9 ダンジョン楽勝でした
ダンジョンの中は薄暗く、松明をたいて一歩、また一歩と暗がりを警戒しならがら進む。岩場の影からいつ現れるかもわからいモンスターに怯え、罠が作動しないかと不安を抱きながら……高ランクの冒険者であってもちょっした油断が命取りになる。それがダンジョン……なのだと思っていた。
『楽勝だねー』
そう俺たちにとっては楽勝であった……。
洞窟はたしかに暗いがひかりごけのようなものが自生していてまったく見えないというほどでもない。足下ぐらいははっきりと見える。それでも照らす先は暗く、進むには躊躇うほどだ。が、自転車のライトはそんなものものともしないほど明るかった。アンが店員に言われるまま買わされたLEDライトは異様に明るく十メートル先でもらくらくと照らし出していた。
これにより暗がりを不安視する必要がなくなり存分にペダルをこげる。そして一番の問題であったモンスターなのだが……。
「その先右折な」
『ほーい』
アンがハンドルをきり右の通路に入る。背後からモンスターらしい雄叫びが聞こえた。はじめはビビったがもうなれた。あのまま先に進んでいれば対峙したであろう敵の声だが、二度と聞くことはあるまい。何故なら俺が見ているマップにはモンスターの出現場所まで光点でしるされていたのだ。
さすがにこれには驚いた。普段は表示されないが、近づくと反応するらしくはじめはおっかなビックリ進んだものだ。こんな意味深な光点が何を意味するのかは察しがつく。案の定モンスターがいて当然迂回した。
ダンジョンの構造はいくつもの空間、公式の地図では部屋と呼ばれる場所が通路によって繋がっている感じだ。部屋の規模はバラバラで教室ぐらいの小さな部屋もあれば体育館ぐらいの広い部屋もあった。そして部屋にはモンスターが待ち構えているわけだが、必ずいるというわけでもなく、探せばいない部屋も多くあった。ダンジョンのなかはかなり入り組んでおり何本もの通路があるので、モンスターを避けながら先に進むことは難しくなかったわけだ。
そしてこの機動力である。人の足では戦闘を避けても半日はかかると言われた一層目を俺たちは今まさにクリアしようとしていた。
「そのまま道なりでいいぞ」
『らじゃ』
途中で追い抜いた冒険者たちが驚いていたが気にせずに進もう。
「そろそろだと思うんだが……」
『魔法陣の光とか見えないねー』
「なんだそりゃ?」
『次の階層に進む転移魔法陣とかあるはずでしょー』
「普通に階段だろ」
『え! 自転車どーしよー……』
今の今までそのことに思い足らなかったようだ。ほんと浅はかだな……。
「どうするもこうするも担ぐしかないだろ?」
『ええー……それはなんか異世界らしくないかもー……』
「お前の異世界あるあるなんて知るかよ。だいたいダンジョンに自転車で侵入してる方がおかしいだろ?」
前代未聞じゃなかろうか。まあそんなことはどうでもいい。そろそろのはずなのだが、あいかわらず道なりだ……。
「なんか心なしかスピードがあがってない?」
『わたしペダルこいでないよー』
「なら坂ってことじゃねーか。言えよ!」
マップを見るとアンはいつの間にか二階層に到達していた。
スロープかよ! 盲点だったわ!
その後も順調に進んだ……。
二階層とはいっても風景は一階層と何一つかわらなかった。三階層、そして四階層もまた同じだった。
『なんかあれだねー。ダンジョンっていうかトンネル走ってるだけだよねー』
まあその通りなのだが……まったく他の冒険者さんたちに申し訳ない。さっき追い越したパーティーなんて初めて三階層を突破して装備もボロボロだったが士気は高く、さあこれから四階層だって意気込んでいるところを、鼻唄まじりで走っていた女子高生に追い抜かれていた。なんかほんと申し訳ない……。
『そろそろレベル上がったかなぁー?』
「レベルってなんだよ……。そもそも経験も積んでないのに成長するわけないだろ。せいぜい足が太くなるだけだよ」
『それは困るかもっ! 困るよねみーくん?』
「しらねーよ。それよりそろそろ依頼のあったポイントだから注意して見とけよ」
依頼者がいるであろうポイントはギルドの地図からも少し外れたところだった。とはいえダンジョンの詳細なマップがある俺たちにとってはなんの問題もない。おそらくこの辺りだろうとあたりはつけられる。
「う~ん……見当たらんな」
『そーだねー。奥にすすんじゃったのかなぁー?』
「それはないと思うが……」
配達依頼の中には携帯食料がある。進むにしても荷物を補充してからになるだろう。
「その先は行き止まりだな……反応もないし引き返すかぁ」
このマップはモンスター以外も表示してくれるので近くに人がいれば反応がある。なのでこの先の行き止まりに依頼人はいないはずだ。
「おいアン他を――」
『見て見てみーくん、でっかい穴が見えるよー!』
たしかにライトの光が届かない大きな穴が見えた。少し開けた場所にたどり着くとその部屋がまるごと崩落していた……。
『う~ん。ここでショートカットかなー?』
「んなわけねーだろ! この階層に反応がねえってことは落ちたんだよ!」
依頼人が落ちた可能性が高い。こういう場合はどうなるんだ? 依頼人を探せませんでしたとなれば当然依頼失敗になるのでは? しかし手がかりがなくなったいまどうやって探せばいいんだろう?
『行こうーみーくん!』
「え? 行くってどこにだよ?」
『決まってるよー五階層っ!』
「アホか? 手がかりもないのにどうやって探すんだよ?」
『五階層をしらみつぶしに探そうー!』
「勢いで決めるな!」
とはいえこのままでは依頼失敗になってしまう。この穴の位置はだいたいわかる。依頼を受け取ってまだ一時間たらずだ。五階層と照らし合わせてあたりをつければ移動したであろう場所をしぼりこめるのでは?
「う~ん。駄目もとで行ってみるか」
『そうこなくっちゃねー!』
アンもやる気だしやるだけやってみるか……。俺だって仕事とはいえ冒険者の安否は気になる。
『これでー冒険初日にして上層走破だねー!』
「俺の感動を返せ!」
俺たちは陥落した地面に背を向けると五階層に続く道へと走って行った。




