エピローグ
校舎の玄関を出た。
そこで僕は、沈みこむ気持ちに追い討ちをかけるような光景を目にした。
まだそこにいた富田さんは、僕が来たことに気付く様子もなく、見たことのないほど嬉しそうな表情で、誰かのもとに駆けていった。
そして、その男に、真正面から抱きついた。
「リョウ君!」
彼女は黄色い声で、彼の名を呼んだ。
「はいはい、お疲れ」
男の方も、口元を緩めながら、富田さんの頭を撫でる。
「あ~……」
富田さんはしばらく気持ち良さそうに撫でられた後、
「あのね、今日はね……親に、晩ご飯いらないって言ってあるの」
と、その男と話し始めた。
「じゃあ、どっか食べに行こうか」
頭を撫でるのは止めずに、男も言う。
「それはそうなんだけど、そういうことじゃなくて……」
「何だよ、言ってみな」
「……だから、今日、泊まってくるかも、とも、言ってあるんだよ、ね」
「浪人生が泊まりで遊んでていいのか?」
「うるさいな!自分は現役で受かったからって……勉強は散々やったからいいの!来年はリョウ君と大学生活送ってるんだから!」
「来年って、三年からはキャンパス違うって言ってんじゃん」
「もぉー……そういう夢の無い話やめよう?もしかしたら一緒に過ごす機会だってあるかもしれないじゃん」
「まぁ、そうだな」
富田さんは、えへ、と笑って、話しを続ける。
「だから、今夜は……」
「俺、実家暮らしなんだけど」
「分かってるよ!だからさぁ……」
そこで彼女はちょっと言い淀んで、今度は小さな声で続けた。
「私、もう19歳だよ?高校は卒業したんだよ?前みたいにルール違反にはならないよ?」
「はいはい、じゃあ、飯食ったら行くか」
「……うん」
そして、二人は腕を組んで、去っていった。
男の手元で煌めく銀色を見て、僕は更に暗い気持ちになった。
何をやってたんだ、僕は……。
全く、呆れるばかりだ。
語り手の浅間くんの下の名前は「志貴」くんといいます。機会がなかったのでここに記しておきます。




