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ドクターハタノの優雅な日常  作者: ふくろう亭
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診察 15 孝信の発見

 「ただいま帰りました」

 孝信は玄関を開け奥に声をかけた。すぐに祖母が姿を見せて「おかえりなさい」と返事をする。

 居間に行き孝信は祖母に今日の出来事を報告した。登校中に見聞きしたこと、同級生たちと話をしたこと、授業の内容、そして帰宅中のあれこれ。細かくはないが出来るだけ省かないように話していく。話し終わると微笑みながら聞いていた祖母が話してくる。孝信が疑問に思ったことには答えを出し、感じたことには祖母なりの感想を述べる。祖母が出してくれたお茶を飲みながら納得したり、新たに出てくる疑問を尋ねたりしていると三十分ぐらいが過ぎている。

 それから孝信は自室に行き着替えて明日への準備を行う。

 この部屋は、父が高校生のころまで使っていたとのことで、父の私物がそのままに残っていた。

 なかでも孝信が気に入っているのは、父の蔵書ではなくアルバム類だ。 

 あまり整理のあともなく、時系列にそって並べられたものが多いようで、どんなシチュエーションで撮られたものかもコメントがほとんど書いて無いため分からない。ただ、今の自分と同じ年頃ぐらいから急に写真の枚数が増え、白黒からカラーへと質が変化しながら少年から青年へと成長していく様子が見て取れるのが面白かった。

 所々に亡き母や伯父たちの写真が混ざる。さすがに母の写真だけは特別扱いで、ちゃんとした扱いを受けているのが可笑しかった。

 というのもやたらと被写体に女性率が高いのだ。

 これはこの部屋に保管しておくしかなかったろうな。母の性格がどんなものだったのか知る由もないが、わざわざ嫉妬心を煽るようなものを見せる必要などないはずだ。

 これはトーコおばさんだ。高校時代に父たちとプロデビューして、今でも現役の歌手として活躍している父の先輩だ。何度かレコーディングにロンドンに来て、そのたびに遊びに来てくれている人だ。

 このあたりを重点的に発掘してみると、アルバム以外にレコードやテープが出て来た。面白そうなので部屋にあった父のオーディオセットで聞いてみることにした。

 文化祭というのか、学校の催しなのかな、スピーチが入っていて変だ。それからオーディションに出ているようなのもある。

 なんか意外とクールだな、子供っぽくないというのか、かなり完成されているような印象を受ける。

 母の歌声のテープもあった。

 声が幼くて、明らかにデビュー前のものだな。もちろん孝信は聞いたこともなかった。

 ノックの音がしてドアが開けられた。祖母ともう一人誰かが立っていた。

 テープの音量が大きかったかな。

 「それはダイアナさんの歌声かしら」

 サロンに連れて行かれて、改めてテープを再生することになった。たくさんあったテープは分類され、母のものが次々に再生された。

 祖母と一緒にいた女性はハンカチを手に握りしめ、時折目に当てている。

 「これ、原曲なんでしょうね」

 「そうでしょうね、これでやり取りしてたのね」

 女性はホーッとため息をついた。

 「これは割り込めるものじゃありませんね」


 トモノブは病院の自分のデスクに座り資料の整理を行っていた。外来の担当は外してもらったので書類の量は減るかと期待したのだが、現実は甘くなかった。院長が専任の秘書を付けようかかと打診してきたが丁重に固辞したのだが、ならばとばかりに回覧資料が増えた。もっとも目は通すが内容には極力スルーですませている。新しい棟を建てようが、増床しようがあまり興味はない。新しいMRIの導入には賛成意見を述べては置いた。機器の選定には関わらないようにしておく、業者がうるさくつきまとっては困るからね、という理由だ。

 今日は面会予定が入っていた。

 院長直々のメモがついていて、院長秘書が予定時刻になる前にわざわざ迎えに来た。

 「ドクター参りましょう」

 そう言いながらトモノブの服装チェックを行う。緩んでいたネクタイを締め上げシワのよった白衣を着替えさせる。

 「あまりポケットにものを詰め込んではいけません」

 そりゃすいませんね。でもポケットはものを入れるためにあるのであって、という反論は行わない。こういう身だしなみへのお小言は自分の欠点を補ってくれる善意の行為なのだから甘んじて受けねばならない。

 ポケットから出て来たいろいろをバッグに入れて肩にたすき掛けをしたら真剣に怒られた。いやこうすると両手が自由に動かせて便利なんだが、とつい口に出てしまうがすぐに倍する言葉が返ってきたのでバッグは手に持ち直した。

 そんなやり取りを続けて歩いているうちに応接室に着いてしまった。こんなところでご面会とはどんな「VIP」様なのだろう。

 秘書さんがドアをノックして開けてくれたのでありがたく入室して驚いた。

 トモノブを待っていたのはロッキンガム侯爵夫人と福原三春だったからである。

 「あら、時間通りとはね。大変結構です」

 夫人は今朝挨拶したときと変わらぬ笑顔で言った。

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