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妖捕ノ者  作者: 葵枝燕
第二章 清賀と籬編
4/6

第四幕 きよが

 こんにちは、お久しぶりです。葵枝燕です。

 『妖捕ノ者』、第四話でございます。

 久々の更新ですね。お待たせしました。

 今回の話は、前回までとは違う場面の話となっております。今回と併せて三話ほど、初登場の人物達が話をつくっていきます。

 それでは、第四話開幕です。

 何故、自分にはこれが見えるのだろう。

 何故、他者はこれが見えないのだろう。

 少年は、幾度目かの問いを繰り返す。自分自身に対してのそれに、答えなど(えい)(ごう)出るはずがないことは、少年自身が一番よくわかっていた。

 少年は独りだった。村人たちに関わっているときも、孤独感はその心を支配する。あの少女を、密かに想っているときでさえも。

 (きよ)()という名の少年は、いつも孤独を感じていた。人でない存在を見ることができる、ただその一つだけが、少年を村人から浮かせる特徴だった。


 「泣いているのか、清賀」

 背に黒い羽を生やした少年が、清賀にそう声をかけた。黒い羽を持った少年の名は、(マガキ)。あるアヤカシと人との間に生まれた、混血児である。しかし、多少人間の血が入っているとはいえ、その姿はやはり人のそれとは何かが異なる。もしかしたら考え方も、人とは違うものなのかもしれない。それでも清賀にとっては、唯一自分のことを理解してくれる存在だった。

 同じ人間である、村人達よりも。

「また村人達に莫迦(ばか)にされたか? それとも、化け物扱いでもされたか?」

「泣いてねえし、そんなことされてない」

 どこか面白そうに言う籬に、清賀はそう反論した。しかし、籬の言葉はおおよそ間違いともいえない。

 アヤカシとはすなわち、人ではないものを意味する。獣型のように人間の形をしていないものも、人と見た目が同じに見えるものも、人ではない血が流れているのであればアヤカシと呼ばれる。これらは普通、人の目には見えないことが多い。見えたとしてもそれは、アヤカシ自身が人の目にも見えるように化けている場合だ。見えないことが普通な存在なのだ。

 (まれ)にそれを必要としなくても、アヤカシを見ることのできる人間も存在する。清賀もその一人だ。そしてそのことは、いつでも清賀を孤独に追い込んだ。

(はる)()も、俺のことを怖がってる」

 密かに心の中で想う少女の名を、清賀はそっと口に出した。叶うわけがない想いだが、清賀は密かにその少女に恋をしていた。そっと想うくらいならこんな自分にも赦されると、思いたかった。

「ハルノ? ああ、お前が密かに恋をしている女か。美人らしいな。おれの好みではないが」

 籬が、さもどうでもいいことのように呟く。実際そう思っていることは、清賀もわかっていた。人間の女になど、この混血児は毛ほどの興味も湧かないのだろう。

「俺、どうして見えるのかな。何で俺だけが、アヤカシを見ることができるんだろう」

「知るかよ。おれに()くな。おれは、人間じゃないんだからな。お前とは違うんだ」

 籬が珍しく怒りを含ませた声を発した。人間ではない。けれど、アヤカシとも言い難い。そんな(かっ)(とう)(まな)(うら)に浮かんでいるような気がした。

「俺、ここを出て行きたいなぁ。外の世界に出てみたいよ」

 こんな村など、大した思い入れもない。仲良さそうに笑いかけながら、村人達が自分を拒絶していることは、清賀自身がわかっていた。それはあの少女も同じだと、いつ頃だったか感じ取っていた。だから叶わない。それでも清賀は、晴乃という少女を好いていた。愛している。それでも、諦めなければならない。

「こんな村、早く出て行きたい」

「本当に、そう思うか?」

 不意に聞こえた、籬の声。重く沈んだ、暗い威圧感のこもる声だ。

「命じてくれれば、おれがどうにかしてやるよ」

 見つめた籬の目は、ただただ黒い瞳だった。呑みこまれそうな、巨大な洞穴のような目が、清賀を見ている。

 この瞬間、清賀の中から大切な何かが欠落した。故郷への愛も、密かに想う少女への愛も、全てが消えた。そのことに、清賀は気付かない。否、気が付くことすらできなかった。

「籬、村を出たい」

 その言葉は、清賀という孤独を抱える少年の密かな願いだった。ただ、村を出たいと望むだけの、純粋な思いだったのだ。清賀にとっては、言葉通りの意味だった。

「わかった」

 籬はその闇色の羽を大きく(ひろ)げた。そうして、不吉な羽ばたきの音を響かせたのだった。


「どうして、こんな――……」

 清賀は村を見下ろして、呆然と立ち尽くしていた。目を見開き、凍りついた表情で、生まれ育った村を見つめていた。

「村が、何で――」

 村、などというものはそこにはなかった。あるのは、輝いている水面だけ。村は、水の底に沈んでいた。

 村人達の安否など、確かめなくともわかる。皆、この水の下に閉じ込められているのだろう。それはつまり、生存者などいないことを意味していた。(のが)れる(すべ)があったのだろうか。ついさっきまで、村はいつも通りの平穏な世界だったのだ。そう、つい四半刻ほど前まで。自分がこの山を登っているその短い間に、村にいったい何が起こったというのか。

「晴乃は……?」

「その女なら死んじまったよ」

 不意に後ろで響いた声。聞き憶えのあるその音が、アヤカシの混血児の声だと気が付き、清賀は恐る恐る振り向いた。

「籬……?」

「おれが、殺した」

 混血児が、そう言って(わら)う。面白いことを見つけた幼子のような、そんな表情をしていた。

[人物等の説明 ~第四幕編~]



(きよ)()

 人間の少年。

 アヤカシを見ることができる。しかし、その能力のせいで孤独感を抱えている。

 両親は彼の能力に気が付き彼の元から去って行ったため、母方の祖母に育てられた。が、彼女の死後は一人で暮らしている。


(マガキ)

 父親は人間、母親は鴉天狗という、混血児。清賀の式。

 黒い羽を変化させ、刀を作ることができる。


――――――――――――――――――――


[あとがき]

 ちょっと、「籬」って人名に使えるのか気になるところです。漢字がかっこよかったので、採用した名前です。

 作中に名前の出てきた晴乃さんですが、まだ未登場(名前だけの登場は、私の中で未登場の扱いです)なので次話にて紹介しようと思います。

 読んでいただきありがとうございます。また読んでいただけると嬉しいです。


[次話予告]

 次回「第五幕 マガキ」は、今回の続きとなります。お楽しみに!!

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