1 幼なじみが異世界へ
高校生になって二度目の夏休み前日の終業式……その日、幼なじみが忽然と姿を消した。
彼女は買ったばかりの真新しい自転車に跨り笑顔とパンチラをふりまいて帰って行く途中で消息を絶ったのだ。
そしてその事実を知るのは現在俺だけ……何故かと言えば……。
「どこだよそこ?」
『わかんなーい』
「わかんなーいじゃねーよ。グ●グルマップ見ればわかんだろ?」
まったく……どこにいるんだか。俺は幼なじみの安西アンの行動に、今日も悩まされていた。
俺こと宮永みやが、自宅でくつろぎならが夏休みをどう遊び倒そうかと考えていたら『助けて~\(^o^)/』というふざけたメッセが飛んできたのがはじまりだ。
幼なじみであるアンがくだらないことで助けを求めてくるのはいつものことなので適当にあしらっていたのだが、話しを聞くうちに本当にピンチなのではと気になりだしたのがついさっきのこと。
はじめは帰宅途中で迷子になるという十七歳にあるまじき失態をおこしたのかと思っていたのだが、送られてきた画像の数々がどうも普通じゃない。
一面草原で所々に森のようなものも見えるが、人工建築物が一切ない風景などはじめて見た。電信柱すらないのだ。よくしらないが北海道かとも思ったが、関東からいきなり北海道に行けるものかと考えたら、新幹線すらのったことのない幼なじみの見識の狭さを考えてありえないと結論づけた。そもそもそんなどっきりを俺にする理由がないし性格的にないだろう。なら誘拐でもされたのかと思ったが、彼女が言うにはトンネルを抜けたら突然この風景に変わったとのことだ。そして振り返るとトンネルが消えていたとも……。
なんだそのホラーは? 神隠し?
たしかになんか嫌な感じがするというふわっとした理由で地元民すら近寄らないトンネルを、わざわざ帰宅途中に大回りして通った幼なじみに祟りがあったとも考えられる……なんて馬鹿なことあるか。こいつは単に買ったばかりの自転車で走るのが嬉しくて町中を走り回っていただけだにすぎない。そして迷子になった。と、結論づけたいのだが……。
『見て見てみーくん、地図変ッ!』
「いや、見えねーし……」
そういえば端末のGPSをひろって位置を特定できるアプリが入れてあったことを思い出す。彼女の親はそれほどに娘を信じていないのだ。なにせ子犬のように動き回り落ち着きがない。どこか抜けているしナチュラルにボケるし愛すべきアホではある。なのでご両親の不安な気持ちはよくわかる。
とりあえず登録したIDを聞き出すと、パソコンを立ち上げて検索してみた。
「ほんとに変だな……」
『でしょー』
拡大やら縮小してみた結果……どう見ても日本地図ではない。どころか世界地図ですらない。まあユーラシア大陸に見えなくもないが……見えなくもない程度で別の大陸だろうこれ?
ああ……壊れてんね。理由はよくわからないが使えないことは理解できた。仕方がないので他の方策を考えよう。とはいえ……。
「もうあれだ……警察に保護してもらえ」
『えええーーーー』
「だって仕方ないだろ? 迎えに行こうにも手がかりがないし……」
日本の警察は勤勉で優秀なのできっとなんとかしてくれるはずだ。まだグズグズと煮え切らないアンをどうにか説得すると電話を切った。
「やれやれ……」
『助けて~みーくん~\(^o^)/』
「またかよ!」
そのままスマホの画面をタップして通話ボタンを押すとすぐに繋がった。
『電話が繋がらないよー』
「繋がってるじゃねーか」
『そうじゃなくて警察とか消防とかに繋がらないんだよー』
「はあ?」
データSIMだと使えないとかなんとか聞いたことがあるが、アンは大手キャリアを使っているので問題はないはずだ。どういうことだなのだろうか?
『どーしよー』
「圏外……なわけないよなぁ。こうして繋がってるわけだし……」
駄目だ。さっぱりわからん。こうなるとこちらから警察にかけた方が早いのかもしれない。しかしどう説明したもんだろうか?
「せめて場所がわかればなぁ……。そうだ。なんか目印になるようなもんはないか?」
『目印……目印……』
「看板とかないか? 道路はあるんだし何号線とかわからない?」
『わかんないよー。えっと……ちょっと待ってねー』
なんかごそごそとやり出したかと思うとURLが貼られた。
「なんだこれ?」
『動画繋げたー』
開いてみると動画配信サイトに繋がった。
『どーですかー? 映ってますかー?』
映し出されたのは見なれた幼なじみの顔。日本人にしては目鼻だちがハッキリしていて口を閉じていればキリっとしている……が、年中ゆるんだ口元のせいで美人とは言えない。まあ笑顔が可愛いと言われれば可愛いが、だらしない本性を知っている俺から見ればこれが平時の顔である。ふわりと肩までかかる長い髪もパーマとかオシャレではなく猫っ毛なだけなので天然だ。まあ見なれた面ではあるが、こうして顔を見ることで安心した。
『みーくん、応答せよ! 応答せよ!』
「見えてるよ。つーかいつのまにアカウントなんて作ってたんだ?」
素人が動画を配信しているサイトはいくつかあるが、実際アカウントをつくって生放送している知り合いなんてはじめてだ。
『えっとねー自転車買ってからだよー。走りながら生放送すんだー』
「はぁ……なんでまた?」
アンの説明は要領を得ないが、なんかそういうのが一部で流行っているらしい。そもそも自転車を買った理由が深夜アニメの影響なので十分に納得できる。しかしあれだ。小径車なんて乗っていると童顔で小柄なせいかまだまだ中学生ぐらいに見えるな。
「まあいいや。そのまま周囲を映してくれ」
『らじゃ!』
ゆっくりと周囲を景色が映し出される。スマホの画面では小さいのでパソコンの方に切り替えてじっくりと観察するが……。
「草原だな……地平線まで見えるぞ」
『手がかりはー?』
「う~ん……ないな。さっぱりだ」
『どーしよー』
ほんとどうしよう……。このまま映像を見せれば対応してもらえるのだろうか?
いや、事件性がないと動いてくれないとか聞くしなぁ……。忙しいであろう警察が迷子の女子高生を探してくれるかどうか疑問だ。
かなり情けない話しだし代理とはいえ俺も幼なじみとして恥ずかしい……。
『みーくんみーくん』
「なんだよ? なんか見つけたのか?」
『あのねー。あーし考えたんだけどー……』
言いよどんでいるというよりは確信を得てためているような顔つきだ。これは……嫌な予感しかしない。
『ここは別の世界じゃないかと思うんだよー!』
「飛躍しすぎだバカ!」
神隠しまでは納得しなくもないが、別の世界はさすがにない。
そのはずだ? はずだよね?