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17 異世界の転売屋


 迷うことのない一本道を通ってダンジョンに到着した俺たちは入口で商人に呼び止められた。


『誰ですかー?』

「お前ほんと他人の顔覚えるの苦手な。昨日売り込みに来たおっさんだよ」

『おっさんは酷いなあ。まだ二十代なんだがねえ』

『嘘だー』

「これ見よがしに頭を見て言うのやめろ、失礼だから」


 ボリュームのない頭皮から視線をはずさせて何の用かと聞いてみる。


『聞いたよ。アンタたちだろ。噂の運び屋ってのは?』

「噂って言われてもなぁ……」

『隠したってわかるよ。荷車に乗ってダンジョンに潜る妙な女の子なんてアンタたちぐらいだからな?』

「はぁ……それならたぶん想像通りだよ」

『へっへっへ……やはりな』

「で、何の用だよ? 知ってのとおりすぐに戻ってくるからポーションも食料もいらないぞ」

『そういわずに買っててくれよ。まとめて買ってくれるなら勉強させてもらうからさ』

「だからいらねーっての」

『なんだ……欲がないなあ。若いんだからもっとがっついていこうじゃないか』


 しつこい奴だ。だいたいがっつくも何も俺たちはただの運び屋だ。


「そんなに売りたきゃ自分で潜れよ。飛ぶように売れ……そういうことか」


 しつこい商人が俺の反応に気づいて口角をあげた。


『そういうことだよ……石版の旦那』

「なるほどな。でも大丈夫なのか? 俺たちは一応冒険者なんだぜ?」

『なーに心配はいらないよ。ギルドだって冒険者の命を守るために運び屋なんて雇ってるんだ。それに困ってる冒険者を見かけてほっておけるかい?』

「違いない……な」

『だろ』


 商人の押し殺した笑い声に俺もつられて笑い出した。


『ねーねーなんの話しー?』

「なに、ただの……ビジネスチャンスさ」

『まいどあり』


 こうして俺はカゴにいっぱいのせられるだけのポーションを買い付ける。足りない分は後払いで承諾してもらった。商人のおっさんもこのチャンスに賭けたようだ。


『なんだかみーくん悪い顔してそうー』

「んなことねーよ。なぁ?」

『そうですぜ。石版の旦那は聡明なお方だ』

「ふっふっふっ……」

『へっへっへっ……』

『くっくっくっ……そちも悪よのー』

「無理にからまなくてもいいぞアン」


 さっそく俺たちはおっさんに見送られてダンジョンに潜ることにした。


『ガチャガチャうるさいけど大丈夫かなー?』

「敵の動きはこっちでモニターしてるから心配すんな。それよりもポーション割るなよ」

『うん。でもーわたし戦っちゃだめなんでしょー? 何に使うのーこのポーション?』

「なんだお前まだ気がついてなかったのか……売るんだよ」

『どこでー? リサイクルショップー?』

「ねーよ……いや中古屋ぐらいあるのか? まあいいや……店に卸すんじゃねーよ。ダンジョン内でで売りさばくんだよ」

『そっかー……転売だねー』

「人聞きの悪いこと言うな。現地販売だ!」


 そう。つまりギルドを通さずに依頼を受けるわけだ。


「あくまで現地で困っている冒険者に、たまたま在庫を持っている俺たちが売ってやるんだ。何も後ろめたいことはないぞ」

『みーくんあったまいいー! でもネットだと叩かれそうー』

「はっ……言わせたいやつには言わせておけばいいのさ」


 とはいえ繊細な俺が心に傷をおうことも考えられる。なにせこの動画はライブ中継なので俺以外にも見ているはず……。


「そういやこの生放送ってぜんぜん人増えないけどなんでだ? このサイト過疎ってんの?」

『違うよー。プライベート設定にしてあるから招待したアカウントの人しか見られないんだよー』

「そういうことは先に言え……」


 心配して損した。


「お前も一応考えてたんだな」

『なにがー?』

「いや、異世界から生放送とか下手したら大問題になるだろ。特にお前の家族に知られたら……」

『ああーそっかー』

「そっかーってお前……」

『初期の設定変える忘れてたんだよねー』

「…………」


 バタバタしていたせいか気が回らなかった俺もどうかしてたが幼なじみもたいがいだな……。


『公開しちゃうー?』

「しねーよ! 人の話し聞けよ!」


 いまいちに緊張感ない会話をしながらも自転車は進んでいく。


『見て見てみーくん。第一冒険者はっけーん!』

「通りすぎろ」

『ええー? 転売しなくていいのー?』

「だから転売って言うな。俺たちの客はあくまでも困っている冒険者だ」

『なるほどーそうだよねー』


 というのはもちろん建前だ。どうせ売るならもっと下の層で本当に困っている連中に売りたい。さぞ高く買ってくれるだろうからな。


「ふっふっふっ……」

『みーくんがまた悪い顔してそー』

「気にするな。先を急ぐぞ」

『はーい』


 二層と三層の冒険者は無視してずんずん潜っていった。途中で依頼もこなしとうとう六層へと続くスロープまで辿り着く。


「なんかもう余裕だな」

『サクサク進めるよねー』


 アンもなれてきたらしい。だが問題はここからだ。


「いよいよ下層に潜るぞ」

『前人未踏の下層だね……ごくり』

「ノリでいうな。冒険者いるから」


 あらためてアンに注意をうながすと下層へと降りた。とは言え……。


『道間違えたー?』

「あってるよ」

『砂漠とかジャングルはー?』

「ないね。上層と変わらないごつごつした岩のトンネルだね」

『がーん……』


 露骨にガッカリするアン。まあ気持ちはわかる。俺もてっきり下層では常識外れのダンジョンが見られるのかとちょっと楽しみにしていた。


「マップ見た感じだと広くなっただけで相変わらずの迷路だな」

『つまんなーい』

「遊びに来たんじゃねーから」


 そう……ビジネスに来たのだ。


「次の分かれ道を右に行ってくれ。そのまま道なりに進んだところに……お客様がお待ちだ」

『困ってなかったらどうすのー?』

「えっ……?」


 言われてみればそうだ。困ってる冒険者がいなければ……。


「在庫を抱えることになる……」

『大丈夫ー?』

「だ、大丈夫だろ……そういえばポーションって消費期限とかあんの?」

『さぁーわかんなーい』


 笑顔で見送ってくれたビジネスパートナーのにやついた顔を思い出すと……なんだか不安になってきた。


 売れなかったらどーしよう……。


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