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王太子妃になるための努力はしてきた。だけれども、本当に王太子妃になれるなんて思ってもなかったのだ。
私は、今日断罪され、どうにか社交界追放にしてもらい、領地で穏やかに暮らしていこうと考えていたのに。
「僕のこと、嫌いになったの?なんか、いろいろ言ってたし」
「それは、違う!」
だったら、どうして?とユーレンの言葉は続いた。
嫌いとか好きとかいう問題ではないのだ。しかし、前世の話をするなんて馬鹿げている。頭がおかしくなったと思われてもおかしくない。
ユーレンのことは好きなんだ。
あんな暴言なんて、一つも本気で言っていない。
今までここは乙女ゲームの世界で、シナリオ通りになるとしか思っていなかったから、シナリオを外れた今、どう行動していいか分からない。
私は悪役令嬢ミリアリアを演じていただけで、この世界のことを全く見ていなかったし、ユーレンに真剣に向き合っていなかったんだ。好き、なんて言っても、フラれること前提で今まで関係を築いてきた。
ユーレンは私の上で一度目を閉じ、溜め息を落とした。開いた瞳には、諦めの色が見える。
「…ミリー、婚約は解消しようか」
この言葉を言わせてしまったのは、ゲームの中の悪役令嬢ミリアリアではなく、私だ。
スッと私の上から退いたユーレンは、静かに部屋を出ていった。
今さら涙が頬をつたった。瞬きすると、筋になってどんどん溢れていく。
この世界は、たしかに私の知る乙女ゲームの世界だ。だけれども、今生きているのはゲームの登場人物ではない。シナリオをただ辿るだけではない、自分の意思のある人間なのだ。
今まで手の届く場所にいたのに、どうして気づけなかったのだろう。ユーレンはいつでも私を見てくれていたのに。…もう、遅い。
そこから、どうやって屋敷まで帰ったのか覚えていない。しかし、いつの間にか屋敷の自室にいて、気を失うように眠っていた。
涙はいつまでもとまらなかった。




