30 エピローグ
後日、謝礼を頂いた俺たちの懐はパンパンだった。
「うっはうはだなーおい!」
『もう働かなくていいと思うとせいせいするよねー』
ダンジョンコアは俺たちが考えていた以上に高く売れた。おかげでミスリルの鍵を買ってもまだまだ余っている。これならこの先、働かなくてもゴールまで辿り着けることだろう。僥倖である。
『みーくんこれからどうするのー?』
「食料買い込んだら街を出るぞ」
『うーん……』
「どうかしたのか?」
『なんかねーちょっぴり寂しいかなぁーって』
「まあ……な」
たった一週間ほど住んでいただけだが、もうこの街が第二の故郷的な感覚すらある。非常に濃密でインパクトのある毎日だった。
『まさか冒険者になってダンジョンに自転車で潜るなんてー思ってもみなかったよねー』
「そうだな。あらためて考えるとスゲー馬鹿なことしたな俺たち……」
なんかいけそうだから勢いでやってしまったが常識外れも甚だしい。いいかげん誰かに怒られそう。
とはいえそれも今日までだ……。
俺たちは食料を買い込むと自転車のカゴにのせてギルドへと向かった。顔見知りに挨拶をして街を出て行くと伝えたときにはみんなに引き留められた。どうやら俺たちが寂しいと感じていた気持ちは一方通行ではなかったようだ。ちょっと涙が出たよ……。
自転車で街の中を颯爽と駆け抜けるのもこれでおしまいかと思うと、アンのペダルを回す足もゆっくりになるようだった……。
そしてとうとう門から街の外へ……。後ろ髪をひかれる思いを裁ち切り自転車をこぐ。
『良い天気だねー』
「サイクリング日和だな」
『ダンジョンに潜ってばかりで忘れてたけど……暑いねー』
「そっちも夏なのかなぁ?」
『そうかもねー。セミのモンスターとかいるかもー』
「すげーうるさそうだな」
耳をすませば部屋の中にまでセミの鳴き声が聞こえてくる。あらためて夏休みなのだなあとしみじみ……。
「て、しみじみしてる場合じゃねえよ。さっさとゴール目指すぞアン!」
『あーなんかでかいカブトムシみたいなのが飛んでるよー』
「おおい! 何のんきにしてんだよ! 逃げろ逃げろ!」
『あはははははー!』
ほんと危機感の足りない奴だ。最短ルートであるモンスターロードを走行中なのだからもっと緊張感を持ってほしい……て、アンに言っても無駄か。俺の幼馴染みはいつでもこの調子だ。
この道の先にゴールがある……はずなので俺が導いてやらなければならない。一日でも多く夏休みを得るために!
「キビキビ走れよアン!」
『はーい!』
異世界を走る自転車はどこまでも真っ直ぐな道を駆けて行くのだった。
最後までお読み頂きありがとうございました。ブックマーク、評価を入れて下さった方々には本当に感謝しております。
おかげさまで初めて日間ランキングに載りました。スクショを撮って保存するほど嬉しかったです。
いよいよ夏本番で暑い日が続きますが皆様もお体にはお気をつけ下さい。それでは次作でもお会いできたら嬉しく思います。




