15 ミスリルの鍵
『今ならキャッシュバックで全額戻ってきますだってー』
「やめとけ。骨までしゃぶられるぞ」
受付で番号札を返すときにもシスターがさりげなく勧誘してきたので無視した。必死すぎて怖い。ノルマでもあるのだろうか?
ともかく異世界の宗教にかかわる気はないので俺たちは逃げるように教会を出た。すると……。
『あれぇー何してるんだろー?』
外に出てみれば自転車を囲むように三人の男が何やらあーだこうーだと言い合っている……って、おい!
「何のんきなこと言ってんだ! 泥棒だろ!」
『ええっっ!! ドロボー!』
『おい出て気やがったぞ! 急げ!』
『つーてもこの鍵が――』
『もういいぶった切れ!』
「おい、バカ! やめろ!」
俺の叫び声とワイヤーの切られる音が重なる。無惨に切られた鍵は投げ捨てられ泥棒が自転車にまたがった。
『よし! 逃げるぞお前等!』
『え? 俺等は?』
『突っ走れ! 捕まんじゃねーぞ!』
自転車にまたがった男が我先にと逃げ出した。が……。
『ア、アニキ? そんなんじゃ捕まっちまいますぜ?』
『うるせー! なんでスピードがでねえんだ! クソ! クソ!』
何を思ったのかペダルも踏まずに走っている。あれなら座らずに押した方がましだ。ひょっとして乗り方がわからないのか?
『ア、アニキあの女は足下のレバーみたいなの踏んでましたぜ!』
『そ、そうか!』
やっぱりか。しかし一足遅かった、はずなのだが……。
『おっ……おおおっ……おおおっぶ!』
よろよろと走りがしたアニキは見事に転がり自転車の下敷きになった。はじめての自転車でバランスがとれなかったのだろう。
『あははは! 大人なのに転んでるー!』
「笑い事じゃないぞ。取り戻すチャンスだ」
『でもどうやってー? あーし弱いよー?』
「自覚は一応あったんだな。その自己評価を忘れるなよ。さて……」
この世界の治安には疎いがすぐ近くに頼れる守銭奴どもがいる。
「アン、後ろ向いてめいいっぱい叫べ……ドロボーが教会から逃げるってな」
別に嘘は言っていない。教会の敷地から逃げ出したのは間違いない。アンが声を張り上げると案の定異変を聞きつけた僧侶たちが飛び出してきた。
泥棒の方へと誘導してやると武装した僧侶たちが瞬く間に取り押さえてくれた。感謝の気持ちでいっぱいと言いたいところだが、今にも殺されそうな泥棒たちの姿を見てこの組織には絶対に刃向かわないようにしようと心に誓った。
それから泥棒たちは教会の地下にあるらしい懺悔室なる場所に連れて行かれた。駆けつけた衛兵と話し合いの結果なので被害者ではあるが何も言うまい……ほんと怖いわ。
ともかく無事に自転車は帰ってきたので一安心。と、言いたいところなのだが……。
『鍵壊れちゃったねー』
「ああ……まずいな」
ただでさえ物騒なのがハッキリした。少し目立ちすぎたのだろうか?
昨日の今日で自転車の存在が知れわたったとは思えないが、げんに盗まれかけたのだ。このまま鍵もなく駐車していてはおちおち休んでもいられない。
「しかし鍵か……」
こんな世界だといったいどこに売っているのだろうか。そもそも代用できるようなものがあるのか?
『鍵屋さんとかあるのかなー?』
「なくもないだろうが……」
道中には見なかった。
『どーしようねー』
「う~ん……一応金属なわけだし鍛冶屋とかみてみるか?」
『いいねー! あーし武器とか見たーい!』
「遊びに行くんじゃねーから!」
そんなわけで街中を三十分ほど歩きまわって鍛冶屋の情報を集めた俺たちは街外れに建つ一軒の鍛冶屋をおとずれた。
中に入るとカウンターには誰もいなかったが、ドアの奥から聞こえてくる金属の音が人の気配を告げていた。
『ごめんくださーい!』
「……聞こえてないのか?」
『聞こえてんよ。喧嘩売ってんのかおめえ?』
「え?」
その声はカウンターの方から聞こえた。しかし声はすれども誰も……いた。園児ぐらいの小さいおっさんがのそのそと姿をあらわしたのだ。
『わー! ドワーフだー!』
『あん? てめえも喧嘩売ってんのか? 買うぞおら!』
「おいバカ、失礼だろ!」
『誰がバカだ!』
「あんたじゃねーよ!」
『なに!』
俺の存在に気づいたドワーフが興味深そうにこちら伺っていた。
『その石版が喋ったのか……珍しいマジックアイテムだな。それにそっちの荷車も見覚えがねえ。おめえらいったいなにもんだ?』
また盗まれては困るので店内に持ち込んだがとくに文句は言われないようだ。
「ただの冒険者だよ。鍵を治してもらえないかとたずねてきた」
『鍵だあ? やっぱり俺に喧嘩売りにきたんだなおめえ!』
「どんだけ喧嘩っぱやいんだよ! できるかできないかたずねてきたって言ってんだろ」
『ああ! できねえわけねえだろ鍵ぐれえいくらでも修理してやんよ!』
「できんのかよ!」
めんどくさい性格だなあもう。ドワーフってこんなんなのか?
『たくよぉ……どうせなら武器もってこいよ。鍵みてえなちまちましたもんはしょうにあわねえんだよ……で、なんの鍵だ? さっさと出せよ』
人は良いけど口は悪いのか……。ほんとめんどくさいなこのドワーフ。
『あのねーこれだよー』
『ああ? なんだこりゃ?』
自転車の鍵なんてはじめて見るのだろう。手に取ると物珍しそうに観察していた。
『ほーん……随分と軽くて柔軟な金属だな……ほせえのをよりあわせてんのか……切られてるみてえだし強度はあんまねえのな……おい嬢ちゃん』
『なーにー?』
『この細い金属がなんの素材かわかるか?』
『みーくーん』
「素材? えっとちょっと待てよ……ああ、アルミだな……たぶん」
『あるみ? なんだそりゃ?』
「えっと……」
急いで調べたネットの知識を拙いながらも説明すると……。
『つまり軽銀か……駄目だな』
「何が駄目なんだよ?」
『てめえド素人かあ? 軽銀は錬金術師の専門だ。うちじゃ扱ってねえ』
「取り寄せとかは?」
『アホかてめえ? いくらすると思ってんだ? あんなもん使うぐらいなら銅にでもしとけ』
「銅ならできるなのか?」
『たりめえよ。安い割には頑丈だしおすすめだぞ』
銅の鍵……ホームセンターで見かけた鍵もそんな色をしていた気がする。調べてみるか……ああ、そういうことね。どうもよく見る南京錠は真鍮という銅と亜鉛の合金らしい。なので銅が妥当かと言えば……。
「銅って鉄よりも重いんだろ?」
『だからいいんだろうが! 武器としても使えるぜ!』
「使う気にねーし……」
『んだよ。ここは鍛冶屋だぞ!』
「別に武器屋ってわけじゃないだろ?」
ドワーフは舌打ちしてそっぽを向いた。子供かよ……。




