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29 ダンジョンコア、売るよ!


「えっと……どういうこと?」

『私とて元冒険者だ。無理を言っているのは重々承知している。だが頼む。ギルドマスターとしてこの街を守る責任があるんだ。どうかダンジョンコアの破壊だけはしないでほしい』


 なんかすっごい真剣な顔でお願いされて、実は買取してくれるか確認するためにもってきましたと言い出せる雰囲気じゃなかった……。


『でもこの子ー死に急いでるよー?』

『……ころせ』

「お前ら空気読めよ!」


 このカオスな状態をどうしたものか……。そんなとき頼れる受付嬢のお姉さんが助け船を出してくれた。いつもお世話になってます。


『マスター、事情を説明しては如何ですか? アンさんたちは信用できる方たちだと思います』

「なんか訳ありか?」

『あーし口かたいよー』

『……ころせ』


 かたくないだろ。うっかり口を滑らしそうで一番危ないわ。しかし話しが進まないので黙っておこう。


『そうだな……君の人を見る目は信用している。では……理由をお話しましょう』


 ギルドマスターが重苦しい雰囲気で話すところによると、なんとダンジョンとは無機物ではなく有機物、一つの大きなモンスターだと言う。長い年月をかけて研究した結果最近判明したことなのだそうだ……。


 知ってた。異世界モノのダンジョンの設定ってだいたいそういう感じだから。


『そしてダンジョンは周囲の魔素を取り込むことによって成長する……』

『つまり街の周囲のモンスターが少ないのはそのせいなんだよねー』

『察しがいいな……そのとおりだよ』


 そこまで言われればわかる。どこも同じような設定だし。この子できるっと思われてアンもご満悦だ。たのむからボロ出すなよ……。


『ダンジョンにモンスターが集中すれば対処もしやすい……が、近くに爆弾を抱えているようなものだ。討伐が追いつかずにモンスターが溢れ出せば真っ先に街が狙われることだろう……。もちろんギルドとして警戒をし、いつでも対処できるように職員には準備させている。だがそのことを街の住人たちが知ればいまのような穏やかな生活はおくれないだろう……』


 まあそうだうな。俺なら街を出て行く。ダンジョンで潤っている感じの街だし交通の便が悪そうなこの世界でそうそう引っ越しなどできそうないが、街の活気が薄れていくのは想像ができる。そこにきてダンジョンコアがみつかったということはだ……。


『ダンジョンコアとはいわばダンジョンの心臓。それを破壊すればダンジョンは死にこの街をとりまく環境は一変するだろう』


 どうしよう……。心臓もってきちゃったよ……。


『ごめんなさーい。軽いからついもってきちゃったー』

「重い話してるときに軽いとか言うな」

『……ころせ』

「お前はちょっと黙っててくれる?」


 もう面倒だからさっさとリリースしたい……。


『それでどうだろう……思い止まってくれないだろうか?』

「ああ……それはもちろん――」

『え? 砕いて手ごろな価格にして売るんじゃないのー?』

「お前もちょっと黙ってろ!」


 ほら、ギルドマスターが渋い顔をしてる……。エリスさんの視線もいたい。最初に売ろうとか言いだしたの俺じゃないのにね。


「わかりました――」

『たしかにダンジョンコアを破壊すれば君たちはダンジョンを制覇した英雄になれるだろう!』

「いやだから――」

『史上初の冒険者としてその名は永遠に世界の歴史に刻まれる!』

「ですから――」

『それを承知の上で図々しい頼みなのは重々承知しているが、どうかコアの破壊だけは思い止まってほしい。頼む!』

「聞けよ!」


 人の話し聞かない奴ばっかだな! もう!


 比較的冷静なエリスさんに間を取り持ってもらうことでどうにか俺たちがダンジョンコアを破壊する意思がないことを理解してもらった。エリスさんが頼りにされている理由がよくわかった。


『いやぁ……ホッとしたよ。ありがとう』

『ククククククアハハハハハハハアアアアアアアハッハッハッハー!!!!!』


 話しがまとまりかけた矢先にぶち壊すような笑い声が室内に響く。それは床に転がされていたダンジョンコアのものだった。


 なに急に? ビックリするんだけど?


『話しは聞かせてもらったぞ人間共よ!』

「急に息を吹き返したと思ったらなんだよ?」

『どうやら我を破壊できぬようだなあ……ああん?』


 その通りなのだが……イラッとするなぁ。


『我を生きたまま砕いて人間どもの欲望のはけ口にすると脅しておいてこのていたらく……笑わずにいられるか!』

「そんな言い方してねーよ!」


 してないよ? こんなでかい宝石を売りさばくルートなんてないし、ばれたらなんか怒られそうだから砕いて小分けすれば安全に売れるんじゃね? って提案しただけだ。それなのに周囲の視線が痛い。なぜお前も俺を残念なものをみるような目でみているんだアン?


『だがもう遅いぞ人間共! 何もかもが遅すぎたのだ!』

「はあ?」

『いまこの街に向けてダンジョンに巣くうモンスターの軍勢を向かわせた! この街に二度と朝日がのぼることはないだろう! フハハハハハハハッッッ!!!!!!』

『な――ッ!』

『そんな……』


 ギルマスとエリスさんがおののいているのでコアの奴が満足そうだ。腹立たしいのですぐにハッタリだとチクってやった。


「ダンジョン内ですら自由にモンスターの移動させられませんでしたからね。こいつができることといったら空箱をポップさせるぐらいですよ」

『貴様あああああああああっっっっっっっ!!!!!!!』

「どうしてそんなすぐばれるような嘘つくんだよお前?」

『うううううるさあああああああっっっっっい!!!!!!』


 理詰めすると発狂しちゃうキッズのようだ。いちいち相手にするのも疲れるな。


『では本当に大丈夫なのかね?』

「ええ、確認済みですからご心配なく。そもそもそんなことができるなら自暴自棄になんてならないでしょ」

『たしかに……』

『ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬっっっっっっっ!!!!!!!』


 というわけでダンジョンコアについてはギルドに身柄を引き渡すことにした。ものがものなので買取というわけにもいかず、後日謝礼を支払うということで話しがまとまった。


『つまり我はどうなちゃうの?』

『うーん……飼い殺しにされちゃうんじゃないかなー』

「言い方」


 ギルドにダンジョンコアの悲鳴が響き渡るが俺は耳を塞いでコアのことは忘れることにした。ともかくこれにて一件落着だな、うん。


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