第三話
学校の裏門
時刻は八時
俺達は学ランに身をつつんでいた。もちろん、折り鶴はポケットに入れてきた。なんとなく。
「どうやって入るんだよ。門、しまってるぞ」
「登ればいい」
そう言って、野沢は門を登り始めた。
「はぁ、来るんじゃなかった。」
「お〜い、早くしろ〜」
仕方なく俺も登った。そんなに高くはなかったからすぐに登れたが、登りきると、野沢はもうすでに校舎のすぐ近くに立っていた。
「んじゃ、屋上目指して頑張るか」
何だか、野沢の笑顔が何時もと違う。なんか、無くしていた物を、ヒョンとしたことで見つけた顔。そんな感じだ。
「わかったよ。でもどうやって校舎に?」
俺は野沢に聞いた。
「窓から」
「あのな、野沢。学校って結構セキュリティは万全で、夜に窓を開けるとセンサーに引っ掛かるぞ。それに巡回の先生もいるはずだ。引っ掛かったり、見つかると停学じゃないのか?」
「マジ?」
「マジ」
俺はしゃべっていて、あわよくば中止になるかもしれないと思った。
「開いてるところ、探すぞ」
「へいへい」
開いているはずがない。そして今日は中止となり、もう来なくなる。それが俺の理想だが、なぜか、一ヶ所だけ開いていた。
「ラッキー!藤堂、ここから入るぞ」
「おい、ちょっと待て。見回りの先生はどうするんだよ」
「大丈夫、大丈夫。見付かんないって」
俺の最後の希望も無くなり、結局、屋上に行くことになった。学校は三階建て。
到着するまではもちろん野沢と会話をした。
「藤堂、お前はどんな願いを叶えてもらうんだ?」
野沢はマジメに聞いてきたが、俺はマジメに答える気はない。
「ま、願いがひとつしか叶えられないなら、『願いを百個叶えてください』だな」
「お前、まさか……」
「そうさ!マンガでこんな場面を見るといつも思うんだよな。こう願えとけばいっぱい叶えてもらえるのによ」
「お前ってヤッパリヤナ奴だ」
「だってよ、あのマンガでこう願っておけば、あんなに人死ななかっただろ?」
「確かにそうかもしれないけど、そうしたら感動がなくなるだろーが」
「人が死ぬことが感動だなんて……いつの時代の本だよ。こう願った時の、願いを叶えてくれる奴の顔が見てみたいぜ」
いないだろうけど。
「お前は『岩崎との仲がずっと続きます様に』とか願っておけ」
「面白い方がいいだろ?それより、お前はどんな願いを叶えてもらうんだ?」
「オレ?オレは…………『チャンスをください』だ」
俺はそのセリフを聞いて、野沢のことを見直した。
さっきまでは、強制的に願いを叶えてもらう卑怯者と思っていたが、『チャンスをもらうだけ』だなんてかっこいい。あれだ。野球で例えると、『俺のバットにボールが当たれば全てホームランにしてくれ』ではなく、仲間に『俺まで打席を繋げてくれ』だ………わかりにくいな。あれだ、最終的には、自分の力で全てが決まるってわけだ。
まさに男だ。
「野沢、応援するぞ。願いが叶ったら、そのチャンス、絶対物にしろよ」
「もちろんだ。だけど、チャンスを物にしてもオレ達友達だよな?」
「もちろんだ」
野沢だったら願いに頼らなくても叶えられそうだ。野沢だって、キッカケが欲しかったのだろう。ふっきれるための。だからこんな非現実なことに頭を突っ込んだのだろう。
「さすがは親友!他人の幸福を妬まない!」
この関係は崩したくない。だからコイツに今日、付き合ったんだ。
いつのまにか、屋上に到着していた。
二人の深夜探検も終わりか………ま、友情が深まったからいいや。
「オープン!ザ・ドア!」
野沢が勢いよくドアを開けようとしたが
『ガッ』
開かなかった。
「どきたまえ野沢くん。私が、ドアを開けようじゃないか」
俺は鍵を開けて
「オープン!ザドア!」
ドアが開いた。