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第二話

今日やるべき仕事が四時過ぎに終わった。人間、やる気になればすぐに終わるんだなぁ、と思いにふけつつ、天文部の部室に向かって歩きだした。


私は今年設立された硬式テニス部の副顧問というポジションについているが、一度も部室に行ったことがない。私が学生の時、顧問が部室に入るのを毛嫌いしていたので、入らない方が生徒にとってはいいはずだ。

それ以前に、部活に顔をだしていないが。何を言いたいかというと、担当の部活にも干渉したことがないのに他の部活に干渉しようとしているのは不思議だな、ということだ。部活といっても個人目当てだが。







「田辺。倉だが入っていいか?」

天文部の部室をノックして言った。


「倉先生ですか。どうぞ」

意外にすぐに返事が返ってきた。妙なことはしていないようだ。


「入るぞ」




中に入ってみると、教室の半分ぐらいの部室に、いろいろ道具や機械がところ狭しと置いてある。

だからといって、整理がされてない訳ではなく、効率よく整理整頓がされているようである。

田辺は、中央に置いてある円卓で勉強をしている。



「先生、何の用ですか?」


「いや、別に用がある訳じゃないが……」

田辺が部室でいつも一人で何をしているか、なんてとても言えない。


「ちょっとな。天文部って珍しいから、どんなことしてるのかなって思ってな。邪魔者かな?」


「いえ、別に邪魔者じゃないです。見ての通り、部活じゃなくて勉強ですから」


「偉いな。先生なんてゲームばかりしてたから、お前ちょっと軽蔑するぞ?」


「ひがまないでください」


私も田辺も笑った。田辺の笑顔は久しぶりに見た感じがする。

教師として付き合って約一ヶ月。私には少しは心を開いてくれたのだろう。

だが、肝心のクラスメートには開いてはないのだろうか。そして、寂しくはないのだろうか。



「先生。せっかく来たのでこれを見てください」

そう言って、田辺は私に星座板を見せてきた。


「これには、それぞれの季節で見ることが出来る星座の大体の位が書かれています。天体観測の時はこれは必需品です。それでですね、先生は何座ですか?」


「私はさそり座だ。たしか、今頃が見えるんだよな」


「はい。南側の空の地平線スレスレに現れるんですよ。前の学校ではビルが邪魔で見えなかったけど、この学校に来てからは見えると思うんですよ。」


「まぁ、田舎みたいな町だからな」


「それが良いですよ。先生は知っています?さそり座を構成している星でアンタレスっていう一等星があるんです。俺は、アンタレスが南の夜空で一番光って目立ってると思うんですよ。他に、鷲座のアルタイルやおとめ座のスピカとかがあるんですが、俺には一番輝いて見えるんです。やっぱり、自分の星座だからなんでしょうかね」

「お前もさそり座なのか?」


「先生は一応教師ですよね?生徒のプロフィールぐらいは知ってて下さいよ!」


私は驚いた。田辺の生き生きとした表情と、砕けた敬語。その姿は普通の生徒と変わりなかった。


「それにギリシア神話ではさそり座は、、オリオン座の元となった、月の女神アルテミスの……………」


田辺の話しは止まらない。

楽しそうに話す田辺。やっぱり、普通の生徒なんだなと思う。私が学生の時も、友達と楽しく話していた。時々、つまらない話だったとしても楽しそうに話す振りをしなければならないこともあったが、友達付き合いとしては仕方のないことだった。それでも、会話の楽しみに比べたら微々たるものだったから気にはしなかった。

「………てことなんですよ。二人とも可哀想なですね。」

田辺の話しが終わったようだ。正直、全くわからなかったが、それ以上の成果が得られたから良しとしよう。


「田辺、お前ってけっこう博識なんだな。見た目以上に歩く辞典だな」


「そうですか?俺、けっこう昔から本読んだりしてましたし、さっきのは星座に関する知識なので当然ですよ!」

さっきからの田辺の表情は変わらない。


「もっと俺の博識なところ、しりたいですか?」



「それはおいおい聞かせてもらうよ。」

そう言うと、さっきまで生き生きとしていた田辺の顔が元の顔………つまり、いつもの無表情で冷静で何を考えているかわからない顔に戻った。

しまった、と思った。転校してきてろくに会話していなくて、やっと会話(しかも自分の好きな話題)出来たのに、『いや、面倒だからイイや』と解釈も取れる返事をしてしまった。



私は教師失格だな。自分の台詞をしっかりと吟味しなければ。



と思いつつも、つい最近まで大学で友達と会話していた時の私の台詞みたいじゃないか。とも思っていた。



「そうですか。仕方ありませんよね」

表情だけではなく、田辺の口調も元に戻ってしまった。


何が『仕方ない』のだろう。私はこの一時の間にいくつもの可能性のある理由を考えた。

自分の専門的な知識に私がついていけなかったからか、それとも、私が興味が無さそうな返事をしてしまったからか、はたまた、ただの口癖なのか。

他にもいろいろ考えたが、今のところはさっきの様な理由が一番しっくりしている。

だが、確実に分かったことは、気分を害したであろうことだ。




「それより、先生、この問題について質問していいですか?」

田辺が出してきた器具を元の場所に綺麗かつ少し急いでいる感じで戻しながら言った。


田辺の一言で『私は教師なんだ』というのを強く再認識させられて、快く質問に応えていった。

だが、別に質問しなくても良さそうなことや、質問している最中に田辺自身が自己完結したりと、ちょっと拍子抜けた時間を過ごした。それでも教師としての本業を怠ける訳にもいけず、根気強く質問に答えていった。


マグナカルタだの、レコンキスタだの、シェークスピアだの、ルネッサンスだの、勉強に関する知識を教えていった。


その様なことを何回も繰り返している内に、部活動終了を知らせるチャイムが鳴った。

このチャイムが鳴ると、あと二十分で生徒完全下校時間となる。これを守れなかった部活は、一週間部活動停止となるので生徒達は慌て帰り支度をする。


私も、学生だった時は部活に入っていたのでこの辛さは痛いほど分かる。一年の時など、先輩が部室を使わせてくれなかったので、教室に急いで戻って支度をしていた記憶がある。コンチクショウ、こんな時間決めんなよ、クソが。といつも友達と不満をたらしていた。


今もその気持ちは変わってはいないが、教師となった今は、そんなことは絶対言ってはならないはずだ。教師は生徒達の手本なのだから。

「田辺、そろそろ帰らないと部活動停止になるぞ」

ちょうど一区切りついたところなので、私のとなりに座っている田辺に帰るのを促した。

田辺は肘をついて聞いていたが、ほんの数分は何もアクションをおこさなかった。

今はわずか数分間でも惜しいはずなのに、何をしているんだ、と思いもう一度言おうとしたところ、ようやくテーブルの上にある勉強道具を片付け始め、バックにいれ始めた。

時計を見ると、校門を出るには十分過ぎる時間が残っていたので一先ずホッと胸をなでおろした。


一分もたたない内に帰り支度が整い、『気を付けて帰れよ』と言い帰ろうとしてドアに手をかけた時、田辺に呼びとめられた。



「先生、まだ質問したいことがあるので職員室で教えていただけませんか?」

空は曇り空から、黒の色合いが強い灰色が占める空にかわろうとしていた。

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