第1話 時効と初恋
走る、少年が走る。
「はぁ、はぁ・・・。」
「早くしねぇと、刑事が来ちまう!」
少年の助手だろうか、男が声を掛ける。
「分かってる!はぁ、はぁ・・・。」
少年が持つ鞄の中には・・・何枚もの一万円札。
それを持ち、少年は走り続けた・・・。
15年後・・・
「いらっしゃいませ!」
ラーメン屋で働く男、彼の名は出雲浩司。
「ラーメン2つとチャーハン1つですね!分かりました!」
彼は注文を聞き終え厨房に向かう。
「ラーメン2つをチャーハン1つお願いします!」
店主が答える。
「了解!」
そして店主はもう1人のバイトに声を掛ける。
「チャーハン1つ頼むよ!」
「分かりました!」
そして厨房は一気に熱気に包まれる。
深夜・・・
「今日もお疲れ様でした〜!」
浩司が声を掛けたのはラーメン屋の主人、松木昴。
「お疲れさん!浩司くんはいつも真面目に仕事してくれて助かってるよ。」
「これも昴さんが店に雇ってくれたおかげですよ。本当に感謝してます。」
「いやいや、気にするなって。」
1人の男が戸を開けて店に入ってきた。
「ビールお待たせしました〜。」
彼はこの店のもう1人のバイト、堂島保
「おぉ〜、ビールのご到着。」
「これで1週間ですからね。ビール係交代ですよ。」
「もう1週間か・・・早いなあ・・・」
「もう1週間やってくんないか?」
「えぇ!僕の財布だってそろそろ寂しいんですから!」
「店長命令だ!」
「そんなぁ〜」
保の顔をチラリと見た後、浩司は救いの手を差し延べた。
「まぁまぁ店長、冗談はその位にしといて、乾杯しましょうよ。」
「まぁ、そうだな。乾杯だ!」
「えぇ〜、冗談だったんですか?よかった〜。」
「ということで、かんぱ〜い!」
3人はビールの入ったジョッキで乾杯した。
「もう、店長ったらデロンデロンに酔っちゃってるじゃないですか〜。」
昴の顔は真っ赤に染め上がっていた。
「う〜、もう1杯〜。」
「飲みすぎだな。」
「じゃあ、店長、上の家に送ってきますから、今日はこれで解散ということで。」
「あぁ、分かったよ。」
2人は席を立ち上がり、保は昴を肩に寄せ、
「じゃあ、上に行きますよ店長。」
「うぃ〜、ひっく。」
「じゃあ送ってくんで、また明日。」
「あぁ。」
保は外へ出て、隣の階段を登り昴の家へ向かった。
2人が出て行くと、浩司は1人になった。
「俺も帰るか・・・。」
浩司も店を出て、自宅へと向かった。
街灯が照らす街の中を浩司は歩いていた。
何も言わずに無言で・・・。
ラーメン屋から10分ほど歩いたところに浩司は住んでいた。
マンションの中に入り、部屋の前へ。そして鍵を開ける。
中はとても閑散としており、テレビ、電話などの基本的な生活用具しかなかった。
「ふぅ・・・。」
浩司は家に入るとテレビを付けた。
流れていたのはニュースだった。
「15年前、群馬県で起こった1億円窃盗事件があと3ヶ月で時効となります。」
浩司の表情は凍りついた。
それは、自分がその事件に関与しているのを表すように・・・。
その瞬間、携帯電話が鳴った。
「・・・もしもし?」
「東吾か?」
「あぁ・・・。博人か?」
「今、ニュースで事件のことやってるだろ?」
「あぁ・・・。あと3ヶ月で時効だ・・・。」
「今まで15年間バレなかったんだ。あと3ヶ月くらい十分だろう。時効になれば俺らはもう逃げなくて済む。頑張って逃げ切ろう。」
「あぁ・・・。分かってるよ・・・。」
「じゃあ。」
電話が切れ、会話は終了した。
そして、浩司はその場に立ち尽くした。
翌日・・・
「いらっしゃい!」
浩司はいつも通りにバイトに出ていた。
昨日のあの冷たい表情など1つも見せずに・・・。
「1名様ですか?」
「はい。」
ラーメン屋に訪れたのは1人の女性客だった。
「じゃあ、カウンターに・・・。」
「いや、なるべくテーブルでお願いしたいのですが・・・。」
「分かりました。ではこちらにどうぞ。」
浩司は女性客をテーブル席に案内した。彼女はすぐに席に着きメニューを見始めた。
「お決まりになりましたらお呼びください。」
「あ、もう決まったんで大丈夫です。」
「あ・・・、ではご注文をお聞きします。」
「チャーシューメンの大盛りとチャーハンの大盛りください。」
「え・・・、分かりました。」
今時の若い女性にしては珍しく大盛り2つという注文。
浩司はそれを気になりかけていた。
そして浩司は厨房に向かった。
深夜・・・
「じゃあ今日もお疲れさん!」
「お疲れ様でした!」
バイトが終わり浩司は帰路につく。
浩司は今日の女性客の事が気になっていた。
バイトを始めてから1番特徴的な客だったからだ。
美人でスタイルもよい。なのに大盛り・・・。
彼女の事を考えつつ歩く、その時間はいつもより短かったような気がした。
部屋の前に行くと1人の女性が待っていた。
俺を待っているのか?
「あの・・・、何か御用ですか?」
「あ、今日、隣に引っ越してきたので挨拶を・・・。」
彼女は顔を挙げた。
「あ・・・。」
浩司はその顔に見覚えがあった。
その顔は今日会ったばかりだから覚えている。
とても特徴的だったから覚えている。
そうじゃない・・・。初恋だから覚えている・・・。
今日、感じた初めての恋。
その相手は、あの大盛りの彼女。
その彼女が今、彼の目の前にいる・・・。




