●きらめけ!憧れの女子高生!
春。
寒い寒い空気もすっかり優しいぽかぽか陽気に変わり、鳥も草花も顔を覗かせる。
風が吹けばほんのりと甘い匂いがして、髪の毛をチラチラと揺らし、川の水は陽光を反射してキラキラと煌めきだす。
そんな春の陽光に当てられて、真新しい制服を身にまとった少女が家を飛び出し、青い平和な空を見上げて微笑んだ。
少し茶色がかった黒髪を短く切りそろえ、精いっぱいのオシャレのために銀色のヘアピンをつけて、
あどけなさの残る幼げな顔立ちを輝かせる。
しかし小柄な身体と小さなおててに反して、これまで沈めた国は十以上、殺した人の数など茶碗一杯の米粒以上になる。
彼女の名は北条ミサ、かつて世界にとって巨悪そのものだった少女だ。
●
ついに、今日から私も高校生!
憧れていたハイスクールライフが幕を開けるのです!
もちろん、遅刻なんてしませんしパンも咥えません。ちゃんと歯を磨いてきました。
「えへへ、制服……、制服だあ」
ふと、通学路の途中にあるパン屋さんの窓に映る自分の姿を見て、私はニコニコしながらリボンを引っ張った。
お母さんだかなんだかは数百年前に全部組織ごとぶっ潰したし、以降国への隠蔽工作等諸々はとうに済ませているので、気にするべきはやっぱり制服の着心地です。
まだ胸回りの成長があると見越して、ちょっとだけ大きめのサイズにしたせいか、袖が少しだけぶかぶかだ。
「中学校では上手くいかなかったけど……、青春がんばるぞーぉ!」
えい、えい、おー! と一人で寂しく掛け声をあげて歩き出し、曲がり角に差し掛かると、
「きゃっ……!」
私の目の前、とはいっても私はとっても視力がいいので、実際には遥か数百キロメートル先から飛来する、謎の浮遊物体が姿を現しました。
どこから打ち上がったものとかでなく、空中に突然ふわりと現れて、こちらに目掛けてぶっ飛んできます。その間わずか三十分と言ったところでしょうか。
「うーーん、よく分からないですが、青春のジャマです。排除しておきましょう」
彼女はキョロキョロと周囲に誰も居ないことを確認すると、クラウチングスタートで標的目掛けて地を駆け跳んでいった。