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◆春休み短すぎる。あと二日、いや四日はくれ

 春。花粉が飛び回るクソみてーな季節。


 寒いのか暑いのかハッキリしない気候は、長袖でも半袖でも人を後悔させる罪深き存在である。

 陽気に当てられたミミズも地中より這いあがって、なんの不幸か運命か、地面と熱いキスを交わして一つに重なっている。


 同じ春でもこうまで印象が違うのか、もはや三度目の春ともなれば小鳥や草花など目に入る余地もない。

 そんなクソみてーな花粉の中、くたびれた制服に身を包んだ一人の男子が目をこする。

 硬質な黒い髪、校則に則った結果特にオシャレできるものもなく、どうみてもその辺のモブらしい男子高校生。

 だが、これまで世界を救った数は十以上、大剣を振るい勝利した数は、今まで食べたパンの枚数よりも多いだろう。


 彼の名前は天草イル、たった一人で世界を救う、学校でも孤独なヒーローだ。



 今日から三年生、最上級生といえば聞こえはいいが、進路の決まってない三年生など今の時代生き残れない。

そう、結局冬休みも春休みもウダウダ考えている内に、あっという間に過ぎ去ってしまったのだ。


「はあ、元気ねえ顔をするな俺……」


  自分の姿は客観的に見るとこうなのか、と大きなガラスに映る疲れた表情(カオ)を見て溜め息を二度程吐く。

 すっかりくたびれた制服は、左腕のボタンが一つ外れていることにたった今気がついた。


「青春……がんばるぞぉ……」


  まだ、まだ俺も若いのだ。クヨクヨしていてもしょうがない。

せっかくの学生生活の新たなスタート日だ、無理矢理にでも自分を鼓舞せねば、

 なんてことをブツクサ考えながら歩き出し、曲がり角に差し掛かると、


「ハァーイッ! そこのキミ、冴えないコーコーセーダンシと見ましタ! よって危険因子と判断し、粛清させていただきマース!」


 ウェーブのかかった長い金髪、信じられないほどのダイナマイトバディ、ふわりと香る甘い匂いと揺れる乳、尻。

  まるで異国の姫のような豪華絢爛華美可憐(ごうかけんらんかびかれん)な乙女が、殺意剥き出しで俺の喉笛に喰らい付いてきた。


「ウワーッ! なになにッ⁉︎ 見た目に反して攻撃方法が野蛮すぎるッ!」


  命の危機を感じた俺は咄嗟に身を翻し、受け身も取らず道路に転がって目の前の魔獣と対峙する。


「ホホーゥ、そうやってさり気なくワタクシの容姿を褒めるワケデスか……、なるほど悪い気はしまセン、ですがワタクシはそんなにチョロくはありまセン故、なおいっそアナタのような危険人物は排除せねばなりまセーン……!」


 カタコトの日本語で喋る目の前の猛獣は、目を爛々と光らせるとこちらを睨みつけた。その気迫や殺気は、およそ普通の人間に出せるものではない。

 成る程、成る程そういうことか、そういうこともあるだろうよ。


「クク、どうやらお嬢さんは俺の"力"をご存知なようだ。どこの国の手練れかは知らんが、生憎この力は世界を守る以外に振るうつもりはないのでね、大人しく帰っていただこうか」


  周りに人が居ないことを確認し、静かに息を吐きながら祈りを捧げると『月夜(フルムーン)宵闇穿(ダーク)魔剣(キャリバー)』が空より現れ、我が手に収まる。

 現在の時刻は朝、月の加護は受けられぬものの、太陽の祝福を浴びて煌めく我が剣の魔力もまた一興、この一撃は世界を照らし、人の闇を撃滅せん――。


「へ? いや何デスかそれ? アナタ冴えないコーコーセーダンシと違う?」

「……え、あれ?」


あるぇー?


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