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脱サラリーマン 異世界でラーメン屋を開く

作者: にしすけ

ユージは死んだ。そして異世界にて生まれ変わる。

「ここはどこだ……?」

いつの間にかユージの手には湯きりが握られていた。ラーメンの湯を切るアレである。

「おーい塩ラーメンまだか?待ってるんだけど!」

「はいただいま!」

催促の声にユージは思わず返事してしまう。まるで手が覚えているかのように湯がいたラーメンを湯きりする。

「俺は一体どうなっちまったんだ?」

本人の意識とは裏腹に、手は流れるように動く。塩ダレを二杯、スープを注ぎ、そこに麺を投入。ほうれんそうと焼き豚を添えて出来上がりだ。


「お待たせいたしました!塩ラーメン固め濃い目です!」

ユージはまたまた驚いた。そこに座っている客は人間ですらなかったのである。目が十個はあるようなバケモノがそこで待っていたのである。

「いやーやっぱりラーメンはここに限るな」

「まったくだ。勇者との戦いも苦しさもこれで一気に晴れるというもの」

ラーメンでなく自分が食われてしまうのではないかという恐れがユージに沸き起こった。しかしそのバケモノはその巨大な体からは想像できないことに、小さな割り箸をパチンと割った。そしてもうユージには見向きもせずラーメンを食べ始めたのである。

「うあわわわ!」

店のカウンターを見るといるわいるわ。さながらバケモノたちの展覧会であった。馬の下半身とライオンの上半身を持ったバケモノ、三メートルは超えるかと思われる巨大蜘蛛、果ては実体がない鎧の魔物まで、どうやってラーメンを食べるのかわからないような連中まで行儀よくカウンターに並んで座っていた。


「これは一体何なんだ?」


しかし不思議なことは、何もかもが謎なのに、ラーメンの作り方だけは体が覚えているのである。よくわからないまま何杯ものラーメンを作った。


「店長!魚介ラーメン特盛りとツケ麺アツモリ一つずつ!」

「はい、ただいま!」

注文してきた客の姿を見るとユージはほっとした。ようやくまともな人間の客だったからである。バケモノたちの目線がその客達に向けられる。人間達もバケモノたちをちらりと見返す。


騒ぎが持ち上がった。気になったユージは聞き耳を立ててみる。

「あれ?お前さっき時計台で戦ったボスキャラじゃねーか?」

「おう、そういうお前たちは見たことあると思ったらさっきの勇者一行じゃねえか」

「てめえまだくたばってなかったのか!何か『闇はいずれ復活する』とかなんとかほざいて時計台から派手に落ちやがったのによ!」

「うるせえ、ここの一杯を食うまで死んでも死に切れねえ」

(まずい!)

ユージは直感的に考えた。ただでさえ人間とモンスターはいがみ合う存在。それがよりにもよって今しがた一戦を交えた勇者とボスキャラとは!ここで騒ぎを起こされては困る。何とか事態を収拾しなければ。しかし声になって出たのは店長らしい一言であった。

「お客様がた、お静かに!あるものは世界征服のため、またあるものは世界平和のため戦っているんでしょうが、ここユージのラーメン処では一時休戦。お互いがそれぞれの一杯を味わうところですぜ!」


ユージは頭にタオルを巻き、腕を組んでそう言い放ったのだった。すると不思議と騒ぎは収まった。しかし何かあれば一触即発は避けられまい。


(何なんだここは!さっさと逃げてえ!次の一杯を作ったら裏口から逃げちまおう!)


大急ぎでラーメンを作り上げると、それを目の前の魔道士のような魔物に提供した。

「へい魔王さん、とんこつ醤油味、固めカラメ野菜マシマシです」

(ま、魔王だと!)

「いやーあったまるねえ」

とスープをすするのは世界征服の途中にあるはずの魔王サイロンであった。

「お、魔王サイロンじゃねえか!最近どうよ!」

「いやーどうも人間達に人気が出なくってさあ」

(何で勇者と魔王が雑談してるんだ~?)

「おっ、やってるやってるう」

入ってきたのは小汚いじいさんだった。白い服が汚れで少し灰色になっているではないか。

「お客さん困るよ!うちはお金がない客はお断りしてるんだから!」

「おいおい、わしの顔を忘れたのか?」

「そうだよ店長~俺の不倶戴天の敵、神様じゃねえかよ~」

「お、サイロンか!どうだ最近!」


もはやユージには理解不能だった。なぜ魔王と神様がビールを飲みながら肩を組んでいるのか、そしてなぜユージは謎の世界でラーメン屋をやっているのか。


「何だ店長、記憶喪失か?じゃあ俺が魔法で思い出させてやるよ!」

と神様。そして全てが氷解した。ユージは生前から脱サラしてラーメン屋がやりたかったこと。そして今は異世界ではあるがそこそこ繁盛する店を切り盛りするまでになっていたこと、などなどである。今や完全な記憶を取り戻したユージは大音量で言う。

「いらっしゃいませー!ユージのラーメン処でい!」


今日もこの世界のどこかで人間と魔物が一杯のラーメンを仲良く食べている。

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