表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

自業自得かもしれない。

作者: 汐琉

息抜きです。風邪引きました。サラッと読んでいただければ嬉しいです。

 神様、悪役令嬢だからって、またですか?



「ジークリッテ・タルート! 貴女を許しませんわ!」



 今度は一体何なんでしょうか?

 ユアン様と婚約が許せないって言うのなら、受けて立ちますけど。



 若干、物騒な思考を抱きつつ、私は睨み付けてくる集団を見つめ返す。

 今回は、エンディングの舞台ではなく、ストーリーが進行する学園の屋上。

 記憶が戻ってから見たら、見覚えのある光景ばかりで、私はちょっと感動してたりする。

「ちょっと、聞いてるの!?」

「あ、聞いてなかったです」

 ヤバイ、本当に聞いてなかった。

 地団駄を踏みそうな勢いで、最初に叫んだ令嬢が怒り出した。

「だから、シャーリー様に嫌がらせするのを、止めなさいって言ったのよ! で、ございますわ!」

 無理矢理、語尾に丁寧な口調を付けてるけど……あー、原因はユアン様か。そうだよね、王様だし。

「え?」

 そう思ってたら、また内容がすっぽ抜けてしまい、首を傾げてみる。うん、わざとじゃないデスヨ?

「だぁかぁら、シャーリー様とリオネル様に関わるなって言ってますわ!」

「……あぁ、そちら関係でしたか」

 ユアン様との仲妨害じゃなくて、ひと安心したので、私は普通に立ち去ろうとする。が、当然囲まれた。

 ちぇっ。

「何、普通に帰ろうとしてますの?」

 目が怖いです。掴んだ手は離して欲しいです。

「えぇと、婚約破棄していただいたので、私はあちらと関わるつもりはないですが?」

「なら、何故まだ嫌がらせをしてますの?」

 掴んだ手を離してくれたが、怒りを押し殺し、冷静に問いかけようとしている令嬢に、私は首を傾げてしまう。そこに、私に対する悪意はなく、ただヒロインに対する心配だけがあったからだ。

「あの、私がヒロ……シャーリー様にした嫌がらせは、毛虫とトカゲぐらいですけど」

 なので、私も素直に答える。実際、私がした嫌がらせは、前世で言うと、小学生の悪ガキレベルだったりする。

 悪役令嬢として、どうなんだって話だけど、まぁ、ヒロインが狙っていたユアン様を奪ってたから、悪役令嬢としての役目は果たした――筈。

 元々、悪役令嬢の取り巻きとかではなく、ただの善良なヒロインの友人だったらしい令嬢は、きょとんとした表情で私を見た。

「え? ドレスを破いたり、教科書隠したりは?」

「してないです」

「水をかけたり……」

「風邪引いちゃいますよ?」

「足を引っ掛けたり……」

「する必要性を感じないです」

 焦りを隠せない令嬢の口から次々と出てくる嫌がらせの内容を、一つずつ斬って捨てる。

 うふふ。何処かに私以上の悪役令嬢がいたようで、ちょっと安心する。

 やっぱり、乙女ゲームのヒロインは、ピンチになって、攻略対象者に助けてもらわないと、面白くないと、他人事のように――と言うか、他人事なので正直に思う。

「私、帰っていいですか?」

 そう私が言うと、最初の勢いはどうしたのか、集まっていた令嬢達は視線を泳がせている。

「帰ります……っと、何ですか?」

 令嬢達の間を抜け、屋上の出口へ向かう私を邪魔する人影が……。

「ジークリッテ・タルート。では、これをどう説明する?」

 鋭い声で問うて来るのは、攻略対象者の一人であるクール系の、理知的な同級生だ。名前は忘れた。でも、他の攻略対象者みたいに私を追いかけ回さないので、好感は1mgぐらいはあった。

 ついさっきまで。

「これ? ……私のハンカチですね。それが?」

 差し出された布に、見覚えのある刺繍を見つけ、私は少しだけ浮かべていた笑顔を消して答える。こうすると、つり目の悪役顔なので迫力があるとわかってやってたりする。

 ちなみに、ユアン様にやったら、可愛いなぁと頬擦りされました。何故?

「認めたな? このハンカチは、昨日シャーリーを襲った相手が落としていった物だ」

 そんなフワフワしたピンクの思考を知る由もなく、私の答えを聞いたクール系同級生は、勢い込んで詰め寄ってくる。

「そうですか。それで、私がそれを、襲撃現場で落としたという証拠はありますか?」

「今、君が認めただろう、自分のハンカチだと」

「私が認めたのは、それが私のハンカチだという事だけです」

「詭弁だ。物証があるんだ。素直に罪を認めたらどうだ」

「……認めるも何も、私はしてないですし。シャーリー様は、犯人を見ていらっしゃらないんですか?」

「シャーリーは、君だった気がする、と言ってるが?」

 冷静に殺伐とした質問をし合う私達に、集まっていた令嬢達は、顔を引きつらせて、徐々に距離を取っていく。

 あー、置いていかないで欲しい、これ。鬱陶しいから、連れて帰って欲しいです。

 何せ、どれだけ責められても、私には切り札があるのだから。

「そうですか」

 思った以上に、冷ややかな声が出てしまう。少しイラついた。

「認めるのか?」

「確認ですが、シャーリー様が襲われた時間は?」

「夜の8時頃だ。それは君の方が知ってるのでは?」

 やっぱり、もしかしてと思ったけど、あれだ。ある意味、クール系同級生の言葉は当たっている。確かに、私は知っている。

 これは、あの乙女ゲームのイベントの一つだ。

 でも、本来なら襲われるのは私で、悪役令嬢な私は、それをヒロインがやったと訴えるのだ。本来のゲームの流れなら。


 ――今みたいに、拾ったヒロインのハンカチを証拠にして。


 それからは、鉄板な流れだと思うけど、その時、好感度の一番高い攻略対象者が邪魔してくれるのだ。

 それぞれ色んな手段を使い、悪役令嬢な私を撃退する……って、この場合は、どうなるんだろう。

「悪役令嬢って、私なんですけど……」

 思わず口に出したら、クール系同級生の視線が痛い。

 面倒臭いので、そろそろ切り札を出そうと思います。

「その時間帯でしたら――」

「待って、イルマ! ジークリッテは悪くはないわ! 友達を疑うなんて、私が間違ってたわ!」

 うん、神様。私はそんなに日頃の行い悪いですか?

 またヒロインに言葉を遮られました。狙ってますか、タイミング。

 ひっそりとため息を吐くと、ヒロインを追ってきたらしい俺様王子様と目が合う。で、反らされる。

 ついでに爽やか騎士もいるが、こっちは何か息が荒くて気持ち悪い。

「シャーリー、この女を庇う必要はない! ユアン陛下の威を借りて――」

「誰が? 誰の威を借りてますか? 私がいつユアン様の名前を口にしましたか? その御名で、あなた方を脅しましたか? 愛しいあの方を貶めるような事をしましたか?」

 クール系同級生の言葉が許せず、思わず遮って、高ぶった気持ちのままを、つらつらと吐き出していく。

「いえ、あの、すみませんでした……」

 よし、勝った。

 私の迫力に、クール系同級生が普通に謝罪してきた。

「イルマ、何で謝ってるの?」

 ヒロインが呆れたような冷ややかな眼差しを、クール系同級生へ向けている。猫が剥がれているけど、大丈夫なんだろうか。まぁ、私が心配する事でもないか。

「いや、つい……それより、君の疑惑は晴れた訳ではないぞ?」

 残念。勢いで忘れてくれないかなぁ、と思ってたけど、駄目だったか。

 切り札使うしかないよね。

「……わかりました。証言、お願い出来ますかぁ?」

 私が間延びした声で呼び掛けると、無駄に人口密度が高い屋上の人混みを掻き分け――られず、ピョコピョコとしている頭が少しだけ見える。

「すみませーん! 通してください!」

 可愛らしい良く通る声が聞こえ、モーゼよろしく割れた人混みの間を、フワフワした少女が駆けてくる。

「はぁい、ジークリッテ様、お呼びですか?」

 ヒロインに負けてない、小柄なこの美少女は、私の専属侍女になる事が決まった……あれ?

 私が名前を度忘れして悩んでいると、気が利く美少女は、小声で、

「サラサですわ」

と、囁いてくれる。

「サラサ、私の昨日の行動を話してください」

 小さく、ありがとう、ごめんなさい。そう伝えてから、私は悪役令嬢らしく、ツンッとして命令する。

「はい、ジークリッテ様。ジークリッテ様は、昨日はずっと陛下とご一緒でした。昼食と夕食は、お部屋へわたくしがお運びしました。うふふ、眼福でしたわ」

 うんうん、と頷いて聞いていた私は、不穏になってきたサラサの発言を、止めようか悩む。その間にも、サラサは止まらない。

「何故って顔をされてますね? 仕方がないから教えて差し上げますわ。事後のジークリッテ様の色気は、とんでもないんですの! 気だるげな陛下も素敵ですが、ジークリッテ様の神々しい美しさには、同性のわたくしでも、クラッとしてしまいますわ!」

 かじりつきたいぐらいでしたわ、と砂糖菓子のような美少女からのとんでも告白に、屋上の空気が凍りついて、私も凍りつく。

「……おま、なにを?」 クール系同級生は色々と耐性が無かったらしく、首筋まで真っ赤になっている。正直、私も恥ずかしさで気絶したい。

「何って、ナニなお話ですわ。ジークリッテ様には、そちらの方を襲っている暇はございません。陛下が離してくださいませんから」

 うふふ、と笑うサラサは可愛らしいが、クール系同級生とヒロインを見る瞳は笑っていない気がする。

「夜8時でしたわね。その頃でしたら、まっさ……」

「サラサ、もう大丈夫です。ありがとう」

 おぅ、危ない危ない。諸刃の剣だったよ、この手段は。

 止めなきゃ、サラサ劇場、十八禁突入しそうだった気がする。

「えぇ!? まだ艶っぽい上に可愛い、ジークリッテ様の魅力を語りきれてません!」

「……とりあえず、それはサラサの胸に仕舞っておいてください」

「むぅ。でも確かに、こんな節穴が顔に嵌まっているような方々に、ジークリッテ様の魅力を語るのは勿体無いです!」

 可愛らしく拗ねたサラサは、しれっと毒を吐くが、フワフワした見た目と可愛らしい笑顔で、私は誤魔化されそうになる。

「って、誤魔化されないですから」

 自分で自分に突っ込んだ私は、今にもクール系同級生とヒロインに止めを刺しそうなサラサを退場させる。

「……シャーリー様、毛虫とトカゲ、机に置いてすみませんでした。本当にごめんなさい」

「え、あ、いえ、謝っていただければ、私は……」

 さすがにこの場で土下座は出来ないので、深々と頭を下げて謝罪しておく。目撃者も多いので、これで大丈夫だと思いたい。

 ヒロインの友人達は口々に、よかったですね、これで少しは安心です、と笑顔でヒロインへ話しかけている。

 ヒロインは少しだけ微妙な顔を――あぁ、そっか。私以外にも嫌がらせ……されてるんだろうか、本当に。

 俺様王子様は、エンディングの時に何も言ってなかった気がするけど。

 心配させたくなくて、隠してる? 確かに、色々とその方が効果的かもしれない。

 そんな事を考えながら、私は帰るタイミングを見計らっていたのだが……。

「ジークリッテ様、破れていたドレス繕っておきますか?」

「お願いします」

 サラサに話しかけられたので、ニッコリと笑って頷く。話はそれだけでなかったらしく、次々とサラサは用件を話し始めた。

「なくされた教科書は見つけましたわ」

「そう、ありがとう。そう言えば、この前、上から水が降って来て濡れた床は?」

「あの後、きちんと拭きましたわ」

「さすが抜かりがないですね。私が何もない所で躓いたせいで、怪我をさせてしまった方のお加減は?」

「元々擦り傷でしたから、大丈夫ですわ。逆に、ジークリッテ様を助けられて光栄だと調教……申しております」

 うん、サラッと危険な単語を放り込むのは止めて欲しい。でも、サラサは他人の気持ちを察するのに長けた印象だったのに、何で私を引き留めるような事をするのかは、少し疑問に思う。

 けど――、

「まぁ、ほどほどにしてくれればいいです」

 サラサが私に不利益を与えるような事をするとは思えない。

 短い付き合いだが、信頼はしている。

「はい! ジークリッテ様、万事、わたくしにお任せくださいませ!」

 サラサの揺るぎない答えを聞きながら、私は悪役令嬢らしく、颯爽と屋上を後にさせてもらう。 

 途中、まとわりつくような複数の視線を、バッサリと振り払い――。

 だから、私が去った後、屋上で起きた一幕を、私に知る術は無かった。




「うふふふ、不思議ですわねぇ」

 ジークリッテ様が去るのを見送ってから、わたくしは微笑んで振り返る。

 絶対なる、わたくしの大切なジークリッテ様。

 ジークリッテ様を傷つけるモノは、例え小物だろうと許せない。

 ジークリッテ様が許そうとも、わたくしは許さない。

「そちらの方がされた嫌がらせと、ジークリッテ様がされた嫌がらせ、全く同じじゃありませんか?」

「そ、それは……」

 自分が世界の中心よ、と体一杯で語っている女が、言葉に詰まり、周りは何とも言えない表情。

 わたくしは、満足げに笑って、言葉に詰まっている女へと向かい歩き出す。

 別に何かしようという訳ではなく、出口が女の背後にあるからだ。

 身構える女の脇を、ニコニコと笑顔で通り過ぎる。




「――やられた事は、やり返すタイプなので、わたくし」




 覚えておいてください?

 手を出すなら、それ相応の覚悟が必要だと。




 ヒッと息を呑む音が聞こえ、わたくしはさらに笑みを深め、大好きな方を追って駆け出す。

 自分は悪役だと信じている、善良でしかないあの方の元へ。

目指せ自業自得なヒロインをテーマに書いてます。

連載の方は、ざまぁ出来ないので。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ