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2 本当に異世界なの?


 しかしアンはゆずらなかった。ときおり頑固でめんどくさい性格だ……。


『でもでもー。最近流行ってるでしょー。異世界転生?』

「お前それ一度死んでるじゃねーか」

『どうしようー……これから勇者様とか賢者様とかに見初められて一緒に冒険させられちゃうかもー……どう思うみーくん?』

「どうもこうもねーよ。話し聞けよ――」

『そんなこと言ってて大丈夫ー? あーし押しに弱いよッ!』

「知らねーよ……てかなんの話しだよ?」

『そんなー。いくら許嫁だからって油断しすぎじゃなーい? 相手はイケメンの貴族とか王族かもしれなんだよー』

「はぁ? お前が誰に告られようが――って、許嫁ってなんの話しだよそれ!」

『知らないのー?』

「初見耳だわ! お前の妄想? フィクションだよねそれ?」

『ええー違うよー。うちのパパとみーくんのパパがお正月にお酒飲みながら話してたもーん。いつ切り出そうかってー。ビックリする顔を想像すると今から楽しみだってさー』

「そらビックリだわ! 親父が帰ってきたら家族会議だよ!」

『もう引き出物とか用意してるって言ってたよー』

「本気じゃねーか!」


 そういえばときおり恋人はできたか? と、不安そうな顔で聞いてくることがあった。いないというと決まって勝ち誇った顔で、いざとなったら俺が紹介してやるからとわけのわからないフォローをしてくれていた。まさかあれが伏線だったとは……。


『不安になったー? だからみーくんはもーちょっとあーしに優しくした方がいいよー』

「うるせー……そんな約束反故だ!」

『ええ!!!! あ、でもわかるかもー……お見合いより恋愛結婚だよねー』

「そういう話しじゃねーよ……」


 疲れる……。昔からこの調子なのだが酷く疲れる。


「もういいからその話しは後にして――」

『ええーよくないよー。二人の将来のことだよー?』

「くどいな! 話し進まねーからちょっと黙ってろ!」


 アンが両手で口をおさえてようやく静かになった。これで落ち着いて話しを進められる。


「いいか。お前の現在地は不明だがこうして電波が届いている以上別の世界だなんてことはない。見かけない風景だしひょっとしたら日本から飛び出したという可能性はある……かもしれない」


 そうだ。別の国なら日本の警察や消防に繋がらないことにも納得がいく。番号が違うはずだし、たしか海外では使えない端末もあるはずだ。そう思うと神隠しのせんは認めてもいいかもしれない。


「それに忘れがちだがお前の足下にはアスファルトで固めた道路がある。異世界にこんなもんがあると思うか?」


 あるはずがない。せいぜい石畳ぐらいだろう……て、よくある中世を舞台にした世界観だけが異世界というわけでもないのか?


 とはいえ勇者や賢者なんかが出てくるような世界とは不釣り合いだし、アンの妄想を否定してやる材料にはなるだろう。


『…………』

「どうした? ああそっか、もう喋ってもいいぞ」

『いいのー? じゃあ……みーくん、あれ見てあれー』


 カメラが向けられた先を見た俺は我が目を疑った。


「おい……なんだあの怪獣みたいなのは?」

『さっき森の方から出てきたんだよー』

「そういうことは早く言え!」


 どうみても遠近感のおかしい緑色のゴリラみたいなのが両腕をあげて威嚇している。それなりに距離があるはずなのでこちらには気がついていないようだ。というか足下を見ているな。よく見れば人影らしいものが数名いる。


「あれはいったい……」

『きっと冒険者だねー!』

「おいおい……バカ言え。きっと原住民の方たちが狩りをしておられるんだよ」


 あんな巨大動物みたことも聞いたこともないが、きっと俺が無知なだけだろう。多分アマゾンとかそういう感じの秘境っぽいところにはいるに違いない。


 あっ……何もない空間から火の玉が……。


『見たー! いまの見たー? 魔法だよーきっと!』


 アンは大興奮しているが俺はあの謎現象にたいして必死に科学的根拠を考えていた。しかし考えているそばから二発目三発目と飛び出す火の玉と、それを受けて叫び声をあげるキングコングの姿を見て俺はさじを投げた。無理っすわこんなん見せられたら……絶対に地球じゃないっすわ……。


「とりあえずあれだ……さっさと逃げろ」

『ええ……もっと近くで見たいよー』

「巻き込まれて死ぬぞお前」

『大丈夫だよー。いざとなったらこれで逃げるからー』


 自転車にまたがりドヤ顔の幼なじみ。こいつは自転車に何を期待しているのだろうか。謎の自信に満ちあふれたアホをどう説得したものかと考えていると……。


『ねぇーねぇーみーくん……』

「だから駄目だって言ってんだろ……さっさと逃げろ」

『うーん。そうしたいんだけさぁー』

「だから駄目――ん?」


 急に聞き分けがよくなったことを不審に思って様子を見ると、いつの間にやら謎の動物……いやはっきり言おう。モンスターに囲まれていた。


『この緑色のちっちゃい子たちってアレだよねーアレ』

「なんでちょっと嬉しそうなんだよ。そうだよきっと……ゴブリンだよ」


 小学校低学年の児童ぐらいの背丈で、くすんだ緑色の肌をした生き物はファンタジー世界の代名詞でもあるゴブリンに違いない。棍棒やら短剣やらを握ってじわじわと近づいてくる。


『そっかー……あーし実物見たのはじめてー』

「当たり前だ! ボケてる余裕なんてないぞ。お前もライトなオタクで流行のウェブ小説読んでるんならわかるよなぁ?」


 あのモンスターの危険性が……。このまま捕まれば幼なじみがエロ同人のような目にあってしまう。


『大丈夫だよー。ちゃんとわかってるからー!』

「なら包囲される前にさっさと――」

『ステータスオープン!』

「?」

『あれ? ステータスオープンステータスオープンステータスオープン!』

「おい……何叫んでんだ?」

『どうしようー……ステータスが見えないよー』

「見えないよ普通!」

『そんなことないよー。みんなだいたい見えるもん!』

「みんなって誰だよ! つーかそんなもん視認できるわけないから! 現実にそんなゲーム的アシストあるわけないだろ?」

『ええー……じゃあーあーしのレベルとかチートスキルをどーやって確認するのー?』

「知らねーよ! つーかチートスキルなんてもの迷子のお前にあるわけないだろ」

『そんなことないよー。きっと何かあるはずだもん!』

「いやいや無いから。いたって普通のJKじゃんお前。異世界の常識から浮いてそうなのなんてその自転車ぐらいだろ?」

『そっかぁー……なら自転車と合体できるかもー!』

「頭大丈夫!」

『しかし何もおこらなかったー……』

「ためしたの? いまためしたの? 気が済んだらペダルに足をのせてね! もうそろそろやばいから!」


 怒鳴るような会話によりゴブリンたちがびくってなってるいる今が最後のチャンスだ。アンもそれに気がついたのか顔つきがかわった。


『一緒に走ることでー何かスゴイ力が発揮されるかもしれない!』

「まだ言ってんの? もうなんでもいいからペダル漕いで発進しろよ!」

『らじゃ!』


 アンが椅子からこしを上げてペダルを踏み込んだ。猛加速――というほどでもないが、驚いたゴブリンの間をすり抜けるには十分な速度だった。そのままダッシュダッシュダッシュ!


 キーキーうるさいわめき声が遠ざかっていく。カゴに投げ捨てられたスマホからは空しか見えないがこのぶんなら大丈夫だろう。俺もようやく安堵できた。



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