第2話 ロボット兵の苦悩は丘の上
不定期という言葉に甘えていました。
こちらも進めていきますよ。これから、はい。
スチームパンク、セリフ多め小説の続き。
「何、それは本当か!?」
「本当だよ、早く行って来い!ダミラダ様がお待ちだ」
「分かった、行ってくる!」
此処はムレミニア機巧都市の最南端に位置するムレミニア城。ダラミダ王が統治する機巧都市だ。この城には1000体を超えるロボット兵がおり、彼もその内の1人だ。
「で、王室ってどっちだったっけ?」
と、まぁこの調子で彼は何の取り柄もない。強いて1つ挙げるなら真剣に取り組む姿勢だ。それはロボット兵なら当然だとも言えるわけだが。
彼の名前はLB-18。機巧都市の巡回を責務としている。つい先程ダラミダ王からの呼び出しを受け、王室へと向かった。彼は特筆することのない従順なロボット兵で、処刑はあり得ない。これから新たなる責務を請け負うことになるのだろう。
「ムレミニア機巧都市巡回兵LB-18、ただいま参りました」
「おう、よく来たなLB-18。とりあえずこちらまで来給え」
一礼して顔を伏せたまま玉座へと向かう機巧。
「貴殿を呼んだのは他でもない、巡回の責務のためだ」
「巡回業務は毎日熟しております」
「よろしい。ただ1つ貴殿に頼みたいことがあるのだ」
「頼みたいことですか?」
「それは腕利きの整備士を探すことだ。できるな?」
「整備士を?」
疑問の生まれたロボット兵にダラミダは口を開いた。それはそれは不思議な話だった。
このムレミニア機巧都市には「千年歯車サウザンドギア」と呼ばれる世界最大規模の機巧が存在しているらしい。その歯車にはいくつもの噂話があり、「世界に幸福がもたらされる」や「強大な力を手に入れられる」などというものがあるらしい。しかし、それらは千年歯車が動作していて初めて効果を発揮するものである。現在その歯車は一切の動作を停止させており、その効果とやらも発揮されていない。また、千年歯車が稼働していたという記録や文献も発見されておらず、真相は闇の中である。だから、無理にでも自分の代で千年歯車を稼働させたいのだそう。そのために優秀な整備士を雇いたいというのが王の御意向であるらしい。
「というわけでLB-18、君には巡回中秘密裏に整備士を探してもらいたい」
「なるほど承知いたしました。今日の巡回から整備士を探してみます」
「頼んだぞ、頼りにしているからな」
なんて調子のいいことを言って巡回に抜け出したのは良かったけど優秀な整備士なんてどうやって見分ければいいんだろう。ムレミニア機巧都市にはそもそも何人も整備士がいると聞く。それを知っていてロボット兵の中でも鈍間な僕を選んだのだろう。確かにいつもの僕ならこのことに気付かなかっただろうし、そう考えると鳥肌が立つ。
それにしても機巧都市とは名ばかりではないのだな。そこらから煙突が生えていて、蒸気を放っている。やけに階段も多く、足腰を疲弊させる。ロボットだから疲れないというわけではない。
「こんにちは」
「やぁ、ご苦労だね」
蒸気の音に紛れて声を掛けて来たのはムレミニア機巧都市に一軒しかない花屋のアルネという娘。彼女は
僕の巡回ルートを把握しているのか、いつも僕の通る道にあるベンチで座っている。清楚という言葉を具現化したような女性だ。
「今日もまた仕事をサボって出て来たのかい?」
「失礼ね。いつも仕事は済ませて来ています」
「そうだったかな。僕も記憶力がダメらしいな。ロボットなのに」
ロボットは人間とは結ばれない。そんなこと知っているが、彼女は僕の傍に寄り添っていてくれる。パートナー的存在だ。
「ウフフ。あなたらしいわね。で、今日はこれからどちらに向かわれるの?」
「まだこの丘を登っていく予定だよ。疲れるだろうけど」
「あら、ならギアの接合部に油でも差しましょうか?ちょうどさっき別のロボット兵の方が忘れて行かれてしまったものなんですが」
「そんなものがあるのかい?それじゃあ、お言葉に甘えようかな」
僕は彼女の隣に座り脚や腰のギアがある接合部を突き出す。使い古されたギアが並ぶ機巧。彼女は油を持って来ると、それを慎重に差していく。
「この辺り、消耗が激しそうね。毎日ここを通っているから無理もないかもしれないけど」
「あぁ、僕もそろそろ用済みだろうね。そうなる前に誰かに尽くしてみたいものだな」
「あなたは王様のために尽くすロボット兵でしょ?そんなこと言わないの」
「まぁそれもそうだな」
この想いは伝わらないか。伝わってはいけない。伝えてはいけない。伝えられるわけがない。彼女と僕の間には大きな壁があるんだ。それを破壊するドリルや重機は当然持ち合わせていない。
油を差し終わった彼女は笑顔で僕の腰を叩いた。
「よし、これで少しは楽になったでしょ」
「ありがとう。それにしてもだいぶ上手くなったんじゃないか?」
「そりゃそうでしょ、あなたが丘の方に行く時、油を差してあげていた父の姿を見て来たもの。その父はもういないのだけど」
「そうか、それは良いことだ。花屋と両立して機巧の修理なども承ってみるといい」
「そうかな?でも今は花屋に専念したいかな」
「それもそれでいいかもな」
「ありがとう」
僕はベンチから立ち上がり、「そろそろ行くよ」と告げる。彼女は「分かった」と微笑み、ベンチに座ったまま手を振る。
アルネ、君のために僕は一体何を返してやることができるんだろう。
ダメだ、そんなことより責務に集中しなければ。