男女の出会いはいつもミサイル
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奇妙で異質な沈黙が続いた後、手にした大剣は俺に語りかける。
今すぐこの場を離れろ、そして世界を救うのだ、と。何を言っているのかすぐに察した。これから先の未来を見せられたからだ。
その原因は、上空にある"何か"の爆発によるものだった。
「悪いなお嬢さん、ちょいと急ぎの用が出来ちまった、俺の命を狙うのはまた今度にして、ひとまずココから離れてくれ!」
「ほぇ? え、あ、は、はあ」
すっとぼけた顔で突っ立っているどこぞのお嬢様を尻目に、俺は剣を構えながら走った。
どこから打ち上げられた兵器とかそういうのじゃない、どこからともなく急に現れたのだ。
それは真っ直ぐにこちらへと直進し、周囲一帯を消し飛ばす威力を持ったミサイルといった所だろう。
「ったく……、いいよなミサイルは……! 進路が決まってるんだから……ッ!」
直径数百メートルはありそうな巨大な爆発物は、音もなく声も上げず、ただひた向きにこちらへ真っ直ぐ飛んできやがる。
なんかムカつく! 遥か上空で塵一つ残さず消し飛ばしてくれる!
落下地点まであと少し、大剣を引きずり回しながら入り組んだ住宅街を駆け抜ける。
「きゃんっ」
「おっと!」
すると、その曲がり角で一人の女子高生とぶつかってしまった。
見覚えのある真新しい制服から察するに、今日が初登校の新入生、俺の後輩に当たるのだろう。
……いやいや!そうじゃない!見られた? のは、もうこの際どうでもいいとして、まずは目の前の爆発物の処理をしなければ、俺もこの子も、いやこの町ごと吹き飛んでしまう。
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――標的、邪魔な浮遊物体に気を取られて、私はベタな少女漫画のように曲がり角で人と衝突してしまった。
私がしりもちをついて倒れると、ぶつかってしまった相手は優しく手を差し伸べてくれた。
身長は高く、やや筋肉質でさっぱりとした髪型の、学生服に身を包んだ男の子だった。
だけどそのもう片方の手には、何故かごちゃごちゃした装飾の、派手な決戦兵器と思しきものを握っていた。
「突然ですまない! キミ、今すぐココから出来るだけ遠くに逃げるんだ! 信じられないかもしれないが、もうじきココにミサイルが来る!」
「あの、もしかして青藍高校の三年生……せ、先輩ですか?わ、私そこの新入生で……」
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なんだこの娘!いいから逃げろっての!人の話を聞きなさいよバカチンが!
「そうだよそう! 三年生! いいから逃げろ! 俺が何とかする! でないと死ぬぞ!」
「え? ……へ? ミサイルって死ぬんだ……、ちょっとケガするくらいだと思ってた……」
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ということは、ということはということは……!
もしかして先輩、私のことを、た、助けようとしてくれてる⁉︎
そんな、普通の人は死んじゃうかもしれないのに、見ず知らずの初対面の私を助けようとしてくれるなんて……、なんて良い人なの……。
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なんだこいつ! ヤベエ!
最近の女子高生ってこんなに頭ふわっふわなの⁉︎
何食って生きてんだよパンケーキか⁉︎ まあパンケーキだろうな!
いや、剣を構えた上級生に突然ミサイルがどうのこうの言われて混乱するのも仕方ないっちゃ仕方ないか。
面倒ごとは嫌いだが、この際しのごの言ってる場合じゃねえ、とりあえず彼女にはこの場は気絶しておいてもらおうか。後でどうにかする。
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ああ、こんなにも優しい彼を、私はもしかしたら傷つけてしまうのかもしれない、命を張って守る女の子は弱くなくてはいけない。
なんて繊細な世界なの、だとしたら、私は彼を死なせるわけにはいかない。
私を助けてくれようとした、優しい彼を助けたい。
でも、そのために彼の自尊心を傷つけてしまってはいけない、ここは彼の意識を一時的に奪っておくべきだろう。
そこまで考えて、
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そして俺は意識を失った。
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そして私は意識を失った。
☆
「なにをやってるんデスかこいつら」
とりあえず訳のわからない状況を飲み込むのはもう諦めて、自分の身と可愛い女の子達を守るべく、不遜な爆発物を消し去った偉大なワタクシは一つ大きな溜め息をつく。
「ぐぬぬ、流石は異世界。侮れませんね……!」
突如として飛来する火力積みの結界など、いつぞ死ぬやもわかりません。
常に油断大敵、何故コーコーセーダンシがそれなりに戦闘センスがあるのか、これで理解しました。
しかし、同時にコーコーセーダンシの巣食う城があるということは、彼らのやり取りから把握できましたも。
男女構わず入隊できるようですし、この男の監視を続ける必要もあります、危険因子に他なりません。
これは勿論、ええ、ええ。
「ワタクシもJKとやらになってみましょうか!」
待ってなさいコーコーセーダンシ共、貴様らの天下も今日までだ!
そのためには、この制服とやらは用意した方が良さそうですね……、ああ異世界ご都合パワーはこういう時にホントに便利!
女神はルンルン気分で、自分の年も考えずセーラー服を仕立て上げるとそれを着て、くるりくるりと回ってみる。
その光景を、同じ制服に身を纏った一人の女の子が覗き見していた。
「ああ……、また死に切れなかった……」
明るい空が嫌味に見えるほど、彼女は暗い表情と声で呟いた。