第二章 シラブルそしてミストアーク 第一話
わたしに友達が出来た。
二年生になって初めての友達が出来た。
わたしは今まで友達が出来なかった。
わたしには人を引き付けるものがなかったから?
わたしが何時も一人でいるから?
別に、友達を選んでいた訳じゃない。周りが選んでいたのに違いない。そうじゃなければ、話し掛けたときそっけない返事をしないはず。わたしは悲しい思いをせずにすんだはず。いじめじゃないと思うけどやめてほしい。
わたしのクラスには、わたしと同じ様な人がいる。だけど、その人と同じにしないでほしい。わたしはその人と違ってクラスの集まりには参加している。
だからつくれた。その人とは違う。
まだ、会話はぎこちないけど友達。
お母さんから
『本音が言える関係が友達』
と小さい頃から言われてきた。
『だから友達は本音しか言わない』
とも言われてきた。
わたしは本音しか話してない。
友達も本音しか話してないはず。
わたしには友達がいる。
お互い本音を言い合える友達が。
信頼出来る、信用出来る友達。
あの人の周りにはたくさんの人がいる。男の子も女の子も。
だけど、周りはいつもわたしの友達にひどいことを言う。でも、友達はいつもヘラヘラして笑って過ごしている。
きっと、あの人も無理して友達を作ったんだ。周りからどんなに言われても怒らず、平気な振りをしてまで続ける必要ないのに。友達ならそんなことは言わないはず。
もちろん、わたしは言わないよ。だって友達だもの。
季節は夏
坂ノ上高校では夏休みにも授業が午前中ある。
午後はそれぞれ思い思いに過ごす。
「第一回!『頭脳と身体を試せ!ツールド坂ノ上!鉄人なら俺だ!あたしだ!私かも!?レース』開催〜!」
「なげぇよ!」
「ネーミングセンス皆無ね!」
クラスメートからヤジがとんでいる。
あたしも負けじとヤジを飛ばした。「引っ込め〜変態〜」
クラスメートの視線があたしに向けられた。明らかに冷ややかな視線を向けられたのだが気付いていないフリをしてボケた。
「やだ!みんな、そんな羨望の眼差しで私を見つめないで〜。あたし、困っちゃうよ〜」
さらに冷ややかな視線になった。
あたしの名前は恵美。高校二年生!
自分で言うのもあれだけど、お調子もので、いつも他人を笑わせようとする芸人魂の塊よ!
あぁ、この性分でこの美貌が台無しだなぁ、と思うこの頃。楽しいスクールライフが繰り広げられています。
あぁ、あたしのお陰だなぁ。
今は、クラスでなんか楽しいことをしようと考えていて、我がクラスの長が皆が考えたレースに名前をつけた。それに皆がつっこんでいるという構図ね。
そして、あたしに羨望……冷ややかな視線が惜し気もなく送られているって構図。
「まぁまぁ、恵美はほっときましょう。では、ルールの確認をします」
またあたし、スルーですか!
「いじめはんた〜い!恵美愛護団体に訴えますよ〜」
「それはいけませんね。そんな営利組織があるなんて、早々に撲滅しなくては!」
「あたしは金の亡者じゃなーい!あたしの心はスワンのように澄んでいるんだから」
「あら、スワンのように澄んでいるなら授業中騒ぐのかしら?」
「ささ、委員長!説明を」
あたし、負けちゃった!
くっ、委員長が勝ち誇った顔であたしを見てる!くやしぃ!
「まず、この教室から一番遠い美術室に行ってもらいます。そして、私が事前に用意していた『美術室に来ました証明書』を取って戻って来てください。」
「ボス!それじゃあただのレースではありませんか!」
「甘いですよ、恵美。『美術室に来ました証明書』と一緒に『美術室にしか無いもの』を持って来てください」
「ボス!それはなんですか?」
「それは考えるのよ!そこがこのレースの『頭脳』の部分です。わかりましたか?」
「は〜い!」
「ズルしたらいけませんよ。もししたらそこで負け決定です」
「バツゲームはあるんですか?」
「もちろんです。では開始は一時間後。欠席する人は私のところまで来てください」
こうして委員長の説明とクラスのお楽しみ会議が終わった。
あたしはスッゴク楽しみ!こう見えて運動神経は驚異的!スタイルも抜群!
あぁ、なんてスーパーウーマンなのかしら、あたし。
すると、クラスの男子数名が話しかけてきた。
「恵美がいるなら俺達はドベにはならないよな」
「だよなぁ」
「な、なんだとぉ?あたしより足遅いくせに〜」
「このレースは頭脳も使わなきゃならねーんだろ?」
「そしたら、このクラスで一番偏差値が低くて、馬鹿なお前がドベに決まってる」
「ふん!こっちには秘策があるんだから」
嘘だけど。
「ほぉ、じゃあ楽しみにしてるぜ」
笑いながらあたしから離れていった。
クッソー。男だったら女の子を大事に扱えっての。
ん?男………そしてあたしは女の子…………本当に秘策が出来た。
あたしは体操服を片手にトイレに走った。