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4 アリバイ作り


 見渡すかぎり青い絨毯が広がる一本道を快適に走っていた。


 流れていく雲もゆっくりとしていてのどかな風景だった。ここが異世界でなければどれほどよかったことか……。


 出発する前にデータ通信用の古いスマホを自転車の全面に取り付けたホルダーに入れて動画配信はそちらに固定した。


 スマホから送られてくる映像も実にスムーズで見やすい。道路の状態が良い証拠だ。地図で確認してみたところ古代文明の遺産としるされていた。アスファルトの寿命なんてとっくに過ぎているような気がするのだが、たまにひび割れはあるがそれ以外に目立った損傷はない。理由は謎だが悩んでも答えがでるとは思えないので深くは考えずにこの恩恵にありがたくあやかることにした。


 もう一台はアンとの通話限定にした。バッテリーを少しでも節約するためだ。幸い大容量のバッテリーが鞄に入れてあったのであと十回は充電できる。それでも心許ないがこればかりはしかたがない。なんとか充電するすべを考えなければならない。魔法とかでどうにかならないものだろうか?


 俺の不安もしらずにアンは鼻唄を歌いながら走っていた。ほんとこいつは緊張感がない……。


「周囲の警戒は忘れるなよ?」

『大丈夫だよー。みーくんは心配性だなぁー』

「お前の大丈夫はぜんぜん信用できないんだよ」


 だからこそバッテリーの消費を気にしつつも配信を続けているのにアンときたら……。


『楽しいねーみーくん』

「はあ?」

『こーしてるとみーくんと一緒にお出かけしてるみたいだよねー』

「お前なにをのんきに……」

『だって最近のみーくんぜーんぜん一緒に遊んでくれないでしょー? 休みの日は外に出ないしなんかそれって寂しいかなーって』

「お前ひょっとして……」


 引き籠もりがちな俺のことを心配しながらも、無理に連れ出そうとはせずにこんな回りくどい方法で外の空気に触れさせようとしていたのか?


「そっか……余計なお世話だ」

『ええーー!!!!!』

「俺は自主的に引き籠もってるだけだしとくに困ってない。夏休みも積みゲーを消化したりとりだめしたアニメ見たりで忙しいんだよ」

『みーくん……重傷だったんだねー』


 失礼なやつだ。とはいえ幼なじみが心配してくれていたのは少しだけうれしく思う……ほとんど余計なお世話だがな。


「ところでお前実家にはなんて説明するつもりなんだ?」

『実家って?』

「あのなぁ……ゴールは遥か先だぞ。今日中には帰れないだろ?」

『ああーそっかー……どうしようー?』


 どうしようと聞かれてもなぁ……。


「この配信を見せればいいんじゃないか?」

『駄目だよー。お父さんもお母さんもすっごく心配性だから大騒ぎしたあげく倒れちゃうよー』

「ああ、うん……なんとなく想像がつく」


 アンがアホなせいかご両親は特に心配性だ。小学三年生ぐらいのことだったか、迷子になったアンを探し出すために親父さんは一晩中街を駆け回ったあげく自転車にはねられて入院、お袋さんもそれを間近で見て気絶、一緒に搬送されて入院。アホは学校帰りに近道のつもりで脱線して県外に飛び出していた。ようやく気がついて自力で帰ってくる途中で俺が発見して保護したしだいだ。そのあと自転車の二人乗りでつかまり警察にパクられるオチまでついた。当時は近所を歩くのが恥ずかしいほど有名になったものだ。あの悪夢がちらつく……。


「なんか適当に誤魔化すかぁ……」


 とはいえなんと言えばいいのだろう。路銀を稼ぎながらゴールの辿り着こうと思ったら夏休みまるまる潰れるのではなかろうか?


 どう考えてもうまい言い訳がみつからない……。


『みーくんちょっと待っててねー。電話してみるからー』

「え? おい、ちょっと待――」


 切られてしまった。しかし音なら配信用のスマホでも拾える。


『あーママー? うん、あーし。あのねー今日からみーくんちで同棲することにしたからー』

「おおおおいいいいッッッッッッ!!!!!!!!!」

『えーまだ早いー? うんうん……ならー夏休みの間だけ同棲するー』

「なんだそのぶっとんだ言い訳は? 納得するわけねーだろ!」

『いいのー? やったー! うんうん……パパによろしくー。オペレーションMAK始動って伝えといてねー』

「オペレーションってなんだよ! てかいいのか? 年頃の娘が同棲とか口にして!」


 俺の訴えが届くこともなく電話は切れた。そして……。


『もしもしみーくん? ママもいいってー』

「俺がよくねーよ! つーかなんだよMAKって?」

『えっ? どうしてそれをー……』

「ほんとポンコツだな!」


 MAKについては口を割らないので諦めた。しかし同棲の件だけでも破棄させなければいよいよ俺の未来が確定してしまう……。


「お前の両親は騙せてもうちは無理だぞ」

『なんでー?』

「本人いないのにどうやって誤魔化すんだよ?」

『なんだー。それなら大丈夫だよー』

「はあ? どういう意味だよ?」

『だってみーくんのお父さんは今日から出張で一月以上帰ってこないしーお母さんはやむを得ない事情で里帰りしてるでしょー?』

「え……初耳なんだけど? てかやむ得ない事情って何? なんでお前がそんなこと知ってんの?」

『今朝うちに来てママと話してたよー。息子をよろしくーって言われたからーかしまりーって』


 そういえば今朝から両親を見ていない……。


 親父が出張とかなんとかいう話しは聞いていたが今日からだったのか……。で、お袋は?


 慌てて電話してみるとすぐに繋がったのだが、なんか吹っ切れたような明るい声でしばらく帰らないからと言われた。あとアンに頼れとかなんとか……。返す刀で親父に電話すると……当然仕事中で出ない。メッセを送ってみると……お前は何も心配しなくていいと不安しか感じない返事が返ってきた。俺の知らないところで家族が大変なことに……。


『そーゆーわけだから今日から二人っきりだねー』

「実質一人きりだよ」


 こっちの問題は解決したが、もっとプライベートで重大な問題が発覚した俺は頭を抱えるのだった。


『あっ……見て見てみーくん。街が見えてきたよー』


 顔をあげてディスプレイを見ると映し出されたのは長い城壁と視界いっぱいに広がる街並みだった。


 まるで映画のような光景に俺もしばし悩みを忘れて見入ってしまいたいと思った……。


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