第十話 ネレイト様の結婚式
結婚式当日の早朝から着替えて準備を整え、普段使っていない城の謁見室に集まっていた。
ルリアは薄い青色のドレスで、とても美しい姿だ。
「ルリア、とても似合っていて綺麗だよ」
「そう、ありがとう」
ルリアは顔を赤くして横を向いてしまった、思わず抱きつこうとしたらロゼに止められた。
「エルレイ様、ドレスが乱れてしまいますので、今日は抱きつかないようお願いします」
「そうか、ルリアがとても可愛く抱きつきたかったが、仕方がない」
「アルティナ様もですよ」
アルティナ姉さんは俺に抱きつこうとして、リゼに止められていた。
「だって、エルレイが可愛いからしょうがないじゃない?」
「いけません」
アルティナ姉さん、俺は可愛いと言われても嬉しくありません。
そう言うアルティナ姉さんは、オレンジ色のドレスがとてもよく似合ってた。
「アルティナ姉さん、とても似合っていて綺麗ですよ」
「エルレイ、ありがとう」
アルティナ姉さんはとても嬉しそうに微笑んでくれた。
リリーはピンク色のドレスで、可愛らしい姿だ。
「リリーはピンクのドレスと、銀色の髪がよく合っていて可愛いよ」
「エルレイさん、嬉しいです」
リリーは顔を真っ赤にして俯いてしまった、こんな可愛いリリーを抱きしめられないとは、とても残念だ。
「エル、私はどうだ?」
ヘルミーネは薄い緑色のドレスで、黙っていればお人形の様に可愛らしい姿だ。
「ヘルミーネも、とても可愛らしいよ」
「そうか、えへへ」
ヘルミーネは喜びラウラさんの元へ駆けて行った。
「ラウラ、可愛いと褒めて貰ったぞ」
「よろしかったですね、しかしドレスで走るのはお止め下さい」
「少しくらい、いいでは無いか」
「せっかくエルレイ様に褒めて頂いたのに、転んで汚してしまっては台無しですよ」
「そうだな、可愛く綺麗な姿をエルに見ていて貰いたい、ドレスでは走らないようにする」
「はい、ありがとうございます」
どうやらラウラさんは、ヘルミーネの教育方法を覚えた様だ。
俺の見た目は、小学生の背広姿を更に豪華にした感じだ、皆から可愛いと言われました・・・。
ついでにグールはナイフに変化して懐に入っている、帯剣は出来ないので収納すると言ったら、鞘ごとナイフに変化しやがった。
鞘もグールの一部だという事らしい、ちなみにグールに拳銃に変化して貰った事があるが弾が作れなかった、形は俺がイメージした通りに成れるが、火薬とかは作れ無い様だ。
やはりこいつ使えない魔剣だ、変化するたびに俺の魔力を大量に持って行く、今までグールを所持した人達はどうやってこいつを使ってきたのだろうか、非常に気になる。
グールの事は置いておくとして、そろそろ出発しなくては。
「皆、転移するから手を繋いでくれ」
皆手を繋いだのを確認して、ラノフェリア公爵邸の薄暗い部屋に転移しベルを取り鳴らす、しばらくするとヴァイスさんが鍵を開け迎え入れてくれた。
「エルレイ様、お待たせいたしました」
「ヴァイスさん、ありがとう」
「お部屋にご案内いたします」
ヴァイスに案内され客間へと通され、自分の部屋があるルリア達まで着いて来ていた。
「ヴァイスさん、お祝いの品を渡したいのだが・・・」
「こちらでお預かり致します」
アドルフに用意して貰っていた領地の特産品や金品を、ヴァイスさんの後ろに控えていた人達に渡す。
「お預かりいたします、結婚式までもうしばらく時間がございますので、ごゆっくりお過ごしください」
ヴァイスさんはそう言うと部屋を出て行った、結婚式は昼前から始まる予定だから、先にネレイト様に挨拶に行けないだろうか。
「ルリア、ネレイト様に挨拶に行きたいが、大丈夫だろうか?」
「構わないんじゃないかしら、皆で行きましょう」
「そうしよう」
部屋にいたメイドに案内してもらい、ネレイト様がいる大部屋へと向かった。
部屋に入ると中には大勢の人が、白い礼服に身を固めたネレイト様に挨拶をしている所だった。
暫く順番を待ち、ネレイト様に皆で挨拶をする。
「ネレイト様、ご結婚おめでとうございます」
「ネレイト兄さん、おめでとう」
「ネレイト兄様、おめでとうございます」
「ネレイト、おめでとう」
「エルレイ、ルリア、リリー、ヘルミーネ様ありがとう」
「ゆっくりとお話ししたいですが、今日はこれで失礼致します」
「エルレイすまない、領地の事など聞きたい事は多いが、今日は無理そうだ」
ネレイト様は苦笑いして肩をすくめておどけて見せた、後ろには挨拶を待つ人の列がまだ出来ている、俺は少し離れた場所に移動し花嫁を探した。
「お相手のクレメンティア様はいらっしゃらないのかな?」
「花嫁は結婚式まで出て来ないわよ」
ルリアがそう答えてくれた、そういう物なのか、ネレイト様のお相手がどんな人なのか興味があったのだが、たぶん王城で食事の時に見かけたかもしれないが、あの時は周りを気にしている余裕が無かったからなぁ。
「そうか・・・ヘルミーネ、クレメンティア様の事教えてくれないか?」
「うむ、いいぞ、クレメンティア姉様はとても綺麗で優しい人だぞ、いつも私を可愛がってくれていたのだ」
ヘルミーネは笑顔で教えてくれた、良い姉さんなのだろう。
結婚式まで時間があったので、部屋に戻り寛いで時間を潰し式場へと入った。
大きなホールに立食形式の料理が所狭しと並べられており、前の方はスペースが開けられていて、右端に楽器の奏者が並んで座っていた。
俺達は前の方のテーブルの一つに案内された、周りにはラノフェリア公爵家の親族や、王族関係者と見られる豪華な服装の方々がいる。
居心地が悪いので後ろの方に移動しようと思い、ルリアに小声で話しかけた。
「ルリア、後ろの方に移動したいのだが・・・」
「駄目に決まってるでしょ、エルレイも侯爵になったのだから堂々としてなさい」
やはり駄目なのか、まだこういう雰囲気には慣れないな・・・ルリアはいつもどうり堂々としているな。
リリーも当然のような顔をしている、元王族だからな。
アルティナ姉さんは俺を見て微笑んでいる、周りを見ていないようだ・・・。
ヘルミーネは王族だから気にしていないな、リゼ、ロゼ、ラウラは部屋の隅に待機している。
ホールに人が入り切った所で、音楽の演奏が始まり新郎新婦の入場だ。
新郎ネレイト様はやや緊張気味の様子で、新婦クレメンティア様はベールをかけており、表情を伺う事は出来なかった。
新郎新婦は正面に飾られたステージの上へ上がり、神父様が祝福しお互いの誓いを確認して、結婚の儀式は終了した。
その後新郎新婦によるダンスがお披露目されて、ようやく食事にありつけるようになった。
ダンスの時に新婦クレメンティア様のお顔を拝見したが、ヘルミーネが言う様にとても美人で優しそうな表情の人だった。
目の前のおいしそうな料理に手を出そうとすると、アルティナ姉さんに手を掴まれた。
「エルレイ、私達も踊りましょう」
そう新郎新婦のダンスが終わった後は、それぞれ若いカップルと思われる人達が踊っていたのだ・・・。
「アルティナ姉さん、俺踊った事無いんだけど・・・」
「大丈夫、私に任せておきなさい」
アルティナ姉さんはそう言うと、俺の手を引っ張って前に出て踊り始めてしまった、俺はアルティナ姉さんの動きに合わせる事で精いっぱいだった。
「エルレイ、楽しいわね」
「アルティナ姉さん、ダンスを楽しむ余裕がありません・・・」
「ダンスの動きなんて気にしないでいいのよ、私だけを見ていてくれれば、それでいいのよ」
「分かりました、足を踏んだらごめんなさい」
アルティナ姉さんの微笑んだ顔を見つつ、体はアルティナ姉さんに引っ張られながら、普段抱きつくのとは違った安心感を感じていた。
曲が終わり、アルティナ姉さんとのダンスは終了した。
「エルレイとずっと踊っていたいけど、代わらないと恨まれるわね」
アルティナ姉さんはそう言って俺の手を離した、後ろを振り返ると、リリーがこちらに近づいて来て俺の手を取った。
「エルレイさん、踊りましょう」
リリーが積極的に動いてくるとは意外だった、ルリアかヘルミーネだと思っていた。
「リリー、ダンスは下手だがお相手お願いするよ」
「はい」
リリーは優しく微笑んで曲に合わせて踊り出した、先程アルティナ姉さんと踊っていたから少しは動きが分かったが、急にうまくなるはずも無い、諦めてリリーの表情を楽しむ事にした。
リリーもこちらを見つめて来ている、普段抱きつく時は目を合わせる事は無いから新鮮で少し恥ずかしい。
リリーもそうなのか若干顔が赤いが、決して目をそらすことは無かった。
「リリー、ちょっと恥ずかしいな」
「私もそうですが、とても幸せです」
「俺もリリーとこうして踊れて、とても幸せだ」
「ずっと続けばいいのですが、そろそろ曲が終わりますね」
「そうだな、しかし、リリーと踊れる機会はこれから何度でもあるさ」
「はい」
曲が終わり、リリーは微笑んで俺の手を名残惜しそうに握ってから離れて行った。
「次は私だな」
ヘルミーネは力強く俺の手を握り、にっこりと笑った。
「ヘルミーネ、お相手お願いします」
「うむ」
ヘルミーネは意外といっては失礼だが、ダンスはとても上手だった。
「ヘルミーネはダンス上手だな、ラウラに教えて貰ったのか?」
「うむ、いつもラウラとダンスの練習をしていたが楽しくは無かった、しかしエルとのダンスは楽しいぞ」
「俺もヘルミーネとのダンスは楽しいよ」
「そうか、そうか」
ヘルミーネは満面の笑みを浮かべダンスを楽しんでいる様だった、しかし楽しい時間は短い物だ。
「もう曲が終わってしまった」
「そうだな、ヘルミーネと踊っていたいが、ルリアと踊らないとな」
「うむ、仲間外れは可哀そうだ」
ヘルミーネの手を放してルリアを探すと、アルティナ姉さんとリリーに押し出されていた、俺はルリアの元に駆け寄り手を差し伸べる。
「ルリアお嬢様、踊って頂けませんか?」
「分かったわよ、リリーとアルティナも押さなくていいから」
ルリアはこちらに向き、恥ずかしそうに俺の手を取ってくれた。
「ルリア、ダンスを楽しもう」
「えぇ、しっかりリードして頂戴」
「俺のダンス見てなかったのか?うまくリードできる自信は無いぞ」
「仕方ないわね、ゆっくり踊りましょう」
ルリアもダンスは苦手な様で曲に合っていなかったが、ゆっくりと踊り始めた。
ルリアは出会った時から剣も魔法も上手かったから、その分ダンスの練習とかやっていなかったのだろう。
「ちょっと、こっちを見つめないでよ、恥ずかしいじゃない」
ルリアは顔を真っ赤にしてそう言って来たが、目はずっと俺を見つめている。
「俺も恥ずかしいが、ルリアの顔を見ていたいから駄目か?」
「しょうがないわね、好きになさい」
ルリアと俺達のペースで踊りを楽しんで行った。
「ルリアとの剣の訓練も楽しいが、こうして踊るのも楽しく、そして嬉しいな」
「そうね、たまにはいいかも知れないわね」
ルリアも楽しんでいる様で笑顔も見せてくれた、ルリアとのダンスが終わり皆の元へ戻ろうとすると、ルリアは俺を置いて一人で戻って行ってしまった。
「エルレイ、頑張りなさい」
頑張る?俺が不思議そうに思っていると、周りにドレス姿の女性達が群がってきてダンスを求めて来た。
「エルレイ様、私と踊ってくださいませ」
「いいえ、エルレイ様は私と踊って下さるのよ」
これは一体どういう事なのだろう・・・俺が悩んでいるとルリアが教えてくれた。
『エルレイ、彼女達は貴方に気にいられて妾にして貰いたいのよ、ダンスを断る事は出来ないから、適当に相手をしてあげなさい』
『分かった、ルリアありがとう』
『エルレイが気に入った子がいれば、妾にしても構わないわよ』
『いや、ルリア達で十分すぎるほど満足しているから妾は要らないよ』
『そう』
その後食事を楽しむ暇も無く、代わる代わる女性達のダンスの相手をし続けた・・・。
俺が十一歳と言う事もあって、比較的年齢が近い女の子が多かったが、中には二十歳超えている様な女性もいた。
その中で一人だけ珍しい人の相手をする事に成った。
「エルレイ、ダンスの相手をお願い」
「ユーティア様、喜んでお相手をさせて頂きます」
この時初めてラノフェリア公爵家三女ユーティア様の声を聞いた。
ユーティア様とのダンスは淡々と踊っているだけで、ユーティア様も楽しそうではない様だった。
なぜ俺をダンスに誘ったのだろう・・・俺が考えているとユーティア様は顔を近づけて来て、とても小さな声で囁いた。
「貴方は狙われている、気を付けて」
ユーティア様はその一言を言うと、顔を離してまた淡々と踊り続けるだけだった。
狙われている?誰から?貴族の知り合いは少ないが、男爵家三男から侯爵になったから妬む者は多いだろう。
何にせよ気を付けなければいけない様だな、ユーティア様の忠告に感謝しよう。
ユーティア様とのダンスが終わった際に、お礼を述べた。
「ユーティア様、楽しいダンスをありがとうございました」
「・・・」
ユーティア様は何も告げずに去って行った。
ようやくダンスを終えて皆の元に戻ると、時刻は夕刻を過ぎており結婚式も終わりとなっていた。
俺美味しそうな料理、何も食べてないんだけど・・・。
「エルレイ、食事は部屋に運ばせてあるわよ」
「ルリア、ありがとう」
ルリアが気を利かせてくれていた、非常に助かる。
「皆着替えてからでいいから、話したい事がある、いいだろうか?」
「分かったわ、エルレイ、部屋で食事をしたら私の部屋に着て頂戴」
「分かった」
客間にリゼと一緒に戻り、二人で食事をした、ロゼとラウラの分もルリアの部屋に届けられているそうだ。
いくら仕事とはいえ、豪華な料理の前で待機していたリゼ、ロゼ、ラウラは大変だな、俺も料理を食べられなかったが、彼女達に比べれば大したことでは無いな。
食事を終えルリアの部屋へ向かった、部屋の中に入ると皆着替え終わってソファーで寛いでいた。
俺とリゼもそこに加わり座る。
「エルレイお疲れ様、誰か良い人見付かったのかしら?」
ルリアが意地悪そうな目でこちらを見て来た、見付かったと言いたいが、リリー、ヘルミーネ、アルティナ姉さんもこちらを見ているため変な事は言えない。
「見付かっていないよ、そもそも見付ける気も無い」
「そうなのね、所で話って何なのかしら?」
「ルリアにユーティア様の事を聞きたかったんだ」
「そう言えばユーティアと踊っていたわね、ユーティアにはちゃんと婚約者がいるから駄目よ!」
ルリアは俺を睨みつけて来た。
「そう言うのではなくて、ルリアにとってどんな人なのか聞いて置きたかったんだ」
あんなことを言って来たから、ルリアにとって味方だと思うが、聞いてから話さないとややこしくなると思った。
「ユーティアとは仲がいいわよ、ただ、あの子は自分の部屋以外でほとんど話さないから誤解されやすいけど、優しいわよ」
やはりほとんど話さないのか、ルリアと仲がいいという事は、あの忠告はルリアの事を思っての事だろう。
「そうか、ユーティア様と踊った時に一つ忠告を頂いてね」
「忠告?」
「俺は誰か分からないが狙われているそうだ」
「そう・・・ユーティアがそう言って来たのなら、それは正しいのでしょう、気を付けないといけないわね」
ルリアは少し考えてから意見を述べた。
「今日はここに泊まる予定だったけど、一度帰りましょうか」
「エルレイさん、私もそう思います、帰りましょう」
ルリアとリリーはそう言ったが、これは敵を炙り出せるチャンスでは無いだろうかと俺は考えた、敵が分からない状態でずっと恐怖に怯えているよりはましだろう。
「俺は今日ここに泊まろうと思う、もし敵が襲ってくるなら準備して迎え撃てると思うのだが、リゼ、ロゼはどう思う?」
「私は反対です、ここでは十分な準備が出来ません」
「私はここでやった方が速くていいと思います」
ロゼは反対か、リゼは賛成してくれた。
「マスター、発言してもかまわねぇか?」
グールが発言を求めて来るのは珍しい、話さない様に脅してから収納すると言った時位しか話さなかったのに。
「余計な事を話さなければいいぞ」
懐よりナイフとなったグールを取り出し、テーブルに置いた。
「ありがてぇ、さっきのホールで敵意を複数感じた、名前とかは分からねぇが魔力は覚えたから、そいつの前に行けば分かるぜ」
複数の敵意か・・・まぁ当然あれだけ集まってれば誰にでもよく思わない人なんているものだ、それが男爵家三男から侯爵家になった俺ならばいて当たり前、敵意があったからと言って攻撃するわけにもいかないしな。
「敵意があったからと言って、どうすることも出来ないわよ」
ルリアが俺の気持ちを代弁してくれた。
「片っ端からやってしまえば、マスターの敵はいなくなるからいいんじゃねぇのか?」
「そんなの駄目に決まってるでしょ、エルレイ、やっぱりこの魔剣捨ててきなさい」
俺もそうしたいが出来ないみたいなんだよな・・・。
「ルリア、一応こいつもそれなりに俺のためを思って意見してくれていると思うので、邪険にしないでやってくれ」
「流石マスターは俺様の味方だぜ」
「いや、俺はルリアの味方だ、とは言え敵意の所在は知っておきたいな、俺を囮に敵を見定めたいと思う」
「分かったわよ、それでどうするの?」
「ルリア、リリー、ヘルミーネ、アルティナ姉さん、ラウラ、ロゼはこの部屋で寝てくれないか?」
「分かったわ、ベッドを運ばせるわね」
「ルリア頼んだ、ロゼ寝る前に誰も入って来れない様に、魔法で窓と入口を塞いでくれ」
「承知しました」
「俺とリゼは客間で敵が来るのを待つ、来なければそれに越したことは無いのだが・・・」
「エルレイ様、敵をやっつけちゃいましょう」
リゼは不敵に笑った、やり過ぎないようくぎを刺しておかねば。
「リゼ、敵は出来るだけ殺さないでくれ、誰の差し金か聞きださないといけない」
「はい、承知しております」
「エルレイさん、気を付けてくださいね」
「エルレイ、私も一緒にいたいけど足を引っ張りそうだからここにいるわね」
「エルは強いから心配して無いのだ」
「皆安心してくれ、そんなに危険な事じゃないから」
敵が来るにせよ来ないにせよどちらでも構わない、注意しておくだけだ。
一通り話がまとまった所で、ヴァイスさんから念話が入った。
『エルレイ様、少しよろしいでしょうか?』
『ヴァイスさん、何か御用ですか?』
『公爵様がお呼びです、応接室まで来て頂けませんか?』
『分かりました、今から向かいます』
『よろしくお願いします』
「今ヴァイスさんから念話が入って、ロイジェルク様の所に行って来るよ」
「行ってらっしゃい」
リゼを連れて応接室へと向かい室内に入る、まだロイジェルク様はいなかったのでソファーに座ると、メイドさんがお茶を入れてくれた。
今日はロイジェルク様も忙しいだろうに何の用だろうか?お茶を楽しみながら考えて見たが、また仕事の依頼だろうとしか思い浮かばなかった。
ロイジェルク様にはユーティア様からの忠告の事は伏せて置いた方が良いだろう、ロイジェルク様は味方だと思っているが用心しておこう。
暫くしてロイジェルク様が部屋へと入って来た。
「ロイジェルク様、本日はおめでとうございます」
「エルレイ君ありがとう、君はダンスの相手が大勢いて楽しんだのではないのか?」
ロイジェルク様はにやりと笑ってこちらを見て来た。
「疲れただけでしたよ、踊って頂いた相手には悪いとは思いますが、妾は必要ありませんので」
「そうなのか、後数人は娶って貰った方がこちらとしてはありがたいのだが・・・まぁ良さそうな女性がいたら何時でも言ってくれて構わない」
後数人って、貴族ってそんなに娶らないと駄目なのか?父上は一人だったが・・・。
「分かりました、いい人がいればその時はお願いします」
「うむ、話は変わるが、来て貰ったのは明日私と一緒に王城に行って貰いたいからなのだよ」
あ~ロイジェルク様からの仕事では無く、王様からの仕事か・・・元々断れない事だがテンション下がるな。
「承知しました、今回のお仕事、ロイジェルク様はご存じなのでしょうか?」
「うむ、知っている、君達とちょっとした旅行に行く事になったのだよ」
「旅行ですか・・・」
旅行という事は俺が転移で行けない場所って事だな、今回のは凄くめんどくさい仕事の様だな・・・。
「エルレイ君は、お隣のルフトル王国の事を知っているかい?」
「いえ、名前くらいしか存じ上げません」
「今回はルフトル王国への旅行と言う訳だ」
戦争では無く旅行か、陛下からの仕事で行くって事はルフトル王国との取引?
「ロイジェルク様はルフトル王国との交渉役で、私は護衛と言う事でしょうか?」
「相変わらず君は話が速くて助かる、そう言う事だから明日の朝よろしく頼む、それと、この事は内密にしておいてくれ」
「分かりました」
ロイジェルク様はそう言うと、忙しいのだろうすぐに部屋を出て行った。
俺もルリア達に、明日王城に行く事は報告しておいた方が良いだろう、ルリアの部屋に戻ると屋敷の使用人が大勢集まっておりベッドの搬入をしている所だった。
見ている間にベッドが並べて行き、あっという間に終わってしまった、流石公爵家に仕える使用人だ。
彼らと入れ替わりにルリアの部屋へと入る。
「ただいま」
「お帰り、早かったわね」
「明日の要件を言われただけだからね」
「その要件は何だったの?」
「また王城へ呼ばれた」
「そう頑張ってね」
ルリアはまた面倒ごとを押し付けられるのだと思ったのだろう、私は関係ないとばかりに目をそらされた。
「エル、お父様に会いに行くのか?」
「たぶんそう思う」
「私も行っていいだろうか?」
「どうだろう、ロイジェルク様と一緒に行くから仕事の話だと思うのだが」
「・・・ロイジェルクと行くのなら遠慮する」
ヘルミーネは顔をしかめて断って来た、ロイジェルク様の事が苦手なのだろうか?
「まぁ、面白い話では無いだろうから皆と留守番しておいてくれ」
「分かった」
「客間に戻るよ、ロゼ、戸締りお願いするよ」
「承知しました、エルレイ様もお気を付けて」
ルリアの部屋を後にし、リゼと客間に戻る。
「リゼ、軽く仮眠しよう、敵が来るとしたら夜中だろう」
「分かりました」
「グール、敵が来たら教えてくれ」
「マスター了解したぜ、所で俺様ナイフのままなんだが、剣に戻っていいか?」
「いや、ナイフのままでいてくれ、ナイフの方が室内での戦闘はやりやすい」
「マスターがそう言うなら構わねぇけどよ」
本音を言うと、グールの出番は無いと思うし、ナイフだといざとなったら投げられるから便利、と言えば文句言われそうだから黙って置く。
軽く仮眠をして、うとうとしていた頃、グールの念話で起こされた。
『マスター起きろ、敵だ!!』
『グール、念話使えたんだな』
『マスターとは魔力で繫がってるから当然だぜ』
『リゼ、敵が来た様だ』
『エルレイ様、殺気を感じています』
『ロゼ、起きているか』
『エルレイ様、起きております』
『こちらに敵が来た、ロゼも注意しておいてくれ、決してこちらには来ない様に』
『承知しました、お気をつけて』
『マスター変だぜ、敵が廊下から来ている』
『ここは一階だから窓からじゃないのか?』
『間違いねぇ、もうすぐ扉の前だ来るぞ』
『リゼ、扉からくる様だ、障壁を張っておこう』
『その様ですね、迎え撃ちます』
俺もベッドから出て体の表面に障壁を張り巡らせ、一応グールも手に構えて置く。
扉の外から鍵が開けられる音が聞こえる、敵は少なくとも客間の鍵を準備出来る様な人物、もしくはその配下と言う事だろう。
扉の鍵が開けられ扉が開いた、次の瞬間俺は部屋の壁まで吹き飛ばされていた。
「エルレイ様!!」
何が起こったのか分からなかったが、障壁を張っていたからダメージは無い、単純に体が軽いため何者かから受けた衝撃で飛ばされただけだった。
≪リゼ視点≫
自分に障壁を張り、扉を破って来るだろう相手にナイフを構えて待ちます。
扉の鍵が開けられ、扉が開いた瞬間、私の横をすり抜けて敵がエルレイ様へ襲い掛かりました。
「エルレイ様!!」
敵に一瞬遅れて身体強化を使用、敵はラウニスカ王国の暗殺者か!!私は油断していた訳ではありませんが、この能力を持つ者同士だと僅かな遅れが致命傷になります。
エルレイ様を確認すると、障壁は破られておらず無事の様で安心しました、私はエルレイ様に追撃を加えようとする敵に背後からナイフを突き刺します。
しかし、それはすんなりと躱され、逆にこちらに敵が振り向きざまに、ナイフで振り払って来ました。
私はそれを躱して距離を取ろうと下がりますが、相手がそれを許してはくれず、次々とナイフが私を襲って来ます。
敵はフードを深くかぶり、顔に布を当てていて顔を確認する事は出来ませんでした。
私は身体強化の訓練後、メイドとしてこれまでやって来ていて、暗殺者育てられた相手とでは実力が違い過ぎていて、接近戦は不利です。
エルレイ様に会う前だと、ロゼと二人で戦って来ましたから、リリー様を城から連れ出し逃げる事が出来ました。
しかしエルレイ様と出会った今では魔法を使え、一人でも十分戦えるはずです!
敵のナイフは出来るだけ避けていますが、全ては避け切れません、しかし障壁は簡単には破られないので攻撃に転じます。
私は頭上に複数の尖った氷の塊を浮かべ、それを囮にして床一面を凍らせました。
ナイフを避けつつ、氷の塊を敵に撃ち出していきます、敵はまさか私が魔法を使うとは思っていなかった様で、慌てて躱し床の氷で滑ってバランスを崩しました。
転ばなかったのは流石だと言いたいですが、生け捕りにする余裕は無いので、ここで決めさせてもらいます!!
私は残っていた氷の塊をすべて敵に撃ち込み、同時にナイフも投げました。
敵は流石に全部は避け切れなかった様で、血を流し、こちらを睨んでいました。
止めとばかり、また新たに氷の塊を作り出し撃ち出そうとした時、敵はナイフをエルレイ様に投げつけました。
私は一瞬それに目を奪われてしまい、敵は次の瞬間、敵は窓を突き破り逃げ去られてしまいました。
私は追いかけようと思いましたが、エルレイ様の無事を確認するのが先です、エルレイ様の元へ駆け寄り、無事を確認して安堵しました。
「エルレイ様、無事ですか?」
≪エルレイ視点≫
俺が吹き飛ばされた後、リゼと敵が戦っている様だったが、何が起きているのか見えなかった。
暗闇の中、風を切る音と、リゼと敵が動いていると思われる残像みたいなものが微かに見える程度。
リゼの魔法だろう、床一面が凍り付き、氷の塊が一瞬で床に突き刺さっている。
俺、リゼとロゼに勝てる見込みはゼロだな・・・何かが俺の障壁に当たったと思ったら、バリーン!と窓ガラスが割れる大きな音が聞こえて来て、俺の前にリゼが現れた。
ここまで十秒は経っていないだろう。
「エルレイ様、無事ですか?」
「俺は何ともない、リゼも無事か?」
「はい、しかし敵を逃がしてしまいました・・・」
リゼは俺の無事を確認すると安堵した表情を見せていた。
「それは仕方がない、床に血が落ちてるが、リゼのでは無いのだな?」
「はい、敵が流した血です」
「そうか、それを追って行けば敵に追いつけるだろうか?」
「いえ、それはお止め下さい、敵はラウニスカ王国の暗殺者です、正直に申しまして、敵が二人いたら厳しいです」
「分かった、グール、もう敵は近くにいないのか?」
「いねぇ、逃げる時も一瞬でいなくなったぜ、俺様最強だと思っていたが、勝てねぇな」
「本当にお前使えないな・・・」
「あれは無理だろ、マスターも目で追えて無かったじゃんよ!!」
グールが必死に訴えて来る、確かにあれは無理だな。
「そうだな、グールすまない」
「分かればいいんだよ、しかしそれと戦った姐さんスゲーな、見直したぜ」
「お前に見直されても嬉しくありません」
「リゼ、確かに俺も見直したよ、リゼのお陰で助かった、ありがとう」
「エルレイ様お守りするのが私の務めです、しかし嬉しいです」
リゼが手を広げてこちらを見ている、まぁ助けられたし、リゼの好きにさせるか。
リゼの懐に体を預けると抱きしめられ体を撫でまわされた、リゼのいい匂いと柔らかい感触が非常に気持ちいい・・・忘れていた、ロゼに連絡を取らなくては。
『ロゼ、そちらに異常はないか?』
『エルレイ様、こちらは無事です』
『こっちはリゼが敵と交戦して逃げられた、ラウニスカ王国の暗殺者だった様だ』
『エルレイ様、怪我はなされませんでしたか!!』
『俺もリゼも無事だ、戦いは一瞬で俺には何が起こっていたのか分からなかった、詳しい事はリゼに聞いてくれ』
『承知しました、相手は暗殺のプロです、十分ご注意ください』
『分かった、ロゼも済まないが、朝まで気を付けてくれ』
『はい』
暫くリゼの好きにさせていたら、騒ぎを聞きつけて来た執事が扉の前にやって来た。
「何事でございますか?」
「何者かに襲撃されてこのざまだよ、襲撃者は窓から逃走した」
「それでお怪我はございませんか?」
「大丈夫だ、状況を説明したいのでヴァイスさんを呼んできてもらえないだろうか?」
「承知しました、少々お待ちください」
リゼから解放され、暫くするとヴァイスさんが慌ててやって来た。
「エルレイ様、ご無事でしょうか?」
「ヴァイスさん問題ありません、それより夜分遅くにすみません」
「いえ構いません、こちらの落ち度です、申し訳ございませんでした」
「まぁ、過ぎた事で無事だったから気にしないでください、それより襲撃者の話をしましょう」
「エルレイ様、よろしくお願いします」
「襲撃者は扉の鍵を使って侵入してきた、この家の内情に詳しい者が関係している可能性があります、それと襲撃者はラウニスカ王国の暗殺者でした」
「何と!!よくご無事で・・・」
ヴァイスさんは流石に驚いた様だ、まぁあの速度で襲われれば殆どの人は殺されるよな・・・。
「リゼ、顔は見たのか?」
「いえ、フードを被り、顔に布を巻いていて顔は認識できませんでした、後、敵のナイフが落ちているはずです、毒が塗られている可能性があるので触るときは注意してください」
「と言う事だ、襲撃者は怪我をしている、床にある血痕は襲撃者の物だ」
「承知しました、エルレイ様、今夜は別の部屋をご用意しますので、そちらでお休みください」
「ありがとう」
流石にこの部屋で眠る度胸は無いな、かと言って部屋を変えたからと言って寝られる訳でもないが・・・。
新たに用意された部屋に移動してソファーに座る。
「リゼ、流石に眠るわけにはいかない、すまないがお茶を入れて貰えないだろうか?」
「畏まりました」
リゼは二人分のお茶を入れてソファーに座った。
「さてリゼ、朝まで時間がある、今回の襲撃について考えて見よう」
「分かりました」
「まず襲撃者について、襲撃者は鍵を持っていた、ラウニスカ王国の暗殺者だった、顔は分からなかった、ここまではいいか?」
「はい、間違いありません」
「ラウニスカ王国の暗殺者を雇うにはどれくらいの金額が掛かるのか、リゼは分かるか?」
「いえ、存じ上げません、リリー様も存じ上げないと思います、ただ、かなりの高額になるのではと推測されます」
「そうか、一般人には無理でも貴族だと払えるか、今日この館にいるのは結婚式に参加した王族、貴族、使用人達だな、使用人を除けば十分雇える金は持っているはずだ」
「そうですね」
「グール、襲撃者は迷わず俺がいる客間に来たんだな?」
「間違いねぇ、迷わず真っすぐ来たぜ」
「暗殺者を雇った者は俺が泊まっている部屋を知っていて、尚且つ鍵を用意できる人物となる」
「恐らく使用人は全員、エルレイ様があの部屋にいる事は知っていたと思われます」
「使用人は誰に聞いても、俺が泊まっている部屋を教えてくれるだろうか?」
「案内はしてくれると思いますが、情報だけ教える事は無いと思います、ただしお金、もしくは弱みを握られている場合は教えてしまうかも知れません」
「そうか、使用人についてはロイジェルク様も調べるだろう、王族、貴族についてだが、正直誰が敵で誰が味方か分からない、情報をくれたユーティア様だけが今の所味方かな」
「お一人だけですか、公爵様やネレイト様もお味方なのではないでしょうか?」
「そう思うけど確実では無い、まだまだこの国の周囲は戦争の気配があるから、俺を排除しようとはしないと思ってはいるけどね」
「そうですね、今エルレイ様がいなくなれば、また領土が奪われる可能性が高くなりますからね」
「敵が誰だか分からない以上用心するしかない」
「確かに、それしか手は無いようです」
「リゼは敵に顔を見られたんだよな?」
「はい、そして、今後私とロゼ、リリー様に暗殺者が向けられてくる可能性が高くなりました」
「やはりそうか」
「ラウニスカ王国は能力者の裏切り者を許しませんので刺客を送ってくるでしょう、ですので今後、ロゼと相談して警備体制の見直しをしたいと思います」
「それはリゼとロゼに任せる」
「はい、ありがとうございます」
「襲撃者はやけにあっさりと逃げて行ったが、致命傷を与えたのか?」
「いえ、そこまでの傷を負わせることはできませんでした、ただ身体強化が切れる前に逃げたのだと思います」
「連続使用は出来ないのだったか?」
「はい、正確には出来るのですが、それは自らの死につながります、身体強化をまた使うためには一分程度開けないといけません、今回敵が私より先に身体強化を使ったので、敵が先に時間切れとなり、隙が生まれるのを無くすために逃げたのでしょう」
「なるほど、対抗策として俺に出来る事はあるか?」
「そうですね、エルレイ様でしたら障壁の強化だけで凌げるでしょう、他の方は自分を囲う魔法を使えば近寄れないでしょう、一番いいのは飛んで逃げる事ですね、十秒凌げばいい訳ですから」
「敵は自分を囲った魔法を破壊出来ないのか?」
「多分難しいでしょう、身体強化を使った際に使える武器がナイフか素手に限定されます、重い武器をあの速度で振り回すと、体の方が壊れてしまいます」
「分かった、この事は後で皆と共有すればいいな」
「はい」
「とまぁ今考えられることはこれくらいかな、ロゼと情報の共有をしておいてくれ」
「畏まりました」
その後リゼと他愛もない話をしながら朝まで過ごした。
翌朝、ルリアの部屋に向かってお互いの無事を確認しあい、念のために全員で王都の別邸へ、ロイジェルク様と共に移動した。
ルリア達は別邸で留守番して貰い、眠たい表情の俺とロイジェルク様は、王城に向けて走る馬車に揺られていた。
「エルレイ君、昨夜はすまなかった」
対面に座るロイジェルク様は頭を下げ謝って来た。
「ロイジェルク様、頭を上げてください、急激に爵位を得たため、皆の妬みを買い、狙われるのは当然の事でしょうから」
「そう仕向けたのは私だ、それなのに我が屋敷で襲撃される等、あってはならない事だ」
「そうだとしても私は無事でした、何も問題ありません、それで今朝、少し騒がしかったようでしたが何か分かったのでしょうか?」
ロイジェルク様はようやく頭を上げて真剣な表情で話してくれた。
「今朝男爵が一人部屋で亡くなっていた、恐らくその者が暗殺者を雇い、屋敷に使用人として引き入れたのだろう」
「暗殺が失敗し、発覚を恐れたため消されたのでしょうか?」
「だろうな、男爵は毒を飲んで死んでいた、自ら飲んだか飲まされたのかは分からない」
「そうでしょうね、所でラウニスカ王国の暗殺者を雇うには幾らかかるかご存知でしょうか?」
「いや、詳しい事は分からない、しかしかなり高額な金額を請求されるはずだ」
ロイジェルク様はそう言ったが知っているのだろうな。
「男爵が支払える金額でしょうか?」
「厳しいだろう」
「つまり、今回死亡した男爵の代わりにお金を支払った人物がいる、という事ですね」
「私もそう考えている、しかし、その犯人を見つけるのは容易ではない」
ロイジェルク様は厳しい表情でそう述べた。
「私もそう思います、今後また襲われてもいい様に対策は整えましたから大丈夫です」
「流石だな、しかしまた襲われる可能性は少ないと思うぞ」
「そうなのですか?」
「うむ、また雇うにしても一人では倒せなかったので二人以上必要だろう、その分金額も跳ね上がる上に、また失敗するリスクを考えると難しいのではないのか?」
「確かにそうかも知れませんね、私が雇う立場で考えてもその方法は取りませんね、何か他の方法を考えると思います」
「それに、ラウニスカ王国もあまり余裕が無い様だしな、キュロクバーラ王国との戦争が激しさを増している」
「そうなのですね」
「その事もあって、今回のルフトル王国との交渉を急いでいる訳だ」
「分かりました、すみませんが少し横になります、限界の様です・・・」
「うむ、着いたら起こすから休むがいい」
馬車の緩やかな揺れと柔らかなクッションの効いた座席のお陰で、眠気が最高潮に達し意識が途切れた・・・。
王城に着きロイジェルク様に起こされて、王城の中に入って行った、ロイジェルク様の後を付けて歩くと、いつもと違う道のりの様だ。
城の最奥辺りにまで歩いた感じで、ロイジェルク様は一つの扉を開け中に入った、俺も後に続き中に入ると、陛下一人椅子に座り机の上で書類を書いている様だった。
「陛下、お待たせしました」
「うむ、ロイジェルクにエルレイ、呼び立ててすまなかった、そちらに座ってくれたまえ」
陛下がいる机より手前にあるソファーに、ロイジェルク様と腰掛ける。
陛下は暫く書類を書いていたが、それが終わると、封筒に書類を収めて蝋で封を施した。
陛下は封筒を携え、ロイジェルク様の対面のソファーに腰掛けた。
「今回、ロイジェルクとエルレイにルフトル王国との交渉へ赴いてもらう訳だが、交渉内容については内密に頼む」
「心得ております」
陛下は封筒をロイジェルク様に手渡しした。
「ルフトル王国と接した領地の貴族が、エルレイを使いルフトル王国に攻め込もうと、うるさいのでな・・・」
陛下は疲れたような表情でそう述べた、なるほど、アイロス王国を攻め滅ぼした俺をうまいこと使い、自分たちの領土を増やしたいのだろう、勿論俺はそんな事に使われるなら全力で反発するつもりだ。
「陛下のお気持ちお察しいたします」
「勿論エルレイにそんな事を頼むつもりも無い、それにエルレイと供に攻め込んでも負ける可能性が高いからな」
ルフトル王国はそんなに強いのか、また魔法が効かないとかだろうか・・・。
「エルレイ君、ルフトル王国は強力な精霊使いが大勢いる国なのだよ、そしてかの国は領土を広げるつもりは無いから、無闇にこちらから仕掛ける必要も無い」
陛下に代わりロイジェルク様が説明してくれた、精霊使いか非常に興味が湧いて来たな。
俺の眠気も冷めて顔がほころんできた様だ。
「エルレイ君は分かりやすいな、精霊使いに興味津々と言った様子だ」
「どうやらその様だな」
陛下とロイジェルク様に指摘され顔を引き締める、とても恥ずかしい・・・。
「そうですね、とても興味があります」
今更取り付くっても遅いので、素直にそう答えた。
「そのためにも二人には、今回の交渉を上手く纏めて来て欲しい」
「「承知しました」」
「出立の日取りはロイジェルクに任せる」
「はい、では陛下失礼致します」
「失礼します」
ロイジェルク様と俺は、陛下に挨拶をして部屋を退出し、城を後にする。
帰りの馬車でロイジェルク様と簡単な打ち合わせを行う。
「エルレイ君、出立は一週間後、私の屋敷から馬車で移動する、ルフトル王国に飛行魔法や空間転移で行く訳には行かないからな」
「はい心得ております、それにはルリア達も連れて行って構いませんでしょうか?」
「もちろん構わない、気楽に観光気分で行こうじゃないか」
ロイジェルク様は笑いながらそう述べた。
「皆喜ぶと思います」
俺も笑顔で答えた、精霊使いと言う事を聞いてから眠気など吹き飛んでしまったからな、早くルフトル王国に行きたくてたまらなかった。
「出発まで屋敷にいて構わない、と言いたい所だが、今は帰っておいた方が良いだろう」
「そうですね、ロイジェルク様には申し訳ないですが、一度帰る事にします」
「出来るだけ犯人を見つけようと思うが、正直難しいだろう」
「私もそう思います、襲撃者も逃がしてしまい、雇い主と思われる男爵も死んでいるのでは、情報が少ないですからね」
その後、別邸へ辿り着き、皆とロイジェルク様を連れて本邸へ転移し、リアネ城へと戻って来た。
その足でアドルフに報告するため俺は執務室へと向かった、他の人達は自室に戻り、リゼとロゼは警備の見直しをするとの事で別れた。
執務室に入りアドルフに報告をする。
「アドルフ、今帰った」
「エルレイ様、お帰りなさいませ、父より襲撃を受けた事、聞き及んでおります」
「その事は問題ない、今に始まった事では無いからな、それに対策は出来ている、また襲われても殺されることは無いさ」
「流石でございます、この城の警備は強化致しますのでご安心下さい」
「そこはアドルフに任せる、俺からの要望は部屋の鍵の管理を厳重にして欲しいくらいだ、今回の襲撃者は客室の鍵を開けて入って来たからな」
「承知しました」
アドルフに任せておけば大丈夫だろう、ラウニスカ王国の暗殺者が来た場合、どれだけ警備を厳しくしていても突破して来るだろうからな。
「それと、また一週間後に出かける、今度はルフトル王国に行く事になったから、かなりの日数を要するだろう」
「畏まりました、旅行に必要な必需品や贈答品など準備しておきます」
「頼む」
出掛けると言っただけで贈答品の用意とか、アドルフはやり有能だ、俺はそんなこと気にして無かったよ、ロイジェルク様も用意するだろうが、俺も侯爵だから手ぶらって訳には行かないよな・・・。
アドルフへの報告を終え、自室に戻ろうとするとアドルフに止められた。
「エルレイ様、こちらの書類にサインをお願いいたします」
出掛けている間アドルフに決定権を渡しておいたのだが、やはり戻ったら俺がやらないといけないのか・・・。
「分かった」
執務室の俺の席に座り書類に目を通し、サインをしていく作業を夕食前まで行った、重要な案件はやはり俺が処理しないといけない様だ。
使用人を含めての夕食後、自室に戻ろうとすると、リゼに部屋が変わりましたと、今まで誰も使っていなかった、アイロス王が使っていたと思われる広い寝室へと連れて行かれた。
部屋に入るとベッドが沢山置かれており、皆ソファーで寛いでいた、俺もソファーに座りお茶を入れて貰い寛ぐ。
「リゼ、どういう事なんだ?」
「はい、ロゼと警備体制について話し合った結果、全員一つの部屋で眠っていただく事に成りました」
リゼは決定事項だというわんばかりに胸を張ってそう答えた、リゼとロゼに任せると言った手前反対は出来ない。
俺は構わないが、ルリアとか怒りそうじゃないのか?警備を優先する考えだと別々の部屋にいるよりかは、確かに安全だが・・・。
「俺は構わないが、皆はいいのか?」
「私は構わないわよ、皆の安全の方が大事だから我慢するわ」
ルリアは諦めた様子だった、俺が来る前にリゼとロゼに説得されたのだろう。
「私も構いません、エルレイさんと一緒に過ごせるのですから・・・」
リリーは顔を赤くしやや俯いてそう答えた、リリー可愛すぎて抱きしめたい・・・ただ今それをやると、やっぱり別の部屋にとか言われそうなので自重する。
「エル、私も構わないぞ、し、将来は、ふ、夫婦となるのだからな」
ヘルミーネは普段あまりこう言ったのは気にしないと思っていたが、意識すると駄目なのか、少し顔が赤い様だ、一応ラウラの許可を貰っておこう。
「ラウラ、構わないのだろうか?」
「エルレイ様、構いません、ただし、結婚まで手を出さない様お願い致します」
「それは勿論約束するよ」
ヘルミーネに手を出すとか考えた事も無いし、そんな事をすればルリアに殺されてしまう。
それにしてもアルティナ姉さんが静かだな、反対するとは思えないのだがどうしたのだろう。
「アルティナ姉さんは反対なのですか?」
「私が反対するわけないじゃない、ただ、私のベッドの位置がエルレイのベッドから離されたのよ・・・」
アルティナ姉さんは肩を落とし自分のベッドを指さした、中央から離れた位置だ、俺のベッドは真ん中か・・・。
「リゼ、俺のベッド端の方が皆を守れてよくないか?」
「いいえ、エルレイ様は真ん中以外ありえません!!」
リゼは当然と言った感じで言い切った、皆を見渡すと納得しているようで頷いていた。
「ベッドの位置は、どのような配置になっているんだ?」
「はい、右側から順番にロゼ、リリー様、ルリア様、エルレイ様、ヘルミーネ様、アルティナ様、ラウラ、私となっております」
「ヘルミーネとアルティナ姉さんを入れ替えた方が、ラウラも世話がしやすくていいのではないのか?」
「エルレイもそう思うわよね!リゼ、エルレイもこう言っているのだから、やはり私のベッドをエルレイの隣にするべきよ」
アルティナ姉さんは目を輝かせてリゼに訴えていた。
「エルレイ様、一応序列順で位置をお決めしたので、変える訳には・・・」
リゼがそう言ってこちらに助けを求めてきた、序列順か、確かに表向きでは重要だがここでそれは必要では無いな、ヘルミーネにも皆平等にと言ったからな。
「リゼ、ここでは皆同じ家族だ、序列とか気にする必要は無い、ヘルミーネはどうなんだ、今のベッドの位置でいいのか?」
「ラウラと隣同士が嬉しい、しかしエルとも離れたくない」
まさかそう言ってくるとは思っていなかった、アルティナ姉さんにさらに離れて貰うか、ルリアと変わって貰うのは俺が何となく嫌だった。
「エルレイ、分かりました、私がラウラとベッドの位置を変えます」
アルティナ姉さん流石大人の対応だ、リゼ、ロゼ、ラウラを除けば十三歳で一番年上だから九歳のヘルミーネに譲ってくれたのだろう。
「アルティナ姉さん、ありがとう」
「アルティナ、感謝する」
「エルレイの為ですからね」
ヘルミーネもアルティナ姉さんに感謝の言葉を言った、その後ベッドを収納にいれて位置を変え、いざ寝ようとした所で問題が発生した。
「あのアルティナ姉さん、どうして俺のベッドに寝ているのでしょうか?」
「このベッド広いから二人で寝ても問題ないわよね、それに前は一緒に寝ていたじゃない」
アルティナ姉さんはにこやかに微笑んでいた、確かに三、四歳ごろ一緒に寝ていた記憶がある、別に一緒に寝る位問題は無いか?
「アルティナ姉さん分かったよ、一緒に眠りましょう」
俺がベッドに入ろうとすると、ルリアに止められてしまった。
「駄目に決まってるでしょ、何自然とベッドに入ろうとしているのよ!」
「駄目なのか?」
「当たり前でしょ、年を考えなさい!」
「俺十一歳、アルティナ姉さん十三歳、特に問題無いと思うが・・・」
「ルリアもエルレイと一緒に寝たいのよ」
アルティナ姉さんがルリアを見ながらそう言った。
「そうなのか?」
「そんな訳無いじゃない」
ルリアは顔を赤くして顔を背けてしまった、可愛いじゃないですか、ルリアも一緒に寝たかったのか・・・。
「エルレイ、こうしましょう、エルレイと一緒に寝る人を日替わりで変えていけばいいんじゃ無いかしら?」
俺としては一向に構わない、むしろ嬉しい事だな。
「アルティナさん、とてもいい考えです」
「私もエルと一緒に寝てみたいぞ」
「アルティナ様、それは私達も含まれるのでしょうか?」
リリーとヘルミーネは賛同し、リゼは目を輝かせてアルティナに詰め寄った。
「当然じゃない、ここにいるのは全員家族でしょ」
「しかし、それでは警備に問題が起きかねます」
ロゼはリゼが俺と寝る事に反対の様だ。
「寝ている間は窓と扉を魔法で塞ぐのでしょ、誰も入って来れないだろうし、それを破ろうとしていれば気が付くじゃない」
「それはそうかも知れませんが・・・・・・分かりました、承認しましょう」
アルティナ姉さんに説得されてロゼも認めた様だ。
「ルリア、どうだろうか?」
ルリアに恐る恐る訪ねてみる。
「分かったわよ、エルレイとは結婚するわけだし、いずれそうなるとは分かっているから、練習と思えばいいわよね・・・」
ルリアは自分に言い聞かせるようにつぶやいていた。
「では、今日はアルティナ姉さんと寝るけどいいんだな?」
「いいけど、変な事はしないのよ!」
「別に何もしないよ」
「さぁエルレイ、一緒に寝ましょう」
アルティナ姉さんが手招きをしている、今度は邪魔される事も無くアルティナ姉さんが待つベッドに入った。
アルティナ姉さんに抱き枕にされて眠ったが、俺は安心できて熟睡する事が出来た。
二日目は顔を赤くしたリリーを抱きしめ、幸せを感じて眠り、三日目にはヘルミーネと手を繋ぎ、監視役のラウラと三人で寝た。
四日目にはルリアとベッドに入ったが、こちらを向いてくれず、後ろから抱きつく形で眠った。
五日目はリゼに、アルティナ姉さんと同じように抱き枕にされて、胸の柔らかさと堪能しながら眠る事が出来た。
六日目はロゼとベッドに入ったが、ロゼは意外と恥ずかしがっていたので、こちらから抱きついた、抵抗はされずそのまま一緒に眠った。
昼間は剣と魔法の訓練に、決済の書類に判子を押す作業に明け暮れた。
ヘルミーネは無詠唱が出来る様になっていたが、まだ変化を練習している段階で、強化、圧縮と言った事が出来ない様だった。
ラウラもリリーが教えて風と水の魔法を使えるようになっていた、ラウラの正式な年齢は知らないが、多分十六歳のリゼより上だろう。
どれくらいの年齢まで魔力が成長するのか、ラウラで分かるかも知れないな、直接聞いても教えてくれるだろうが、女性に年齢を聞くのはやはりためらいがある。
後でヘルミーネに聞いて見た所、ラウラは十五歳だという事が分かった、落ち着いた感じだったから二十歳位だと思っていた、直接聞いていたら驚いた表情を見られただろうから、ヘルミーネに聞いて正解だったな。
ルフトル王国へ出立する準備は、アドルフが全て終わらせてくれていた、俺はそれを収納して、皆を連れて出かけるだけでいい様になっていた。
ここ一週間は、ルフトル王国の精霊使いに会えることを楽しみにして過ごして来た、そしていよいよ、ルフトル王国へと出発する日を迎えた・・・。




