第十五話 魔剣戦争
久しぶりに仕事が無い日、俺は朝からルリアと剣の訓練をしていた。
剣も魔法も毎日訓練を続けていないと腕が鈍るものだ・・・。
「エルレイ、動きが悪いわよ!、ほら、ほら!」
ルリアの鋭い剣捌きに押され気味だ、最近ルリアと剣の腕前は拮抗していたのだが、エルフの所へ行ったり土木作業をしたりで訓練できない日があったせいで追い抜かれた様だ。
「俺としては以前のまま動いてるだけだ!はっ!」
「甘いわよ!」
「ガキーン!!」
やり返そうと斬りかかった所、ルリアに剣をはじかれ俺は剣を落としてしまった。
「はぁはぁ、ルリア、強くなったようだね」
「エルレイが弱くなっただけよ、さぁ、どんどん行くわよ」
ルリアは十二歳でまだまだ伸び盛りだ、俺がいない間、どうやら警備隊の所に行って一緒に剣の訓練をしていたようだ。
結局午前中の間ルリアから一本も取る事が出来なくて剣の訓練を終えた。
午後は魔法の訓練だ。
「皆、ルフトル王国でやっていた方法を訓練に取り入れてみようと思う」
「それは面白そうね」
「エルレイさん、どんな訓練でしょう?」
「属性ごとに違うのだが、まず水属性をやってみようか、リゼお手本と頼む」
「はい、格好いいのを作りますよ~」
そう言うとリゼは、俺がリゼを抱えて飛ぶ姿の氷像を作り上げ、どうよと言う表情でこちらを見て来た。
「この様に氷像を作る事で、イメージ通りに魔法を行使する訓練になる訳だ、ちなみに俺が作ると・・・」
俺はルリアが腕を組んで睨み付けている氷像を作り上げた。
「この様にリゼの物とは比べ物にならない出来になる訳だ・・・」
「エルレイ、どうしてこのようなポーズなのかしら?」
ルリアが殴り掛からんばかりの勢いで俺を睨んで来た。
「ルリアにそっくりだと思いますよ」
「リリーもそう思うよな」
「はい」
俺とリリーの意見は一致したのだが、やはり俺は殴られて、氷像は炎で融かされてしまった・・・。
「痛いよルリア・・・」
「ふんっ!」
ルリアのお怒りは俺を殴ってもおさまる事は無かった・・・。
「リリーも何か作ってみてくれ」
「はい、そうですねぇ」
リリーは少し悩んでから氷像を作り上げた。
「これはロゼだな」
「エルレイさん、正解です」
氷像のロゼは美しい立ち姿をしていた。
「どう見ても私じゃないですかこれは」
リゼが自分だと主張するが、立ち姿でも性格の違いは出る物だと二人を毎日見ていて分かるようになったからな。
「リリー様、さすがです」
ロゼはリリーが自分の氷像を美しく作ってくれた事がとてもうれしい様だった。
「では次は火属性の訓練をやってみようか」
俺は事前に準備しておいたロウソクを離れた位置に立てて置いてきた。
「ルリア、ここから火球を撃って、あのロウソクに火を灯して見てくれ、もちろんロウソクを倒してはいけない」
「分かったわ、でもこれは簡単すぎないかしら?」
そう言ってルリアは火球を飛ばし、見事にロウソクを倒した。
「あっ!今のは練習よ!」
「私もやってみますね」
リゼは勝負を見ていたからだろう、三回目でロウソクを倒さず火をつける事が出来た。
しかしルリアは何度やってもロウソクを倒してしまい、うまく点ける事が出来なかった。
「この訓練を続ける事によって炎を制御し、不要な被害を抑える事が出来るようになるだろう」
「・・・分かったわ」
ルリアは出来なかったことに納得できない様だったが、次の風属性は楽しんでもらえるだろう。
「風属性は飛行訓練だな、今からコースを作るから待っていてくれ」
ストーンウォールで石柱を作っていった。
「細い柱と太い柱の間を飛んでもらう、細い柱が内側で太い柱が外側になる」
「分かったわ」
「最初はゆっくり飛んでコースを確認してみてくれ」
ルリアはさっそく飛んで行った。
「ロゼも行ってくれ」
「はい」
ルリアもロゼも順調にコースを飛び回っていた、元々早く飛ぶのは訓練していた事だが、これをやる事で攻撃を回避しやすくなるだろう。
「リゼ、ちょっと手伝ってくれ」
「はい、なんでしょう?」
「今からリゼと二人で飛ぶが、いつもと違ってリゼにも飛行魔法をかけてみる、多少浮き上がるかもしれないから、しっかり捕まっていてくれ」
「はい、分かりました」
リゼに飛行魔法をかけ、いつもの様にリゼを抱えて飛び立った、俺の負担はかなり減ったが、リゼは少し振り回されている様だな。
「リゼ、どんな感じだろうか?」
「そうですね、いつもより腕が疲れます」
「そうか、では一度降りて今度は背負って飛んでみる」
「はい」
リゼを背負って再び飛び立った。
さっきよりは安定しているだろうか?
「リゼ、さっきと比べてどうだろう?」
「背負って頂いてる方が楽ですね、体が密着している分動きませんから」
「そうか、では背負う時は使えそうだな」
「はい、そう思います」
実験を終え元の場所に戻ると、ルリアとロゼも飛び終えたようで戻って来ていた。
「エルレイ、楽しそうね」
ルリアが俺を睨んで来た、また殴られるのは嫌なので必死に説明をする。
「飛行魔法の実験をしていたんだよ、リゼにも魔法をかけて、一緒に飛ぶことで楽にならないかと思ってね」
「そうなのね、それでどうだったのかしら?」
俺がそう言うとルリアは表情を緩め、実験の結果の方に興味を向けてくれた。
「前に抱きかかえた場合は浮き上がってしまい駄目だったが、背負う分には問題なく行えた」
「それはつまり、少ない力で運ぶ事が出来るという事かしら?」
「ルリアでもリゼに飛行魔法をかけ背負えば運べると思うぞ」
「そうなのね、分かったわ、この前運んだ時、腕がかなり疲れたから今度からは背負っていきましょう」
ルリアは俺より背が高いが、やはり女の子の腕力で抱えて飛ぶのは大変だったのだろう。
「それと一緒に飛ぶ練習もしないとな」
「えぇ」
ルリアの表情は元に戻り、どうやら俺は殴られずに済んだようだ。
「エルレイ様、地属性の訓練はどの様な物でしょうか?」
ロゼが訊ねてきたが壁を壊しただけだったからな・・・。
「地属性は残念ながら無い、しかし水属性と同じような事が出来ないだろうか?」
「ストーンウォールで石像を作るという事でしょうか?」
「うん、ちょっとやってみるよ」
俺はストーンウォールでルリアをイメージして作ってみたが、ごつごつしていて誰だか分からない石像が出来上がった。
「エルレイ、これは誰なのかしら?」
「ルリアをイメージして作ってみたのだけど、水の様に出来ないものだな」
「私もやってみます」
ロゼは俺の石像を作ったようだが、やはりぱっと見誰だか分からない物が出来上がっていた。
「エルレイ様を作ってみたのですが難しいですね、しかし訓練を続ければ出来るような気が致します」
「そうだな、俺も頑張ってみる事にするよ」
「はい」
その後俺とロゼは石造作りを続け、ルリアとリゼはロウソクに火を灯す訓練をし、リリーは氷像作り続けていた。
俺は皆より少し早めに訓練を切り上げ執務室へと向かった、仕事が無いとは言え全てアドルフ達に任せている訳には行かない、最低限やっておかないと色々頼んでいるアドルフ達に申し訳ない。
席に座り積み上げられていた書類見目を通しサインをして判子を押して行く。
黙々と作業を続けながら昨日の事を思い返していた・・・。
「アドルフ、昨日の件だが、ロイジェルク様と言うかヴァイスさんには伝えたのだろうか?」
「いえ、特に伝えておりませんが」
あれ?結構重要な事だと思うのがそうでもないのか?
「ロイジェルク様にとって重要な事では無かったのだろうか?」
「そうではありません、問い合わせが無い限り私から情報を伝える事はございません」
「でも、ヴァイスさんはアドルフの父だよな?」
俺が疑問に思っているとアドルフは真剣な表情で俺を見て来た。
「私はエルレイ様に仕える家宰です、例え肉親であろうとエルレイ様に関する情報を流す事は決してありません」
「そうか、それはすまなかった、では俺から伝えた方が良いのか?」
「いえ、エルレイ様がロイジェルク様にお知らせした方が良いと言うのであれば、私がお伝えします」
「ではお願いする、と言っても無くなった男爵が直接の犯人では無かった、という事が分かっただけだがな」
「そうですね、ですがロイジェルク様と父ならその事が確実だと分かれば犯人に辿り着くかも知れません」
「そうだな、よろしく頼むよ、しかしロイジェルク様の情報を集める手段はどの様な物かアドルフは知っているか?」
「はい知っております、ですがラノフェリア家で知り得た事をエルレイ様にお伝えする事は出来ません、とは言えエルレイ様が想像している物と同じだと思います」
「各地に念話が出来る部下を配置し情報を集めそれを処理しているという事か?」
「・・・」
アドルフは答えない、しかし目はそれを肯定しているように思えた。
「分かった、この件はもう聞かない、それを知った所で俺はやろうとは思わないしな、そう言う事はロイジェルク様に任せて置く事にするよ」
俺はアドルフに笑ってそう答えると、アドルフもにこやかに笑っていた。
その後も問題無く書類仕事を終えた、それから一週間何事も無く平和な日々を過ごす事が出来た。
朝トリステンに預けたニナの事が気になり、警備隊の詰め所を訪れトリステンを呼んで貰った、この一週間の間トリステンから何も連絡は無かったので問題は無いのだと思うのだが・・・。
「エルレイ様、お待たせしました、何かあったのでしょうか?」
「いや、何も無いがトリステンに預けたニナは問題無く仕事をしているのかと思って来てみた」
「はい、問題はありません、それとニナは名前を変えニーナとなりました」
・・・・・・。
「伸ばしただけじゃないか・・・」
「まぁそうなのですが、本人の希望ですからね・・・」
トリステンも呆れている様だ、ニナのままだと新たな追手に見つかりやすいから、名前を変えるのは分かるが微妙過ぎる。
「名前の事は分かった、それでニーナはどこにいるのだ?」
「はい、こちらにおります」
トリステンはそう言うと背後に控えた部下を指さした、その者は室内にも関わらず兜をかぶり、目元を守るバイザーまで下げていた。
「ニーナ、なぜそのような暑苦しい格好をしているのだ?」
「あたい今まで顔を隠して生活していたから、こうしていないと恥ずかしいのさね」
「そうか・・・それで仕事は何をやっているのだ?」
「私の護衛をさせております、ここは男所帯ですし他の者に任せる訳にも行きませんので・・・」
トリステンは申し訳なさそうにそう言って来た、それもそうか俺も無理やり押し付けたからな・・・。
「分かった、ニーナも仕事に不満があったりしないか?」
「不満は無いよ、飯は美味いし命の危険も無い、ここは天国のような物さね」
ニーナの表情はうかがえないが声は明るかった、本当にそう思っているのだろう。
「それは良かった、引き続き頑張ってくれ、話は変わるがトリステンに預けた子供達は真面目にやっているだろうか?」
「それはもう、普通なら文句の一つや二つ言う物ですが彼らは必死に訓練に取り組んでくれています」
「そうか、彼らに剣を買ってやる事になったのだが、トリステンが許可をしたら買ってやる事にしたのでよろしく頼む」
「えぇ、彼らから聞いておりますが当分先の話ですね」
トリステンは笑いながらそう答えた。
「そうだろうな、俺も剣を習いに来て構わないか?この前ルリアに負けてしまってな・・・」
「構いませんよ、エルレイ様がいない時は、ルリア様も私達の所で訓練しておりましたので」
「やはりそうか、仕事が無ければ俺も毎日剣の訓練をしたいのだが、そうもいかなくてな」
「そうでしょうね、訓練はいつ来て貰っても構いません、それと私の魔法も上達して来まして、念話での連絡は可能となりました、いつでもご連絡ください」
トリステンの表情は明るい、魔法が上達したのが嬉しかったのだろう。
「それは良かった、それで部下にも魔法の指導を始めたのだろうか?」
「はい、この前から教え始めました、しかし本当に使える様になる物ですね、部下も皆驚きそして喜んでおりました」
「そうか」
「あたいにも魔法教えてくれよ、リゼに負けた事が悔しいんだ!」
ニーナの表情は兜で分からないが、声は本当に悔しそうに聞こえた、それを俺の後ろで聞いていたリゼがくすりと笑った。
「リゼ笑ったな!あの時部屋の中にリゼがいる事は知っていた。だが暗殺者となった私がメイドのリゼに負けるとは思わなかったんだよ!」
「ふふっ、ニナ・・・いえニーナ、私とロゼも遊んでいた訳では無いのですよ、ニーナより努力して来ただけの事です」
リゼは勝者の余裕だろうニーナに微笑んで優しくそう言った。
「くそー!!」
ニーナは悔しそうに地団駄を踏んでいた。
「魔法はトリステンがニーナに教えて構わないと思えば教えてやってくれ」
「よろしいのでしょうか?」
「構わない、それよりニーナに聞きたい事がある」
「あたいに?何でも話すから聞いてくれさね」
「ラノフェリア公爵邸で俺達を襲った後逃げたと言ったよな、リゼとロゼを見た事は誰かに伝えたか?」
「そんな暇は無かったよ、それに親友のリゼとロゼの事を話す訳ないさね!」
ニーナの声は少し怒った様子だった、親友と言うのはリゼとロゼの態度からも分かったが通りそうなのだろう。
「そうか、しかしその親友のリゼを殺そうとしたよな?」
「それはちゃんと手加減はしたし、ナイフに毒も塗って無かった、リゼを殺すつもりなんて最初から無かったさね」
ニーナの声は震えていて、それが真実だと俺には思えた。
「わかった、ニーナありがとう」
「エルレイ様、今日は剣の訓練はなさいますか?」
「そうだな、やって行こう、よろしく頼む」
「では訓練場へ向かいましょうか」
「分かった」
警備隊の訓練場へ向かい大人の男性を相手に打ち合いの訓練をした。
普段ルリアとやっているせいで、高い位置から振り下ろされる剣に最初は押され気味だった。
それも続けて行くうちに慣れて来たが、一時間ほどで疲れ果てベンチに座り込んでしまった。
リゼはニーナと組み手をやっている様だが、魔法を使わない状態だとニーナに分がある様でリゼは押されていた。
暫く休憩していと俺のことろにトリステンがやって来た。
「エルレイ様は少し運動不足の様ですね」
「そうだな、このところ訓練する時間が取れなかったからな」
「そうですね、時間がある時ここへ通って頂ければ体力はつきますよ」
「そうさせて貰うよ、ところで以前俺と戦ったカールハインツを見かけた事は無いがどうしたのだろうか?」
カールハインツの名を聞いたトリステンは少し残念そうな表情を見せた。
「カールハインツはエルレイ様に負けて歳を感じた様で、家に戻って農業をやると言っておりました」
「それは惜しい事をしたな、彼に剣を教えて貰いたかったのだが」
「そうでしたか、その分私がお相手致しますよ」
「よろしく頼む」
俺とトリステンは立ち上がり訓練へと向かった、その後トリステンに散々鍛えられる事となった。
翌朝剣の訓練に向かおうとルリアとリゼと共に城を出た所で、ソフィアさんから念話が届いた。
『エルレイ様、敵が攻めてまいりました、至急こちらへお越しください』
『分かりました、準備をした後すぐ向かいます』
平和な日は長く続かない物だな・・・。
「ルリア、リゼ、戦争の様だ部屋に戻って準備をしよう」
「分かったわ」
「はい」
ルリアとリゼは戦争と聞き表情を引き締めていた。
俺はルリアとリゼの手を握り部屋に転移した、リリーとロゼはまだ部屋にいたので丁度良かった。
「リリー、ロゼ、出かける準備をしてくれ、戦争が始まった様だ」
「エルレイさん、分かりました」
「承知しました」
リリーとロゼも戦争の事は以前から知っていたので、特に動揺した様子も無いようで安心した。
以前から準備はしていたから着替え等の日用品を用意するだけだった、アドルフとアルティナ姉さんに連絡を入れないといけないな。
『アドルフ、ルフトル王国で戦争が始まった、今から向かうので後の事よろしく頼む』
『承知しました、お気をつけて行ってらっしゃいませ』
後はアルティナ姉さんだな。
『アルティナ姉さん、今からルフトル王国に行って来るから留守の間皆の事を頼む』
『分かったわ、お姉ちゃんに任せておきなさい、だけど無事帰ってこないとお姉ちゃん許さないからね』
『うん、約束するよ』
アドルフとアルティナ姉さんに連絡している間に皆の準備は終わった様だ。
「エルレイ様、準備が整いました」
「皆で無事に戻って来れる様頑張ろう」
「「「はい」」」
「では行こう」
俺達は転移でルフトル王国の結界前へやって来た。
『ソフィアさん、お待たせしました、今結界前に到着しました』
『エルレイ様、今そちらへ向かいます』
結界の内側に待機していたのだろう、ソフィアさんはすぐこちらに出て来てくれた。
「エルレイ様、他の皆は既に現地に向かいました」
「そうですか、では私達もすぐ向かいますね」
「それで、私も一緒に連れて行っては貰えないでしょうか?」
「それは構いませんが、ソフィアさんも戦うのですか?」
「いえ、私は皆様を守るよう女王様に申し付けられましたので」
ソフィアさんが守ってくれるならとても助かるな。
「分かりました、よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」
「では転移で向かいますね」
ソフィアさんを連れ転移で砦内部へ移動した、流石にまだ誰も付いていなかった。
俺は家を三軒取り出し砦内部に設置した。
「エルレイ様この建物は?」
ソフィアさんは目の前に現れた家に驚いていた。
「休憩用には足りないですが、怪我人の治療をする場所に良いかと思いまして」
「分かりました」
「では周りを確認してきます」
「はい、お気をつけて」
「エルレイ、私も行くわ」
「エルレイ様、私もお連れ下さい」
ルリアとリゼも着いてくる様だ、確認だけだから危なくは無いか。
「分かった、くれぐれも用心してくれ」
「分かっているわ」
「はい」
俺はリゼを抱きかかえ、ルリアと共に砦の上空へ飛び上がった。
上空からはまだ敵の姿を確認する事が出来なかった。
「まだこの辺りまで来てない様ね」
「その様だ、もう少し高度を上げて敵を確認しに行ってみよう」
「分かったわ」
ルリアと共に高度を上げ、敵が進軍してくると思われる方向へ飛行した。
暫く進むとこちらに進軍してくる集団を発見する事が出来た。
「あれが敵の様ね」
「その様だ、しかしどのくらいの人数なのか分かるか?」
「この高さからだと無理ね」
「私も分かりません、しかしそこまで大規模な軍では無いようですね」
「そうだな」
「降りて確認してみる?」
「いや、それは危険だから止めておこう、それよりもう少し先に進んでみよう」
「増援がいないか確認するのかしら?」
「それもあるが、補給部隊がいたら潰そうかと思ってね」
「それはいい案ね」
「エルレイ様、素晴らしいです」
「以前ダニエル軍団長が補給線を絶たれたら撤退するしかない、と言ってたのを思い出してね」
「しかし撤退されたら、ソフィアさんが言ってた殲滅は出来ないのでは無いかしら?」
ルリアは敵を殲滅したいのだろうか、俺は出来れば戦闘は避けたいのだが・・・。
「そうだが、俺の目的はエルフも含めて無事生還する事だからいいんだよ」
「そうれもそうね」
「では行こう」
俺達は敵部隊の上空を通過して行った、かなり高い所を飛んでいるから気付かれても誰だか分からないだろう。
しばらく行くと馬車の車列を発見した。
「あれがそうかしら?」
「警備の兵が周りを固めているからそうでしょう」
「あんな大規模な商隊がリースレイア王国から来ている事は無いだろうしな」
「ではやりましょう」
「ルリアは車列の手前の方を、リゼと俺は奥をやる、一気に降下して全力で燃やし尽くそう」
「分かったわ」
「はい、久々に全力で魔法を使えるんですね」
「あぁ、障壁を張られてるかもしれないから手加減は必要ない」
「では行くわよ」
ルリアとリゼは俺が全力でと言ったから、とてもやる気が出た様だ、普段全力で攻撃魔法を放つ事はさせて無いからな。
ルリア全力で魔法を使ったら周りの被害が尋常では無いからな、しかし今回道の周りは草原が広がって居るだけで問題無いだろう。
燃え広がったら消せばいいだけだ。
俺はルリアに遅れないよう車列目掛けて急降下し、攻撃はリゼに任せる事にした。
「リゼ、もう直ぐだぞ」
「はい、では行きます!エクスプロージョン!!」
リゼの掛け声と共に車列が爆発し激しく燃え広がる、ルリアの方も同じで馬車の原形を留めている物は無かった。
『ルリア、再び上昇するぞ』
『分かったわ』
俺とルリアは上空で再び合流した、眼下の状況を確認すると炎は道沿いに燃え盛っているが横には燃え広がっていなかった。
「二人共凄いじゃないか、見事に炎が制御できている様だな」
「えぇ、この一週間の訓練でかなり制御できるようになったわ」
「はい、ロレーナ様の訓練を見ていて良かったです、そうでないと周りの草原も大火事になっていたでしょう」
二人共自分の魔法の出来に大満足の様だった。
「そうだな、では砦に戻ろうか」
「分かったわ」
「はい」
ルリアと手を繋ぎ転移で砦に戻った。
砦にはエルフの皆も到着していた、しかし思っていたより数が少ないな・・・。
「皆ただいま」
「エルレイさん、お帰りなさい」
「エルレイ様、お帰りなさいませ」
「ソフィアさん、四人の隊長を呼んで貰えないだろうか?」
「分かりました、少々お待ちください」
ソフィアさんは念話で呼びかけたのだろう、少しして四人の隊長達が集まって来た。
「皆さん状況をお知らせします、順調に進軍すれば敵はもう少しでこの砦が見える位置にくるでしょう。
しかし今偵察に行った時敵軍の背後に補給部隊を発見、これを排除して参りました、ですので上手くいけば敵は撤退してくれるかもしれません。
マルギットさん、数名偵察を出して頂けませんか?」
「それはすでに出している、もうしばらくすると連絡が来るだろう」
「分かりました、ではその報告を待って行動を考えます、それと数が少ないように思えるのですが、これで全員でしょうか?」
「そうだ、各百名前後と言った所だ」
四百名しかいないのか、それでも精霊の強さを考えると多いのか?
「エルレイ君、私達全体の数も少なく、更に攻撃に特化した精霊を持つ者は限られていてね、本来なら私やカーメラも戦闘には向いていないんだよ」
ワルテさんはそう説明してくれた、しかしあの岩を飛ばした能力は十分戦闘向きだと思うのだけど。
「分かりました、ではなるべくワルテさんとカーメラさんは戦闘に参加しなくていいよう考えますね」
「そうしてくれると助かります、しかしいざとなれば我らも戦うから遠慮無く言ってください」
「はい」
ワルテさんとカーメラさんは戦闘に参加しなくていいかも知れないと安堵の表情を浮かべていた。
「エルレイ、偵察に出ている者から連絡が来た、どうやら敵はこちらに進軍を続けている様だ、もうすぐ見える位置に着くぞ」
補給部隊を失ったのに進軍を続けるという事は敵の指揮官は馬鹿なのか、それとも補給はまた別の部隊があるのか?
「分かりました、ロレーナさん、部隊を砦に配置して頂けませんか?」
「分かったのじゃ」
ロレーナさんは部隊の配置に向かってくれた。
「マルギットさんは偵察の継続をお願いします、攻撃に関しては改めて指示を出しますので、それまで待機していてください」
「分かった」
「ワルテさんとカーメラさんも待機していてください、しかし何時でもロレーナさんの助けに行ける様、部隊を分け階段の所へ配置をお願いします」
「エルレイ君、分かったよ」
「分かりましたわ」
ワルテさんとカーメラさんも部隊の配置に向かってくれた。
「ルリアはリゼを連れて左側の塔に、ロゼはリリーを連れて右側の塔に、俺は中央の塔へ向かう」
「エルレイ、待ちなさい、私は一人でいいわ、リゼは貴方が連れて行きなさい」
ルリアはリゼを運ぶのが嫌なのかそう言って来た。
「しかし、それだとルリアに何かあった時に対応出来なくなる」
「ルリア、私もそう思います、リゼと行った方が安全ですよ」
リリーも俺の意見に賛成してくれた。
「エルレイ様、ルリア様は私がお守りしましょう」
俺達が言い合いしているとソフィアさんがそう言ってくれた、ソフィアさんは自分で飛ぶ事が出来るからルリアの負担にもならないか。
「ソフィアさん、ルリアの事お願いしてもいいだろうか?」
「はい」
ソフィアさんは笑顔でそう答えてくれた、ソフィアさんには出来れば無理をさせたく無いが、ルリアと一緒なら何とかなるだろうか。
「ルリアも構わないか?」
「分かったわ、ソフィア、お願いするわね」
「では皆相手は魔剣だ、油断できないから気を付けてくれ」
「「「はい」」」
俺はリゼを抱えて中央の塔へ上った、塔にはすでにロレーナさんの部隊配置が終わっていて皆緊張している様だった。
塔の上から前を見ると敵は確かにこちらへ向かって進軍して来ていた。
「リゼ、補給部隊を潰したのになぜ敵は進軍して来るのだろう?」
「そうですね、敵は余程戦力に自信があるのでしょうか、それともまだ他にも補給部隊があったとかでしょうか?」
「そうか、魔剣の威力が普通の魔法と同じなら俺達の脅威では無いよな」
「そうですね」
「グール、そこのところどうなんだ?」
「そうだなー、あくまで千五百年前の技術だと魔石に書き込む魔法の威力を上げる事は出来なかったぜ、ただし、魔石そのものの力が強い物は別だ!」
「それはどういうことだ?」
「つまり、魔物の強さによって魔石の強さも変わるって事だ、例えばドラゴンの魔石だとかなり強力だ!まぁ今この大陸にそんな強力な魔物がいるとは思えないがな!」
「そうか、分かった」
敵はかなり近づいて来て行軍を止めた。
『マルギットさん、敵の数は分かりますか?』
『報告によると敵の数は一万ほどだそうだ』
『分かりました、それと偵察を敵の後方に補給部隊がいないか確認して貰えませんか?』
『分かった、調べさせよう』
『お願いします』
いつの間にか俺の横にロレーナさんがやってきていた。
「エルレイ、部隊の配置が終わったのじゃ」
「ロレーナさんありがとう、敵が攻撃できる範囲に近づいたら一斉に攻撃を仕掛けてください」
「分かったのじゃ」
『皆聞いてくれ、敵の数は一万と多い、攻撃範囲に入ったら遠慮なく魔法を撃ち込んでくれ』
『分かったわ』
『エルレイさん、分かりました』
『承知しました』
『また遠慮なくやれるんですね、頑張ります』
『リリー、攻撃するのが辛いなら無理にやらなくていいぞ』
リリーは人に向けて魔法を撃ち込むのは初めてだろう、無理はさせたくない。
『いえやります、私も皆を守らないといけないですから』
『分かった』
『エルレイ、リリーにだけ優しいのね』
『そんな事は無いが、ルリアは別に気にしないだろう?』
『それはそうだけど・・・』
『わかったよ、戦闘が終わったらちゃんとルリアも優しく可愛がってやるからな』
『そんなの必要無いわよ!』
ルリアはそう言っているがちゃんと可愛がってあげないといけないな。
「エルレイ様、敵は進軍を始めたようです」
ルリアをどうやって可愛がるか考えていたら敵が動き出した様だ。
「ロレーナさん、攻撃準備をお願いします」
「分かったのじゃ」
ロレーナさんは若干緊張している様だが、誰でもそうなのだから問題無いだろう。
敵が徐々に近づいて来て五十メートルの近さまで近づいた。
「攻撃開始!!」
俺の掛け声と共に一斉に火球が敵に向け放たれる、隣にいるリゼも大きな火球を撃ち出していた。
次々と放たれた火球は敵軍に着弾し燃え広がらなかった・・・あれ?リゼも首を傾げてさらに打ち込んでいた。
「マスター不味い、攻撃をやめさせろ!!」
グールが必死に訴えて来る、よく分からないがとにかく止めた方が良さそうだ。
「攻撃中止!!」
『攻撃中止してくれ』
「分かったのじゃ」
『分かったわ、全力で攻撃したのに障壁で止められたのかしら?』
『分からない、グールに聞いて見るから待っていてくれ』
「グール、どういう事だ?」
「簡単に説明すると俺様と同じと言う事だ、それより反撃が来るぜ!!」
グールの言葉通りこちらに向け、様々な属性の攻撃が放たれていた。
「ロレーナさん防御を!」
「それは大丈夫なのじゃ、あの程度の攻撃では精霊の障壁は破れないのじゃ」
その言葉通り、こちらに魔法が届くことは無かった、それはいいがグールと同じという事は魔法を吸収すると言う事か!
「グールと同じ能力の魔剣があるという事だな!」
「正確には違うが、魔力を吸収する事に変わりは無いぜ、よく考えて見な、一万の軍勢が魔剣を使うとしてその魔力は誰が補充するのかって事だ」
確かにそうだ、俺達なら問題なく補充できるだろう、しかし一般にいる魔法使いで魔力の補充をしようとすると、一万人の魔法使いが必要と言う事か、もしくは補充するのに魔法使いが何日もかけてやるしか無いだろう。
という事はこちらが攻撃しない限り相手も魔剣で攻撃出来ない?
「しかしマスター、俺様の予想だと魔力を吸収する魔剣はかなり危険だぜ」
「どう危険なのだ?こちらが魔法を使わない限り向こうも魔剣を使えないのでは無いのか?」
「そう言う意味じゃねぇ、多分だが吸魔石その物が使われてるはずだ!」
「それはつまり魔力を吸収すると魔物が生まれるという事か?」
「あぁそう言う事だ、敵さんの攻撃もやんだようだ、また魔力を吸収しないと攻撃は来ないと思うぜ」
「それではこちらから攻撃する事は出来ないじゃないか」
「そうだぜ!俺様の出番だな!!」
「いやいや、流石に俺一人で一万人を剣で相手するとか無理だから・・・」
「エルレイ様、敵は動かない様です、やはりこちらから魔法を撃って来るのを待っているのでしょう」
『皆グールの説明によると、魔剣で魔法を吸収している様だ、その魔力を使って魔剣で攻撃して来る、さらに悪い事に魔力を吸収しているのが吸魔石で、下手をすると魔物が生まれるかも知れないという事だ』
『何よそれ、こんな所で魔物が生まれたら敵にも被害が出るでしょうに』
『そうだな、使っている兵はその事を知らない、いや知らされてない可能性が高いな・・・』
『それでエルレイどうするの?』
『どうしようもないのかな、撤退も考えた方が良さそうだな』
『そうね、下手に攻撃して魔物が出たらどうなるか分からないわ』
『誰も魔物と戦った事無いだろうからな・・・』
『俺様あるぜ!魔物なんて俺様に掛かれば一撃のもとに葬り去ってやるぜ!』
『お前はそうかも知れないが、敵もいるんだぞ』
念話で会話していると偵察から連絡があったのだろう動かない俺の所にマルギットさんがやって来た。
「エルレイどうなっている?なぜ攻撃しない」
「マルギットさん、攻撃出来ないんですよ、敵はこちらの魔法を吸収して魔剣の魔力にしている様で手が出せないでいます」
「そうなのか、ではどうするのだ?」
「最悪撤退して対策を考えるしか無いでしょう、それでマルギットさん補給部隊はいたのでしょうか?」
「いや、道沿いにはいなかった様だ」
「と言う事は補給部隊がいないのにここまで攻めて来たという事ですね、相手は長期戦を考えていないのでしょうか?」
それにしては動きが無いんだよな・・・。
「いや、エルレイ敵が動き出した様だぞ」
敵を見て見ると横へ移動をし始めていた。
「この砦を避けて通るという事でしょうか?」
「そうだろうな、こちらが攻撃出来ない、あるいは攻撃を受けても被害は無い事が証明されたのだろう?」
「そうですね・・・」
これは困ったな下手に攻撃出来ないし、攻撃しても吸収されてしまう。
「エルレイ様、ゴーレムを倒した時の様に岩を落としてはいかがでしょうか?」
「確かにそれは有効だろうが流石に人数が多い・・・そうか直接魔法で攻撃しなければいいのか!
マルギットさんの部隊でワルテさんの部隊を敵の前に運んで沢山の穴を掘って貰えませんか?」
「なるほど、それなら吸収されることは無いし進軍を妨げられるな」
「はい、それでも無理やり進軍しようとしたら、穴に入った兵士ごと埋めてください」
「分かった、では行って来る」
「はい、私も防御に向かいます」
『皆集まってくれ、敵はこの砦を避け進軍する様だ、それを阻止するためワルテさんの部隊で穴を掘って貰う、俺達はそれを守るために前面に出る、敵が斬りかかってきたら上空に逃げるぞ』
『分かったわ』
『エルレイさん、分かりました』
『承知しました』
俺達は敵の進軍する先に降り立ち障壁を張り巡らせた、まだ魔力が残っていたのだろう魔法がいくらか飛んできたが、全て障壁で受け止められた。
そうしていると一部隊が俺達に向け斬りかかって来た。
『上空に逃げるぞ』
皆で上空へ逃げ時間稼ぎは出来た様で、敵の進軍先にいくつもの穴が掘られていた。
『これを続ければ諦めて撤退してくれるだろう』
『地味な作戦ね・・・』
ルリアの性格上こういったのは好ましくないのだろう。
『そうだが他にやりようがない、グール、何かいい手は無いのか?』
『魔剣を破壊するだけなら手はあるぜ!』
『グール教えなさい!』
ルリアは敵が目の前にいて攻撃出来ないのが嫌なのだろう。
『なーに簡単な事だぜ、エルフも含めてありったけの魔力をぶつけてやればいいのさ!』
『吸収出来る許容量を超えさせて壊すのか?』
『いや違う、吸魔石を魔石に変えてやるのさ!』
『つまりそれは魔物を出現させるという事か?』
『そうだ!簡単だろ!!』
確かに簡単だが、それではこの国に魔物の被害が出るだろう・・・。
『分かったわ、エルレイやりましょう!』
『それは俺達だけで決める事は出来ない、この地はルフトル王国の物だからな』
『そうね、ごめんなさい』
『それに俺達の魔力を吸収した魔物がどれほどの力を持っているのか分からない、危険な事は出来るだけ避けたい』
『分かったわ』
『エルレイ様、敵は撤退を始めたようです』
目の前に穴を掘られてこれ以上進軍できない事が分かったのだろう、敵は撤退を始めていた。
『俺達は砦に戻ろう』
『マルギットさん、部隊を砦内部に戻してください、それと撤退していく敵部隊の監視をお願いします』
『分かった』
『ロレーナさん、敵は撤退し始めました、見えなくなったら塔より部隊を下げて構いません』
『分かったのじゃ』
砦に戻り敵が撤退して行くの見守る事しか出来なかった、敵が見えなくなったようでロレーナさんも塔から降りて来た。
「エルレイ、敵は見えなくなったのじゃ」
「ロレーナさん、ありがとうございました」
「それでどうするのじゃ?」
「そうですね、敵の撤退を確認した後私達も帰りましょう」
「皆さんもよろしいでしょうか?」
「構わない、こちらから攻撃できない以上ここにいても仕方あるまい」
「エルレイ君、敵がまた攻めて来た場合どうするのだろうか?」
「ワルテさん一応作戦みたいな物はあるのですが、それは女王様とも話し合わないと決められません」
「そうですか、分かりました」
その後敵の撤退を確認してからエルフの城まで戻って来て、女王様の下へたどり着いた。
「エルレイ、敵を退けた事見事でしたよ」
女王様は俺の微笑みかけそう言ってくれた。
「いえ、こちらから何も出来ずただ見ている事しか出来ませんでした」
「それは仕方が無いでしょう、あの様な物まで持ち出してくるとは、私も思っておりませんでした」
女王様は精霊を通して戦場を見ていたのだろう。
「それに関してグールから案が提示されました、それはこちらから魔法を打ち込み吸魔石を魔石に変えると言う物でした、しかし私はこれは危険な行為だと思うのですが、他に手が無いのも事実です」
「そうですか、グール、本当に吸魔石が使われていたのは間違いないのですか?」
「セシリア、俺様は吸魔石を破壊するために作られたんだぜ、間違える物かよ!」
「そうでしたわね、ではエルレイ、その作戦を許可します」
「本当によろしいのでしょうか・・・下手をするとこの国が魔物に襲われることになります」
「そこはエルレイがどうにかしてくれるのでしょう?」
女王様は俺に微笑みかけそう言ってきた、こんなに美しい人に微笑みかけられたらやるしかないだろう・・・。
「分かりました、出来るだけ被害が出ないよう致します」
「今日は疲れたでしょう、ゆっくりしてくださいね、ソフィア頼みます」
「承知しました、エルレイ様それと他の皆様も食事の用意が出来ております」
そう言えばこちらに来てから何も食べていないな、時刻はもう夕刻だ。
ソフィアさんについて食堂へ向かい食事にありついた、そこには俺達以外にも四人の隊長達も一緒だ。
「エルレイ、先ほど女王様に言ってた作戦とはどの様な物だ?」
「マルギットさん、それはこちらから全員で魔法を打ち込み続け、魔法を吸収する魔石に魔力を吸収させ魔物を生み出すと言う物です」
「魔物を生み出すとどうなるのだ?」
「魔物を生み出す事によって魔法を吸収していた魔石が変化をし、吸収しなくなるそうです」
「そうか、それでどれだけ撃ち込めばいいのだ?」
「グール、どうなんだ?」
「それは分からねぇな、敵は一万だぜ、少なくともエルフ全員、全力で撃たないと駄目だろうーぜ」
「その後魔物を倒す事が出来ないでは無いか!!」
マルギットさんはグールの返答に怒っていた。
「そりゃーそうだろうな、そこはマスターが何とかするんじゃねぇのか?」
「まぁね、女王様にも頼まれたし頑張るよ」
「一万の魔物が相手なのだぞ、大丈夫なのか?」
「魔物と戦ったことがあるグールもいるし、それに心強い家族もいるから大丈夫ですよ」
俺は皆を見回すと皆頷いてくれた、とても心強い。
「そうか・・・」
マルギットさんも納得してくれた様だ。
「エルレイ君、敵はまた攻めて来るのだろうか?」
ワルテさんは不安そうに問いかけて来た。
「さぁどうでしょう、今回事前に補給部隊を叩く事が出来たので敵は引いてくれましたが、次攻めて来る時は同じようにはいかないでしょう。
しかし補給部隊の対策が出来たとしても、今回と同じ様なら攻め込めませんので、別の手段を用意しない限り攻めて来ないのでは無いでしょうか?」
「別の手段とはどの様な物だろうか?」
「分かりません、しかし私が敵の指揮官だとしたら取れる対策としては、どうにか直接切り込めるようにするしかないでしょうね」
「そうだね、私達は直接攻撃する手段を持っていませんから、斬りかかられると弱い、となると飛んで来るしかない」
「えぇ、その通りです、しかし今日その様子はありませんでした、もしかしたら別の部隊があるかも知れません、注意しておいたほうが良いでしょう」
「敵が飛んできた場合どうするのでしょう?」
「その時は魔法を撃ち込む以外無いですね・・・」
敵が吸魔石を用いている以上それしか方法が無い、敵の数が少ないのであればグールで斬りつけて行けばいいのだが・・・。
「そうか・・・」
「グール、他にやりようは無いのか?」
「ねぇーな、俺様で斬りつければ済む話だが、それは無理なんだろ?」
「そうだな、そもそもあのような魔剣があるのをなぜ教えてくれなかった」
「俺様だって知らねーよ、クロームウェルはあんな物作ってねーし、そもそも吸魔石を破壊するのが目的だった訳だ、活用するような事するかよ!」
「それもそうだな、と言う事は吸魔石を利用する技術を作った者がいると言う事だな」
今後魔法は吸収されてしまうと思って対策を考えておかないといけないな。
それと吸魔石があのように加工されるという事は、何処にでも運ぶことが出来、魔物が発生する可能性がある訳だな、思っていたより事態は深刻だな。
ロイジェルク様の情報網を頼ってみるか。
俺が考え事をしていると皆食事を終えた様だった。
「エルレイ様、今夜はこちらへ泊って行ってください」
ソフィアさんがそう言ってくれるが帰っても問題無いんだよな、行き来は一瞬だし・・・俺がそう考えているとルリアとリリーが先に答えてしまった。
「ソフィア、お願いするわね」
「ソフィアさん、お願いします」
「ではお部屋に案内いたします」
ソフィアさんに部屋に案内され風呂に入った後寛ぐ事となり、俺は今日の状況をアドルフとアルティナ姉さんに念話で伝えて置いた。
今日思った事を皆で共有しておかないといけないな。
「皆寛いでいるところ悪いが聞いてくれ、この大陸に魔物を生み出す吸魔石がある事はほぼ確定だろう。
そして今後も魔法が効かない相手が出て来る事が予想される、その対策を皆で考えて欲しい。
それとは別にあのような形で吸魔石が運ばれるという事は、この大陸のどの場所でも魔物が出現する可能性があるという事だ。
俺はそれを許す事が出来ない、だから情報を集め吸魔石を見つけ出して破壊しようと思がどうだろう?」
「いいんじゃないかしら、対策は直ぐには思い浮かばないけど、吸魔石を破壊する事には賛成だわ」
「エルレイさん、とても良い事だと思います」
ルリアとリリーは賛成してくれた、まぁ反対されるとは思ってなかったけどね。
「おっ、いいねぇー、俺様の出番って訳だな!」
「もちろんグールには手伝って貰うぞ」
「任せておきな、俺様その為に存在している訳だからな!」
「エルレイ様、少しよろしいでしょうか、対策を練るのは必要ですが情報を集めるのはとても困難だと思います」
ロゼは心配そうに俺を見て来た。
「ロゼの言う事はもっともだ、情報を集めるのはロイジェルク様にお願いするよ」
「それならば構いません」
ロゼはロイジェルク様の名を聞いて安心したようだった。
「エルレイ、お父様に借りを作るとまた色々やらせられるわよ?」
それはそうだと思うが、散々やらされてきたからな。
「ルリアの言う通りだが今更だな」
「それもそうね」
「リゼも構わないだろうか?」
「はい、私はエルレイ様に付いて行くと決めておりますので構いません、ただし命の危険がある時はお止め致します」
「その時は頼むよ」
「はい」
「エルレイ、もう寝ましょう、疲れたわ」
「そうだな寝よう、おやすみ」
「「「おやすみなさい」」」
戦争の疲れを癒すべくゆっくり眠る事にした。
≪リースレイア王国軍サイド≫
俺は第二魔剣軍団長パーヴェル、この度新しい魔石が大量に入手出来、凄い魔剣が出来たと自慢げに魔剣開発部のガロが俺の所にやって来た。
「バーヴェル、この魔剣を見てくれ、今までの魔剣とはちょっと違うぞ」
魔剣をガロより受け取り見て見たが俺に違いは分からん、強いて言えば魔石の色が白い位だろう。
「ガロ、何が違うのか説明しろ!」
「分かったからそう怒るなよ、この魔剣は何と敵の魔法を吸収する事が出来る、勿論それだけじゃない、吸収した魔法の魔力を使って魔法が撃てるのだ、つまり今までの様に魔力の補充をする必要が無いという事だ、どうだ凄いだろう」
「確かに凄いが、安全なのだろうな?」
こいつは新しい魔剣が出来る度に碌に実験もせず俺の所に持って来やがる。
「大丈夫、今回はちゃんと魔法を吸収出来るか実験したから安全だ」
「それで、どれほどの魔法を吸収できるのだ?」
「初級から上級までどの属性も吸収できる優れ物だ、まぁ吸収量に限度はある、しかし魔剣で魔法を使えばまた吸収出来るって訳よ」
「と言う事は事前に魔力を込めて置けないという事だな」
「まぁそこがこの魔剣の問題点だな、それと魔石を入手した時受けた説明だと、全ての魔力を放出しておかないと魔石が壊れるそうだ」
「なんだそれは、そんな物使い物にならんだろう!」
「でも相手の魔法攻撃は防げるんだぜ、ルフトル王国の精霊使い共相手なら十分戦えるんじゃないのか?」
ふむ、あの国の精霊使いは魔法以外の攻撃手段を持っていない、その上防御施設も無いから確かに魔法を封じる事が出来れば勝算はあるな。
「それで、この魔剣はどれくらい用意できるのだ?」
「へっへっへっ~、聞いて驚け、何と一万本だ!」
流石に俺も驚いた、今まで魔石の入手量は多くて数十個ほどだった、それが一万個だと・・・。
「それは本当の事なのか?」
「本当だぜ、この魔石は今までのと違って量産出来るんだと、値段もかなり安かったみたいだぜ」
「ではその魔剣一万本急いで用意しろ、俺は陛下にルフトル王国に攻め込む許可を貰っておく」
「分かったぜ、開発部総出で作ってやるからよ」
そう言ったガロは二か月ほどで一万本の魔剣を用意してきた。
陛下もガロから魔剣の説明を受けていた様で、ルフトル王国への進軍許可はすんなり下りた。
この国はルフトル王国を滅ぼし国力を強化しないと不味い状況だからな。
ソートマス王国がアイロス王国を滅ぼして以降各国の動きが活発だ。
隣のキュロクバーラ王国とラウニスカ王国は現在激しく戦争中、北のミスクール帝国とは不可侵協定を結んでいるが、いつ破られるか分かった物では無い。
この国が取れる方策としては、ルフトル王国に攻め込むか、キュロクバーラ王国とラウニスカ王国の戦争終結後に攻め込むしかない。
今取れるのはルフトル王国に攻め込む事だけだ、しかしそれも問題が無いわけでは無い、ソートマス王国とルフトル王国が不可侵条約を締結し戦争協力も結んだようだからだ。
アイロス王国を滅ぼした魔法使いの事は各国も知る所だろう、ルフトル王国に攻め込めばその魔法使いとも戦いになる可能性が高い。
しかしその事もこの魔剣があれば問題は無いと俺は思った。
そして魔剣の準備が整い、一万の兵を引き連れ俺はルフトル王国に攻め込む事となった。
一国に攻め込む兵の数としては少ない、元々俺の第二魔剣軍団の数は五百名ほどだ、魔剣の数も少なくそれに魔力を補充するだけでも多くの魔法使いを必要とするため、これ以上の数をそろえるのは無理なのだ。
それでも今回の作戦に合わせて他の部隊から兵を借り受け、一万の数に増やした。
勿論他の部隊を導入する事も可能であったが、俺はそれを断った、精霊使いの魔法を防げない部隊など邪魔でしかないからだ。
部隊は国境を越えルフトル王国の王都に向け進軍を開始した。
暫くすると兵から報告が入る。
「報告します、上空に偵察と思われる人影がみえます」
報告を聞き上空を見上げると確かに人影と思われる者が見えた、しかし、かなり高い位置の様でそれが人なのかどうかもよく分からなかった。
「ふむ、見られているのは面白くないがどうしようもあるまい、周囲を確認し敵が隠れていないか確認させろ」
「はっ」
暫く見上げていると敵は部隊の後方へ飛び去って行った。
「いかん、補給部隊に連絡し障壁を張らせろ!」
「はっ」
迂闊だった、補給部隊に魔剣を持った者は配備していなかった。
「それと至急数十名ほど連れ補給部隊を護衛しろ」
「しかし、今しがた補給部隊と連絡が途絶えました・・・」
「遅かったか・・・補給基地から次の便を急がせろ、それと護衛に二十名ほどこちらから向かわせろ!」
「はっ、しかし補給基地から距離があります、こちらに追いつくのは夕刻過ぎとなるでしょう」
「構わん、我らはこのまま進軍するぞ」
「はっ」
これは俺の失策だ、俺はこの魔剣に酔いしれていたのかも知れん、気を引き締めなおさねばならん。
そこからそのまま暫く進軍すると、おかしな報告が届けられた。
「報告します、前方に敵の砦を発見致しました」
「砦だと?今までこの地にそのような物は無かったはずだが・・・」
「はっ、間諜の報告にもその様な記載はありませんでした」
「となるとこちらの動きに合わせて新たに建造されたという事か・・・」
そうだとするとこちらの情報が漏れていた事になる、魔剣の事もそう思った方が良いだろう。
「いかが致しますか?」
「このまま進軍し敵が魔法を撃って来るか見極める」
「はっ」
魔法を撃って来るならこのまま進軍し砦は無視すればいい、撃って来ない様なら情報が洩れているとして撤退しよう。
魔法が届く範囲に部隊が近づくと敵は一斉に魔法を撃って来た、情報は漏れている訳では無かったか。
「訓練通り、魔法を吸収した者は後ろに下がり交代で魔法を受ける様徹底しろ!」
「はっ、しかし攻撃は収まった様です」
「ならば反撃だ、やつらの魔力を返してやれ!」
「はっ」
こちらからの攻撃は全て防がれている様で砦も敵兵も無事の様だ、やはり魔法で精霊使いを倒すのは厳しいか。
「敵は魔法を撃って来なくなりましたね、魔剣の事がばれたのでしょうか?」
「そんな事はあるまい、一度の攻撃で魔法が吸収された事が分かると思うか?」
「いえ、思いません」
「ならばなぜ奴らは攻撃してこない」
「分かりません、それと前方の兵より報告で砦に入口が無いそうです」
「入口が無いだと!、奴らはどうやって砦に入って居ると言うのだ?」
「飛んで入ったとしか・・・」
なるほど、奴らにとって飛ぶ事は当たり前だったな・・・。
「では砦を避け進軍するぞ、砦から飛んで来る魔法は常に受けられるよう指示をしろ」
「はっ」
砦を避け進軍すると敵が前面に降りて来た。
「敵が進行を塞ぐようです」
「それは好都合、斬り捨てろ!」
「はっ」
敵を斬り払いに向かわせたが上空に逃げられた様だ、これで相手は接近戦が出来ないことが証明されたな。
「進軍を続けろ」
「はっ、しかし前面に大量の穴を掘られたとの報告で進軍できない様です」
「避けて通る事は可能か?」
「回り込めば可能ですが、また穴を掘られるのではないでしょうか・・・」
「と言う事はやはりこちらの魔剣が魔法を吸収する事がばれたという事だな!」
「はい、そう思います」
「むぅ、仕方あるまい撤退だ」
撤退中敵の偵察は続いていたが、攻撃を受けることは無かった。
やはり一度のやり取りで魔剣の能力がばれたと思った方が良いだろう。
しかしこのままでは陛下に大見得を切って出陣したから、何も出来ぬまま帰る訳には行かない・・・。
奴に借りを作るのは癪だが頼むしかあるまい。
「アンドレアルスに連絡し、飛空魔剣部隊を貸してくれるよう頼んでくれ」
「はっ、しかしよろしいのでしょうか?」
「構わん!奴に頭を下げるのは気に食わんが、このまま撤退する訳にもいかん!」
「了解しました」
そのまま補給基地まで撤退し援軍の到着を待つ事にしたのだった・・・。
≪エルレイサイド≫
翌朝着替えを済ませ準備をしていると部屋にソフィアさんがやって来た。
「皆様おはようございます、朝食の準備が出来ております」
ソフィアさんは朝からとてもいい笑顔だ、美人のそれもエルフの笑顔はとても癒されるものがある。」
「ソフィアさん、ありがとうございます」
「ソフィア、ありがとう」
ルリアは最初ここの料理は嫌っていた様だが今ではすっかり気に入ったようだった。
朝食を頂きながらソフィアさんに敵の様子を尋ねてみる。
「ソフィアさん、敵は今日は攻めて来ていないのでしょうか?」
「はい、今の所その様な報告は受けておりません」
昨日攻め込めなかったからな、何らかの策が無い事には攻め込めないだろう。
「となるとやる事がありませんね、あまりお世話になるもの悪いですし帰っ・・・」
「エルレイ、訓練するわよ」
「そうです、エルレイさん敵が来るまで訓練しないといけません」
俺が帰ろうと言おうとするとルリアとリリーがそれを遮って来た、そんなにこの地が気に入ったのだろうか?確かにここは自然にあふれていてとても落ち着くし、身の危険も無いから自由にどこでも行く事が出来る、ルリアやリリーは普段自由に出歩くことは出来ないから、とてもいい場所なのかも知れないな。
「えーと、ソフィアさん訓練場をお借りしてよろしいでしょうか?」
「はい、ご自由にお使いください、それと何日滞在しても構いませんので、ごゆっくりお過ごしください」
「分かりました、もうしばらくお世話になります」
「はい」
俺がそう言うとルリアとリリーが二人で喜びあっていた、ソフィアさんも笑顔だしこのまま甘えていいのだろう。
俺としては帰ってゆっくりしたかったのだが、まぁ数日様子見て敵が攻めて来なかったらその時帰る事にしよう。
食事を終え訓練場へとやって来た、せっかくだしウィルを自由にさせて置こう。
「ウィル、出て来てくれないか?」
「ご主人様なぁに?」
「敵が攻めてくるまでここにいるから遊んでいて構わないよ」
「分かった、行って来る」
「出かける時は呼ぶから来てくれ」
「はーい」
ウィルは喜んで飛んで行った、今日は遊ぶ相手がいないけどこの場所なら安全だし、ウィルも安心して過ごせるのだろう。
「ルリア、相手をしてくれないか?」
「えぇ、やりましょう、ただし午後は街を見て回るわよ」
ルリアは笑顔でそう言って来た、これが帰りたがらなかった理由か・・・。
「この前買い物はしただろう、また何か買うつもりか?」
流石に頻繁に買い物をさせる訳には行かない、お金が無いわけでは無い、むしろお金は使いきれない位アドルフから渡されている。
本来であればお金はアドルフが管理し、俺達が買い物をする際支払ってくれるわけだが、俺達は特殊で執事を連れて歩かないからな。
だからと言って無駄遣いを今からさせてしまうと、浪費癖が付いてしまうかも知れない。
「別に買い物したい訳じゃないわよ、街を見て回りたいのよ」
ん?エルフの街はもうかなり見て回ったと思うが・・・。
「エルレイ様、ルリア様はエルレイ様とゆっくり過ごしたいとおっしゃっているのです」
俺が疑問に思っているとロゼが説明してくれた、ルリアを見ると少し顔を赤らめていた。
「そうか、気が付かなかった、ルリアごめん」
「ふんっ、私はただ街が見て回りたいだけよ、それより訓練を始めるわよ」
「あぁ、お手やらわらかに頼むよ」
ルリアとの剣の訓練は一時間ほどで終了し、その後は魔法の訓練となった。
ルリアは訓練を午前中に終わらせて、午後は遊ぶつもりの様だ、敵が攻めて来ない事を祈るばかりだな。
魔法の訓練をしていると、そこにワルテさんがやって来た。
「エルレイ君、こんにちは、少し魔法を教えて貰えないだろうか?」
ワルテさんは遠慮がちにそう言って来た。
「ワルテさん、こんにちは、魔法を教えるのは構いませんが精霊とは違う物だと思うのですが・・・」
「そうなんだけど、エルレイ君達がやっている事に、モルと挑戦してみたのだが上手くいかなくて、少しやり方を見せて貰えないかと思ってね」
「分かりました、私が見ていた感じでは、精霊の魔法は魔法の形を変える変化、魔法の威力を高める強化は出来ていると思いますが、魔法を圧縮するのが苦手では無いのかと思います」
それを聞きワルテさんは目を見開き頷いてくれた。
「そうなのだよ、エルレイ君は土を集めてそれを圧縮して固めていた、それが上手く出来なくて困っていたのだ」
「では、それをゆっくりやってみますので、魔力の動きをよく見ていてください」
「魔力の動きか・・・」
ワルテさんは少し困っている様だ、精霊だから魔力が見えると思ったが見えないのだろうか?
「もしかして魔力を見る事は精霊に出来ない事だったのでしょうか?」
「そうだな、精霊は魔力を活動源としているが見る事は苦手なのだよ」
「分かりました、ではやりながら説明しましょう」
「お願いするよ」
俺は一メートル大の岩を作った。
「今からこの岩を魔力で圧縮して行きます、私の想像ですが精霊に頑張って押し固めて貰う感じでしょうか?」
俺はゆっくりと魔力を注ぎ岩を徐々に押し固めて行き、最終的にテニスボール大の大きさまで押し固めた。
「この様な感じです、あれだけの大きさの物をここまで小さくするのですからそれなりに魔力を使います」
「なるほど、モル、やれるだろうか?」
「ご主人様、頑張ります」
モルはそう言うと俺と同じように岩を作り、頑張って押し固め始めた。
岩は徐々に小さくなり半分ほどの大きさになった時、モルが音を上げた。
「もう無理です~」
モルはそう言うと仰向けに倒れてしまった、ワルテさんは慌ててモルを抱き上げた。
「モルお疲れ様、よく頑張った」
ワルテさんが褒めるとモルも喜んでいた。
「モルは大丈夫なんでしょうか?」
「あぁ大丈夫だ、今体内にある魔力を消費しただけだ、すぐ私から魔力を補充して元気になるよ」
「それは良かったです、しかしちゃんと出来ましたね」
俺は半分に縮められた岩を見ながらそう言った。
「あぁ、エルレイ君ありがとう、後は訓練を続ければ出来る様になるだろう」
ワルテさんも岩を見て喜んでいた。
「精霊とは魔力をそんなに多く持っていないのでしょうか?」
俺は力尽きたモルを見ながら疑問に思った事を聞いて見た。
「普段こんな事にならないのだが、ここに来るまで少し訓練をしていたからな」
ワルテさんは苦笑いをしていた、なるほど自分で努力して出来なかったから俺の所に来た訳か。
しかしワルテさんはここにいなかったよな、この訓練場俺達以外いないし他のエルフは訓練とかしないのだろうか?
「ワルテさんはどちらで訓練していたのでしょうか?それと他の人達も訓練をしていない様ですが・・・」
「それはだな、私は普段畑仕事をしているのだよ、他の者も普段の生活で精霊を使っているから特別訓練をすると言う事はあまり無いんだよ」
なるほど、確かに俺もこの街を見て回った時至る所で精霊が活躍しているのを見かけていた。
「そうだったのですね、納得しました」
「それに今まで私達の脅威となる存在がいなかった事も大きい、だがこれからはそうではなくなるのだろう?」
「そうですね、少なくとも魔法が効かない物が存在する事は明らかになりました、しかもそれは人の手によって量産されています、私はこの存在を突き止め破壊するつもりですが、直ぐに出来る訳ではありません・・・」
ワルテさんは俺の言葉を真剣な表情で聞いて居た。
「この戦いを無事切り抜けられたら、私達全体の強化を図って行こうと思う」
「私も出来る限り協力させて頂きます」
「エルレイ君、よろしく頼むよ」
俺とワルテさんの会話が一段落し俺は訓練を再開した、午後は敵も攻めて来ていないので予定通り皆で街をと言うか森の散歩をしている。
そこにはロレーナさんも一緒について来た。
「こうして皆で歩くのは楽しい物じゃな」
ロレーナさんは皆でいるのが嬉しいのかずっと笑顔だ。
「そうだね、俺達もこうやって散歩する事はあまり無いから楽しいよ」
本当にこうしてゆっくり過ごす事はあまり無い、もう少しこういう時間を増やしていきたいものだ。
「エルレイさん、ずっとこうしていたいですね」
リリーは俺の横で手を繋いで微笑んでいる、この散歩の間交代で手を繋ぐ事が出かける時にリゼ提案で決められた。
「その割にエルレイは何か考えている様だけど?」
ルリアには俺が考え事をしていることがばれたようだ、朝の訓練が終わってから魔法が効かない相手の対策を考えていたのだが良い案が思い浮かばずにいた。
「散歩の間黙っておこうかと思ったのだが、魔法が効かない相手の対策が何かないかと考えていたんだよ」
「そう・・・」
俺がそう言うとルリアは腕を組み考え込んでしまった。
「エルレイ様が以前ゴーレムにやった方法では駄目なのですか?」
リゼが首を傾げてそう言ってきた。
「その手段は俺しか使えないし避けられる可能性も高い、こちらには魔法が効くから軌道はずらされる事もあるだろう」
「そうですね・・・」
リゼも考え込んでしまった、魔法が効かないからリゼが言うように物理攻撃しかないのだが、敵の数が多く剣で斬りかかる訳にもいかない。
銃や大砲等作れればいいのだろうが、残念ながら構造をよく知らないし、作れたとしても火薬が無い・・・。
いや待てよ、別に火薬で飛ばす必要は無いよな、何となく見えてきた気がする。
「皆今はその事を忘れて散歩を楽しもう」
「そうね、そうしましょう」
しばらく歩き続け木陰のいい場所を見つけて休憩する事にした。
いつもの様にテーブルと長椅子をストールウォールで作り、ロゼがテーブルクロスを引き、リゼが魔法でお湯を出しお茶を入れてくれた。
「これはすごいのじゃ、こんな風にお茶が楽しめるとは思わなかったのじゃ」
「ロレーナさんは俺が作ったテーブルを眺めて感心していた。
「そうね、それにこの森の中でのお茶はとても心が落ち着くわ」
ルリアはいつもより穏やかな表情をしていた。
確かにここはとても心が落ち着く・・・。
「エルレイさん、ここで暮らすことは出来ないのでしょうか?」
リリーがそう問いかけて来た、確かにここで暮らせるのなら苦労なく平和に暮らせるだろう。
「そうだなぁ、出来ればそうしたいが今領地を放り出す無責任な事は出来ないな・・・」
「そうですね・・・」
リリーは肩を落とし残念そうな表情を浮かべていた。
リリーもそれが出来ない事は分かっているのだけど、こうしてのんびりし過ごしているとそう思ってしまうよな。
「しかし、たまにここに来て過ごす事は出来るだろう、女王様もそれ位許してくれるだろうさ」
「そうですね!」
リリーは笑顔を取り戻してくれた。
「そうじゃとも、女王様は懐が深いからそれ位許してくれるのじゃ、それに私と婚約するのだからな、ここにはいつでも遊びに来て構わないのじゃ」
ロレーナさんは少し顔を赤らめてそう言ってくれた。
「はい、エルレイさん時間がある時はここへ遊びに来ましょう」
「あぁ約束しよう」
今度遊びに来るときは留守番している三人も連れて来ないとな。
「ところでロレーナ、一つ聞いて置きたいのだけど、ロレーナは貴族だったりするのかしら?」
ルリアがロレーナさんに問いかけた。
「そのような者では無いのじゃ、この国に貴族などいないのじゃ」
ロレーナさんは手を横に振りそう答えた、外の街にも街長はいたが貴族がいるとは聞いていないな。
「そうなのね、しかしそれは困ったわね・・・」
ルリアは腕を組み眉をひそめて考え込んでいた。
「ルリア、何か問題でもあるのか?」
「そうね、ロレーナが貴族では無いとすると、エルレイの婚約者として相応しく無い事になるのよ・・・」
ルリアは申し訳なさそうにロレーナさんの方を見てそう言った。
「貴族で無いとエルレイと婚約出来ないのじゃ?」
ロレーナさんは困惑気味にルリアに問いかけた。
「ロレーナ、勘違いさせたようでごめんなさい、婚約は問題無く出来るわ、ただ私達の国の事情でエルレイとの正式な婚約者になれないというだけの話なのよ」
「どういうことなのじゃ?」
ロレーナさんはルリアの説明を聞いてさらに混乱していた、婚約できるのに出来ないと言われているのだから当然だろう。
「そうね、ロレーナが貴族や王女であったのであれば問題無かったのだけど・・・」
「ルリア、女王様にお願いしてロレーナさんを王女と言う事にして貰えばいいのでは無いかしら・」
リリーがそう提案してきた、なるほどそれなら問題が無くなるな、しかも外の人は誰もルフトル王国の内情を知らないからばれることは無い。
「それはいい考えね、女王様にお願いしに行きましょう」
ルリアもリリーの意見に賛同していた。
「待つのじゃ!私が王女などととても恐れ多いのじゃ・・・」
ロレーナさんが二人を慌てて止めた、ロレーナさんはハーフエルフと言う負い目があるから王女だと言われればそれを是とは言えないだろう。
「ロレーナさん、あくまでソートマス王国向けですから、何も問題無いんですよ」
リリーはロレーナさんを説得しようとしたが納得はしてくれない様だった。
「しかしじゃ・・・」
「ここで話していても決まるわけでは無いから、女王様の所に行って見ようか」
俺はそう言って席を立ち、困っているロレーナさんの手を握った。
「そうしましょう」
「そうですね、女王様も説明をすれば分かってくれると思いますしね」
「えっ、えっ」
ロレーナさんを引っ張り歩き始めた、その前に先程思いついた事を試しておきたいな。
「皆先に訓練場に寄って行っていいか?」
「エルレイ、どうしたのかしら?」
ルリアは今から女王様の下に行こうと張り切っていたからそれを止められ少しむっとしたような表情を浮かべていた。
「先程魔法が効かない相手への対策で少し思いついた事があって、それを試してみたいんだよ」
「分かったわ、それなら飛んで行きましょう」
「うん、そうしよう」
俺はロレーナさんに飛行魔法を掛けて背負い、前にリゼを抱えて訓練場へ飛んで来た。
「それでエルレイ、何を試すのかしら?」
「ちょっと待っていてくれ」
俺は土を固めて弾を数十個作り出した。
「エルレイ、これを魔法が効かない相手にぶつけるのかしら?」
ルリアは俺が作った弾を一つ摘んで不思議そうに眺めていた。
「そうだ、皆も一個づつ持って見てくれ」
皆もそれを拾い上げ見ていた、俺は標的となるストーンウォールを出した。
「皆知っている通り魔法は形を作った後、魔力を使って撃ち出しているよな、今拾って貰った物を魔力で撃ち出して貰いたい訳だ、試しに俺がやってみるよ」
俺は弾を手の平に乗せ、それを魔力で浮かし、回転を付けてストーンウォール目掛けて撃ち出した。
弾は問題無くストーンウォールに当たり砕け散った、軽く作った物だからこんな物だろう。
「それと打ち出す前に回転を付けるのを忘れないでくれ」
「回転?どうして必要なのかしら?」
ルリアは首を傾げてそう聞いて来た。
「回転を付けると真っすぐ飛ぶんだよ、回転を付けないで撃ち出してみると分かるよ」
「分かったわ」
ルリアは回転を付けずに弾を撃ち出した、やはりその事は簡単に出来たが回転を付けない弾はストーンウォールの端に当たり弾けた。
ルリアは次の弾を取り今度は回転を付けて撃ち出し、それは見事にストーンウォールの真ん中に命中した。
「こんなにも違う物なのね、普段使う魔法は普通に当たるのに・・・」
ルリアはなぜこんなに違うのか分からない様だった。
「それはルリアの魔法に風を纏わせているからだよ、回転を付けたのは風に流されないようにするためだからな」
「そうなのね、分かったわ」
ルリアは火の魔法にも威力を上げる為風を纏わせているから、風の抵抗を気にする必要が無かったのだ。
「エルレイさん、出来ました」
リリーも弾を撃ち出し当てる事が出来て喜んでいた。
「エルレイ様、撃てましたけど威力が弱くて敵が倒せるとは思えません」
リゼが不満そうな顔で俺にそう言って来た、それならばと俺は鉄の様に土を固めて弾を作り直しリゼに渡した。
「リゼ、これで試して見てくれ」
「分かりました、先程より少し重いですね」
リゼは受け取った弾を手の平を上下に振って重さを確認してから先程と同じように撃ちだした、今度の弾はストーンウォールを貫通して行った。
「エルレイ様これなら相手を倒せそうです」
リゼは弾が貫通して喜んでいる、その横で上手く撃ち出せずにいる人がいた。
「ソル、上手くいかなのじゃ・・・」
「「くぅぅぅん」」
ロレーナさんとソルの双頭はがっくりと頭を垂れていた、火の精霊を使うから弾は燃えて、強く撃ち出そうとすると弾は燃え尽きてしまっていた。
「火の精霊には難しいかも知れませんね、他の精霊だと上手くいくと思うのですが・・・」
「仕方ないのじゃ・・・」
ロレーナさんとソルはとぼとぼと後ろに下がって行ってしまった、方法が無いわけでは無いが・・・。
火縄銃の様な物を作りに弾を込めて、爆発を精霊にやって貰えば簡単に出来ると思うが、それを作ってしまうと何となく不味い気がする、出来るだけ以前の記憶を持っている事を知られたくは無いからだ。
ルリア達でも俺が生前の記憶を持っている事を知ると、気味悪いと思われ嫌われるかもしれないからな・・・。
「エルレイ様、これを全員分お作りになるのでしょうか?」
ロゼが弾を持って形を確認しながら聞いて来た。
「そうだな、一人二十個位だろうか、それ以上は重くて持てないだろうし、エルフの分はワルテさんに教えて必要なら作って貰う事にするよ」
「承知しました」
「それに今回は吸魔石に魔力を吸わせて魔物にするから、魔法は効くのでは無いかな?」
「そうですね、では今の内に人数分作って置きます」
「俺も手伝うよ」
「はい」
ロゼと二人で弾を作り上げ収納に収めた。
「では少し遅くなったが、女王様の所へ向かおう」
「分かったのじゃ」
「行きましょう」
王城へ行き女王様の下へ向かった、女王様の部屋へ入ると、そこにはウィルが女王様の周りを飛び回り遊んでいる様だった。
「あら、エルレイいらっしゃい」
女王様は俺達の突然の訪問にも拘らず笑顔で迎え入れてくれた。
「女王様、ロレーナさんの事でお願いがあってまいりました」
ウィルがこちらを見ていたが、まずはロレーナさんの事を話さないとな。
「ロレーナの事とは何かしら?」
「はい、ロレーナさんが私の婚約者となった事ですが、私はソートマス王国で侯爵位を頂いております、ロレーナさんを婚約者として迎え入れる為、名目上ルフトル王国の王女、もしくは貴族として頂きたいのです」
「ではロレーナを王女と言う事にします」
女王様は優しく微笑んでそう言ってくれた。
「女王様、私が王女などといいのじゃろうか・・・」
ロレーナさんは自信なさげに女王様にそう言った。
「もちろん構いません、誰もこの国の内情を知る物などいないのですからね」
女王様はロレーナさんを優しい目で見つめていた。
「女王様、ありがとうございます」
「こんな事でロレーナが幸せになるのなら構いませんよ」
「女王様、ありがとうなのじゃ」
ロレーナさんは涙を流して女王様に感謝の意を伝えていた。
「女王様、ウィルがお世話になっていた様ですみません」
「構いませんよ、ウィルにエルレイの事を色々聞いていましたからね」
女王様はウィルから何を聞いたのだろう、とてもいい笑顔をしていた、深く追求しない方が良さそうだな・・・。
「そうでしたか、ウィル、戻って来てくれないか?」
「はーい」
ウィルは女王様にお辞儀をしてこちらに来てくれた、この前ここで遊んで貰って、今日もここにいた事でウィルは少し明るくなったような気がする。
「では女王様失礼します」
「エルレイ、いつでも来て貰って構いませんからね」
女王様は優しく微笑み俺達を見送ってくれた。
女王様の部屋を出るとソフィアさんが来てくれた。
「エルレイ様、夕食の準備が出来ております」
「ソフィアさん、ありがとうございます」
ソフィアさんに案内され食堂へ行き夕食となった、ウィルは何やら楽しそうに俺の周りを飛び回っていたので姿を現したままだ。
この地にいる間は隠れている必要は無くなったのだろうとても良い事だ。
「ウィル、今日はいい事あったのだろうか?」
「うん、ご主人様、今日エル様に魔法教えて貰って使える様になったの」
遂にウィルが魔法を使えるようになったのか!所でエル様とは俺の事じゃないよな?
「そうか、それは良かった、エル様とは誰の事だろうか?」
「エル様はエル様だよ!」
ウィルはそう言って来たが俺には分からない・・・俺が困っているとソフィアさんが教えてくれた。
「エルレイ様、エル様とは女王様の精霊の事です」
なるほど、そう言えば女王様の精霊一度も見た事が無かったな・・・しかしエル様とは紛らわしい名前だ。
いやどちらかと言うと、俺が後に生まれている訳だから俺の方が紛らわしいのか・・・名前の事はどうでもいい、それより魔法だ。
「ウィル、どんな魔法を教えて貰ったのだ?」
そもそもウィルは光の精霊で、それに魔法を教えると言う事はエル様も光の精霊なのだろうか?
「うんとねぇ、姿を変える魔法だよ」
姿を変える魔法、見た目を変えるだけだろうか?
「エルレイ様、その魔法は私達が結界の外に出る時エル様に掛けて貰っている物です」
ソフィアさんを始めて見た時は金髪で耳も普通の大きさだった、なるほどそれは便利だな。
「ウィル、今使えるだろうか?」
「うん、使えるよ」
「ではリゼに掛けて貰えるかな?」
「分かった」
ウィルが魔法?いや精霊を使役しているのだろうその情報が俺にも伝わってくる、なるほど、俺がイメージをしてそれをウィルに伝えないといけない様だな、俺はある女性の姿をイメージし、それをウィルに伝えるとリゼの見た目が変わった。
「アルティナじゃない、エルレイ他の人に出来なかったの?」
ルリアは俺がリゼをアルティナ姉さんにしたのが気に入らない様だった、ルリアがアルティナ姉さんの事が嫌いなわけでは無いのだが、俺が選んだことが気に入らないのだろう、ラウラにしておけば問題は無かったのだろうが、とっさに思い付いたのがアルティナ姉さんの顔だったから仕方が無い。
「アルティナさんそっくりです」
リリーはアルティナ姉さんの姿になったリゼを見て驚いていた。
リゼは自分の姿がメイド服から変わっている事に気が付いているが顔は見えていない、俺は収納に入れてある鏡を取り出しリゼを映して見せた。
「すごい、アルティナ様そっくりじゃないですか、これは一目見た位でばれませんよ」
リゼは自分の姿を鏡を通して前や後ろをしきりに見ていた。
「でも声はリゼのままですね」
ロゼは冷静に告げた。
「そうだな、話さなければ見破れないだろう、ところでソフィアさん、これはどれ位維持されるのでしょう?」
ソフィアさんは少し考えてから話してくれた。
「・・・そうですね、エルレイ様は魔力が多いですから二、三日は持つのでは無いでしょうか、ちなみにエル様のは私達が解除しない限り維持されます」
エル様凄いな、だてに千五百年生きていない・・・。
「ところで、解除するにはどうしたらいいのでしょう?」
アルティナ姉さん姿のリゼが首を傾げて聞いて来た、しかしアルティナ姉さんの姿でリゼの声は違和感がありすぎる。
「リゼ様、心の中で自分の姿を強くイメージすると解除されますよ」
「分かりました、やってみます」
アルティナ姉さん姿のリゼは眉を顰め、念じる様な表情を見せたとたん元のリゼに戻った。
「簡単に元に戻れました」
リゼは鏡で自分の顔とメイド服を確認して安堵していた、やはり自分の姿の方が安心するのだろうか。
「ソフィア、この魔法は身長とか関係あったりするのかしら?」
「身長の高低は関係ありませんが動くとずれが生じます、例えばルリアさんを私の姿にした場合、歩く歩幅が違いますから不自然な歩き方をしているように見えます、それと頭を触られるとそこには何もありませんので素通りしてしまいます」
ルリアは誰かに姿を変えたいと思ったのかソフィアさんに質問していた、しかしその質問は使う際に注意しておかないといけない事だな。
「ソフィア、ありがとう」
「ルリアはなぜそのような質問をしたんだ?」
「街に出掛ける際、大人の姿になれば不要ないざこざに巻き込まれないかと思ったのよ」
なるほど、でも俺達が姿を変えても護衛は着けられるだろうからあまり意味が無いような気がする。
「そうか、という事はまた街に行きたいという事だな」
「そうよ、悪い?」
俺がそう指摘するとルリアは少し顔を赤らめてぷいっと横を向いてしまった。
「いや悪くは無い、また行くと皆にも約束したからな、どうせ護衛は着くのだから精々リリーの髪の色を変える程度でいいんじゃないのか?」
「エルレイさん、それは嬉しいです」
リリーは髪の色を変えられると聞いてとても喜んでいた
リリーは髪の色の事があって街に行くのを躊躇っていたからな、その事を解決出来ればやはりリリーも街へ行きたかったのだろう。
「エルレイ様、私の髪の色を変えてください!」
リゼが髪の色を変えてくれと言って来た、何となく理由は分かるが一応聞いて見るか。
「はい、エルレイ様達にはロゼと間違えられないのですが、城に努めている他の使用人達から間違えられるので、色が違うと間違えられずに済むかと思ったのです」
そうだろうな、しかしリゼとロゼの青い髪は気に入っているので変えて欲しく無いが、まぁ試してみる分には構わないだろう。
「リゼ、髪の色を変えるとしたら何色が良いんだ?」
リゼは俺を見て即答した。
「それはもちろんエルレイ様と同じ金色に決まってます!」
似合うかどうかは分からないが本人の希望だし叶えてやろう。
「ウィル、リゼの髪の色を変えてやってくれ」
「うん、やるよー」
ウィルは元気よくリゼの髪を金色に変えた、普段見慣れて無いから違和感がある、暫くしていれば慣れるのだろうけど・・・。
「リゼに金色の髪は似合って無いわね」
ルリアは容赦なく言い切った、リゼも鏡を見て微妙な表情をしている。
「私も髪の色を変えるとこの様になるのですね、私は今のままで十分です」
ロゼはリゼの金色の髪を見て自分の姿を思い浮かべたのだろう。
「リゼ、皆見慣れて無いだけで明日になればきっと似合って見えるかも知れないですよ」
リリーは助けようと思って言ったのだろうがリゼに止めを刺した様だ・・・。
「元に戻します・・・」
「リゼ待ってくれ、折角だからそのままでいてくれないだろうか?魔法がどれくらい持つのか知りたいし」
「・・・分かりました」
俺がそう言うとリゼは渋々承諾してくれた。
賑やかな夕食を終え就寝となった。
翌朝着替えを済ませているとソフィアさんが慌てて部屋にやって来た。
「エルレイ様、敵が攻めてきました、準備が整いましたら城の玄関までお越しください」
ソフィアさんはそれだけ告げるとどこかに行ってしまった。
「はぁ、たった一日でまた戦闘か・・・」
「いいじゃない、早く終わらせて帰りましょう」
俺がため息をついているとルリアがそう言って来た、確かに今日で終わらせて帰れればそれに越したことは無いな。
「そうだな、では皆油断しないで気を引き締めて行こう」
「分かったわ」
「はいエルレイさん」
「「承知しました」」
準備を終え城の玄関に行くとソフィアさんが待っていた。
「ソフィアさん、お待たせしました」
「いえ、私も今来た所です、それより皆様これをお食べ下さい」
ソフィアさんは俺達に一個ずつ赤い果物を渡してくれた、俺はそれを齧るととても甘くて美味しい物だった。
皆も同様に食べて見て美味しいと言っていた。
「ソフィアさん、これとても美味しいですね」
俺がそう言うとソフィアさんはにっこり微笑えみそれが何かを教えてくれた。
「この果物は大樹の実でとても栄養があるのですよ」
「大樹の実ですか、これはとても貴重な物なのでは無いでしょうか?」
「そうですね、私達も緊急時やお祝い事の時位しか食べられません」
その様な物俺達が食べてしまって良かったのだろうか、もう食べてしまったから返せないけど・・・。
「ソフィアさん、ありがとうございました、では向かいましょうか」
「はい、では皆様結界まで送ります」
ソフィアさんに送られて結界の外へ出て、そこからは俺の転移で砦まで移動してきた。
他のエルフ達は俺達より先に出ていたのだが、当然まだ誰も着いておらず俺達だけだ。
俺は収納より昨日作った弾を取り出し、それをロゼが用意してくれた袋に二十発ずつ入れて皆に渡した。
ロゼの作った袋は腰に下げられるよう紐が付けられており、持ち運びに困ることは無かった。
「少し重いけど、これなら動きの障害になることは無いわね」
「そうですね良く出来ています、ロゼありがとう」
ルリアとリリーは袋を腰に下げ邪魔にならないか確認していた、俺も腰に下げ問題無い事を確認した、流石に戦闘時に収納から取り出している余裕は無いだろうからな。
「皆様、それは何を準備しているのでしょうか?」
ソフィアさんが袋の中を覗き込むように顔を近づけて聞いて来た、ソフィアさんからいい匂いがして来たが、それは今気にしている時では無いな。
「昨日作ってみた物なのですが、魔法が効かない相手にこれを当てて倒せないかと思いまして」
俺は弾を一つ取り出しソフィアさんに渡して見せた。
「これは土を固めた物でしょうか?」
「えぇそうです、他の皆さんの分を作る時間も、それを撃ち出す練習をする時間もありませんでしたから、とりあえず私達の分だけですね」
「エルレイ様は面白い事を考えますね、しかしこんな物で敵を倒せるのでしょうか?」
ソフィアさんは弾を袋に戻しながら聞いて来た。
「そうですね、ワルテさんが岩を飛ばしていますよね、あれと同じ事です、違うのは飛ばす物が魔法で作られているかそうでないかだけです」
「そうなのですね、それなら敵は倒せそうですね」
「ただ大量に用意する必要があるのと、運ぶのが大変なのであまり実用的では無いですね」
「私達がやろうとすると、その場でワルテさんに作って貰って飛ばす事位しか出来そうにないですね」
ソフィアさんは少し残念そうな表情をしていた、魔法が効かない相手にどうする事も出来なかったからな、少しでもやり返したいのだろう。
「今日は間に合いませんでしたが、作り方や飛ばし方などワルテさんに伝えておきます」
「はい、エルレイ様よろしくお願いします」
ソフィアさんともう少し話して居たいがそう言う訳にも行かないな、偵察に出て見ないといけない。
「ルリア、リゼ、偵察に行こうか」
「分かったわ」
「はい」
リゼを抱き上げルリアと共に偵察に向かった。
「ルリア、高度を上げて行こう」
「分かったわ、この前の様に補給部隊を襲うのかしら?」
「いや、流石に同じ事は通じないだろうから敵部隊を確認したら戻るよ」
「そうね、普通一度やられた事には何かしら対策を取っているでしょうからね」
ルリアとも意見が一致した、出来るだけ危険な所には近づきたく無い物だ。
しばらく進むと敵部隊が見えて来た。
「どうやらこの前と同じ規模の様だな、増援とか頼まなかったのだろうか?」
「どうかしら?何の策も無いまま来るとは思えないわね」
「エルレイ様、敵部隊の背後に補給部隊も見えます」
リゼの言う通り背後に補給部隊と見られる車列があるな。
「なるほど、こちらの攻撃が効かないから補給部隊を離して置く必要も無い訳だな」
「そうね、ただ進軍は遅くなりそうね」
「まぁ、こちらもまだそろって無いから、急いで来られても困るから丁度いいな、では戻ろうか」
「えぇ、そうしましょう」
「はい」
特に急ぐ必要も無いので俺達はそのまま飛んで砦へと戻った、砦にはまだ他の人達は着いていなかった。
「エルレイ様、お帰りなさいませ、敵は確認できたのでしょうか?」
「はい、この前と同じ規模の部隊でした、補給部隊も一緒に行軍していましたのでここに来るのは時間が掛ると思います」
「こちらはもうすぐ到着するそうですので、間に合って良かったです」
ソフィアさんは安堵の表情を浮かべていた、それから暫くしてから皆さんが到着し作戦会議となった。
「今回は敵部隊に魔法を放って吸収させる事が目的です、ですのでワルテさんとカーメラさんの部隊にも攻撃をして頂きます」
「分かったよ」
「分かりましたわ」
ワルテさんとカーメラさんは頷いて了承してくれた。
「魔法は何でも構いません、兎に角全力で撃ち出して下さい、それからマルギットさんの部隊は、撤退出来るだけの魔力は残しておいて下さい」
「分かっておる、それよりもエルレイ、本当に魔物を任せていいんだな?」
マルギットさんは真剣な表情で俺を見て来た。
「はい、皆さんに被害が出ない様全力を尽くします」
「そうでは無い!お前達も無事に戻って来れるのかと聞いている!」
マルギットさんはやや怒った様子だが、俺達の事を心配してくれているんだな、確かマルギットさんは仲間思いだとワルテさんが言ってたな、どうやら俺達も仲間と認めてくれたようで嬉しく思う。
「それはもちろん、まだこの歳で死ぬ訳には行きませんからね」
俺は笑ってそう答えた。
「ふんっ、分かっておればそれでいい」
マルギットさんは照れ臭かったのか横を向いてしまった。
「もし敵が空を飛んできた場合、敵の数にもよりますが少数の場合私達で対応します、数が多い場合はマルギットさんに応援を頼みますので、よろしくお願いします」
「分かった、お前たちの安全は俺が守ろう」
マルギットさんは堂々とそう言ってくれた、正直姿形の整ったエルフにそう言われるととても格好いいと思ってしまった。
「敵が近づいてきた様だぞ、そろそろ配置に付かないと間に合わなくなるぞ」
マルギットさんは偵察から連絡が入ったのだろう、敵が近づいて来た事を知らせてくれた、それと同時に皆塔へ移動して行った。
「配置はこの前と同じだ、ソフィアさんルリアの事お願いします」
「はい、承知しました」
ソフィアさんは真剣な表情だ、ルリアは余程の事が無い限り大丈夫だと思うが、今回は戦った事が無い魔物が相手だ、何かあった場合ソフィアさんがいれば安心だ。
「ルリアも無理はしないでくれ」
「心配しなくても大丈夫よ」
ルリアは自信満々の様だ。
「リリー、今回は魔力を温存しておいてくれ、魔物との戦いが本番だからな」
「エルレイさん、分かりました」
リリーはいつも通り落ち着いた様子だから問題無いだろう。
「ロゼ、リリーの事を頼むがロゼも十分気を付けるんだぞ」
「はい、承知しております」
ロゼはいつになく真剣な表情で緊張している様だ、魔物と言う未知の相手だから仕方ない、俺はロゼの緊張をほぐそうと抱きついた。
「エルレイ様!」
突然の事にロゼが驚いていた。
「ロゼ、無理はしない様に、危なくなったらリリーを連れて逃げて構わないからな」
「はい、エルレイ様も無理をなさらぬようお願いします」
「あぁ、分かったよ」
ロゼの緊張もほぐれたようなのでロゼから離れた、するとリゼが手を広げて待っていた・・・。
俺はリゼの横を素通りして後ろに、回り飛び上がるために抱きかかえた。
「エルレイ様、ロゼには抱き付いたのに私には無しですか!」
リゼは俺の耳元で騒いでいた、正直うるさくて無視したいが機嫌を悪くされても困る。
「リゼにはこっちの方が良いと思ったのだが、違ったのだろうか?」
俺がそう言うとリゼは少し考えてから答えた。
「・・・これはこれでいいんですけど、やはりたまには正面から抱きしめて貰いたいのですよ」
「分かった、今は時間が無いから後で抱きしめてやろう」
「約束ですからね」
リゼは納得してくれたようで大人しくなってくれた、忘れない様にしないといけないな。
リゼを抱えて中央の塔へ降り立った、そこにはすでにロレーナさんが配置に付いていた。
「ロレーナさん、頑張ってくださいね」
「任せるのじゃ、火の精霊はこういう時出ないと活躍の場が無いのじゃ」
ロレーナさんは張り切っている様子だ。
「普段料理とかで火を使う機会はあると思うのですが?」
「そうじゃが、その作業はとても神経を使って疲れるのじゃ、今日は何の遠慮する必要無いからソルも張り切っておるのじゃ」
「「頑張るワン」」
ソルは尻尾を思いっ切り振ってとても喜んでいた、やはり犬だな・・・。
そうしているうちに敵部隊が徐々に近づいて来た。
「ロレーナさん、攻撃準備をお願いします」
「分かったのじゃ」
周りに緊張が走る、敵があと少しで射程内に・・・入った!
「攻撃開始!!」
俺の掛け声と共に精霊による一斉攻撃が開始された。
≪リースレイア王国軍サイド≫
時をさかのぼる事一日前、パーヴェルは補給基地で援軍を待ち続けていた。
「遅い!!奴ら飛んで来る癖にいつまでかかるのか!!」
昨日の内に援軍要請をし、今朝出立したとの連絡を受けてから時はもう既に昼を過ぎ夕刻近くになっていた。
パーヴェルの予想だと援軍は午前中にこちらに着くはずだ、その到着を待って午後から攻め込む予定にしていたのだ。
それなのに何をやっとるのだあいつらは・・・苛立ちが最高潮に達した頃ようやく援軍の飛空魔剣部隊の到着がパーヴェルの下に知らされた。
「第一魔剣軍団所属、飛空魔剣部隊隊長ヨルゲン、応援要請を受けただいま到着致しました」
淡々と告げるヨルゲンにパーヴェルは怒りを抑えきれなかった。
「遅い!!出立の連絡を受けてからどれだけ時間が経っていると思っておるのだ!!」
パーヴェルの怒りの表情を見てもヨルゲンは表情を変えず理由を伝えた。
「出立しようとした所、ガロ殿に足止めされ、これを部隊全員に配備され、その為多少遅れた次第であります」
ヨルゲンは腰に下げた二本の魔剣の内、一つを掲げてパーヴェルに見せた、それは今部隊に配備されている魔剣だった。
パーヴェルはそれを見てこれ以上怒る訳には行かないと諦めた・・・。
「遅れた理由は分かった、なぜその事をこちらに伝えなかった!」
「伝えたつもりでしたが、パーヴェル殿に伝わっておりませんでしたか、そもそも今日中に着けば明日には間に合うはず、パーヴェル殿は我らと協議して、協力していく作戦も無しに攻め込むおつもりでしたか?」
ヨルゲンは表情を変えず状況を正確に伝えた、パーヴェルはヨルゲンに馬鹿にされたようで頭に来たが、ここでさらに怒っては自分が無能だと認める事になる。
「そうでは無いが作戦を立てる時間が貴様たちが遅れた事で少なくなったでは無いか!」
「それは申し訳ございません、ではそちらの状況を説明して頂き、作戦を立てる事に致しましょう」
ヨルゲンの表情は最初から変わっておらず、冷静にこちらを見て判断を下してくる、軍人としては正しいのだろうが見下されている様な感じが常にしてパーヴェルは不快に思う。
こちらの状況を話すとヨルゲンはあまり考えた様子もなく淡々と自分の役割を告げた。
「では我らは砦内部に入り、斬り崩す事に致します」
「うむ、それで貴様の部隊の人数は何名連れて来たのだ?」
「三十名率いてまいりました」
ヨルゲンから数を告げられ、数の少なさにパーヴェルは驚きと共に怒りを覚えた、飛空魔剣部隊は総勢二百名居た筈だ、それをたった三十名とはふざけてるとしか思えなかった。
「三十名だと!アンドレアルスのやつこちらを助けるつもりが無いのか!!」
パーヴェルは怒りに声を荒げた。
「アンドレアルス軍団長は三十名で十分だと判断を下し私に任せて頂きました、パーヴェル殿は我ら精鋭の実力をお疑いでしょうか?」
ヨルゲンは表情を変えぬままそう言って来た、確かにこいつら飛空魔剣部隊は精鋭ぞろい、ただ飛べるだけでは部隊に入る事は出来ないのだ、しかしせめて百名はいないと、いくら精鋭と言えども厳しいのではと思ったが、三十名で攻め込み負傷者が出ようとこいつらの責任だな・・・パーヴェルはそう考え任せる事にした、どうせこいつら俺の言う事を聞くわけでは無いからな。
「分かった、貴様らの実力は把握している、砦に攻め込む判断は任せる」
「ありがとうございます、ではこれで失礼します」
ヨルゲンはそう言って退出して行った、協力や作戦と奴は言っていたが、そんなもの最初からこちらとするつもりは無いのだ、奴らはアンドレアルスの命令しか聞かないからな。
こちらも砦に侵入出来る様、梯子やロープ等準備をせねばなるまい・・・。
朝早くから補給基地を出立した、今回補給部隊も護衛に割く兵を無くすため後方に組み込んでの進軍だ、多少行軍速度が落ちるがやもうえまい。
進軍を続けているとまた上空に敵の偵察が現れた。
「ヨルゲン、偵察を斬り殺してこい!」
パーヴェルはヨルゲンに命令したが、ヨルゲンはそれを受け入れなかった。
「たかが偵察数名の為に我が部隊を動かす事は出来ません、戦いに向け魔力の温存をしておかねばなりませんので」
ヨルゲンは冷静にそう告げた、飛行魔法は上級魔法でそう何回も使える物では無い、ソートマスの宮廷魔法使いですら上級魔法四,五回しか撃てないのだ。
パーヴェルもその事は分かっていたが、前回補給部隊を壊滅させられていたため迎撃を命じた訳だが、どうやらその心配は無用だったようだ、偵察はすぐ引き返して行った。
偵察にこちらが進軍している事はばれたが、やる事は変わりない、敵の魔法はこちらに通用しない事は分かっているのだから、砦にいる敵兵を斬り払うのみ。
「このまま進軍せよ!」
パーヴェルの命令と共に砦に向け再び進軍を開始した。
やがて砦を確認できる位置まで辿り着いた。
「ヨルゲン、敵は全員飛行できる、そのつもりで対応してくれ」
「分かりました、ではこれより我らは独自に動かせて貰います」
ヨルゲンはそう言うとさっさと自分の部隊の所に去って行った、奴らが砦を混乱させてくれれば、こちらも楽に砦に侵入出来ると言う物だ。
「目標は眼前の砦!相手の魔法はこちらに効く事は無い、臆せず進軍せよ!!」
「「「おおぉ!!」」」
パヴェルの掛け声に兵士も答え砦へに向け一気に進軍して行った。
≪エルレイサイド≫
精霊達による魔法の一斉攻撃が次々と敵軍に吸い込まれていく、その光景を塔の上から見ていると、敵部隊の背後から飛び上がってこちらに攻めて来る部隊を確認した。
『ルリア、ロゼ、上空から敵の部隊が来た応戦する、十分気を付けてくれ』
『分かったわ』
『承知しました』
『リリーはそのまま塔で待機だ』
『はい、分かりました、エルレイさん気を付けてください』
『ソフィアさん、ルリアの事はいいので味方を守ってください』
『分かりました、エルレイ様、お気を付けて』
俺はリゼを抱えて上空に飛び立った、数十メートル先に数十名の敵部隊を確認。
『敵は多くない、魔法を撃ち込むぞ!』
『遠慮なく打ち込んでやるわ』
『はい』
「リゼ、全力で打ち込んでやれ!」
「はい、こう言うのを待ってたんですよ、張り切って行きますよ!」
ルリアもロゼもリゼも張り切って魔法を撃ち込んでいた、俺も同じ様全力で魔法を撃ち続ける。
敵はやはり魔法を吸収している様で一切被害を与える事は出来なかった、しかしその事は分かっていたので吸収されてなお撃ち込み続けた。
眼下で精霊による魔法攻撃が激しさを増し、攻撃の手を緩めることなく続けられていた。
それから暫くして精霊の攻撃が止んだ、どうやら力を使い果たした様だ。
『エルレイ、こちらはもう攻撃する事が出来ない』
マルギットさんからそう連絡を受けた。
『分かりました、しばらく様子を見ましょう、マルギットさんはいつでも皆を連れて逃げられるようにしてください』
『分かった、魔物にならなかったらどうするのだ?』
『その時は私達で魔法を撃ち込みます』
『エルレイ、無理するなよ!』
マルギットさんとの念話を終え、目の前の敵を確認すると少し様子がおかしい事に気が付いた、ルリア、ロゼ、リゼの攻撃は今も続いている。
『ルリア、ロゼ、リゼ、少し攻撃を止めてくれ、敵の様子がおかしい』
『分かったわ』
『承知しました』
『はい』
今まで魔法を吸収していた魔剣が激しく輝きだし、その光は敵兵を包んでいく。
「マスターよく見てな、あれが吸魔石が生物を飲み込む瞬間だぜ!」
グールがその様な事を言って来た、生物を飲み込む?魔物を生み出すのでは無かったのか!
目の前の光景はまさに人が光に飲み込まれ、その体は膨れ上がり、背中からは蝙蝠の様な羽が生え肌の色も灰色に変わっていた。
『エルレイ、あれが魔物かしら!』
ルリアは初めて見る魔物に驚きの声を上げていた。
『ルリア、ロゼ、纏まって行動しよう』
『分かったわ』
『はい、エルレイ様、あれが魔物で間違いないのでしょうか?』
『グールは吸魔石が人を飲み込んだと言っているが、あれが既に人で無い事は確かだろう・・・』
『分かりました』
二人共俺の所に集まって来て、その時敵部隊から魔物の物と思われる咆哮が聞こえて来た。
「「「グォォォォォォォォォ!!」」」
数十名の敵部隊は人の二倍ほどの体格に灰色の肌、蝙蝠の様な翼を持った魔物と姿を変えていた。
『エルレイ、地上の敵部隊が魔物に変化したぞ!!』
マルギットさんから慌てたような声が聞こえて来た、眼下を見ると地上の敵部隊も同じ様に魔物に変化している様だった。
しかし地上にいる魔物には翼の様な物は見受けられない、よく観察したいが今は目の前の敵の殲滅が先だ。
『マルギットさん、皆を後方に下げてください、私はこちらの敵を排除してから地上に向かいます』
『分かった、エルレイ任せたぞ』
皆の事はマルギットさんに任せておけば大丈夫だろう、こちらは遠慮なく敵を排除すればいいだけだ。
「敵は魔物になった、魔法は問題なく効くはずだ、遠慮なく撃ち込もう」
俺の言葉を聞いて三人は魔法を魔物に撃ち込み始めた、今度な吸収される事無く魔物に当たっている。
その攻撃を避けこちらに突っ込んでくる魔物が数体いた、俺は慌てて皆の前面に障壁を張りそれを受け止める。
「魔物は意外と速度が速い、散開して各個撃破しよう」
「分かったわ」
「はい、エルレイ様、お気を付けて」
二人は左右に分かれて行き、それと同時に目の前の障壁を消し魔物に魔法を撃ち込んだ。
魔物は通常の人より丈夫の様で一撃で倒す事が出来なかったが、それでも俺達の手に掛かれば敵では無かった。
俺達は魔物を倒し続け、数分で上空の敵を殲滅する事が出来て、ルリアとロゼは俺の所に戻って来た。
「エルレイ、魔物は硬かったけど倒せない相手では無かったわ」
ルリアは満足そうな表情をしていたが、やはり少し疲れている様だった、それはロゼとリゼも同じだ。
「ルリア、ロゼ、近づいて来てくれ、魔力を分けよう」
「お願いするわ」
ルリアは俺に近づいて来て、ルリアに手を伸ばし魔力を分け与えた。
「エルレイ様の魔力は大丈夫なのでしょうか?」
ロゼは心配そうにルリアに魔力を分け与えている俺を見て来た。
「心配ないよ、説明していなかったが、グールには魔力を貯めて置ける能力があって、毎日ため込んでいたからかなりの量の魔力が蓄積されている」
「そうでしたか、それなら私にもお願いします」
俺の説明を聞いてロゼは安心した様で手を差し伸べて来た、俺はロゼの手を握り魔力を渡していった。
最後に抱きかかえているリゼにも魔力を分け与え、これで地上にいる魔物を倒すだけとなった。
「近づく必要は無い、上空から魔法を当てて魔物を殲滅しよう」
「えぇ、そうしましょう」
「承知しました」
「どんどんやっつけちゃいましょう」
ルリアとロゼは俺から離れて地上にいる魔物の殲滅に向かった、俺も向かおうとするとグールに止められた。
「マスター、それだと俺様の活躍の場がねーんだが!!俺様にも魔物を斬らせてくれよ!!」
「却下!お前俺に隠し事していただろ!」
「な、何のことだか、さっぱりわからねーな!」
グールはとぼけている様だが目の前で見たから、こいつが今まで俺に教えなかった事は分かっている。
「正直に話せ、なぜ吸魔石は人を取り込んで魔物に変えたのかを」
「・・・分かったよ、吸魔石が魔力を吸って魔物を生み出す事は本当だ、それとは別に近くにいる生物を取り込む事もする、直接吸魔石に触れた場合もそうだ」
最初からグールは魔剣を持った者が魔物になる事は分かっていたと言う事だな。
「なぜその事を俺に隠していた」
「その方が面白いかなーと思ったからだよ」
「本当か?ただ面白いだけで秘密にするような事では無いと思うが!」
「・・・吸魔石に吸い込まれた人の魔石が俺様を作る材料になるからだ」
グールは観念してとても重要な事を告げた、グールを作るのに大量の人の魂が必要だと言ってたが、人を魔物に変えた魔石が必要と言う事か・・・。
「グールそれで、材料を集めて俺に魔剣を作らせたかったのか?」
俺がグールに聞いた時ずっと地上を攻撃していたリゼから悲鳴が上がった。
「エルレイ様も手伝ってくださいよ、数が多くて大変です」
グールと話していて地上の魔物の事を忘れていた。
「リゼすまない、グール、後でちゃんと話して貰うからな!」
「分かったよ!」
グールも観念した様だ、後でその話はきちんとつけつとして、今は魔物の殲滅だな。
魔物は無人の砦に押し寄せていたが、リリーが砦の前に氷壁を作り上げ侵入を止めていた、ルリアとロゼがリリーの氷壁によって止められ賜物の殲滅を行っていた、俺とリゼもそれに参戦し全ても魔物を殲滅する事が出来た。
「マスターお願いだ、倒した魔物から魔石をすべて回収してくれ、魔物の死体に俺様を突き立てればそれで済む」
グールの言う事を聞くのは何となく嫌だが、魔石の回収はやっておかないといけないな、敵に回収されては新たな魔剣を生み出す事になる、グールを作る材料になると言ったので敵に渡す訳には行かない。
久々にグールを剣の姿に変え、ルリアとロゼに燃やされ、ロゼに切り刻まれた魔物の死体にグールを突き刺して行く。
グールに突き刺された魔物の死体は、グールの能力によって魔力へと変換され消えていき、魔石だけがその場に残された。
俺は魔石を拾い上げ収納に入れて行く、何せ一万体の魔物の死体だ、かなりの時間を要するからマルギットさん達には先に戻って貰う事にした。
『マルギットさん、敵の殲滅は完了しました、私はこれから魔石の回収をしますが、かなり時間が掛りそうなので先に戻っていてください』
『分かった、そちらは皆無事なのだな?』
『はい、全員無事です』
『そうか、では先に戻っている』
「俺は魔石の回収をするから、皆は砦の中にある家で休憩していてくれ」
「私達が手伝う事は出来ないのかしら?」
ルリアがそう言ってくれたが、魔物を解体して魔石を取り出させる様な事を皆にやらせたくは無かった、元は人だったからな。
「グールでやらないといけないから俺一人でやるよ」
「分かったわ」
「エルレイさん、頑張ってください」
「承知しました、食事の用意が出来ましたらお呼びいたします」
ルリア、リリー、ロゼの三人は砦の中に行ってしまった。
「リゼも中に送ろう」
一度降ろしていたリゼを再び抱きかかえようとするとリゼに止められた。
「私はエルレイ様と一緒にいます」
それもそうかこんな所で俺を一人にするような事はリゼはしないな、その前に抱きしめてやらないとな、俺は優しくリゼを抱きしめた。
「エルレイ様、忘れていなかったのですね」
「もちろん忘れていないさ」
リゼも俺を抱きしめて来て、しばらくリゼの香りと柔らかさを堪能してから魔石の回収を続ける事となった。
≪リースレイア王国軍サイド≫
砦に進軍すると、この前と同じように魔法による一斉攻撃がこちらに向け放たれて来た。
「無駄な事を、魔法を吸収させた者は後ろの物と交代するよう徹底させよ!」
「はっ」
どれだけ魔法を放とうとこちらには一万本の魔剣がある、全ての魔法を受けきれる自信がパーヴェルにはあった。
後方からヨルゲンの部隊も上空へ飛び去り敵と相対していて、あちらも敵の魔法を上手く吸収している様だ。
敵の魔法攻撃は止む事無く放たれるづけていた、いくら吸収出来るかと言っても限度がある、敵はそこを考え魔法を放ってきているのであろう、それならばそろそろ貯めた魔力を解放し反撃に出る時だろう。
そう思い反撃の命令を出そうとしていた時、敵の攻撃が止んだ。
「敵の魔力が尽きた様だな、ならば砦に詰め寄り梯子を掛け砦内部に侵入せよ!」
「はっ」
伝令にそう伝え周りを見渡すと、何やら魔剣が輝きを放ち兵士達を包み込んでいる様だった。
「何が起こっている!」
パーヴェルは周りの兵士に確認しようにも伝令以外の兵士からの反応は無かった・・・。
やがて魔剣の光は収まり、兵士達の体は大きく膨れ上がり肌の色も黒く変色していた。
「「「グォォォォォォォ」」」
兵士達は咆哮を上げこちらに向かって来た、その姿はとても人とは思えない物だった、目は赤く光り、口からは牙が、頭には二本の角が生えていた。
「「ひぃぃぃぃ」」
伝令兵はその姿を見て腰を抜かし怯えていたが、すぐにその声は変貌を遂げた兵士達によって殴りつけられ噛みつかれて、物言わぬ姿となった。
パーヴェルも必死に逃げようとしたが、変貌した兵士の動きは早くあっという間にとらえられ食い殺される事となった。
そのころ上空でも変化が訪れていた。
ヨルゲンの部隊も魔法の攻撃を魔剣で吸収し続けていたが、魔剣の光に包まれる事となった。
ヨルゲン自身も魔法を吸収させていたため魔剣の光に吸収されてしまった。
「この光はどうしたと言うのだ!」
ヨルゲンにしては珍しく焦りの表情を浮かべ、光の正体を調べようと魔剣を見ていたが、光と共に大量の魔力が体内に入って来て体がはじけ飛びそうな激痛に襲われた。
ヨルゲンは叫ぶことも出来ずそこで意識を失った、次に意識を取り戻した時には目の前にいる獲物を食い殺す事しか考えられなかった。
本能で敵から放たれた魔法を避け、敵の肉体に牙を突き立てる為突進したが、見えない壁に阻まれ次の瞬間には体中に魔法を撃ち込まれて亡くなってしまった。
こうしてルフトル王国に攻め込んだリースレイア王国の兵士達は、一部戦闘に加わらなかった者以外魔物に変化し倒されたのであった。
戦闘に参加していなかった者は全て魔物の餌食となっていた。
それを遠くから遠望の魔道具で観戦している者がいた。
「くふふっ、作戦は上手くいきましたね、魔石は敵に回収されている様ですが構わないでしょう、これからいくらでも魔石を作る事が出来るのですからね」
笑いながらそうつぶやくその者も目は、酷く濁りくすんでいた・・・。
≪エルレイサイド≫
魔石の回収作業は思ってた以上に難航し、途中ロゼが作ってくれた昼食を食べ、夕暮れ前までかかってようやく回収を終えた。
「エルレイ様、ようやく終わりましたね」
「流石に疲れたよ」
リゼと二人で歩いて回収して回ったからとても疲れ果ててしまった。
「帰るとしようか」
「はい、帰って休みたいです」
ルリア、リリー、ロゼの三人は昼食の後先に送っておいた、ここにいても何もする事が無いからな。
リゼと結界前に転移して戻って来た。
『ソフィアさん、ただいま戻りました』
『エルレイ様、今迎えに行きますので少々お待ちください』
暫く待つとソフィアさんが出迎えてくれ中に入り、女王様の所まで案内してくれた。
「女王様、ただいま戻りました」
「エルレイ、今回私達を助けてくれて感謝しております」
女王様は優しく微笑んでくれた。
「皆さんの協力があったから出来た事です」
「それは当然のことです、攻め込まれたのは私達の国なのですからね、それで魔石はすべて回収できたのですか?」
「はい、こちらになります」
俺は魔石を一つ取り出し侍女にそれを渡し女王様の下へ届けて貰った。
女王様は魔石を見て眉をひそめた。
「これが人が魔物となった魔石ですか」
「まだ大量にあります、それを女王様に全てお渡ししますので処分をお願いできないでしょうか?」
俺が魔石の処分を依頼すると女王様は少し驚いたような表情を見せていた。
「エルレイはこの魔石を使わないのですか?」
「はい、この魔石は人の命で出来ていて私はこれを使う事は出来ません、それにグールを作る材料になるそうです」
「そうですか、分かりましたこの魔石は私が預からせて貰います」
女王様はグールを作る材料と聞いて受け取りを承諾してくれた。
「ちょーっと待ったー!!、マスター、せっかく俺様を作る材料が手に入ったんだぞ、それをセシリアに渡す必要ねーだろ!」
グールが必死に止めて来た。
「ではグール、一つ聞くが、俺がグールの様な魔剣を作る意味があるのか?」
「そりゃーもちろんあるさ、俺様はクロームウェルに作れる者が現れたら技術を教えてくれと頼まれているからな!」
グールはそう言うが伝えてどうするんだという話だよな、今現在グールはあるのだからこれ以上必要ないはずだ。
「俺がグールと同じ魔剣を作ったとしよう、それでどうするんだ?そもそもグールがいるのにもう一本魔剣が必要なのか?」
「そりゃーねーけどよ・・・じゃ何のためにクロームウェルは俺様にそんな事を頼んだのだ?」
「さぁ、それは分からないが、俺には必要ない事だけは確かだな」
「分かったよ、マスターにはもう教えてやらねー、後になって後悔しても知らねーからな!」
グールはそう言うと機嫌を損ねたのか黙り込んでしまった、ずっと黙っていてくれた方が俺も助かる。
「女王様、そう言う事で魔石をお渡しします」
俺とグールのやり取りを聞いて安心したのか女王様は穏やかな表情を浮かべていた。
「エルレイを頼って正解でした、魔石は私が預かっておきます、どうしても必要になった時は返すので遠慮無く言ってください」
女王様がそう言うと侍女が魔石を入れる為の箱を持ってやって来た、俺は収納より魔石を取り出し箱に詰めて行った。
一万個の魔石だから一個の箱には収まらず、次女が慌てて箱を追加してくれて、最終的に十個の箱が必要となった。
「ではエルレイ、今日は疲れたでしょうからゆっくり休んで行ってください」
「はい、ありがとうございます」
ソフィアさんに案内され風呂と夕食を頂き夕食後すぐ眠る事となった。
翌朝俺達の所にロレーナさんがやって来た。
「エルレイ、これで正式な婚約者なのじゃ、皆もよろしくなのじゃ」
ロレーナさんは少し緊張した様子でぺこりとお辞儀をした。
「ロレーナさん、いや今日からはロレーナと呼ばせて貰うよ、ロレーナ、よろしく」
「ロレーナ、よろしくね」
「ロレーナさん、よろしくお願いします」
「「ロレーナ様、よろしくお願いします」」
皆もそれぞれ挨拶をして、ロレーナの緊張も解けた様だった。
「帰る前に女王様とカミーユさんに挨拶に行かないとな」
「よろしく頼むのじゃ」
俺達はまず女王様の下を尋ねた。
「女王様、これから帰る事にします、それとロレーナを連れて行きます」
「はい、ロレーナの事よろしくお願いしますね」
女王様は優しく微笑んでロレーナを見つめていた。
「女王様、今までありがとうなのじゃ」
「ロレーナも楽しく暮らすのですよ、ここにはいつでも帰ってきていいですからね」
ロレーナは涙を流し女王様に感謝を述べていた。
女王様の下を後にし、カミーユさんの所にやって来た。
「お母様、ただいまなのじゃ」
「あらお帰りなさい、それとエルレイさん達いらっしゃい」
カミーユさんは優しく微笑んで俺達を迎え入れてくれた。
「カミーユさん、今日これからロレーナを私の領地へ連れて帰ります」
「あらそうでしたか、ロレーナの事よろしくお願いしますね」
「はい」
「ロレーナ、皆さんの言う事をよく聞いてご迷惑を掛けないようにね」
「お母様、もちろんわかっているのじゃ」
ロレーナはカミーユに子供扱いされたのが恥ずかしかったのか少し俯いてしまった、しかしこうして二人を見ると顔立ちはよく似ていて親子なのだとよく分かる。
「ではカミーユさん、これで失礼します」
「そうですか、またいつでもいらしてくださいね」
「はい、こちらへ来た際は寄らせて頂きます」
「お母様、元気でいてくれなのじゃ」
「ロレーナも元気でね」
二人は微笑み抱き合って別れを惜しんでいた。
カミーユさんの下を離れて飛行で戻っていると忘れていた事を思い出した。
「帰る前にもう一つやり残していた事があった、訓練場に向かおう」
「よく分からないけど、訓練場ね」
『ワルテさん、今時間ありますでしょうか?』
『エルレイ君、丁度畑仕事が終わった所だ、それで何か用かな?』
『ワルテさんに教えて置く事がありまして、訓練場に来て頂けませんか?』
『分かった、すぐ向かうよ』
訓練場に到着し収納から弾が入った袋を取り出した、結局使わなかったからこれはワルテさんに渡しておこう。
「その事を伝える為にここに来たのね」
ルリアは俺が弾を取り出した事で気が付いた様だ。
「教えておかないと、またここに来ないといけなくなるからな」
俺がそう言うとルリアは少し残念そうな表情を浮かべていた。
「また来て良かったんじゃない?」
「そうだけど、多分帰ったらアドルフが仕事を沢山用意していると思うからなぁ・・・」
「それもそうね」
ルリアもそう思ったのか納得してくれた、俺もアドルフに色々仕事を頼んでいるから、アドルフから頼まれた事は断る訳にはいかない。
暫くしてマルギットさんに運ばれてワルテさんがやって来た、それとソフィアさんも一緒に来ていた。
「エルレイ君、待たせたね」
「私が呼んだのですから構いません、ワルテさんこれを」
俺は袋ごとワルテさんに弾を渡した。
「エルレイ君、これは?」
ワルテさんは袋の中から弾を取り出して形を確認していた。
「それは土を固めた物で、魔法が効かない相手に撃ち出して当てる物です」
「なるほど、では飛ばし方を教えてくれないか?」
「分かりました」
俺は土を固めて一個弾を作り手の平に載せ、標的となるストーンウォールを立てた。
「この弾を魔力で浮かして回転を付け、標的に向かって撃ち出します」
俺はストーンウォール目掛け弾を撃ち出しストーンウォールを貫通させた。
「なるほど、これは簡単そうだ、事前に土で作って置く事で魔法が効かない相手にも効果がある訳か、ではやってみよう、モル頼んだよ」
「はい、ご主人様」
ワルテさんはモルに弾を渡し、モルはそれを俺がやった様に回転を付けストーンウォール撃ち出し、見事に貫通させることが出来た。
「モル、偉いぞ」
「はい、上手く出来ました」
モルは飛び跳ねて大喜びしていた。
「ワルテ、俺にも一つ分けてくれ」
マルギットさんはワルテさんから一つ弾を貰い、それをメルが撃ち出した、風の精霊は相性が良く威力もモルが撃ち出した物より強力だった。
「これは簡単に撃ち出せて、しかも威力が高いな」
マルギットさんはストーンウォールに出来た穴を見て感心していた。
「マルギットさん、良い事ばかりではありません、事前に用意する事が必要で、量を用意すると持ち運びが大変です」
「そうだな、しかしメル、風の精霊で運ぶにはそこまで苦労はしないだろう」
確かに数人一度に運べる風の精霊なら多少重くても運べるな。
「そうですね、ワルテさんが暇な時に作って頂ければ、いざと言う時役に立つでしょう」
「ワルテ、頑張ってくれ」
「分かりました、これを作るのもいい訓練になりそうですからね、皆に作らせることにします」
ワルテさんは土精霊部隊の訓練に丁度いいとにやりと笑っていた。
「では私達はこれで帰ります、マルギットさん、ワルテさん、ソフィアさん、お世話になりました」
「こちらこそエルレイには世話になった、ありがとう」
「エルレイ君ありがとう、また遊びに来てください」
「エルレイ様、大変お世話になりました、結界までお送りいたします」
ソフィアさんに結界まで送られ、マルギットさんとワルテさんも見送りに来てくれた。
「皆世話になったのじゃ」
「ロレーナ元気でな」
「ロレーナお幸せに」
「ロレーナまたいつでも遊びに帰って来てね」
マルギットさんとワルテさんは笑顔でロレーナを見送ってくれていた、ソフィアさんはロレーナと抱き合いお互い泣いていた。
ソフィアさんとロレーナの抱擁が終わり、俺達は結界の外に出てリアネ城へ戻って来た。




