーナと少し打ち合わせをしないといけない。
『ロレーナ、歩きながら聞いてくれ、今から俺の家宰に紹介するが、ロレーナは自分の名前を告げるだけで何も話さなくていいからな』
『分かったのじゃ』
『ロレーナは嘘をつくのが嫌だろうが、嘘をつくのは俺だから気にしないでくれ』
『エルレイ、私の為に迷惑をかけること、すまないのじゃ』
『ロレーナは俺の家族になったのだから気にしなくていい』
『家族か・・・エルレイ、ありがとうなのじゃ』
ロレーナはにこっと微笑み俺を見て来た、こんな可愛いロレーナの為なら、嘘の一つや二つどうと言う事は無いな。
執務室に到着し室内に入る。
「エルレイ様、お帰りなさいませ」
アドルフは俺が入室するとすぐ駆けつけてくれた。
「アドルフただいま、紹介しよう、俺の婚約者となったルフトル王国の王女ロレーナだ、今日からここに住む事になったのでよろしく頼む」
「ロレーナじゃ、よろしく頼むのじゃ」
アドルフにロレーナを紹介すると、ロレーナは緊張した様子で挨拶をした。
「ロレーナ様、私はエルレイ様の家宰アドルフと申します、ご用件が御座いましたら何なりとお申し付けください」
アドルフはロレーナに一礼をした、ロレーナはそれを受け戸惑っていた様だ。
便宜上王女としたわけだが、ロレーナは今まで普通に暮らしていて、いきなり王女として振舞えと言われても戸惑うのは仕方が無いな。
「ロレーナは数年前大病を患って成長が止まってしまったそうで、こう見えて十五歳だ、そのつもりで対応してくれ」
ロレーナは俺が付いた嘘に驚いていたが、こうでも言っておかないとロレーナはずっとこの姿のままだからな、こういう理由を付けて置けば問題は少なくて済むだろう。
「畏まりました」
「アドルフ、先にロレーナを部屋に案内する、詳しい話は午後またここに来るからその時にしよう」
「承知しました」
この場に長くいるのはロレーナにとって苦痛だろうと思いすぐに部屋を出た。
「エルレイ、やはり王女と言うのは無理じゃ」
「ロレーナ、今は話さないで下さい、他の人に聞かれるのは不味い」
「分かったのじゃ」
城の廊下は遮蔽物が無いから意外と声が通る、どこで誰が聞いているか分からないから用心しないといけない。
ロレーナを連れて部屋に入ると、皆はソファーでお茶を楽しんでいた、俺とロレーナもソファーに座るとリゼがお茶を持って来てくれた。
「エルレイ、早かったわね」
「ロレーナの紹介だけして戻って来たからね、詳しい説明は午後また行かないといけない」
「それで、どういう風に紹介してきたのかしら?」
ルリアは真剣な表情で聞いて来た、皆で共有しておかなければならない事だからな。
「皆も聞いてくれ、ロレーナは王女として紹介してきた、歳は十五で、数年前大病を患って成長が止まった事にした」
ルリアはそれを聞いてにやりと笑っていた。
「なかなか考えたわね、それなら成長しない理由として問題無いわね」
「そうですね、それなら誰も不思議に思わないでしょう」
リリーも成長しない理由に納得してくれた様だ、しかしロレーナはずっと浮かない表情だ。
「ロレーナ、気にしなくていいんだからな?」
「やはり、皆に申し訳なく思うのじゃ・・・」
「ロレーナ、先ほども言った通り、ここにいる皆もロレーナの家族だから遠慮することは無いんだぞ」
「そうよ、ここで生活するために必要な事だから気にする事無いのよ、それともロレーナは結界の中に帰りたいのかしら?」
ルリアはわざとそう言ったのだろう。
「そんなことは無いのじゃ!」
ロレーナはルリアの言葉に対して勢い良く反論した。
「ロレーナさん、私達は家族なのですから気にする必要は無いのです、私も皆さんに嘘をついて貰っています。
今はルリアの妹ですが、以前はラウニスカ王国の王女だったのです、そこで命を狙われリゼとロゼに助けられてここにいます」
リリーはそう言うとロレーナの隣に座って優しく抱きしめた、ロレーナはリリーの言葉に驚きの表情を見せていた。
「そうじゃったのか・・・私もこれから皆に迷惑をかける、すまな・・・いや、ありがとうなのじゃ」
「はい」
ロレーナの表情は先程とは違い明るくなっていた、リリーが言ってくれなかったらロレーナはずっと後ろめたい気持ちを持ち続けていただろう。
しかしリリーが自分から過去の事を話すとは思わなかった、しかしそれはロレーナを家族とリリーが認めた証拠だな。
「リリー、ありがとう」
俺はリリーと抱き合っているロレーナを包み込むよう優しく抱いた。
「エルレイ、何をするのじゃ!」
ロレーナはびくっとして体を硬くして驚いていた、もしかしてこの様にされたことは無かったのだろうか?
「ロレーナ、諦めなさい、エルレイは女の子に抱き付くのが大好きなのよ!」
ルリアが俺を睨みながらそう言って来た、このまま誤解されていてはたまらないから二人から離れた。
「そうなのじゃな・・・」
「ルリア、その言い方だと女の子なら誰でも良いように聞こえてしまうぞ」
ロレーナもそう解釈したのだろう俺を見る目が厳しい・・・。
「あら、違ったのかしら?」
「好きな相手にしか抱き付いて無いぞ、ルリアに最初に抱き付いたのも一目でルリアの事が好きになったからだ」
俺がそう言うとルリアは顔を赤くした、多分あの時の事を思い出しているのだろう。
「エルレイさん、確かあの時抱きしめたのは、ルリアに殴られた仕返しに抱き付いたと言ったのは嘘だったのでしょうか?」
リリーが余計な事を言ったな、ルリアは先程とは違い怒りで顔が赤くなっているようだ・・・。
「エルレイ、リリーが嘘を言うはずは無いから、貴方が嘘をついたという事になるわね!」
ルリアはそう言うと俺に近づき思いっ切り顔面を殴って来た、避けると酷くなるので俺はそれを受け止め吹き飛ばされた。
「ルリアは怖いのじゃ」
「ロレーナさん、ルリアはエルレイ以外には優しいから大丈夫ですよ」
「そうなのじゃな、それなら安心じゃ」
ロレーナがルリアに怯えていた様だが、リリーがそっと横からルリアが無害であることを教えていた。
確かにルリアは皆に優しい、時には怒るが、それは皆の事を思って言っている事で皆もそれを知っている。
俺に対しても、あくまで俺が悪い時にしか殴ったりしないからな・・・。
「痛いよルリア・・・俺はルリアに抱き付けばいいのか?」
俺は起き上がりながら回復魔法を掛けた。
「ふんっ!」
ルリアは腕を組んで横を向いてしまった、これは抱き付いた方が良いのか判断に迷うな・・・。
でも最悪殴られるだけで済むから、抱き付かないという選択は無いな!
恐る恐る横からルリアに抱き付いた、今殴られたばかりだから正面から抱き付く勇気は無かった・・・。
抱き付かれたルリアは特に抵抗する事無く俺を受け入れてくれている。
ルリアに抱き付き堪能していると、部屋に子供達達の教育を終えた三人が入って来て、アルティナ姉さんが俺とルリアに抱き付いて来た。
「エルレイ、お帰りなさい」
「アルティナ姉さん、ただいま」
「アルティナ、離れなさいよ!」
ルリアはそう言っているが特に拒絶して力を入れたりはしていなかった。
「ルリアもお帰りなさい」
アルティナ姉さんはルリアに挨拶してから離れて行った。
「ヘルミーネ、ラウラ、ただいま」
「うむ、お帰り」
「エルレイ様、お帰りなさいませ」
俺はルリアから離れ、ヘルミーネとラウラに抱き付き挨拶を交わした。
「皆に紹介するよ、俺の婚約者で今日からここに住む事になったロレーナだ、この前言ってた通り彼女はハーフエルフ、しかしその事は秘密にしなければいけない、数年前に大病を患い成長が止まった事にして、年齢も十五歳にしたから、よろしく頼む」
「ロレーナじゃ、皆よろしく頼むのじゃ」
ロレーナは一礼をした。
「私はアルティナ、ロレーナよろしくね」
「ヘルミーネだ、よろしく頼む」
「ラウラです、ロレーナ様よろしくお願いします」
皆の紹介が終わった所でロゼが俺の所にやって来た。
「エルレイ様、ロレーナ様のベッドを用意して頂けないでしょうか」
「分かった、一個出来上がっていたやつを使って貰おう」
「お願いします」
家具職人のトレンツさんの所で作って貰ったベッドが一つだけあったからそれを並べて置いた。
こうして見るとやはり俺が作ったベッドと、職人が作ったベッドの見栄えが違い過ぎてロレーナのベッドだけ豪華だ。
ロゼは早速ベッドメイキングを始めていた。
「ロレーナ、このベッドを使ってくれ」
「こんなに豪華なベッド、私が使ってもいいのじゃろうか?」
ロレーナは周りのベッドと見比べて、自分のベッドだけ豪華なので遠慮している様だ。
「ロレーナ、遠慮する必要は無い、実はこのベッド、試作で一個だけ先に作って貰った物で、皆の分も今作って貰っている所なんだよ」
俺が説明してもロレーナはまだ遠慮している様だった。
「エルレイ様がこのベッドを使えばいいのではないでしょうか?」
リゼがそう言って来た、その方がロレーナも遠慮しないでいいかも知れないな。
「エルレイ、私もそうした方が良いと思うわよ、所でさっきから気になっていたのだけれど、リゼの髪はどうしたのかしら?」
アルティナ姉さんはリゼの金色の髪が気になっていた様だ、まだこの前掛けた魔法が消えていないんだよね。
「ベッドの件は俺が使うという事で、ロレーナ構わないだろうか?」
「そうしてくれると助かるのじゃ」
ロレーナさんは頭を何度も縦に振っていた、ここにいる皆がそんな些細なこと気にするとは思わないが、ロレーナが遠慮しない方向にした方が良いだろう。
「リゼの件は昼食を食べながら話すよ」
「そうね、お腹がすいたわ」
皆と共に食堂へ向かった、その途中ロレーナはきょろきょろと慣れない城内をあちこち見ていた。
食堂へ着き席に座ると料理が運ばれてくる、その光景にロレーナは驚き落ち着かない様子だ。
「ロレーナ、何か食べられない物があったりするだろうか?どうしても食べられない場合、言ってくれれば他の物と交換して貰うから遠慮無く言ってくれ」
「大丈夫なのじゃ、何でも食べられるのじゃ」
「それとマナーとか気にしないで好きに食べて貰って構わない、どうしても気になる様だったら隣にいるアルティナ姉さんに聞いてくれ」
「アルティナ、よろしく頼むのじゃ」
「ロレーナ、本当に好きに食べていいのよ、ここでは誰も気にしませんからね」
アルティナ姉さんはロレーナに優しく微笑みかけていた。
「では頂きます」
「「「頂きます」」」
「頂くのじゃ」
昼食が始まり、ロレーナも少し周りを気にしながらだが食べ始めた、エルフの食事とかなり違うが、今の所問題無く食べている様だった。
「リゼの髪の色だが、ウィルが姿を変える魔法が使える様になって、リゼでどのくらい持続するのもなのか試しているんだよ」
「そうだったのね、しかし見慣れていないせいで違和感が凄いわね」
「うむ、なんか変なのだ」
アルティナ姉さんとヘルミーネ容赦なくリゼを見てそう言った、リゼはと言うとそれを聞いて涙目になっていた・・・。
「エルレイ様ぁ、元に戻していいでしょうかぁ!」
リゼは涙ながらに訴えて来た、さすがに可哀そうに思えて来たな、どれくらい持続するのか分からなくなるがまぁいいだろう。
「分かった、リゼ元に戻していいから泣かないでくれ」
リゼの表情は今まで涙目だったのが、ぱぁっと明るくなり晴れやかな表情に変わった。
「エルレイ様、ありがとうございます」
感謝の言葉と共にリゼの髪は元の青色に戻った、もしかして泣いていたのは演技だったのだろうか・・・でも本人が嫌がっている事をやらせるのは本意じゃないからいいのだけど、釈然としないな。
「エルレイ、髪の色以外にも変えられるのかしら?」
「俺がイメージ出来る対象なら変えられる、ただ声や仕草まで変えられないから、話したりすると駄目だね」
「そうなのね・・・」
アルティナ姉さんはそう言うと何やら考え込んでしまった、悪い事を考えていないといいのだけれど・・・。
「エルレイさん、私の髪の色を変えて貰えませんか?」
リリーがそう言って来た、出かける時はリリーの髪の色を変えてやらないといけないが今やらなくてもいいはずだ、リリーの銀の髪は美しく俺が単に変えたく無いと思っているだけだが・・・。
リリーも何か考えがあって言っているのだろう、俺もリリーの頼みを断りたくないしな。
「分かった、では何色にしたいのだろう?」
リゼの失敗があるから変な色入って来ないと思う、リリーなら俺と同じ金色でも似合うと思う。
「はい、ルリアと同じ色にしてください」
「ウィル、出て来てくれないか」
「うん、ご主人様」
「リリーの髪の色をルリアと同じにしてくれ」
「ご主人様、分かった」
リリーの髪の色は銀色からルリアと同じ赤い色の髪に変わった。
「リリー、綺麗ね」
「うむ、リリーに良く似合ったいる」
「リリー様、とても美しく良く似合っております」
アルティナ姉さん、ヘルミーナ、ロゼはリリーの赤い髪を絶賛していた。
「私の時とかなり違う反応・・・でもリリー様、良く似合っております」
リゼは自分の時と皆が違う反応なので落ち込んでいた・・・。
「リゼも赤い髪の色にしてやろうか?」
俺がそう言うとリゼは頭をぶんぶんと横に振り断って来た。
「もう髪の色を変えたくありません!」
「ところでリリー、なぜ私と同じ色にしたのかしら?」
今まで無反応だったルリアがリリーに問いかけた。
「これでルリアと本当の姉妹になれるかと思って」
リリーの言う通りルリアと姉妹だと言われて疑う人はいないだろう。
「リリーの髪の色が何色でも私達は姉妹よ!」
ルリアが珍しくリリーに怒っていた。
「そうですね、ルリアごめんなさい・・・少しでも他の人からルリアと姉妹だと思われたかったのです」
「馬鹿ね、他人なんか気にしなくていいのよ」
「はい、ルリアありがとう」
先程まで怒っていたルリアの表情はリリーを見て優しく微笑んでいた、ルリアの言う通り髪の色が違おうとも二人は仲のいい姉妹だと本当にそう思う。
昼食を終え俺は執務室に行く訳だが、その前にロレーナの事を頼まないといけない。
「ルリア、ロレーナの事をお願いしてもいいだろうか?」
「えぇ、構わないわよ、エルレイはこれから仕事よね?」
「あぁ、今回の報告と、いなかった間の仕事が溜まってるだろうからね」
「頑張ってね、ロレーナ、行くわよ」
「ルリア!私をどこに連れて行くのじゃ!?」
戸惑うロレーナをルリアは腕を引っ張って連れて行ってしまった、ルリアと魔法の訓練でロレーナ、いや、ソルはしごかれるのだろう・・・。
俺は執務室へ入り自分の席に座るとアドルフがやって来た。
「エルレイ様、今回の戦争の件お伺いしてもよろしいでしょうか?」
「今回の戦争だがかなり危険な物だった」
俺はアドルフに戦争の経緯と吸魔石の事、それが人の手によって作られ、いつどの場所で魔物が出現する可能性を伝えた。
「承知しました、至急警備隊に通達致します」
「それと領内の貴族にも通達してくれ」
「畏まりました」
「この事をロイジェルク様と、出来れば陛下にも伝えたいと思うが、拝謁の許可は下りるのだろうか?」
「エルレイ様ならいつでも許可は下りると思います、私がロイジェルク様に伝えておきます」
「頼んだ、その事でロイジェルク様に魔石の出所を探って貰おうと思うのだが、アドルフはどう思う?」
「そうですね、ロイジェルク様は快く引き受けになると思います、ただ、またエルレイ様のお仕事が増えるのではないかと思われます」
「それは仕方が無い、ロイジェルク様から何か頼まれるのはいつもの事だからね」
「あまり聞きたくないのですが、その魔石の出所が分かった場合どうなさるおつもりでしょうか?」
アドルフは俺がどうするか分かっているのに答えを聞いて来た。
「それは聞く必要があるのだろうか?俺は情報を集めて楽しむ趣味は無いぞ」
「そうですね、エルレイ様が危険を放置して生活するはずありませんからね」
「アドルフ、俺は何も考えずこの城で贅沢に暮らしていた方が良かったのだろうか?」
アドルフは少し考えていた。
「・・・そうですね、エルレイ様がその様な方だと私は楽が出来たでしょう、しかし、それでは今の様に充実した毎日を過ごせている自信はありません、だからと言って自ら危険に向かって行く様な事は出来るだけ控えて頂きたいと思います」
「分かっている、俺も死にたくは無いからな、しかし安心して暮らすためには危険を排除しなけrばならない、自分の家庭だけ守れば済む話なら良かったのだがな・・・」
「私も影ながら、エルレイ様と共にこの領地の安全をお守りします」
「こちらからは以上だ、アドルフから何かあるか?」
「はい、二件ほどございます、まずはこちらを見てください」
アドルフは俺に紙束を渡して来た、どうやら闘技場の図面の様だった。
「この図面だと戦う場所が一か所しか無いが、構わないのだろうか?」
「はい、予選等は中を区切って使用し、本選は一面を使った方が観客に良く見えるのではないかと思いまして」
「確かにそうだな、この図面通り作っていいのだろうか?」
「エルレイ様の時間がある時お願いいたします」
「わかった、それでもう一つは?」
「孤児達の受け入れ態勢が整いました、エルレイ様が保護なされた後、四名の孤児を保護し、そちらで生活を始めております」
俺が保護した後に四名いたのか。
「新たに四名保護した事、俺は聞いて無かったが?」
「はい、エルレイ様の負担を考え私達で教育しておりました」
アドルフ達で教育してくれていたのなら問題は無いか、確かに増えすぎるとラウラの負担が増えるのは間違いないから助かったのだろう。
「そうか、では今いる八人もそちらに移した方が良いんだな?」
「はい、お願いいたします」
「分かった、しかし俺の一存で決める訳にも行かないから、今夜皆話して許可を貰ってくるよ」
「承知しました、それに伴い街に住む子供達に無料で読み書きを教える通達も出しました」
「そうか、ありがとう」
もっと時間が掛るだろうと思っていたがさすがアドルフだな、となると次は読む事が楽しい事だと知って貰わなければならない。
「アドルフ、仕事を増やす様で申し訳ないが、読み書きを覚えた子供達が楽しんで読める本の準備を頼む」
「なるほど、ただ読み書きを覚えさせるだけでは誰も来ませんね、そこに楽しみが無い事には意味が無いと言う訳ですか」
「本と、それを自由に読める場所、そこを管理する人が必要だろう」
「承知しました、準備を致します」
「よろしく頼む」
「後はこちらの書類に目を通して下さい」
俺はアドルフの部下が持ってきた書類の山に目を通す作業に追われる事となった・・・。
夕食後皆がソファーで寛いでいる所で先程の話を切り出した。
「孤児たちを保護し教育する施設が出来上がったとアドルフから連絡を受けた、その施設には現在四人の孤児がいるそうで、今いる八人もそこに移してくれとアドルフに頼まれたんだが皆も良いだろうか?」
「いいんじゃないかしら?」
「そうですね、お友達が多い方が良いでしょうからね」
ルリアとリリーは移す事に賛成の様だ、しかし三人の先生が反対した。
「エルレイ、私達で最後まで面倒を見るわ」
「うむ、私が先生だからな」
「エルレイ様、どうか最後まで私達に子供達の教育をさせてください」
三人がそう言うなら最後まで教育させてやりたいが、アドルフをどう説得するかだな。
アドルフの立場からすると孤児が城内で生活しているのを良しとしないのだ、新たに保護した四人を俺に知らせなかったのもそう言う事なのだろう。
「分かった、教育を続けられる様アドルフを説得してみるよ」
「エルレイ様、アドルフさんへの説明は私が致します」
ラウラが真剣な表情で俺を見て来た、よほどアドルフを説得する自信があるのだろうか。
「ラウラ、アドルフへの説明は任せるよ」
「ありがとうございます」
さて後は寝るだけなのだが・・・。
「今日はロレーナと一緒に寝ようと思うが、構わないだろうか?」
「構わないわよ」
「皆そのつもりだから大丈夫よ」
「うむ、初夜だからな」
皆そのつもりでいてくれた様だ、ヘルミーネは初夜の意味が分かっていない様だけれども説明するのも恥ずかしいからな・・・。
ロレーナは一緒に寝ると聞いて顔を赤くして慌てていた。
「エルレイと一緒に寝るじゃと!!いや、もちろん私は百五十歳だからその様な事は知っておるのじゃが、しかしまだ婚約したばかりで至るのはまだ早いと言うか・・・その・・・なんだ、心の準備と言う物があってじゃな・・・それに皆の前でと言うのも恥ずかしいのじゃ・・・」
ロレーナは一緒に寝る事の意味を取り違えている様だが普通はそう思うか・・・。
「ロレーナさん、エルレイさんとは一緒のベッドで寝るだけで何もしないんですよ」
「そうね、精々エルレイが抱き付いて来るだけよ」
「そうなのじゃ?」
「うん、でも無理やり抱き付いている訳じゃないぞ、嫌だと思う様な事はしないぞ」
「分かったのじゃ、私は大人の女性じゃからな、これくらいの事何でもないのじゃ」
ロレーナをベッドへ誘うとガチガチに緊張しているのが手に取るようにわかる。
ロレーナの横に寝ころび、緊張で固まっているロレーナの手を握った。
「ロレーナ、そんなに緊張しなくていいよ、皆も日替わりでこうして寝ているだけだから」
「そうなのじゃな、いや別に私は緊張などしていないのじゃ!ベッドが変わって寝付けないだけじゃ」
俺は何とか緊張をほぐしてやれないかと思い考えたが、やはりこれしか思い浮かばず手を離して抱き付いた。
「エルレイ、何をするのじゃ!」
「嫌なら離れるけど?」
「別に嫌なわけでは無いのじゃ!ただいきなりで驚いただけじゃ、私は大人の女性だからこのような事には慣れておるのじゃ・・・」
ロレーナがそう言っているのを否定する必要は無いな、俺は抱き付いたまま眠る事にした・・・。
翌朝目を覚ますと、目の前にソルがいた。
「ソル、おはよう」
「「おはようだワン」」
ソルの頭を撫でてやると尻尾が勢いよく振られて、それがロレーナの顔に当たり、ロレーナも目を覚ました。
「ロレーナ、おはよう」
「エ、エルレイ!お、おはようなのじゃ・・・」
ロレーナは俺の顔が近くにあって驚いた様で、顔を後ろにそらしながら挨拶してくれた。
「「ご主人様、おはようだワン」」
「ソル、おはようなのじゃ」
ベッドから起き上がると皆も起き上がって来た、ヘルミーネはソルを見つけると近寄ってきて抱き上げ可愛がっていた。
「ソルは可愛いな」
他の皆も寄ってきてソルの頭を撫でてやっていた、やはり火の精霊と言うより室内犬だな。
ソルも尻尾を振って喜んでいるし、ロレーナもそれを止めることは無かった。
朝食後ロゼを連れて闘技場の建設予定地へとやって来た、ロゼに図面を渡し作業の内容を確認して貰った。
この前整地しているから、この上に作って行くだけだ、しかし材料となる土が無いな、折角整地した所を掘り下げる訳にも行かない。
「ロゼ、闘技場を作るための土を持って来ないといけないな」
「そうですね、それでしたら以前道を作った際、山を切り崩した所から持ってくるのはいかがでしょう」
「そうしよう」
俺とロゼは山を切り崩した所に移動し、土をある程度固めてブロック状にし収納して行き、それを建設予定地に次々と運んで行った。
ある程度運んだ所で組み立て作業となる、最初は図面を見ながら大雑把な形を作って行った。
道路や畑と違い図面通りに作って行く作業は困難を極めた。
組み立てる作業をロゼに任せて、俺は土の運搬作業に集中する事となった。
ロゼは石像を作る訓練を続けた事によってかなり細かい作業も出来る様になっていた、こういう所は得意な属性を持つ皆に敵わない所だ。
夕方頃今日の作業を終え、リアネ城へと戻った、その足で俺はアドルフの所へ向かう。
「エルレイ様、お帰りなさいませ」
「アドルフただいま、闘技場は大まかな形を作った所で作業を終えたよ」
「そうでございますか、では作業は数日で終わりそうですか?」
「そうだな、何も無ければ後三、四日と言った所だろう」
「承知しました、今朝ラウラより孤児たちの処遇の件伺い、これを受理致しました」
「そうか、どうしても自分たちで面倒見たいと言ってたからな」
「はい、私も意見を聞き異を唱える必要はありませんでした」
「それは良かった」
「それと、陛下への拝謁の件ですが三日後に決まりました、ロイジェルク様もご一緒されるとの事で迎えに来て欲しいと連絡が御座いました」
「分かった、迎えに行きますと伝えておいてくれ」
「承知しました」
その後二日間闘技場の作成に勤しんだが完成には至らず、三日目の朝ロイジェルク様のもとへ一人で向かった・・・。
≪リースレイア王国サイド≫
遡る事、エルレイ達が魔物に変化したリースレイア軍を撃ち滅ぼした後・・・。
第一魔剣軍団長アンドレアルスは、パーヴェルより援軍要請を受け送り出したヨルゲンの連絡が途絶えた知らせを受けていた。
「何だと!!ヨルゲンから連絡が途絶えただと!!」
「ひっ!」
信頼を置いているヨルゲンから連絡が途絶えるとは、今までに無かった事だけに部下に怒鳴り散らしてしまった。
ヨルゲンには敵の情報収集と生還を厳命していた、何らかの不慮の事態が起きたとしてもヨルゲンなら必ず戻ってくると信じていたのだ。
ヨルゲンにもしもの事があったとしても、引き連れた部下から何かしら連絡があって良い物だろう。
「おい、緊急連絡は何も入らなかったのか?」
「はい、三十名の誰からも入っておりません」
それはおかしな事だ、三十名とは言え精鋭揃いで、連絡の一つも入れられない状態になるとは考えにくかった。
「パーヴェルの部隊からの連絡も無いのか?」
「はい、御座いません、ただし、おかしな情報が御座います、ヨルゲン様の部隊は出立前、魔剣開発部のガロ様より装備の提供を受けたとの事です」
「何だと!!よりにもよってあのガロが、部隊を壊滅させる様な物をヨルゲンに渡したという事か!!
分かった、ガロの所に俺が行って確認する、部隊の状況がどうなったのか、現場の者に大至急確認させよ!」
「はっ!」
大切な部下をガロの実験に使われたと思うと、怒りで奴を殺してやりたい衝動に駆られる。
魔剣開発部の扉を乱暴に開け放ち、ガロがいる所へ詰め寄り奴の胸ぐらをつかみ、そのまま壁に押し付けた。
「貴様、ヨルゲンに何を渡しやがった!返答によっては貴様を殺す!!」
ガロは突然壁に押し付けられて息もままならない状態で、このままだと窒息死してしまうだろう、俺は怒りに我を忘れていた様で力を抜けガロを解放してやった。
「ごほっ、ごほっ、ごほっ!」
ガロはようやく出来た呼吸をするのに必死だった、暫くして、よろよろと立ち上がり俺に文句を言って来た。
「いきなり何をするんですか、死ぬかと思ったじゃないですか!」
「あぁ、今すぐにでも貴様を殺してやりたい、ヨルゲンの部隊から連絡が途絶えた、それとパーヴェルの部隊も同じだ、貴様が何を渡したのか正直に話せ!」
ガロは部隊から連絡が途絶えた事に多少驚いたようだが、すぐに冷静さを取り戻していた。
「魔法を吸収する魔剣を配備しただけです、連絡が無いのは単に部隊が壊滅させられただけで、私は関係無いと思いますよ」
アンドレアルスはガロの態度にブチ切れた!腰の魔剣を抜きガロの首筋に当てる。
「今すぐその魔剣の実験をし、詳細を報告しろ!さもなければ今ここで貴様の首を落とす!!」
「・・・分かりました、ですからその剣を下げてください」
ガロも流石に自分の置かれている立場が危うい事に気が付き、大人しく実験をする事にした。
アンドレアルスはガロを一睨みしてから剣を下ろし、鞘に戻してから魔剣開発部を後にした。
「お前達実験の準備を急げ!罪人に魔剣を持たせて魔法を撃ち込んで見るぞ!」
ガロとその部下たちは慌てて実験の準備を開始した。
アンドレアルスが自分の執務室へ戻ってから一時間後、ガロから報告書が上がって来た。
奴が直接持って来ず、部下に任せたとあれば良くない結果が出たのであろう。
アンドレアルスは報告書を読み、その内容に怒りがこみ上げ、机を拳で力一杯叩いた。
「ダンッ!!!!」
周囲にいる部下たちは驚き、こちらを見ていた。
「アンドレアルス軍団長、いかがなされましたか?」
「これを読んで見ろ!」
部下にガロの報告書を投げ渡した、ヨルゲンの無念を考えると口に出す事が出来なかった・・・。
「なっ、こっ、これは・・・連絡が無かったヨルゲン様も・・・」
「そう言う事だろう・・・俺は陛下に報告して来る、ガロの処分も陛下に委ねるしかあるまい・・・」
「ご命令とあらば、我らでヨルゲン様の無念を晴らしてまいります!」
「俺も同じ気持ちだ!しかしヨルゲンに続きお前たちまで失う訳にはいかん、自重してくれ・・・」
「はっ!」
俺は部屋を出て陛下の下へ向かった、部下にはあのように言ったが、今すぐにでもガロをこの手で殺してやりたかった。
しかしガロを脅す事は出来ても、殺す事は出来ない。
それはこの国が魔剣に頼っており、魔剣開発部はその中枢だからだ。
ガロを殺す事は、俺の処刑と、最悪部下たちも巻き込む事になりかねない、俺の処刑を聞いた部下たちが蜂起する可能性がある。
ただでさえこの国の状況は危うくなっているのに、内戦ともなれば、たちまちこの国は攻め込まれてしまうだろう。
それに今俺も死ぬ訳には行かない、パーヴェルを失った今、俺までいなくなると魔剣軍団を纏めて行けるやつがいない。
魔剣開発部もガロがいなくなれば暫く混乱するだろう、殺してやりたいほど憎いが、奴の魔剣作成の技術だけは群を抜いている。
陛下からガロにお叱りはあるだろうが、それ以上のことは無いだろう、奴らはこの国で大切に守られているからな。
その分奴らは王城内から出る事は叶わない訳だが・・・まぁ奴らの事はどうでもいい。
今後魔石を齎したミスクール帝国を注視せねばなるまい、我が国は魔剣の製造方法を持っていても、魔石の製造方法を持たない。
故にミスクール帝国に頼っていた訳だ、今回の魔石は我が国の部隊を使って実験を行ったのだから、今までの様に仲良くとはいくまい。
アンドレアルスはいかに危険性を説明するか頭を悩ませながら、陛下の下へ歩みを進めるのだった・・・。
≪ルノフェノ視点≫
ルノフェノ・ヴァン・ラノフェリア、ラノフェリア公爵家の次男として生まれたルノフェノは、二歳上の長男ネレイトと共にラノフェリア公爵家を継ぐべく英才教育を受けて来た。
父ロイジェルクは、二人を前にしてこう言った。
「二人のどちらか相応しい者を跡取りとする!」
その日から俺は必死に勉学に励み、いつも笑っているネレイトに負けじと頑張って来た。
父は公平に二人の事を見てくれていると思っていた、しかしそれは俺が十歳になった時違うのだを解からされた。
ネレイトには王族の婚約者が与えられ、俺には侯爵家の婚約者を与えられた。
俺はその事で父に抗議したが受け入れられず、ネレイトの婚約者は決まり俺はそれを断った。
それ以降父は俺に婚約者を連れてくることは無かったが、それでもまだ後を継げるのだと必死に頑張った。
その甲斐あってか、父は俺が十三歳の時二人に試験を与えた。
それは領内の資料を渡され、今後どのように発展させていくかと言う物で、期間は一か月与えられた。
資料の内容は事細かく各地の貴族の情報、産業、生産物等多岐に渡っていた。
当然その様な事は今まで勉強してきた、その上時間は十分与えられたので、俺なりに会心の出来だと思える物を作り上げる事が出来た。
一か月後、父に二人で発表する事となり、俺は先に発表をし、父から良い評価を得る事が出来た。
その後ネレイトが発表したのだが、内容はルリアを男爵家三男に嫁がせ、アイロス王国に攻め込むと言う事だった。
資料はネレイトと同じものを渡されていたから、当然その男爵家三男の事は載っていた。
魔法が使える貴族等それなりにいるから目に留まる事は無かったし、たかが魔法使いが一人増えた事で、アイロス王国に攻め込むなど馬鹿な話だと俺は笑った。
アイロス王国が戦争の準備をしている情報も添えられていたから、俺は防衛に徹し攻め込む考えは無かった。
それはこの数百年、アイロス王国とは繰り返し戦争してきたが、お互いに攻め込む事は出来ず、その度に国土は疲弊しそれを癒すために数十年要するからだ。
攻め込めないのであればそれは無駄な努力で、守って国土を豊かにする選択を俺は取ったのだ。
しかし父も同じことを考えていた様で、その事が決め手となり、正式にネレイトがラノフェリア公爵家の跡取りとなる事が決まった。
俺は悔しく思い、何時か父とネレイトが失敗する事を願う事しか出来なかった。
いつしか俺はその男爵家三男を殺したいほど憎む様になり、それを実行すべく策を練る日々となった。
暗殺者も何度か送ったが全て失敗に終わっていた。
そして、ついに男爵家三男は見事にアイロス王国を攻め滅ぼした・・・。
父とネレイトの思惑通り、男爵家三男は優れた魔法使いだった、普通の暗殺者では駄目だと思い、噂で聞いたラウニスカ王国の暗殺者に頼む事にした。
しかし俺にはラウニスカ王国と連絡する術は無く、かと言って精力的に動けば父やヴァイスに気付かれてしまう。
そうなってしまえば、この家にいる事が出来なくなり、ネレイトの失脚を待つ前に追い出されてしまう。
俺は三女のユーティアを頼ったが、話の内容を聞かせる前に断られた。
ユーティアはその母、ロゼリアが持っていた人脈があり、情報収集に長けていて味方に引き込みたかったのだが、どうやら敵になった様だ。
味方と言えば母と長女マルティナだが、この二人は口先だけで全く使い物にならない、母は常に夫に媚を売る事しか頭になく。
マルティナはエクセア、ユーティア、ルリアを見下げて、文句を言う事しか出来ない、エクセアには全く相手にされず、ユーティアも普段から誰とも話さないため無視されていた。
ルリアは表情に現れ反撃しない為、マルティナは徹底的に文句を言い続けられていた。
はっきり言って剣も魔法も使えるルリアの方が、マルティナの数倍使えるのだが、それを言っては俺に矛先が向くからな。
ラウニスカ王国の暗殺者の情報を集めて見ると、多額のお金が必要なのが分かった、その金額を俺が支払う事は可能だが、それを行えば父に気付かれてしまう。
そこで俺はポメラニア公爵に頼る事にした、密かに連絡を取り、暗殺が成功した暁には領地を分け与える事となった。
暗殺の日時はネレイトの結婚式の日、男爵家三男を殺害すると共に、ネレイトの結婚式に泥を塗る事が出来、父の勢力も奪う一石三鳥の事だ。
ラウニスカ王国の暗殺者は高額だが、失敗する事は無く、確実に殺せると言う事だったから俺は安心していた。
しかし暗殺は失敗に終わり、ポメラニア公爵が使ったであろう男爵も毒殺されていた。
俺は怒りのあまりポメラニア公爵を攻めたが、ポメラニア公爵は失敗した先も考えている様だった。
男爵家三男を使いルフトル王国に攻め込ませ、奪った後暗殺するとの事だった。
しかしそううまくは行かず、ポメラニア公爵とその配下の男爵達も男爵家三男に打ち負かされていた。
俺はポメラニア公爵に頼る事をやめ、独自でどうにか出来ないか思案したが、男爵家三男を殺す手段を見出す事は出来なかった。
こうなれば父とネレイトを始末する他無い・・・そう思い館内を調べて回ったが、前回暗殺に失敗して以降警備が厳しくなり、普通の暗殺者では到底無理だと思われた。
当然公爵家だから常日頃警備は厳しい、ルフトル王国の暗殺者ならそれでも成功すると思うが、もう頼む事は出来ないとポメラニア公爵から連絡を受けていた。
どうやらルフトル王国の戦争が激しく、こちらに回す余裕がないとの事、一度失敗している以上、俺も金を出して頼む気にはなれなかった。
暫く手段を考えていたが、自分の手を汚さない方法で成功するのは不可能に思えて来た。
食事中に斬りかかれば間違いなくやれるだろうが、それをやっては意味が無いからな。
毒殺も難しい、使用人は全員ヴァイスの管理下に置かれており、少しでも怪しい態度を取ればすぐ殺されるだろう。
それに使用人の忠誠度も高い、とてもこちらに靡く者はいないだろう。
俺は館内での暗殺を諦め、外出時出来ないか考える事にした。
しかし近頃、父は男爵家三男の魔法で移動している為暗殺は不可能に思えた。
ネレイトは父から仕事を任され館から出る事が無くなっていた。
俺は半分諦めかけていた、父からも新しく手に入った領地の管理を、やる気があるなら任せてくれると言って貰えていた、そこならネレイトの下で働かなくて済む。
ここまで手も足も出せない状態にされては、父とネレイトの事を認めざるをえまい。
俺は大人しく新しい領地で力を付ける事にした。
その事を父に伝えようとしている時に、ポメラニア公爵から連絡が入った、何と間の悪い事だと思ったが話を聞いて見る事にした。
ポメラニア公爵は男爵家三男を打ち破る魔剣を手に入れたとの事で、今度こそ殺害すると豪語していた。
俺の役割としては、父と男爵家三男が王城へ向かう日取りを教えるだけだったので引き受けた。
成功すれば男爵家三男と共に父もいなくなり、残るネレイトを排除出来れば公爵家を継ぐことが出来る。
失敗したとしても、俺が被る被害は無い、俺はポメラニア公爵の依頼を引き受けた。
父は日頃から、家族に自分の行動予定を知らせていたから簡単だった。
男爵家三男がルフトル王国での戦争報告に王城へ向かう、それに父も同行すると夕食時に家族全員に話していた、俺はその情報をポメラニア公爵に伝え、結果を待つだけとなった・・・。
≪ネレイト視点≫
私はクレメンティアとの結婚後、父上より殆どの仕事を任される事となった。
その中でもエルレイ暗殺未遂の件は、最重要課題として父上から犯人の特定を急がされていた。
日々集まって来る膨大な量の情報を精査し、その中より犯人に繋がる糸口を探し出す。
まず最初に行ったのは毒殺された男爵の事、我が領内にあり、一見経営は順調に見えていたが、男爵の女癖の悪さから、あちこちに愛人を囲い浪費していた。
その資金を得るため男爵は、ポメラニア公爵配下の貴族から、こちらの情報を流す代わりにお金を得ていた様で、今回の暗殺に利用されたのだろう。
父上も男爵の女癖の悪さは承知しており、近いうちに跡取りと交代させる予定だったようで、手間が省けたと苦笑いしていた。
次に暗殺者が所持していた客間の鍵に関してだ。
エルレイが使った客間は前日から使われておらず、当日鍵を扱った者は、執事が一人とメイドが二名の合計三名のみ。
その三名とも鍵はきちんと管理しており、誰にも渡してはおらず、ヴァイスもその三名に関して問題は無いとお墨付きをくれた。
と言う事は以前より用意されていた可能性が高く、しかも鍵を扱える人物となると限られてくる。
使用人に関していえば全員が用意できる立場にある、それを調べるのはヴァイスに任せ、俺は家族に付いて調べる事にした。
父上が行った可能性は限りなく低いだろう、今エルレイを失う事で得られる事は無く、逆に失う事の方が大きかった、それは私も同じで、エルレイを失ってはせっかく手に入れたアイロス王国を手放す事になりかねない。
母もルリアの婚約者を殺害する理由は無いだろう。
エーゼル、ロゼリアも、特にエルレイを殺害する動機は無いように思う。
マルティナ、エクセア、ルリアの三名は除外していいだろう、彼女達には暗殺者を雇うだけの資金も人脈も無い。
ルノフェノはエルレイの事をあまり良く思っていない様だが、私の暗殺を企むなら分かるが、エルレイを狙う理由が見当たらない、それにルノフェノが持つ資金も減ってはいない様だ。
ユーティアは良く分からない、彼女は母から受け継いだ人脈と情報収集源を持っていて、実行しようと思えば簡単に出来てしまうだろう。
出来るからと言って、ユーティアがエルレイの暗殺を行って得る物が無いように思える。
とまぁ、家族内に犯人はいないと私は結論付け、使用人はどうだったのかヴァイスに尋ねた。
ヴァイスが言うには使用人に怪しい者はいなかったとの事。
鍵を渡したのが誰か分からなくなってしまった・・・。
私はその後も情報を集め、犯人に辿り着こうと必死に調べたが、全て徒労に終わった。
暫くしてヴァイスの息子のアドルフから、エルレイを暗殺しようとしていた者を、エルレイが捕らえたと連絡が入った。
やはり、男爵が直接雇った訳では無い事が判明し、私は鍵を何時誰から渡されたのかを聞いた。
帰ってきた答えは、男爵からこの館の部屋で渡されたとの事だった。
つまり男爵に誰かが事前に鍵を渡していた事になる、流石にこの館で男爵に接触し、直接渡す様な事はしないだろうからな。
しかし、その情報だけで誰が男爵に鍵を渡したのかは分かるはずも無かった。
私は途方に暮れていると、ヴァイスからおかしな事を言われた。
何でも最近ルノフェノに恋文が届いているとの事だった、ルノフェノは父から与えられた婚約者を断って以来、誰とも婚約も付き合いもしていなかったから、それ自体はとても喜ばしい事だ。
しかしヴァイスがその事をわざわざ私に言うはずも無く、あえてその事を言ったと言う事は、ルノフェノが関わっているという事なのだろうか?
私はすぐさま恋文を送ってくる相手の事を調べた、ポメラニア公爵配下の伯爵の次女で、歳は十二歳、まだ婚約者はいなかったが、ルノフェノの相手としては若干身分が劣る。
それでも第二、第三夫人としてなら問題は無く、二人が好き合っているのなら誰も異を唱える者などいない。
ルノフェノも度々会いに行っている様で私からは問題が無いように思えた。
付き合い始めた時期は私の結婚前だが、私もルノフェノも頻繁にパーティに呼ばれていて、他の貴族の娘と知り合う機会はいくらでもあり、その中の一人と付き合った所で誰も不思議に思うことは無い。
多少危険とお金は掛かるが、さらに詳しく調べて貰った。
するとルノフェノはその貴族の屋敷に入ると別の馬車に乗り換えどこかに行っているとの事、流石に行先まで調べる事は出来なかったが、次ルノフェノが行動する時は尾行させる事にした。
父上いつもの様に自分の行動予定を食事時に家族に伝える、それは私が子供頃よりずっと続けられていて、何ら不思議に思うことは無かった。
しかし、父上より仕事を任せられるようになって、その事の意味を知った、父上は家族をも信じてはいなかったのだ、いや、信じたかったからかも知れない・・・。
父上がエルレイと共に王城へ向かう事が知らされた翌日、ルノフェノは外出し、例の伯爵の次女の所へ向かった。
ルノフェノが伯爵家に入り、暫くして別の馬車が伯爵家から出て来て、それはポメラニア公爵邸へと向かって行ったと報告が入る。
これまでの事件はルノフェノが情報を流し、ポメラニア公爵が配下を使って実行していた訳だ・・・。
その事を父上に話すと、すでに父上は理解していた様で、随分と時間が掛ったなと怒られてしまった・・・。
父上はこの事で私を試し、家督を譲る判断をしていたそうで、まだまだ早いなと言われてしまった。
自分でもそう思い、さらに努力しなければと思った・・・。
≪エルレイ視点≫
王城へ向かうためロイジェルク様の館に一人で転移してきた、普段ならリゼを連れて来るのだが、王城に連れて行っても謁見室には入れず、待たせてしまうから置いて来た。
王城で襲われることは無いし、リゼも納得してくれた。
ベルを鳴らし暫くすると、ヴァイスさんとロイジェルク様が迎えてくれた。
「エルレイ君よく来てくれた、早速だが王都へ向かおう」
「分かりました、ロイジェルク様手を握ってください」
ロイジェルク様も転移には慣れたもので、俺が差し出して手を握り王都の別邸へとやって来た。
俺とロイジェルク様はすぐに館を出て馬車に乗り込んだ。
「エルレイ君、申し訳ないが戦う準備をしていてくれ」
ロイジェルク様はいきなり物騒な事を言って来た。
「ロイジェルク様、王城に向かうのでは無かったのですか?」
「実は、陛下に謁見する日取りは明日なのだよ」
つまり今日はロイジェルク様の思惑があり、しかも戦闘になるという事ですか・・・。
「分かりました、それで敵は誰なのですか?」
「それはもうすぐわかるだろう」
ロイジェルク様は笑ってそう答えた。
「マスター、来た様だぜ」
グールがそう言ったと同時に馬車が止まり、数人の武装した敵に囲まれてしまっていた。
「ロイジェルク様は馬車から出ないようお願いします」
「うむ、エルレイ君、頼んだよ」
ロイジェルク様は笑顔で送り出してくれた、もっと早く言ってくれればリゼも連れてこられたのに・・・。
俺はそう思いながら馬車を出てると、御者台から執事さんも降りて来て剣を抜き、馬車の扉の前に立ちふさがった。
「エルレイ様、ここは私が守りますので、敵の排除をお願いいたします」
「分かりました」
俺は懐よりナイフのグールを取り出し、剣に変形させて構えた、執事さんはただならぬ雰囲気が醸し出されている、どうやら執事さんの心配をする必要は無さそうだ。
『グール、ここは貴族街で魔法が使えないから頼むぞ』
『やっと俺様の出番だな!!張り切っていくぜ!!』
グールの掛け声と共に近くにいる敵に斬りかかる、敵は俺が斬りかかって来た事に一瞬躊躇いを見せたが、冷静に斬り返して来た。
どうやら簡単に倒れてくれそうには無い様だ、一人の相手をしていると横から他の敵から斬りかかられる。
かろうじてそれを躱し、囲まれない様注意を払いながら馬車から距離を離して行く。
ある程度離れた所で、俺をコの字で囲う様にストーンウォールを張り巡らせた、これで一対一の戦闘が出来る。
敵はストーンウォールの出現に驚いたが、すぐさま勢いをつけて俺に斬りかかって来た。
「ギンッ!!」
俺はそれをグールで受け流し、敵の体制が崩れた所を横から斬りつけた、軽い手ごたえだったが、斬り付けられた敵は倒れて動かなくなった。
『ハッハッー!まずは一人目!!』
『グール、どういう事だ?今のはそんなに深く斬り付けられなかったが・・・』
『マスター、俺様の能力を忘れたのか?魔力を吸収する事が出来るんだぜ!!』
『つまり、相手に傷を付ける事が出来れば、そこから魔力を吸い出せると?』
『おうよ!俺様凄いだろ!!』
確かに凄いが、ここで褒めると調子に乗りそうだから褒めない事にしよう。
『便利だと思うが、魔法の方が楽でいいな』
『マジかよ!でもほら、次の敵も来たぜ!!』
グールの言葉通り、次の敵が俺に剣を振りかぶって来ていた、大振りだったため軽く躱して、グールで振り切って伸びた腕を軽く斬り付けた。
グールに斬り付けられた敵は魔力を吸われ、またもや倒れて動かなくなった。
『二人目!マスター、どんどん行こうぜ!!』
これは非常に楽だな・・・俺が魔法を使えなければ、かなり重宝する魔剣だろう、でも魔法が使えないと魔力が無くてグールを使えないな。
うーむ、吸魔石を破壊するための魔剣だという事だな・・・。
それからもストーンウォールの狭い路地に次々と敵が入って来たが、グールで魔力を吸って倒して行った。
もうそろそろ終わりかと思えていた時、突如ストーンウォールが消されてしまった。
『マスター、どうやら例の魔剣の様だぜ!』
もうこの国まであの魔剣が入って来ていたのか!俺は魔剣を持つ敵を注視した。
「魔法使いだって聞いてたが、剣の腕も立派じゃねぇか!」
魔剣を持つ敵はニヤニヤと笑いながら俺に話しかけて来た。
「確かに魔法使いだが、この場で魔法を使う訳には行かないだろう?」
「もう周りに誰もいねえ、遠慮せず俺に魔法を撃ってこいよ、それとも怖くて使えないのか?」
魔剣を持った敵は安っぽいセリフで俺を挑発してきた、まぁ、その魔剣は魔法を吸収しないと使えないから当然の事だな。
しかしその魔剣は魔力を貯めすぎると、魔剣の所有者を魔物にしてしまう危険な物だ、俺も魔法を撃つ訳には行かない。
しかし対策はしてある、収納より弾の入った袋を出し、袋の中から弾を数個取り出した。
「お望み通り魔法を使ってやるよ!」
魔剣を持った敵に向け弾を次々と撃ち出ていった。
「ごふっ、がはっ、がっ!」
敵は魔法が吸収されるだろうと思い、余裕で立っていた所に、弾が吸収される事無く次々と当たって行き、敵はその衝撃に耐えかね倒れた。
『グール、あの魔剣を壊すにはどうしたらいい?』
『俺様を魔石に突き立てればいいぜ!』
『分かった』
俺は倒れている敵の体にグールを軽く突き刺して魔力を吸収させてから、魔剣にグールを突き立てた。
すると魔剣は砕け散り、グールに吸収されていった。
馬車に戻ると、執事さんの周りに斬り捨てられた数人の敵が転がっていた・・・。
「怪我はありませんか?」
「エルレイ様、私は無傷です、お気遣いありがとうございます」
執事さんはそう言って軽く一礼をし御者台へ戻って行った、流石ロイジェルク様に仕える執事だな、戦闘も問題なくこなせる様だ。
俺は馬車に乗り込み、ロイジェルク様に戦闘が終わった事を告げる。
「ロイジェルク様、無事終わりました」
「うむ、お見事だった」
「それで、この賊はいかが致しますか?」
「そのうち兵士が来て連れて行くだろうからそのままで構わない、それより館に戻ってくれないだろうか?」
「ロイジェルク様の本邸でしょうか?」
「うむ、それと向こうに着いたらルノフェノを拘束してくれ」
「よろしいのでしょうか?」
ルノフェノ様と言えばラノフェリア家の次男、それを俺が拘束していいはずがない。
「構わない、今回の件に絡んでいるからな」
なるほど、それなら遠慮する必要は無いな、今回俺は襲われた被害者だ。
「分かりました、では転移します」
ロイジェルク様の手を取り、いつもの部屋に転移した、するとそこにはラノフェリア家全員揃っていた。
「エルレイ君頼む」
ロイジェルク様が俺に目配せをして来た、それを受けルノフェノ様を拘束させて貰った。
「何をする!!」
突然拘束されたルノフェノ様は拘束を解こうと暴れたが、それは叶わず均衡を崩して倒れてしまった。
「ルノフェノ、何故拘束されたのか分からないのか?」
「くっ!」
ルノフェノ様はロイジェルク様にそう言われると、心当たりがあるのか顔を歪めていた。
「お前はトラウゴットのやつを上手く使ったつもりかも知れんが、お前の方が使われてるぞ」
「・・・・・・」
ルノフェノ様は答えない。
「ロイジェルク様、敵が攻めて来たようです」
ヴァイスさんが慌てて部屋に入って来てそう告げた。
「うむ、ルノフェノよ、トラウゴットのやつは王都で私とエルレイ君を殺害し、その隙をついてここにいる一家全員殺害するつもりだったのだぞ!」
「そんな・・・」
なるほど、ロイジェルク様は事前にその事を知っていて、皆を安全なこの場所に移しておいたわけか、この部屋は窓も無く鍵も掛かり扉も鉄製だからな、そう簡単に破られないだろう。
「ではエルレイ君、行こうか!」
「私一人で構いませんが?」
「エルレイ君、ここは私の家だ、私が守らなくて誰が守ると言うのだ?」
「そうですね、失礼しました、ロイジェルク様お供させて頂きます」
「うむ、参ろう」
ロイジェルク様は特に格好つけている訳では無いのだろうが、貫禄があり、とても格好よく見える。
俺はロイジェルク様に続き部屋を出ると、同じく部屋を出てきたヴァイスさんが扉を閉め鍵をかけた。
玄関へ出ると執事達が整列しており皆帯剣していた、一人の執事が剣を両手で掲げてロイジェルク様の下へ持って来た。
ロイジェルク様はそれを受け取り腰に下げ、鞘から剣を抜き頭上に掲げた。
「賊が我が家に攻め込んで来ている、私に喧嘩を売った愚か者共を地獄に叩きこんでやれ!!」
「「「畏まりました」」」
執事が一斉にお辞儀をした、そこは普通おぉー!とか言って剣を突き上げる所じゃないだろうか、執事だからそう言うのが正しいのだろうけどなんか締まらないな。
そうしている内に、敵部隊が正面玄関に向け進軍して来ていた、部隊と言ったが五十名ほどだろう、こちらは執事が二十名ほど・・・。
正直厳しいだろうと思い、俺が魔法で一掃しようかと思った。
「エルレイ君、ここで私と戦況を見ている事にしよう」
「よろしいのですか?」
「うむ、あのような者に後れを取る執事達では無いからな」
ロイジェルク様は腕を組み、戦闘が始まろうとしている所をじっと見つめていた、ロイジェルク様がそう言うのだから俺はいつでも援護に行ける様気を付けながら見学する事にした。
敵部隊は傭兵を集めた様で、かなり強そうに見えた、しかしヴァイスさんをはじめとする執事達は、とてつもなく強かった。
警備隊の訓練でトリステンとも戦う様になったが、ヴァイスさん達の動きはそれを超える物で、最初こそ数で押されていたが徐々に押し返し敵を圧倒してしまった。
「凄い」
「うむ、私に仕える執事だからあのくらい出来て貰わねば困る」
ロイジェルク様はそう言うが、あのレベルの兵士を集めるのはかなり無理だと思う・・・。
やがてヴァイスさん率いる執事達は、ロイジェルク様の下に戻ってきて整列し一礼した。
「ロイジェルク様、制圧完了いたしました」
「うむ、見事であった」
「怪我人がいらしたら治療致しますが?」
俺がヴァイスさんにそう言うと、彼は首を横に振った。
「御心配ありがとうございます、しかしこの程度で怪我をするような者はおりませんので、ご安心ください」
この程度って、結構激しい戦闘だったと思うのだが・・・後ろに控えている執事達を見ても、確かに怪我をしている様な人はいないように見えた。
俺はここに付いて来る必要無かった様だな・・・。
もしかしてアドルフ達もこの様に強かったりするのだろうか?帰ったら聞いてみよう。
「エルレイ君、戻ろうか」
「はい」
館に入り廊下をロイジェルク様とヴァイスさんの三人で奥の部屋に向かう。
「ロイジェルク様、私を襲わせたのもルノフェノ様だったのでしょうか?」
「うむ、エルレイ君、申し訳なかった」
「いえ、もうその事は気にしていないのですが、ルノフェノ様に恨みを買うような覚えが無いのですが・・・」
俺がそう言うとロイジェルク様も悩んでいた。
「その事は私にも分からない、本人に聞いて見るしか無いな」
「そうですね」
となると、その事を知らせてくれたユーティア様は、事前にルノフェノ様が俺を狙っていた事を知っていたという事だな、しかし家族を売るような真似はしたくなかったのだろうから、狙われている事しか伝えなかったのかな。
それとユーティア様には何かお礼をしないといけないな、しかし今持っている物で何か良い物は無いだろうか・・・。
収納している中身を確認する、ロレーナの為にベッドを出しておかなければよかったな・・・。
中身を見て一つ良い物を発見した、しかし許可を取らないと駄目か・・・。
『アドルフ、少しいいか?』
『エルレイ様、何か御用でしょうか?』
『この前暗殺者に狙われた時、情報を事前に教えてくれたのがユーティア様で、お礼に魔法書を渡したいのだがいいだろうか?』
『魔法書をですか・・・分かりました、ユーティア様なら不用意に扱うことは無いでしょう』
『アドルフありがとう、他にお礼に適した物を持っていなくてな』
『しかし、ユーティア様に贈る物で喜ばれそうな物を私には思いつきません』
『そうか、俺も思いつかないよ、なんせ話した事無いからな・・・』
『私もです』
どうやらユーティア様はルリアが言ったように、自室でしか話さないのだろう。
そうしている内に奥の鉄の扉の部屋の前に着き、ヴァイスさんが鍵を開け扉を開いた。
「皆待たせたな、賊は排除した、安心するといい」
ロイジェルク様がそう言うと皆安堵の表情を浮かべていた。
「エルレイ君、ルノフェノの拘束を解いてやってくれ」
「分かりました」
ルノフェノ様は俺が拘束して倒れたままだった、意外と誰も助けなかった事に驚いたが、ロイジェルク様の命令は絶対だと言う事は分かったな。
俺がルノフェノ様の拘束を解くと、ルノフェノ様はゆっくりと立ち上がり、ロイジェルク様の下に向かい頭を下げた。
「父上、申し訳ありませんでした」
「ルノフェノ、謝る相手が違うぞ」
ロイジェルク様はそう言って俺の方を見た、ルノフェノ様はこちらを見て再び頭を下げた。
「男爵さ・・・いや失礼、エルレイ侯爵、すまなかった」
今男爵三男って言おうとしたのか?まぁ元は男爵三男だったから、ルノフェノ様の中ではそうなのだろう・・・。
「私はもうその事は気にしていません、私は男爵三男から伸上った訳ですから、妬む人は多いでしょうからね」
「エルレイ君、場所を移そう」
「はい」
ロイジェルク様と家族全員で食堂へと移動し席に着いた。
給仕が素早くお茶とお菓子を皆の前に配膳し、それを頂き一息ついた。
「さて、ルノフェノ、どうしてエルレイ君を狙ったのだ?」
ロイジェルク様は厳しい口調でルノフェノ様を問い詰めた、俺としてもどうして狙われたのか理由は知っておきたかった。
「・・・はい、エルレイ侯爵が父上とネレイトの予想通りになって行くのが気に入らなかった、ただそれだけです・・・」
ルノフェノ様はゆっくりと、そして落ち着いた口調でそう述べた、薄々は気が付いていたけど、やはりルリアを婚約者にする前からアイロス王国攻略までを見据えていた訳ですね・・・恐るべしラノフェリア家!
「そうでしたか、納得は出来ませんがこの事はもう気にしない事にします、ロイジェルク様も言っていた様に貴族は命を狙われる物でしょうからね」
俺は笑ってそう言った、しかしロイジェルク様は真剣な表情で俺に謝って来た。
「エルレイ君、本当に申し訳なかった、本来であれば私の手でルノフェノを処罰しないといけないが、エルレイ君に任せる、この場で殺してくれても構わない」
周りの皆はロイジェルク様の言葉に驚いていたが、誰も異を唱えることは無かった、ルノフェノ様もそれを受け入れている様だ。
しかし俺に処罰を任せると言われても殺す訳には行かない、腹違いではあるがルリアの兄である事には変わり無い。
それにルノフェノ様の母であるエーゼルさんが、俺に祈るような目で見つめて来ている、下手に処罰すると今後ラノフェリア家と良好な関係は築けないだろう。
「ロイジェルク様、先程も申した通り私はもう気にしておりませんので、ルノフェノ様に対する処罰は必要ありません、私は家族を大事に致します、今回狙われたのが私の家族だったのなら一切容赦しませんでしたが、そうでは無かったですからね」
「エルレイ侯爵・・・ありがとう」
俺の言葉が意外だったのか、ルノフェノ様は少し驚いた様子だったが、すぐに真剣な表情に戻り礼を言って頭を下げた。
エーゼル様を含む他の皆も安堵の表情を浮かべている。
「エルレイ君、本当にいいのかね?」
「はい、ルノフェノ様はルリアとリリーの兄です、私の手で処罰出来るはずが御座いません」
「そうか・・・ルノフェノ、エルレイ君が家族思いでよかったな」
「はい、ありがとうございます」
「さて、少し早いが、皆集まっているので昼食にしよう」
ロイジェルク様は沈んでいる雰囲気を和まそうと昼食ににした。
給仕は慌てる事無くテーブルに料理を並べて行く。
「ロイジェルク様、食事前に一つよろしいでしょうか?」
「エルレイ君、何だね?」
「はい、以前ユーティア様に助けて頂いたお礼をしたいと思いまして」
「ユーティア、エルレイ君を助けたのかね?」
ユーティア様はしばらく考え沈黙していたが、ゆっくりと頷いた。
「そうか、それでエルレイ君、ユーティアはどの様に助けてくれたのだ?」
言っていい事なのか分からなかったので、ユーティア様の方を見て確認すると、ユーティア様は頷いてくれたので話していいのだろう。
「ネレイト様の結婚式の際に、私が狙われている事を知らせてくれたのです、それで事前に準備出来ていたので、ラウニスカ王国の暗殺者にも対応する事が出来ました」
それを聞いて皆驚いていた、それはそうだろう、ロイジェルク様でさえ気が付いて無かった情報をユーティア様が知っていたのだから。
ユーティア様は皆の視線が集まり恥ずかしそうに下を向いていた。
「そうであったか・・・ネレイト、ユーティアが男だったら間違いなくこの家を継がせていたぞ」
ネレイト様はそれを聞いても笑顔だった。
「そうですね、今からでもユーティアがラノフェリア家を継いで、私がその手伝いをするのでも構いません」
「そうだな、しかし残念な事にそれは叶わぬ事、ユーティアすまないな」
ロイジェルク様がユーティア様に謝罪していたが、ユーティア様は必死に首を横に振っていた。
「それで、ユーティア様には感謝の印としてこの本を差し上げます」
俺は収納より魔法書を取り出しユーティア様に差し出した、ユーティア様はそれを受け取り魔法書を開いて中を少し読み、驚きの表情を浮かべていた。
「エルレイ、もしかしてそれは例の魔法書か?!」
ネレイト様が驚きの表情で俺に問い詰めて来た、しかし例の魔法書とは?俺はこの魔法書を公にはしていない、何処から情報を集めたのだろうか。
「ネレイト様、例の魔法書とは何でしょうか?」
「あっ、いや・・・エルレイそれは・・・」
ネレイト様は自分が失言した事に気付き慌てていた。
「ネレイト様が何処から情報を仕入れたか聞きませんが、その魔法書ですよ」
俺はにっこり微笑んでネレイト様に答えた。
「エルレイ、私にもその魔法書を貰えないだろうか?」
「ネレイト様、残念ですが私が持っていた魔法書は一冊のみです、読みたければユーティア様にお願いしてください」
俺がそう言うとユーティア様はパタンと魔法書を閉じ、渡さないとばかりに胸に抱きしめていた。
「エルレイ、どうやらユーティアは私に読ませてはくれない様だ・・・」
「その様ですね」
ネレイト様はがっくりと肩を落としていた、誰でも魔法が使える様になる魔法書だからな、ネレイト様なら喉から手が出るほど欲しいはずだ。
ネレイト様にはユーティア様のご機嫌取りに頑張って貰う事にしよう、それとアベルティア様に頼まれていたベッドが遅れている件を伝えておかないといけないな。
「アベルティア様、ベッドの件ですが、今職人に作らせておりますのでもうしばらくお待ちください」
「エルレイ君、分かりました、楽しみに待っていますね」
アベルティア様は優しい笑みを浮かべていた、ベッドが届いたらすぐ持って来ないといけないな。
そうしている内に食事の準備が整っていた。
「では頂こう」
「「「頂きます」」」
食事は終始和やかな雰囲気で行われ、ルノフェノ様も笑顔を取り戻していた。
食事を終え午後は何も予定が無いからリアネ城へ戻ろうかと考えていたら、後ろから袖を引かれた。
振り返るとそこにはユーティア様が立っており、ユーティア様は俺の袖を引っ張って歩き出した。
俺は引かれるままにユーティア様に付いて行き、結局ユーティア様の部屋まで連れていかれる事になった。
ユーティア様の部屋はルリアの部屋とは違い、とても女の子らしく可愛い部屋だった。
「そこに座って」
俺はユーティア様に言われるがままソファーへと座った。
するとお付きのメイドだろう、ユーティア様と俺の前にお茶を置いて去って行った。
「エルレイ、この魔法書本当に貰っていいの?」
「えぇ、構いませんよ、ユーティア様に助けて頂いたお礼ですからね、本来であればもっとユーティア様に合った可愛らしい物を贈れればよかったのですが、生憎手持ちにありませんでしたので申し訳ありません」
「そう言う物はお父様からいっぱい貰えるから要らない、でもこの魔法書に書いてあることが本当だとすると大変な事になるわよ」
「ユーティア様がのおっしゃる通り大変な事になるでしょう、しかし私は皆が魔法を使える様なって欲しいと思っています、その為に書いた魔法書ですし、今後私の領内で魔法を教える場所を作る予定です」
「・・・そう」
ユーティア様はしばらく考え込んでしまった、しかしルリアの言う通り、この部屋ではユーティア様は普通に話すのだな・・・。
「エルレイ、この本に書かれている通り私にも魔法が使える様になる?」
「えぇ、なりますよ、今から試してみますか?」
ユーティア様はまた考え込んでから答えを出した。
「エルレイ、教えて頂戴」
「分かりました、ここでは危険ですので場所を変えましょう、そうだ!折角ですから私の領地へ来ませんか?」
「いいの?」
「構いませんよ、ルリアとリリーもいますしね」
「お願いするわ、エルザ!」
「お嬢様、お呼びでしょうか?」
ユーティア様がメイドの名を呼ぶと、さっとユーティア様の下へ駆けつけて来た。
「エルレイの領地まで出かけてきます、夕食前には戻るので後の事はよろしく」
「ユーティア様、出来れば私もお連れ下さい」
「エルレイ、構わないかしら?」
「勿論構いません、エルザさんもユーティア様をお一人で向かわせる訳には行かないでしょうからね」
「ありがとう」
『リリー、今訓練所にいるのだろうか?』
『エルレイさん、そうです、皆もいますよ』
『分かった、今からそちらに向かう、ルリアを呼んで置いて貰えないだろうか?』
『分かりました』
「ではユーティア様、エルザさん、私の手を取ってください」
俺はソファーから立ち上がって二人に手を差し伸べた、二人はゆっくり俺の手を握ってくれた。
「今からリアネ城の訓練場に転移します、手をしっかり握っていてくださいね」
「分かったわ」
「承知しました」
二人に確認を取ってからリアネ城の訓練場へ転移した。
リリーとルリアがこちらに気付き、近寄ってきてくれた。
「エルレイさん、お帰りなさい」
「ユーティアじゃない、それとエルザもいらっしゃい」
「・・・(コクン)」
「ルリア様、お久しぶりです」
ユーティア様はやはり外では話さない様で、ルリアを見て頷いただけだった。
「エルレイ、ユーティアをここに連れて来てどうするつもりかしら?」
エルレイは今にも殴り掛からんばかりの勢いで俺を問い詰めて来た。
「ルリア、ユーティア様にはこの前助けて貰ったから、そのお礼に魔法を教えてあげる事になって、ここに連れて来たんだよ」
「そうなのね」
「あぁ、だからルリアとリリーで教えてやって貰えないだろうか?」
「分かったわ、ユーティア、こちらに来て頂戴、立っていると危ないから座ってやるわよ」
ルリアがユーティア様の手を引いてベンチへと連れて行った、リリーとエルザさんもそれについて行った。
俺はこれ以上ユーティア様に関わるとルリアに殴られる恐れがあるから、別の事をする事にした。
『ルリア、アドルフに報告に行って来るから、ユーティア様の事よろしく頼む』
『分かったわ』
俺はルリア達の下を離れ、執務室へと向い室内に入り自分の席に座った。
「エルレイ様、お帰りなさいませ、今日はお早いお帰りですね」
「アドルフ、ただいま、陛下への謁見は明日だった、今日はロイジェルク様が俺とラノフェリア家の騒動を収めるため罠を張っていた様で、王都とラノフェリア家で敵に襲われたよ・・・」
アドルフは一瞬目を見開き驚いたが、直ぐに表情を戻していた。
「それで、犯人はお分かりになったのでしょうか?」
「あぁ、俺に暗殺者を差し向けたのはルノフェノ様だった、暗殺者を雇ったのはポメラニア公爵の様だが、詳しい事は分からない、ロイジェルク様がどうにかするのだろう・・・」
「左様でございましたか、それでルノフェノ様はどの様な処罰を受けたのでしょうか?」
「ロイジェルク様が俺に任せてくれたので、特に処罰はしなかったよ」
「・・・そうですか、エルレイ様が温情を掛けたのが意外でしたが、ラノフェリア家と今後も付き合って行く上では良い判断だったのでしょう」
「まぁそうだな・・・家族が狙われたのなら容赦しないが、幸い俺だったからな、また狙われてもやり返すだけだ」
「エルレイ様らしいですね、狙われるのを止める事は出来ませんが、城内の警備はより一層厳しくして参ります」
アドルフは一瞬笑ってから真剣な表情でそう言って来た。
「ところで今日、ラノフェリア邸に攻め込んで来た敵をヴァイスさん達執事が斬り伏せていたのだけど、アドルフ達も剣の腕が凄かったりするのだろうか?」
「いえ、私達はまだまだ未熟で父たちの足元にも及びません、しかし日々の訓練は欠かしておりませんので、いつしか父を超えられるよう努力いたします」
日々訓練しているって、アドルフ達はいつもこの執務室か城内にいるよね・・・。
「アドルフはいつ訓練しているのだ?」
「朝と夜です、それがどうか致しましたでしょうか?」
「いや、あまり無理はしないようにな・・・」
「はい、体には気を付けておりますし、幼い頃より続けて来た事ですので慣れております」
幼い頃より続けているとは、執事とは思った以上に大変なのだな・・・。
「そうか・・・使用人の人数はいつでも増やしていいからな」
「はい、ありがとうございます、使用人についてですが近々増やす予定にしております」
「それは良かった、俺が無理を言っているせいで皆の仕事が増えているからな、これからも必要な増員は行ってくれ」
「畏まりました」
「今日はロイジェルク様の所にお世話になる予定で、明日陛下に拝謁した後戻ってくる」
「承知しました」
アドルフに連絡を終えた俺は訓練場に戻って来た、しかしその場にルリア達の姿は無かった。
『ルリア、何処に行ったんだ?』
『エルレイ、今部屋に戻ってきているわ』
『分かった、俺もそっちに行って構わないだろうか?』
『構わないわよ』
俺は歩いて自室に戻った、ユーティア様がいるからいきなり転移で部屋に戻る訳には行かないだろう。
部屋に入るとルリア、リリー、ユーティア様はソファーで寛いでいる所だった、エルザさんは後ろに控えていた、座って貰って構わないのだが、他所のメイドにまで俺のやり方を押し付ける必要は無いか・・・。
「ただいま」
「エルレイ、お帰り」
「エルレイさん、お帰りなさい」
「・・・・・・」
ユーティア様は相変わらず無口だ。
「ユーティア様は魔法を使えたのだろうか?」
「えぇ、問題無かったわ、そもそも誰にでも魔法が使える様に書いた魔法書でしょ?」
「まぁそうなんだが、もしかしたらそうで無い人もいるかも知れないと思ってね」
多分その様なことは無いと思う、この世界の生物は少なからず魔力を持っているが、絶対とは言い切れないからな。
ユーティア様も頷いているから上手く行ったのだろう、後は魔法書の通り毎日魔法の訓練をやって貰えれば上達していくはずだ。
俺はルリアとリリーに今日の出来事を説明した。
「ルノフェノ兄さんが・・・」
ルリアはルノフェノ様が俺を狙っていた事に衝撃を受けている様だった。
俺も食事位しか共にしたことが無いルノフェノ様から命を狙われていたなんて思っても見なかった事だからな。
「ルノフェノ様も反省していたし、もう二度と同じ事は繰り返さないだろう」
「そうね、ルノフェノ兄さんは口は悪いですが、頭は悪くないですからね」
「(コクン)」
ルリアの言葉にユーティア様も頷いていた、その事より王都で襲われた時、魔剣があった事の方が問題だ。
魔剣の問題は陛下とロイジェルク様に明日話して任せる事にしよう、目の前にある物に対して対応出来るが、王国全体となると俺には無理だ。
「ユーティア様、そろそろ戻りましょうか?」
「(コクン}」
ユーティア様は頷いてくれた。
「ルリア、リリー、行って来る、ロイジェルク様とまだ話さないといけない事があるから明日帰って来るよ」
「分かったわ」
「エルレイさん、行ってらっしゃい」
俺はユーティア様とエルザさんの手を取り転移しようとして重い留まった・・・。
このままユーティア様の部屋に転移していいのだろうか?いつもの鍵のかかった部屋に転移しないと駄目だろうか・・・。
「ユーティア様の部屋に直接転移してもよろしいでしょうか?」
「(コクン}」
ユーティア様が頷いてくれたので、ユーティア様の部屋に転移した。
「エルレイ、ありがとう」
ユーティア様がにこやかに微笑んでお礼を言ってくれた。
「いえ、ユーティア様に助けて頂いたお礼ですのでお気になさらず、魔法の訓練は毎日続けてくださいね」
「分かった」
「では、私はこれで失礼します」
「さようなら」
ユーティア様の部屋を出て一階に降りようと館を彷徨う、近くに使用人がいれば助かるのだが見当たらない・・・。
廊下を歩いていると向こうからマルティナ様がやって来て、俺の事を確認すると振り返り、逃げる様に立ち去って行ってしまった・・・。
マルティナ様は以前ルリアに文句言って来た時俺が敵だと言ったからな・・・ルリアに謝って貰えれば俺は特に思うことは無いのだが、彼女の性格ではそれは難しいのだろうか。
廊下をそのまま歩き降りる階段を見付けて一階に降り、そこでようやく執事を見つける事が出来た。
「すみません、ロイジェルク様と話をしたいのですが?」
「承知しました、こちらへおいで下さい」
執事に案内されいつもの応接室へ通された。
「しばらくお待ちください」
ソファーに座り、しばらく待っているとロイジェルク様が部屋に入って来た、俺は立ち上がり挨拶をする。
「ロイジェルク様、急に呼び立てて申し訳ありません」
「いや構わない、明日の事で話しておかなければいけないからな」
ロイジェルク様がソファーへ座り、俺も着席するとメイドがお茶を用意してくれた。
「エルレイ君、話は大方聞いている、人を魔物に変える魔剣だったね」
「はい、正確には千五百年前、英雄クロームウェルがグールを使い、この大陸から排除した吸魔石と呼ばれる物を使用した魔石です」
「それはつまり、吸魔石がこの大陸に存在し、それを人の手によって魔石へと作り変えられているという事だね?」
「その通りです、そしてその魔剣は先程王都で襲われた際にも使用されておりました」
ロイジェルク様は目を見開き驚いていた、それはそうだろう、人を魔物に変える物がこの国にも入っていたとなると大変な事態だ。
「今は魔剣ですからそこまで警戒する必要はありませんが、これが魔導具、もしくは吸魔石そのものをこの王国に持ち込まれると大変な騒ぎになります」
「うむ、そうだな、それで魔剣はどうしたのだ?」
「グールを使い破壊しました、今後そのような物を発見した場合、連絡いただければ破壊に向かいます」
「よろしく頼む、それで管理はどのようにしたらいいのだろうか?」
「そうですね、魔石の場合、魔力を吸わせない限り安全だとは思いますが確実ではありませんので、不用意に触れたり近づいたりしない方がよろしいかと思います、吸魔石そのものの場合は絶対に近づかないで下さい」
「うむ、分かった」
「王国内の対応はその様な感じでお願いします、それとは別にロイジェルク様にお願いがございます」
「うむ、魔石の出所を調べればいいのだな?」
ロイジェルク様はにやりと笑い俺を見て来た、ロイジェルク様には俺の考えなどお見通しな訳だ。
「その通りです、よろしくお願いします」
「うむ、ところで先程ユーティア渡していた魔法書を使えば誰でも魔法が使える様になるとは本当かね?」
「はい、今のところ魔法を使えなかった人はおりません」
「そうか!」
ロイジェルク様は自分も魔法が使えるのではないかとにこやかに笑っていた、こういう所はネレイト様の父なのだと思う。
「魔法書はユーティア様に渡した分しかございませんので、ユーティア様にお願いしてください」
「うむ、心得ておる、ユーティアに何かねだられるかも知れんがな」
ロイジェルク様は笑っていた、娘にねだられるのは父親として喜ばしい事だろう。
俺も娘が出来たら何でも買ってやるかも知れない・・・。
「エルレイ君、今日は泊って行ってくれ、明日は陛下に会いに行かねばならんからな」
「はい、ありがとうございます」
そう言うとロイジェルク様は部屋を出て行かれた、俺もメイドに連れられ客間に案内された。
その後の夕食時は終始和やかな雰囲気で、ルノフェノ様も俺に話しかけてくれた。
翌日ロイジェルク様と共に王都を昨日と同じ様に馬車で進んでいた、昨日本当に襲われたのだろうかと疑いたくなるように、何事も無く王城へ辿り着いた。
控室で暫く待たされた後、ロイジェルク様と共に謁見室へ赴いた。
「エルレイ、ルフトル王国では大変だった様だな」
「はい、敵は魔法を吸収する魔剣を用いておりました、しかしそれは人を魔物に帰る危険な代物で、それは昨日ロイジェルク様と共に城下で何者かに襲撃された際にも使われておりました」
周囲がざわめく、魔物と聞いて驚かない者はいないだろう。
「人を魔物に変える、その様な物が我が王国にもたらされたと言うのか・・・」
「はい、ただその魔剣は昨日私の手で破壊しましたので今は安全かと思います、今後同じような物が持ち込まれる可能性が御座いますので注意を促して頂きたく思います」
「うむ、王国中に知らせよう」
「ありがとうございます、私からの報告は以上となります」
「ところでエルレイ、ヘルミーネは元気にしておるか?」
「はい、勉学と魔法の修練に打ち込んでおります」
「そうかそうか」
陛下はそれを聞いてにこやかに笑っていた、本当は子供達に教えているのだが、王女の立場としてその様な事をやっていると話す訳には行かないよな。
「では陛下、これで失礼します」
俺はロイジェルク様と共に謁見室を後にした。
「エルレイ君、先に帰って貰えないだろうか?」
「分かりました、ロイジェルク様はまだ陛下に用事があるのでしょうか?」
「うむ、トラウゴットに止めを刺して置こうと思ってな」
なるほど、それはロイジェルク様に確実に行って貰わなければならないな、ロイジェルク様もにやりと笑っているし大丈夫だろう。
ロイジェルク様と別れ馬車に乗り込み別邸まで送って貰った、流石に王城から転移で帰る訳には行かない、面倒だが別邸に着いてから転移でリアネ城へ戻って来た。
この日の午後と次の日、ロゼと二人で残っていた闘技場の作成に費やし完成させた、完成と言っても土を固めて作っただけの物で、この後装飾や塗装と言った仕上げをしないといけない、それは職人たちの仕事だ、早く出来上がる事を期待しよう・・・。
≪ラウラ視点≫
時はエルレイ様達がルフトル王国のテーヌの街で到着した所まで時間は遡ります。
テーヌの街に着くと、衛兵に囲まれて迎賓館へ連れて来られました。
私は非常に恐怖を感じましたが、他の皆様は平然としていましたので私だけ恐れる訳には行きませんね、表面上だけでも毅然とした態度を壊さぬよう努力しました。
迎賓館で出されたお食事は野菜や木の実といった物が中心に作られており、少し・・・いえかなり苦手です。
しかし私はヘルミーネ様のお手本とならなくてはなりません、、表面上は美味しそうに食べている努力を致しました。
そしてその日の夜、とてつもない事件が起こります!!
エルレイ様と共に就寝する事になったのです!!
今までヘルミーネ様と三人で寝る事はあっても、エルレイ様と二人っきりと言うのは初めての事です。
心の準備は出来ておらず、心臓が張り裂けそうにドキドキしています。
ベッドに横になっても収まらず、エルレイ様に心臓の音が聞かれるのでは無いかと思うと、更に心臓のドキドキは跳ね上がります。
エルレイ様に横を向いてくれと言われ、やはり気が付かれたのかと焦りながらも横を向きました、するとエルレイ様は私に抱き付いてきました!!
心臓のドキドキは最高潮を迎えましたが、エルレイ様の抱き付いている姿はとても愛らしく、エルレイ様を見ているとようやく心臓の高鳴りが収まってきました。
エルレイ様の普段は、とても凛々しく落ち着いていて格好いいのですが、こうして抱き付いてくるお姿は愛らしく可愛く思えます。
リゼの話によると、エルレイ様は戦っているお姿が一番格好いいとの事でした、ですが残念な事に私はまだそのお姿を拝見した事が御座いません。
魔法は使える様になりましたが、無詠唱も使えず自分の身も守れないですので、私にそのお姿を拝見する事は当分無いでしょう。
ですが、今この瞬間!いえ、今夜中は私だけの物です!朝まで時間はたっぷりあります、エルレイ様の可愛いお姿を堪能致しましょう。
朝までエルレイ様の頭を撫でたりほっぺをつついたり色々楽しませて頂きました、ただ残念なのは私の意気地が無く、キスする事が出来なかった事でしょう・・・しかしこの機会はまたやって来ます、その時まで心の準備を整えておかないといけませんね。
「ラウラ、おはよう」
エルレイ様がお目覚めになり、私に一番最初に挨拶してくれました、さらにぎゅっと抱きしめてくれて私は幸せで一杯です。
きっと今日は良い事があるに違いありません!
眠気なんてきれいさっぱり吹き飛びました!
エルレイ様の幸せに包まれた私は、昨日苦手に思った食事も美味しく頂けました。
そしてこの旅の目的であるルフトル王国との交渉となります。
しかし交渉の席に呼ばれたのはエルレイ様だけ、ラノフェリア公爵様が交渉役ですので、エルレイ様が機転を利かして全員で行ける事となりました。
そこは普段誰も入れない、ルフトル王国の結界の中に入れるとの事でした、エルレイ様と一緒にいると、ソートマス王城にいた頃には考えられない事ばかりで驚きの連続です。
皆様もとても喜んでいらっしゃいます。
いよいよ結界の中に入ろうとするところで、ソフィア様から結界内で見た事を話してはならないと言われました・・・。
話してはいけない様な物がいっぱいある訳ですね、ドキドキして参りました。
結界内は大きな森の街といった感じで、自然にあふれています。
そしてエルフ!エルフです!
馬車の中から見える景色も木と家が一体化した不思議な光景でしたが、そこに住んでいらっしゃる方々がエルフであったことはとても驚きでした。
エルフと言えば文字を覚える際に読んだ本に書いてありました、髪の色が緑色で耳が長く高身長だと・・・目の前にいらっしゃる方々はその通りの姿でした。
ヘルミーネ様を初め、リリー様、アルティナ様、リゼやロゼまで驚きの声を上げていました。
エルフと言えば、かなり昔に滅びたと教えられていましたからそれは驚きます、そして当然ソフィア様が注意された意味が分かります、この事は口が裂けても誰にも言えません。
馬車はエルフの街並みを抜け、お城へと辿り着きました、エルフのお城はそれはとても美しくため息が出るほどでした。
大樹に抱かれたお城の内部は快適で、とても過ごしやすい環境でした。
植物の内部に作られたお城でしたから、もう少しじめっとしているかと思ったのですが意外でした。
その後女王様への謁見に、私やリゼ、ロゼまで着いて行く事になりました、使用人が王様の謁見上に向かうなど、ソートマス王国では考えられない事です。
エルフの女王様は若くて美しく、どう見ても私より若く見えてしまいます・・・。
少しエルフが羨ましく思いました、さらに女王様は千五百年以上生きているとの事で、とても信じられません。
エルフの女王様の事はまぁいいでしょう、いくら羨んでも私がエルフになる事は出来ないのですから。
それより、女王様がエルレイ様に女神様の加護が付いているとおっしゃいました。
なるほど、エルレイ様なら女神様の加護が付いていても驚きません、周りの皆も同じ気持ちの様ですね。
十一歳までに男爵家三男から侯爵まで上り詰めた訳ですからね、しかし私は女神様の加護だけでエルレイ様が侯爵になったとは思いません。
私のエルレイ様との接点はヘルミーネ様です、誰の手にも負えなかったヘルミーネ様を数時間で変えてしまったのですから。
人の気持ちを理解して行動に移る事が出来るから、侯爵になり得たのだと思うのです、それにエルレイ様の周りには沢山の人達が集まっています、女神様の加護だけではない魅力がエルレイ様にはあるのです。
エルレイ様の事を思い考えていると、女王様との謁見が終わってしまったようです。
私は会話の内容を全く聞いていませんでした、後でリゼ・・・は私と同じくエルレイ様の事を考えていたでしょうから、ロゼに聞く事にしましょう。
エルレイ様の話を聞いていると、精霊と契約する所へ向かっている様ですね。
ヘルミーネ様も精霊と契約したそうにしていますが、ソフィア様のご説明ではエルフ以外出来ないという事でした。
精霊がどの様な物かは分かりませんが、きっと可愛らしいに違いありません。
考え事をしていると、皆様は先程の女神様の加護について話をしていました。
アルティナ様がお姉ちゃんの加護!と言ってエルレイ様に抱き付き、それに対抗してリゼもメイドの加護!と言って反対側へと抱き付きました。
リゼは良い事を言いますね、私もメイドですから、後程エルレイ様に加護を差し上げなければいけませんね。
そう思っていると、エルレイ様から二人が離れた後、ヘルミーネ様がエルレイ様を蹴っていました。
昨夜から幸せに包まれていた私は、ヘルミーネ様の事をすっかり忘れていました!
そうですね、ヘルミーネ様を先に幸せにしてあげないといけない立場にいる私がその事を忘れて浮かれているとは・・・。
ヘルミーネ様、大変申し訳ございませんでした。
何としても今日中にヘルミーネ様も幸せにしてあげなければなりません!
私は覚悟を決めその機会を伺う事に致します。
エルフのお城の屋上にやって来ました、そこから眺める景色は素晴らしく、綺麗で見惚れてしまいます。
そしてエルレイ様の精霊との契約になりました、エルレイ様の精霊の名前はウィル様で、私が思い描いていた精霊そっくりで可愛らしかったです。
その後皆様で精霊と契約を試みましたが失敗に終わりと、ても残念に思います。
街へ移動するためソフィア様の精霊、ミル様によって空へ飛び立ちました、空を飛ぶなど初めての体験で驚きと共に喜びを感じます。
私もいずれこの様に自由に空を飛ぶ事が出来る様になるのですから。
空の旅はあっという間に終わりましたが、エルフの街でお買い物をする事の方が喜びです。
お買い物・・・お買い物!初めての体験です!
そもそも街に出掛けた事もありませんでしたし、エルレイ様からお金も頂きました。
私は生まれて初めてお金を手にしました、ソートマス城で働いていた時もお金は頂いておりませんでした。
お金を頂いても使う機会もありませんからね、それに衣類に食事その他必要な物は何でも用意されていますから、不自由した事はありません。
それはエルレイ様に仕えてからも同じです、アドルフさんにお給料を提示されましたがお断りいたしました、それはリゼとロゼも同じで、お金を頂いても本当に使う機会が無いのですからね・・・。
エルレイ様に仕えてからこうして出歩く機会は増えましたが、やはりお金を使う機会はありません。
私は単独で行動する事は少なく、殆どの時間ヘルミーネ様と供に過ごしております、リゼとロゼもルリア様、リリー様といますからね。
しかしお金を頂いてもどの様に使っていいのか分かりません・・・私が悩んでいると、リゼとロゼが小さな声でエルレイ様に贈り物をしようと言ってきました。
なるほど、それはいい考えです、それしかないでしょう!!
三人で話し合った結果、エルレイ様に着て頂く服をロゼ、靴を私、それに合う装飾品をリゼが買う事になりました。
皆様と一緒にお店に入り、靴を必死に選びました、しかしなかなか決まらず、ロゼが先に服を選んだようでした、あの服に合う靴を探せばいい訳ですね、服を見ないで決めていたから決まる訳無いですよね・・・。
ようやく靴を選び、お金を自分で支払い買いました、お金を支払って物を得る感覚は何とも言えない感動を覚えました。
これならばお給料を頂いた方が良かったでしょうか・・・いえ、エルフの街だから出来る事であって、他の場所では街に出歩く事すら難しいのですから、やはりお金は必要ありませんね。
他の皆様も気に入った服を購入されたようで笑顔でした。
エルフの街は平和でいいですね、ソートマス王城ではこのように無警戒ではいられませんでした、むしろ王城内は危険が多い場所なのかもしれません。
リアネ城はその様な心配はありません、他の貴族の出入りがありませんからね。
楽しい買い物が終わり昼食を頂いた後、エルレイ様が先程の服を作っている所の見学をなされる様で、またソフィア様に運んで貰いその場所に辿り着きました。
小屋の中に入った瞬間私は凍り付きました・・・沢山の虫がいたのです・・・・。
幸いな事に、ヘルミーネ様がすぐさま小屋を出て行ったので私も逃げる様に外へ出ました。
すーはーすーはー、息を大きく吸い呼吸を整えます、あれは何だったのでしょう?先程の店で売られていた服はあの虫から作る?とても想像できません・・・。
エルレイ様はリアネ城であの虫を飼うおつもりなのでしょうか・・・出来ればお止めになって頂ければと切に願います。
小屋の中から皆様の会話が漏れ聞こえてきます、どうやらリアネ城では飼わない様ですね、安心致しました。
なるほど、あの虫が吐き出す糸を使う訳ですか・・・私の想像と違って良かったと思います・・・。
そう言えば蜘蛛も糸を吐き出しますね、あのような物なのでしょう。
エルレイ様は領内であの虫の糸を使い、服をお作りになるつもりの様ですね、確かにあの服の肌触りはとても気持ちが良かったですが、あの虫を見た後では服に触るのを躊躇ってしまいそうです、徐々に慣れて行く事に致しましょう。
その後、他の畑を見回る事になったのですが、そこでは精霊さんが一生懸命働いていました、とても心が癒されますね・・・。
お城に戻り夕食後、エルレイ様からウィル様を皆様に紹介してくれました、とても可愛らしく皆様も触りたがっている様子でしたが、ウィル様を怖がらせて嫌われてはいけませんので、皆さん自重していました。
私達がエルレイ様に贈り物を買ったように、エルレイ様も皆様に贈り物を買っていた様で、一人ずつ渡してくれました。
どうやらリゼ、ロゼ、私にも頂ける様ですね、リゼとロゼには以前エルレイ様に頂いた髪飾りが痛んでいたので新しい髪飾りを贈られました。
そして私には櫛を贈って下さいました、私は涙が止まらないくらい嬉しくてたまりませんでした。
それは一般的に櫛や鏡等、男性から女性に贈るのは結婚時に贈る物だからです、貴族様達は高価な装飾品を贈られるようですが、普通の人にはとても買えませんので、日頃女性が使う櫛や鏡を贈るのです。
私の母も父から贈られた櫛をとても大事にしておりました。
エルレイ様にその様な意図が無い事は分かっています、この櫛を使ってヘルミーネ様を綺麗にして欲しいと思っての事でしょう、それでもやはり嬉しいものです。
それに私達使用人はエルレイ様と結婚する事は叶いません、精々妾か愛人と言った所です、リゼは妾の座を狙っている様ですが、ロゼはこのままエルレイ様にお仕えできればいいと考えている様です。
私もこのままエルレイ様にお仕え出来ればそれで構いません・・・いえ、自分には嘘はつけませんね、妾は贅沢ですのでせめて愛人でも構いませんので、エルレイ様のご寵愛を頂けたら幸いです。
あっ、私だけ幸せに浸っている訳には行きません、ヘルミーネ様にどうにかエルレイ様のご寵愛を頂ける様しなければいけません、幸い今はいい雰囲気ですので、私がエルレイ様にお願いをすればいいでしょう。
エルレイ様に贈り物を頂いたので、今度は私達が買った物を贈る番です。
早速着替えて貰おうとリゼ、ロゼ、私の三人でエルレイ様を着替えさせます。
普段リゼやロゼがエルレイ様のお着替えを担当していて、私が間近にエルレイ様の裸を見る事はありませんでした。
エルレイ様のお身体は引き締まっており、とても逞しい体つきでした、まだ身長も低く、大人になりきれていないお身体で皆様をお守りしてきたわけですから、この身体つきには納得致しました。
エルレイ様の着替えが終わると、皆様その可愛らしい姿を見て喜んでおりました。
真っ先にアルティナ様が抱き付きました、いつもの事ですので皆様も順番待ちをしております。
そしてこれは最大のチャンスです、ヘルミーネ様にも抱き付いて貰わなければなりません。
そしていよいよヘルミーネ様の番が回って来ましたが、やはりエルレイ様は頭を撫でるだけで、ヘルミーネ様に抱き付こうとはしませんでした。
私は勇気を振り絞ってエルレイ様にお願い致しましたが、エルレイ様は無理やりする事は嫌だとおっしゃいました、そうでは無い、そうでは無いのです!
ヘルミーネ様はエルレイ様に抱きしめられるのを望んでいらっしゃるのです、どうにかお願いをし、ようやくヘルミーネ様に抱き付いていただく事が叶いました。
ヘルミーネ様はとても幸せそうな表情をしておいでです、そこに私もエルレイ様に呼ばれました、私はヘルミーネ様を背後から抱きしめます、ヘルミーネ様とエルレイ様を同時に抱きしめているとても幸せな時間でした。
こうして私の幸せな一日は終わりを告げ、ベッドに入ると私は限界を迎え、すぐさま眠ってしまいました。
翌朝女王様との本格的な交渉の様です、交渉の内容について私が何か言う事は出来ませんので、エルレイ様の凛々しいお姿を堪能させて頂いておりました。
交渉が終わり帰路へ着く事となりました、行きとは違い、エルレイ様の転移の魔法で一瞬でラノフェリア邸へ戻ってまいりました。
エルレイ様とラノフェリア公爵様は王様に報告に行かれるそうで、私達はルリア様の部屋へ向かいました。
途中ルリア様の親族の方がお声を掛けてまいりましたが、ルリア様はそれを無視して部屋にお急ぎになられました。
王城でも常日頃、こういった嫌がらせの様なお言葉はヘルミーネ様も言われ続けてまいりました、どこにでもある事でヘルミーネ様だけ言われている訳では無いと安堵致しましたが嫌な物ですね、ルリア様のお気持ちお察しします。
ルリア様のお部屋で皆様とお茶を頂き、今回の旅のお話をエルレイ様が戻られるまで楽しく話しておりました。
エルレイ様がお戻りになられてリアネ城へ戻ってまいりました、楽しかった旅もこれで終わりだと思うと残念に思います。
リアネ城へ戻ってからは平穏な毎日が続きます、それはとても喜ばしい事なのですが、旅行へ行った時の記憶がまだ鮮明に残っており少し退屈に思います。
しかしエルレイ様は何かとお忙しく働かれているご様子、私も魔法の訓練と体力作りに精を出さなければなりませんね。
ある日の事、エルレイ様は皆さまと共にリアネの街へ出かけようとおっしゃったのです。
とても魅力的な提案ですね、私も当然反対は致しません、皆様もとても喜んでいらっしゃいます。
街に出るのは少し怖い気も致しますが、エルレイ様を始め、皆様お強いですから安心です。
私も障壁魔法を使える様にはなりましたが、まだ無詠唱は出来ておらず、ヘルミーネ様をお守りする事は出来ないでしょう。
どちらかと言うと無詠唱が出来るヘルミーネ様に守っていただく事になるかも知れません・・・使用人失格ですね・・・。
翌日アドルフさんがエルレイ様をお止め致します、当然ですね、本来であれば私もお止めしなければいけない立場なのですが、エルフの街での体験で楽しさを知ってしまいましたから無理なのです、リゼとロゼも同じ気持ちなのでしょう。
エルレイ様はアドルフさんを説得し、護衛を付ける事となりました、そして私達は二人一組となり私はルリア様と組む事となりました。
とても心強いです、ヘルミーネ様の事はエルレイ様に守って頂けるようで安心ですね。
この中で一番頼りにならないのが私です、エルレイ様のお気遣いに感謝いたします。
ヘルミーネ様の安全は確保された訳ですから、私は街を楽しみたいと思います、エルレイ様はルリア様のご心配をされている様ですが、それは杞憂に終わるでしょう、ヘルミーネ様とは違いルリア様は常に物事を考えてから行動するお方ですからね。
アドルフさんが護衛の方々を連れて来られていよいよ街にお出かけです、ドキドキ、ワクワク致します。
城下町に出ると、まず最初に見かけたのは大きなお屋敷が立ち並ぶ貴族街です、現在誰も住んでいらっしゃらない様でとても静かで不気味な感じがします。
そう言えばアイロス王国の王族や貴族達はどこへ逃げたのでしょう?お隣のラウニスカ王国でしょうか・・・。
例えば私がヘルミーネ様を連れてお隣の国に逃げたとします、果たしてそこで暮らして行けるでしょうか?
私だけですと、どこかの貴族のお屋敷に努める事は可能でしょうが、ヘルミーネ様を連れてとなるとそうはいきません。
他のお仕事を探すにしても何をやっていいのか分かりませんし、メイド以外の仕事が私に出来るとは思えません。
ヘルミーネ様がお仕事をすると言うのも現実的ではありませんね、そう考えると逃げた先で生活していくのは無理のように思えます。
今の内に何か出来る事を探しておいた方がよろしいでしょうか・・・いえ、私がやるべきことは魔法を上達させる事ですね。
魔法を使えれば、その様な状況に置かれてもどうにかなるような気が致します、現にエルレイ様は魔法で侯爵まで上り詰めた訳ですからね。
考え事をしていると、いつの間にか貴族街を抜け商店街へとやってきていました。
商店街・・・心躍りますね、しかし今回買い物が目的では無いので自重いたします。
ヘルミーネ様がエルレイ様におねだりして美味しいお菓子を皆様に買って頂きました。
お城で食べるお菓子とは違い、非常に甘くて食べごたえのある物でした、お城で頂くお菓子は甘さも控えめで、大きさも一口で食べられるように小さめです。
どちらかと言えば、この様なお菓子の方が私は好みですね、もっと食べたくなりますが、一個だけだとエルレイ様はヘルミーネ様にくぎを刺しておいででした・・・とても残念です。
それは他の皆様も同じ気持ちの様でしたが、ヘルミーネ様が我慢なさっているのに他の皆様もこれ以上は言えない様でした、エルレイ様考えましたね・・・。
その後武器屋で何やら騒ぎが起きたようですが、武器に興味が無かった私は良く分かりませんでした。
昼食も街で頂く事になりました、不安と期待が半々です。
不安と言えば毒を盛られないかと思う次第です、王城に努めていた時には必ず毒見役の人が食した物を出していました、リアネ城でも同じだと思うのですが、厨房に入る事が無くなり、その光景を目にする事はありません。
出された物をいち早く私が食べて確認する事に致しましょう。
期待と言えば、今までに食べた事が無い料理が出てくるわけですからね、皆様も期待に胸膨らませているご様子です。
しかし連れられて来た所はいささか雰囲気が違います、男性のお客様ばかりいて恐ろしいです。
そんな中エルレイ様はどんどん店の中に入って行きます、私達も遅れないよう着いて行き席へ座りました。
給仕と思われる女性がやって来ました、なるほど、ここにいらっしゃる皆様はこの女性がお目当てですか・・・私から見ても羨ましいほど大きなものをお持ちです。
お料理を注文して頂き、やがてお料理が運ばれてきたのですが、大皿に盛られており、どの様に食べていいのか迷いました。
小皿に分けて頂くのですね、そうと分かれば皆様の分を取り分けるのは私達のお仕事です。
そしていよいよ食べる事になった訳ですが、香辛料が多く使われており少々辛いですね。
エルレイ様のおっしゃる通りお酒と共に頂く物なのでしょう、私はお酒を飲んだことはありませんから、どの様な味なのかは分かりません。
王城で働く使用人はお酒を飲む事を禁止されていましたからね、使用人は一日中気を許す事は許されないのですから当然です。
代わりにジュースを頂く事にしました、とても爽やかで美味しい飲み物で少し辛いお料理にぴったりでした。
料理が届いた時、量が多いと思ったのですが、珍しい料理と言う事もあって皆様全て食べきってしまいました。
たまにはこのようなお料理も良い物ですね。
昼食を終え午後は市場の見学へと向かいました。
そこは様々なお野菜や果物、お肉と言った料理の材料に、午前中頂いたお菓子とは違った食べ物も売っていました。
皆様も食べたそうにしておりましたが、ヘルミーネ様が我慢なされているので誰も食べたいとは言えません、この時皆様のエルレイ様を見る視線が厳しいものとなっていたのも仕方がありませんよね。
暫く見て回っていると女性の大きな声が聞こえてきました。
泥棒さんです、少し身構えてしまいます。
しかしそんな心配必要ありませんでした、エルレイ様が見事に泥棒さんを捕まえ、盗まれた物を持ち主へ返してあげたのです。
泥棒さんはエルレイ様と同じくらいの男の子でした、碌に食べ物を食べていないのでしょう、かなり痩せています。
使用人として教育を受けていた時、街には決して入ってはいけない場所があり、そこに住む住人は凶悪で危険な存在だと教えられました。
目の前にいる男の子も泥棒さんですから危険なのでしょうか・・・。
どうやらエルレイ様は男の子が住む場所へ向かうようです、当然アドルフさんがお止めになります。
しかしエルレイ様は聞き入れて貰えず向かう事になりました、私は怖くてたまりません、だってそうでしょう、入ってはいけない場所へと向かうのですから。
隣にルリア様がいらっしゃらなかったらどうなっていたか分かりません、ルリア様、とても心強いです。
出来るだけルリア様の傍を離れない様致しましょう、男の子の案内でどんどん雰囲気が怪しい所へ向かっています。
変な臭いも漂って来て建物も壊れている物ばかりで、私は出来るだけ周りを見ないようにして歩きます。
そうでもしないと恐怖で立っていられなくなります、こういう時は楽しい事を考えればいいのでしょうが、何も思い浮かんできません。
やがて男の子の住居に着いた様で立ち止まりました、建物から女の子が出てきましたが、やはりやせ細っていてさらに病気をしているのでしょう、咳が出ていて苦しそうです。
エルレイ様はリリー様を連れて建物の中に入って行かれました、どうやら先程の女の子の治療をするようです。
とてもお優しい事だと思いますが、元気になりエルレイ様を襲ったりしないか心配です。
私はようやく落ち着き、周りを見渡す事が出来ました、皆様はとても落ち着いていて怖がっているのは私だけの様です。
ヘルミーネ様も堂々としておいでですが、ヘルミーネ様はこの場所がどんなに危険なのかを知らないのだと思います。
リゼとロゼ、それに護衛の方々は周囲を警戒しています、やはり危険な場所の様です、しかし皆様は魔法が使えて、戦闘になっても負けない自信がおありなのでしょう。
他の子供達が戻って来たようで、ルリア様達は素早く捕らえられました、凄いですね、私も早くあのように魔法を使いこなしたいものです、そうすればこのように怯えている事は無くなるでしょう、いえ、違いますね・・・私が怖がりなのは魔法が使えないという事では無いのでしょう。
エルレイ様とリリー様も建物から戻ってまいられ安心しました。
その後また子供達が増えて、その中の女の子は腕を斬り落とされていました、以前泥棒は二度と盗みを働けない様に腕を斬り落とすと聞いた事があります。
実際に見るととても可愛そうで涙が出てきてしまいます。
しかしエルレイ様がその女の子の腕を治療して差し上げました、あんなにきれいに治る物なのですね。
女の子もとても喜んでおり、私も嬉しくなりました。
どうやらエルレイ様はこの子供達に仕事をお与えになる様です。
はたして子供達に出来る仕事があるのでしょうか?使用人としては使えませんし警備兵としても無理でしょう。
さらにこの子供達をお城へ連れて行くとの事、エルレイ様が何をお考えになっているのか分かりません。
エルレイ様の魔法でリアネ城へ戻って来て、エルレイ様のお考えが分かりました。
この子達に教育を施し、その後で仕事を与えるおつもりなのだと、しかしそう上手くいくのでしょうか?
読み書きや計算を覚える事は簡単な事ではありません、あの子達は今までその様な事を教わってきていないのですから。
ヘルミーネ様でさえ、それなりの時間をかけて覚えて頂きましたからね。
部屋に戻り今日の出来事を皆様と話します、話題は主に子供達の事がほとんどでした。
皆様も子供達に読み書きを教える事を疑問に思っていた様です。
夕食後エルレイ様から子供達の処遇について話があり、なぜか私が教育係となしました。
正直な話自信はありません、しかしアルティナ様もご一緒して頂けるので頑張ってみようと思います。
翌日エルレイ様、アルティナ様と共に子供達の所へ向かいました。
エルレイ様は読み書きを覚える事をお仕事だと説明されました、なるほど、お仕事と言う事はこの子達は読み書きを覚えない事にはご飯が食べられません、厳しいようですがそれもこの子達のためを思っての事でしょう。
どうやら子供達はエルレイ様に助けて頂いた事に恩義を感じている様ですね。
エルレイ様はこの子供達に教育を施し、やがてご自身の配下にするおつもりでしょう。
それは素晴らしい事ですね、普通使用人となるのは私の様な使用人の子供か、低い御身分の貴族様の領地を与えられない子供達です。
雇われるときに主君に忠誠を誓うのですが、表面上だけの方がほとんどです。
私もヘルミーネ様に対して最初はそうでしたから・・・。
しかし、この子供達はエルレイ様の忠誠心は助けられたことによって高いです、私が教育係に指名されたのもそう言う意図があったのでしょう。
これは私の全身全霊をもって当たらねばならない事ですね!
私は気合を入れて子供達の教育に臨む事と致しました。
読み書きを・・・そうですね、二週間ほどで覚えて頂きましょう、話す事は出来ますので簡単でしょう。
私とアルティナ様の教え方はかなり違いますね、私は厳しく教え、アルティナ様は優しく教えていらっしゃいます。
しかしこれはとても上手く行っており、私の教え方で分からなかった場合、アルティナ様が教えて下さる。
この二段構えで子供達はどんどん覚えて行きます、やはり仕事と言う事で泣き言をいう子は誰もいません。
子供達はご飯が食べられない辛さを良く理解していますからね。
午後は男の子達は警備隊に預けられ、女の子達はリゼとロゼに体を鍛えられるようです、それと魔法も教えるとの事。
エルレイ様に仕えるのですから、当然魔法も使えないといけないでしょう。
私もそうでしたが、初めて魔法が使えた時はやはりとても嬉しい物ですね、女の子達はとても喜んでいます。
その後珍しくエルレイ様が私とヘルミーネ様の下へやって来ました。
私はつい先日遂に空を飛ぶ事が出来ました、しかし未だに無詠唱は出来ず素直に喜べないでしました。
リリー様は丁寧に教えて下さるのですが、私が魔力を感じる事が出来ずに申し訳なく思います。
リリー様の話によると、エルレイ様後ろから抱き付いて貰うと魔力を感じる事が出来る様になるとの事でした。
エルレイ様の魔力は神聖な感じがするとリリー様は言うのです、なるほど、女神様の加護をお持ちですから当然その様な感じなのでしょう。
リリー様が説得して下さり、エルレイ様が私の背中から抱き付いてくれました。
するとどうでしょう、体温とは違った暖かさがエルレイ様から私の中に流れてきます、これがリリー様の言ってた神聖な魔力なのでしょう。
エルレイ様の言う通り呪文を唱えると、私の体からエルレイ様の暖かな魔力が出て行くのが分かりました。
その後呪文を唱えず同じように魔力を動かしてみました、魔法は上手くいき遂に私も無詠唱が出来ました。
私は嬉しくて涙が止まりません、これでエルレイ様の家族になれたのだと思いました。
その後もずっとエルレイ様は私の訓練に付き合ってくださり、幸せで一杯でした。
夕食後、エルレイ様は部屋で何か書き物を始められました、どうやら魔法書の様ですね。
エルレイ様は本当に何でもお出来になるのですね、本当に十一歳なのか疑います、皆様も一度はお疑いになる様で、アルティナ様がその都度説明されておりました。
話は変わりますが、この間エルレイ様とベッドを共にする際、エルレイ様の柔らかいほっぺにキスをする事が出来ました。
意気地がない私は唇にする事は出来ませんでした、ほっぺにするだけでも心臓はドキドキと高鳴り、何度途中でやり直した事か分かりません。
多分アルティナ様やリゼは唇を奪っているかも知れません、リリー様も怪しいですね。
唇はやはりエルレイ様の方からして頂きたい物ですね、意気地がない私は、そう自分に言い聞かせる事にします。
その後数日間は平穏な日々をエルレイ様も過ごしていらっしゃいましたが、ルフトル王国から呼び出しがあった様です。
私とヘルミーネ様とアルティナ様はお留守番です、正直私ではエルレイ様の足手まといにしかなりません、それにヘルミーネ様を戦場へ向かわせる事は出来ませんから安心しました。
子供達の教育も途中で止める訳には行きません、子供達の呑み込みは早く、既に読む事は完ぺきになりました。
書く事もあと少しと言った所でしょう、そんな所で止めてはまた忘れてしまう可能性が高いです。
エルレイ様達が出掛けるとあって、ヘルミーネ様も教育に加わりました、ヘルミーネ様お一人にしておく事は出来ませんからね。
午後の魔法と体力作りも私達が見る事となりました、折角ですから私も女の子達と共に訓練する事にしました。
訓練と言いましたが、体力の方は女の子達の方があり、私は付いて行く事が出来ませんでした・・・私は本格的に体力をつける必要がある様です。
その後、数日間で女の子達に着いて行く事が出来る様になりました、教える立場として私も出来ないと示しがつきませんから頑張りました!
勉強の方は計算へ移り、しかし計算は少し難しいようで苦戦している様です,、ですが皆分からない所は教え合って覚えようと必死です。
この頃になると子供達の人間関係も分かって来ました。
エリオットは皆のリーダー的存在で頼りにされています、妹の面倒もよく見ていますしね、そのせいか恋愛には疎いようで置いていかれてますね。
エリオットの妹アンナは皆に好かれていて、特に力の強いオスカルに魅かれている様ですね。
オスカルもアンナの事を思っている様で、オスカルの視線はいつもアンナに向けられています。
エレンはラルフと仲がいいようで、それは皆も認めているところみたいです。
マリーはこの中で一番幼く、トーマとフリストが奪い合いをしている様でした、しかしマリーは腕を治して頂いた事でエルレイ様に恋心を抱いている様子です。
私としてはそんな彼女を応援するだけですね、こればかりはエルレイ様次第ですのでどうにも出来ません。
計算が終わると、次は礼儀作法やこの王国と領地の事等覚えて頂かねばなりません。
幸いな事に、エルレイ様がアドルフさんに作って頂いた資料もあります、とてもよく纏められた資料で私の勉強にもなりました。
それが終わると本格的に使用人としての教育に移る訳ですが、メイドの事は私が教えられますが、執事に関して教える事が出来ません。
その時はアドルフさんに相談する事にしましょう。
エルレイ様がルフトル王国からお戻りになった夜、ルリア様はエルレイ様の言動を怒っていらっしゃいました。
なんと驚く事にエルレイ様がリゼ、ロゼ、私の三人を婚約者として、どなたかに紹介したと言うのです。
私は頭が真っ白になりました、しかし浮かれてはいけません、エルレイ様が私達の説明を面倒だと思い他の皆様と一緒に紹介したのでしょう。
しかしエルレイ様の次のお言葉でまた頭が真っ白になりました。
「リゼ・・・ロゼ・・・ラウラ・・・俺と婚約してくれるか?」
・・・・・・嬉しさのあまり涙が出るだけで何も考えられません・・・いえ、幸せ、そうです全身で幸せを感じているのです!
ヘルミーネ様が私を抱きしめてくれ一緒に喜んでくださいました。
エルレイ様にも抱きしめて頂き最高に幸せです、エルレイ様の為なら何でも出来る気が致します。
エルレイ様は私達に使用人を止めて欲しいとおっしゃいましたが、それは叶わぬ事なのです、
エルレイ様は私達に代わるメイドが必要だとお考えの様ですが、すでに準備は出来ておりますのでご安心ください。
フフッ、明日からさらに厳しく教育して行かなければなりませんね。
エルレイ様達はついに戦争へ行かれてしまいました、私の出来る事と言えば皆様の無事を願うばかりです。
願ってばかりでは先に進めませんので、早く子供達が一人前になれるよう私も頑張らなければいけません。
とは言った物の、最近ではヘルミーネ様が主に教えており、私とアルティナ様がそのお手伝いをする感じになっています。
その事に不満は全く無く、ヘルミーネ様の教え方がとても上手く、子供達の覚えも早いのです。
どうやら自分たちより幼いヘルミーネ様に出来て、自分たちが出来ない事が悔しいようですね。
魔法に関してですが、これはアルティナ様が主に教えております、アルティナ様は回復魔法が使えるそうで、触れている相手の魔力が分かるのだとか、それを用いて子供達の魔力を把握し適切に指導しています。
これは私やヘルミーネ様には出来ない事です、私はこの前まで自分の魔力でさえ分からなかったのですから・・・。
体力作りは私が担当する事となりました、担当と言えば聞こえがいいですが、単に一緒に訓練しているだけです。
ヘルミーネ様とアルティナ様は運動が苦手・・・と言うより、幼い頃よりさせて貰えなかったと言った方が正確でしょう。
ですのでヘルミーネ様とアルティナ様は少し運動した後は休憩なされてます。
体力作りが終われば、ようやく私達の魔法の訓練が出来ます、女の子達には自由にして構わないと言ってはいるのですが、毎日私達の訓練を見学していますね。
そんな事より私は自分の訓練に集中しなくてはいけません、アルティナ様に教わりながら魔法の形を変える変化の訓練です。
リゼが作っていたエルレイ様の氷像を真似て作っているのですが、氷がごつごつしているだけで誰だか分かりませんね・・・。
私のそれを見てヘルミーネ様は、私が作った氷像の隣にエルレイ様の氷像を作り、ニヤニヤと私の事を見て笑っています。
この敗北感は何でしょう、今まで教える立場だった私に対して嫌がらせのつもりでしょうか・・・ここで悔しそうな表情を見せてはいけませんね。
私はにっこりと微笑み訓練を続けます、ヘルミーネ様は私が真剣に訓練している事に気が付き、ご自分の訓練へ戻って行かれました。
少し罪悪感を覚えます、悔しがった方がよろしかったのでしょうか・・・感情を表に出さない自分が嫌になって来ます。
あの場で私が悔しがって見せていれば、ヘルミーネ様と楽しく訓練が出来たのではないでしょうか?多分そうですね、ヘルミーネ様は私が教えてやると言ってご一緒してくれたことでしょう。
残念な事をしてしまいました、今更後悔しても遅いですね、皆様に追い付ける様努力致しましょう。
エルレイ様達が戦争より戻ってまいられました、皆様無事のようで良かったです。
しかしリゼの髪の色が金色に変わっています、戦争で酷い衝撃を受けたのでしょうか・・・心配です。
それとエルレイ様は新しい婚約者をルフトル王国から頂いて来た様です。
ハーフエルフだという事で、エルフの特徴である長い耳はありません、ロレーナさん、可愛らしいですね。
リゼの金色の髪はウィル様の魔法だという事が分かり安心しました、リゼの髪は再び青色に戻りました、元の色の方がリゼに合っていて綺麗ですね。
その後リリー様が髪の色をルリア様と同じ赤色に変えられたのですが、元の銀色の時はとても可愛らしい印象だったのが、赤色に変わった事でとても美しい令嬢と言った感じに変わりました。
髪の色が変わるだけでここまで印象が変わる物なのですね、驚きました。
その日の夜、エルレイ様から子供達を引き取る施設が出来たと教えられ、今教えている子供達もそちらに移すとの事でした。
今あの子達を施設に移されては、今までやって来た事が無駄になってしまいます、何とか説得しなければなりません。
エルレイ様の説得は出来ました、残るはアドルフさんですね。
翌日アドルフさんの説得に向かいました。
「アドルフさん、子供達の件でお願いに伺いました」
「施設に移す件ですね、お伺いいたしましょう」
「はい、私は子供達をエルレイ様の使用人にするべく教育を行ってまいりました」
「なるほど、しかし読み書きが出来るだけでは使用人に出来ません」
「勿論です、礼儀作法に教養、そして何より重要なのがエルレイ様への忠誠心です、子供達の忠誠心はエルレイ様に助けられたことによって非常に高く、与えられた事は何でも一生懸命にこなしております」
「なるほど、確かにトリステンからも彼らは文句も言わず、一生懸命に訓練に励んでいるとの報告を受けております、しかし彼らに使用人が務まるのでしょうか?」
「それに関しては今後の教育次第です、そこでアドルフさんに執事の教育できる方を午前中派遣して頂きたいのですが?」
「分かりました、使用人としての教育を施す事を許可致します、立派な使用人に育ててくれることを期待します」
「はい、ありがとうございます」
私は無事アドルフさんから許可を頂く事が出来安堵しました。
しかしこれからが大変ですね、使用人としての教育を施しても、アドルフさんに認められなければリアネ城で働く事は許されないでしょう。
あの子達とエルレイ様の為、私も一生懸命頑張る事に致しましょう。




