第五話
八時 校門前
あたしと舞ちゃんは問題にぶちあたった。
「どうしよう。職員室の明かりが付いてる………きっと先生がいる………」
あたし達はてっきり罰ゲーム御一行様の貸し切りと思ってたから、入るのに躊躇った。
だってそうでしょ?先生に見付かったら叱られるに決まってるでしょうが!
まさか!このスリル満点の冒険が罰ゲーム?大方、肝試しとかだろうと思っていたらどんでん返し。
さすが、委員長と悪知恵の仲間たち。伊達に十七年生きてないわね。
そう思って、あたしは折り鶴を恨めしそうに見た。つられて、舞ちゃんまでも取り出してあたしと同じ目付きで折り鶴を見た。
「恵美ちゃん、どうしようか?」
でもさすがの舞ちゃんも戸惑っている。昼間の『どんとこい!』の姿はどこにいったのやら。
だが、一度決めたことは最後まで貫く。これはあたしの信条よ。
そういうことで、
「それじゃ行こうか、舞ちゃん」
「うん」
あらら、『ちょっと待ってよ〜。心の準備が〜』とか言いそうな顔だったのに、もう変わっちゃったよ。
この姿は『恵美ちゃんと一緒だったら大丈夫だよ』の姿ね。
あたし達は正面から堂々と校内に入った。
駐車場には車がポツンと一台しか留まっていない。どうやら、先生は一人しかいないようね。これなら、見付からずに屋上に行けそう!
顔に似合わず(顔はいいんだけど)頭を使ったのがいけなかった。舞ちゃんも気付かなかった。職員室の明かりが消えてしまったことを。
そう、あたしは五感が感じないほど頭を使っていたということなのですよ。舞ちゃんも同じく。
当然、中にいた先生は帰るために駐車場に来るわけで、その駐車場にいるあたし達は見付かってしまうということは確定。だが、あたし達はそれに気付かず頭を使っていた。
「そこにいる生徒は誰だ!」
あたし達はビクッとして只今の現状を把握した。最悪ね。
「見付かっちゃったね恵美ちゃん」
「そうだね舞ちゃん。どうしようか?」
あたし達が小声で話している間も先生が近付いてくる!
策は…………あるわけないでしょーが!
どうせなら優しい先生というのが最後の望み。お〜い、折り鶴って言うか委員長、願い叶えてよ〜。
刻一刻と迫るアンノウン先生。あたし、今だったら蛙の気持ちが分かるかも。
ついに、先生の顔が見えた。その顔はあたしはもちろん舞ちゃんも見覚えがある顔だった。
「「倉先生!」」
倉先生は今年赴任してきた新米の先公だ。
ほんと先生なの?って言うぐらい生徒や校則に甘く、生徒のことを真剣に考えることから生徒に人気がある。
みんな敬意を評して『センコー倉』とよんでいる。
あたしのクラスに授業しに来ているほかに、一年生の担任じゃなかったかな。というわけで、例に漏れずあたし達は適当な話術を使ってその場を切り抜けれた。
まぁ、バレバレでしょうね。バレてないなら『忘れ物を取りに来ました』ぐらいに『十時になると警備員に気を付けろ』(二時間後なのに)や『出る時はトイレからでろ』(取りに行くのはすぐ終わるのに)とか言わないから。
かなり、センコー倉に感謝。
「倉先生で良かったね!」
さっきの不安はどこにいったやら、舞ちゃんの顔に笑顔が戻った。
「恵美ちゃん、第一関門突破だね!」
「うん。でも十時になるまえに罰ゲームは終わんないと」
どうやって終わらせるかは知らないけど。
そうしてあたし達は、屋上にたどり着くべく、倉先生が開けてくれた生徒昇降口から入った。
夜の校舎は不思議な感じだった。
聞こえる
静かな夏の夜の音と耳鳴り
それは自然の音
邪魔をするのはあたしと舞ちゃんの足音だけ
立ち止まると静かすぎて少しうるさいぐらいに
途中は何もおこらなかった。罰ゲームと思える出来事も。
おかしなこと、不思議なことはなにもない。気にかかったことは、舞ちゃんの話がいつもにもまして内容が深かったこと。
それも、屋上につくまでの数分間の間だけのこと。屋上のドアの目の前につくと緊張しているのか、喋らなくなった。
覚悟を決めてあたしはドアを開けた。