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第三章 アス 第一話

夏休みが後少しで終わる季節。

生憎天候は良いとはいえない曇り空だが、坂ノ上高校では相変わらず生徒の声で溢れかえっている。













「三年生がまだ午後からも授業があるから近寄らないこと。あと、雨が降りそうな雲行なので帰る時は、車などに気を付けて帰るように。話しは以上だ。号令!」

私は連絡事項を全て伝え終わり、最後の号令を促した。

「起立!礼!」


『ありがとうございました』クラスの委員長の号令で終礼が終わった。









私は、今年、この坂ノ上高校に赴任してきた倉。一年目ながら一年生の担任をやらせてもらっている。

生徒からは『倉先生』と言われているが、時々『センコー倉』と呼ぶ生徒がいる。正直なところ、敬意があるかどうかがわからないから叱ってはない。

ただの冗談かもしれないからだ。



まぁ、大抵なことでは生徒を怒ったりはしない。ちょっと前までは学ぶ方だったから、生徒の気持ちはまだ分かってるつもりだからだ。

そのせいで舐められているかもしれないが、嫌われるよりはマシだな。

今のところは無視されることはないし、私がだした宿題もちゃんとやってきている。新米のわりには良い方だろう。







「倉先生」

職員室で昼御飯をとっていると、後ろから話しかけられた。


「先生、今日の学級日誌です」

と言い、日誌を私に渡した。


「おぉ、田辺。ご苦労さん。しっかりと書いたか?」


「はい」


「なんせ、しっかりと書いてもらわないと先生が困るからな!」

そう言って、私は笑った。






私に日誌を届けにきた生徒は、私のクラスの生徒の田辺。夏休みに入る前に編入してきた生徒であり、一目見るとマジメな印象で、実際もマジメな生徒だ。

もちろん、成績は優秀だ。









「どうだ?来てから一ヶ月たったがどんな感じだ?」


「特にないです。前いた学校と同じ感じです」

必ず敬語を使う田辺。冷静な口調や表情からは、何も察することができなかった。


「そうか。話し相手とかは出来たか?」


「いえ、できません」

変わることがない表情と口調。

その台詞を聞いて、私は焦った。この年で友達がいないことはあってはならないことだ。しかも編入生に話せる相手がいないことはなおさらだ。担任として、私がなんとかしなければ。



「まぁ、大丈夫ですよ。そのうち出来ますって」


「そうか?」

もしかしてイジメでは?と思ってしまう私。

私が高校生の時のイジメといえば『無視』や『集団暴行』と相場が決まっていた。そして今、田辺は『無視』をされているかもしれない。だが、紹介をしたときは騒がれていたし、その後、私の授業の時は質問攻めを受けていた覚えがある。

どうなんだろうか。



「お前、クラスメートから無視されたりとかされてないか?」



「先生、俺がイジメられてるとでも思っているんですか?大丈夫ですよ。ウチのクラスにそんな雰囲気はありませんから」

真偽はわからない。私が学生時代にイジメられていたなら、担任に教えるだろうか。いや、しないだろう。だけど、イジメを一度も受けたことのない私には言う権利はない。受けてみなければ気持ちはわからない。

この問題は担任である私の責任だ。解決しなければ。



私がだんまりしていたのに痺を切らしたのか

「先生?どうしたんですか?俺、部活があるんで行きますね」

そう言って、田辺は職員室を出ていった。



『部活に行きます』とは言ったものの、アイツは部活で上手くいっているのか?

昼御飯を食べるを忘れ、田辺の心配ばかりをする私。生徒名簿をめくり、何部に入っているのかを調べた。

その結果、田辺は天文部に所属しており。部員は田辺の他に受験生である三年生が一人だけで、実質、田辺だけで成り立っているといってもいいぐらいだ。

三年生は午後からも授業があるので、終わるまで何をやっているのだろうか。

霧消に気になってしまい、天文部の顧問の先生に聞いてみたところ、

「わかりません」

だそうだ。

顧問の先生によると、夏休みは生徒の自主性にまかせているらしいので、一緒にしている夜の天体観測以外の活動のことは知らないらしい。

じゃあ、田辺が入部するまで(一学期)三年生は何をやっていたのかと聞くと、

「難しい本を読んでた気がします」

だそうだ。


さらに田辺のことが気になった。

話す相手のいない部室で何をやっているのだろうか。

今日、天文部の部室に行ってみるかと思い、食べるのを忘れていた昼御飯を急いで食べて、学級日誌にコメントを書き、今日やるべき仕事に一心不乱に取り掛かった。

これも生徒のタメ。教師の経験は全く積もってはいないが、まだ生徒の心は残っている。

これが、私の今の強みだ。



















「倉先生、今日は宿直ですよね」


「はい、そうですけど………」


「俺の明日の当番と変わってくれませんか?明日は妻子とご馳走を食べにいくんで」


「えぇ。良いですよ」


「ありがとうございます!今度、飲みに行きましょう!」

そう言って、私の当番日が変わった。これも新人のつとめと決めつけていた。

だがこの変更により私は何ともいえない経験をすることとなった。。後悔………してしまっているかもしれない。

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