25 ダンジョンで有名なアレ
アンを誘導して目的の部屋に辿り着いた。
『それでみーくん、どーやって捕まえるのー?』
「その鞄に網とか入ってないの?」
『ああー入れたかなー』
「いや、確認しなくていいから。冗談だから!」
出てきたらどうしようかと思ったがさすがに入ってはいなかった。宝箱に投げ網とか想像を絶するわけのわからない展開にならなくてホッとした。常識外れの異世界とはいえもっとスマートにいきたい。
「とりあえず様子見たいから部屋に入っていいぞ」
『おっけー!』
意気揚々とペダルをこいで開けた空間に飛び出すと……。
『お宝はっけーん!』
部屋の中央にまるではじめからそこにおいてあったかのよな堂々とした佇まいでその宝箱は鎮座していた……のだが――。
『あれれー? 消えちゃったよー?』
まるではじめから何もなかったかのように跡形もなく消えた。その反応はまるでこちらに気づいたかのようにも見えた……。
「なるほどねぇ……」
『みーくん早くおっかけよーよー』
「そうだなぁ……せいぜい追い回してやるか」
マップを見れば現在位置は一目瞭然なので移動した部屋へと向かう。再び自転車で部屋へ入った瞬間、宝箱は逃げるように消えた。
次の部屋でもアンが現れた途端に宝箱が消える。
「やっぱりか……」
『なにがー?』
「あきらかに俺たちに反応してるってこと」
『?』
「おかしくないか? 宝箱だぜ? それがまるで意思でもあるみたいに……」
マップを見ていたときは規則的に移動しているのかと思ったが、実際に見てみると一定の間隔で移動していたリズムが狂った。宝箱なんて目立つかたちをしているくせにまるで逃げ出すような動き……その反応は無機物のそれではなく生き物であるかように思えた。その予想が確信へと変わる……。
「よし、次行くぞ」
『でもーまた逃げられるんじゃなーい?』
「そうだな……次は先回りするか」
『え? できるのーそんなことー?』
「ああ……パターンというか……条件がいくつかわかったからな」
アンを誘導してまだ何もない部屋へと辿り着く。
『ほんとにここに現れるのー?』
「たぶんな」
『たぶんー?』
「まだ王手じゃないってこと。でもまあすぐに……詰みだ」
『あ――っ!』
宝箱が地中から浮き上がるかのように現れたかと思うとアンの声に驚いたかのようにすぐさま消えた。
『みーくんすごーい!』
「なんのなんの……これではっきりした。そろそろ決めるぞ」
『はーい!』
マップを見ながら次の出現ポイントへと誘導する。しかし次は外れた。すぐに移動すると今度は当たり。宝箱はまた慌てて消える。
俺の予想もだんだん精度が増していく。そしてようやく――読み切った。
「よしアン、この部屋で待機だ。あと餞別の中から土魔法のスクロールを出しておいてくれ」
『うん。いいけどー……これ使えないって言ってなかったー?』
「ああ……本来ゴミだな」
見送りにきてくれた冒険者たちが私物を提供してくれたのだが、どれもこれも使えないようなゴミだったのが中に目をひくようなものもあるにはあった。
「魔法のスクロールって聞いたときは感激したんだけどなぁ……」
漆黒の鼠の連中が是非と渡してきたのがこの土魔法が使えるスクロールだ。スクロールは魔法が使えない戦士などが戦いを有利にすすめるために持って行くものなので戦士オンリーの少年たちはかなり大量に買い込んでいたらしい。その一部をわけてくれたわけだ。
アンが鞄から取り出した巻物がそのスクロールなのだが……はっきり言ってガッカリな品だった。
封じられている魔法がストーンウォールライト。ご存じ土壁がにょきにょき生えて防御につかえる有名な土魔法である。しかし騙されてはいけないこれはストーンウォール――ライトだ!
ためしに地上で使ってみたら膝の高さぐらいの土壁が生まれた。はじめは不発か不良品なのかと思い聞いてみたらこれで正常だと胸を張られた。どうも足下を一時的に守るための魔法らしい。
お前ら使ったことあるのかと聞いて見たら頷きはしたが、目が泳いでいたので嘘だろう。買ったはいいがいまいち使い道がないまま死蔵していたもののようだった。
俺としては荷物になるので途中で捨てて行こうと提案したのだが、アンが玩具感覚で鞄にしまい込んでいた。まあこうして役に立つわけだし一応あいつらに感謝しておこう。
『でもこれでどーするのー?』
「そのへんで待ってて宝箱が現れたら唱えてくれ」
『いいけど……すぐに逃げられちゃうよー?』
「その心配はない。次現れたらしばらくこの部屋から移動できないはずだから」
そのはずだ……。
マップを見て確認してみるが問題なし。順調に移動してくれている。
出現する場所はほぼ毎回部屋の中央なのでそこで待ち構えていると……来たッ!
「いまだアン!」
『すとーんうぉーるらいとー!』
気の抜けた声だが魔法はその効果を発揮して背の低い土壁がせり上がる。すると出現してからも消えようとしなかった宝箱のケツにぶつかり弾き飛ばした。
「あっ……」
やりすぎた。弾け飛んだ宝箱が放物線を描きながら壁にぶつかり嫌な音をたてて地面に転がる。そして開いた蓋からゴロゴロと何かが転がってきた。
アンの足下まで転がってきたそれは紫色の宝石だった。そして――。
『殺す気か!』
どこが声帯なのか不明だがめっちゃ怒ってた。これは予想以上のものが出てきたわ……。
「アン、とりあえず確保」
『はーい』
『おい、やめろ! 離せ! 離――あああッッッ!!!』
空になった宝箱が消える。
「なんだキャンセルとかできない仕様なのか?」
『石版が喋ったー!』
「宝石みたいなナリのくせになに言ってんだよ……」
どうやって知覚しているのかは知らないがスマホに気づいたか……。どうやらかなりの知性があるらしい。
『これなにかなー?』
『ただの無価値な鉱物だ! 売っても金にはならんぞ! さっさと離せ!』
「おいおい……ダンジョンで宝箱をポップさせたり消せたりできる宝石が無価値ってこたーないだろ?」
『な――なんのことだかさっぱりわからん! さっさと離せ!』
「そもそもただの鉱物が喋るわけないだろ?」
『…………』
「いまさら黙ってもおせーよ」
口を閉じたところでもう遅い。大方の予想はできていた。いくつか疑問はあるものの、俺たちのよく知る異世界知識に照らし合わせて見れば答えは明白だ。
「お前――ダンジョンコアだろ?」
『――ッ!』
表情なんてないはずなのに宝石が青ざめたように見えた。




